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第50話 異人、目覚め

───ホテルの一室、カーテンを閉めて薄暗い部屋で俺とミシェルは二人横に並んでベッドに寝ていた。

が、俺は長く眠れる事が出来ず目が覚めてしまった。

隣を見ると可愛らしく寝息をたてて寝ているミシェルがいる。

気持ち良さそうに寝ているミシェルの寝顔を見ていると心が安らぐ、癒しというのだろうか。

さてと、寝れないんじゃ仕方ない。外にでも行こうかな。

俺はベッドから出ると、ホテルの鍵を持ってその部屋を出て行く。

もちろん部屋を出た後は扉に鍵を閉める、街でも歩くか。

ホテルの鍵をズボンのポケットに入れて歩き出した時、別の部屋の扉が開き、中からは眼鏡を掛けた青年が現れた。

見覚えがある、たしかラースと言う青年だ、機体に関しては腕が良いらしいじゃないか。というか何でここにいるんだ、もう時間なのか?

「よぉ、お前どうしてこのホテルにいるんだ?」

「僕達も昨日からこのホテルで泊まってるんだよ、それより君は何処に出かけるんだい?」

すごい偶然だな、同じホテルに泊まってるって。

「ちょっと外の空気を吸いに行こうかと」

「そう、僕も付き合ってもいいかな」

「ああ、別に良いけど」

ホテルを出ると、街には相変わらず人が多い。

こんな猛暑中人々は街を歩いている、ある人は遊びに向かう途中、ある人は仕事に向かう途中。

余り人が多い所は好きじゃない、とりあえず緑の多い公園のような場所があったのでそこに向かってみた。

公園の砂場や遊具ではこんな暑い中元気良く遊んでいる、やっぱ子供は元気が一番だ。

俺とラースは公園にあった屋根付きのベンチに座ると、そこから見える公園の景色、街の景色を眺めていた。

「平和ですね」

突然ラースが口を開く、だがラースは前を向いたままだった。

こいつ、俺についてきた理由は何か話しがあるからに違いない、俺と何を話したいのだろうか。

「そうだな、これだけ見れば平和だな」

子供が公園で無邪気に遊ぶ姿、恐怖も怒りも何も無い、純粋な笑顔。

だが、それは何も知らない、何もわからないからの笑顔だ。

この世の真実と現実を理解出来ない人間は平和だろう、気が楽で良い。

「ねぇ甲斐斗、この世界をどう思う?」

これまた突然口を開いたと思いきや、そんな事を聞いてくるとは思ってもいなかったよ。

「おいおい突然だな、この世界をどう思うって言われても、何を言っていいのかわかんねえ」

「簡単に言ってくれて良いんだよ、この世界を見て君はどう思った?」

どう思った、この世界に来て、この世界を体感して、思ったこと。

「……面白い世界になってると思ったな」

俺がそう言った時、微かにラースの口元が笑っているように見えた。

「へぇ、争いの続くこの世界が面白いのかい?」

「ああ、面白い。平和が嫌いって訳じゃないが、俺は戦いが大好きでな」

平和な世界はつまらない、ただ単に飽きただけだった。

俺だけじゃない、きっとこの世界にいる人間達も思っていたはずだ、争いが起こる前は。

毎朝同じ時間に起き、毎日学校や仕事場へと向かい、毎日勉強し、働く。

毎日毎日同じ事の繰り返し、生活する為に身を犠牲にして仕事をしていく日々、つまらない日々だ。

たしかに平和な日々なのだろうが、それが平和と言うなら俺はそんな日常いらない。

自由に人を殺す事も出来ない、偽りの法にしたがって生きなければならない世の中なんて俺は真っ平ごめんだ。

「この世界は争いに満ち溢れている、君にとっては楽しい世界って事かい?」

「まあな、言っとくけど別に殺し合いが大好きって言ってる訳じゃないからな、俺は純粋に戦いが好きなんだよ。って俺が他の世界の人間だって事はもう羅威から聞いてるのか。お前は信じるのか?俺の話し」

「信じるよ、君がそんな嘘つくとは思えないからね」

俺が嘘つくとは思えてないって、こんな正体不明の俺を言葉をよく信じれるな。

まぁ内心疑っているが、表はそうでないように装っていると思うが。

「科学者の癖にそういう事は信じるんだな、そういえば俺の話しを信じた学者がもう一人いたなぁ」

「学者?NFの?」

「たしか神楽って言う奴、その女も俺の話しを信じたんだよ」

「へぇ……その女性と何を話したの?」

「んー、Dシリーズの動力源についての事とか。でもあの女俺を殺そうとしてきやがって……思い出しただけでも腹立つ」

「そうなんだ……君も大変だったんだね。僕達はそんな事しないから、安心して基地に来てくれるといいよ」

「安心はしねえが、基地にはお邪魔になるぜ。機体の修理をしてもらいたいからな」

その時、何か歌のような曲が流れ始めた。

曲を聴いたラースは胸ポケットから携帯電話を取り出す、携帯の着信音か……。

「お仲間からのメールか?」

「いや、その逆。NFからメールが来たんだよ」

そう言ってラースは閉じていた携帯を開きメールの内容に目を通す。

「内容は?」

俺がそう聞くとラースは携帯の画面を見ながら答えると同時に何やら携帯に文字を打ち込んでいく。

「今から1時間後、この街の中央にある博物館で合流したいらしい」

「人質の取引か、にしては早くないか?後1時間ってすぐだぞ」

「それには僕も驚いている。

 あとこのメールには続きがある、この取引は個人的なもの、軍は一切関与してないらしい。

 という事は個人的に返して欲しいって事になる、これは一度ホテルに戻って羅威と話さないと……」

「そか、んじゃ俺も戻るか」

こんな暑い所にずっといるのも嫌だからな、俺もホテルに帰って冷房の効いた部屋にいたい。

ラースは座っていたベンチから腰を上げて立ち上がり、一人公園から出て行こうとする。

俺も立ち上がりラースの後ろについていく、このまま何事も無く事が進めばいいんだが。


───「っという訳なんだよ」

ラースからの説明は終了、羅威とレンは理解したらしく同時に頷いていた。

部屋には合計4人、俺とBNとNFの連中だけだ、ミシェルは今俺の部屋でぐっすりとお昼寝中。

「1時間後、早いな。それに合流場所が中央の博物館とは……」

羅威が疑問に思うのも無理はない。博物館とか人目につきやすいし、建物自体複雑な構造をしている。

そんな場所で人と人を取引する事が出来るのだろうか、常識的に考えて普通に怪しいだろ。

「仲間と合流してからの方が安全だと僕は思う。関与していないというのは嘘で、本当はこの町のNFの部隊に連絡しているかもしれないし。ここは取引時間を延ばしてもらうよう交渉してみようか?」

「大丈夫です、NFの人達には私がちゃんと説得します!二人には傷ひとつ付けさせませんよ!」

あれ?二人って、俺が入ってないんだが。

「君がそう言っても、NFとBNは敵同士。僕達を捕まえる可能性だってある」

「だがメールの内容は本当かもしれない、レンはたしか自分が無事だというメールを軍ではなく、部隊の人間に送ったんだよな。だとすればそのメールを送られた人間は軍にこの情報を伝えるとレンに危険が及ぶ可能性があるとみて話していないかもしれない」

「そうですよ、私に任せてください。赤城隊長に私が無事な事を知らせればきっとわかってくれます!」

赤城……ああ、赤城ね。あーそうだった、レンは赤城の部隊の兵士だった。

「赤城なら大丈夫だろ、姑息な真似とかしない奴だと思うし」

俺の言葉に三人が一斉に俺に目を向ける。

「あ、貴方赤城隊長を知ってるんですか!?」

「知ってるも何も、EDPとか一緒に参加したんですけど。色々と話した事もあるし」

レン、こいつ本当に忘れてやがる。何もかも、何故赤城を覚えていて俺を覚えていない。

知らないふりにも見えない、これはもう病気に近い何かの影響か?

「それで、その人はどのような人なんだい?」

次に口を開いたのはラースだった。

「姑息な真似はしないような奴さ、赤城ならレンの無事を一番に考えるから危険は侵さないだろう。純粋に取引をしたいと思ってるはずだぜ?」

壁に掛けてある時計を見てみる、後40分か。今から博物館に行って少し時間を潰せばすぐだな。

「俺も一緒に博物館に行ってやるから心配すんなって。俺がいれば百人力だ」

「わかった、俺はそれで良いと思う。ラースはどうする」

さすが羅威、物分りが早い。あの時もそうだったけど、こいつとは話しがしやすいな。

「羅威が言うなら僕もそうしよう、何かあったら頼んだよ、甲斐斗」

「おう、俺に任せろ」

まぁお前等よりミシェル優先で守るけどな。

赤城なら大丈夫だろ、普通に俺も入る事だし説得すれば最悪の事態は免れる。

「そうと決まれば早速行きましょう!博物館!」

レンの元気有る声と共に俺達は立ち上がり、俺達はこんな真昼間から人と人を取引する為に博物館へと向かった。


───博物館についた俺達、ミシェルは俺の手を握って歩いているが、とても眠そうにしている。

手を放したらその場に倒れて寝てしまいそうな勢いだ。しょうがない……。

「ミシェル、しっかり掴まっとけよ」

そう言って俺は体勢を低くすると、返事は返ってこなかったがミシェルが俺の背中に乗ってくる。

やっぱり軽い、簡単に背負う事が出来た。この方が移動も楽だな。

すると博物館の壁に貼られていた館内の地図を見つめていたラースは後ろに振り向くと俺達の方へ戻ってきた。

「どこに集合するのかわからない、多分人気の無い場所だとは思うんだけど……」

「んじゃ俺は2階探してくるから、お前達三人は1階探して来いよ」

「そうした方が良さそうだね、それじゃ僕達は1階で探してみる」

ラースはそう言って1階の広間に移動する、羅威とレンも1階の広間に向かった。

俺もすぐそこにあった階段を上って2階に向かう、1階より人は少ない、とりあえず2階をウロウロするか。

厚いガラスケースの中に変な破片が、厚いガラス板の向こうに変な写真が、そういやこれ何の博物館だ?

「……歴史博物館」

しかも100年前の歴史についてだ、壁にデカデカとポスターが貼られてある。

変な破片は100年前の戦争で破壊された建物の破片、変な写真は逃げ惑う人々が写っているが、汚れていてよく見えない。

100年前、突如現れた『神』という名の兵器に世界は破壊された。

無差別で殺されていく人間達、女や子供だって構わず殺されていた。

別の写真を見れば何千人という人間が血だらけで広場に集まっている。

また別の写真は少年達が銃を片手に戦場を走っている。

そういえば俺は見た事が無い、神と、それに仕える天使の姿を。

……マスターガーディアン。その第1MGがミシェルだと聞かされた時、信じられなかった。

例えそれが本当だとしても、信じたくない、というか信じれない、こんな幼い少女がMGなんて、ありえない。

『MG』主の為なら何でもする彼等は人間の形をしているが人間とは比べ物にならない程の驚異的な魔力を秘めている。

その力は一人で一つの世界を滅ぼせる程の力だ。今まで会った事のあるMGは第6MGだけだ。

女性だったな、明るく陽気で、しかし時には真面目で冷静な一面を持っている第6MG。

何で知っているのか理由は簡単、100年前共に戦っていた仲間であり、家族だったからだ。

MGは誰が作ったのか、そんな事考えた事もあったが、俺にとってはどうでもよかった。

何故MGは強大な力を持ち、主と契約した人間には自らの命を捨ててまで守り抜くのか、本当の目的は何なのか。

今になっては考えさせられる、ミシェルが第1MGならあの不思議な力も納得がいく。

俺に力を少しだけ与えたのもミシェルの力なのかもしれない、MGの力を俺に分けたのか?

だがミシェル自体は自分をMGだとわかっていない、それがおかしい、それぞれMGは自分がMGと自覚しているはずなんだが……。

『神』を復活させるにはMGが必要、MGを何に使う気だ、何故MGが必要なんだ。

まさかその『神』という兵器が、MGを創りだしたのか?それならあのMGの力も納得してしまう。

でもどうしてそんな真似をした、神がMGを作り出したのであれば、何故ずっと自分の下においておかなかった。

何故人間を主にさせたんだ、目的は、目的は一体……。

「みーつけた」

そんな声が俺の後ろから聞こえてきた、ゆっくりと俺は後ろに振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。

見た事の無い女性だ、桃色の髪に、シンプルな服装。その女性は俺の方を見て微笑んでいる。

「ねーそこの人ー、その子返してくれなーい?」

「俺に言ってるのか?」

「そうだよー、だってここ貴方しかいないじゃない」

気付けばさっきまでいた人達がどこにもいない、それに話し声や足音もさっきは聞こえていたのに、今は何も聞こえない。

「お前何者だ、どうしてミシェルの事を知っている」

俺は寝ているミシェルをそっと壁を背に寝かせると、女性の方に振り返った。

こいつ、危険だ。俺の本能がそう言っている、微笑んでいるが奴からは嫌な気配しか感じてこない。

「ミシェル……?貴方がつけた名前?センスなーい」

「センス無いのはいいとして、お前ミシェルの本当の名前を知っているのか?」

「知ってるよーでもそれを教える必要は無いのー。だって、貴方はここで死ぬから」

またニッコリと微笑んでくる女性、俺が死ぬだと?馬鹿を言うな、腸引き裂かれても死なない俺がどうやって死ねる。

それに俺も雑魚じゃねえ、何をするかわからんが、ここでミシェルを渡すわけにも、死ぬわけにもいかない。

「すごい自信だな、俺を簡単に殺せると思っ───」

突如肩に突き刺さるナイフ、右肩に突き刺さったナイフは根元まで俺の肩に刺さっていた。

気付いた時には痛みと共に肩から血が流れる。女性は相変わらず俺を見て笑っていた。

「えへ、アビア、殺すの大好きだから任せて」

「奇遇だな、俺も殺すの大好きなんだよ」

俺は右腕を伸ばし巨大な黒剣を出現させた。さっさと殺すか、面倒な事が起きる前に。

女性は剣を振りかざそうとした時、一本のナイフが俺の右手に突き刺さった。

「痛っ───!」

その痛みで剣を手放してしまう、女性はすぐさま距離を縮めてくると右手に持っているナイフを俺の左肩に突き刺す。

あっさりとナイフの根元まで突き刺すと、左手に持っているナイフで今度は俺のわき腹を横から突き刺す。

両肩と左脇から血が噴出すのを見て女性は笑っている、そして笑顔のまま俺と目を合わせてた。

「ばいばい」

だが俺の目はしっかりと女性を見つめたまま瞳は揺るいでいない。

平気な顔をした俺を見た女性は呆気にとられたままだった、無理もない。

「ああ、ばいばい」

俺は目の前にいる女性の胸元に左腕を突き出すとそのまま胸部を貫く。

女性は血を吐き出すと目を開いたまま動きが止まるのを見て俺は腕を振り払い女性を腕から放した。

「痛ててったく、こんなにナイフ刺しやがって……」

両肩に刺さっているナイフを抜き取ると勢い良く血が飛び散るが、俺は気にせず脇腹に刺さるナイフを抜き取った。

全部のナイフを抜き取ると、その場に捨てる、肩から流れていた血も既に止まっていた。

この俺にここまで傷を負わせるとは……こいつ何者だ、それにどうしていきなり殺しに来やがった……服汚れちまったじゃねえか。

この姿じゃ1階にも戻れない、とりあえず奥の部屋にでも隠れるしかないな。

壁に持たれたまま眠っているミシェルを抱かかえると、俺は博物館の奥へと姿を消した。


───博物館の2階で放置されている女性の死体、床に飛び散った血液は床に染み付いたまま

だったが、床についていた染みから血液が浮き上がり、女性の死体へと集まっていく。

服についていた血も液体に戻り、穴の開いた胸に次々に流れ込むと胸にあった穴が少しずつ小さくなっていく。

そして完全に穴が塞ぎきると、開いたまま動かなかった目が動き出し、瞬きをし始めた。

「女の子の胸に手を入れるなんて強引ね。もっと優しくしてくれないと……でもアビアは強い男は嫌いじゃないよー」

女性は立ち上がると床に捨てられたナイフを手に取り服の中に隠すと、一人の男性が女性に近づいてきた。

「何馬鹿やってるんだいアビア、逃げられてるじゃないか」

「えへへ、ごめんごめーん。次はちゃんとするからさ。でもいたなら助けてくれたら良いのにー」

「僕がそんな事しない事ぐらいわかるよね、早く回収しにいくよ、あの子を」


───甲斐斗と女性が出会う前に遡る、1階ではラース達3人が博物館内を歩き回っていた。

博物館の奥の方に向かってみると、ラース達は立ち入り禁止のラベルが貼られてある看板を見つける。

ラースは周りを見て人がいないのを確認するとその看板を避けて通路の奥に向かって平然と歩いていく。

「ラースさん、そっちは立ち入り禁止って……」

「彼等との取引は間違いなくこの先だよ、二人も早く来て」

「ラース、甲斐斗には知らせなくてもいいのか?」

「後で知らせればいいさ」

三人が通路を抜けると、そこは大きな広間が広がっていた。

無の空間、床は赤いじゅうたんが広がり天井には高級なシャンデリアが幾つも飾られている。

天井が高い、どうやら2階からもここの展示室が見れるような構造になっているらしい。

だが展示物は一切見当たらない為、どうやらこの部屋は使われていないようだ。

「誰もいないみたいだが……」

羅威が先頭に立って部屋の中央へと歩いていく。

人が隠れる場所も見当たらない、それに出入り口は自分達が入ってきた通路しかないみたいだ。

「ここで待とう、彼等は必ずここに来る」

ラースはそう言って内ポケットから携帯電話を取り出すが、溜め息をついた後携帯電話を内ポケットに仕舞う。

「どうした?」

「電池切れ、これじゃ仲間にもNFにも連絡しようがない」

「連絡なんていらないわよ、ちゃんとここにいるんだから」

通路から聞こえてくる一人の女性の声、広間にいた三人は一斉にその声の方へと体を向けた。

赤紫色の髪を靡かせ、一本の煙草を銜えながら広間に入ってきた女性は、銜えていた煙草を指で挟むとゆっくりと口から離す。

「迎えに来たわよ、レンちゃん」

神楽の姿を見たレンの表情は忽ち笑顔に変わり神楽の方に行こうとするが、ラースの握り締める銃がレンの頭に突きつけられる。

「動くな、動くとこの子を殺す」

「あら、怖い事言うようになったわね。見ないうちに変わっちゃった?」

「僕は変わりました、貴方は昔から何も変わっていませんね、神楽さん」

今度は羅威の視線がラースに向けられる、だがラースはじっと神楽の方を向いたまま視線をそらさない。

「ラース、あの女性を知っているのか?」

「うん、僕は昔NFで働いていてね、そこで知り合ったんだ」

「そうなのか……おいお前、BNの捕虜は何処にいる」

「捕虜ね、今日は連れてきてないの」

その言葉に神楽を除く3人が唖然としていた、取引を行ないたいと言ってきたNFが取引に使う捕虜を連れてきていない。

「だからさ、先にレンちゃんを返してもらおうと思ってここに来たのよ」

「ふざけてけてるのか?捕虜がいないのにこの子を返すはずがないだろ!」

羅威が怒鳴るものの、神楽は煙草を銜えて澄ました顔をしている。

「羅威、仕方ないよ。取引は無し。この子は殺させてもらう」

ラースは銃についていた安全装置を解除すると、銃口をレンの頭に突きつけた。

さっきまで笑っていたレンも今では不安を抱え、どうしていいのかわからない顔をしている。

「待てラース、その子を殺すつもりは無いはずだ」

「うん、この子には何の罪も無い。だから……」

レンに向けていた銃口は神楽へと向けられる、銃を向けられたというのに神楽は相変わらず煙草を吸っていた。

「いつから私に銃を向けられる程、強くなったのかしら」

「神楽さん、僕は貴方に失望しました。あの力を何故人間に使ったのですか」

「……いいじゃない、別に」

「そんな簡単に使っていい力ではない事ぐらい貴方も知っているはず!答えてください!」

ラースの真剣な態度にも神楽は余裕の表情を浮かべている、それが気に食わないのかラースの拳銃を握る手は微かに震えていた。

銃を向けられているというのに、余裕の表情を浮かべている神楽、ラースはその姿を見て何故か自分が追い詰められているような感じがしていた。

「わからない事があれば自分で調べて考えなさい、私はもう貴方の先輩じゃないんだから……でも特別に少しだけ教えてあげる。

 私はこの世界に何の興味も無くなったのよ」

「興味が、無い……?」

「ええ、ねぇラース。実は私も貴方に失望しているのよ?」

「僕に?」

「私の元にいる捕虜をね、調べてみたのよ」

返事をせずに神楽は自分の話しを進めていく、銜えていた煙草も携帯灰皿に仕舞うとゆっくりとラースの方に歩き始めた。

「その捕虜はね、肉体を無理やり強化されてたり、血液の成分が普通の人間とは違ってたり、おかしな所が沢山あるの」

「何だそれは、強化人間という事か?」

羅威の問いに神楽は答えたが、神楽はラースと目を合わせたっきり視線をそらす事はしない。

反対にラースの方は呼吸が乱れ、落ち着かない様子で銃を握り締めていた。

「違う……僕は違う!それ以上何も喋るなッ!」

「記憶を弄ったり、肉体を弄ったり。そういう事が嫌いよねぇ、ラースは」

「うるさい!僕は何もしてない!」

ラースの額からは何滴もの汗が頬を伝う、尋常じゃない焦り。

何かに追い詰められるかのような顔をしているラースに、羅威が声を掛けたが、返事は返ってこない。

「大丈夫、別に貴方を責めたりしないわよ。私だって同じ様な事してるから」

不敵な笑みを見せた途端、ラースの隣に立っていたレンがラースの銃の握る腕を足で蹴り上げる。

宙に浮いた銃をレンが軽々とジャンプしてキャッチすると、それを握り締め銃口をラースに向けた。

突然の出来事にラースも羅威も動けず、声も出ない。

レンは銃を握り締めたままゆっくりと後ろに下がり神楽の元へと向かう。

そして神楽の元に辿りついた瞬間、満面の笑みで神楽に抱きついた。

「お姉ちゃん!助けに来てくれたんだね!」

「ええ、そうよ。遅くなってごめんね、怖くなかった?」

「ううん、私は大丈夫。お姉ちゃんが助けに来てくれるって信じてたから!」

「レンちゃんは強いね、いいこいいこ」

優しくレンの頭を撫でる神楽に対し、ようやく口を開けたのは羅威だった。

「お前はその子の記憶を弄っているのか……?」

「そうよ、その方が幸せだからね」

「幸せ?偽りの記憶を与えて何が幸せだ」

「知らない方が幸せなのよ、子供のように……ね」

相変わらずレンは神楽に抱きついたまま離さず、この会話をレンは聞いていない様子だった。

「……なぁ、レンって名前。本当の名前じゃないんだろ?」

「そうね、この名前は私が付けてあげたけど」

「だったら教えてくれ、その子の本当の名前を……」

「別に良いわよ、この子の名前は玲、でも玲は1年前にこの世から消えた。そして新しくレンが生まれたの」

玲という名に反応を示した羅威は、咄嗟に首に掛けていたペンダントをぎこちなく外すと、それを神楽に投げつけた。

神楽は軽々とそのペンダントをキャッチすると、不思議そうにペンダントを眺める。

「その中にある写真を見てくれないか?」

言われるままにペンダンと開けると、そこには1枚の小さな写真が入っていた。

そこに映っている羅威と、その隣に立っている少女を見て、神楽の表情が変わる。

「驚いたわね……貴方が玲ちゃんのお兄さんだったなんて」

ペンダンと神楽は優しく羅威に向かって投げると、羅威はそれを何とかキャッチし自分の首に掛ける。

「運命って言葉を信じたくなったよ、こんな形で玲と再会するとは思わなかった。

 そして、まさか玲が記憶を弄られているなんて思ってもいなかったッ!」

服の内ポケットから銃を取り出す羅威、だがそれと同時にレンが銃を拾い銃口を羅威に向けた。

「残念だけど、玲ちゃんはもうこの世にはいない。いるのはレンちゃん、貴方の妹じゃないの」

「黙れ、お前が玲の記憶を消したんだろ。玲を……返せッ!」

「だから言ってるじゃない、玲ちゃんはもうこの世にはいないって

 替わりと言っては何だけど、良い事教えてあげる。私の言っていた捕虜はね、エリルって子の事よ」

神楽はそう言って後ろに振り返ると広間から出て行く、それを見ていたレンも神楽の後を追う。

「おい待て!話しはまだ終わってないぞ!」

銃口を神楽の背に向けるが、神楽はそんな事お構いなしで広間から出て行く。

結局羅威は神楽を撃つ事は出来なかった、ふと横を向けばラースがその場で膝をついて座っていた。

ラースは無言のまま何も喋らない、それを見ていた羅威も言葉が出ない、言葉よりさっきまでの出来事について考える事で精一杯だった。

レンが自分の妹だという事、だが記憶を弄られている、それは捕虜も同じ、だが捕虜はエリル、エリルは生きていた。

神楽の話しによると捕虜、つまりエリルは肉体強化や脳を弄られている事になる、それを行なったのは……。

「ラース、これは一体どういう事だ。答えろッ!」

ラースは相変わらず黙ったままじっと床を見つめている、その態度を見て羅威は足早にラースに近づくと胸倉を掴んだ。

だが羅威には掴む事で精一杯だった、腕に力が入らず持ち上げようとしても上がらない。

「神楽という女は何なんだ!お前はエリルに何をしたんだ!?」

「違う、僕は……」

「ラースッ!」

その時、2階の方で何かの崩れる音が聞こえてくる。

すると2階から一人の男が1階に飛び降りてきた、その男の背中には少女が眠っている。

「甲斐斗!その血は……」

「俺は大丈夫だ、それより取引はどうだった?」

「取引自体相手はする気が無かったらしい。レンは俺達を裏切り銃を奪って帰っていったよ」

「まじかよ、赤城がそんな事するとは思わなかったが……」

「いや、ここに来たのは神楽という女一人だった」

「か、神楽?あんな厄介な女がここに来てたのか」

「それで、お前のその傷は……」

「ああ、ミシェルを狙う輩が現れてな。この町も安全じゃない、さっさと逃げる準備でも……」

甲斐斗が通路から出て行こうとした時、突然博物館が揺らぎ出す。

博物館だけではない、町全体が揺れている、この揺れの正体が地震でない事ぐらい、戦場に出た経験のある二人はすぐにわかった。

「おいおいこの長い揺れって……」

甲斐斗達のいる広間の床に亀裂が走り、大地が裂け始める。

天井に吊るされていたシャンデリアは大きな揺れと共に左右に動き、次々に広間に落ちていく……。


───これだけ地面が揺れ、上からは大きなシャンデリアが落ちてくるというのに、

ラースは状況についていけてないのか、やけに冷静な態度で立ち上がった。

俺はミシェルをおんぶしたまま片手を前に突き出し剣を出現させると、広間の壁をぶった切る。

壁にはぽっかりと穴が開き、甲斐斗はそこから外に出て行く。

羅威達もその穴から博物館の外へと出たが、外に広がっていた光景は変わり果てていた。

立ち並んでいた高層ビルは崩れ落ち、人々はわれ先にと危険だと思う場所から走って逃げていた。

その逃げる人間を追っては次々に食い殺していくERROR、Person態。

残っている建物には至る所にPerson態が張り付き、道路にはあの黒いHuman態の姿も見える。

こんな真昼間からERRORが現れるとは誰も思っていなかっただろう、それも町のど真ん中に。

「っち、機体を呼んだがここに来るには時間がかかる。それまで何とか持ちこたえねえとな」

この町には勿論部隊が存在するNFの部隊だ、民間人を助ける為銃を持った兵士達が町に駆けつける。

何台ものギフツが広場のような所に集まり、人々を襲うPerson態を殺していく。

Person態に捕まえられた子供、当然体を千切られて喰われる、子供の握っていた風船が空高く上がっていく。

足の遅い老人がHuman態に捕まえられた、一瞬で頭をもぎ取られ、あっという間に食べられて消える。

町には悲鳴と奇声が響き、銃声と爆音がそれを消していく、既に町の面影は消えていた。

ここにいる人達は、まさか自分がこんな目にあうとは思わなかっただろう、今日もまたつまらない平凡な1日を送ると思ってただろう。

……良かったな、退屈な日常はもう戻れない。これからは生きるか死ぬかの戦いが始まる、もうお前達が思っていた平和は消えたんだ。

俺に気付いたPerson態が近づいてくるが、腕を伸ばしてきた途端に腕を切り飛ばし頭を吹き飛ばす。

本当気持ち悪い生き物、ERRORは何処で生まれ、何故世界を滅ぼすのか、俺は考えた事が無かったな。

まぁ化物なら他の世界にも沢山いた、体の細胞を変化させて色々な人間に成済ます化物。

体から触手を伸ばし人間を殺していく化物、ようは人間じゃない生き物は大抵化物になる。

怪物とか化物とか、人間から見ればそう見えるかもしれないが、逆に怪物や化物から人間を見れば、一番醜い生き物なのかもしれない。

「甲斐斗、ここは危険だ。安全な場所に行った方が……」

羅威が言葉を止めて俺の後ろを見ている。

後ろに振り向けば一匹の獣が俺の元へ走ってくる、Beast態か。犬に負ける気はしないがでか過ぎる。

「お手!」

とか言ってお手をする程利口な犬でない事ぐらい見てわかる。

ミシェルをおんぶしているから多少動きにくいが、やるしかなさそうだ。

俺は剣を構えBeast態を待ち構えようとした時、1機のリバインがそのBeast態をLRBで斬り捨てる。

見覚えのある武器に、赤いリバイン。間違いなく赤城だ。

「赤城!お前もここに来ていたのか!」

赤いリバインは俺の方に近づいてくると、機体から赤城の声が聞こえてきた。

『甲斐斗、何故お前がこんな所にいるのか知らんが、早く安全な場所に向かえ」

「ありがとう、助かるよ。お前も神楽と一緒でレンを助けに来たのか?」

『そうだ、だが博物館に入ろうとした時神楽に言われて博物館の入り口で見張りをしていてな』

波のように迫り来るPerson態に気付いた赤城はLRBを背部に戻すとアサルトライフルを取り出し引き金を引いて一掃していく。

だが数が多い、赤城以外のNFの部隊もERRORと戦っているが次々にERRORの餌食になっていく。

その時、赤城の乗るリバインの足元が突然崩れ落ち、地中へと姿を消した。

「赤城!?」

地中からすぐさまリバインが飛び出して来るが、地面からは何十本もの触手が伸びていく。

触手はリバインの両足に絡みつくと、地中に引きずり込もうと引っ張り始める。

リバインはアサルトライフルで触手を切ろうとしたが、

強引に両足を引かれ体勢を崩してしまい、そのまま地中へと引きずり込まれそうになるが、

1機の赤い機体が突如現れるとリバインの足に絡み付いている触手を握り締めると強引に引っ張った。

その機体の力で地中から巨大なWorm態が引きずり出されると、赤い機体は拳を輝かせながらWorm態の頭部を拳で貫いた。

赤鬼だ、なんでこんな所にSVの奴がいやがる。見た所SVの機体はあの赤鬼しかいないが……。

『お前はSVの、どうしてここにいる!』

『俺は……俺は何故ここにいる、ERRORを、倒す』

そう言うと赤鬼は逃げ惑う民間人を踏み散らしながら次々にERRORを殺していく、もはや人は眼中に無い。

一体どうしたんだ愁は、無闇に人殺しをする人間ではなかったはずだが……。

俺の眼の前に黒い機体が現れると跪いた、ようやく俺の機体が来た訳だ。

機体の手の平に乗ると機体は勝手にコクピットまで俺を運ぶ、さて、ミシェルには起きてもらうか。

「ミシェル起きろ、戦闘だ。しっかり掴まっとけ」

「う、うん……」

まだ眠たそうなミシェルは操縦席の横に座ると操縦席にしっかりと掴まる。

ミシェルがいる以上無理な戦闘は出来ないが、そこら辺にいるERRORをぶち殺す事ぐらいは容易い。

にしてもERRORの数が半端じゃない、地面の穴や亀裂からは次々にERRORが溢れ出してくる。

「赤城!ERRORは俺と愁に任せてお前は逃げ遅れた民間人を助けに行ってこい!」

「わかった、この場は頼んだぞ」

赤いリバインが博物館から離れ、まだ人が逃げ遅れている場所へと飛び立つ。

愁は相変わらずERRORを殺しまくっていた、前より動きにキレがある、次から次へと片っ端からERRORを殺しに向かう赤鬼。

ん、レーダーに反応有り。これは……BNの機体?

羅威とラースの前に2機の機体が現れた、1機は黒い機体、もう1機は金色の機体だった。

『二人とも無事で良かった、ラースさん、頼まれていた機体を運んできましたよ』

「ああ、ありがとう。羅威、あの機体に乗って戦えるかい?」

「俺は大丈夫だ、戦える」

『ラースさんは一度僕と共に艦に戻ります、この場は羅威さんに任せますね』

黒い機体はハッチを開けるとラースに手を指し伸ばし、ラースが手の平に乗ると操縦席まで引き寄せる。

そしてラースが機体の中に入るとハッチが閉まり、その場から飛んでいなくなる。

残された黄金の機体に乗り込む羅威、あれがアイツの機体らしいな。

「カッコイイ機体じゃねえか、名前はなんて言うんだ?」

機体名が知りたくて通信してみると簡単に返事が返ってきた。

「神威だ、それよりあの赤鬼は何処に行った」

「あのビルを跳び越えて向こうに行ったと思うけど」

「あのビルの向こうかッ!」

羅威はそう言って機体を走らせると、俺の機体が指差した方向へと姿を消した。


───「微量の電流で、まさか俺の腕がここまで動かせるようになるとはな」

神威の乗った羅威は次々に瓦礫を跳び越え、鬼神を探しに向かう。

途中ERRORの姿が見えると手の平からプラズマ弾を放ちERRORを吹き飛ばしていく。

「既にエネルギーの補給をされた後か、ラースは軍になんて連絡していたんだ……。

 まぁいい、後でゆっくりと話せばいいだけだ」

その時、Beast態の首を持った鬼神が視界を横切る、紛れも無い赤鬼だ。

「見つけたぞ……赤鬼ッ!」

移動する鬼神に向かって右手からプラズマ弾を放つが鬼神は難なく攻撃をかわす。

今までERRORを殺すのに手を止めなかった鬼神はその場で泊まると、自分に攻撃した機体を睨みつけた。

「今度こそお前を殺す、皆の為に、お前だけはッ!」

鬼神は手に持っていたBeast態の首を投げ捨てると、神威の元へと走り寄る。

神威は両手を重ねると、周囲に雷光を煌かせながら両手を少しずつ広げて行き、巨大なプラズマを発生させる。

鬼神をギリギリまで引き付けた後、その両手を勢い良く前に突き出す巨大なプラズマ砲を放つ。

プラズマは鬼神の足元の地面に当たると爆発し、辺りに爆煙が立ち込める。

「まだ死んでないはずだぞ!姿を見せろッ!」

その言葉の通り鬼神は煙の中から拳を構えながら神威の目の前に現れた。

神威はすぐさま後退するが鬼神は距離を離さず神威に迫ると、鬼神は右腕を神威の胸部へと伸ばしてきた。

「させるかぁッ!」

神威の右腕に膨大な電気が流れ、瞬時にプラズマを手の平に作るとそれで鬼神の右腕を弾く。

だが鬼神は右腕が弾かれたのを利用して機体の回転させ、その遠心力を使い右足を伸ばす。

回し蹴りを受けた神威は何とか持ちこたえたが、鬼神は綺麗に着地した後地面を強く蹴り上げ神威の背後に回る。

「クソッ!速すぎる……!」

羅威も負けず劣らず機体を回転させ回し蹴りをしたが、鬼神は簡単に受け止めると神威の足を持ったまま回転し始める。

そのまま鬼神は手を放すと神威はまだ崩れていない高ビルへと投げ飛ばされ激突した瞬間一気に崩れて落ちた。

瓦礫に埋まり動く気配が無い神威、鬼神は止めを刺そうと神威目掛けて跳んで行く。

そして神威の胸部を貫こうと腕を振り上げた時、無数のレーザー砲が鬼神目掛け放たれた。

その攻撃も難なくかわす鬼神、よく見れば1機の青白い機体が鬼神の前に立ちはだかった。

「何をやっているんですか!今はERRORを倒すのに専念してください!」

フェリアルからの通信でレンの声が鬼神に乗る愁に聞こえてくる、すると愁は分かったのか、小さく頭を下げるとその場から姿を消した。

恐らくERRORを倒しに行ったのだろう、フェリアルは神威の上に乗っている大きな瓦礫をのけると、

神威の手を握り締めて勢いよく引っ張り、何とか機体を立たす事が出来た。

「羅威さん、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。それよりお前は何故ここに……」

「私の機体を赤城隊長が持ってきてくれてたんですよ、だからそれに乗って……」

「そうか、それであの赤鬼は何処に行った?」

「ERRORを倒しに別の場所へ向かいました、私達もERRORを倒しに向かいましょう!」

目の前にいるのは玲ではなくレン、今は余計な考えは無しで戦う事に真っ当した方が良いと考えた羅威は頭を2、3回横に振ると操縦桿を握り締めた。

「……わかった、今はその方が良さそうだな」

今この状況ではNF・BN・SV、共に争っている場合ではない。

町に溢れていたERRORは甲斐斗の乗る『魔神』と、愁の乗る『鬼神』が一掃していく中。

羅威の乗る神威と、レンの乗るフェリアルも次々にERRORを殺していく。

赤いリバインと、軍のギフツやリバインは逃げ遅れた民間人を助け出し、被害を最小限に抑えようとしていた。

「ERRORの数が少なくなってきている、このまま行けばもうじき戦闘も終わるな」

赤城がそう言いながら甲斐斗の乗る魔神の元にたどり着く頃には、町中ERRORの死体で溢れ返っていた。

「んでも、何で今になってこんなにERRORが出てきたんだ?」

甲斐斗はまだ息のある死に損ないのWorm態に剣を刺し込んで止めをさすと、剣を地面に突き刺しレーダーに目を向けた。

「さあな、だがERRORには知能がある。この場所にこれだけのERRORが来た理由が必ずあるはずだ」

「赤城少佐、こっちは終わりました」

レーダーにERRORの反応が消えたのか、レンと羅威が甲斐斗達の元に帰って来る。

赤城はすぐさまレンと通信を行なう、赤城は安心したような顔でレンを見つめていた。

「レン、無事で良かった」

「赤城少佐……心配かけてすみませんでした。懲罰の覚悟は出来ています」

「そうだな、帰ったらたっぷり説教してやる。覚悟しておけ」

どうやら戦いは終わったらしく、銃声が聞こえたり爆発の起こる音などは聞こえてこない。

「さーってと、戦いは終わった。羅威、BNの基地まで案内してもらうぞ」

「ああ、わかっている、だがもう一度レンと話しが……」

その時、町にいた機体のレーダーに一つの反応が示された。

高エネルギー反応、恐らく機体であろう、しかし何処の機体だ、NFか、BNか、SVか。

反応は甲斐斗達にいる場所のすぐ前からだった、しかし地上には何もないし、誰もいない。

咄嗟に甲斐斗は回りにいた赤城や羅威、レンに一斉に呼びかける。

「お前等!地下から高エネルギー反応を確認!戦闘準備しとけよ!」

甲斐斗の声に全員が反応のある場所に機体を向かせて戦闘態勢に入る。

魔神は黒剣を構え、リバインはLRBを構える、フェリアルはフェアリーを自分の周りに飛ばし、神威は両手にプラズマを溜めていた。

「っへ、この面子なら負ける気がしねえな」

これだけ優秀なパイロットが揃っていれば甲斐斗の気持ちもわかる。

「油断をするなよ、甲斐斗」

だが赤城は冷静に敵を待ち構えていた、エネルギー反応が段々と近づいてくるにつれて操縦桿を握る力が強くなる。

地中から突如巨大なレーザーが飛び出し、地面に巨大な穴を開ける。

その強烈な閃光で視界を遮られ、上手く前が見えない。

光りが消えて少しずつ目蓋を開いていくと、4人の前には1機の機体が現れていた。

茶色い装甲をしており、肩には巨大な大砲が装備され、両手にはそれぞれ1本ずつ刀が握られている。

「何だあの機体は、ERRORではないみたいだが……」

羅威が機体を確認してみる、茶色い機体は動かずにこちらの様子を窺っているようだ。

「甲斐斗、どうする、奴を攻撃するのか?……おい甲斐斗、どうした、返事をしろ」

羅威が幾ら呼びかけても甲斐斗は返事をしなかった、いや……しないと言うより、出来なかった。

羅威を除く三人には見覚えがあった、茶色いコーティングされ、肩には大砲付いてて、2本の刀を握り締めているその機体を。

「大和……だと……」

赤城の口から言葉が漏れる、あの時、EDPで消えたはずの大和が今目の前に立っている。

機体は無傷の状態であり、おかしな所など何処にも見当たらない、正真正銘の大和が今ここにいるのだ。

「武蔵なのか……?」

続けて赤城は口を開く、それも大和との通信を繋げてだ。

映像は映らない、音声のみ、大和が無傷でいるのであれば、大和に乗っているパイロットは、もしや……。

しかし、通信を試みるもののパイロットは何も答えない。

「武蔵!返事をしろッ!お前なんだろ?その機体に乗っているのは武蔵、お前何だろ!?」

その時だった、大和の右肩に備え付けられている大砲の先が光り輝き始める。

リバインは武器をその場に捨てると、大和の方に歩いていく。

「武蔵、お前は帰ってきたんだよな……私達の元に……」

「あの機体何かぶっ放す気だぞ!全機あの機体から離れろ!赤城!お前も早く!!」

甲斐斗の怒鳴り声がレンと羅威に聞こえた、二人の機体はすぐさま大和から離れるが、赤いリバイン離れる事無く歩き近づいていく。

「武蔵、武蔵……」

赤城が手を伸ばす、そこには大和が、武蔵がいると信じて。

「おい!離れろって言ってんだろがッ!」

すぐさま機体を動かし甲斐斗の機体が赤いリバインを強引に捕まえると一気に大和から離れていく。

その瞬間、大和の右肩の大砲に溜められていた力が放たれた。

今まで見た事の無い巨大なレーザー砲は一瞬にして町の半分を飲み込み、巻き込んだもの全てを破壊した。

ビルの残骸や瓦礫、川や公園、全てが吹き飛ばされ、跡形も無く消えている。撃ち終えた射線上に広がるのは焦げた土だけだった。

「何なんだあの機体は……たった1撃で町を……」

羅威にとっては初めて見る機体だが、その威力と火力には度肝を抜かれた。

「あれは伊達中尉が乗っていた機体、どうしてこんな所に!?」

大和の一撃が町を壊滅させた事にレンも戸惑っていた、もし大和に乗っているのが武蔵であれば、こんな事は絶対にしない。

「ただ一つハッキリとわかる事があるな」

赤いリバインを安全な場所に下ろすと、甲斐斗は大和の方に機体を向けた。

「あいつは……敵だ」


───博物館は瓦礫の塊となっていた、その瓦礫の上には一人の女性と、一人の青年が立っている。

「少しは面白くなってきたね、この世界も」

男性の口は微笑んでいるが、目は笑っていない、その真っ直ぐとした目は崩壊した町を眺めている。

その隣にいる女性は崩壊した町ではなく、甲斐斗達の様子をじっと見つめていた。

「アビア、この世界好きー」

「僕も好きだよ、だからもっと好きになる為に変えていこう。世界を」


お陰様でDeltaプロファイルは無事50話を迎える事が出来ました。

これも読者様がいてくれたから頑張って書く事が出来ました。

50話まで作品を読んで貰えて私もとても嬉しいです、ありがとうございます。

感想・評価等も募集していますので、気軽に書いていってくれると嬉しいです。

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