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第39話 謎、影

 爆弾付きの首輪がはめられているからだろうか、息苦しさを感じながら俺は格納庫に連れてこられた。

 辺りに人影は無く、この広い格納庫にいるのはどうやら俺と神楽の二人だけらしい。

「これ、貴方の機体よね」

 そう言われて俺は前に立ってある機体に顔を向ける、ああ、たしかにこれは俺の機体だ。

 EDPに参加する前とでは機体の色、形が大きく変わっているのが一目でわかる。

 何処と無く近寄りがたい雰囲気が漂っているかもしれないが俺にとってはそうでもない。

「まぁ、一応俺の機体だな」

 元をたどればこれはBNの機体だったが、今では見る影も無い。

 魔力が一時的に戻る事は何度かあった、でもそれが持続する事は無い。ピンチになれば力が戻るとでもいうのだろうか。なんて使い辛い力だ……魔法なんて前は好きなだけ使えたというのに。

「この機体もあの力も。貴方が魔法使いだから出来た事みたいね」

「そうだけど、それを信じるのか?見た所あんたは学者だから魔法とかそういう非現実的な事は信じなさそうなんだけど」

「あら、人を見かけで判断するなんてまだまだ子供ね。……ねえ、貴方はDシリーズの動力源が何か知ってるの?」

 俺は子供ではない、見た目は子供に見えるかもしれないがもう何十年も生きている。

 見た目は子供、頭脳は大人とはまさにこの事……いや、頭脳が大人なのかわからないが……。

 っと、Dシリーズの動力源か。たしかにそれは気になっていた、たしか電気だったはず。

「電気だったよな?」

「そう、電気に近いものね。じゃあ機体には電池のようなものをはめ込んでいると思う?」

 電池で動くロボットか、かっこ悪いとは言わないが電気を必要とするなら電池のようなものが必要なはず。

「それに近いようなものをはめ込んでるんじゃないのか?」

「残念ね、Dシリーズは全て光学電子磁鉱石で動いているのよ」

 神楽はさらっとその名前を言ったが、名前が長くて上手く聞き取れなかった、とりあえず石の力で動いている事がわかった。

「この鉱石は握り拳程の鉱石で、凄まじい量の電気を蓄積する事が可能な石。

 何故それ程の電気を蓄積できるのかはあらゆる学者が研究しても今でもまだわからない謎の石なのよ。Dシリーズに使う場合、その石を更に砕き小さくしないといけないんだけどね」

 そんな謎めいた石を兵器として利用しているのか……つくづく人間って生き物は人を殺す道具が大好きだな。

 しかしだ、そんな石が一体何処で発掘されたというんだ。百年前の世界にはそんな石など無かったはずだが。

「その石をちょっと見せてくれないか?」

「見せて下さい、じゃないの?」

 そう言って神楽は不敵な笑みを見せながら俺に爆弾の起爆ボタンを見せてきやがる。

 あれさえ取ってしまえば自由の身になれる、だが今飛びかかると確実に起爆ボタン押されるであろう。

 たかが人間如きにこの俺がこんな目に遭うとは、情けなさ過ぎる……。

「み、見せて下さい……」

「よく言えました、それじゃついてきなさい」

 余裕綽々の勝ち誇ったあの表情。

『うぜええええええッ!』と心の中でつい叫んでしまう。

 ま、まぁ機体の動力源は興味はある、とりあえずそれを見てみる事にしよう。

 格納庫内にある個室、その部屋にはガラスケージが並べられ、その中には機体の動力であろうあの石が幾つも並べられている。

「それにしても小さ過ぎないか? こんな小さな石ころがあんなでかい機体を動かせんのかよ」

「現に動かしてるでしょ、ちなみにそれは原石を砕いて加工した物よ。原石はこっちの部屋にあるから来なさい」

 神楽が更に奥の部屋に入っていく、俺はまた見せて下さいとか言わすのかと思っていたが今回は原石をすんなり見せてくれるらしい。

 それならお言葉に甘えて見させていただこうじゃないか。

 部屋の中に入るとこれがまた薄暗い部屋が広がっていた、電灯は弱々しく光りまさに研究所といった所だな。

 さて、肝心の原石は一体何処に……。

「これが原石よ」

 部屋の奥で神楽の声が聞こえてきたと同時に、薄暗かった部屋に一本の光の柱が現れる。

 幾つものライトがある原石をライトアップしていたのだ、その石は光に反射し幻想的な色で輝いている。

 無意識に俺は一歩前に進む、石に見惚れているかのように少しずつその石に近づき始めていた。

 俺はあったんだ、この石を見た事が、何度も何度も、俺は覚えている、この石が何だったのか……。

 色は別としてこの形、そして目には見えないが全身に伝わってくるこの力。

「思わず見惚れちゃったの?」

 気づくと俺はその石の入っている大きく分厚いガラスケースに手をつけ、顔も近づけていた。

「見惚れる? お前はこれがどうやって出来るのか知ってるのか?」

「さぁ、わからないわね、この鉱石が何故今になって発見されるのかも、そもそもこの石はどのように出来たのかも解明されてないのよ」

「へぇ……なら俺が教えてやる。これはレジスタルと言って、魔力を持つものが体内に持っているものだ」

 神楽は驚く様子も無く俺を見つめている、突然こんな事を言われてもどうリアクションしていいかわからないからな。

「詳しく教えてくれないかしら」

 率直な感想、意見だろう。手に持っている起爆ボタンを机の上に置き、胸ポケットから煙草を取り出す。

 そして煙草をすい始めると俺に説明を要求してきた。

「レジスタルとは何か、アンタにもわかるように教えてやるよ。魔力を持つものは生まれた時からこのレジスタルが体内にある。体内と言っても体を解体した所で出てくる代物じゃないけどな。これが体内にある限り人は魔法を使うことが出来る、このレジスタルから魔力を呼び出し魔法を使っているんだ。魔力を使いすぎるとレジスタルの中に溜められている魔力も少なくなっていくが、時間がたつとまた少しずつ魔力は回復していくんだよ」



 果たして俺の話についてこれるだろうか、正直魔力を持たない人間には信じてもらえないような内容だし。

「それじゃあ、そのレジスタルを取り出すにはどうすればいいのかしら」

 どうやら理解したらしい、やはり学者は勝手な判断はしないのか。

 それについての実験、結果、立証、根拠……という情報を見て初めて判断でもするのだろうか。

「取り出す事は不可能に近い、ましてや何の力も無いこの世界の人間には不が三つ付くぐらい不可能だ」

「へぇ、不可能……ね。そう言われると何としてでも取り出したくなるわね」

「おい待て、そんな事より俺の話しを聞いて何とも思わないのか?」

「思うわよ、とても興味深い話しだわ、このレジスタルを人工的に量産する事が出来れば……」

「違うだろッ! お前これ原石一個に魔力を持つものが一人死んでるんだぞ!?

 しかもこの世界はそれを機体の動力源とかに使ってやがる、となると原石は百個や千個を軽く超えているはずだ。

 となると昔魔力を持つ人間が何万人も死んだって事だろ!?」

 訳がわからない、百年前に一体何があったんだ。

 皆は戦ったんだ、神とかいう奴と。神は与えた、人類にチャンスを、百年後……。

 頭が混乱してきた、何かある、何かがあるんだ。それでもそれを思い出せない。

 そもそもこの世界は本当に俺のいた世界だったのだろうか、そもそも神という名の兵器なんて存在していたのか。

 それにERRORだってそう、この世界の生き物ではない。となると別の世界から来た生き物じゃないのか?

 あの化け物はこの世界だけではなく他の世界にだっているはず。もしかして他の世界で何かあったのだろうか。

 何か手がかりはないのか、情報はないのか。他の世界の事を知っている者はいないのか……。



「これは研究する必要があるわね」

 二本目の煙草に火を付け始める神楽、その火に何故か俺の視線は向かった。

「いたっ!!」

 突然の俺の声に少しビクつく神楽、すぐさま起爆装置を握るとそれを俺に向けてくる。

「な、何? 急に大きな声何か出しちゃって。何がいたの?」

「いたんだよ、他の世界からこの世界に来た一人の人間と、一匹の爬虫類がな」

 思い出した、もう何週間前の出来事だろうか、俺は一度他の世界から来た者に会った事がある。

 まぁ散々な目に遭わされたもんだが、すっかりあいつ等の事を忘れていた。

「魔法の次は他の世界?それが本当ならとても面白そうね」

 そうと決まれば奴を探しに行くしかない、まず俺がしなければならない目的が一つ決まったな。

 となると、こんな所に長居は無用、ミシェルをつれてあの森に行って探しに行くしかない。

 神楽の様子だとNFにはまだ見つかってないみたいだし、となるとBNかSV、どちらかの軍は何か情報を掴んでいるはず。

「ちょっと待ちなさい、勝手に行動すると押すわよ?」

 気づけば俺は部屋のドアの前に立って部屋を出て行こうとしていた。

 すぐさま神楽が俺を止めようとするが、無駄な事だ。

 俺は神楽に数歩近づくと、神楽の銜えていた煙草と共に起爆ボタンが地面に落ちる。

 一瞬で取り出した剣で起爆装置を真っ二つに切り落としてやった、最初からこうすればよかった。

「禁煙したほうがいいぜ?」

「ご忠告ありがとう、でも……それで勝ったつもり?」

 ポケットから何を取り出すのかと思いきや、先ほど切り落とした起爆装置だった。

「貴方と色々話せて面白かったわよ、さようなら」

 おいおい、普通二つも起爆装置を作るか?

 煙草の煙を俺に吹きかける、そしてニッコリと笑顔を見せると起爆ボタンに指を乗せた。

「そこまでだ」

 俺を横切る人影、赤髪を靡かせ刀を握り締めている女性。

 一瞬の出来事だった、二個目の起爆装置が無残にも切り落とされる。

「神楽、ここで何をしている」

 俺と神楽の前に立っていたのは赤城だった、少し前に見た赤城とは違う。いつもの赤城がそこに立っていた。

「赤ちゃんだって何してたのよ。盗み聞きはよくないわねぇ」

「気づいていたのか……」

 俺は全く気づかなかったけどね。まさか赤城がここに来ていたとはな……。

 神楽は小さな溜め息を着くと、赤城と俺の横を通り部屋を出て行こうとする。

「聞く事は聞いたし、もう彼に用は無いから。好きにしていいわよ、それじゃ」

 俺は用済みって事か。まぁ何にしろこれで俺は自由の身になった。

 と思った矢先に、赤城は振り向くと俺に刀を向けてきた。

「動くな」

 そう言って刀を振り上げると、俺の首目掛けて一気に刀を振り下ろす。

 さっきまでの息苦しさが消えたと同時に、俺の首についていた首輪が地面に落ちる。正直殺されると思った……。

 赤城は刀を鞘に収めると、少し寂しい表情で俺の前に戻っている。

「甲斐斗、一つ問いたい、お前の力で、亡くなった人を蘇らす事は……」

 弱々しい声、さっきまでの勇ましさがもう消えていた。

「残念だがそれは無理だな。例え俺が魔法を使えたとしても不可能だ」

「ふっ、そうか。馬鹿な事を聞いてすまないな、今のは忘れてくれ」

 二人っきりの室内、俺は黙って部屋を出て行こうとした時、赤城が呟いた。

「これからお前はどうするんだ、人探しに行くのか?」

「ああ、そうするよ。俺を止めるか?」

「いや、お前は自分がしなければならない事を見つけたようだ、それを止めようとは思わない。私も見つけなければならない、今私が出来る事を」

 やっぱり強い。何たってあの武蔵が認めた強さだからな。

「そうか……まっ、お前ならすぐ見つけられると思うけど」

 そんな事しか言えない俺は部屋を後にし、自分の部屋に戻っていった。



 自分の部屋に戻っている時、ふと気づいた。

 俺は一日中寝ていた、って事はミシェルを一日中部屋に放置していた事になる。

 そう考えると足取りが急に早くなり、気づけば走って部屋に戻ってきていた。

 部屋の扉を開けると急いで中に入ると、部屋の電気はついておらず、ミシェルの姿も見当たらない。

 まさか俺がいない間に何処かに行ってしまったのか、もしや誰かに拉致られた?

 そうだ、SVの奴等はミシェルを狙っていたじゃないか、そのSVが今基地内にいるって事は……馬鹿か俺は、気づくのが遅すぎだ。

 その時だった、部屋の奥で何か物音が聞こえる、もしかしてミシェルかもしれない。

 物音がした部屋に入ってみると、ベッドの上に座り全身を毛布で体を隠しているミシェルがいた。

「ふぅ、いたのか、ごめんな、帰って来れなくて」

 そう言って毛布を取って見ると、たしかにそこに少女はいた。

「うおわっ!?」

「驚いた?」

 そりゃ驚いて声も出る。

 毛布の中にいたのはミシェルではなく前に一度会ったエコという少女だったからだ。

「残念だけど、あの子はここにいないわよ」

 エコはベッドから降りると椅子に座って届かない足を上下に動かしている。

 こいつはSVの人間、病室で俺を襲ってきたのもSVの人間。って事はコイツも俺を殺しに来たのか?

「ここにいないって事は、お前等の所にいるって事だよな?」

「そう考えるのが、普通……」

「で、お前は何でここにいるんだ?」

「どうしてだと思う……?」

 質問を質問で返してくるなよ、それにコイツは喋り方が独特なんだよなぁ。

 遅いというより、のろいな、葵とは正反対の性格だな。

「そうだなぁ、俺を殺しに来たとか?」

「正解」

 ……まさか、本当に俺を殺しに来たというのか?

 だがこの距離でどうやって俺を殺す、この間合いなら俺の方が有利、まさか別の仲間がどこかに隠れているのか!?

「嘘よ……」

 さっきまでの緊張が一瞬に解けた、こいつ真顔で話すから嘘なのか本当なのかわからない。

「少し、お喋りがしたかったの……」

「そう言って時間を稼ごうとか思ってるんじゃないのか?もしかしたらまだ近くにミシェルがいるかもしれないからな」

「私とお喋り……嫌?」

 エコはそう言って首を傾ける、こいつは何しに来たんだ。本当に喋りに来たのか?

 相手の目的がわからない以上俺はミシェルを追うしかない。

「嫌じゃないけどなぁ、今はお前と話してる場合じゃねえ。俺は探しに行くからな」

 付き合ってられん、さっさと部屋を出てミシェルを探しに行くか。

 そうだな、いるといえばSVの戦艦にいるはず、そこに行ってみよう。

「あの子の話しなんだけど、知りたくないの?」

「……ミシェルの事か?」

「うん、あの子について……興味ないの?」

 ……SVにはミシェルを狙う理由がある、となるとミシェルに何かがあるのはわかっていた。

 初めて会った時、俺は彼女に助けられたようなもんだ、あの声で。

 そんな不思議少女興味が無いといえば嘘になる、ただ俺は深く考えようとしていなかっただけだ。

「興味がある……って、普通なら言うんだろ」

 だからこれからも、あまり深く考えないでおく事にするさ。

「話はまた今度してやる、じゃあな」

「後から後悔しても、知らないよ?」

 そんな事を後ろから言われたのは、既に部屋を出た後だった。

 さてと、SVの艦でも探しに行くとするか、捕らえられているならそこしかない。

 まだ艦はあるはず、出航する前に乗り込まないとな。

 そう思いながらふと窓の外を見てみると、そこには勢いよくSVの艦が発進した。……発進した?

「っておい! まじかよ!?」

 思わず足を止めて窓の外で走っている戦艦を凝視してしまう、これから探しに行こうとしていたのにもう出航しているだと?

 それじゃエコは置いてけぼりになってるんじゃないのか? まぁ後から艦と合流すればいいだけか。

 って、今は考えている場合じゃない。あの戦艦を力ずくでも止めてミシェルを助け出してやらねえとな。

 そうと決まれば早く格納庫に向かわなければならない、止めていた足をまた動かし始めると格納庫へと走っていく。

「すみません! ちょっと待ってください!」

 が、急いでいる俺を止めるかのように後ろから少女の声が聞こえてきた。

 エコの声でもない、ミシェルの声でもない、しかし聞いた事のある声、たしか……。

 後ろに振り返るとその少女は息を切らしながら立っていた、どうやら俺の後を追いかけていたらしい。

 そして俺は見たことがある、この顔。基地内にERRORが侵入した時、一緒に行動をしたレンという子だ。

 まずい……非常にまずい、俺の事について何か聞いてくるはずだ、いや、もしかして助けられたお礼でも言ってくれるのか?

「突然すみません! 赤城少佐の部屋の場所を教えてほしいのですけど!」

 赤城少佐の部屋?

「えーと、何処だろうねぇ、俺も知らないかな……」

「そ、そうなんですか。うぅ~わかりました、自分で探してみます、ありがとうございました」

 そう言って彼女は小さく頭を下げた後、俺を追い抜いてどこかに行ってしまった。

 めちゃくちゃ礼儀正しい、いや、それよりも何故あの子は俺に反応しなかったんだ?

 いくら何でも驚くはず、でも彼女は驚く所か笑みを見せていた。もしかしてレンのそっくりさん? そんな訳ないよな……。


 

 格納庫についた俺は早速自分の機体に乗り込み電源を入れる。

 外見は変わっても内側は余り変わっていない、そもそもこの機体が変化したのも俺の力だったのだろうか。

 格納庫の扉は開いたままな為すぐさま機体を発進させると、前まで乗っていた機体と同じはずだが出力の違いに少し戸惑ってしまう。

 だが決して嫌な訳ではない、むしろ心地良い、この機体があれば目的も達成できそうだ。

 SVの戦艦は意外にも速い、だが追いつけない程でも無かった。

 当然俺が基地から離れると、数機のギフツが俺を追ってくる、当然といえば当然。

 しかし追いつくことは出来ないだろう、そんな量産機じゃ無理無理。

 その時、圧倒的な速さでギフツを追い越し一機の機体が俺の機体を掠めた。

「そこの奴、止まってくれねえかな?」

 無線から葵の声が聞こえる、どうやらエコを乗せる為に基地に残っていたらしいな。

「止まってほしけりゃ止めてみな」

「おいおい、別に俺達はお前に危害を加えようなんてもう思ってないぜ?」

 こいつ今なんて言った。俺に危害を加えないだぁ?

「はぁ? さっき俺はてめえ等の仲間に殺されそうになったんだぞ!? 何が危害を加えないだボケ!」

「ああ? そんなの知らねえよ。とにかく艦を追うなって言ってんだよ」

「知るか、とにかくミシェルは返してもらう」

「葵は喋らないで……状況が酷くなる……」

 うんざりしたような顔をしたエコがモニターに映る。なるほど。この機体はやはり二人乗りか。

「私達はあの子に危害を加えない、だから引いて……」

「危害を加えない?そんなの当たりなんだよ。それよりお前達はミシェルに何をする気だ」

「前に言った……あの子は人類の希望……貴方はこの世界の、人類の希望を……壊そうとしている……」

 俺がこの世界の、人類の希望を壊そうとしているだと?

 人類の希望、それは平和な世界だと俺は思っている、だとすれば俺はその平和を乱す存在なのか?

「これ以上邪魔をするなら、貴方を……全力で消す」

 冷静な顔をして恐ろしい事を喋りやがる、それに眼が完全に本気だ。そうなるとミシェルはそれ程の力を秘めているという事になる。

 そしてその力で人類を平和にするつもりらしいが、それでミシェルはどうなるんだ?わからない、どうなるかなんて俺にはわからない。

 もしかして俺は間違った事をしていたのか?この世界から見れば俺は一人の悪に過ぎないというのか?

 俺のしている事は正義なのか、それとも悪なのか。どっちなんだ……別に俺は正義のヒーローでもなければ悪の大魔王でもない。

 俺はミシェルの為を思ってやってきた、助けてきた、それはミシェルが望んでいたはずだ……。

「おい、俺がミシェルと一緒の艦に乗るのは駄目か?」

 自分の目で確認するしかない、判断するしかない、それしか俺にはわからない。

「無理……」

「なっ、どうして無理だ!? ちゃんと機体からも降りる! 抵抗もしない! だからミシェルに会わせろ!!」

「危険すぎる……貴方の、力……」

 危険すぎる力、EDPの時俺はその力を発揮した事があった。

 あの時の事は俺もよく憶えていない、しかしあの時、たしかに俺は元の魔力を取り戻していた。

 その力が危険と言われても不思議ではない、おかしくもない、むしろ正常な判断だと言える。

「引いて、貴方がこの場から引けば……事なきを得るの」

「そう簡単に引けるわけないだろ、艦を止めてミシェルに直接聞かなくちゃならねえ」

「馬鹿……貴方を生かしてあげるって言ってるのに……!」

 急に強い口調に変わった、そしてエコは一方的に通信を切ってしまった。

 どうやら怒らせてしまったらしい、しかしあれだな、こいつは俺を生かすと言っていたが、それは俺が逃げればの話し。

 戦えば俺は死ぬという事になる。面白い、この女は俺に勝てると言っているようなもんだ、そんな事を言われて引き下がれるはずがない。

 俺の強さを見せ付ける必要があるな……いや、エコは俺の力を知っているはず、だから俺の力を危険と言っていた。

 危険だとわかっているのに、俺と戦うというのか? いや、こいつ等は戦いを求めていない、むしろ俺が戦いを望んでいるのか。

 ……どうすればいい、こんな時どうすればいいんだ? やはりミシェルに直接話を聞く為に俺は戦わなければならないのか?

「二人とも待ってください!」

 一人の青年の声が聞こえる、この声の主を俺はハッキリと鮮明に覚えている。あの赤鬼のパイロットだ。

 俺の乗る機体、そしてエコ達が乗る機体の前にその赤鬼は現れた。どうやら破壊された機体の両腕は既に修理されているようだ。

「ここで俺達が戦ってどうなるんですか!? 戦うのは止めてください!」

 戦うのは止めろって……別にまだ戦ってないわけだが。

「俺だって別に好きで戦いた訳じゃねえ、ミシェルに会うためには戦わなくちゃならないみたいなんだよ」

「甲斐斗さん、貴方の言い分もわかります、気持ちもわかります。だから俺達はあの子に一切危害を加え無い事を約束します、ですからお願いします、信じてください!」

 そう言って仮面の男が徐に仮面に手をかけると、そっと頭から外していく。

 モニターに映っていたのはまだ若い男だった、そして俺はこの男に見覚えがある。

 やはりBNの基地にいた時に周りをERRORに囲まれ化け物に喰われそうになって俺が助けた奴だ。

 こいつはBNの兵士じゃなかったのか? 何故今こんな所で、あんな機体に乗っている。BNのスパイだった可能性もあるな。

 男は俺の眼を見つめているかのようにモニターに映っている、俺に信じてくれと訴えかけるように。

「ほぉ、んじゃその約束を破ったらお前はどう責任をとる」

「この命で償います」

 あっさり言ったなコイツ、命で償うだと?

「確か、名前は愁だっけな……ならお前に一つ言っておく。お前人との約束を死で解決できると思ってるのか? 破棄できると思ってるのか? お前が死のうが生きようが俺にはどーだっていいんだよ。……だが、俺はお前を信じてやってもいいと思っている。ただし、もしお前が約束を破れば。お前に死より辛く残酷な苦痛を味あわしてやる、いいな?」

「はい、必ずミシェルを守って見せます、約束します』

 瞬きもせずに俺をじっと見つめている、この男なら嘘はつかないだろう、そんな気が感じられた。

 正直人を信じたり、信用したりする事は滅多に無い俺が、この男は信じてみようと思えたのは、共に戦場で戦ったからだろうか。

 今は……奴の言葉を信じるしかない。

「なら今は引いてやるよ、また近い内にそっちに行ってミシェルを迎えに行くけどな。それまで約束を守れよ、愁」

 俺は通信を切ると機体の進行方向を横に反らし艦の後を追うのをやめた。

 ……これで良かったのだろうか。なんて考えるときりが無い、考えるのは止めだ。

 今はそう、あの俺を焼き払った龍と、飾りの剣を持った少年に会いに行くしかない。




 NFの司令室、そこには先ほど格納庫にいた神楽と、指揮官らしき人物が立っていた。

 甲斐斗を追っていたギフツが次々に基地に戻っていく中、その指揮官が神楽に問いかけた。

「何故戻させた、あの機体があればNFは更に……」

「あの機体が危険な物だって事は、EDPの指揮をしていた貴方ならわかるはず。

 それにあの機体を失っても心配はいりません、あの機体のデータは全てコピーしましたから」

 ポケットの中から一枚のディスクを取り出すと、それを顔の前に持っていく。

 指揮官がそれを取ろうと手を伸ばしたが神楽はまたすぐにポケットの中にしまってしまう。

「このデータを元に機体を作ろうじゃありませんか、そしてその役目、是非私に任せてもらえませんか?このデータと私がいれば実現できます、更に上を行く機体の開発をする事が」

「……わかった、その件は君に任せよう。しっかり頼んだぞ」

「ありがとうございます、では……私はこれで」

 全ては彼との約束の為に、一人の女が動き始めていた。

正式名MFE-アストロス・ガンナー (Saviors製)

全長-22m 機体色-灰色 動力源-光学電子磁鉱石

アストロスに武装パーツを最大まで組み合わせた機体。

相手を簡単には近づけさせない程の大量の兵器を武装している為機動力はアストロス以下。


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