表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/184

第67話 泥、涙

部屋の扉の前で佇む青年、その青年の前にいる葵とエコもその場に佇んでいた。

青年は笑みを見せているものの、周囲の空気は異様な雰囲気に包まれている。

「君達、アルトニアエデンから来た人達だね?」

その問いに葵は答えない、額に汗を滲ませながらじっと青年のを見つめている。

だが痺れを切らしたのか、葵はすぐさま両手に鍵爪を着けると身構えた。

「てめえの目的は何だ、どうしてこの世界にいる!」

「僕の質問にも答えてほしいなぁ。まぁいいさ、目的なんて無いよ、単なる暇潰しさ。だから僕の邪魔はしないでくれるかな?」

青年はそう言って部屋の中に入ろうとした時、葵は床を強く蹴り上ると一直線に青年の元へ向かう。

鍵爪を避けようと数歩後ろに下がる青年、葵はミシェルのいるとされる部屋の前に立ちふさがると、またも身構えた。

「っけ、今のお前はただの人間に過ぎねえ。怖くも何ともないぜ、エコ、お前は早く第1MGの所に……」

その時、何かにぶつかるように葵の体が宙に浮き吹き飛ばされると、勢い良く地面に叩きつけられる。

「葵!」

すぐさまエコが駆けつけるが、葵の体は地面に倒されたまま起き上がれない。

目には見えない力がそこには働いていた。

「たしかに、この世界では何らかの力で魔力を持つ者の力が封じ込まれている。けど、それは完全じゃない」

青年は左手をゆっくりと上げると、それに合わせて葵の体も宙に浮く。

手を振り下ろせば、葵の体は冷たく硬い床に叩きつけられ、全身に走る激痛に声が上がる。

「葵に……手を出さないで!」

エコが両手を青年の方に向けるが、その瞬間エコの体が硬直する。

全身に力が入らず足や腕を動かそうとしても微動だにしない。

「何、これっ……」

そのエコの表情を見た青年は笑みを見せると、ゆっくりとエコの元に近づいてくる。

逃げようとしても体は動かない、止まることなく近づいてくる青年を見てエコの恐怖は倍増していた。

そして青年はエコの目の前まで来ると、右手でゆっくりとエコの頬を摩り口を開いた。

「自己紹介が遅れたね。初めまして、僕の名はテト、テト・アルトニア。よろしくね」

「テト…・…」

その名を聞いてエコは完全に思い出した、この男が何者なのかを。

思い出したと同時に身の毛がよだち、恐怖で足元が震えだす。

そんなエコを見てテトは心地よいのだろうか、怯えたエコの髪をゆっくりと撫でていく。

「アビア、第1MGは君に任せる。僕はこの子達と遊ぶ事にするよ」

「はーい」

返事と共に通路の曲がり角から桃色の髪を靡かせながらアビアが現れる、アビアは硬直している葵とエコの姿を見て小さく微笑むと、そっとミシェルのいる部屋に入っていく。

アビアは部屋の中に入ると、ミシェルの居場所を知っているかのように寝室に向かう。

思ったとおり、そこにミシェルはいた。顔だけを出し、身を布団で包んだままじっとしている。

「みーつけた」

そう言ってミシェルの元に向かおうとした時、ふとベッドの前で足が止まる。

部屋全体が微かに振動している、アビアは後ろに振り向いてみると、轟音と共に何かが迫ってくる気配を感じた時、ベッドにいるミシェル目掛けて飛びついた。


───「さてと、こんな所だとムードが出ない。どこか部屋に行こうか」

テトが優しくエコの髪を掴むと、動かない体を引き摺りながら倒れている葵の元に向かう。

その時だった、轟音と共に通路の壁が崩れ落ち。崩れた壁の外に両腕のあるMDが現れる。


───「驚いたな、さすが化物機体。両腕を簡単に再生しやがるとは」

甲斐斗はミシェルのいた部屋を知っていた、基地内に入るより壁をぶっ壊した方が手っ取り早いと考えると、再生した両腕で壁を破壊しミシェルを助けに来たのだ。

「あの女も一緒に確保しちまったが、今はミシェルを連れて逃げるのが先決だな」

MDは両手で何かを包むようにしている、そこにはミシェルとアビアが抱きついた状態で確保されていた。

後はその場から離脱するだけ、だが部屋の壁を壊しすぎた衝撃で通路の壁も崩れ、その通路には葵とエコ、そしてテトがいるのを確認すると、一瞬機体の動きが止まった。

「葵にエコ、それにあの男……どうやら二人とも負けてるようだな。良い気味だ」

甲斐斗は二人を助ける事無くその場から離れると、一気に基地から離れていく。

「甲斐斗、君は実に愚かだ。真実を知らない者程痛々しいものはない」

去っていくMDの後ろ姿を見ながらテトはそう呟いた、するとその隙にエコが自分の頭からテトの手をどけると、倒れたまま動けない葵の肩に触れる。

テトがエコのいた方に目を向けた時、既にその場から葵とエコの姿は消えていた。

一人廃墟と化した基地に残されたテト、左手で首元の傷口の後を摩りながら右手を振り上げると、地上で停止していたトラディスカントが浮上し、一瞬でテトの目の前に現れる。

「退屈な時間は作りたくない、時間は……貴重だからね」


───その頃、既に愁と赤城の決着はついていた。リバインの頭が地面に転がり、両手両足はもぎ取られ、胸部はアギトの巨大な右腕で鷲掴みにされている。

「リバインでよくここまで頑張りましたね、さすが赤城隊長です」

「褒められる程の事はしてないつもりだが?」

落ち着いた様子で言葉を切り返す赤城、もはや抵抗もできないこの状態では諦める他無かった。

だがアギトはリバインの胸部を静かに地面に置くと、基地のある方へ振り向いた。

「やはり殺さないか……」

戦闘中既に赤城は悟っていた、愁が本気で自分を殺しに来て無い事に。

「はい、貴方はこの世界にとって貴重な戦力になります、俺達は今、人間同士で殺しあっている場合ではありませんからね。それではまた」

愁はそう言い残しその場から離れようとした時、突如エコからの通信が繋がる。

モニターに映るエコと葵、だが葵は俯いたまま動かず、エコは肩で息をしながらモニターを見つめていた。

「愁、撤退して……事情は後で話すから……!」

尋常じゃない気配を悟った愁は小さく頷くと待機させておいたSVの艦をライダーの元へ向かうように指示を出し、自らもまたライダーの元へと向かっていく。

だがその時、ライダーのいる上空から1機の赤黒い機体、トラディスカントが姿を見せると、ライダー目掛け一気に急降下し始めた。

「エコ!上空から狙われている!回避するんだ!」

愁が声を荒げて注意するが、ライダーは走り続けるままで一向に回避しようとしない。

上空から急降下するトラディスカントの手には一本の槍が握られ、その先端はライダーの背部に向けられている。

そして槍がライダーの背部に突き刺さろうとした時、何処からともなく二発のレーザーがトラディスカントめがけ放たれた。

その思いがけない攻撃にすぐさまライダーとの距離を置くと、レーダーを見て笑みを見せた。

SVの戦艦が二つ、フィリオの艦と、もう一つフィリオの妹が乗るアリスの艦が到着していたのだ。

その甲板からはシャイラの乗るアストロス・ガンナーの姿が見えていた。

そしてもう1機、トラディスカントめがけ飛び込んでくる機体に向けてテトは口を開く。

「アストロス・ナイト……ふふっ、久しぶりだねぇ、ゼスト!」

手に持っていた槍は瞬時に大鎌に変形すると、迫り来るナイト目掛け振り下ろす。だがナイトは左手に持つ盾で大鎌を防ぐと、そのまま勢いに任せ機体を突進させた。

「やはりこの世界に来ていたか、テト」

そう言うと盾の表面に高圧電流が流れ、大鎌を大きく弾き飛ばすナイト。

右手に持つ剣の先を相手の胸部に向けて勢い良く突き出すが、テトは機体を花びらのように捻りその剣先を交わすと、今度は大鎌からレイピアに変化させ武器をナイトの胸部に向けて突き出す。

だがその攻撃はナイトの盾に簡単になぎ払われるが、なぎ払われたレイピアが瞬時に姿を変えまた大鎌になると、その刃先がナイトの首元に向かって伸び始める。

すると、その二機の間を割るかのように地上から上昇してきたアギトがその大鎌を拳で弾き飛ばす。

それを見たテトはふと回りを見渡せば、そこにはアストロス・ナイト、アギト、ガンナーが立ちふさがり、後方には二つの戦艦が止まっている。

明らかにテトが不利な状況に追い込まれていたが、それでもテトは不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。

「んー、さすがだよ。ゼスト達は強いね、よく頑張っている、でも……所詮は魔力を失った哀れな人間に過ぎない」

そう呟いた時、テトの眼の色が変わった。左腕に赤い模様が浮かびあがり、機体も同じように全身に濃い赤色の模様が浮かび始める。

そして機体の足元に赤黒く輝く魔方陣が現れると、その場にいたアギトとナイトを吹き飛ばし地面に墜落させた。

地面に落とされたナイトが起き上がろうとうしたが、機体は思うとおりに動かず、機能が停止している。

「いくら君達が束になってかかってきても僕には勝てない、さて、後は……」

そう言って待機している二つの艦の所に向かおうとした時、レーダーに一機の機体が地上から急浮上してくる反応が示される。

「フィリオには手出しさせない!」

「へぇ、面白い機体だね。僕の魔力を弾くなんて……でも」

トラディスカントが迫り来るアギトに左腕を向けると、機体の足元に広がっていた魔方陣と同じものがアギトの足元に出現し始める。

「人間の方は脆い」

その言葉と共に愁の視界が暗闇と化し、身動きが取れなくなる。

操縦席に座っていたはずだというのに、今の自分は暗闇に立ち、暗闇を見ている。

そして、前を見れば暗闇から何か近づいてくるのがわかった。

「これはっ……?」

暗闇の中から近づいてくる無数の写真、その写真の中には楽しそうに食事をする家族や、BNの中間達の映像が映っていた。

その皆が楽しそうに笑っている映像が、彼等が。愁の元へ近づいて来る。

そして一枚の映像が愁の眼の前現れると、愁は無意識にその写真に手を伸ばした。

だが指先が写真に触れようとした時、無数の写真が裂け、中から血飛沫があがると、その血は愁の体を真っ赤に染めた。

血生臭い臭いが広がり、顔についた血を拭き取ろうと腕で拭おうとした時、自分の足元に何かがあるのを感じ、徐々に目線を下に向ける。

「あ、彩野……さん……」

全身が潰れ内臓が体からはみ出している彩野の姿に動揺が隠せない愁、手を口に当てながら一歩後ろに下がってしまう。

するとその下げた足にまた何かが当たり、後ろに振り向くと、そこには死んだ家族が変わり果てた姿で倒れている。

「お前が殺した……」

後ろから聞き覚えのある男の声がする、愁はまた後ろに振り向くと、そこには玲を抱きかかえた羅威の姿があった。

それだけではない、愁の周りには今まで愁が殺してきた人間の屍が広がり始めた。

気付けば足元は血の海が広がっており、暗闇だった空間が徐々に赤く濁り始めていく。

「全てお前のせいだ、お前のせいで、ここにいる人達が、玲が死んだ」

「違う、俺のせいじゃない、俺は……」

「お前が皆を殺した、誰一人守る事も出来ず、無責任な感情を振り回した結果だ」

羅威の言葉が愁に突き刺さる、たしかに前の自分はどうかしていた。

「たしかにあの時の俺はそうだったかもしれない、だが今の俺は違う!」

愁の言葉に羅威は動じなかった、玲の死体を抱きかかえたままじっと愁の目を見つめている。

「同じだ、お前が殺した事には変わり無い。お前がいなければ、皆生きていた」

「だが皆は死んだ!俺はもう過去の過ちは繰り返さない、これからはフィリオの為に戦うと決めたんだ!」

「それがお前の答えか、随分と変わったな。誰にでも優しかったお前が、平気で人殺しをするなんて」

「何とでも言え……今の俺はこの世界の為にも、成し遂げなければならない事があるんだ!」

「それなら敵である俺を殺せ、その握り締めている拳銃で俺を撃つがいい」

愁が右手を見ると、たしかにその手には銃が握り締められていた。

そしてその手をゆっくりと上げると、銃口を羅威の方へと向ける。

「昔の俺じゃない、変わったんだよ!俺の前に立ちふさがるというのなら君でも俺は撃つ!……さよなら、羅威」

「ああ、さよなら」

渇いた銃声が聞こえた、引き金は引かれたのだ。撃たれた銃弾はまっすぐ羅威の額に向かっていくのが愁には見えた。

だが羅威は笑っていた、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた時、全ての景色が消え、新たな景色が愁の目の前に飛び込んできた。

「フィリオ……?」

目の前にフィリオが見える、悲しげな表情を見せて愁を見つめていた。

そして愁は、そのフィリオ目掛け右腕の拳を振り下ろしている。

その時全てを悟った、今自分の機体は戦艦の甲板に立ち、司令室で座っているフィリオ目掛け拳を突き出している事を。

「や、やめろぉぉおおおおッ!!」

言葉とは裏腹に拳が突き進んでいく、もう止める事も出来ない拳、拳でフィリオの姿が隠れた時、頭の中が真っ白になった。

愁が拳を止めた時、既に司令室は拳で押しつぶされていた。

兵士達も巻き添えになり、司令室の機器が破壊され艦の動きが止まる。そして司令室は煙を上げると大きく爆発を起こした。

甲板に立ったまま微動だにしないアギト、愁の瞳孔は開き、信じられない様子で目の前の光景を見つめている。

「俺が……殺した……?」

「ああ、そうさ。君がフィリオを殺したんだよ」

操縦席からテトの声が聞こえてくる、その声が更に愁を恐怖のどん底へと叩き落とす。

「そんな、どうして……俺が?な、ぜ……?」

さっきまでの光景は全て幻覚に過ぎなかった、そしてその幻覚に惑わされ、自らの手でフィリオの拳を向けた。

感情が渦巻き始める、様々な思考と思い、全てが混ざり合い泥のように汚くなり始める。

「ふふっ、面白いものが見れて良かったよ。それじゃあ僕は用があるから、ばいばい」

満足気なテトは終始笑みを浮かべると、甲斐斗が逃げた方へと飛び去っていった。

二つの艦はその場に止まると、すぐさま一つの艦は消火活動にあたる。

艦の周りにはアストロスの残骸が散らばっており、その中にはアストロス・ガンナーの姿もあった。

光が消えていく。自ら手にした光が、ばらばらに砕け散り、失っていく。

感情の波が押し寄せ、爆発寸前にまで追い詰められたその時、無線から一人の女性の声が聞こえてきた。

『愁、安心してください。私は無事です』

それは紛れもないフィリオの声だった、愁が声を聞くと、操縦席のモニターにフィリオの映像が映しだされた。

『エコが私を助け出してくださいました、ですから心配はいりません』

「で、でも。俺は……」

『落ち着いてください、愁。落ち着いて……」

静かに、そしてはっきりとしたフィリオの声に、愁も次第に冷静さを取り戻し始める。

「あの人は俺に何を……どうして俺は、あんな事を……」

『それは……後で説明します、今はアリスの艦に戻り格納庫でお待ちください』

そこで通信は切れた、愁はゆっくりとアギトを動かすと、アリスのいる艦へと機体を走らせた。


───アギトとの戦闘で敗れた赤城、操縦席の扉を開けて外に出ると、何も残っていない町を眺めていた。

風と一緒に灰が吹き込む、空も灰色に覆われそこはもう町の面影を残していなかった。

「神楽、お前は本当に忘れてしまったのか?……あの約束を」

前方を眺めていると、後方から何かが迫ってくる音が聞こえて振り向くと、そこには1機のギフツが迫ってきていた。

『赤城少佐!良かった、無事だったんですね。今お助けします!』

その声を聞き赤城も小さく笑みを見せると、リバインに乗り込み扉を閉めた。

ギフツはそのリバインを優しく持ち上げると、かつての町に背を向け止めてあるBNの艦に向かい始めた。

そして艦に戻ってきた時、同時にBNの機体である神威もまた、エンドミルに運ばれて艦に戻ってきていた。

リバインは格納庫の床に下ろされると、赤城は扉を開き外に出る。

しかし、そこにはBNの兵士達が慌しく走っているだけで、特に警戒されている様子は無い。

「BNの事だから私達を拘束すると思っていたが……何か違うな、ここのBNは」

「赤城少佐~!」

由梨音の声に赤城が右を向くと、こちらに勢い良く駆けてくる由梨音の姿があった。

そのまま由梨音は勢いに任せて赤城に抱きつくが、赤城はしっかりと由梨音を受け止める。

「赤城少佐ぁ~良かったぁ、本当に、無事でぇ……」

先ほどまで笑顔だったというのに、今度は赤城の胸元で涙を流し始める由梨音に赤城は優しい笑みを見せながら頭を撫でてあげる。

「すまない、心配させてしまったな」

心配するのも無理無い、NFの兵士であの町から無事脱出できたのは赤城と他数名しかいなかった。

増援部隊は全滅、町に留まってい兵士達も皆死に、東部は脆くも壊滅したのだ。

赤城はゆっくりと体から由梨音を放すと、頬についている涙を指で優しく拭った。

「由梨音、今から私はここの艦長と話しをつけてくる。NFの民間人を保護してくれたのだしな、これからの事について話しをしなければ……」

その時だった、後方からどよめきと男の怒鳴り声が聞こえてくる、赤城はその声の方に振り向くと、そこには床に倒れたまま動かない羅威と、その羅威に歩み寄る穿真の姿があった。

穿真は羅威の襟を掴むと簡単に体を持ち上げると、何度も前後に揺らす。

「てめぇ、自分が何したのかわかってんのか!?」

何も答えないまま俯いている羅威を見て穿真は拳を振り上げると、渾身の力で羅威の顔を殴り飛ばす。

「なんか言えよ、おい!」

倒れた羅威をまた持ち上げては殴り、格納庫の壁に叩きつける。

羅威の口から血が流れようが、今の穿真が止まる事は無い。

壁にもたれ掛かる羅威、俯いていた顔を上げると、その顔を見た穿真の足が羅威の足元で止まった。

「何泣いてんだよ……」

泣いていた、大粒の涙を流しながら、その涙を拭おうともせず、羅威はただ泣いていた。

そして、穿真もまた、羅威同様に泣いていた。決して涙を拭わず、羅威の足元にその涙が落ちる。

「情けねえ面してんじゃねえよッ!」

再び羅威の襟を両手で掴み倒れた体を起こした時。今まで黙っていた羅威の口が開いた。

「どうして……どうして二人とも、死んだ……?どうして……玲も、クロノも……死んだ……?」

今まで見せたことの無い羅威の姿、情けなくて、弱くて、どうしようもない。

その姿を見て穿真の怒りは更に高まる、二人が涙を流すのは悲しいからではない。悔しくて、情けないからだ。

何も出来ず、助けられなかった。そして……大切な友を殺した。

「答えてやるよ、お前のせいだッ!全部、全部のお前のせいなんだよッ!!」

穿真は羅威の体を壁に押し付ける、何度も、何度も。

殺した、あの時迅速な行動をしていれば少なくとも、クロノが死ぬ事は無かった。

「どうしてクロノは俺を助けた……わかっていたはずだ……クロノは、俺を助けに行けば、自分が死ぬ事、わかっていて……」

全身の力が抜けていく、羅威は壁にもたれ掛かりながら、穿真は服の襟を掴んだまま、ゆっくりとその場に腰を下ろした。

「玲はどうして、あんな事に・・…どうして、ただ、普通の、平凡な生活が……出来なかった……」

もう穿真には答える気力も残っていない、羅威の襟を掴んだまま俯き、何も言わない。

ふと足音が聞こえてくる、香澄の足音だ。足音は……ゆっくりと、羅威に近づいてくる。

羅威の目には映っていた、涙を流し、拳銃を握り締めながら向かってくる香澄の姿が。

「あんたのせいで……クロノ隊長は死んだ……」

そう言うと香澄は握り締めていた拳銃を羅威に向ける、周りの兵士達は止めに行く事も出来ず、ただその様子を緊張した面持ちで見つめていた。

「あんたがいなければ、クロノは生きていた……それなのに……ッ!」

簡単に引き金は引かれた、何度も何度も、渇いた銃声が格納庫内に響き渡る。

全弾撃ち尽くしても、引き金を引き続けるが、やがて指は止まり、天井に向けていた拳銃を羅威に投げつけた。

「どうしてあんたが帰って来てクロノが帰って来ないのよ!どうしてぇ!ねえどうしてなのよッ!どうして……」

その場に崩れ落ちる香澄、両手で顔を覆いながら泣き叫ぶ。

雪音もそう、一人操縦席の中で咽びながら泣いている、誰にも気付かれず、ただ一人で。

結局、この戦いで何を得たのだろうか。

玲は助けられず、クロノは犠牲となり、町は滅んだ。

「赤城少佐?」

何の為に戦ってきたのか、誰の為に戦ってきたのか。もう、わからない。

濁っていく、泥のように。今まで綺麗な色が広がっていた景色が。

「これでは前が見えんな……」

赤城の言葉を聞いて由梨音はポケットからハンカチを取り出すと、そっと赤城に手渡そうとしたが、赤城は自分でその泥を拭う、拭った後には自分の色が広がっているから。

「行くぞ、由梨音」

「あ、はい!」

最初は咄嗟の事にその後ろ姿を眺めていた由梨音だが、いつもの赤城の声に返事をすると、赤城の横に並んだ。

まだ終わらない、終われない、どれだけ遅くても進み続けるしかない。

全てを確かめるまでは。

正式名MFE-アストロス・ナイト (Saviors製)

全長-20m 機体色-黒灰色 動力源-光学電子磁鉱石

Saviorsが開発した『3大神機』の1機。

装着している甲冑と兜により騎士の姿をしており、右手には剣、左手には盾を装備している。

剣は片手剣ながらLRB以上の威力を誇り、盾は驚異的な硬さと電磁波を放つ事が出来、背部には超距離兵器をも兼ね備えている。

その性能は著しく、近距離から遠距離まで幅広く戦える為に弱点が無い。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ