第63話 戯れる、妖精
廃墟と化した町では現在NFとBNが手を組み、周りのERRORと戦いながら最後の避難所へと向かっている途中、新種のERRORの出現により、その戦いは更に過酷な戦いへと化していた。
『避難所が見えてきました、全機、避難所及び民間人を守りますよ!』
避難所の周りに友軍機の機体の姿は無い、だがこの避難所だけは普通の避難所とは違っていた、対ERROR専用の厚い防壁が周りを囲むドーム型の建物。
クロノの声に羅威達が避難所と戦艦の四方を囲み、周りから向かってくるERRORの対処を行なう。
避難所の入り口を艦を止める、だが避難所の入り口は一向に開かない。
不審に思った赤城はすぐさまその避難所に通信を試みると、すんなりと通信は繋がり、モニターに兵士の姿が映しだされた。
「こちら第五独立機動部隊隊長赤城、現在入り口に艦を止めてある。すぐに避難を……!」
『その必要は無いのだよ、赤城少佐』
兵士の横から一人の士官が現れる、それは東部軍事基地に勤めていた士官の姿だった。
そしてモニターの光景が変わると、ある一室に何人もの東部軍事基地の士官が集まっていた。
「な、何故東部軍事基地の士官の方々が……?」
『ERRORのいる基地から脱出した後このシェルターに避難していたのだ。するとどうかね、町中にERRORが現れおった。運が良かったよ、このシェルターは核にも耐えられる強度を持つ、ERRORの攻撃等ではビクともしないからな』
「そんな……兵士達がERRORと戦っている最中、あなた方は安全な場所に隠れていたのですか?!NFの士官だというのに!」
ここで赤城は悟った、この避難所は民間の避難所ではなく、上層部人間専用の避難所だという事を。
部屋を見ればそれらしき人物が多く窺える。兵士達は戦い死に、民間人が殺されていく中、ここにいる人達は安全な場所で過ごしていたという事を知った赤城は操縦桿を握る手に無意識に力が入っていた。
『失礼だね、君は。我々上層部の人間の身に何かあったらどうするつもりだ、危なくなれば安全な場所へ向かうのは当然の事ではないのか?』
「兵士達は命を懸けて戦っていた!」
『当たり前だ、それが兵士だ。全く、上官に口答えした挙句、BNと手を組む等とNFに泥を塗る行為をするとは……貴様等の処分はこの戦闘が終わった後すぐにしてやろう』
唇を噛み締める赤城、これ以上何を言おうと、彼等の考え方は変わらないだろう。
説明した所でそれは無意味だという事も、赤城はわかっていた。
『何だその目は。もう既に本部から救援が来ている、そこで我々は助けてもらう事にする、お前達はBNと共にこの町を脱出した後、隙をついてあの新型機を破壊して来るのだ、いいな?これは命令だ』
今度は耳を疑うような発言を聞いた赤城は信じられないような顔をしたままモニターを見つめていた、この後の及んでそんな発言が出来る上層部の人間に神経が赤城には理解できなかった。
無言で通信の電源を切る赤城、背もたれにゆっくりともたれ掛かると、赤城は誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。
「武蔵……私には、無理だっ……」
───「赤城少佐!ERRORの数が増しています!私達も早く脱出しないと!」
由梨音の声に赤城は素早く操縦桿を握る、ここは戦場、気を許せば一瞬で『死』がやってくる。
「NF、及びBNの兵士に告ぐ。全機艦を護衛しながら戦線離脱し、町から脱出するぞ」
『待ってください、ここの避難所はまだ……』
「心配無い、このシェルターは簡単には突破されない代物、それに既に町には援軍が到着している。我々が今しなければならない事は艦にいる民間人を一刻も早く安全な場所に避難させる事だ」
赤城がクロノにそう言っていると、上空をNFの戦闘機が通過していく、既に援軍はこの町に行き着いていた。
戦闘機から落とされる爆弾で町周辺にいるERRORは次々に破壊されていくが、それはあくまでも旧型のERRORだけだった、機体の身を包むERRORは戦闘機が上空にいるをのを確認すると、一斉に空に向けて射撃を開始し始める。
町の至る所からの弾幕に、次々に落とされていく戦闘機。その隙にBNは艦を後退させ町から脱出しようとしていたが、神威だけはその場から動こうとしなかった。
『皆は先に脱出していてくれ、俺はここ残る』
羅威からの通信は部隊の人間全員に繋がされている、当然クロノがそれを止めようとしたが、穿真の乗るエンドミルもその場から動こうとしなかった。
『俺も残るぜ、羅威に力を貸すって言ったし。艦はNFの援軍と擦れ違うように脱出すれば大丈夫だろうしな』
『二人とも指示に従ってください!僕達のやるべき事は既に終わりました、後は安全な場所に艦を移動させるだけです!』
クロノは二人に呼びかけるが、相変わらず二体の機体は動こうとしない。
その間に戦艦は脱出を開始しており、話している内に町の中心部から離れていく。
『すまないクロノ、俺のやるべき事はまだ終わっていない』
羅威はそう言って通信を切ろうとすると、クロノの乗る黒葉花が神威の横に降り立つ。
『言っても動かないのなら。僕もここに残ります、二人を残していく訳にはいきませんからね』
『おいおい、それじゃあお前自身命令違反してるじゃねえか』
穿真の鋭い指摘に小さく笑ってしまうクロノと羅威、だがその三人に香澄から激が飛んだ。
『何を言ってるのですかクロノ隊長!NFの部隊と私と雪音だけで艦を護衛しろと言うのですか!?』
『うん、そうだよ。……自信が無いのかい?』
クロノの冷静な言葉に唇を噛み締める思いの香澄、睨むように見つめあったまま香澄はゆっくりと頷いた。
『いえ、あります。それでは三人とも、ご無事で』
無線が切られると、戦艦は更に加速して町の中心部から離れていく。
『香澄……ごめんね』
クロノがそう呟くと、今度は赤城と通信が繋がる。
「私だ、NFの援軍と私達の部隊が艦の護衛に回っている。恐らく無事この町から出られるはずだ」
赤城の言う通り、先程まで艦を護衛していたNFの兵士達は全て艦の護衛に回っていた。
だが赤城だけはこの場に残っている、当然由梨音も残ろうとしたが赤城の命令により艦の護衛に向かっている。
『ありがとうございます、しかし何故あなたはここに残っているのですか?』
「大切な仲間を……救う為だ」
赤城が一言告げた瞬間、高層ビルを破壊しながら1機の機体がど派手に吹き飛ばされて来る。
「痛ってて、やっぱキツイな~」
機体の特徴から見て吹き飛ばされた機体は甲斐斗の乗るMD、赤城の乗る赤いリバインはすぐさまMDの元へ駆け寄ると、倒れた機体を起こし始める。
「甲斐斗、大丈夫か?」
「おお、赤城か、すまねえな。あ、無事に民間人は避難させたか?」
「全ての民間人を助ける事は出来なかったが、助けられる範囲の人達だけはなんとかな」
「そうか、それなら早くお前もここから離れろ」
起き上がったMDは地面に突き刺さる黒剣を引き抜くと、それを両手で構え始める。
「それは出来ない、私はレンを助けるまでは……っ!?」
轟音と共に町全体に巨大な亀裂が走っていく、その大きな亀裂は根のように辺りに広がり始めると、瞬く間に触手が伸び始める。
そして町の中心部建てられていた高層ビルが次々に倒壊していくと、煙の中から一体の巨大なERRORが影が見えた。
「そんな、馬鹿な……」
信じられないような光景に赤城が目を丸くする、赤城だけではない、増援に来たNFの兵士、そして羅威達もそのように見ていた。
煙が薄れていくと、段々と見え始めるERRORの姿。全高は軽く200mを超えているだろう、下半身は植物のように地面から生えておりそれは町全体に広がっている、胴体は機体の装甲と血肉で固められ、異常に大きな両肩には目玉のような巨大なレンズが付いている。
そしてそのERRORの頭部と胸部は、あの玲が乗っていたフェリアルに似ていた。
『な、なんだあの化物は……でかすぎだろ……』
穿真が呆気にとられていると、NFの増援部隊が一斉にその巨大なERRORに向けて攻撃を開始し始める。
だがERRORの地面から無数の触手が伸び始めると、次々に銃弾や砲撃の盾となり防いでいく。
盾代わりにされた触手は崩れ落ちるが、次々に地面からた新たな触手が伸び始め、近づく機体は次々に触手に貫かれると巨大なERRORの肉体に取り込まれていく。
ERRORの攻撃はこれだけではない、背部から数多のフェアリーが放たれると、一斉にNFの増援部隊に攻撃を開始した。
四方八方からの全発射攻撃の前にギフツやリバインは成すすべも無く破壊され、上空を飛ぶ戦闘機も撃ち落されていく。
フェアリーの数、そして触手の数は尋常な数ではなかった、更に巨大なERRORの肉体からは砲身
や銃口が現れると、次々に弾丸を発射していき、弾幕を張り続け始める。
更にERRORの両肩に付いてあるレンズが光を帯びた粒子を放ちだすと、一発の高出力レーザーが遥か遠くにいるNFの艦隊の列を貫く。
戦艦の列は一瞬で溶かされると、周りの機体を巻き込む程巨大な爆発を起こし一気に壊滅していく。
その光景を見ていた赤城が声を上げた、レンズの照準が町から離れていくBNの艦に向いたからだ。
クロノ達がそれに気付き、艦に連絡を入れようとした時、誰もが息を呑んだ。
照準は固定され、眩しい光と共に一発のレーザーがレンズから放たれた。
『香澄!雪音!今すぐ艦から離れるんだッ!』
クロノの声は届かなかった、二人は突然迫ってくる眩しい光が何を意味するのかわかっていない。
その光の意味に気付いた時には、既に目の前にまで迫っていた。
───『─SRC発動─』
その機体の前に現れる1機の白い機体、巨大な右腕を盾にレーザーを弾き防ぐと、力強くその場に着地した。
『あの機体、まさか……愁?』
羅威が言葉を漏らすと、その名前に穿真とクロノが反応を見せた。
『はぁっ!?羅威!てめぇ今なんて言った?!』
たしかに聞こえたその名前をもう一度聞こうとした時、目の前のモニターに愁の姿が映し出される。
「こちらはSV親衛隊隊長、魅剣愁。これよりNF、及びBNと共同戦線を組み、戦闘を開始します」
堂々としたその態度に穿真達は言葉が出せない、赤城は通信を繋ぐと愁の姿を見て確認した。
「艦を守ってくれた事に感謝する、しかし何故SVがここに……?」
すると今度は愁ではなく、葵とエコの姿がモニターに映し出される。
「偶々近くを通りかかったんだ、そしたらNFから救援信号が出ててな」
葵とエコが赤城と話している間に、愁は羅威と通信を繋いでいた。
悲しげな目をしている愁とは対象に、睨みつける羅威。
「羅威、今は協力しなければ、あのERRORを止める事は出来ないよ」
『黙れ、玲や彩野を苦しめたお前を、俺は絶対に許さない』
「彩野は兵士、君の妹も兵士、そして戦場に出ていた、だから殺された、それだけの事だよ」
『お前ッ……だが玲はまだ死んでいない、玲はまだあの中で生きている。そして俺が必ず助け出す』
「……それでERRORが止まるのなら、俺も協力するよ」
二人が会話をしている途中、突如モニターに穿真とクロノの姿が映し出される。
『お、おい!愁!どうしてお前がそんなもんに乗ってやがる!?どうしてお前が!?』
「久しぶりだね、穿真。俺がSVにいる理由は紳にでも聞いて、それじゃ」
そう告げると勝手に通信を切る愁、穿真は切れているにも関わらず愁に話しかけていた。
『ちょ、俺の聞きたい事はまだ終わってないぞ!おいッ!……くそっ、勝手に通信を切りやがって……』
『穿真、奴はもう俺達の知っている愁じゃない。気をつけろ』
羅威はそう言うと神威を走らせようとした時、その神威の前にMDが上から現れた。
そしてMDから今戦場にいる赤城とBN、SV全機に通信を繋げられる。
「逃げるなら今の内だぜ、マジでお前等あんな化物と戦う気か?」
甲斐斗の言葉に全員が巨大なERRORを見つめる、周りには無数のフェアリーが飛び交い、地面からは触手が溢れている、そしてあの両肩のレンズがレーザーを放ち、次々に増援部隊を掻き消していく。そんな化物と、たった数機の機体で本当に戦うのかと、甲斐斗は皆に聞いていた。
───「今更怖気づいたのか甲斐斗。貴様らしくないな」
赤城はそう言うとリバインを走らせMDの横へと移動する、すると後方にいたSVの機体も横に並び始めた。
「ったく、肝っ玉小さい野郎だな。エコ、こんな奴の力借りなくてもやってやろうぜ」
「うん、わかってる」
するとエンドミルもその列に並び、二本の巨大なドリルを回転させ始めた。
「だから燃えるんだろ、なぁ羅威、クロノ。力を合わせてあのERRORを止めて、その後───」
「玲を助ける」
穿真の続くように羅威が口を開く、その眼に迷いは無い。
今すべき最優先事項は玲を助ける事、その為なら手段も選ばない。
「威勢は良いみたいだが、お前等あんなでか物を殺せるのか?」
甲斐斗の『殺す』という言葉に赤城と羅威が強く反応を見せると、二人が同時に全員に通信を繋げた。
「待て、奴を殺す前にレンの救出が先だ、まだ胸部にある操縦席にいるかもしれない」
赤城の言葉に続けて羅威が言葉を付け足す。
「ああ、玲を助けるまでは胸部に攻撃するな。攻撃した奴は俺が殺す」
羅威は本気だ、声と表情で全員が見てわかる。
だがあのERRORを倒すだけでも難しいというのに、その中にいる玲を助け出さなければならない。
無理難題の要求に等しい、現在の戦力から見てもそうだ、そもそもたった数機の機体だけでERRORの大群と戦う事だけでも厳しい。
二人の要求に甲斐斗が反対しようとした時、ミシェルの言葉が脳裏を過ぎった。
「やれやれ、お前達はお前達で好きにしろ。俺も好きに戦う、安心しな。胸部は狙わねえ、俺は奴の首を貰うだけだ」
「ふっ、それでこそお前だな」
そう言うと甲斐斗の乗るMDが発進し、赤城の乗る赤いリバインも続いて発進する。
「穿真、クロノ、俺達も行くぞッ!」
MDの後を追うように神威が発進すると、両サイドにエンドミルと黒葉花が並びERRORの元へ向かう。
「葵、エコ、俺達はBNとNFの援護に回り、機会を窺うよ」
「ああ、わかった。それじゃ、いっちょ行きますかぁッ!」
ライダーは鍵爪を光らせながら俊敏な脚力で建物の屋根を跳び越えていくが、愁の乗った機体は動かずその場に留まっていた。
「俺は力を授かった。強大な力、フィリオの為、世界の為に……突き進むしかない。行こう、アストロス・アギト。君の力を、正義の為に」
愁は一人呟くと、操縦桿を握り締め、勢い良く機体を発進させた。
───町中が激戦を迎える中、東部軍事基地の地下では機体の最終調整が行なわれていた。
「『羽衣』異常無し、最終調整完了……」
コクピットの電源が付き全てのモニターの電源が入っていく。
町で行なわれている戦闘が薄らとモニターに映る、無数の触手とフェアリーが次々にNFの増援部隊は破壊していく中、数機の機体が絶体絶命の中奮闘している。
その戦いの映像に煙草の煙が漂う、吸い終わった煙草は真横の灰皿に入れるとしっかりと蓋を閉める。
全ての準備は整った、機体はゆっくりと動き出すと、地下から地上へ続く出口が開かれる。
「待ってて、レンちゃん」
神楽の一言でゆっくりと浮上していく『羽衣』。
その巨大で美しい天使のような姿とは裏腹に、恐るべき力を秘める悪魔。
全ては誰の為に、羽衣は計画の為に、彼の為に、全て。
「今、楽にしてあげるから」
正式名MFE-アストロス・アギト (Saviors製)
全長-21m 機体色-白 動力源-光学電子魔石
搭載されているSaviorsの最先端技術を兼ね備えた最強の次世代機。
『3大神機』ではないものの、Saviorsで一番の性能を誇る。
右腕に『砕く拳』、左腕に『貫く拳』を付けており、相手や状況によってその能力を使い分ける事が可能。
機体の性能も大幅向上し、装甲の耐久度も格段に上がっている為、単機決戦が可能。
SRC機能で近接戦には非常に優れている反面、遠距離兵器をもっていない為に遠距離戦は不向きのはずだが、圧倒的な出力を持っている為遠く離れていた敵にもすぐさま近づく事が出来る。