第47話 阿修羅、誇り
BNの艦隊を一瞬で壊滅させた機体は地上に落ちると、黒い煙を上げていた。
恐らくまだ未完成の試作機なのだろう、そのまま動きを見せなくなり機能が停止してしまう。
あの悍ましい力を見せ付けられたBNは基地を放棄、基地に残っていた兵士達が全員艦に乗り込むと、戦艦は戦場から離脱していく。
だが、全ての戦艦が離脱した訳ではない。時間稼ぎの為に我が身を犠牲にする部隊が多く存在していたのだ。
紳の命令に逆らい、逃がす為に数多の敵機と戦うBNの兵士達。
当然相手の圧倒的な火力に成すすべも無く壊滅させられたが、紳達が逃げる時間は少しだけ稼ぐ事が出来た。
「フィリオお嬢様、BNの兵士達が撤退しています。どうなされますか?」
シャイラの応答にフィリオは答えた、その答えは今戦っているNF、SV全ての兵士に届く。
「全軍、撤退しているBNの追撃を行なってください、今日でBNとの争いを断ちます」
「「了解ッ!」」
フィリオの命令を聞いてSVの全兵士が敬礼すると、機体を発進させ、撤退する戦艦を機体達が追う。
「アリスお嬢様、先ほどの戦闘で怪我はしていませんか? 体調の方は───」
「私は大丈夫だから心配しないで、それよりBNはこのまま行くと海に出るんじゃないの?」
「す、すみません。えっと……そのようですね、海を出て進むと島に辿り着き、そこにBNの軍事施設があります」
「って事はその施設に逃げてるって事ね。全くBNもしぶといわねぇ」
アリスが腕を組みながら不機嫌そうにしていると、ゼストからの通信が入る。
「シャイラ、アリス。今の内に休め」
「ゼストー、私は大丈夫だから心配いらないわよー」
「休め」
ゼストはいつもの様に無表情な顔でそう言うと、アリスは不満そうな顔をしてシャイラと通信を繋ぐ。
「な、何よ。せっかく頑張ろうとしてるのに。もういいわよ! シャイラ! 休憩するわよ!」
「畏まりましたアリスお嬢様、艦に戻りましょう」
ガンナーと桃色の機体がフィリオのいる一番巨大な戦艦に戻ると、ゼストの乗る機体も一緒に戦艦へと戻る。
「あれ、ゼストも休むの? 珍しいわね」
「本戦は海を出て島に辿り着いてからだ、そこでBNとの決着を付ける」
「だから今の内に機体の整備とかしようとしているのね」
「そういう事だ」
「あ、そうだ。ねぇゼスト。あのBNの艦隊を一掃した機体ってNFが作ったの?」
「ああ、だが。SVにはあの機体についての情報は一切無い」
「へー、NFってすごいわね。あんな機体を開発するなんて」
NFの技術力にアリスが驚いていた頃、既に戦艦にはアストロス・ライダーも着艦しており、斬り落とされた腕を修理していた。
葵とエコは機体から下りた後一度休憩室に戻り、自販機で飲み物を買っている最中だった。
「あ、所で愁はどうしたんだ? 最初無茶な特攻してから一度艦に戻ったらしいけど、そのまま全然見てなかったからなぁ」
「さぁ……寝てるんじゃないの……?」
「そんな訳無いだろ、こんな状況下で暢気に寝れる訳ねーし」
「冗談よ……」
「まぁ、案外本当に寝てたりしてな」
そう言って自販機から出てきた缶ジュースをエコに向かって放り投げると、エコは簡単にキャッチしてみせた。
そして澄ました表情で缶ジュースを開けると、缶の中身が炭酸で噴出し、エコの顔をびしょ濡れにしていく。
「ちょ、あははは! おもしれー! お前飲む時何なのか確認してから開けろよなぁ! っぷははは!」
腹を抱えて大爆笑する葵に対し、エコは濡れた顔面を拭くことなく鋭い目付きで葵を睨み続ける。
「あはは……ほ、ほら。そんな睨んでないで早く顔拭けよな」
葵は苦笑いしながらポケットからハンカチを取り出すと、エコの濡れた顔を優しく拭いてあげるのだった。
その頃、NFの艦に戻った赤城はすぐさまレンのいる休憩室へと足を運んでいた。
休憩室には入ると、レンは椅子に座り俯いていており、その顔に元気は無い。
「レン、大丈夫か?」
赤城が呼びかけるがレンは反応を示さず俯いたままずっと足元を眺め続けている。
「しっかりしろ、レン!」
そう言てレンの両手を掴むと、レンはようやく赤城に気付き小さく返事をした。
「は、はい。すみません……」
「一体どうしたんだ? 事情を私に話してくれ」
赤城はレンの掴んでいた肩から手を放すと、じっとレンを見つめる。
レンは顔を上げて赤城を見ていたが、その目は赤城を見ていなかった。
「何でもないです、すみません、少し驚いてしまっただけで……」
目の焦点が定まらず、不安な表情を浮かべながら必死に喋っているレンを見ていた赤城は突然しゃがみ込むと、そのままレンを抱きしめる。
その行動にレンは驚いていたが、赤城は目を瞑ったままそっと口を開く。
「死ぬのが、怖いか」
「っ……はい、怖い……です……」
この言葉が言えたからか、今までレンが溜めてきた涙が止め処なく流れ出した。
死に直面して初めて分かる本当の怖さ、恐ろしさ。戦場で人は簡単に死ぬという事を。
「すみま、せん。私、怖くて、こわ、くって……ううっ……」
レンの涙が赤城の肩へと頬を伝わり落ちていく、赤城はレンの頭を優しく撫でると瞑っていた目を開いた。
「恥じるな、怖くて当然さ。死ぬのが怖いのは当たり前なんだ」
「で、でもっ! わた、わたしっ、私はぁ……」
レンは自分の不甲斐なさを言おうとしたが、過呼吸状態で上手く喋れない。
そんなレンを赤城は抱きしめながら背中に当てると、今度は背中を優しく撫で始めた。
「お前は兵士なのに、死を怖がる自分が不甲斐ないと思ったのだろ?」
「は、はぃ……」
「無理もない、私もお前の歳の頃はそうだった。人より少し強いから、故に自分は死なないと錯覚し、自分の弱さを知る事になる」
抱きしめていたレンをそっと放すと、今度はレンの肩に手を持って当て向き合うような形になる。
涙で濡れた顔を一生懸命軍服の袖で拭きながら、赤城の真っ直ぐとした瞳を見つめていた。
「レン、お前は死なない、死なせはしない。勿論由梨音もだ、私の仲間は誰一人死なせはしない」
「赤城隊長……!」
ら感極まりレンの目からまた涙が流れようとした時、二人の間に突然由梨音の手が出てくる。
その手には日本の缶が握られており、赤城とレンに渡そうとしていた。
「これ買ってきたよ! 皆で一緒に飲も!」
由梨音の笑顔にレンの顔も次第に笑顔に変わっていき、気付けばレンは落ち着きを取り戻していた。
「はい……ありがとう、由梨音さん!」
「由梨音にしては気が効くな、私も貰おうか」
レンと赤城が由梨音から受け取った飲み物、勿論それは由梨音の大好きなあの炭酸飲料だった。
炭酸飲料の苦手な赤城も、今回だけは文句を言わず黙って飲んでいた。
BNの戦艦『リシュード』、その艦の格納庫には先程まで戦っていた機体達が並べられ補給と修理を行なっている。
その格納庫の隣にある休憩室に第壱機動隊の隊長を除いたメンバーが揃っていた。
いつもは活気ある会話をしている部隊だが、元気が無く、皆どこか落ち着きが無い。
「クロノ、私に無理するなって言っておいて、何で自分が無理してるのよ……ばか」
黒葉花は無花果に艦まで運んでもらい何とか助けられたものの、操縦席にいたクロノは意識が不明、そのまま治療室へと運ばれたままだった。
「無理しなきゃ切り抜けねえだろうなぁこの戦争。そうだろ?」
そう言って穿真は羅威の方に目を向けると、羅威は落ち着いた様子で答えた。
「ああ、今回の戦いは今まで一番厳しい戦場になる。多少の覚悟は必要だ」
「多少って何よ、戦場では『覚悟』が必要なの。あんた今まで覚悟無しで戦ってたの?」
羅威の言った言葉に不満があったのか、香澄は羅威にそう問いかけるが、それに答えたのは羅威ではなくエリルだった。
「覚悟の無い人が今ここにいると思ってるの?」
「そうね、少なくともこいつは無いんじゃない?」
ふてくされている香澄の態度を見て我慢の限界が来たのか、固めた握りこぶしに力を込めながらエリルは声を荒げようとした時、休憩室の扉の方から少女の声が聞こえた。
「羅威先輩はそんな事ありません!」
その声の方に目を向けると、彩野が目に涙を溜めながら香澄を睨んでいた。
「貴方は羅威先輩の何を知っているんですか!? 先輩は両腕を満足に使えなくても一生懸命戦場に出ているんですよ! 戦えるんですか貴方は! 両腕を使えなくても、戦場に立てれますか!?」
「彩野、もういい。止めろ」
椅子に座っていた羅威は立ち上がり、彩野の前に出ると小さく首を横に振った。
「で、でも先輩が……!」
「俺は大丈夫だ、ありがとう」
一言言って羅威は休憩室を後にする。
それを追うかのようにエリルが後を追って休憩室を出るが、羅威の姿は何処にも見当たらなかった。
それから香澄が無言のまま休憩室から出てきたが、エリルを無視してそのまま格納庫から出て行ってしまう。
やり場の無い怒りを堪えながらエリルは休憩室に戻ろうとしたが、一人の青年が彼女を呼び止める。
「エリル、随分と機嫌が悪そうだけど大丈夫?」
「別に大丈夫だけど、ラースこそどうしたのよ。眼鏡掛けてないじゃない」
いつも眼鏡を掛けている眼鏡を外したラースは別人と見間違える程変わっているが、そんな事ラース本人は気にしない。
「少し疲れたから外してるだけさ、それより君に話しがあるんだ」
「話し? 私に?」
「ああ、回りくどく話すのは苦手だから単刀直入に言わせてもらうよ」
エリルが髪を靡かせながら腕組をすると耳を傾け、ラースは眼鏡を掛けないままエリルを見つめ口を開いた。
「この戦争、BNは負ける」
ラースの視線の先は変わらない、ただじっとエリルを見つめ続けている。
見つめられているエリルは動きが止まったまま同じようにラースを見つめていた。
「どういう意味よ、それって……」
「言葉の通りさ、BNは負ける。負けるにも二つある、全滅か、降伏のどちらかさ。BNの戦力はもう殆ど無い、海に出て島にたどり着いても。そこはもう使われていない軍事基地があるだけ。その基地を利用してNFとSVに立ち向かおうとしてるけど、それじゃ到底勝てはしないのさ」
「戦ってみないとまだわからないでしょ。始まる前からそんな事言わないでほしいんだけど」
不機嫌なエリルに火に油を注ぐような事を平気で言っているラースだが、彼の顔は真剣そのものだ。
「エリルも見ただろ? あの兵器を。あれが起動すればBNは全滅する。でもまだあの兵器は試作段階のはず、あの攻撃を放った後の起動は長い時間がかかると思う。NFとSVは島を囲みBNが逃げられないようにするはずだ。逃げれない上に基地に残っていてもあのNFの兵器の餌食になる。結果、BNは終わる」
「それをさせない為に私達がいるんでしょ!? 始まる前から諦めないでよ、それにどうしてそんな話しを私にしてくるの?」
「……無花果にはステルスフレームがある。エリルにはそれを駆使して次の戦闘を耐えるんだ。そうすれば恐らくBNは降伏、殺される事は無い」
「は……? 何よそれ……私に無理をせずにBNが降参するまで逃げていろって言いたいの?」
「そういう事になる、幾ら君達が頑張ろうともBNは負ける。無理に戦って命を落とす必要は無いのさ───っ」
微かに叩かれた音が無音の通路に響き渡る。
ラースの言葉にエリルは言葉ではなく咄嗟に手が出てしまった。
頬を叩かれたラースは黙ったまま俯いており、そんなラースを見てエリルは目に涙を浮かべながら口を開いた。
「ラース……あんた最低ね、軍人失格よ!」
顔も見たくないのか、エリルは後ろに振り返ると休憩室ではなく自分の機体の元へ向かって歩いていく。
すると叩かれたまま動かないラースは胸ポケットから眼鏡を取り出すとゆっくり耳に掛けた。
「眼鏡を外しておいて正解だったようだ……」
眼鏡を掛けた後、エリルの去っていく後ろ姿を目をやると、ラースは一人呟いた。
「軍人失格……僕にとっては最高の褒め言葉だよ、エリル」
『リシュード』艦長室、そこには紳とセーシュとダンの三人が集まり、現在の状況確認が済んだ所だった。
重い空気が立ち込める中、紳は手に持っていた資料を手に置くと静かに目を閉じた。
「セーシュ、ダン。お前達の心境を聞かしてくれないか?」
「はい、私は若様の元に付いた時から覚悟は出来ています。最後まで、若様の為に戦い抜きます」
敬礼を済ませたセーシュはダンの方に目をやると、ダンは拳銃の形をしたライターで自分の加えている煙草に火を点けて一服していた。
「俺は金さえ出してもらえば文句は言わねえ、紳。お前の心境を聞かせろ」
「……俺は最後まで戦わなければならない、俺が逃げる事は、許されない」
「それは違います、若様はBNの為、平和の為にも生き延びなくてはなりません。今向かっている基地には地下通路があります、そこから脱出を行なえばNFとSVの目を欺く事が出来ます」
「セーシュ、敵を前に仲間を見捨て、俺だけ逃げろと言いたいのか?」
「そうではありません、若様はBNの希望の光。若様無しではBNは活動できません。このような所で命を落としてはならない、BNの明日の為にもここは引くべきです」
セーシュの言っている事は間違っていない、むしろ正しい判断だ。
だが紳にもプライドがある、仲間を見捨てて生き残るぐらいなら共に戦友と戦い死を選ぶだろう。
「それに……若様が亡くなれば姫様が悲しみます。若様がいなくなれば誰が姫様を守るのですか」
その時、戦艦に振動が加わり艦内が揺れる。どうやら島到着したらしい、艦は止まらずそのまま基地のある方に向かっていく。
すると黙っていたダンが銜えていた煙草の火を消し口を開いた。
「地下通路での脱出の準備は俺がしておく。紳、後はお前が決めろ」
ダンはそう言うと艦長室を後にする、部屋にセーシュと紳の二人が残される。
セーシュに見つめられる中、紳はずっと悩み考えている、この状況下の中、どうすればいいのかを。
「降伏をすれば兵士達は助かる。戦えば負け、逃げれば兵士達が死ぬ。俺は、どうすればいいんだ……」
再び争いは始まる。
島に辿り着いたNFとSVの艦隊は次々に横に並び島を覆うような形で止まる。
完全に囲まれた今、もはや地上からの脱出は不可能となったBNは戦うしかない。
格納庫では補給と修理の終えた機体が並び、数々の部隊、兵士達は機体に乗り込んでいた。
その中には先ほどの戦闘で気を失ったクロノの姿も見える、応急処置を受けまた戦場に立つらしい。
「おいクロノ、体の方は大丈夫なのかー?」
穿真が通信をしてみると、クロノの顔色は大分良くなっており、笑えるぐらいの元気はあった。
「僕は大丈夫です、心配かけてすみません。次の戦闘ではこのような事を起こさないよう気をつけます」
無事部隊メンバーが全員揃った時、全機体に彩野からの通信が入る。
「今回は私も我雲で出撃します、この部隊のオペレーターを引き続きさせてもらいますので、皆さんよろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくお願いします! 彩野さん!」
彩野の通信に雪音も笑顔で答えると、戦艦リシュードのハッチが開く。
「暗い顔ばかりしてられねえな、羅威。気を引き締めて行くぞッ!」
穿真がそう言って艦から発進すると、羅威の乗る我雲も続いて出撃する。
「ああ、俺達の力を出し切るぞ、穿真!」
モニターには穿真の様子が映し出されているが、その横には暗い表情を浮かべたエリルが映っている。
「エリル、どうかしたのか?」
羅威は心配してエリルに通信をすると、エリルは暗い顔のまま首を横に振った。
「ううん、何でもない。行こう羅威、私達はこんな所で負けていられないからね」
戦艦リシュードに搭載されている機体が全て発進していく、その僅かな戦力でBNは何処まで戦えるのか。
レーダーには友軍機の倍に近い数の敵機の反応が示されていたが、羅威の眼に迷いは無い。
その迷いの無い目はただ見つめる、敵の位置、そして数を。勝つ為に、生き残る為に、全力で挑む。
四方から飛んで来る敵のミサイルを基地が迎撃を行い、周りに待機していたアストロスやギフツ、リバインが小銃を構えながらBNの基地へと向かう。
豊な森が広がる静かな離島だったが、轟音や爆音が鳴り、止め処ない発砲音が島中に響き渡る。
羅威と穿真が前線の真っ只中でギフツと交戦している中、敵の背後から無花果が現れ次々にギフツの背部をLRSで貫いていく。
それを狙い隠れていた香澄と雪音の乗る我雲が混乱している敵陣に特攻、合わせて羅威と穿真の乗る我雲も発進する。
完璧とも言える動きに敵の兵士達も焦り始める、本来ならBN側が焦るはず、だが戦場では死に近い者が先に焦り始める。
戦争で勝っても戦場で勝てなければ意味が無い、ギフツ達が一斉に小銃を構え引き金を引いたが空中から放たれたレーザー砲を胸部に受け次々に爆発していく。
「皆さん、この調子で少しずつ相手の戦力を落としていきますよ」
クロノがそう言って次に向かおうとした時、その場にいた全員に彩野からの通信が入る。
「皆! SVとNFの新型が来てるよ! 注意して!」
全員がレーダーの反応する方向に機体を向けると、アストロス・オーガと周囲にフェアリーを漂わしているフェリアルが迫ってきていた。
「レン、絶対に無理はするな。何かあったらすぐに戻ってくるんだ、いいな?」
BNの交戦状態になる寸前、赤城からレンへと通信が繋がれていた。
「はい、了解しました赤城隊長。すみません、無理言って出撃させてもらって」
「だからだ、すぐに私も向かう。それまで隣にいる機体の援護を頼むぞ」
レンの乗る機体の隣を飛んでいる鬼神『オーが』、レンはその機体に通信を試みると相手が通信を繋げた。
モニターには仮面を被った愁が映し出され、少し驚いてしまうレンだが構わず自己紹介を始める。
「あ、あの。私レンと言います。貴方の名前は……?」
「俺? 俺の名前は魅剣愁。よろしくね、レンさん」
話してみれば何とも普通な青年、声からして年齢も然程大差ないだろう。
「今から貴方の援護をさせてもらいます、頑張りましょう!」
「うん、頑張ろうね」
愁との通信が切れる鬼神はフェリアルの前に移動すると、我雲が立ち並ぶ場所へと突撃していく。
「全機散開! あの機体を囲み集中砲火を仕掛けます!」
その場にいた機体が一斉に鬼神から離れると、手に持っている銃器を鬼神に向ける。
だが鬼神の周りにはフェアリーが幾つも飛んでおり、散開した機体達にレーザーを一斉に放つ。
全員フェアリーからのレーザーを避けれたものの、その隙を狙い鬼神が黒葉花を狙い距離を縮めてくる。
「残念ですが拳では僕に勝てませんよ」
機体を変形させると一気に上空へと急上昇していく黒葉花、機体を旋回させると地上にいる鬼神に向けてレーザーを放つ。
鬼神はそのレーザーを避ける事無く向かってくる攻撃を拳で掻き消すと、今度は小銃を撃つ我雲の元へと向かっていく。
それは羅威の乗る我雲の方だった、一機を狙う鬼神に周りの我雲が小銃の照準を向けるが、無数に飛び交うフェアリーが三機の我雲を狙い次々にレーザーを放つ。
フェアリーの攻撃を避けるのに精一杯の三人だが、穿真の乗る我雲が一機フェリアルへと突進していく。
「近づかせない!」
フェリアルは一度フェアリーを全て機体に戻すと、突進してくる我雲に向けて一斉にフェアリーを飛ばす。
そのまま我雲を仕留めようとした時、突然赤城から通信が入る。
「レン! 背後に気をつけろ!」
その赤城の言葉を聞いた途端すぐさま後ろに振り向くと、ステルス機能で隠れていた無花果がLRSを振り上げていた。
フェリアルは一気に出力を上げて後退し、間一髪振り下ろされたLRSを避ける。
「避けられた? あの距離で、どうして……!」
攻撃が避けられた事に信じられないエリル、あのままだと確実に仕留めれたはずだった。
しかし攻撃は当たる事無く回避される、納得のいかないエリルは右腕に搭載されているマルチプルランチャーからミサイルを放ち追撃を行なうが、
横から飛び交う銃弾が次々にミサイルを撃ち落していく。
エリルは無花果を銃弾の放たれた方へ向けると、そこにはアサルトライフルを右手に、
シールドを左手に持っている1機の赤いリバインが立っていた。
リバインは銃を背部に仕舞うと、肩からLRSを引き抜き一気に無花果の元へと走り出す。
「私の邪魔をしないでよ!」
無花果の両肩からLRSを引き抜くと、両手にLRSを握り締めながらリバインの元へと走る。
互いのLRSが弾きあい、胸部を狙い斬りつける。
だが盾を持っているリバインは攻撃、防御の両面も優れており、無花果を段々と追い詰め始める。
盾を使い攻撃を防ぎ、また盾を前に出し相手の懐に飛び込む。
突き飛ばされた無花果は体勢を立て直そうとするが、リバインはその隙を狙い手に持っていたLRSを投げ飛ばした。
投げ飛ばされたLRSは無花果の右肩を貫くと、一瞬にして無花果の右肩が爆発し、右腕が吹き飛んでいく。
「きゃあああああっ!」
画面は赤く光り警告画面へと変わる。
「っぐぅ、ステルス機能不可? ランチャーも使えない? 嘘でしょ……?」
目障りな警告画面を消すと、LRSを肩から引き抜き無花果に突進してくるリバインの姿が映る。
それでもエリルは諦めなかった、まだ動く左腕を使いLRSをの剣先を突進してくるリバインに向けた。
「まだ終わらない……。私は、終わらない!」
向けられた剣先は貫いた、その赤紫色の小柄な腹部を。
無花果の左手に握られているLRSは地面に落ちると、全ての機能が停止し、眩い閃光を放った後簡単に爆発した。
その轟音はその場で戦っていた者達全員に聞こえる、見れば残骸から煙が上がり、そこに赤いリバインが立っていた。
「エリル……?」
爆煙を見て羅威の乗る我雲の動きが止まる、自分が鬼と戦っている間にエリルが死んだ事が信じられないのだろう。
無花果の残骸に近づこうとしたが、穿真の荒げた声が羅威を止める。
「羅威! 赤鬼が来てんぞ! ボサっとするな!」
「───ッち! わかっている!」
背後から飛びかかる鬼神をかわすと、羅威の乗る我雲は背部のバズーカ砲を手に取り引き金を引く。
鬼神は両腕を盾に砲弾を防ぐと、構わず我雲の方に走っていく。
香澄と雪音が援護しようと前に出るが、赤いリバインと共に来たNFの増援の攻撃に遭っており、とても助けられる状況ではない。
また、黒葉花はフェリアルと戦っており、あのフェアリーからの一斉射撃を回避しながら必死に戦っている。
穿真の乗る我雲はあの赤いリバインの元へと走っていき、LRSと盾を両手に激闘を繰り広げていた。
そして羅威は、今まさに自分を殺しに来る『鬼』と戦っている。
鬼と戦いながらも脳裏に過ぎるエリルの姿、レーダーを見ればもう無花果の反応は無い。そんな事はもうわかっていた。
分かっていたが、信じたくなかった。信じればまた誰かが死ぬと思ったからだ。
バズーカ砲を撃っても鬼神は拳で破壊してくる、倒すなら胴体に直接撃ち込むしかない。
だが不用意に近づけば容赦なく繰り出される拳の餌食になる、それでもやるしかない、この戦場を切り抜けるには、今いる目の前の敵を倒すしかない。
我雲はバズーカ砲を構えると向かってくる鬼神に照準を合わせる、鬼神はみるみる近づいてくるが羅威の握る操縦桿に迷いは無かった。
そして鬼神が突き出した拳はバズーカ砲を持った我雲に簡単に避けられた、そして砲身の先がしっかりと鬼神の胸部に向けられる。
「赤鬼、お前さっきから胸部しか狙ってねえんだよッ!」
バズーカ砲から放たれた砲弾は鬼神の胸部に命中すると、大きな爆発と共に鬼神を吹き飛ばす。
鬼神の胸部が大きく潰れてへこんでおり、吹き飛ばされたまま立ち上がらない。
だがBNには既に限界が来ていた、気付けばレーダーに残っている友軍機の数は半分以下、この状況での勝利は零に等しい。
それでも彼等は戦う、もはや目的は勝利の為か、それとも生きる為か、羅威の乗る我雲がその場で立ち尽くしていると彩野の乗る我雲が隣に現れる。
「羅威先輩やりましたね! これは換えの弾薬です、使ってください!」
そう言って彩野は砲弾を手渡すと、羅威は我雲ですぐさまそのバズーカ砲に新しい砲弾を詰め込んでいく。
そして止めの一撃で鬼神に放とうとした時、三発の大きな爆発音と、花火が上がったかのような眩い光りが上空で光っていた。
三発とも白い光りを輝かせながら延々と空中で光っている、その光りが島全体を照らすと、今まで戦っていた機体の動きが止まる。
それはBN、NF、SV、全ての機体がだった、この光りの意味は誰もが知っている。だから誰も動こうとしなかった。
あの光りのように羅威の頭も真っ白になる、それがSRC機能に反応したのか、無意識に我雲はバズーカ砲を地面に落とした。
「BNが……降伏した……?」
羅威の一言で部隊員全員の動きが完全に止まり、光りの方向へ機体を向ける。
そこにセーシュからの通信が入ってきた、羅威はモニターに視線を向けると、無言でセーシュを見つめていた。
「若様は降伏した、全機武装解除し投降しろ」
「そんな、紳は、最後まで戦わないのか……?」
「戦えばお前達が死ぬ、若様はこれ以上死者を出さない為に、降伏を選んだ」
「何だよ、それ……じゃあ今まで戦って死んだ兵士は、皆無駄死にって事じゃねえかッ!?」
怒りが収まらない羅威、無理もない、ここまで来て紳は戦うことを選ばず降伏を選んだのだから。
今まで戦ってきたのは勝利の為、全員覚悟を決め、命を懸けて戦っていたというのに、それを紳が終わらした。
「……若様を責めるな、若様は一人で苦しみ、悩んだ挙句降伏を選んだ、我々はそれに従おうではないか」
「BNの兵士に告ぐ、直ちに武装解除し、機体から降りよ。繰り返す、直ちに武装解除し、機体から降りよ」
赤いリバインとNFの新型機、フェリアルが銃を向けてくる。
誰もが機体から降りるのを躊躇っている中、一機の我雲のハッチが開き、中から一人の少女がワイヤーを使って降りてきた。
それは彩野だった。彩野は地面に立つと震えながら両手を上に揚げたが、目から零れ落ちる涙を必死に腕で拭き取っている。
その様子を見ていたレンは突然機体のハッチを開けると機体から降り、その泣いている彩野の前に現れた。
「安心してください、私達は貴方達に一切危害は加えません。だってもう戦いは終わりましたもんね」
笑顔で振舞ってくるレンに彩野の震えも次第に収まってくる、それに自分と同い年ぐらいの少女があの機体に乗っていた事に驚きを隠せなかった。
羅威がその様子を見ていると、穿真から通信が入る、その声にはいつもの活気は無かった。
「羅威、俺達の戦いは終わり、ゲームセットだ。機体から降りるぞ」
「ああ、分かったよ……」
渋々と機体のハッチを開けようとした時、今まで倒れていた鬼神がその場に起き上がる。
それに気付いたレンはすぐさま耳元についてある装置のスイッチを押すと、愁に今の状況を知らせた。
「BNは降伏しました! 戦いは終わりましたよ!」
鬼神はゆっくりと二人の元へ歩いて近づいてくる、その間にレンは彩野の前で自己紹介をし始めた。
「私はレンって言います、貴方の名前を教えてください」
「えっ……私の名前は彩野って言います。レンさんも兵士なんですね、私と同じぐらい歳の人がNFにもいるなんて驚きました……」
レンとの会話で彩野の緊張も少しずつ解けてきており、涙も気が付けば止まっていた。
逆にレンは緊張等まったくしていない、自分と近い歳の人がBNにもいた事に少し嬉しさがあった。
ついさっき始めて会った者同士とは思えないような会話。
それぞれ軍は違い、敵対していたとしても。戦争が終わった今はただの女の子同士。
「それは私も驚きましたよ! あ、彩野さん今歳いくつですか?もしかして私と同じかも」
その質問に彩野は笑顔で答えた、恐怖が安心へと変わった瞬間だ。
「えっと、私は今十五歳です!」
彩野が答えてくれた瞬間、上から赤い足が降りてきた。
同時に、何かが潰れる音が聞こえる。
足で何も見えない、鬼神の赤い足で、さっきまで彩野が立っていた場所に足を下ろして、彩野が見えない。
すると鬼神は足をそっと上げて一歩後ろに下がった。
いない、彩野はいない。地面には脳も眼球も腕も足も骨も内臓も、何もかもが潰された血塗れの肉の塊しかない。
いや、塊すらなかった。夥しい程の血が地面に染み込み、辺りに広がっていく。
さっきまで喋っていた人間が、人間の形ではなくなっている、生きたまま潰され、生きていた人間が潰れている。
その醜く汚い姿を目の前で見せられたレンは、何が起こったのかすら理解できなかった。
それを見ていたのはレンだけではない、その場にいた羅威達、そして赤城もその一部始終を見ていた。
「何……やってんだ……あの鬼、何……踏んだ……?」
羅威の口から言葉が漏れる、機体のハッチを開くスイッチを押そうとしていた指は止まり、ただ鬼神を見つめていた。
鬼神は足元の潰れた人間を見るが、何事も無かったかのように走り出す。
走っていった方向には1機の我雲が立っている、操縦席にはハッチを開けようとしていた香澄がいた。
「えっ───」
目の前からは鬼の形相でこちらに走ってくる鬼神、腕を振り上げると、香澄のいる操縦席掛けて拳を振り下ろす。
我雲が拳を避けようとしたが我雲の腹部を拳が貫き、そのまま勢いの止まらない拳は我雲の背部まで貫通すると、簡単に我雲の腹部を爆発させる。
間一髪で作動した脱出装置によりその場から離脱する香澄。
鬼神の動きは止まらない、次の獲物が視界に入るとすぐさま走り殺しに向かう、次に狙われたのは雪音だった。
武器を捨て、何もする事の出来ない我雲。鬼神はまた拳を振り上げ機体を破壊しようとした時、横から赤いリバインが飛び出し鬼神を盾で弾き飛ばす。
「何をしている!? BNは降伏したんだぞ!? 攻撃を中止しろ!」
「彩野は友達です、友達はBNです、BNは敵です、敵は彩野です」
愁は訳の分からない事を言いながら鬼神を走らせ赤いリバインに近づいてくる。
「なっ、何を言っているッ!? 今すぐ攻撃を中止して艦に戻れ、戦いはもう終わった!」
手足を斬り落とし動きを封じようとしたが、今まで見たことも無い動きで鬼神が振り下ろしたLRSを避ける。
機体の動きじゃない、人間の動きに近いそのフットワークと身のこなしはリバインがついていけるスピードでは無かった。
鬼神の攻撃を盾で受け止めようとしたが、盾を貫きリバインの左肩を破壊、左肩の爆発と共にリバインが後方に吹き飛ぶ。
「ぐぅっ! SVは何をしている!? さっさとあの機体を止めろッ!」
事の深刻さは既に収まらない、降伏をしたBNの兵士を無差別に殺していく鬼神。
紳はその様子を基地の司令室で見ていたが、SVの余りの非道さに怒りが込み上げていた。
「有り得ない……降伏してもSVは、BNを皆殺しにするつもりかッ!?」
「BNの全軍に伝える、どうやらSVとNFは我々を生かす気は無いらしい、ならば我々は戦うしかない。全員武器を取れ!」
紳の命令がその島にいる全BN兵士を奮い立たせた、例えこの場で負けようが、明日の勝利の為に兵士達は戦う。
「俺も白義で出るぞ、ダン。お前は唯を連れて地下通路から脱出しろ」
司令室から出て行こうとしたが、扉の前に突然ダンが立ちふさがる。
その手には銃を握り締め、銃口は真っ直ぐ紳の方に向いていた。
「残念だが、それはできなねえのさ」
「ダン、何の真似だ……?」
「こういう真似だ」
躊躇いも無く引き金は引かれ、弾丸は紳の体を貫く。
司令室に響く銃声の意味、司令室にいた兵士達は皆知っていた。
紳の命令を待っていたかのように、二機の我雲は肩からLRSを引き抜いた。
目の前には鬼神、だが二人は恐れては入ない、あるのは怒りと、憎しみだけだ。
「穿真! あの鬼だけは……あの鬼だけはぁッ! 絶対に殺すぞッ!」
「ああッ! やってやろうじゃねえかぁあああああああ!」
同時にニ機の我雲が走り出し、鬼神の元に向かう。
二機が振り下ろしたLRSを拳で弾いた鬼神は体勢を低くすると、羅威の乗る我雲の足を蹴り上げる。
だが我雲は倒れない、その場に手を着くとすぐさま機体の体勢を立て直しLRSを鬼神に振り下ろす。
何とかLRSを避けた鬼神、だが後ろからは穿真の乗る我雲がLRSを振り下ろしていた。
確実にLRSの刃先が背部に当った、だが鬼神の胴体が切れる事は無く、背部には傷しか残らない。
「だったらどうした!? 頑丈ならぶっ壊れるまで斬ればいいだけの話しだろがっ!」
我雲がもう一度背部を斬りつけようとした時、鬼神の裏拳が穿真の乗る我雲の頭を吹き飛ばし、そのまま体を回転させ、もう一機の我雲のLRSを掴むと簡単に圧し折る。
圧し折られようがもう一本LRSを肩から引き抜くと、羅威の乗る我雲は鬼神の胸部目掛けて剣先を突き出す。
鬼神はそのLRSを避けると、我雲の腹部を勢い良く蹴り飛ばしたが、その蹴りの強さに我雲の胴体が音を立てながら千切れ飛ぶ。
我雲の上半身は倒れたまま動かない、すぐさま穿真が通信を試みるが羅威から返事が返ってこない。
「おい羅威! 返事しろ! この鬼ぶっ殺すんじゃねえのかよ!? 羅威!」
鬼神は残る一機を殺しに向かってくる、我雲はすぐさまLRSを構え迫り来る鬼神に備えようとした時、ニ発の弾丸が鬼神に直撃する。
すると鬼神はすぐさまその場から離れていく、機体の限界が来たのか、それとも一度補給する為に戻ったのか。
穿真がレールガンの放たれた方を見てみると、薙刀を構え鬼神を待ち構えるハルバード守護式の姿がそこにあった。
「第壱小隊に告ぐ、全機基地の格納庫に戻れ。今すぐにだ」
「なぜだ? 補給ならしなくてもまだ動ける、それにまだあの鬼を殺してねえ!」
「あの機体は私が相手をする、お前も早く基地に戻れ!」
セーシュの気迫に押され傷ついた我雲を基地まで戻る穿真と雪音、だがクロノはその場に留まっていた。
「セーシュさん、僕は残ります。部隊の隊長として引くわけにはいきません」
クロノは薄々気付いていた、何故セーシュが彼等を基地に戻したのか。
「自惚れるな、お前のような新米が残れば邪魔になるだけだ」
「ですが僕はッ!」
「お前が部隊の隊長なら最後まで隊員の最後を見届けろ! こんな所でお前が先に死んでどうする!」
レーダーに目をやると既に友軍機の数は既に十を切っていたが、セーシュの目に迷いは無い。
「いいか、残りの兵士達を頼んだぞ。これは命令だ、逆らう事は許さん」
「セーシュさん……わかりました。貴方の命令、必ず遂行してみせます!」
黒葉花は戦闘機に変形した後すぐさま基地に向かう、羅威が乗っていた我雲に目を向けると、既に爆発しており煙をあげていた。
気付けばアストロスとギフツが次々に基地を囲み進軍してきている、守護式もまた黒葉花と共に基地へと戻っていく。
「レン、応答しろ!」
赤城がフェリアルに通信を試みるものの、操縦席には誰も乗っていない為勿論返ってこない。
機体の足元にいたはずのレンも姿を消しており、必死にレンを探索をしていた。
「何処に行ったんだ、レン! くっ、やはり私があの時止めていれば……」
その時、突然レーダーに反応が示される、それは久しぶりに見た色だった。
色は次第に数を増していく、それを見ていた赤城は誰もいないフェリアルを腕一本で抱えると、すぐさまその場から離れる。
「こんな時に奴等が現れるとはな……、レン、無事でいてくれ……」
レーダーの反応は基地周辺で戦ってる兵士達も気付きだした、レーダーに点々と現れる赤い反応。
そして次の瞬間、地面から次々にPerson態が這い出てくる、Person態は機体を見つめるとすぐさま近づいていく。
「ERRORだ、ERRORが出たぞ! 全機接近してくるERRORを排除しろ!」
「こいつ等まだ絶滅してなかったのかよ!」
アストロスが地面から這い出てくるPerson態を殺している時、守護式はそのPerson態を無視して敵機の方へと向かい薙刀を振るう。
六機ものアストロスがPerson態と守護式の手により破壊される、もちろんPerson態は守護式を襲おうとするがレールガンと薙刀で近づく全に殺されていた。
「敵の敵は味方……ではないが、この状況は有り難く使わせて頂く。全ては若様の為に」
基地の格納庫、その地下には3機の機体を載せた貨物車が発進の準備をしていた。
その車の中で紳は目を覚ますと、目の前には不安な様子を浮かべている唯が座っていた。
「お兄様、気が付いたんですね。良かった……」
腹部に痛みを感じながらも寝ている体を起こすと、辺りを見回してみる。
灯りが一つしか灯っていない薄暗い部屋、腹部に目をやると包帯が巻かれ、応急処置がされている。
すると突然部屋の扉が開き、ダンが部屋の中に入ってくる。
「すまねえな、休める部屋はここぐらいしかねえんだ。我慢してくれ」
「ダン、説明しろ……どういう事だ、何故俺を撃った!?」
「説明も何も、俺は言われた通りにしただけだ」
そう言うと今にも掴みかかってきそうな紳にダンは一枚の小切手を見せる。
小切手には今までダンに払ってきた金とは比べものにならない程の大金が書かれていた。
「セーシュが俺に頼んできた、今まで働いて溜めてきた一生分の給料を小切手で俺に渡してな頼まれた内容はわかるだろ?紳、お前を逃がす事だ。その為には手段を選ばなくてもいいと言われた」
ダンは小切手をポケットに仕舞うと、胸ポケットから煙草を取り出しライターで火をつけるとその場で一服し始めた。
「馬鹿な……セーシュがそんな事するはずがない……」
「現に頼まれたんだよ俺は。頼まれた時は正直驚いたが、セーシュは真剣そのものだったぜ」
会話をしていながらも微かに感じる振動、地上では今まさに戦闘の真っ最中、その中にはセーシュもいる。
納得のいかない紳、今すぐセーシュと話しがしたいが、腹部の痛みで体が上手く動かない。
「何故だ……どうしてセーシュは、こうまでして俺を……」
その紳の疑問に答えたのはダンではなく、紳の隣に座っていた唯だった。
「愛してるからじゃ……ないでしょうか?」
「何?」
紳は唯の方を顔を向けると、ベッドに座っている唯は俯いたまま自分の手を見つめて話していた。
「愛してる人に死んでほしくなかったんだと思います。お兄様には生きていてほしかったんです、だからセーシュさんは……」
唯の言葉を聞き、ベッドから起き上がる紳は激痛に堪えながらも一歩ずつ歩き部屋から出ようとする。
「そんな体でどこいくつもりだ、紳」
「セーシュと……話しがしたい……」
「そうかい、んじゃそこ出たら右隣の部屋に入れ、そこで通信が出来る。だがもうじき貨物車は走り出す、走り出したら通信は出来ないからな」
「……わかった」
部屋を出て薄暗い通路に出ると右隣の部屋に入る、
そこには古い通信機が机の上に置かれてあり、電源を入れると早速守護式との通信を試みた。
「セーシュ……応答しろ……」
スピーカーからは激しいノイズ音と、銃声や爆音が聞こえてくる、
繋がったのか紳がセーシュを呼んでみると、元気良いセーシュの声が聞こえてきた。
「若様? 若様なのですか!?」
「ああ、俺だ。そっちの状況はどうなんだ……?」
「心配いりません、今残ったBNの兵士達と共に若様が脱出できる時間を稼いでいる所です」
「そうか……なあ、お前は何故こんな事までして俺を生かしたのか。聞かしてくれないか?」
紳は聞きたかった、セーシュの口から直接自分に言ってくれる事を、強く望んでいた。
「若様無しではBNは動きません、若様はBNにとって必要不可欠な存在。だから命令を無視してでも若様を助けたかったのです」
セーシュの答えに紳は顔色一つ変えずに納得した。
「……わかった。セーシュ、前の戦闘で俺はお前を助けたな、何故だか分かるか」
「それは……」
「お前を愛してるからだ」
地下にまで伝わる轟音、スピーカーからは絶えず聞こえてくる銃声。
それでも紳のいる部屋は静寂に包まれているよう感じられた。
「私も若様と同じです。貴方を……愛してます」
そこで通信が途切れ、通信機から二度とセーシュの声は聞こえてこなかった。
聞こえてくるのはノイズ音だけ、どうやら貨物車が走り出したらしい。
通信機の電源を切った紳は立ち上がらず、椅子に座ったまま目を瞑った。
自分の素直な気持ちを口に出す事は簡単な事ではない、それを言われるのもだ。
最後に聞けたセーシュの本音は、いつまでも紳の頭に響いていた。
「戦場で涙を流すとは、私は兵士失格だな……」
気持ちを伝えるのは遅すぎたのかもしれない。
だが伝えないよりはマシだ、最後に伝える事の出来たセーシュは幸せな方なのかもしれない。
戦場に友軍機の反応は1、ハルバード守護式だけしかもう残っていない。
その守護式の周りにはPerson態の死体と、敵機体の残骸が辺りに転がっている。
「さぁ、次の相手は誰だ」
前方にはアストロスとギフツが共に六機立ち、守護式に向けて小銃を向けている。
そしてその後ろにはあの白義と戦っていた黒い機体が姿を見せた。
「その機体に乗る者に告ぐ、無駄な抵抗は止めて投降しろ」
黒い機体の周りの周りには小銃を構えたギフツとアストロスが並び、
いつ撃たれてもおかしくない状況の中、セーシュは笑みを見せていた
「無駄ではない……この抵抗は私にとって最後の生き様だ」
セーシュに、守護式に、諦めの文字は無い。守護式は華麗に薙刀を振り回すと、見事に薙刀を構えてみせた。
デルタマシンナーズ
Dシリーズとも言われる今世紀最強の機動兵器。
戦車より硬く、戦闘機より素早い動きが実現された為全ての軍に導入されており、
光学電子磁鉱石に含まれる電気と電子で稼動する。
操作方法は2本の操縦桿とペダル、サイドレバーなど多々扱う為に熟練した兵士でなければ使いこなす事は難しい。
脱出装置の他に『LIMD』という自爆装置が予め備え付けられている。