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第59話 愛情、友情

部屋に付いてある警報が鳴っている、だからと言って焦る事も無い。戦争ばかりの世界に慣れちまったせいなのもしれない。

そんな事を考えながら俺は今部屋に付いてある警報装置の電源を切った。

後ろを振り向けば、すやすやと寝息を立てて寝ているミシェルがいる、さっきの警報で起きなくて良かった。あんなに安心して寝ているんだ、起こすのは気の毒すぎる。

……警報、恐らくBNか、ERRORのどちらかが出現したのだろう。

恐らく今のこの基地で敵の対処は出来ないな。あれだけ兵士を殺されたんだ、今攻められたらこの基地は終わるだろう。

だったらここから逃げた方が良いかもな……良いかもしれないけど、今は眠ろう。

俺は最近寝てないし、せっかく目の前にはベッドが有るんだ、これを使わないでどうする。

俺が眠りから目覚める時は、この基地が敵の手に落ちた時かもな……。


───「ん、あれ……ここは……?」

人気の無い医務室で目を覚ますレン、ゆっくりと起き上がるとベッドの側に赤城が立っていた。

「目を覚ましたか、レン」

「赤城隊長?えっ?え、と……私どうしてここに……」

「憶えてないのか?私と歩いている最中突然気を失ったんだ、きっと疲れが溜まっていたんだろう。体調の方はどうだ?」

「体調の方は大丈夫です、それで、あの」

レンが次の言葉を発しようとした時、病室を囲っていた白いカーテンが捲られ、外から神楽が入ってきた。

「レンちゃん大丈夫?頭とか痛くない?」

不安な様子のレンにそっと笑顔を見せる神楽、レンは小さく頷くとベッドから下りて見せた。

「は、はい。大丈夫です、痛くありません」

「そう、良かったわね……それじゃ二人とも。急で悪いんだけど出撃よ」

神楽はベッドの隣に置いてあった軍服を手に取ると、それをレンに手渡す。

手渡されたレンは直ちに軍服に着替えようとすると、その間赤城が現在の状況をレンに伝えた。

「先程からBNが東部軍事基地の西方にある指定区域を出入りしている、私達はそのBNを叩きに向かうぞ」

「はい、わかりました」

軍服に着替え終えたレンは赤城と共に素早く医務室から出て行く、その後ろ姿を神楽がじっと見つめているとも知らずに。

「さてと、後はあの子だけね……何処にいるのかしら」


───医務室を出た二人はすぐ近くのエレベーターに乗り、1階の機体が収納されている倉庫に向かおうとしていた。

エレベーターには誰も乗っておらず、赤城とレンは二人並ぶようにしてエレベーターに乗る。

そこでレンはふと口を開いた、さっき言いかけた事を言う為に。

「赤城隊長、甲斐斗さん知りませんか?私たしか甲斐斗さんと一緒にいた気がしたんですが……」

レンは横を向いて赤城の顔を見ると、一時の沈黙の後、赤城はふと顔をレンに向けた。

「誰だ、その男は」

1階に到着したエレベーターの扉がゆっくりと開いたが、赤城とレンの足は止まったまま、動かなかった。

レンが驚いた様子で赤城を見つめている、それに対し赤城もレンを睨むように見下ろしている。

だが、赤城はふと溜め息を吐くと、足を一歩踏み出しエレベーターから降りた。

「全く、さっき見ていた夢の話でもしているのか?今から機体に乗るんだ、しっかり頼むぞ」

「す、すいません……」

レンもエレベーターから降りると、すぐさま自分の機体まで走っていった。


───機体に乗り込んだレンは未だに疑問を抱いていた、自分が憶えている記憶。

気を失う前のおぼろげな記憶、ある一室に甲斐斗がいて、レンがいる。

レンは自分について色々と甲斐斗に話していた、記憶、思い出の事を。

その後甲斐斗が発した一人の名前、その名前を聞いた途端にレンの意識が消えた。

だがその記憶とは裏腹に、気を失う前は赤城と二人で色々と世間話をしながら歩いていた記憶が映りこんでくる。

二つの記憶が脳で交差し、どちらが本物の記憶なのかわからなく、瞬時に不安と恐怖で心一杯になろうとした時。

赤城から通信が入ってきた、エレベーターを降りた途端に顔色の悪いレンを心配していたのだ。

「本当に大丈夫か?無理なら遠慮せず休んでいて良いのだぞ」

「心配を掛けてすみません……でも大丈夫です、行けます!」

レンの機体は発進準備完了になり、勢い良く倉庫から発進していく。

それに合わせて赤城の乗るリバインも発進し、別の機動隊の機体も次々に発進して行った。


レン達が戦場に到着した時、既にギフツやリバインの残骸が辺りに散らばっていた。

レーダーには敵機の反応が1、その周りを味方の機体が囲んでいたが、次々に撃墜されていく。

「赤城隊長!味方機が何者かに狙撃されています!少なくとも3方向から攻撃が!」

「地形を利用した攻撃か、1機は上空、残りは山陰に隠れながらの狙撃か……見え透いた戦術だな」

赤城はすぐさま通信を切り替えると、別の部隊に指示を送る。

『第三独立部隊、及び第四独立部隊は山陰の敵を叩け、私達はレーダー内の敵を叩く』

『了解』

後方で待機していた部隊が狙撃してくる機体の方へと向かい、赤城とレンはレーダーに映る1機を目指し機体を走らせる。

そして現場に到着した二人が見た光景は予想を外れていた、恐らく敵の新型と思っていた二人だったが、そこに立っていたのは1機の我雲だけだった。

「所詮は誘導か、レン、さっさとこの機体を片付けるぞ」

リバインは背部に搭載されているアサルトライフルを手に取ると、我雲に照準を向けて引き金を引こうとした時、上空を含む三方からリバインに向けてレーザー及び銃弾が放たれる。

「なっ!?別の部隊は何をしている!早く奴等を……」

ふとレーダーに目を向ける赤城、しかしそこに友軍機の反応が一つしか無かった。

信じられないように目を大きくしている、レンも同様に目を丸くしていた。

数分前は十機以上いた友軍機が今では赤城とレンを含んで2機しかいないのだ。

「我々以外……全滅だと……っ!?」

レーダーに映る敵機の反応、それは地上からでも上空からでもない、地下からの反応だった。

赤城はその場から咄嗟に離れると、その場から勢い良く1機の機体が地下から飛び出してきた。

両手の巨大なドリルを回転させるその機体は、フェリアルとリバインの間に割り込むように立っている。

すると一斉に赤城の乗るリバインに集中砲火が始まる、3方からの狙撃、そして目の前の敵機に対しリバインが一旦距離をおく。その隙に囮の我雲はその場から後退していく。

「なるほどな、この機体に残りの部隊がやられたのか。レン、この機体は私に任せてお前は我雲を追え!」

「で、でも。それでは赤城隊長が……」

「私は大丈夫だ、こんな所で死にはしない。お前は我雲撃墜後に付近の敵機も破壊してくるんだ、いいな?」

「わかりました、赤城隊長、ご無事で……!」

フェリアルはリバインと敵の機体に背を向けると、逃げていく我雲の後を急いで追っていく。

その途端リバインを狙っていた集中砲火が消え、何処からも狙撃されなくなる。

リバインと敵機が互いに距離を置き、睨み合いが続いていると、突然リバインに通信が入ってくる。

しかしこれは友軍機からではなく、目の前に立っている敵機からだった。

『よう、久しぶりだな。俺の事憶えてるか?』

互いの姿がモニターに映る、穿真も赤城も、両者の姿を見ても特に驚く素振りは見せない。

「どこぞのBNの兵士か、通信を入れるとなると、私に何か用か?」

『用があるんだよ。にしても、お前を見てると右手が疼いて仕方無いな』

そう言うと穿真は誇らしげに自らの右手を見せ付ける。

「お前達の目的は何だ、何故今になってこの基地を攻める」

『先に言っておくぞ!BNには羅威っていう男がいるんだよ!その妹がレンって訳だ、わかるか?

しかもレンは神楽って奴に脳を弄られて、強制的に戦争に駆り出されてんだよ!

だから俺達は助けに来た、それだけだ』

穿真の迫力ある説明にも赤城は表情を変えず黙って聞いている。

だが呆れたように溜め息を吐いた赤城は、操縦桿を操作し背部に銃を仕舞うとLRBに持ち替え構えて見せた。

「何を言いだすかと思えば、下らん。ここで斬り捨てるのみ」

『今のが嘘だと思うのか?こっちは真剣に話してんだぞ!?』

「敵の言葉を素直に受け入れる程私は馬鹿ではない、それに私は自分の目で見たものしか信じない達でな」

赤城は知っている、戦場で同情や迷いをすれば死に繋がる事を。

考えるのは目の前にいる敵を倒してからだ、リバインはLRBを振りかざすと、勢い良く敵の機体へと飛びかかる。

『馬鹿な真似はよした方がいいぜ?こっちは新型のDシリーズ、お前に勝ち目は無い』

リバインが振り下ろしたLRBは敵機のドリルと激しくぶつかる、もう一方のドリルを避けながらLRBを振るいドリルと何度もぶつかり合うが、その度にLRBの歯が欠けていくのがわかった。

敵機のドリルは大きく長い為間合いに入るのが難しく、中々LRBを敵機に当てられない。

一旦距離を置きアサルトライフルに装備を持ち帰るリバイン、

敵機に向かって引き金を引くが、敵機は両手のドリルを構え盾にすると悉く銃弾を弾き飛ばす。

『言っただろ、勝ち目は無いってな』

「……大体の動きは把握出来た、次で仕留める」

『ん?』

赤城が通信を切ると、リバインは再びLRBを構え、今度は勢い良く正面から特攻して行く。

それを見た穿真はすかさずドリルの先端をリバインに向けると、同じく特攻して行く。

『この機体の力は、まだまだこんなもんじゃねえ!』

リバインがLRBを振り上げた瞬間、敵機は両手のドリルを突き出し、ドリルが勢い良くリバインの元へ放たれる。

飛んで来るドリルにリバインはLRBを構え、迫り来るドリルを弾こうと試みるが、ドリルは一直線に飛び、一本のドリルを弾く事は出来たが、もう一方のドリルが左肩に直撃する。

だが赤城は諦めない、LRBを手放し腰に付いてあるLRSを右手で抜き取ると、止まる事無くそれを振りかざし敵機へと向かう。

敵機は両手のドリルは無いが、両手の甲からチェンソーの歯を出してくると、迫り来るリバインに立ち向かった。

互いの機体がすれ違い、両者動きが止まる。

リバインが右手に握るLRSを腰に戻すと、穿真の乗る機体はゆっくりと前のめりに倒れこむ。

『嘘だろ……起動回路を破壊しやがっただとぉおおおおおお!?』

穿真の乗る機体、その背部からは火花と放電が起き、切り傷が起動回路にまで達していた。

すると穿真の機体に通信が入る、友軍からではなく、赤城からだった。

「勝ち目が無い事等無い、よく憶えておけ」

『まかさ、最初からコレが狙いだったのか……くっ……』

穿真の落胆振りを見て勝負が尽いたと思った赤城は軽く溜め息を吐いた時、モニターに映る穿真の様子がおかしい事に気付く。

『くっくっく、はーっはっはっは!俺の勝ちだぁああああっ!!』

「っ!?」

レーダーに反応、だが時既に遅し、宙を舞う二本のドリルはリバインの右肩、そして腹部を貫いた。

「ぐぅぁああああっ!!」

両腕両足を持っていかれたリバインは両肩両足から爆炎を上げ、その場に転がる。

ただの鉄の塊と化すリバイン、動く事も出来ず、警告ランプが操縦席で点滅し続けている。

その途端、ゆっくりと穿真の乗る機体が立ち上がり、宙に浮くドリルは元の通り機体の両手に戻っていく。

『にひひ、どうだ?これが穿真様の戦術、そしてこの『エンドミル』の力だ』

穿真は『AMOS』を起動させキーボードに情報を打ち込み少しずつ機体を前進させていく。

そして鉄くずと化したリバインの胸部にドリルの先端を向けると、ドリルを急速回転させた。

『死ぬのが怖いかぁ?死ぬのが怖いかぁ?』

ジリジリとドリルの先端を胸部に近づけていく穿真、だがモニターに映る赤城はやけに落ち着いていた。

「ああ、死ぬのは怖い」

『そうか、なら最後に言いたい事はあるか?』

穿真の言葉に赤城は目を瞑ると、ゆっくりと座席の背もたれにもたれる。

「一瞬で殺してくれ」

『へいへい、んじゃ……あばよッ!』

ドリルを振り上げると、それは簡単に振り下ろされた。

だがドリルの先端は胸部ではなく、胸部の真横の地面を突き刺している。

「……どうした、殺さないのか?」

『気に食わねえな。初めて会った時は良い女だと思ってたんだが、今はこんなヘタレかよ』

赤城の余りの潔さに調子が狂う穿真、それに彼には一つの疑問が未だに解けていなかった。

「右手を斬り落とされた男がよくそんな事を言えるな」

『なら聞くが、どうしてあの時俺を殺さなかった。殺そうと思えば出来ただろ?』

あの時、BNが東部軍事基地に攻め入ってた時の事だ。

赤城に扉諸共右手を斬りおとされた穿真、あの後赤城は穿真を殺そうとはせず、すぐさまルフィスの共に駆け寄っていた。

何故自分を殺さなかったのか、穿真は未だにそれがわからなかったのだ。

「っふ、お前は面白い事を聞いてくるな」

『質問に答えろ、どうして俺を生かした!?』

「では問おう、お前、人殺しが好きか?」

『好きな訳無えけど、戦場では殺すに決まってるだろ、俺達は兵士だ』

穿真は兵士だ、兵士は何の為に戦場に出る。守るものの為に敵を殺していく、それが兵士だ。

「そうか、私は嫌いだ」

だが赤城は違った、自分が兵士で有ることを否定しているのかもしれない。

『あんた程の腕を持つ兵士が、敵に情けを掛けるのか?甘いな・・・だが』

ドリルの先端を地面から抜き取ると、そのまま機体を振り向かせ、赤城の乗るリバインに背を向ける。

『俺はそういうの、嫌いじゃないぜ。だからココは一旦引かせてもらう。だがぁっ!次会う時ぃ!容赦しねえから覚悟しとけよ、わかったな?』

「ああ、わかった……それと、お前がさっき話していた事、あれは……」

『本当だ、だから俺達はレンを殺したりはしない。助けに来たんだからな……あばよ』

そう言葉を言い残すと、穿真の乗る機体は発進しその場から姿を消す。

「レンが脳を、神楽が?だがレンを渡す訳にはっ……う……」

赤城の体がよろめく、突然視界が歪み始め、意識が朦朧となり始めたのだ。

全身の力が無くなっていくのがわかった赤城は咄嗟に救援信号を送るスイッチを押すと、そのまま眠るように意識を失った。


───荒れ果てた山中へと逃げていく我雲、その後をレンの乗るフェリアルが追撃を開始していた。

「何時までも逃げれると思わないで下さい!」

『─SRC発動─』

操縦席が一瞬輝くと、背部に付いてあるフェアリーが一斉に飛び立ち四方八方からレーザーを放つ。

同時攻撃に我雲は困惑しながらも何とか攻撃をかわそうとするが、数発のレーザーが我雲の足や腕を擦れる。

すると我雲は動きを止め、すぐさまフェリアルの方へ振り返った。

レンに突如入る通信、相手は前方に立っている敵機からだ。

疑問に思いながらも通信を繋ぐと、モニターに互いの姿が映り、そこからは聞き覚えのある声が聞こえてきた。

『俺を、憶えているか?』

「あ、貴方は。前に助けてくれた方ですね、どうして私に通信を……」

『俺達は話しがあってここに来たんだ。玲、やはり俺の事は憶えてないのか?』

「れい?違います、私の名前はレンです。貴方の方こそ私を憶えてるんですか?」

『ああ、全て憶えている。幼い時お前と一緒に母さんと遊んだ事や、叱られた事、楽しかった事、そしてお前が、俺の妹だという事も、全部』

羅威の堂々とした態度に玲はただ戸惑いと疑問しか思い浮かばない。

さっきからこの兵士は何を言っているんだ?自分にはではなく姉がおり、幼い頃はずっと姉と遊んでいた、姉との楽しかった思い出はしっかりとレンの脳裏に焼きついている。

「と、突然何を言いだすかと思えば……頭大丈夫ですか?」

『信じられないかもしれない、だがお前の記憶は作り物で、全てあの神楽という女がお前を騙しているんだ!』

作り物の記憶?当然レンにはそんな事信じられない、だが何故だろう、羅威の言葉に嘘を感じられない。

真に迫る羅威の声に、レンはいつしか操縦桿から手を放していた。

『憶えているか?このペンダント』

羅威は首に掛けている金色の小さなペンダントを取り出すと、ペンダントを開け、その中に挟まっている写真をモニターに近づけた。

「小さい頃の……私……?」

色は多少落ちているものの、そこにはしっかりと4人の姿が映っていた。

両親の前には笑顔一杯の玲と羅威が横に並んでおり、見るからに幸せそうに感じられる。

『ある日事件が起きた、俺達の住んでいた町がNFに襲われ、母さんと玲と俺の三人で町から逃げようとしていた時、母さんはNFの兵士に殺され、俺とお前は爆発により別々に分かれてしまった』

『そして拾われた、俺はBNに、お前はNFに……今は脳を弄られているからわからないかもしれない。だが信じてくれ!俺がお前の兄だという事を!だから!』

「私の、今までの記憶が……作り物?……嘘よ、そんなの、私は信じな……あ、う、あああ、ああぁあぁああぁぁあ!!」

突如頭を抱え奇声を上げるレン、何度も何度も頭を左右に振ると、勢い良く手を目の前の装置に振り下ろした。肩で息をする程呼吸は乱れており、俯いたまま顔を上げない。

『玲……?』

心配そうに様子を窺う羅威、だが次の瞬間突如レンが顔を上げると、その顔は無表情のまま羅威を睨んでいた。

「うん、排除するね。お姉ちゃん」

『玲っ!?』

レンは素早く操縦桿を握り、アサルトライフルを構え敵我雲に照準を合わせる。

それに気付いた羅威は素早く機体を後退させるが、我雲の後方からは既に六つのフェアリーが待ち構えていた。

後方からのレーザーを何とか交わす羅威だが、フェリアルからの攻撃を防ごうと両腕で銃弾を耐え抜いたが、両腕は中破し火花を散らしている。

『目を覚ませ玲!神楽はお前の姉じゃない!!』

「違う、私のお姉ちゃんだもん、私を守ってくれる、お姉ちゃんだもん」

フェアリーの動きが段々と早くなり、我雲では回避が困難になり始める。

すると上空から、又山陰から一斉に射撃が行なわれ、2体のフェアリーを撃ち落とす。

「三人とも、機体だけは絶対に撃つな!俺が何とかしてみせる!」

フェリアルの機動力を削ごうと我雲はサブマシンガンで機体の足元を狙うが、SRCを発揮したレンの機体には一発も当らない。

だが銃弾は足ではなく足元の荒野を撃っており、一瞬にして砂煙がフェリアルを包み視界を奪う。

『そんな子供騙し、私には通用しない』

レーダーを見ると、そこにはハッキリと敵機の反応が映っており、それを目掛けてフェアリーを放ち四方からレーザーを放つ。

砂煙で前が見えないが攻撃は確実に敵機の方を向いて放たれていた。

が、レーダーではたしかに攻撃が敵機を貫通しているはずが、敵機はレーダーから消えずその場に留まったままだ。

敵機の破壊を確認しようと砂煙が出たフェリアルだったが、真っ先に視界に映ったのは我雲の姿だった。

「捕らえた」

我雲の振り下ろしたLRSは見事にフェリアルの左肩を斬り落とす。

そしてもう一方の腕で持っているLRSの刃先をフェリアルの胸部に向ける。

動こうにも動けない様子、もしここでレンが動けばすぐさま胸部に向けられたLRSが動くだろう。

そう確信したレンは操縦桿を握ったまま焦る気持ちで目の前の我雲を見つめていた。

だがレンの考えとは全く別の動きを羅威は見せた。

我雲の操縦席にあるハッチを開き、堂々と胸部の上に現れたのだ。

その姿を見て援護射撃を行なっていたクロノ達は息を呑んだ、羅威が計画とは違う動きを見せたからだ、それに危険な状況だと言うのに自ら機体から下りてきた羅威に三人は戸惑いを隠せない。

「玲、信じてくれ。これからは……俺がお前を守る」

羅威は首から提げたペンダントを右手で握り締めながら目の前に立っているフェリアルを見つめている。

それはまるでそこに壁が無いかのように、互いに目を合わせていた。

『信じる……守る……?』

「ああ、お前は俺にとって、たった一人の妹だからな……当然だろ?」

『嘘だ……私の、私のおにぃ、ねぇ……ちゃんは……!』

フェリアルの握るアサルトライフルの銃口が羅威に向けられる、それを見た香澄と雪音は羅威を助けようと動こうとしたが、クロノの声が二人の動きが止める。

「二人とも動かないで!今動けば羅威が死ぬ!」

上空からその光景を見ているクロノにはわかる、銃口のすぐ目の前に羅威が立っているのだ。

妙な真似をすれば間違いなく羅威は殺される、三人はただ羅威を見守る事しか出来ない。

「俺の言葉が嘘と思うなら引き金を引けばいい、ただ最後にこれだけは言わせてくれ」

そう言うと羅威はこれから死ぬかもしれないというのに、レンに向かって笑みを見せた。

「玲、愛してる」

愛してる、その言葉を聞いた途端レンの脳裏に思い出が映りだす。

鮮明ではないものの、そこには幼き頃の自分と、母と父、そして手を握ってくれている兄がいた。

愛してる、母をそう言って暖かく抱きしめてくれた。

愛してる、父はそう言って優しく頭を撫でてくれた。

愛してる、兄はそう言ってそっと手を握ってくれた。

『う、ん……』

モニターがハッキリとよく見えない、おかしいと思い下を向けばボロボロと涙が足元に零れ落ちる。

目に浮かぶ涙を必死に拭うと、羅威に向かって大きく口を開いた。

『お兄ちゃん!』

たしかに聞こえた、レンの麗らかな声で、その言葉が。

目を瞑ろうとしていた羅威だったが、ゆっくりと目を開けていく。

『私、お兄ちゃんを信じるよ』

「玲?思い出してくれたのか……?」

『うん、私のお兄ちゃんは。羅威お兄ちゃんだよ』

「そうか……良かった、本当に。良かったっ……」

我雲の胸部で跪く羅威、安心して全身の力が抜けてしまったのだろう。

だがその目には涙を浮かべ、嬉しさの余り言葉が出なかった。

これで終わった、玲が自分の元に帰って来る。

言い様の無い気持ちが羅威の心の底から湧き上がっていた。

「よく思い出したな、玲。ありがとう」

『うん、だって私もお兄ちゃんの事───』

レンが次の言葉を言おうとした瞬間、轟音と共に羅威の視界からフェリアルの姿が消える。

途轍もない風圧が羅威襲い、羅威はその場では立ち上がれなかった。

「……玲?」

操縦席から何やら声が聞こえてくるが、今の羅威にはそんな声聞こえるはずがなかった。

ふと右に振り向くと、フェリアルが爆発を起こしていたのだから。

機体の残骸があちこちに吹き飛び、大きな煙を上げている。

その残骸の手前には、1機の白い装甲をした機体が立っていた。

右腕が異常に太く大きい、それに対し左腕は普通の大きさをしている。

頭には三本の角のような物が伸びており、機体はゆっくりと羅威のいる方へと振り返った。

そして、その機体から聞こえてきた声は聞き覚えのある、あの声だった。

「羅威、久しぶりだね。俺だよ、SV親衛隊副隊長、魅剣愁だよ」

─SRC─

念隔操作可能システム、操縦者のデータを機体に登録して初めて使うことが出来る。

手足で動かすだけではなく、念じる事によって機体が反応を示す為従来の機体とは比べ物にならない程反応速度と対応力が高い。

現段階では試作段階であり、機体に乗りながら戦っているが。本来は遠距離からの操作となる。

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