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第62話 肉、蠢き

「お、起きたか。羅威、体の調子はどうだ?」

目を覚ました羅威は声の方に首を傾けると、すぐそこに穿真が立っていた。

羅威はとある一室のベッドで寝ているのに気付き、無事戦艦に戻ってきた事を確認する。

「すまねえな、お前を連れて戻る時つい殴っちまって……」

「いや、ありがとう穿真。助かったよ」

軽く礼を述べた後、穿真はすぐさまベッドから下りる。

そして壁に掛けられていた上着を羽織ると、すぐさま部屋から出て行こうとしたが、その羅威の目の前には穿真が立ちはだかった。

「通してくれないか?」

「残念ながらそりゃ無理だ、命令違反を犯したお前を監禁しておかなくちゃならないからな」

非常時とはいえ、あの行動は明らかに命令違反、皆を危険にさらしてしまった事には変わりない。

その為羅威には罰則が科せられ、今は監禁処分をくらっている。

「なら教えてくれ、この後俺達は何処に行く」

「作戦は失敗した、だから一度紳達の元に戻る事になってる」

穿真の失敗という言葉に反応した羅威はやや目を細くし、睨むように穿真の顔を見つめる。

「失敗?玲まだ死んでないぞ」

「羅威、わかってくれ。あれはもうお前の妹じゃ……」

「黙れッ!誰が何と言おうと玲は俺の妹だ!意識だってまだあったんだ、救う事は出来るはずだ!」

恐らく、今の羅威に何を言っても無駄なのかもしれない。

穿真は思っていた、羅威も本当は現実を理解している、だがその現実を認めたくないのだと。

必死に強気で睨んでいる羅威の目を見たらわかる、その奥で隠そうとしている悲痛を。

その時、突如艦内に警報が鳴り響き警報ランプが点滅し始めた。

「っと、どうやら何かあったみたいだな。それじゃ俺は行ってくるぜ」

振り返った穿真はそのまま扉を開け、部屋の外で出て行こうとした時、羅威達のいる部屋の扉が開くと、そこにはクロノが立っていた。

「緊急事態です、穿真、羅威。来てください」

「なに?……俺も部屋から出てもいいのか?」

「それは、来てもらえればわかります」

穿真と羅威はクロノの異様な雰囲気に疑問を持ちつつ、三人で艦の司令室に向かった。

司令室に入ると、何やら兵士達が慌しく作業をしており、皆落ち着きが無い。

そしてその中央には香澄と雪音、そして艦長が三人を待っていた。

「随分と慌しいが、何かあったのか?」

穿真は回りを見渡すと、ふとあるレーダーが目に止まり足を止めた。

「おい、あれ壊れてないか?画面が真っ赤だぜ?」

一部の区域の映し出しているレーダーには赤いERRORの反応で埋め尽くされている。

しかしそこは東部軍事基地の近くにある大都市からだった。

さっきまでERRORの反応等全く無かったNFの大都市が赤一色で埋め尽くされている事に穿真は、いや、誰もが故障と思っただろう。

「壊れてない……至って正常だよ」

クロノはそう言うと機械の装置を押し、一つの巨大なモニターにある光景を映した。

大都市を囲ってある大きな壁で地上までは見えなかったものの、大都市の所々から煙があがっている。

そして更にその光景を拡大すると、壁や立ち並ぶ高層ビルには無数のPerson態が張り付いていた。

一匹のPerson態が手を伸ばし、窓ガラスを突き破ると、そこにいた民間人を捕まえすぐさま喰い千切る。

そして窓ガラスを突き破り、ビルの中に次々にPerson態が入っていく。

「信じられないと思うけど、これは今現実で起こっています」

クロノはそう言うと、違う画面に切り替わる。

羅威も穿真も、その場にいた兵士達もそのモニターを見て硬直していた。

NFの取材陣だろう、ヘリコプターに乗って町の状況を映していた。

『大変な事が起きています!現在東部地区の大都市でERRORが出現し、次々に一般市民を襲っています!』

女性レポーターがマイクを片手にヘリから町の状況を伝えていた、カメラはズームをし、ERRORから逃げ惑う人々を映している。

誰が想像しただろうか、いつものように平凡な毎日を過ごそうとしていたというのに、突然死ぬか生きるかの極限状態に追い込まれる事を。

スーツを着たサラリーマン、乳母車を押している母親、タクシーに乗っている運転手。

彼らは必死に逃げようと町を走り回るが、Person態は次々に市民を捕まえると、強力な頤で人体を噛み砕いていく。

辺りに肉片と血液が飛び散り、道路や建物を赤く染めていく。

逃げている最中にも嫌でも目に飛び込んでくる光景、体を千切られにゅるりと出てくる内臓を見た人は嘔吐し走れなくなり、また怪我人を助けに行けば簡単にERRORに捕まえられ食い千切られる。

そこに警察はいた、だが警察がいた所でどうなる。

警官が現在の状況を報告していると、入り口からHuman態が中へと入り、豪腕で警官を千切り殺していく。

拳銃を発砲した所でERRORが死ぬ訳が無い、警官もただただその場から逃げるしかなかった。

車で逃げようと必死になると、目の前の人間なんて見えやしない、後ろからは今にも自分を殺しにくる化物がいる。

そう思うとアクセルを踏み込み、邪魔な物や人を簡単に跳ね飛ばして走っていく。

発狂と奇声、そしてERRORの呻き声、肉が千切られる音や肉片が地面に落ちる音、血の匂い。

そこは地獄と言っても過言ではない所になっていた。

「僕達のするべき事は一つ、わかりますね」

クロノがそう言うと、皆もわかったかのようにクロノを見つめた。

「NFの人達を助けに行きましょう!」

雪音の言葉にその場にいた兵士達が頷く、BNは人類を守る為の組織、ERRORは人類の敵。

だとすればなすべき事は一つ、今ERRORに襲われている人達を助ける事だった。

「皆さん、今すぐ町に向かい。一人でも多くの民間人を救いに行きます」

クロノはそう言うと司令室から出て行こうとする、その後ろには香澄と雪音、そして穿真と羅威も続いていく。

すると穿真は横で走っている羅威に声をかけた。

「おい羅威、今のお前にNFを許す事は、救う事は……出来るのか?」

「……わからない。だが今、罪も無い一般市民を見殺しにする事は出来ない」

その羅威の言葉を聞いた穿真は小さく笑みを見せると、安心したように表情が和らぐ。

「そうか、んじゃ行こうぜ」


───BNが出撃準備に入り、艦から機体が飛びたつ時、既に東部軍事基地のNFの兵士達は大都市に到着していた。

赤城は既にパーツ交換済みの塗装された赤いリバインに乗り込み、市街地に到着すると民間人を襲っているERRORを次々に排除していく。

「この町がERRORに……くそっ!こんな時に!」

穴の開いた地面から湧き出るPerson態を射撃していくリバイン、するとその赤城の乗るリバインの横に一機のギフツが並んだ。

「赤城少佐!無事だったんですね!」

懐かしさを感じる声から通信が届いたと思うと、モニターに由梨音の姿が映る。

「由梨音!?お前も無事だったのか!」

「はい、私は気を失ってたらしくて医務室にずっといたんです」

「そうか、そうだったのか……体調は大丈夫なのか?」

「大丈夫です!私も戦えます!」

由梨音の乗るギフツが腰に付いている手榴弾を手に取ると、それをPerson態の湧き出る穴に放り込む。

爆発と共に穴の中に土や瓦礫が埋もれていき、穴を塞いでいく。

赤城がそれを確認していると、通信機から他の部隊との通信が入ってきた。

『こちら第六機動独立部隊、現在D地区の民間人を学校に避難させていますがERRORの数が多く思うようにすすまない!援軍を頼む……!』

「由梨音、聞いたな?今すぐD地区へと向かうぞ!」

「了解!」

D地区へと向かう赤城と由梨音、学校付近に到着すると、兵士が民間人を誘導し学校へと案内していた。

幸いにもここの学校にはERRORの出現する穴は開いておらず、付近にもERRORが湧き出る穴が存在していない。

だがPerson態は周りから次々と人々のいる学校へと向かっていた。

その学校の周りでは1機のリバインと、4機のギフツがERRORと応戦していた。

赤城と由梨音もすぐさま加わると、周りから押し寄せてくるERRORを次々に銃で撃ち抜いていく。

そして第6機動独立部隊と通信を繋ぎ、現在の状況を互いに確認しあう。

「赤城少佐、現在この学校には数千人もの民間人が避難している。他にも他の学校や避難所にはそれ以上の民間人が避難を済ましている。だが余りにも兵士の数が少ない、このままでは持たなくなる、その前に増援、あるいは町から民間人を非難させなければならない」

「把握した、増援は間もなく到着する。今は我々だけでこの場を持ちこたえなくてはならない、全機学校を囲みERRORの侵入を防ぐぞ」

学校の敷地に入ろうとPerson態が同じPerson態の死体の山を越えながら次々に進んでくる。

機体で応戦し、学校のグラウンドには戦車が待機し、銃を持った兵士達も応戦していた。



───ある日突然町が地獄と化すなど、空想じみており、現実起こる事は無いと思っていた、だが今現実でそれは起きている。

平和は退屈だ、何か事件でも起きないか、等と抜かす馬鹿供は、自分が地獄に立たされた時、初めて身を持って平和の大切さ、そして尊さを知る。

そして民間人はまだ多く逃げ遅れている、残っている、この町に安全な場所等どこにもないというのに。

赤城達が守る避難所の学校とはまた別の避難所では別の部隊の兵士達がERRORから民間人を守っていた。

「先生ぇ……お母さんと、お父さんが……」

その避難所の学校の体育館には子供から大人まで沢山集まっている。

授業を受けていたおかげで学校に避難する事が出来たが、その子供たちの両親がまだ学校に来ていない。

不安な気持ちを紛らわせようと学校の先生達は必死に子供達を慰めていた。

「大丈夫、私達には神様のご加護があります。それに軍の方々も来ています」

「祈りましょう、私達に出来る事はそれだけです」

複数の大人達はそう言うと、両手を合わせ天に祈り始める。

それを見ていた子供達も震える手で両手を合わせると、大人達と同じように祈り始めた。

この状況下でこれ程冷静にしていられるのも異様に見えて仕方が無いが、たしかに民間人はただ祈る事しか出来ない。

だがその時、学校が突然揺れ始めると轟音と共に体育館の中央に巨大な穴が開いた。

驚きと衝撃で声が出ず、その場にいた人達は固まったままその穴を見ている。

一人の男が恐る恐るその穴の中を覗こうと近づいた時、一本の赤い手が穴から伸び、その男の頭を掴むと一瞬で握りつぶした。

そして、体育館に開いた穴から一匹のPerson態が這い上がってきた。

目が無いというのに周りを見渡し、人間がいるのを確認している。

そして大きな口で笑みを見せると、次々に穴からPerson態、Human態が這い上がり始めた。

人々は奇声と悲鳴を上げながら逃げ始める、だが諦めたのか、ERRORが来ているにも関わらず祈りを止めない者もいた。

既に避難所の壁や床はERRORに殺されていく人間の血で汚れている、小さな子供達でさえERRORは容赦無く千切り殺し、喰っていく。

手を繋いでいた親子がERRORに殺される。一瞬にしてERRORに囲まれ体を引き千切られていく家族、運よく避難所の外に出られたとしても、何処に逃げる?

周りを見れば次々にERRORが押し寄せており、頼みの軍人も校内のERRORに殺されている。

そして避難所の周りで戦っていたNFの機体にはPerson態が張り付き目の前に倒れていた。

もう誰も自分を助ける人はいない、ただ死を待つだけ。それ以外何もする事は出来ない。

絶望の中後ろを振り向く、最後に見た光景は、笑いながら手を伸ばしてくるERRORの姿だった。



───「赤城隊長!大変です!B地区の避難所にERRORが、あっでも、もう……!」

由梨音の声に赤城がB地区の避難所にレーダーを合わせた時、既にレーダーの範囲内には赤い点滅しか残っていなかった。

人間の反応も機体の反応も何処にもない、だがそれは一箇所の避難所だけではなかった。

人々が集まっている避難所に次々に現れ始めるERROR、もはや安全な場所等この町にはない。

そして赤城達が守る避難所の周りにはよりいっそうERRORの数が増し、もはや突破されるのも時間の問題となっていた。

「援軍はまだか!?くっ、このままではこの避難所までが……!」

『は、離れろッ!この化物がぁあああ!!』

その声に赤城が横を向くと、無数のPerson態がギフツに張り付き、装甲を溶かし、噛み砕いている。

すぐさま助けようとしたが前方から押し寄せるERRORを対処する為に助けに行く事が出来ない。

仲間が死ぬのを横目で見ながら避難所に迫り来るERRORを撃ち抜いて行く事しか今の赤城にはできなかった。

「赤城少佐!このままではこの場所もERRORに……どうしたらいいんですか!?」

残りの弾も僅かになり、援軍が来る様子も無い、だが限りなく湧き続けるERRORを殺していく事しか出来ない今、避難所にいる民間人を助ける方法はそれしかない。

「由梨音!諦めずにERRORへの攻撃を続けるんだ!今の我々にはそうする他無い!」

「でもこのままじゃERRORに突破されるのも時間の問題です!私達だって既にERRORに囲まれているんですよ!」

赤城達が逃げる道も既に残されていない、避難所を中心に四方をERRORに囲まれている為その場から離れる事が出来ない状況だった。

その時、一匹のPerson態が激しい弾幕の中をすり抜け避難所へと突き進んでいた。

「いかん!あのERRORを誰か止めろ!避難所に向かわせるなッ!」

赤城が他の部隊の兵士にそう命令するものの、兵士達は向かい来るERRORの対処に追われ避難所に向かっているERRORを殺す事が出来ない。

そして避難所の入り口に指しかかった時、一発の青い閃光がPerson態を貫く。

『こちらBNの独立部隊、第壱部隊隊長のクロノ・ウェイカーです、緊急事態の為これよりNFに加勢させてもらいます』

その場にいたNF機に聞こえてくるクロノの声、すると地面から一機の機体が現れると、その二本の巨大なドリルで周りのERRORを一気に蹴散らしていく、更に上空からは雷鳴と共に黄金の機体が波の様に押し寄せるERRORの前に降り立つと、機体の両手を前方に向ける。

青白い強力なプラズマを手に纏わせ、押し寄せるERRORに向けて放出すると次々にERRORの肉体が破裂していく。

「赤城少佐!BNの部隊が私達を助けてくれてます!」

「ああ、まさかBNがここで援軍として現れるとは……」

赤城達の会話の中、BNの戦艦がERRORに吹き飛ばしながら突き進んでくると、避難所の前で停止する。

『民間人を全員戦艦に避難させて下さい、ここはもう危険です!』

そのクロノの通信に応答する赤城、互いの姿がモニターに映し出された。

「こちら第五独立機動部隊隊長の赤城だ、救援感謝する。NFの各機に告ぐ、民間人の避難を最優先とし、避難が終わるまでこの場を持ちこたえるんだ」

艦にいたBNの兵士がNFの民間人を誘導し、次々に艦へと避難させていく中、その周りではNF、BNの機体が一匹たりともERRORを近づけさせない。

艦の上には雪音、香澄の乗る我雲も付いており、更にはBNの最新型の機体が3機もいる為に十分な戦力となっていた。

だがその中の1機、神威だけは何か様子がおかしい、周りを見渡し何かを探しているように見える。

それを見ていた穿真はすかさず羅威と通信を繋げた。

『羅威、今は戦闘に集中しろよ?妹の事もわかるが今は……』

その時、1機の機体が上空から落ちてくると、地面に叩きつけられその場に轟音が響く。

落ちてきた機体を見て羅威の目の色が変わる。見た目に若干変化は合ったが、あの時玲が乗っていた機体と似ていたからだった。

その機体は急いでその場から立ち上がると、一気に加速して後退する、その次の瞬間にはあの甲斐斗の乗る黒い機体『MD』が下りてくると、剣を地面へと突き刺した。

間一髪甲斐斗の攻撃を避けた機体、無数のフェアリーを飛ばし甲斐斗を攻撃するが、その攻撃を次々に交わしていく甲斐斗は剣を振り上げ機体へと飛びかかる。

『あの機体は……!止めろ甲斐斗!玲に手を出すなッ!』

神威が両手にプラズマを纏わせると、機体を加速させ甲斐斗の機体に飛びかかる。

その動きに気付いたMDは剣を盾にすると神威の拳を防ぎ、態勢を立て直す。

「その声は羅威か、何俺の邪魔してくれてんだよ。後少しで破壊できたのに」

『甲斐斗、あの機体に乗っているのは玲なんだろ?』

「いいや、あの機体に乗ってんのはERRORだ、お前の妹じゃ───」

甲斐斗が次の言葉を出そうとした時、突然フェリアルとの通信が繋がる、だがそれは甲斐斗の機体だけではなく、羅威の機体にも繋がっていた。

モニターに映し出される一人の少女、体は血塗れのシーツで覆われ、顔はじっとこちらを向いたまま動かない。

『玲ッ!?俺だ、羅威だ!わかるか?!』

羅威の言葉に虚ろな目のまま玲は小さく頷いてみせると、ゆっくりと小声で呟いた。

「うん、お兄ちゃん……」

その言葉に羅威の強張っていた顔が少し緩んだ、まだ助け出せる可能性があると感じたからだ。

『よし、玲。今すぐ俺が助け出してやるからな。大丈夫、必ず助けて───』

『残念だけど、それは無理よ』

割ってはいるかのように強制的に繋がれた通信、一人の女性の声と共に、その姿が映し出された。

「お姉ちゃん……」

そこに神楽はいた、背景は薄暗い研究所の室内が見え、白衣に身を包んだ神楽の姿が。

『レンちゃんの肉体は既に細胞までERRORに侵食されてるの、もう人間には戻れないわよ』

『何故それを……まさか、お前が玲を……?』

『ええ、私がレンちゃんにERRORの細胞を投与したのよ』

神楽の素っ気無い返事に表情が強張る羅威、操縦桿を握る手が怒りで小さく震えだしていた。

『嘘……だろ……?お前、玲に何したのかわかってんのか……ッ!?』

例え偽りの姉妹とは言え、玲は神楽を頼り、信頼していた。

それだというのに神楽は玲にERRORの細胞を投与した、それがどれ程危険な物なわかっているのに。

「待って、お兄ちゃん。お姉ちゃんは……わるく……な……ぃ」

玲は羅威を止めようと声を掛けたが、突然痛みに耐えるかのように顔を歪ませ、俯いてしまう。

「痛い……痛い、痛い痛い痛い痛い痛ぃいいぃいいいッ!!」

狂ったように痛いと連呼する玲に動揺が隠せない羅威、だが神楽の顔色一つ変えずじっと玲の様子を見つめていた。

『玲!?しっかりしろ!玲!』

「嫌ぁああああああああああッ!」

羅威の必死の呼びかけは玲には聞こえない、聞こえてくるのは自分の体の肉が千切れ、骨が砕けていく音だけだった。

叫び声が聞こえたと思うと通信が途切れモニターから玲の姿が消える。

通信を繋ぎなおそうとするが繋がらない、レーダーを見るとフェリアルの反応が有るをの確認した羅威はすぐさま神威をフェリアルの元へと走らせる。

神威が到着したものの、そこにフェリアルの姿はどこにも無い、いるのは一匹のERRORだった。

そのERRROは体内から触手を出すと、機体の残骸やERRORの死骸を突き刺し自分の肉体に次々に寄せ集めていく、そしてその集められた残骸と死骸は次々にフェリアルに取り込まれていく。

取り込んでいくたびに触手の数は更に増し、目まぐるしい程の早さで機体の大きさは元の数倍に達そうとしていた。


───フェリアルから伸びる触手が神威に巻きつこうとした時、穿真の乗るエンドミルが両手のドリルを使い無数に伸びてくる触手を蹴散らしていく。

『何ボサっとしてんだ羅威!死にてえのかッ!?』

『っ!?……すまない、だが玲があの中に……』

『今は民間人の救出が先だッ!ERRORの湧きが止まった今、一刻も早く避難させねえとならねえだろ!その後玲を助ければいい!俺も後でお前に力を貸す、だから今は俺に力を貸せッ!』

『……ああ、わかった』

穿真の気迫に促された羅威は操縦桿を素早く動かし近づいてくる触手をプラズマを帯びた両手で振り払い、未だ大きさを増していくフェリアルから離れていった。


───その頃、数箇所の避難所で民間人を乗せたBNの戦艦は最後の避難所に向かっていた。

クロノは避難所に向かう間に赤城と通信を行い、民間人救出後の事を話し合っている。

『町の避難を済ませた後、僕達は一時町から距離を取り安全な場所へと向かいます』

「わかった。それともうじきNFの増援がここに到着するが、既に連絡は取り合いBNの事も伝えておいた。警戒する必要は無い」

赤城がクロノと会話をしていると、前方から数機のギフツが此方に近づいてきているのが見える。

BNと一緒に行動している訳を赤城が話そうと通信を繋ごうとした時、突如前方から向かってくる数機のギフツが銃を構えると、こちらに銃口を向け始めて発砲し始めた。

ギフツの攻撃を素早く交わすリバインと黒葉花、だがその銃弾は民間人を乗せた戦艦へ向かっていた。

そこにすかさず穿真のエンドミルが現れると、全ての銃弾をドリルで弾き戦艦を守る。

『おい!さっさとNFの連中に伝えろ!俺達は今争ってる場合じゃねえって事を!』

「わかっている、だがこちらが呼びかけても応答が無いんだ!」

赤城がいくら呼びかけても応答が無く、ギフツは攻撃を止めようはしない。

するとエンドミルが両腕のドリルをギフツに向け発射し、攻撃してきた2機のギフツを破壊すると残る1機の元へ向かうと両腕のチェーンソーでギフツの胸部を貫く。

『穿真!?何をしているんだ、彼等はNFの兵士達だよ!』

『仕方無えだろ、言ってもわかんねえならこうするしか……っ!?』

胸部から抜き取ったチェンソーの歯には生々しい血が付いている、だが明らかに人間一人の血液の量ではなかった、穴の開いた胸部からは血と共に何本もの触手が伸びると、一瞬にしてエンドミルを巻きつこうとする。

すかさず両腕のチェーンソーで触手を切って行くが、ギフツはエンドミルの両肩を掴むと赤く目を光らせた。

「危ないッ!」

赤城がそう叫ぶとリバインはLRBを振り上げながら走り飛び、エンドミルの両肩を掴むギフツの両腕を斬り落とし、素早く腹部に蹴りを当ててギフツをその場から遠ざける。

蹴り飛ばされたギフツはそのまま空中で爆発すると、その破片が周囲の建物を破壊していった。

『な、何だ今のは!?突然触手が出てきて、しかも自爆しやがっただと!』

態勢を立て直しながら地面に着地すると同時に両手にドリルが戻る、そのドリルで破壊された機体も血を噴出しながら爆発していた。

「レーダーの反応を良く見ろ、あれは……ERRORだ」

赤城の声に各機体に乗っている人達がレーダーを見ると、自分の機体を中心とした赤い反応が囲むように次々に増えていく。

既に完全に囲まれていた、30を軽く超える赤い反応が戦艦とその周りの機体を中心にして集まって来ていたのだ。

その中にいる機体はギフツだけではない、BNの機体我雲や、SVの機体アストロス、そしてNFの機体リバインまでもが現れている。

機体は微かに原形を止めているものの、装甲の間や間接からは赤い肉と血管が見え、体の至る場所から触手が垂れ下がっていた。

『完全に囲まれていますね……羅威と穿真は戦艦の前方に、香澄と雪音は両サイドをお願いします』

「NFの各機に告ぐ、対ERROR戦ではない、各機シールドを装備しろ、無い者は艦からの後方支援に回れ」

クロノの指示に艦の近くに集まりだすBN機、赤城の命令に陣形を作り、追撃態勢をとり始めるNF機。

終わらない激戦、永遠と思われる程長い戦い、休む暇など無い。

その時まだ彼等は知らなかった、この戦いがまだ戦争の、惨劇の序盤に過ぎない事を。


───東部軍事基地第2地下研究所、そこでは白衣を来た神楽がモニターを通し戦場の様子を眺めていた。

一つのモニターには戦艦を中心に迫り来るERRORを倒していく光景。

もう一つのモニターには甲斐斗の乗るMDが何処かへ向かおうとしている光景。

そしてもう一つのモニターは……。

「あら、目覚めたようね。所で、そんな物で私をどうする気かしら」

神楽は振り向かずともわかった、自分の首元に刃物を突きつけられている事を。

紫色の長髪をした女性は小さな白いシーツを体に巻き、右手には銀色の光沢がするメスが握られている。

「私に、何をしたの?」

「あらあら、質問する人を間違えてるわよ、エリルちゃん」

その言葉にエリルは神楽の横に置かれてある機材をなぎ払うと、落ちた機材は音を立てて壊れその破片が二人の足元に散らばった。

「ふざけないで!私に何をしたの、教えなさいよ。教えないと……ッ!」

メスの刃先を首元から神楽に見える位置へと持っていく、そしてまた首元に突きつけると、エリルは神楽の返答を待った。

「大丈夫、私は貴方に何もしてないわよ。ただ精密検査をしただけ。そしたら興味深い結果が出てね……うふふ」

刃物を突きつけられているのに余裕の笑みを見せる神楽、その笑みの内容が気になるエリルは再び質問をした。

「検査結果って、私の体がどうかしたの……?」

エリルのその質問には素早く返答する神楽、笑みのまま後ろに振り向くと、怯えた様な目のエリルを見つめて口を開いた。

「貴方、一度死んでるわよ」

「えっ……?」

完全に動揺したエリル、それを狙ったかのように神楽はエリルの右手を掴むとねじ上げ、一瞬にしてメスを奪い取り、その刃先をエリルの顔に向けた。

「くっ!騙したのね!?」

動揺した顔から一変し、神楽を睨むエリル、それでも神楽は笑みを浮かべたままだった。

「騙してないわよ、貴方は一度死んでる。それは紛れも無い事実」

「証拠も無いのにデタラメな事言って、それで私が信じるとでも思ってるの!?」

「信じたじゃない、だから動揺したのよね」

神楽の言葉が胸に突き刺さる、たしかにあの言葉をエリルは信じてしまい、動揺してしまった。

「真実を知りたいなら、自分で聞きに行きなさい。彼の元にね……」

握っていたメスを机の上に置くと、神楽は部屋の隅にあるロッカーからパイロットスーツと私服を取り出す。

「彼は今本国にいるわよ。この奥の扉を開ければ車を用意してあるから、それに乗って地下通路を通れば空港へ行けるわよ」

「彼……ラースのことを知ってるんですか……?神楽さん。貴方はいったい……」

「知りたいんでしょ?大丈夫、今の貴方は軍人じゃない。軍に戻る前に、探しに行くといいわ」

必要な荷物を手渡され、しょうしょ困惑した様子のエリルだったが、渡された私服に着替え終わると、その扉の前に向かった。

「あの、ありがとうございます……でも一つだけ教えてください、敵の私にどうしてこのような事をしてくれたんですか?」

「人助けに理由なんているの?」

「え?えと。そういう事じゃなくて、その……」

困っている様子のエリルを見て神楽はまた小さく笑うと、そっと振り向きエリルに背を向けた。

「行きなさい、こんな所で時間を潰している暇は無いわよ」

そう言って煙草を取り出し、火を付ける神楽。その後ろ姿にもう一度頭を下げたエリルは扉を開けて通路を走っていった。

「その先にある真実は、救いか、苦しみか……それは自分次第」

神楽は灰皿に吸いかけの煙草を置くと、白衣を脱ぎ始める。その白衣脱ぎ終えると、既に彼女はパイロットスーツに身を包んで立っていた。

「私も、行かないとね」

正式名所Doll態 第六種(ERROR)

全長16〜25m

新しく確認された新種のERROR、その姿はDシリーズ(ギフツや我雲)の形に似ている。

機体の半分は血肉で覆われ、その血肉は人間の肉が使われており、

破棄された機体、あるいは破壊された機体を復元、再生して作られた生物と考えられている。

武装も従来のERRORとは異なり触手だけでなく、銃器や盾等を扱い、更には再生能力と自爆装置も備わっている。


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