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第70話 過去、孤独

更新が遅くなり誠に申し訳ございません。

この時期特に忙しくなりペースが遅くなりましたが、遅れた分を取り戻していくよう頑張ります。

───BNの本部に雨の様に振り落ちるミサイル、そのミサイルを地上の迎撃部隊が必死に撃ち落していた。

町にいる民間人は軍の人間に誘導されながら逃げようとするが、ミサイルの直撃したビルが崩れ落ち、周りいた民間人を飲み込んでいく。

「くそッ!NFの野郎!一般市民にまで攻撃をしやがって!」

上空から降り注ぐミサイルを撃ち落す我雲、だがミサイルにまぎれ何かが上空から降りてきた。

降りてきた1機の機体、我雲の集う目の前に着地すると、BN達が一斉に降りてきた機体に向けて銃口を向ける。

「NFの機体だ!全機迎撃態勢に───」

命令を出す前に降りてきた機体は体勢を立て直すと、両手の掌から先端に尖った突起の付く2本のワイヤーが出現させ発射すると立ち並ぶ我雲の胸部を次々に貫通していく。

『光栄に思うことだなBNの諸君!南部最強のこの俺様と戦える最初で最後の戦だ!存分に楽しもうぜ!』

陽気で軽快な男は機体を自在に操り、BN本部の南部位置するBNの機体を次々に破壊していく。

南部だけではない、北部、東部、西部、全ての場所でBNの部隊が悪戦苦闘を強いられていた。

その様子を一人本部にある地下室でモニターを通じて見つめる青年がいた。

「紳さん、機体の最終調整はまだ済んでいません。恐らく現段階では本来の力を出す事は無理です、後数時間すれば僕の作成したデータが白義へ転送が完了されますが……」

『わかった、ここは俺達に任せてお前も早く本部から脱出しろ。BNの戦力が分担されている今、ここを守りきる事は厳しい』

既に紳も分かっていた、NFが全力でこの本部を潰しに来ている事を。

NF東西南北の最強がこの場に集っている、いくら紳でも限界がある。

「いえ、僕にはまだここでやるべき事が残っていますから」

ラースの言葉を無言で聞き終えると、通信が途切れ紳は格納庫に向かう。

通信の終えたラースはPCの前の椅子に座り、必要なプログラムとデータを打ち込み始めた。

一人、暗く広い研究所内で、延々と……。


───『西部の鎮圧はほぼ完了しました、ギフツとリバインの降下をお願いします』

隊長機に乗っている一人の女性がそう言うと、BN本部から近い上空に待機している空中戦艦アルカンシェルから次々にギフツとリバインが降下されていく。

「ここは貴方達に任せて、私は本部に向かいます。陣形を崩さないようにお願いしますね」

『了解!』

女性はそう命令を下すと、1機ビルの間を飛行しながら本部の中心へと近づいていく。

「やっぱり数が少ない、BNの兵士達はERRORとの戦いに行ってるのね。つまりこれは・・・好機!」

そう思い急いで機体を走らせていると、レーダーに一つ敵機の反応が映る。

その箇所を見ようとレーダーに視線を向けた時、目の前に1機の機体が姿を現した。

「え……?」

気付いたのも束の間、白騎士の如くその機体は二本のLRSを腰から抜き取ると、LRSを振るい一瞬で機体の胴体を斬り落とした。


───南部最強の男が異変に気付く、瞬く間に西部に降下したギフツ、リバインの反応が消えていくのがレーダーを見てわかった。

「なっ、西部が壊滅した?嘘だろ!西部にはあの女がいるし、増援部隊が降下したんじゃ……っ!?」

条件反射のように男が機体を上昇させた瞬間、自分の立っていた機体の場所に、もう1機の機体が現れる。

白銀色をした機体、風で靡く白いマント、NFの兵士なら誰でもが知っているあの機体だ。

「白義!?となると相手は風霧かッ!面白れぇ!南部最強のこの俺が相手してやるよ!」

男はそう言うと機体の両手、両肩、そして背中から無数のワイヤーが放たれ、白義目掛けて一斉に飛びかかる。

白義は無数に飛びかかるワイヤーの間を糸も簡単に潜り抜けると、一気に敵機の懐に入りかかる。

だがその動きを読んでいたかのように男は笑みを見せると、あるスイッチを押した。

『─SRC発動─』

白義の振るう二本のLRSを見事に交わしきる機体、それと同時に機体を回転させワイヤーを白義に直撃させる。

そのワイヤーは自在に動き白義の腕や足に巻きつくと、身動きを取れなくしていく。

そして完全に動きを封じた白義を満足そうに見つめる男は、嬉しさを隠しきれず笑みを見せ、通信を白義と繋ぐ。

「決まったぁ!これでわかったか風霧!BNは敗亡、NFは勝利、そして神と共に新時代へ行くのさ!」

その男の台詞に紳は表情を変えず、小さく力の無い声で答えた。

「神?新時代?下らんな」

「何とでも言え。まぁ、この世界とERRORは俺達NFと神に任せてお前は───」

銃声と共に機体の背部を貫通する一発の弾丸、機体は力なくその場に崩れ落ちた。

「死っ───ん?」

男の機体が爆発すると、白義の体に巻かれていたワイヤーが簡単に解けていく。

白義が体勢を立て直しているとその真横に1機の機体が現れる、赤いボロボロのスカーフを首に巻き、黒こげ茶色の機体が。

白義がその機体と通信を繋げると、モニターには煙草を吹かすダンの姿が映し出された。

「なぁ紳、お前さんは背後から敵を撃った俺を卑怯と呼ぶか?」

「……いや。英雄と呼ぶだろう」

「そりゃどうも」

二人の会話が終えた後、互いの機体が別々の場所に向けて走り出す。

既に本部にはNFの降下部隊が下り、徐々に町を占領しつつあった。NFの空中要塞も徐々に本部の上空へ移動していたからだ。

「本部は破壊するなよ、周りの兵器と機体を破壊し、歩兵部隊を基地内に突入させろ」

騎佐久の指示で的確に動くNFの兵士達、騎佐久は南部と西部の隊長が死んだ事など気にも留めていない。

それ所か評価していた、BNの隊長機白義と、その機体を操る人間に……。

白義は街中を走行中に突然飛翔すると、ビルの屋上に立っている1機の向かって飛びかかる。

飛びかかられたその機体は勢い良く後方に下がると、背部に付けられていた4つのガトリング砲が一斉に飛ぶと、周りの建物に張り付き建物に固定される。

その様子を驚いた様子で見ていた紳だが、やがて4つの固定されたガトリング砲は一斉に白義に向けて青白いレーザー弾を放ちだす。

すぐさま身を避けようと建物に身を隠すが、弾丸は白義を捕らえたまま動き身を隠した建物を破壊していく。

「厄介だが───」

迫り来る弾丸を避けながら一つのガトリング砲に近づいていく白義、二本のLRSを巧みに扱いわずかに当りそうになる弾丸を弾いていく。

だが白義は近づいた途端にガトリング砲は建物から離れると、意思を持つかのように白義から離れていく。

それを追おうと白義を機体を走らせるが、残りのガトリング砲がそれを邪魔し、更にはビルの上から8銃身ガトリング砲を両腕両肩に付けた機体が銃口を白義に向けていた。

そして聞こえてくる男の声に、紳の眼つきが変わる。

「久しぶりだな紳、調子はどうだい?」

「やはり貴様か、瓜野騎佐久」

ガトリング砲が止まると、それに合わせて白義も動きを止め、ビルの屋上にいる機体に目を向ける。

青白い機体に4つのガトリング砲を光らせるその機体は白義に銃口を向けたまま、停止していた。

「時期にこの基地はNFのものになる、そうなれば君の望んでいたように世界が平和になるさ」

「簡単に平和等と言うな、お前達には無理だ」

「そうでもないんだよ、実はもう直に神は起動する、そしてこの世界からERRORを取り除く。

 そもそも人類だけの力でERRORに太刀打ちするこそ不可能であり無意味なのさ」

「話しにならない、邪魔をするなら消えてもらう」

「おいおい、俺の台詞を言うなよ」

停止していた四つの固定砲台が一斉に起動し、白義に向けて弾丸を放ちだす。

屋上にいた機体も白義に向けると、一斉に弾丸を発射する。

一秒間に百発以上の弾丸が白義に飛ぶ、目まぐるしい速さでその攻撃を避けていくが、周辺の建物は次々に破壊され倒壊していく。

白義に加勢しようとBN機が姿を現すが、騎佐久に気付かれると一瞬にして蜂の巣にされ次々に撃墜されていく。

「よくコレだけの攻撃を回避する事が出来るね、さすがだ……でも、いつまで避け続けられるかな?」

「直に終わる」

紳がそう呟くと、地上を走っていた白義が一瞬にして上空目掛けて飛び立つ。

「空に逃げるとは、お前も落ちたもんだな」

地上に固定されている4つのガトリング砲に合わせ、騎佐久の乗り込んでいる機体も白義に向けて銃口を向ける。

地上から雨のように白義に向けて弾丸が飛んでくるが、白義は自在に空を飛び上昇していく。

「それでも無理だ、上空にはアルカンシェルが待機している。どちらにも逃げ場等無い」

「そこまでわかっていてお前は気付かないのか……」

白義は上空で機体の向きを変えると、地面と正面を向くように動きを止める。

すると白義の両肩のハッチが開き、その中で夥しい量の電流と光が流れ、外に溢れ出す。

「なっ、まさか───っ!?」

異変に気付いた騎佐久が機体を動かそうとしたが、既に遅かった。

両肩から放出された電磁波動砲は町ごと騎佐久の機体を飲み込み、その場にある全ての建物を消滅させる。

白義の眼の前広がるのは巨大なクレーターの後、その範囲と威力を見ても、紳の表情は変わらない。

「殺される前に殺す、それが戦場だ」

そう呟いた後、その地に下りた白義。まだ敵は残っている、空を見上げればそこにはEDPで使用されていたあのアルカンシェルが上空にいるのだから。

既に本部にいた民間人は全員地下シェルターに避難が完了している、だがアルカンシェルの主砲を使えば民間人もろとも本部を消滅させるのは簡単だった。

だがNFの目的はこの基地、用意に主砲は使っては来ないはず……。

色々な問題に紳が思考を巡らしていた時、目の前の地面が突然盛り上がると、一体の機体が現れ、両腕両肩のガトリング砲を白義に向け引き金を引く。

咄嗟の出来事に紳はすぐさま機体を回避行動に移すが、数発の弾丸が白義に当たり体勢が崩れる。

「LRC……まさかBNも持っているとは驚いたよ。でも、既にそれは対策済みでね」

騎佐久がそう言うと、地面から四つのガトリング砲が現れ、その場に固定されていく。

だがその一つは火花を上げると、固定されたまま爆発を起こし機能停止となった。

「やはり同時に2発分のダメージは痛いか……だが、それではアルカンシェルを落とす事も、俺を倒す事も出来ない」

白義から攻撃を確認した瞬間、機体と四つのガトリング砲の周りにシールドが展開されLRCを耐え切った。

騎佐久の機体は多少負傷している箇所はあるものの、まだ十分に戦える。

「試してみるか?俺が死ぬか、貴様が死ぬか」

一方白義の方は先ほどのLRCの反動で機体の数箇所が異常をきたし、負傷箇所が幾つかある。

それでも紳に迷いは無い、二本のLRSを構えると、弾丸の雨を降らす敵機の元へと向かった。


───本部は戦場と化す中、必死に中央にある基地へと向かうエリルがそこにいた。

手に持っていた鞄を捨て、髪を振り乱しながら走るエリル、息を切らせながらようやく基地へと辿り着く事が出来た。

だが既に基地も戦場と化していた、降下してきたNFの兵士達が基地内に侵入していたのだ。

それを見てエリルはすぐさま別の入り口に向かうと、その入り口はまだNFの兵士とBNの兵士が銃撃戦を繰り広げている最中だった。

急いでエリルはBNの兵士の元に向かうと、当然一人の兵士がエリルを止めにかかる。

「民間人がこんな所で何をしている!?早く中に避難するんだ!」

するとエリルは洋服のポケットの中に入っていた身分証明書を見せ付けると、兵士に詰め寄った。

「私も軍人よ!それで聞きたい事があるんだけど、ラース・グレイシムは今どこにいるか知ってる?!」

見せ付けられた身分証明書に兵士は驚いた表情を見せると、弾に当らないように体勢を低くしながら答える。

「し、失礼しました。ラース博士なら今地下格納庫に───」

「ありがとう!」

礼を言い終えると、屈みながら基地の中へ入っていくエリル。

ロビーには負傷した兵士や、銃を持って外へ走っていく兵士等、まだ多くの兵士が残っている。

エリルが急いで地下格納庫に向かおうとしたその時、後方で巨大な爆音と共に頑丈な扉が吹き飛ばされる。

それを見ていたエリルが急いで横の通路に身を隠すと、武装したNFの兵士達が一斉に基地内へ流れ込む。

応戦しようとしたBNの兵士達や、負傷した人々全員を次々に撃ち殺していくNFの兵士達、そしてグレネードを通路やロビーに投げ込んでいく。

投げられたグレネードは白いガスを噴出すると、そのガスを吸った人々が次々に体が痙攣すると、泡を吹きながら倒れていく。

ガスマスクを付けたNFの兵士達は互いに合図を取ると、素早く内部へと侵入していく。

それを見ていたエリルは急いでロビーから離れた。

後ろからは人の呻き声や銃の発砲音が聞こえてくる、それでも今はラースの元に急がなければならない理由がエリルにはあった。

近くにあるエレベーターですぐさま地下へ下りようとしたが、ふとボタンを押そうとした指が止まると、何を思ったのか突然その横にある階段を下りは始めた。


───薄暗い地下格納庫で一人、一台のパソコンに向かって紅茶を飲むラースがいた。

明かりはパソコンのモニターからしか無く、部屋全体は暗くて良く見えない。

パソコンのモニターには監視カメラが撮影した基地内部が映し出されている、そこには次々にNFの兵士が内部に侵入してきている映像が大半だった。

そしてエレベータには地下へと向かう為に数人のNFの兵士が乗り込んでいた。

「何故NFは今のBNの本部は手薄だと知っていたのか……答えは一つ」

格納庫の扉が開き、NFの兵士達が次々に入り込んでくる。

そして立っていたラースを見つけると、構えていた銃を下ろしていく。

「ご苦労様、準備は済んでるよ。さぁ、行こうか」

ラースはそう言うと格納庫の出口まで歩いていく、NFの兵士達はラースの周りに近づくと、ラースを囲むようにして出口まで向かうが、その出口には一人の女性が立っていた。

兵士達はその場に止まり、女性に向けて一斉に銃を向けると、その女性を見たラースが声を上げた。

「撃つな!……銃を下ろせ」

ラースの指示に従い兵士達は銃口を下ろし、出口に立っていた女性はゆっくりとラースの元に近づいてくる。

「エリル、何故君がここに……」

「ラース……どうして、NFといるの……?」

信じられない光景に驚きの表情が隠せないエリルに、ラースは無表情で口を開いた。

「BNでやるべき事は済んだ、だから次はNFで僕のしたい研究を続ける事にしたんだよ」

「じゃあ、最初からBNを裏切るつもりで私達といたの……?」

「裏切る?それは違う、そもそも僕はBNの人間ではないし、NFの人間でもない。

 僕が何処に行こうと僕の勝手だよね。まぁ、お礼は言っておくよ、ありがとう。皆にも伝えておいてくれ」

そう言い終えてラースはまた歩き始めようとした時、俯いていたエリルは一言呟いた。

「嘘よ……」

エリルの言葉にまたラースの足が止まる、エリルは続けて口を開いた。

「ラースは、そんな人じゃない。私が一番知ってる、だって」

顔を上げたエリルの表情を見てラースの顔色が変わった。

「思いだしたんだよ、ラース」

目に涙を浮かべながらエリルは笑っていた、その表情を見てラースが一歩後ずさりしてしまう。

「そんなっ、まさか……」

その時、格納庫内で銃声が鳴り響き、ラースの周りに立っていた兵士達は応戦する間も無く頭を撃ち抜かれていく。

兵士達が全員死んだ後、暗闇の中からサングラスを掛けて煙草を吹かしながら歩いてくる一人の男が現れた。

「お前さん、覚悟は出来てるんだろうな」

その男は一丁のリボルバーを右手に、銜えていた煙草を左手で摘まみ放すと、大きく息を吐く。

「ダン・バイルド!どうしてここに───っ!?」

「内部にNFの兵士が侵入してきたんだ、黙って見過ごす訳にはいかないだろ」

そう言うと右手に持つ銃をラースに向け、また煙草を吸い始める。

「無論、裏切り者もな」

「待ってッ!」

エリルは咄嗟に声を上げると、銃口を向けられたラースの前に出て両手を広げた。

「お願い、ラースを撃たないで!」

「何故だ?」

ダンの鋭い質問にエリルは一瞬たじろぐものの、ラースを庇う様に真っ直ぐ体を向けたまま動かない。

「ラースは───仲間だから!」

エリルの言葉を聞いてラースの表情が揺らぎ、ダンはエリルの答えを聞いても質問が続いた。

「じゃあ聞くが、この基地で死んだ兵士達は仲間じゃないのか?」

「仲間です!」

「だろ、その男が内部情報をNFに漏らしたせいで大勢の仲間が死んだ。責任は誰にある」

「そ、それは……」

「エリル、もういいよ」

両手を広げるエリルの肩に、ラースはそっと手を置こうとした時、エリルは後ろに振り向くと肩に置こうとした手を振り払った。

「私は良くないよ!まだラースに聞きたい事を聞けてないのに!」

そしてエリルはまた後ろに振り向くと、ダンに向かって涙ながらに叫んだ。

「お願い殺さないで!ラースのした事は許される事じゃないのはわかってる、でも……でも!」

その次の言葉を言おうエリルが口を開こうとした時、格納庫にあるもう一つの扉が開き、外から数人のNFの兵士が銃を持って現れる。

エリルがその兵士に気付いた時、既に兵士達に銃口を向けられ、引き金が引かれていた。

渇いた銃声が格納庫内に鳴り響き、その音はすぐに止まった。

銃を構えていたダンがすかさずNFの兵士に銃を向け引き金を引き撃ち殺したまでは良かった。

「ラース……?」

涙を流し震えながら男の名を呼ぶエリル、そのか弱い彼女の体を抱きしめたまま男は止まっていた。

抱きしめていた腕の力も弱まり、エリルはそっとラースから離れると、悲しげな目をしたままラースはエリルを見つめていた。

そしてそのままエリルの目の前で倒れる、エリルを庇い背中に銃弾を受け、その傷口から血が滲み出始めた。

「ねえ起きてよ!目を開けてよ……!」

エリルはその場に座り込むと、俯いたまま倒れるラースの肩を揺らし始める。

名前を呼んでも返事が無い、その様子を見ていたダンは悟ったのだろうか、ラースとエリルの元には向かわずNFの兵士が出てきた通路へと向かい、格納庫にはエリルとラースの二人だけとなった。

全く動かないラースにエリルが諦めかけたその時、ふとラースがその場に手を着き体を起こすと、簡単にその場に立ち上がった。

「っ……やれやれ。行ったか」

「ラース!?えっ、傷は……」

「全部急所から外れてるから、まだ死ななぃ───」

足元がふらつき倒れそうになるラースを咄嗟に支えるエリル、ラースはエリルに助けてもらいながら先ほどまで自分が座っていたパソコンが置かれている机の元へ向かう。

だが足も撃たれていたラースは足に力が入らずその場に止まると、力無く倒れようとした。

するとエリルは倒れそうになったラースを後ろから支えると、ゆっくりと地面に寝かせる。

ラースはエリルのもたれ掛かりながら横になり、エリルは壁にもたれ掛かりながらラースを優しく後ろから抱きしめる。

ラースの背中からは血が止まる事無く流れ、エリルの服をも赤く染めていく

目を開ければそこにいる、涙を流しながら自分を見つめてくれるエリルが。

「エリル、僕は君に謝らなくちゃならない……」

掠れた声でそう言うと、ラースは言葉を続けた。

「僕は……君を……」

それからラースは語り始めた、残り短い命を使い、今まで一人溜め込んでいた全ての真実と、現実を。

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