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第5話 混乱、崩壊

「難しい本ばっかりだな」

 甲斐斗は今、基地の中にあるは図書館にいた。

 もちろん見張りつきだが、本ぐらいは読ませてもらえるらしいので来てみたのだ。

 何千何百という本が本棚に並べられてあり、甲斐斗は適当に本を手に取ってページを捲ってみる。

 しかし、色々な本を見てみるが、お目当ての本が全く見つからない。

 仕方が無いので自分の見張りをしている若い兵士に聞いてみる事にした。

「あ、ちょっといいですか、探してる本が中々見つからないんだけど」

「ん? どんな本を探しているんだ?」

「絵本」

 甲斐斗の一言に兵士は固まった。それはまるで笑いを堪えるかのようだった。

「絵本だと? 馬鹿が、ここにそんな本が置いてあるわけ無いだろ」

「そうか、んじゃ眠ってくれ」

 馬鹿され、見張り態度に腹が立ってきたので取り合えず甲斐斗は兵士の腹を殴り気絶させてみた。

 どうやら一撃で効いたらしく、図書館の隅でぐったりと倒れてしまう。

(だらしない兵士だ、腹に一発打ち込まれただけで倒れるとは。さて、これからどうするか……)

 甲斐斗にとってこの基地は居心地が悪すぎる、この基地に心残りは無い、と言えば嘘にはなる、セレナの事だ。

 心のどこかで引っかかっていた。もう一度セレナに会いたい。

 確かにこの世界のセレナは甲斐斗の知るセレナとは全くの別人、勿論甲斐斗もそんな事は分かっている。

(……でも、まぁ。少し様子を見に行くぐらいならいいよな……)

 甲斐斗は誰にも見つからないようこっそりと図書館を抜け出しセレナのいる医務室へと向かった。

 兵士に見つからないように慎重に移動していき、やっとの思いで医務室へと辿り着く。

 医務室の扉を少しだけ開けて中の様子を窺ってみる。

 どうやら誰もいないらしい、甲斐斗は物音をたてず静かに医務室の中に入った。

 部屋の真ん中には白いテーブルが置かれており、その席に腰を下ろす。

 少しだけ待ってみるものの誰も来る気配が無い、もう一度回りを見渡した後甲斐斗が部屋を出て行こうとした時。奥の部屋からカルテを手に持ったッセレナが医務室に戻ってきた。

「あ、貴方は……」

 セレナは驚いた表情で甲斐斗を見つめ、同様に甲斐斗もセレナを見つめていた。

 例え別人だと分かっていても、やはり実の姉の瓜二つの姿を見ると、どうしても自分の知っている姉の姿を重ねてしまう。

「姉さん、会いたかった」

「私も……貴方から来てくれるなんて」

(姉さんも俺に会いたがっていたのか? まぁ、病院から出て基地に来た後は会ってなかったしな……)

「そうだ。プレゼントがあるの。ねぇ、少し目を瞑っててくれないかしら」

 セレナさんは両手の指を合わながら、そう言って笑顔を見せてくれる。

「え、うん。いいけど」

 言われるまま甲斐斗は目蓋を閉じると、どんなプレゼントが貰えるのか内心少し期待していた。

 何度も何度も心の中で確認するが、目の前のセレナはただ実の姉でもなければ他人。

 だが、それでも甲斐斗は少なからずセレナと話せる事に満足しており、出来ればこのままずっと側にいたいとえ思ってしまう。

 何か物音が聞こえてくると、ふと硬い物が自分の額に当てられた。

「さようなら」

 呟かれたその悲しい一言に、甲斐斗はつい閉じていた目蓋を開けてしまった。




 それと同時に、ある計画が実行されていた。

 『作成開始です、先輩は出撃してください』

 その言葉にを危機、機体の操縦席に乗っている青年、羅威は作戦を決行する。

「了解した、『我雲がうん』出撃するぞ」

 作戦決行の時間が来た、既に準備が整っていた為すぐに動ける体制であった。

 羅威が我雲の電源を入れると。画面上に様々な情報が現れ、作戦命令もそこに書かれていた。

 操縦席のモニター上に現れる少女の姿、無線機の声の主である。

『先輩、無事を祈ります』

 怒ったような口調だが、何処か不安な表情を見せる。

『あ、言っておきますけど。別に心配してません、先輩なら大丈夫だって、信じてますから』

 少女はそう言って羅威を見つめると、羅威は微笑み頷いてみせる。

 するとモニターの向こうにいる少女は急に顔を赤らめてそっぽを向いてしまった。

「了解、生きて戻ってくるさ」

 その言葉の直後、モニターには別の女性の姿が映し出され、通信が繋がれる。。

「羅威、準備は良い?」

「大丈夫だ。それよりエリル、この作戦は新型のテストもある。気合入れてけよ」

 羅威と会話する紫色の髪が特徴的な女性、エリルは笑みを浮かべて頷くと、力強く親指を立てて見せる。

「そんなの言われなくてもわかってるって、さぁ行くわよ!」



 BNの機体が動きを見せ始める、その動きにNFは直ぐに察知すると、素早く対応してみせていた。

『レーダーに反応有り、BNの機体を確認しました』

 放送は東部軍事基地全域に響き渡り。NF軍のギフツが次々と格納庫から出撃していく。

「相手は一機、何かの罠かもしれない。各機気をつけよ」

 一人の隊長らしき人物が各機に通信を交わす。

 各機に指示が送られた『敵機体の周りを囲み、撃破か捕獲する事』。

『我雲』とはBN軍の主力の機体であり、全身を灰色にカラーコーティングされている。

 BNの機体は真正面から東部軍事基地に接近してきており、更にたった一機での無謀とも言える特攻により、NFの基地から出撃した六機のギフツにスグサマ囲まれていしまい、銃口を向けられてしまう。

 するとBNはあっさりと観念してしまい、我雲は機体の出力を止めるとその場に止まってしまう。

 我雲はまったく抵抗を見せない、明らかに罠である可能性が高い為にNF機も警戒しながら少しずつ近づいていく。

「こいつ、何故単機で基地に接近してきたんだ?」

「分からん。だが馬鹿な奴だな。一機で東部軍事基地を攻めにくるなんて、笑っちまう──」

 喋っていた一人の兵士からの通信が途絶える、兵士の乗るギフツの腹部に剣が突き刺さり、爆発を起こしたのだ。

 その場にいた兵士達は何が起こったのかわからず、ただ爆発するギフツをモニターで見ていた。

「たっ、隊長!? これは──」

 そしてまた一機、隣にいるギフツが爆発を起こす。

 目の前にいる我雲は動いていない、しかしNF軍の機体は次々に破壊されていく。

『こちらルフィス、一体どうしたのですか?!』

 東部軍事基地のオペレート室からルフィスの通信が入る。

 レーダーにはNFの機体の反応が六つあったにも関わらず、たった数十秒でNFの機体の反応が三つにまで減っていた。

 ルフィスのモニターに兵士の姿が映し出される。

「わからない!突然味方の機体が───」

 その瞬間、一本の剣が操縦席を貫き、モニターに映っている兵士が巨大な剣で殺される。

『各機撤退してください! レーダーで探知できない何かがそこに……』

「ぐぁあああッ!」

 聞こえてくる兵士の断末魔、そしてその死ぬ瞬間を目の当たりにするルフィス。

 その光景を見て咄嗟に一瞬吐き気に襲われ口を押さえるように手を翳した。

 我雲の周りを囲んでいたギフツの姿はもう無い、全機破壊され、爆発炎上をしている。

 さっきまで動きを見せなかった我雲、また東部軍事基地に接近していく。

「一瞬で六機のギフツが……」

『ルフィス、出撃するからハッチを開けて』

 オペレート室のモニターに武蔵の姿が映し出される。

『待ってください、上からの指示を待たなければ』

「指示を待ってる暇なんて無いよ、あの機体を止めないと」

『し、しかし』

「ルフィス、頼む」

 真剣な目つきでルフィスの目を見つめてくる。

 その緊迫に押され、出撃を許可してしまう。

『わかりました』

 ルフィスがスイッチを押して格納庫のハッチが開かれる。

 武蔵の乗る機体が出撃し、我雲の下に向かう。


 その様子を何人もの兵士達が席に着いて司令室で見ている。

 兵士達の後ろにある大きな座席では、何人もの立派な軍服に身を包んだ方が座っていた。

「こちらの機体が一機で現地に向かっています」

「何ぃ? 何処の馬鹿だ、指示も出していないというのに」

「相手は一機だろうが! 何故六機のギフツが撃墜された!?」

『恐らく光学明細付きの機体だと思われます』

 司令室のモニターに武蔵が映し出され、司令室にいた兵士達の視線が一斉に集まる。

「出撃したのは貴様か伊達中尉! 命令違反だぞ!」

『分かっています、処罰は後で受けますが、先ずは的確な指示を出した方が良いのではないですか? 明らかに罠だと分かる状況で六機ものギフツを向かわせるなんて、案の定全滅しました。これは貴方達上の責任ですよ』

「貴様、上官に向かってそんな口を聞いたらどうなるか、わかってるのだろうな?」

「……はぁ」

 司令室のモニターに映っていた武蔵の映像が消える。

 武蔵と言い合っていた軍人は自分より位の高い人達に頭を下げ始める。

「見苦しい所をお見せして申し訳ありません……」

 上官席に座っている軍人達が次々に口を開き始める。

「全くだ、東部は見苦しい。噂どおり最低の軍部だ」

「命令を平気で違反するような兵士しかいないのかね? ここは……」

 その言葉に返す言葉も見つからず、兵士達は頭を下げ続けていた。


 東部軍事基地に確実に近づいていく我雲、その先に武蔵の乗る機体が待機していた。

 武蔵は機体の背中に付いているLRSと呼ばれる超振動により物体を切断する最新の武器である剣を抜き取る。

 ゆっくりとLRSを構え、真正面から近づいてくる我雲を待つ。

 そのリバインを見ていた羅威は機体を加速させると、無線を繋げエリルと通信をはじめた。

「NF主力機の登場だ、エリル。頼んだぞ」

『任せなさい、一撃で落としてやるわよ!』

 羅威の乗る我雲が更に加速して行き、武蔵の乗る機体に向かって行った。





 その時、基地内では二つの出来事が起きていた。

 一つは医務室にいる甲斐斗に起きていた。

 セレナから呟かれた言葉に甲斐斗が目蓋を開けた直後、銃声と共に頭に痛みが走る。 

 甲斐斗は激痛に耐えながらもゆっくりと目蓋を開けたるが、視界が悪く目に見える光景は赤色に滲んでいた。

 その赤い視界の中を目の前にいる自分に引き金を引いたセレナの姿を見る。

「姉さん? どうして……?」

 流血する左目を抑えながら甲斐斗はそう問いかけるが、セレナは震える両手で拳銃を構えると声を荒げた。

「喋らないで! 貴方は……貴方はカイトじゃない!!」

 又も引き金は引かれ、今度は甲斐斗の右肩を撃ち抜いた。

 甲斐斗は撃たれた反動で椅子から転げ落ちる、それでも甲斐斗はずっとセレナの方を見つめていた。

「ぐっ……何故……」

「あ、貴方は! 皆の心を……私の心も踏みにじった! だからッ!」

 その言葉を聞いて甲斐斗に戦慄が走る、自分の本物の弟ではないとばれているからだ。

「皆の事をずっと騙して、カイトのふりをしてきたなんて、許せないッ!」

 セレナの怒り満ち溢れた目からは涙を流していた。

 銃口は甲斐斗に向けたまま、またいつ発砲してもおかしくない。

「どうしてそれを……」

「残念だったね、偽者さん」

 セレナの後ろから男の声が聞こえてくると、その男が甲斐斗の目の前に現れる。

「なっ」

 甲斐斗は一瞬息を呑んだ、自分の目の前に現れた男が自分と全く似た男だったからだ。

 そしてそれが意味する事とは簡単な事、その男こそが正真正銘の『カイト・アステル』なのだから。

「お前、死んだはずじゃ!?」

「僕は死んでいない、BNに捕まっていただけだよ」

 その言葉にてっきり死んだと思っていた甲斐斗に言い知れぬ感情が押し寄せてくる。

「僕はなんとかBNの目をごまかして脱走、ここに戻って来たって訳さ。まさか僕のスパイがここにいるとは思ってなかったけどね」

 アステルは上着の内ポケットから拳銃を取り出すとその銃口を甲斐斗の頭に向ける。

「姉さんの気持ち、皆の気持ちを踏みにじったお前を、僕は許さない!」

「ま、待て。俺は……」

 今更本当の事を話した所でどうにかなる状況ではなくなっていた。

「安心して、次の一発で楽にしてやる」

 アステルが銃を構える。銃口の先は頭部、甲斐斗の頭を一発撃ち抜く気だろう。

「待てって、俺はお前の敵じゃ……」

「言ったはずだ、許さないと」

 その指は躊躇い無く引き金を引く。だが撃たれた弾丸は甲斐斗の頭部には当たらず、頬を掠めるだけだった。

「……姉さん?」

 驚いた様子でアステルが首を傾げてしまう。

 何故ならアステルの横にいたセレナがアステルの腕を両手で押さえていたのだから。

「止めて、止めて……。カイトを殺さないで、二人は確かに違うけど、やっぱり目の前でカイトが死ぬのは嫌……」

 セレナの心中もわかる、例え中身は違ったとしても外見は同じ。

 セレナから見れば自分の弟が殺される所など見たくも無い。

 先程より冷静になったセレナは自分のしてしまった事を悔いていていたのだ。

「わかったよ、姉さん。姉さんの見えない所で始末する」

 アステルは甲斐斗の足を掴むと、もう一つ隣の部屋に引きずっていく。

 医務室の隣の部屋、薬品棚が並んでいる部屋。引きずられた後は甲斐斗の血で汚れていった。

 セレナは膝をつき、両手で顔を隠しながら泣いている。そのすすり泣く声が二人の耳にもかすかに聞こえてくる。

「最後に一言言いたいなら、聞いてあげるよ」

 その言葉を聞いて甲斐斗は座ったまま壁にもたれ掛かり、へらへらと力無く笑った。

「良かったよ、お前が生きてて」

「えっ?」

「お前死んだら、姉さん悲しむだろ」

「何を言っている、お前の姉じゃない、僕の姉さんだ!」

 頭に銃口を向けて狙いを定めるアステル。その手はかすかに震えていた。

「じゃあ感謝するんだな、その姉さんに」

「何?」

 アステルが動揺した素振りを見せた時。

 甲斐斗は下を向いたまま素早くその場からたち上がった。

「もしお前がセレナの弟じゃなけりゃ、俺に殺されてたよ」

 甲斐斗の右目が赤く光り、不敵な笑みを見せる。

 その表情にアステルの体が固まってしまう。そして彼の握っていた銃が真っ二つに斬り落とされる。

「な……っ!?」

 甲斐斗の右手には巨大な黒光りする剣が握られていた。

 そして、その刃先がアステルの首に突きつけられる。

「本当は殺したいが、セレナの悲しむ姿は見たくない。生きろ、絶対に生きて姉を泣かすな。泣かしたら俺が殺す」

 甲斐斗の右目はアステルの両目を見ていた。

 その眼で睨まれたアステルは身動き一つとれない。

 だがそれは甲斐斗も同じだった、左目の激痛が更に痛みが増してきており、意識が朦朧としていた。

「教えてやるよ、俺の名は甲斐斗、別の世界から来た人間だ」

 アステルの首に突きつけていた剣を放し、部屋の壁を手に持っている剣で破壊し穴を空ける。

 壁は騒音と共に大きく穴を明け、その穴を伝って隣の部屋に移動していった。

「一体あいつは……」

 しばし放心状態のアステル、何も無い空間から剣が現れた事も信じられないが、彼自身何者なのかがわからなかった。

 だがセレナの事が気になり隣の部屋に戻ると、セレナは一人座り込んで泣いていた。

「大丈夫、僕は死なないよ。姉さんを一人にはさせない」

 セレナの体をそっと抱きしめるアステル。

 それと同じようにセレナもアステルを抱きしめ返した。




 そして基地で起こっていた二つ目の出来事。

 基地内の通路にはNFの軍服を着ている何人もの人が血塗れで倒れていた。

 その中を一人、白銀の髪の青年が歩いている。

 すると青年の右腕についている機械が突然音を鳴らし、女の声が聞こえてきた。

『若様、羅威とエリルは無事に作戦を遂行しているもようです』

 青年は何も答えずにただ歩き続ける。

 両手に血塗られた2本の細い剣を持ち、奥の部屋へと向かっていた。

 その時、横の通路から数人のNFの軍人が姿を見せた。

 が、兵士が気づいた時、青年の握られている剣が兵士の喉を貫く。

 隣にいた兵士がその事に気づく間にもう一本の剣で兵士の胸を貫いた。

 青年は足を止めず、何事も無いように歩いていく。

 さっきまで生きていた兵士は既に即死、苦しむ暇も無く死んでいった。その時、剣を持つ青年の後ろに人影が現れる。

「全く、ここの兵士は弱すぎるなぁ、紳さんもそう思いますよねー」

 後ろからきた青年は剣を持つ青年に話しかけるが無視されてしまう。

穿真せんま、貴様のような若造が若様の名を容易く言うなッ!』

 穿真の腕に着いている装置には先程紳に話しかけていた女の声が聞こえてきた。

「げ、聞いてたのかよ」

『当たり前だッ! もし今度無礼な事を言ってみろ! その時は私がこの手で貴様を───』

「セーシュ、静かにしろ」

 さっきまで何も言わなかった青年が口を開いた。

 そして奥の部屋の扉へと辿り着く。

「邪魔するぜーっ!」

 穿真が司令室の中に入り、その後に紳が司令室に入る。

 声と共に、司令室にいた軍人達が一斉に声の方を顔を向ける。

「な、何だ貴様はッ!」

 紳は顔色一つ変えない、司令室にいた兵士達が一斉に銃を構える。

「風霧紳……と、言えばわかるだろ」

 その名前に司令室にいた兵士達が全員反応を示した。

 一人のNFの幹部らしき人間が声を上げる。

「BNの創始者がこんな所に何をしに来た! 見張りは一体何をしているんだ!?」

 その言葉にいち早く反応を見せる穿真。

「いや、俺もいるんだけど。まぁいいや、話しがあってここに来たんだ」

 穿真が懐から数枚の折りたたんだ書類を取り出すと、その書類をNF東軍の幹部に渡した。

「ERRORについての書類か?」

「その通り、そこにも書かれている通りに。奴等は繁殖して莫大に数に増やしてきてる」

「それで、我々NFの力を必要としているのかね?」

「簡単に言えばそう言うこと」

 場は静まり返っていたが、ふつふつとNF幹部の笑い声が聞こえてくる。

「何を突然と思ってみたら、そんな馬鹿げた事か!」

 渡された書類を破り捨てる幹部。

 破られた紙は宙を舞いながら紳の足元に落ちる。

「ERROR掃討作戦は既に進められているのだよ、貴様BN等の手を借りずともな」

「我々は誇り高きNFの軍人、目的は全世界の平和」

「武器を持たない理想の世界を作り上げる組織なんだぞ?」

「だが、それを邪魔するのが貴様等BNだ」

 座席に座っていたNFの幹部達が立ち上がり、紳の前に出て行く。

 すると紳を守るように穿真が前に出ると、NFの幹部達の話を納得がいかずに反論してみせる。

「邪魔なんてしてねえだろ! むしろお前達が俺達を勝手に攻撃してきてんじゃねえか! 邪魔してんのそっちだろ!」



「穿真、もういい。NFに告ぐ、世界平和の実現、そしてERRORを止めるは俺達人類が力を合わせなければならない。お前達は今我々と協力を誓わなければ未来は無い」

 両手の剣を構える紳、それと合わせて二人を囲んでいる兵士達が銃口を紳と穿真に向ける。

 NFの幹部はニヤニヤと笑みを見せながら勝ち誇った顔をしていた。

「安心しろ、お前の死でBNとNFの決着は終わる、奴等を撃てッ!」

 その命令に、その場にいたNFの兵士達は何の反応も示さない、誰一人として引き金を引こうとしない。

 その場が固まってしまったかのようである。

 NFの幹部達は何が起こったのかわっていない。

「ど、どうした? 奴等を撃つのだ、命令だぞ! 奴が死ねばBNは壊滅し、もはや敵はいなくなる! 早く撃てッ!」

 慌てふためいているNF幹部をよそに、紳は冷静に右腕についている装置で無線を使う。

ゆい、今の会話を全て聞いたな。これで理解したか?」

『えっと、それは……』

「返事が無いぞ」

『は、はい……』

 少女の小さな返事と共に、無線の電源を切る。

 司令室にいるオペレーター達が一斉に立ち上がり、中央にいるNF幹部達に銃口を向ける。

 そして紳達を囲んでいた兵士達も一斉に幹部達に銃口を向ける。

「な、何故我々に銃を向ける!?」

 穿真がその光景をケラケラと笑いながら見つめている。

「うっわ、まだ気づいてないのか? このおっさん達鈍いねぇ。ここにいる兵士達全員BNだけど?」

 一瞬にして顔色が青ざめるNFの幹部。

 紳が幹部に背を向け、司令室から出て行こうとする。

 それに続いて穿真もニヤニヤと笑みを見せ、後ろからついていく。

 司令室の扉が開いた時、紳が言葉を漏らす。

「殺せ」

 司令室を出て扉が閉まった瞬間、司令室の中で一斉に銃声が鳴り響く。

「言ったはずだ。協力しなければ未来は無いと……」

 そう呟きながら紳は顔色一つ変えず、次の部屋へと向かっていった。



 その司令室で起きた異変にいち早く気づいたのがルフィスだった。

 いくら無線で呼びかけても司令室からは全く応答が来ない。

 司令室で何か起こったのか、だとすれば警報が鳴るはず。

 だがその時だった、けたたましい警報音が東部軍事基地に鳴り響く。


 その警報に一番驚いたのは基地から逃げ出そうとしていた甲斐斗だった。

(警報が鳴り響いている、厄介ごとに巻き込まれる前にこの基地から脱獄したかったが、何だよ、これ……)

 甲斐斗が通る通路に何人もの兵士達が殺されていた。

 近くの部屋に入ってみると、その部屋の中にも死体が転がっている。

(普通に殺されすぎだろ、この基地の兵士は何をやってやがる。まぁ死体に構ってる暇なんて無いし、それにこれは俺にとっては好機だ)

 またややこしい事が起きる前にさっさと逃げるしかない。そう思いながら甲斐斗は包帯で顔を覆い左目を隠しているが、既に包帯は赤い血に染まっており、右肩からも血が流れ痛みで若干意識が飛びそうだった。

 その痛みに耐えながらも甲斐斗は基地から出ようとしたが、その前に少女が閉じ込められている牢獄へと急いでいた。

 見張りをしていた兵士すらその場から消えていたのは幸いだった為、何の苦労もするとなく少女のいる牢屋へと来る事が出来た。

 甲斐斗が手元に剣を出し、檻を軽々とぶった切ると、牢屋の片隅で寝ている少女を発見、早速声をかけてみる。

「おーい、起きろー。おーい」

「ん、ぅ……」

 眠そうに甲斐斗の声に反応を示している。

(あ、眠ってくれてたほうが上手く逃げれそうな気もしてきた)

 そう考えながら甲斐斗は手元から剣を消し、眠り続ける少女を背負うと基地から逃げる為に全力で出口へと走っていった。


正式名MFE-我雲がうん(BackNumbers製)

全長-17m 機体色-灰 動力-光学電子磁鉱石

機体の性能はほぼギフツと同じであるが、外見は多少違う。

BNの兵士達は主にこの機体に搭乗する。

特徴:腰の左右に付いてあるハンドグレネード

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