第46話 切なさ、起動
荒々しい戦いはまだ続く、BNの基地を囲もうとするかのようにNF、SVの艦隊は動きを揃え少しずつ進行してきている。
それを止めようとBNの兵士達は全力で立ち向かうが、圧倒的な相手の火力と兵力に段々と押され始めていた。
そんな中、オーガを無残にも破壊された愁は機体の中で声を荒げていた。
「クソッ! クソオッ!! あと少しで殺せてたのに! 紳め! 邪魔しやがってぇっ!! ……あ、でもいいか。機体が修理されるまで休憩しよう」
急に冷めると機体の電源を切り、銃声や爆音が響く機体内でそのまま目蓋を閉じて眠りについた。
艦の外ではシャイラの乗るアストロス・ガンナーが次々に我雲を破壊していき、その機体の近くには桃色の機体が立っていた。
「シャイラって本当に狙撃が上手いわね、私も負けてらんないんだから!」
ピンクの機体の手には長い砲身のライフルが手に握られており、援護射撃を行なっているが、その弾は中々敵の機体に当たらない。
「もーなんで当たらないのよ!」
「お嬢様、引き金を引くときは操縦桿しっかり握り、呼吸を落ち着かせた後狙ってみてください」
そう言った後、ガンナーの両肩にあるレーザー砲から青き光が放たれると、遠くで戦っている我雲を貫き撃墜する。
「ですがアリスお嬢様に人殺しをしてほしくはありません。無理をなさらずその場にいてくれるだけで志気が高まり私達SVの兵士は貴方から力を頂けます」
「ううん、私も戦う! シャイラだって戦ってるんだもん、私だって……!」
アリスがそう言った途端、シャイラが通信を切り替え、今戦っているSVの全兵士に語りかけた。
「勇敢なるSVの兵士達。お嬢様は命を張ってこの場を留まり、私達と共に戦おうとしています。お嬢様の意志に応えよ、この争いを早期終結させ、お嬢様達と共に築きましょう、真の平和な世界を」
そのシャイラの言葉を聞いた途端、兵士達は皆胸を打たれ次々に声をあげはじめる。
「ああそうだ! 俺達はこんな所で負けちゃいられねえ! あのERRORをこの世界から取り除くまでは!」
「世界を救えるのは我等SVと神ッ!『神』の力を借り、我等の力でこの地に平和を!」
シャイラの言葉でSVの兵士全体の志気が上がり、一気に感情が高ぶっていた。
その通信を密かに聞いていた赤城はそのSVの異様な熱気に唖然とした。
「これがSV、NFとは違う何かを持っている様に見えるな……」
「赤城少佐! BNの新型が二機も来てるよ! 注意して!」
ルフィスが乗っていたギフツに乗っているのは由梨音だった、その由梨音が今赤城の乗るリバインに迫る機体をレーダーに捕らえたのだ。
「了解、こちらも確認した。由梨音は下がって負傷した機体を助けてやれ。私が前に出る」
「待ってください赤城隊長! 私も前に出ます!」
リバインが前線に出て行くが、レンの乗るフェリアルもまたリバインの横に並び前線に向かう。
「由梨音、これは命令だ、下がれ。……レン、相手は強い。行けるか?」
その問いにレンは即答した、リバインのモニターには強気な目をしたレンが赤城を見つめている。
「任せてください、私は赤城隊長の力になりたいんです!」
レンの目に迷いは無い、一人の兵士ととしてレンは立派に戦っているのだから。
「わかった、付いて来い!」
「了解!」
その二人のやり取りを聞いて由梨音は残念そうに機体を止めると、赤城の命令に従い前線から下がり始めるのであった。
赤城とレンの二人の前に現れたのは黒い機体と、赤紫色をした機体の合計二機だった。
LRBを構えるリバインは赤紫色をした機体に向かっていき、エリルの乗るフェリアルは黒い機体の方に向かう。
「私はこの赤い機体と戦う、レンは黒い機体を頼んだぞ!」
赤い機体はエリルの乗る無花果、そして黒い機体はクロノの乗る新型だ。
「了解! やってみせます!」
フェリアルの後部から無数のフェアリーが飛び立つと、一斉に黒い機体を囲みレーザーを放つ。
だが黒い機体は変形して戦闘機になると、集中砲火してくるフェアリーのレーザーを次々に避けていく。
「速い!? それに変形するなんて……!」
今まで避けられる事が無く、初めて避けられるフェアリーの攻撃に少し戸惑ったが、構わず続けて集中砲火をしていく。
自分が見ていても、アレだけの攻撃を交わして行く機体が信じられなかった。
しかし、それは黒い機体に乗っているクロノも同じだった、このような集中砲火等今まで見た事もされたこともない。
「ですが、僕と黒葉花の力があればこれぐらいの攻撃など!」
黒葉花が次々にレーザーを避けると、一瞬で戦闘機から人型に変形し、手に持っているレーザーライフルでフェリアルを狙う。
当然その攻撃をフェリアルは避けるが、その隙にクロノは自分の周りを飛び交うフェアリーを確実に落ち落としていく。
「私の、私の大事なフェアリーを!」
残ったフェアリーを一度機体に戻すと、敵の周りではなく自分の周りに待機させ、
上空を飛んでいる黒葉花を落とそうと手に持っているレーザーライフルと機体の側で浮いているフェアリーで一斉に狙いを定める。
「パターンが変わった、次は何を……」
上空で黒葉花が待機していると、地上から一斉にレーザー砲を放つフェリアル。
「そんな無鉄砲な攻撃に当たる程、僕は弱くないッ!」
変形させて戦闘機に戻すと、地上からの攻撃を避けながら一気に急降下していく黒葉花。
「当たれ……当たれッ!」
引き金を引く事に敵の機体が近づいてくる、近ければ近いほど当てやすいはずなのに、狙いを定めた攻撃は悉く避けられていく。
その時、突然のレンの機体に由梨音からの通信が入った。
「レン! 早く艦に戻って! もう機体のエネルギーが無くなるよ!!」
「えっ」
機体のエネルギー残量に眼をやると、既にゲージは5%を切り、目の前で0に達した。
その場でフェアリーは落ち、機体の動きが止まる。
「あっ……」
もう自分を守る物が無い、モニターにはLRSを手に自分の機体を破壊しようと黒い機体が迫ってきていた。
目の前の機体に避ける事も出来ないフェリアル、敵の機体が突き出したLRSは、真っ直ぐ機体の胸部に伸びた。
LRSの刃先が胸部に装甲を貫こうとした時、黒葉花の動きが止まる。
実はもう刃先は操縦席を貫き、自分が死んでいるのではないかと言うような顔のレン、無理もない、モニターにはLRSを突き出し
胸部を刺している状況だ、いつ死んでも、死んでいてもおかしくない。
「ぐっ、うぐ……がはっ……」
吐き出された血はモニターに掛かり、画面の半分を汚す。操縦桿を握っている両手は小刻みに震えていた。
そこに彩野からの通信が入り、画面に映るが血が飛び散っている為に顔が見えない。
「クロノ隊長引いてください! いくらなんでも無茶しすぎです! アレだけの急降下と変形を繰り返せば体が持ちませんよ!?」
「あと少し、あと少しなんだ……!」
震える手で握る操縦桿を前に押していくと、それに合わせて機体が握っているLRSの刃先がフェリアルの胸部の装甲を貫こうとしたが。
刃先は操縦席まで伸びる事無く、クロノの意識が途絶えた。
それと同時に操縦席に悲鳴が響き渡る、レンだ。両手て頭を掻き毟り、目の前のモニターに映っているLRSの刃先を凝視していた。
「嫌ぁっ! 来ないで、こっちに来ないでぇええええ!!」
エネルギーが尽きたはずのフェアリルの目が光り、その場から足元がふらつきながらも必死に走って後退していく。
「触らないで、お願い……近寄らないで、私、私ッ! 助けてお兄ちゃ、お姉…ちゃ……」
ふとレンの意識が無くなると、機体も力無くその場で倒れ込む。
「レン、どうした!? 応答しろ、レン!」
気絶したレンに赤城が必死に呼びかけるが、レンの意識は戻らない。
だが赤城もレンの心配ばかりしてはいられない、よそ見をしていれば無数の小型ミサイルがリバインを狙って来る。
すかさずミサイルを避けるがミサイルは地面に当たると激しい爆煙を作りリバインの視界を奪う。
ステルスフレームを発揮している無花果はその爆煙に紛れリバインを狙っていた。
「クロノったら結構無理しちゃって……助けに行きたいけど、今はこの機体を倒さないと!」
「砂塵と爆煙で視界を封じたか、しかも相手は姿を消せる……厄介な相手だな」
レーダーには敵機体が映らず、何処から攻めてくるかもわからないリバインはLRBを構えたままじっと身構えている。
「この場合、大抵背後から来るものだが……」
そう言葉を漏らした瞬間、目の前から煙を吹き飛ばし赤紫色をした機体がLRSを握り締め突撃してくる。
リバインは焦らず敵のLRSをLRBで弾くと、そのまま勢いに任せて回転しながら敵機を斬り付ける。
無花果はLRSで受け止めようとしたが、破壊力を高められているLRBの前では歯が立たず一瞬で破壊される。
破壊された様子を見たリバインはすぐさまLRBを突き出し無花果の胸部を貫こうとするが、無花果の右腕に着いているランチャーがリバイン目掛けて一斉に飛び出していく。
すかさずLRBを背部に仕舞うと、背部からライフルを取り出し迫ってくるミサイルを次々に撃ち抜いて行く。
その機敏な動きと正確な判断にエリルは困惑していた。
「なんなのよあの機体! 私の攻撃が全部通用しないなんて!」
EDPを生き抜いた兵士達の力は伊達ではない、それはエリルもわかっていたが、これ程強い相手と戦うとは思いも寄らなかった。
だが、それは赤城も同じ事、Dシリーズ同士での戦いに慣れてはいるが、今までの機体とは明らかに違う能力と戦い方に苦戦していた。。
「距離の取り方が正確で速い、それに敏捷性はずば抜けている……LRBでは不利か」
ライフルを背部に戻し、腰からLRSを引き抜くと、突然由梨音からの通信が入る。
「赤城少尉! た、大変です! 南東からBNの増援が急接近中! もうすぐそこまで来ています! このままだと挟まれる危険性が!」
「増援だと? 由梨音、敵の増援部隊の数はどれくらいだ」
「敵艦隊の数は二十を超えているとの事! BNの部隊が合流すればNFとSVの戦力では互角か、それ以上だと思われます!」
「速い、それに数も……もしかするとBNは我々が攻めてくる事を知っていたのか。何にしろこのままではまずい、一旦引いて態勢を立て直した方が良いな」
リバインは無花果の方を向いたまま後ろへと下がっていき、戦闘地域から離脱するとレンの乗っている機体が倒れている方へと向かう。
その様子を見ていたエリルは軽く溜め息を吐くと、漸く増援が来た事に気付いた。
「ようやく増援が来たようね、これでNFとSVは終わりよ!やられた分きっちりやり返してやるんだから」
NFとSVの動きが困惑していくように見られる、無理も無い、こっちは圧倒的な戦力でBNの基地を落とすはずだった。
が、BNの大部隊がこんなにも早く来る事等予想外であり、現在どのように対処するべきは検討している所。
エリルはすぐさまクロノの元へ向かい、機体に肩を貸し手その場から離脱していく。
「若様、我等の増援が到着するとの事です。若様の読みが当たりましたね」
「奴等も計算外の事で困惑しているはずだ、そこを叩くぞセーシュ」
「はっ、この厄介な機体を片付けた後。すぐに若様の元へ向かいます」
両手の甲に鍵爪を着け独特な動きと腰のレールガンで守護式の前に立ちはだかる『厄介な機体』
「っちぃ! 何だよこの薙刀野郎! 全然近づけねえぞ!」
「焦らないで…焦れば……負ける」
「んなのわかってんだよ! けど敵の増援が山ほど来てんだろ!? だったらさっさと倒さねえとまずいだろ!」
喋りながらも守護式の振るう薙刀を必死に交わして行くアストロス・ライダーだが、薙刀から繰り出される攻撃は今までの攻撃とは違い、懐に近づけない状況だ。
そのライダーの動きを見ていたセーシュには余裕の表情を浮かべ、機会を窺っていた。
「動きが少しずつ鈍ってきている……もう一押しすれば行ける。そして若様の元へ向かわなければ!」
薙刀を振り下ろした後、すかさず敵機の胸部目掛け鉾先を突き出すが、素早く攻撃を回避したライダーは腰に付いてあるレールガンで守護式を狙うが、
守護式の両肩についてあるシールド型のレールガンで防がれ、逆に守護式の両肩に付いてあるレールガンで狙われてしまう。
鍵爪で弾を弾いていくが、その隙を狙い守護式が一気に距離を縮めると、ライダーの左腕を薙刀で簡単に斬りおとす。
「ほら、焦ったら負ける……」
「うっせえ! そんな事言ってるから腕斬りおとされちまったじゃねえかッ!ったく……こうなりゃ制限解除でもしてえがなぁ……」
「……私の心配してくれてるの? 大丈夫、気にしないで……」
「気にするなと言われて気にしない程俺も馬鹿じゃねえ、制限付きでもこんな相手ぶっ倒してやるぞ! エコ!」
「うん、倒そ……」
ライダーの腕が一本斬りおとされようが二人にとって大した事ではない、むしろこの状況が二人を強くする。
右腕一本を前に突き出すと、勢い良く守護式に飛びかかるライダー、当然守護式に薙刀を振るわれ返り討ちに合いそうになるが、瞬時に機体の回転軸を変え強烈な蹴りを繰り出す。
両足には手の甲についてある鍵爪と同様の物が付けられており、繰り出された蹴りは守護式の持っていた薙刀を弾き飛ばす。
「っく、我薙刀が!」
「武器が無けりゃ何も出来ねえのかぁ!?」
すぐさま守護式が腰に掛けられているLRSに手を伸ばそうとしたが、そうはさせまいとライダーは距離と縮めたまま右腕と両足を使い乱舞するように攻撃していく。
「武器無きまま狙ってくるとは……この卑怯者がッ!」
両肩のレールガンをライダーに向けて放つが、あっさりと交わされた挙句、左肩のレールガンをライダーの鍵爪で破壊されてしまう。
「遅い! いや、俺達が速すぎるだけだな!』
強烈な蹴りを胸部に受けた守護式は吹き飛ばされると体勢を崩したまま地面に倒れる。
「ぐぁっ! し、しまったっ!?」
その隙を逃しはしない、起き上がろうとする守護式の上空には既に獲物に飛びかかるライダーが鍵爪光らし狙っていた。
「あばよ薙刀」
鍵爪は守護式の胸部を貫いた……っが、鍵爪の刃先は操縦席の一歩手前で止まっていた。
ライダーに付いている最後の腕に一本の剣が投げられ斬りおとされたのだ、両腕を失ったライダーはすぐさまその場から離れていくが、
セーシュはその投げられた剣を見ると一目でわかった、これは白義の剣だと。
「若様ッ!?」
それに気付いた時、急いで白義の方を見てみると無残にも右肩を斬りおとされ、
腕一本と剣一本で戦っている白義の姿が目に映った。
剣一本では相手の黒い機体に全く歯が立たない白義は敵機の持つシールドで弾き飛ばされると、左手に持っていた最後の剣を手放してしまう。
その隙を狙い敵の黒い機体は剣を前方に突き出そうとした時、
条件反射のように守護式が出力を上げ黒い機体の前に立ちふさがる。
「若様を守るのが私と、このハルバード守護式の役目ッ!」
死ぬ覚悟は前から出来ていた、紳の為に死ねるならそれは本望。
躊躇なき選択は自然に自分を死へと導き、戦場でその命を終える。
そのセーシュの一生が終えようとしたのを、ある男が邪魔をした。
二発の弾丸に気付いた黒い機体はシールドで銃弾を弾くと、もう一機の守護式が黒い機体の前に立ちふさがる。
「ここは俺に任せてさっさと下がれ、勿論報酬は上乗せさせてもらうがな、そりゃもうたっぷりと」
サングラスを掛け、一人煙草を吹かしている男。その姿を見てセーシュは小さく頭を下げた。
「ダン様、恩にきります……。若様、一度戻りましょう」
セーシュの声を聞く前に白義は振り返り、戦艦リシュードへ戻っていく。
それを追うかのようにセーシュの乗る守護式も付いていく。
すると、紳から通信を受けたセーシュはすぐさまモニターを見つめる、そこにはいつも通り冷静な紳が映っていた。
「セーシュ、何故俺を守った?あのままだとお前は死んでいた」
「はっ、それは若様を守るのが私の使命だからです」
「使命でなければ、お前は助けないのか?」
「いえ、その様な事は決してしません。
若様を心からお守りしたと思っている為、私の身などどうでもいいと思えるのです」
「……何故俺がお前を助けたか、わかるか?」
「はっ、それは私を助ける事で、BNの戦力を落とさないように───」
「お前と同じだ」
「……えっ?」
「増援の艦隊が既にたどり着いた、我々は一旦艦に戻り態勢を立て直すぞ」
紳はそう言い終わると通信を切り、リシュードに着艦する。それに続いて守護式も無事着艦した。
BNの増援された艦隊がフォーメーションを組み、艦内から次々に我雲が発進していく中、
一度艦に戻っていた赤城はリバインに乗ったまま戦場の様子を見ていた。
「まずいな、この状況下における敵増援は明らかに不利。NFとSVの機体を合計をした所であの十数もの艦隊を相手にするのは敗北を意味する……」
「赤城隊長どうするんですか!? 上からは一切命令が来ていませんよ!
このままだと挟み撃ちを受けて私達の艦が撃墜されてしまいます!」
由梨音からの通信に、赤城も今は指示を出す事が出来なかった。
「上からの命令が無い以上勝手な動きはできない……だが何故だ、何故命令が来ない。どうして動きをみせないんだ」
来るはずの命令が来ない。
敵の増援が来ている事を知っているにもかかわらず、今もなおNFとSVはBN基地周辺の敵機と戦っている。
まるでBNの増援を無視するかのように。
「あ、赤城隊長! 強大なエネルギー反応を確認しました!」
「エネルギー反応? 何処にだ」
「エネルギー反応は……BNの増援艦隊の前! 今そちらに映像を送ります!」
由梨音から送られてきた映像、数十にも並ぶ艦隊の行く先には、一機の巨大な機体が宙に浮いていた。
「あの機体は一体……見た事の無い形状だ」
赤城がこう思うのも当然だ、機体に足は無く、他のDシリーズとは比べ物にならない程の大きさをしており、機体の形は羽衣を纏うかのような形状で、白黒色の機体を見る等初めての事。
その機体は沈黙を保ち、動こうとはしなかったが、敵のBN艦隊が近づいてくると共に胸部のシェルターを自動的に開け始めた。
中からは銀色に光る剣先のような物が出てくると、機体の両手がその剣先を周りから覆うような形で止まる。
BNの増援部隊は敵の新型に備え既に数十機の我雲を発進させ、艦隊の一斉砲撃が始まる。
だが艦隊の攻撃が当たる事は愚か、触れる事すらなかった。
全ての砲弾、ミサイルが巨大な機体から反れて全く別の所に飛んで行くのだ。
「これがDシリーズ本来の力で、本当の力。それを今見せてあげる」
女性の声と共に機体の力は起動した、剣先を中心に何百、何千もの黒き稲妻が飛び交い稲妻で巨大で複雑にしていく。
それが球体へと変化されると、膨大な力が溜まってゆくのが赤城にはわかった。
両手には収まらない程の膨大な力を極限まで圧縮させ、静かに誤差を修正し狙いを定めた。
解き放たれる『デルタ』の力、その力に、誰もが平伏し、消えるだろう。
「さようなら」
女性の切なさの篭った一言と共に力が解き放たれ、黒い球体の塊がBNの艦隊へと飛んで行く。
塊は腕から放たれると次第に大きさを増し、艦隊の先頭を走っていた艦に直撃する。
直撃した艦はまるで紙のようにグシャグシャに丸められると、周りにいる機体や戦艦を次々に吸い寄せていく。
掃除機に吸い込まれるゴミのようなものだ、機体や戦艦は一箇所に集まっていくと次々に押しつぶされていった。
その力から逃げようと出撃していた我雲が最大出力で離れようとするが、逃れる事は出来なかった。
「一体何が起きている!? 機体が吸い寄せられていっ───」
操縦席に座っている人間は一瞬にして機体に押し潰され原形を止める事無くただの肉と血だけの存在となり果てていく。
その光景をNFやSV、そして今戦っているBN、この戦場にいる全ての人間が見つめていただろう。
力は周りの艦と機体を全て吸い込むと、今まで吸い込んできた全ての物を強烈な波動と共に一瞬で吹き飛ばした。
波動は戦場で戦っている兵士達を襲い、幾つもの機体が吹き飛ばされていく。
リシュードの格納庫でその光景をモニターで見ていたラースは愕然としていた、
もちろんラースだけではない、BNの兵士全員そうだっただろう。
だがこの力をラースは既に知っていた、そしてその力を作れる人物も。
「この力……君はその力で何がしたいんだ、その力は人間に使うものではない、そう言っていたのは君だったじゃないか……」
ラースの呟きを掻き消すかのように紳からの命令が通信で今戦っている全艦と全機体に伝えられた。
「全機艦に戻り撤退せよ、基地は放棄する、基地にいる兵士達は全員艦に乗り込み脱出の準備に取りかかれっ!」
紳の命令を受け、BNの機体は次々に艦に戻り、
基地内にいる全ての兵士が基地に止まっている何隻もの戦艦に乗り基地から脱出していく。
どん底のどん底、そこに今BNは立たされている。
圧倒的な戦力と火力の前に何も出来ないBNは今、逃げる事を選ぶしか生き残る方法は無い。
速水 彩野
大きな声でハキハキ伝える、を目標にしているオペレーター。
機体の扱いは不慣れであまり使いこなせていない為、機体からではなく基地からのオペレートを担当している。