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第7話 一時、罪

 アステルが記憶を取り戻し会議室に兵士達が集まると、アステルから詳しい話を聞いていた。

 牢屋の中で眠りについていた彼は、眠りから覚めてみると全ての記憶を取り戻していた。

 周りを見渡してみると牢屋の柵が破壊されていたので牢獄から出て司令室に向かうと赤城達と出会った、と言う事らしい。

「何にせよ! アステル少尉の記憶が戻ってよかったですね!」

 由梨音が嬉しそうにコーヒーの注がれた紙コップにを皆に配っていく。

「皆に聞きたいんだけど、僕が記憶を失ってた時。僕は何をしていました?」

 そのアステルの質問にいち早く答えたのは武蔵だった。

「すごかったよ。Dシリーズの操作をマニュアルを見ただけで動かせたし、特に戦闘なんて初めてとは思えなかったね」

 その言葉にさらに赤城が言葉を付け足す。

「本当に記憶喪失かどうか少し疑う程だったな」

「……そうですか、そんな事を……あ、所でルフィスは今何処に?」

「ルフィスなら私が医務室に連れて行ったから、多分まだそこにいると思うが」

 赤城にそう言われるとアステルはコップに入ったコーヒーを一気に飲み干し勢い良く席から立ち上がると、すぐさま部屋を出て行こうとするが、扉の前で止まると赤城に頭を下げた。

「ありがとうございます! ルフィスにも伝えたいので行って来ますね」

「ああ、そうするといいさ」

「いってらっしゃーい!」

 由梨音が手を振りながら笑顔でアステルを見送る、アステルは会議室から出てすぐさま医務室へと向かった。



 この時もまだ、アステルは悩み、考えていた。

 自分と同じ姿のあの男はいったい何者なのか、目的は何だったのか……そして、何故同じの姿をしていたのか。

 どうして皆を騙し、自分になりすましていた、やはりBNのスパイなのだろうとかと思ってしまうが、それにしては何処か様子がおかしかった。

 色々な考えがアステルの脳裏を過ぎる、だが今は考えるの止めようようと思った。考えるのは後、今はルフィスと会える事で頭がいっぱいになりはじめていたのだから。

 全速力で医務室まで走り辿り着いた時には既に息切れており、直ぐに扉を開け部屋に入るが人影が見えない、ベットで寝ているんだと思って仕切りのカーテンを捲って顔を覗かす。

「ルフィ───」

「きゃっ!」

 カーテンを捲って中に入ろうとした時、同時に互いがぶつかり合ってしまい二人は後ろに尻餅をついてしまう。

「痛てて。ご、ごめん。大丈夫?」

「痛たた……って、アステル少尉!」

 アステルの目の前で倒れているのはルフィスだった。

 どうやら体調が良くなりベットを降りて部屋から出ようとした時にタイミング悪くアステルとぶつかってしまったようだ。

「アステル少尉!? どうしてここにいるんですか!」

「待って!」

 すると、突然アステルが手を広げてルフィスを止める。

 視線をルフィスから放し、顔を赤くしていた。

「その前に、足閉じてくれないかな……」

「え、あっ!」

 ルフィスはアステルに向けて自分が足を開いている事に気づき、顔を赤らめながら大慌てで足を閉じる。

「それでさ、僕は記憶を取り戻したんだよ」

「えっ?」

「皆の事も、姉さんの事も、ルフィスの事も。全部思い出したんだ」

 ルフィスは唖然としている、ただただアステルの顔を見つめていた。

 その時、床に仰向けで倒されるアステル。ルフィスが勢い良く抱きついたのだ。

「良かった……少尉、記憶が戻って、本当に……」

 嬉しいからこそ涙が止まらない、ぽろぽろと零れ落ちる涙はアステルの胸元を濡らしいく。

「……アステル少尉?」

 しかし、倒されたままアステルが一向に動かない。

 ふと顔を覗いてみると明らかに意識が飛びかかっている、倒した衝撃で後頭部を強打したらしい。

「アステル少尉!? 申し訳ございません、つい……」

「いいっていいって。心配かけてごめんね」

 ルフィスの頭を優しく撫でるアステル、これでまたいつも通りの暮らしが続くはずだ。




 NFの基地で起きた事態が収束しつつある時、BNの基地ではある事態が起きていた。

「愁、自分がした事が分かっているのか?」

 戦闘を終えたBN、基地に戻るや否やある一室でBNの兵士である愁は紳に顔面を殴り飛ばされた。

「命令を出していない時に勝手な行動をするなとあれ程言ったはずだ」

 腰にかけてあるサーベルを抜き取り、それを愁の目の前で振り上げる。

 咄嗟に目を瞑ってしまう愁だが、その時、紳の声が愁の耳に入ってきた。

「目を背けるな」

 その言葉で微か目を開けるが、目の前にサーベルを顔の前に突き出した紳がそこに立っている。

「見ろ、そして機会を窺え。生き残る為に」

 それだけ言うと振り上げたサーベルを腰の鞘に戻し、紳はその部屋から出て行ってしまう

 愁は床に座り込んだままただただ紳の後ろ姿を見つめ続けていた。

「俺のした事は、間違っていた事なのかな……」

 俯きながらそんな言葉を口にしてしまう、するとその言葉に答えるかのように一人の青年が部屋に入ってくると、愁の元に近づいてきた。

「軍人としては間違っているかもしれない、だが俺は人としては間違ってないと思うぞ」

 そう言って座り込んでいる愁に手を貸し、引き上げる。

「羅威……囮作戦ご苦労様。怪我は無かったかい?」

「お前こそ敵の本部に乗り込んだんだろう? 大丈夫だったのか? 俺の方が心配してたぞ」

「ははっ、それもそうだね」

 その笑顔は少し力無いように羅威には見えた。あれだけ叱られたのだから落ち込むのも無理は無い。

 まだ明かされぬBNの真実、今日の出来事によりBNとNFの関係は更に悪化していくだろう。




 その頃、NFとの軍事基地から脱出する事に成功した甲斐斗は奪った機体を走らせた後、機体を捨てて森にまで逃走していた。

「やれやれ、どうしてこんな事に……」

 甲斐斗は眠りにつく少女を抱き締めながら木が生い茂る森の中にある滝の側で休憩していた。

 血塗られた包帯を水で洗い、撃たれた肩。そして左目を覆うようにして包帯を巻きつける。

 体に巻きつける時に滝の水温で冷やされた包帯が傷に染みる。

(右肩と左目が痛てぇなぁ……って、俺に左目はもう無いか……さて、これからどうしたものか)

 とりあえず食糧確保といきたい所だったが、甲斐斗にサバイバルの知識など殆どない。

 やはり街に逃げた方が良かったのかもしれないと今更後悔しても遅い。

(食い物探さないとな。血を流しすぎたし、何か食べないと体がもたねえ……)

 薄れゆく意識、凄まじい眠気が甲斐斗を襲い。

 とにかくもう眠りたい、何も考えずにただ目蓋を閉じるだけでいい、そう思い甲斐斗は静かに眠りについた。



 そして次に甲斐斗が目を覚ました時、眩い光が右目に入ってくるのが分かった。

 目蓋を閉じていても感じる眩い光。

「んっ、あれ……?」

 森林が朝日に照らされ心地よい風が吹いてくる、

 どうやら朝になるまで眠っていたらしいが、自分の側にいたはずの少女の姿が見当たらない。

 周りを見渡してもあの綺麗な青髪をした少女が何処にも見えない。

 甲斐斗は痛む全身を起こし何とかその場から立ち上がり、少女を探しに行こうするがここ森の中。

 どこに行けばいいのかも分からず、とりあえず川に沿って行ってみる事にした。

 川の中をふと見れば何匹もの魚が泳いでいる。

(美味そうな魚だ。後で捕まえ食うか)

 たしかに食料は必要、だがまずはあの子を探さなければいけない。

 甲斐斗は泳ぐ食料を後にして少女を探し続けていくと、川に繋がる大きな湖の前に来ていた。

 湖の周りには綺麗な花畑が広がっており、色とりどりの花が湖の回りに咲いている。

(こんな綺麗な花畑があるとは……ここ天国じゃないよな)

 こんな綺麗な景色を見たのは久しぶり、無意識に甲斐斗は花畑へと足を進めた。

 すると、花畑に見覚えのある青い髪を靡かせ動いている。あの青髪の少女だ。

「やれやれ」

 甲斐斗は花畑で走り回っている少女の左腕を掴んだ。

「捕まえた。一人でこんな所に来たら駄目だろ」

 腕を掴んだ途端、彼女は走るのを止めた。

 少女は甲斐斗に背を向けたまま、左腕だけが甲斐斗の方に向いている。

 黙ったまま、何も言わず、動かず。風で花達が微かに揺れているだけだった。

「どうかしたのか?」

 何も喋らないのでさすがに心配になり。自分から声をかけてみる。

『貴方は、人の、ましたか』

 何かが聞こえてくる。小さく細い声。それは紛れもなく目の前にいる少女の声だった。

「んっ?」

 少女が振り返った、だが振り返った少女の目はまるで別人だった。

『貴方は今まで、何人の人間を殺してきましたか?』

「えっ……」

 次に目蓋を開いた時、少女は甲斐斗の目の前から消えていた。

 だが甲斐斗の目蓋にはあの少女の顔が焼きついている。

 それだけではない、さっきまで自分がいた花畑がただの荒地になっていた。

 辺りの森は枯れて腐敗し、地面には血塗られた土しか残っていない。

 空は濁り、太陽の光が薄暗く、虫や鳥の鳴声も聞こえない。

「なっ、何だ……これ」

 さっきまで自分がいた光景はとは全く違う、まるで違う世界に飛ばされたかのような感じがした。

 しいて言えばそこは地獄だ。横には、あの大きな湖が存在したが、そこには澄んだ水などなく、血のような赤い液体が充満していた。

 咄嗟の状況に言葉が出ない。まるで人間の血を溜めたかのような赤い湖が目の前にある。

 急激な吐き気とめまいが甲斐斗を襲い、その場に跪いてしまう。

 物音が何一つ立たないその荒地に、何かの音が聞こえる。

 湖からだった、赤い湖から何かが甲斐斗に近づいてきていた。

 それは死体だ、軍服を身に纏った死体がゆっくりと近づいてくる。

 一人じゃない、何人者兵士の死体が血を流しながら甲斐斗に近づいてくる。

 兵士だけじゃない、女や子供、老人と思われる死体まで。全ての人間だった存在が近づいてくる。

 近づいて来る……その光景が甲斐斗の頭の中であの幼い頃の起きた悪夢が蘇る。

 死体は切り落とされた腕から血を流しながら近づき、もう一体の死体は頭が無い。

「く、来るんじゃねえ……俺に……っ……『僕』に近づいて来るなぁっ! 誰か! 誰か助けてっ!」

 取り乱しながら甲斐斗は叫ぶものの。誰も助けには来ない。

 死体達が睨んでくると頭の中で何度も否定ししていく。

 殺したのは自分ではない、殺したのは自分ではない。そもそも彼等が殺された理由は自分ではなかった。

「だ、だって。姉さんを! お前達が姉さんを殺したんだろ!?」

『いいえ、彼等は殺していません。軍を守ろうとし、勇敢に敵に立ち向かった兵士です』

「お前は誰なんだよ!? 何処にいる! 何言ってんだよ!?」

 冷たくい赤い手が甲斐斗の足を掴む、振りほどこうとどんなに足に力を入れても、決して放しはしない。

 何本もの腕がまるで花のように伸びてくる。何本も何本も……全身を掴もうと腕を伸ばしている。

「だ、だって。僕は、僕はぁ! 憎かったんだ! 姉さんを殺した奴等が!」




 甲斐斗、彼には二つ名前がある。一つは甲斐斗、そしてもう一つはカイト・スタルフ。

 姉のセレナが死ぬまではカイト・スタルフとして生きていた、だが今は甲斐斗という名前で今は生きている。

 甲斐斗の心は、姉が死んだ時壊れた。

 小さい頃から姉と二人で暮らしてきた、互いに笑い、怒り、泣き、喜び。

 甲斐斗にとってセレナとは欠かせない存在だった──。

 死者に全身を死体につかまれ身動きが取れない甲斐斗、すると、彼の右手にはあの巨大な黒光りする剣が現れる。

 自分の体を掴もうと、何本も伸びてくる手を一気に剣で切り落とした。

 湖から這い上がる死体、甲斐斗に向かってくる死体、前に出てくる者を全て斬り捨てていく。

「うぜえ……俺の邪魔をする奴は誰だろうと殺す」

 血みどろの死体達は甲斐斗から逃げる、だが甲斐斗は誰一人逃がしはしない。

 次々に逃げる死体を斬っていく甲斐斗。今の彼等から見て、甲斐斗は『恐怖』そのものに見えているだろう。

「俺を否定する奴、俺の邪魔をする奴、俺を傷つける奴、俺に逆らう奴。怒りや悲しみ、恐怖が来る前に、皆殺しにすれば早い話だろ」

 皆殺して、皆死ねば、皆いなくなって、一人になる、そして───。

「有象無象の雑魚共が……くくくっ、ふははは! あはははははッ!!」

 甲斐斗の顔や服が血に染まり、大空に顔を向けて奇声のような笑い声を繰り返していた。

 何も無い荒地の上で声が枯れ、喉が潰れて声が出なくなり、その命が終わるまで──。



 ──「っ、うっぐっ……」

(痛い、頭が割れそう…だ……というか、割れた? なんだったんだ今のは……)

「ここは……?」

 ぼやけた視界が鮮明になっていく。そこには見覚えのある湖、それに花畑が広がっていた。

(俺は……気を失っていたのか……?)

 今まで見ていたのは夢だということが未だに信じられない、ただ回りは平和そのものであり、右手に持っていた剣も見当たらない。

(またあの時の事を思い出していたのか……ったく、胸糞悪い)

「かいと?」

「うおっ!?」

 倒れている甲斐斗の顔の目の前に、あの少女が覗き込むようにして現れる。

 頭には綺麗な花で出来た冠を被り、きょとんとした様子で甲斐斗の顔を見つめていた。

「よ、良かった。無事でなにより」

 さっきまで頭が痛かったのに、今は全く痛みを感じない。

 少女が甲斐斗の頭に何かを被せてくる、良い匂い、花で作られた冠だ。

「かいと、たすけてくれた」

「ん? あの時起きてたのか?」

 少女は笑顔で頷いた、するとまた何処かに立ち去ってしまう。

「お、おい。何処行くんだ」

 甲斐斗は倒れている体を起こし、周りの様子を見てみる。

 そこには、さっき自分が見た花畑と湖が広がっていた。

 荒野でもなければ、赤い湖でもなく。木を生い茂り、空は青い。

「ふぅ……あれ、あの子何処に……」

 すると、走りながら近寄る少女は両手を伸ばすと甲斐斗を見つめながら微笑んだ。

「おいしいよ」

 両手の中を見てみると、色鮮やかな木の実や果物らしき物が沢山入っていた。

 この時ようやく気づいた、この子は甲斐斗が寝ている間。甲斐斗の為にずっと食べ物を探していたと。

「おお、ありがと」

 両手の中から取り出した木の実を口に入れてみる。

「本当だ、美味い」

 ふと、美味しさに本音が零れ落ちた。

 野菜は大嫌いだが、これは旨い。そう思い自然と口の中に入れてしまう。

 それから甲斐斗は気の実や果物を食べた、もちろん隣にいる少女と一緒に。

 そして二人は木の実を食べ終わると、一緒に木の実や食べれそうな物を探しに森に入った。

 甲斐斗が探しても食べ物が全く見つからない、だが少女が行く所は全て木の実や果物があった。

 森に入ると時間の流れが速い気がする、気が付くと辺りは暗くなっていた。

 二人は急いで森から出ると、湖の側の草原で横になり、今日は寝る事にした。

「えーと、名前。なんて呼べばいいし分からないから俺が勝手につけていいか?」

「なまえ?」

 甲斐斗の方を頭を傾ける少女、じっと横顔を見つめてくる。

「そ。名前、俺は甲斐斗って言うだろ?」

「なまえ、かいと?」

 嬉しそうな表情を優しく浮かべているのが甲斐斗にもわかった。

「本当に? 絶対変とか言わないでくれよ?」

「えーとな、『ミシェル』ってのは……どうかな、いや。嫌なら別の名前にするぞ!?」

 慌てて名前を変えようとした時、小さな寝息が頬にかかる。

(寝てる……まぁ無理もない。一日中森を歩き回ったんだからな)

 ミシェルの体に自分が着ている軍服の上着を被せると、甲斐斗もまた目蓋を閉じ、眠りについた。


甲斐斗かいと

最強の魔法使いだった青年(?)。

この世界に来てから魔法という魔法は一切使えない。

だが自慢の愛剣はいつでも出現させる力を持つ。

性格は明るく、前向きであり、優しい一面も見られるが、残虐な面の方が多い。

人間離れの生命力と力を持っている。

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