第37話 生きる、意味
空からは戦闘機が爆弾を投下、降り注ぐ爆弾は地面から溢れ出てくるERRORを吹き飛ばしていく。
空中要塞アルカンティスも全砲門を開けて『GATE』の外にいるERRORを吹き飛ばしていた。
だが『GATE』上にいるERRORには手出しが出来ない、地上にいる仲間に弾が当たる可能性があるからだ。
更に第一、第二小隊が壊滅した為に外周のERRORを相手にしなければならない。
それでも唯一救いなのはERRORが空にいる敵に対して攻撃手段が無い事だ。
空で戦っている兵士は安全そのものだった、自分達はただ爆弾を投下し続ければいい。
だが地上は違う、この世の地獄のような場所で戦い続けている。
地上にいる兵士の顔には焦りと緊張が見える、無理もない、殺すか喰われるかの戦いだ。
そんな状況の中、地上の兵士に更に追い討ちをかけるかのようにERRORが増えていく。
「だからどうした! こんな雑魚野郎何匹いたって一緒だ!」
飛びかかるBeast態をひらりと交わし、すれ違いざまにBeast態の腸を鉤爪で切り裂くアストロス・ライダー。
その横では迫り来るWorm態の触手を交わし、拳一撃でWorm態を吹き飛ばすアストロス・オーガ。
そして2機を避けながら『GATE』中心部に向かおうとするERROR達を一から六の部隊、そしてフェリアルがフェアリーを操ると一斉射撃を行い一掃していく。
「残り九分、いけそう」
裕綽々の葵とエコ、全くERRORを恐れていないのだろうか、恐怖や焦りが全く感じられない。
「二人とも、油断は禁物です。奴等にとってここは本拠地。絶対に何か動きを見せてきます、注意してください」
そんな警戒心の無い二人に愁は注意を促すように声を掛ける。
「分かってるって、どんな敵が来ようと俺達で蹴散らしてやる」
しかし、それでも葵は特に警戒する事も無く余裕の表情を浮かべていた。
その時、二人の機体のレーダーに赤く大きな反応が示された。
反応と同時に由梨音の声が各機体に響き渡る。
「ぜ、全方向から数百匹のWorm態を確認!……って、え?」
「どうした由梨音、早く報告をしろ!」
「は、はい! 出現したWorm態の大きさがどれも数倍の大きさをしています、今各機に映像を送ります!」
各機のモニターに映し出される映像、そこには大量のERRORの姿が映っていた。
あれだけ殺してきたというのに、奴等はまだこれだけ残っている、迫って来ている。
それだけじゃない、さっきまで現れてきたWorm態の二倍程の大きさのWorm態が何百匹も進軍してきていた。
「このまま一直線に『GATE』中心部に向かってきます! 早く止めないと!」
だが事態は更に深刻化していく、『GATE』外周で戦っていた第三、第五小隊が壊滅状態。
兵士達は圧倒的な数に太刀打ちできず、じりじりと押され始めていた、
既に抵抗を続ける兵士の体力、精神力、そして銃弾の数に限界がきている。
更に続く、由梨音の機体に送られてくるデータは全て目を覆いたくなるような内容ばかりだった。
「さ、三番艦と二番艦がERRORに取り付かれた模様! 今各機に映像を……」
「止めろッ!!」
その男の声に由梨音の指が止まる。
モニターには一人、伊達武蔵の姿が映っていた。
「兵士達の戦意喪失に繋がる、今俺達のする事はEDPを成功させる事、どんな危機的状況だろうと戦い続けるんだ!」
既に艦は沈んでいた、艦内にいる兵士は次々にPeson態を喰われていき、戦艦が煙を上げ始めていた。
『GATE』解除装置、安全装置を解除した為『GATE』内部からPW入力装置が現れていた。
入力装置に大和はただひたすらPWを打ち続ける、周りには赤城の乗るリバイン、そして由梨音の乗るギフツしかいない。
残りの地上戦力は全て『GATE』内周でERRORと戦っているが、奴等ERRORの数が増えるにつれて味方の数が減っていく。
「残りの小隊も壊滅状態、巨大Worm態によって次々に破壊されています!」
今残っているNFの戦力といえば大和が一機、リバイン八機、ギフツが七十機程度しか残っていない。
ERRORはその数百倍の数で『GATE』に攻め込んでいる。
今はまだ戦闘機の爆撃、空母の援護砲撃でERRORの数を減らして何とか足を止めているが、
全方向からやってくるERRORに対し対処が遅れ始めていた。
「も、もう無理だ! 俺達はこのまま殺されるんだ……喰い殺されるんだ!!」
怯えた声で一人の兵士が前線から一歩下がる、それに釣られて何体ものギフツが一歩ずつ下がり始めていた。
「お、俺は弾が無くなった! 一度艦に戻る!」
逃げるように艦に戻っていく兵士達、しかしそんな暇など無い。
今ここで艦に戻れば確実にERRORに突破される、だが……それよりも兵士達は目の前の現実から逃げたかった。
生きて帰るはずだった、勿論戦う覚悟も出来ていたはずだった。
「俺はもう嫌だ! 死にたくない!! こんな所で……っ!!」
周りをERRORに囲まれ、次々に機体に張り付いていくPerson態。
混乱して操縦桿を動かす兵士、もうモニターにはPerson態の笑みしか映っていなかった。
引き金を引こうとするが既に両腕はPerson態に喰い千切られ何もする事が出来ない。
何匹ものPerson態が機体の装甲は噛み砕き、融かしていく。
「だ、誰か助けてくれぇっ! 俺は嫌だぁっ! 喰われたくない!!」
もやは何処にも逃げ場は無い、操縦席で絶望と恐怖で暴れまわる兵士。
その時、視界にふと何かが黒い物体が見える、それは弾が一発だけ込められている拳銃だった。
震える手でその銃を掴み取ると銃口を自分のこめかみに当てた。
状況の悪化は更に加速していく、ルフィスは接近してくるWorm態に気付くと、
「赤城少佐! 全長五十メートルを超える程のWorm態を三体確認!こちらに真っ直ぐ進んできます!」
「でかいな……、私が向かう」
赤城の乗るリバインは発進しようとした時、突然愁の機体から無線が入る。
「Worm態は俺に任せてください、隊長は中央に向かうBeast態の排除をお願いします」
「あの巨大なWorm態を、一人で倒せるのか?」
「心配いりません。ですが、現在残っている戦艦は二艦。これ以上艦を失うと脱出が難しくなります。なので現在葵さんとレンさん、部隊の人達に艦の護衛をさせています」
「分かった、私は引き続き中心部に向かってくるERRORを排除する。お前もWorm態を排除した後中心部に戻れ」
「了解」
愁との通信が切れたちょうどその時、簡易レーダーに数十匹ものBeast態の反応が示されていた。
「武蔵、制限時間は後5分だ。解除は出来そうか?」
武蔵と通信を行なう赤城、武蔵は相変わらず冷静に物事をこなしている。
「ああ、後1分もあれば余裕で出来そうだよ。皆に撤退の準、び…を……」
突然武蔵の表情が暗くなり、苦しそうな顔に変わる。
「武蔵……? おい、大丈夫か! しっかりしろ!』
明らかに大丈夫では無い、見ただけでそれがわかる意識が朦朧としており、頭が左右に揺らいでいた。
武蔵だけでなく大和の様子もおかしい、さっきまで動いていた指が止まると。機体も停止してしまう。
一切動かなくなった大和の中で武蔵が一人頭を抱えながら唸り、苦しんでいる。
その事に一番驚いていたのは武蔵でもなく、赤城でもなく、神楽だった。
『アルカンティス』に乗り、EDPの様子を見ていた神楽が驚いた表情でモニターの映像を見ている。
「どうしたの!? 伊達君! しっかりして!!」
武蔵と通信を試みる神楽、すると武蔵が一言言葉を漏らす。
「頭の中に、何かが……っ!」
「えっ? そんな……」
急いでPCの前に座る神楽、一瞬にして大和にアクセスすると機体のデータをモニターに表示させる。
モニターには真っ赤に染まっている、機体のあらゆる所に『─ERROR─』が発生しており、『SRC機能』にも障害が生じていた。
「そんなっ……私は大和の整備を完璧にしたはず。それなのに、どうして……」
そこに今度は赤城と通信が繋がる、その顔は焦りの表情を浮かべていた。
「神楽! 一体何が起きている!? どうにかならないのか!?」
「私の整備ミス? 私がしっかり、ちゃんと大和の整備をしておけば、こんなことには……」
「神楽ッ! 聞いているのかっ!? しっかりしろ!」
モニターを一心不乱に見つめていた神楽に一喝する赤城。
ようやく神楽は我に返ると、急に眼つきが鋭くなる。
「私に任せなさい、数分で直してやるわよ」
「分かった、出来るだけ急いでくれ。もう時間が無い」
赤城との通信が切れると、神楽はすぐさま作業に取り掛かった。
真っ先に復旧しなければならないもの、それは『SRC機能』、これさえ直せば武蔵の頭痛は治まるはず。
相変わらず大和は停止しており、その中では必死に苦しみに耐える武蔵。
「伊達君……ごめん、もう少しの辛抱だから!」
「Worm態確認、予想以上に大きい」
その頃『GATE』外周に向かった愁、そして愁の前に見えるのは3体のWorm態が一列に並び『GATE』中心部突進している姿だった。
「止めてみせる!」
愁の乗る機体が1機、巨大なWorm態に突撃していく、
それに気づいた一番前にいるWorm態が口から触手を伸ばし機体を捕らえようとする。
だが機体はそう簡単には捕らえられない、何十本も伸びてくる触手をスピードでかく乱し避けていく。
Worm態の目の前にまで移動した機体、拳を振り上げると一気に振り下ろしWorm態の硬い甲羅を殴る。
一瞬Worm態の動きが鈍くなるが、Worm態の勢いは止まらない。アストロス・オーガの拳を弾くと一気に突き進んでいく。
「甲羅の強度が上がっている!? それなら!」
機体の手首から放出されるRE粒子を拳に散布していく。
そして一度Worm態から離れると、出力を全開にし一気に加速していく。
「この拳で砕けない物は無いッ!!」
その機体の速さに、Worm態の触手はついていくことができない。
気づけば既にWorm態の目の前に現れていた『鬼』。
拳が甲羅に触れた瞬間、甲羅全体に亀裂が走りわたる。
拳の勢いは衰えない、更に機体は加速していき、五十メートルもあるWorm態を拳一発で押し返した。
大きく転げ回るWorm態、何十本もの足が不気味に動いていたがやがて止まり、動かなくなる。
「残るは二匹!」
次に突進してくるWorm態、このERRORもまた拳で吹き飛ばそうとした時。
口からではなく、体全体から大量の触手が突然伸びはじめる。
それに気づいた愁は急いで触手を避けようと機体を動かすが、何十本もの触手は次々に機体を狙って伸びていく。
「こんな事も出来るのか、触手数も多いし速い。今までのWorm態とは違う」
触手を避け続け、何とか隙を狙いWorm態を倒そうとするが中々近づく事が出来ない。
圧倒的な速さで触手を回避していきWorm態に向かおうとするが、やはり体から出る触手で近づけない。
「くっ、このままだとWorm態が『GATE』中心部に到達してしまう。どうすれば……」
その時だった、突然背後から何十本もの触手が迫り、一気に機体に巻きついていく。
振りほどこうとするが既に機体には何十本もの触手が巻きついており、何もする事が出来ない。
後ろに振り返ると、さっき殺したはずのWorm態からも体全体から触手が伸び、その触手が機体に巻きついていた。
「まさか死んだフリをしていたとは、予想外だな」
触手が機体を締め付けていく、その力に機体の左腕が引き千切れ、地面に落ちる。
「このままだと俺は死ぬな、仕方無いか。……って俺は何を言っている、何故死を恐れない? このままだと俺は死ぬんだぞ?』
機体の右腕が引き千切れる音が聞こえた、足元には両腕が無残にも千切れ落ちており、もはや成すすべは無い。
「何故だ、何故俺は恐怖を感じない、どうして死が怖いと思わないんだ? 俺は、俺は……どうなっているんだ……?」』
「知らねえよ、俺に分かる事と言えばお前は死を恐れない自分を恐れているって事ぐらいだぜ」
一筋の閃光が機体を掠めた時、機体に巻きついていた全ての触手が切り落とされる。
そして『鬼』の前に現れる1機の機体、前に見た事のある機体の面影、そしてあの黒剣。
『魔神』だった、『鬼』の目の前に立っていたのはあの『魔神』が立っている。
「貴方は前に戦った……まさかっ!?」
「ああ、甲斐斗だ。それにしても、こんな虫けらに随分負けているようだな」
「どうして貴方がここにいるんですか!? 貴方の目的は……」
「今はそんなのどうだっていいんだよ、俺はEDPを遂行するのみ、って事は今は俺とお前は味方だ。手を貸してやる」
そう言うと、『魔神』はWorm態に突進していく。体から触手を伸ばし『魔神』を捕まえようとするが無駄な事だった。
触手は瞬く間に切り落とされ、甲斐斗の乗る機体は易々Worm態の前に現れた。
黒剣を振り下ろすと、そのまま一気に頭部から背部まで切り通す。
Worm態の体が綺麗に真っ二つになり、動かなくなる。
周りに残っている2匹のWorm態が触手を伸ばすが同じように全て切り落とされ、真っ二つに切り裂かれてしまう。
それが終わると負傷した『鬼』を抱え、『GATE』上に残っている艦まで戻っていった。
「赤城隊長! 艦から突然あの機体が飛び出しました! っと思ったら戻ってきました!」
「あの機体……何故動いている。誰が乗っているんだ?」
『魔神』は気にせず艦に入り、負傷した機体をその場に置く。
そしてまた艦から出ると、今度は『GATE』中心部に向かって行った。
(さて、ようやく俺の出番だが、少し登場が遅れてしまったな)
「武蔵、遅れてすまない。だが俺が来たからにはもう安心だ、俺に全て任せな」
「あ、ああ。君が来てくれればもう安心、だね」
甲斐斗の登場に安心し笑みを浮かべる武蔵だが、その額には汗が流れ顔色も悪く苦しそうな表情を浮かべていた。
(なんでこんなに辛そうなんだ? 早く大和の機能を回復させないと機体以前にこいつが死ぬぞ)
その時、通信から聞き覚えのある女性、神楽の声が聞こえてきた。
「伊達君! 修理は終わったよ! これで機体は動くはずだから!」
「ありがとう神楽、やってみる」
大和の眼に光が灯る、機体は再起動すると、再び同じようにPWコードを入力していく。
「武蔵! 制限時間は残り二分を切ったぞ! 急げっ!」
飛びかかるBeast態を次々に斬り捨てていく赤いリバイン。
そしてPerson態は由梨音の乗るギフツがマシンガンで次々に撃ち抜いて行く。
更に艦付近にいるフェリアルがフェアリーを飛ばし、中心部向かってくるERRORを一掃していた。
圧倒的に不利な状況、だが勝利は目前。兵士達にも希望が見えてきていた。
「えっ? 何、これ……」
彼女の声が聞こえるまでは。
由梨音の凍ったような小さい声が兵士達に聞こえてきた。
「どうした由梨音、また敵の増援か?」
赤城が何事かと思い、すぐさま報告させるように指示する。
「は、はい。一体だけ反応があります、でも、この反応!?」
機体や艦に乗っている兵士全員が揺れを感じる。
地震ではない、巨大な何かが、大地を切り裂き現れようとしていた。
地面に走る亀裂によりその亀裂の中に次々にERRORが飲み込まれていく。
数百を超えるERRORでもさえも、それはゴミやチリに等しい程小さく見えた。
地面から突如現れた物、それは一本の大木の様に見えた。
だが緑溢れる木には程遠かった、桃色と赤色の混じった『ソレ』は、何本もの触手が垂れ下っていた。
まるで一匹の生き物かのように、その体は人間に肉の色に近い。
よく見れば血管のような物まで見えている、この世のものとは思えない姿、そして大きさに、その場にいた全兵士が圧倒される。
「何だ……これは……」
一人の兵士が言葉を漏らす、ここにいるほとんどの兵士がそう思っているだろう。
「でかい、でかすぎる……」
全長数百mはあるだろう、この巨大な生き物のような強大な植物に誰が困惑し呆気にとられてしまう。
その時、その巨大なERRORから伸びている一本の触手が動き始めた。
触手は振り上げられると、戦艦に狙いを定め、一気に振り下ろす。
「各機触手を撃て! 艦を守るんだッ!!」
艦の周りにいたギフツ、リバインが触手目掛け一斉に銃の引き金を引く。
だが巨大な触手にそんな物は通用しない、太く、長い触手は止まる事無く振り下ろされた。
気づいた時には既に遅かった、たった一本の触手が簡単に戦艦を押し潰す。
地面にめり込み、押しつぶされた衝撃で爆破する戦艦、触手がゆっくりと離れると、そこには無残な艦の姿しか残っていない。
「あ、赤城隊長! もう艦が一つしかありません! こ、このままでは!」
「分かっている! あの巨大なERRORはアルカンティスに任せろ、我々は近づいてくるERRORの排除に専念するんだッ!」
巨大なERRORは体から何十、何百もの触手が一斉に伸びる。
戦艦を押しつぶす程の巨大な触手が4本、それより細い触手が数十本、それよりも更に細い触手が数百本見える。
その姿はまるで一本の木、肉の枝が分かれ、血の花が咲いているかのように。
アルカンティスが巨大なERRORに集中砲火を浴びせるが、ERRORは怯むことなく次々に戦艦に触手を伸ばしていく。
その触手は空軍の戦闘機が機関銃で撃ち抜き、本体にミサイルを放ちはじめていたが、巨大なERRORはそんな物には動じない、周りを飛んでいる戦闘機を次々に触手で捕まえていく。
触手は戦闘機を捕まえると人が一人通れる程の管が現れ、戦闘機に乗っていたパイロットを一瞬にして吸い込む。
兵士はそのまま管を伝わり、巨大なERRORの中心部に飲み込まれていった。
勿論空だけではない、地上にいる兵士達にさえ触手が次々に伸びはじめる。
機関銃、LRSを使い何とか凌いでいくが時間の問題だ、こんな物で勝てるはずがない。
「はあっ!? 一体なんだよあれは! こんなの聞いてねえぞ!」
葵が半ギレになりながら近づいてくる無数の触手を次々に鉤爪で斬り捨てていく。
だが葵達の体力、そして機体にも限界が近づいてきていた、二人が見せなかった焦りが薄らと見え始める。
「次にあの触手が攻撃してきたら、最後の艦が……」
「止めろエコ! そんな事言うと本当に来んだよ馬鹿ッ! 今の俺達じゃあんなの破壊できねえぞ!!」
幾らライダーでも巨大なERRORの前に手も足も出ない、すると葵は戦場に見慣れない機体がいるのを見て通信を繋げると操縦席に座っている甲斐斗を見て声を荒げた。
「あ! お前甲斐斗じゃねえか!? お前が何でここにいるのかは後で聞いてやる! そのでかい剣で何とかしろ!!』
葵に声を掛けられた甲斐斗は一瞬驚いてしまうと、通信状況を確認しこの会話を自分と葵の二人しか聞いていない事を確認し少しだけ安心した。
(うるさい女に見つかってしまった。出来れば関わりたくない……)
しかし無視をすると余計うるさそうなので甲斐斗は渋々喋り始める。
「そうしたいが、あんな巨大な物が高速で振り下ろされるんだ。そう容易に斬る事は出来ねえ……が、やるしかなさそうだし、何とかやってみる」
「よく言った! それでこそ男! 期待してるぜッ!!」
そう言うと葵との通信が切れる。
……簡単だった、あんな物切り落とす事ぐらい。甲斐斗にとっては容易な事だったんだ。
でも今は違う、魔力も何も無い自分にそれが出来るのだろうか。
もし外せば確実に死ぬ。潰されて死ぬ、そんな死に方絶対に嫌だ。
甲斐斗は戦艦の上に立ち上がり、自慢の黒き大剣を構える。
「各機! 巨大なERRORがあの巨大な触手を振り上げ始めています! 全力で艦を護衛してください!」
由梨音の声が艦周辺にいる全機体に流れていく。
「最後の艦はやらせはしねえ……来いッ!」
甲斐斗がそう言うとERRORの触手はタイミング良く戦艦目掛けて振り下ろされた。
迫り来る触手、機体と触手との距離が一瞬にして縮まった時、甲斐斗は構えていた剣を振り上げた。
(……どうやら、俺の腕もまだ鈍ってはいないみたいだな)
戦艦の横に落ちる巨大な触手、間一髪で甲斐斗はこの触手を切り落とす事に成功した。
「俺に出来ない事は無いって事だな……ふぅ」
その時、自分が切り落としていたはずの触手が未だに蠢いているのが見えてしまう。
(相変わらず気持ちが悪い。まぁ俺は切り落とす事に成功したし、残り三本の巨大な触手も俺がなんとかしないとな……)
『─ERROR─』
モニターが急に赤くなったと思えば、突然一つの単語が現れた。
(ERROR? 何だこれは、どこか機体の調子でも悪いというのか?)
『─ERROR─』
『─ERROR─』
『─ERROR─』
その言葉が重なりながら機体の画面を埋め尽くしていく。
(おいおいおい、画面を埋め尽くすほどのこのERROR表示、機体に何が起こってやがる!?)
訳も分からず甲斐斗は慌てていると、突如目の前のモニターに血飛沫が掛かった。
(今度は───何だ?なんでモニターが赤く染まってんだよ───目の前が霞んで見えるし、腹が熱い……ああ、なるほど。これ、俺の血だ)
甲斐斗はゆっくりと視線を下げると、自分の腹を裂き、腹の中から赤く細い触手が何本も蠢いていた。
それで漸く気づく事が出来た、機体の背部を融かし、触手が俺の背中を貫通して腹から出ている事を。
でも何故、どうしてそんな事が……機体の背後にあると言えば、斬り捨てた巨大な触手しか……。
「嘘、だろ……?」
斬り捨てた巨大な触手、その触手からは無数の触手が伸び、甲斐斗の乗る機体に一斉に伸びていた。
何本もの触手が俺の中に入っている、触手は甲斐斗の内臓をかき混ぜ、千切り融かしていた。
甲斐斗は血と胃液をその場に吐き出し始めると、白目を向いて操縦桿に倒れこんだ。
機体の眼から光が消える。
背部の動力源も破壊され、機体はただの鉄クズと化す。
触手は機体から離れると、今度は艦の装甲を融かそうと一斉に伸び始める。
だがその触手をLRSで切り刻んでいく赤いリバイン。
そしてLRSを背部に戻すと、今度は機関銃を取り出し巨大な触手に銃口を向けて引き金を引いた。
何十発の弾丸を受け次第に力が無くなっていく触手、一つのカートリッジを使い果たした時には既に動かなくなっていた。
「おい! その機体に乗っているパイロット! 大丈夫か!? 返事をしろ!!』
返事等出来るはずが無い、肺も心臓も無い体が喋るはずがない。
「赤城隊長! そのパイロットは既に死んでます! 生体反応が既に消えているんです! それに巨大な触手がもう一本来ています! このままでは艦が……ッ!』
由梨音の口が止まる、モニターには赤いリバインが巨大な刀を構え、戦艦の上に立っている映像が映っていた。
「私が斬り落とす」
この武器は、こんな時の為に使うはずだ。神楽特製のLRB、今こそ力を発揮する時。
「LRB出力最大、RE粒子散布!」
生きて帰る為に艦は絶対必要不可欠、今ここで艦を落とされる事はこの場にいる兵士全員の死を意味する。
不安はある、正直自分に斬れるとはどうかもわからない、もしかすればこのまま押し潰されて死ぬかもしれない。
それでも……今ここで刀を振るわなければ確実に死ぬ。
ERRORが振り上げられた触手は一気に振り下ろされた。
赤城はわずかに目を瞑り、目前に迫る触手をそっと見つめ続ける。
刀に力はいらない、タイミング、そして角度をつければ自然に刃先は入っていく。
リバインの握る刀もまた同じ事だった、触手の動きを見切り、LRBを振り下ろす。
その大きな刃は簡単に触手を断ち切った、斬り捨てられた触手は大きく吹き飛び『GATE』上に転がっていく。
転がる触手をギフツ達は見つけるとすかさず銃口を向けて引き金を引き、触手を破壊する。
赤城の集中力が切れた、あの一振りにどれだけ息を呑み、皆が緊張していのか。
するとまた由梨音と通信が繋がる、そして由梨音の口が開き呟いた。
「次の触手が振り下ろされました」
赤城がその存在に気づいた時点で既に遅かった、目前にまで迫ってきている触手に、指一つ動かす動かす事が出来なかった。
誰もが終わりだと思った時、一人の男の声が機体に流れた。
「問題ない」
こんな状況で、そんな言葉が聞こえてくるのは聞き間違えたのかもしれないと思った。
だがその声はハッキリと聞こえていた、強く、そして熱い一言。
そして現状は、言葉の通りになる。艦を押しつぶそうとしていた触手は残光が走ると共に上空へと吹き飛んだ。
上空に吹き飛ぶ触手に、一発の砲弾が放たれる。砲身が触手に触れた瞬間巨大な爆発と共に触手は四散する。
茶色い装甲に、巨大な大砲、そして両手で握り締める長刀……。
赤城の前にいたのは紛れも無く東軍最強を誇る機体大和の姿がそこにはあった。
「武蔵! お前がここにいるという事はっ!」
「ああ、GATE解除に成功した。GATEが開く前に全機速やかに艦に乗り込むんだ、この場から脱出するッ!」
『GATE』がゆっくりと動き始める、その振動は人類の勝利を祝福しているかのように皆には感じられた。
後はこの場から脱出し、空中要塞アルカンティスの主砲で巣を消すだけだ。
誰もが勝利を確信して最後の艦に戻ろうとしていた、アルカンティスは『GATE』上空に移動すると、主砲のハッチを開いていく。
このまま思い通りに行けばEDP成功は間違い無し、そう思い通りに行けば。
それは新種の、一本の、一匹の、巨大なERRORがいなければの話しだった。
巨大な触手は合計で4本、既に3本斬りおとされているが、まだ最後の1本が残っていた。
そしてその最後の1本は、戦艦ではなく、『GATE』上に浮上しているアルカンティスを目掛け伸びていた。
既に戦闘機は細い触手に破壊され残りわずかしか残っておらず、巨大な触手がアルカンティスに届く事など簡単な事だった。
「まずいぞ! このままではアルカンティスが!」
「最悪のパターンだ。ここまで来てあの母艦が落とされたら全て終わる、俺達のしてきた事も全て、無駄だった事になってしまう!」
既に生き残った部隊の兵士達は次々に艦に乗り込んでいく、艦の外では葵とエコ、レンと武蔵、そして赤城の五人の主力メンバーが現在艦を守っていた。
そして艦はまだ逃げ遅れている兵士達を待っている、当然仲間を見捨て、置いていく訳にはいかない。
「赤城、俺は逃げ遅れている人達を助けに行く。君達はここで艦を守っていてれ」
「武蔵……まさかそんな事を言ってあの巨大なERRORの所へ向かうつもりではないだろうな?」
「逃げ遅れた人達を助けに行くのは本当だ。赤城、あれを止めないとアルカンティスが主砲を撃てない。なら俺が行くしか───」
「馬鹿者ッ! いくらお前でも無理だっ! ただ死にいくだけだぞ!?」
「死ぬ覚悟は出来ているつもりだよ、俺の死でこのEDPが成功すればそれは本望だ」
武蔵はその言葉を最後に大和が巨大ERRORに向けて走り出そうとしたとき、一人の男から通信が繋がる。
「本当に死ぬ覚悟が出来てる奴は、そんな事口に出して言わねえよ……」
戦艦の上で機能停止していた一体の機体が立ち上がり始める。
背部についてある動力源を破壊され、中にいるパイロットも死んだはずだというのに───。
「か、甲斐斗! 生きていたのかい!?」
武蔵の前のモニターには腹に大きな穴が開いている甲斐斗の姿が映されていた。
それでも甲斐斗は生きている、こうやって喋っているのだから。
「つくづく、思うね……こんな自分を見ると、もう自分が人間じゃあないって……っ……」
武蔵は何て声を掛けていいのかわからない、腹に穴が開いているのに生きている人間等見た事が無い。
いくら何でもこれには武蔵も驚きを隠せなかった。
「ここは俺に任せて、お前はさっさと、っ…あ……」
頭痛が甲斐斗を襲う、これでもう三度目になる頭痛は、更に甲斐斗を苦しめていく。
だが今回だけは少し違った、今頭痛が起きているのは甲斐斗だけでなかった。
「なんなんだよこれ!頭が割れそうに痛てぇっ!」
「わからない……けど、何か感じる」
艦を護衛していたライダーの動きが止まる、操縦している二人は頭を抱えながら苦痛に耐えている。
とても戦闘が出来る状態ではない、一度葵達の乗るライダーは艦へと戻る。
オーガの中にいる愁も頭を抱えながら体を小さくし、痛みに耐えている、だが痛みと共に昔の出来事が鮮明に脳裏に蘇っていく。
「母さん、ごめん、許して、許し、て……」
思い出してはならない過去が次々に思い出していくと、ふとそれを防ぐかのように意識を失い、操縦桿に倒れこむ。
そしてある一室でEDPの様子を窺っていた少女、フィリオにも頭痛は起きていた。
だがフィリオは頭痛だけではなく、全身に鳥肌がたち、何かに怯えるように体を小さくしていた。
「この力、この憎悪……この世界にあってはならない。彼の存在は神を冒涜している」
「甲斐斗? 大丈夫かい? 甲斐斗!」
頭を抱え苦しみ悶える甲斐斗に武蔵は声を掛けると、先程まで体を震わせていた甲斐斗が突如口から血を垂らしながら笑い始めた。
「っくくく…はは……あはははハ!」
薄気味悪いその笑い方は、もはやそこに理性の欠片も無かった。
武蔵が何かと思い声を掛けようとした時、甲斐斗はその言葉をかき消すような大きな声で笑い始めた。
その笑い声に武蔵は何も言えず、ただ笑い叫ぶ甲斐斗を見ているしかない。
そして一呼吸終えると、活き活きとした笑顔で喋り始めた。
「ついにこの時が来たァ、ようやく俺の力を発揮出来る時がなぁああああっ!!」
甲斐斗の乗る機体は戦艦から更に高い所へ飛び立ち、空中で停止する。
そして機体の足元には黒い光が発行しながら一瞬にして魔法陣のような物が形成された。
魔法陣は一つではない、足元、そして機体の周りにも次々に現れ始め、最後の魔方陣が甲斐斗の額に現れた。
機体にも変化が来ていた、装甲が黒く変化していき、形状を変えはじめる。
変形した機体、それは生き物にも見える、そしてより『魔神』に近い形になっていた。
「出て来イ」
そう甲斐斗が呟いた瞬間黒い雷が機体の拳に落ちると、その拳にはあの黒剣を握られていた。
甲斐斗はニヤリと笑みを浮かべた後、『GATE』外周にいるあの巨大なERRORに向かって機体の手に持っている剣を振った。
ただの一振り、しかしその刃からは斬激が放たれると何倍にも広がり、あの巨大なERRORの胴体を簡単に斬り落とした。
全長数百mはある巨大なERRORをたった剣一振りで断ち切ると、今度は右腕を天に伸ばしはじめる。
手の平に何やら黒い霧ようなものが現れ始め、近くには雷光が見え始めていた。
「こんなに大量の血を見たのは久しぶりだ、化け物と人間の血が門と地を赤く染めてやがる。最高じゃないか」
そう言うと機体は振り上げていた右腕を地上にいるERRORに向ける。
地上には戦艦目掛けて何百匹ものERRORが迫ってきていた。
「あア? 消えろゴミ虫」
甲斐斗の眼は大きく開き、最高の笑みを浮かべながらそう呟いた。
右手から放たれた黒い光は雷光を纏いながら一直線に飛んで行き、光はそのまま大量のERRORを飲み込んでいく。
強烈な爆発と共にその場にいた全てのERRORが掻き消され、荒れた大地にわずかな肉片が残っているだけの光景となった。
魔神の力は誰もが驚き、恐怖を感じる。だがそれと同じように、兵士達には希望が込み上げてきた。
「これが最強の力、俺が持って、いた、元々の、ちか…ら……」
甲斐斗の額から陣が消えると、機体の周りに現れていた陣が全て消える。
空中に浮いていた『魔神』は突然力を失いそのまま地面に落ちていった。
《これよりアルカンティスの主砲発射準備を開始します、発射まで、残り三分》
既に『GATE』は半分以上開き、ERRORの巣へと通じる穴が見えていた。
「武蔵、今のは一体何だったんだ……あの機体に何が……」
「今はそれを説明できそうにない、赤城はあの機体を連れて先に艦に戻っていてくれ」
あの高さから落ちたというのに、機体の装甲には全くと言って傷は無かった。
赤城の乗るリバインがその機体を抱きかかえると、すぐさま最後の艦に移動する。
地面から次々にERRORが湧き出ているが、今は艦の周りには何のERRORもいない、『魔神』が全て排除したからだ。
今が逃げるのに絶好のチャンスであり、この機会を逃がすとERRORに取り囲まれる危険性がある。
だから戦艦は徐々にスピードを上げて行き『GATE』上から降りようとしていた。
それに速やかに『GATE』から離れなくては、アルカンティスの主砲に巻き込まれ破壊される可能性もある。
リバインは無事着艦、抱き抱えている『魔神』をその場に置こうとした瞬間、艦内に荒々しいブザーの警報音が響き始めた。
「今度は一体何事だ、何が起きた!?」
「艦の進行方向に地面から伸びる触手を確認。今艦が砲撃を行なっていますが、すぐにまた触手が伸びて排除できません!」
「このまま進み続け『GATE』から出ると艦が触手に捕らえられてしまいます!」
戦艦は進み続ける、赤い触手は何百本も束になり、まるで赤い血の壁が聳え立つように見えた。
いくら砲撃しても吹き飛ばしても、また地面から伸び始める触手に、兵士達はどうする事も出来ない。
「隊長、私……死ぬのが怖いです」
「由梨音?」
由梨音が涙を流し、零れ落ちそうになる涙を必死に拭っている。
彼女はもう理解したようだ、自分の人生の結末を。
「もう無理だよぉ…私達はここで死ぬ……もう助からないんだ……」
その由梨音の言葉に赤城は何て言葉をかけていいのかわからなかった、既に自分の目にも薄らと涙を浮かべていたからだ。
《アルカンティス、主砲発射まで、残り二分》
もう時間も無い、EDPは無事に成功するだろうが、ここで残りの兵士は全て死ぬ。
そして語り継がれるであろう、地上部隊は自らの命を犠牲にしてまでも立ち向かい、勝利の為に戦ったのだと。
この状況の中、赤城はふと思った、どうせ死ぬなら、愛する人と共に死にたい……と。
無意識に武蔵を探す、だが武蔵の機体はまだ着艦していなかった。
「武蔵、今どこにいるんだ。早く艦に戻って来い……」
武蔵と通信を繋ぎ、赤城が力の無い声で喋る。
「どうした武蔵、応答しろ」
だが武蔵から一向に返事が帰ってこない、変に思った赤城は由梨音に武蔵の居場所を確認させた。
「伊達大佐の機体……艦とは逆の方向に向かって……っ!? 赤城隊長! 伊達大佐がGATEに戻っています!」
艦内に鳴り響く警報音の中、まるで時が止まったかのように赤城の周りが静かになる。
いや、赤城の耳に雑音が届かなくなった、だから赤城には静かになったように思えた。
「……は?」
何故この状況で武蔵は『GATE』に向かっているのか、赤城には理解できなかった。
当たり前だ『GATE』に向かって何が出来る、この状況を打開する。
武蔵の行動に赤城は疑問を抱き、その馬鹿げた行動を今すぐ止めようと武蔵と通信を繋いだ。
「武蔵、貴様『GATE』に行って何をする気だ。そんな所に行ったってもう無理だ!」
「俺は言ったはずだよ、諦めるなと。赤城、必ず君を生かしてみせる」
「私はいいんだ! お前と共に戦い、共に死ねるなら。私はそれで満足だッ!」
死が間近な時、人は心の中に思っていることを簡単に口に出す。
普段なら絶対に言わないような台詞を赤城は吐き、武蔵を求めた。
「俺はこうも言った、生きろ、自分の命を無駄にするな、と」
だとすると、武蔵の台詞もまた、心の中に思っていることを口に出しているのだろう。
「武蔵? 一体何をするつもりだ、は、早く……早く戻って来い!」
赤城の命令に武蔵は聞く耳を持たない、武蔵の乗る機体は止まる事無く開いた『GATE』の中に入っていく。
だが『GATE』に入った瞬間、最深部から赤い触手が次々に伸び始め、大和に襲い掛かる。
そんな触手は大和は2本の刀で次々に斬り捨てて行き、最深部まで降りていく。
「赤城、君は本当に強くなったね。俺よりも何倍も、何十倍も……」
「馬鹿者! こんな時に何を言っている、お前は私よりも強いだろ!」
赤城は武蔵の強さを目指していた、小さい頃は思い続けている事、武蔵より強くなり、勝つのだと。
「違う、俺は君の背中を押して、前に進むのを手伝っていたにすぎない。君は既に俺を追い越していたんだよ。あの時、出会った時から」
意味がわからない……武蔵は一体何を伝えようとしているのか、赤城にはわからなかった。
「強さには……いろんな形がある。そして、俺に足りない強さを赤城は持っていた」
それは武蔵も同じだ、赤城に持っていないものを武蔵は持っている、赤城はそれを必要としている。
「君のその強さは今後世界の為に必要不可欠だと俺は思っている、だから君は……生きるんだ」
「武蔵……私にとってお前と生きるのが生き甲斐なんだ、お前がいないのなら……生きる意味なんて無い……」
「赤城の口からそんな事を聞けるなんて。うれしいな、俺は赤城と、この世界を愛している。だから死なせたくない、助けられるのなら俺は命を捨てたって構わない。本当、今までありがとう」
一方的な会話、赤城が返事を返そうとすると、突然通信が途切れる。
必死になって何度も通信ボタンを押すが、もう武蔵の声が聞こえる事は無かった。
《アルカンティス、主砲発射まで、残り一分》
長い『GATE』の通路をようやく降りる事に成功した武蔵、目の前には異様な光景が広がっていた。
微かに赤い光を発している壁には、ゾロゾロとERRORが蠢いていた。
しかし武蔵はそんなERRORには目もくれない、武蔵が狙うのはただ一つ、あの巨大ERRORの『根』であった。
『GATE』外周に出てくるあの触手は、甲斐斗が斬り落としたあのERRORの『根』だというが武蔵にはわかっていた。
「艦長、聞こえますか? 現在GATE最深部に到達しました、俺が触手を焼き払う間に脱出してください」
「了解しました……。伊達大佐、貴方はNFの誇りです」
モニターには艦の操縦室にいる兵士達が全員敬礼をしている姿が映っている、武蔵も敬礼をした後、ゆっくりと通信を切った。
大砲をERRORの根に向けると、壁一面から次々に触手が現れ、大和を拘束していく。
そして酸を発しながら次々に機体の装甲に突き刺さる、だが大和は倒れない、触手がいくら絡みつこうが決して止まる事は無かった。
「神楽……ごめん、君が作ってくれた機体をこんな風にして。そして使わせてもらうよ、君が開発したLRCを」
大砲に触手が巻きついていくが、狙いが変わる事は無かった。
その時武蔵の脳裏には昔の平和暮らしや楽しかった思い出、嬉しかった出来事、辛い過去が、走馬灯のよう映し出されていた。
「LRC最大出力、この一撃で切り開く、生き残った戦友の未来をッ!!」
大砲の先端から光が発せられた瞬間、地上にある戦艦は全速力で『GATE』から離れた。
地面から伸びるが艦を巻きつこうとした時、次々に触手が倒れていく。
艦は止まらず更に加速していく、弱々しく倒れている触手を次々に吹き飛ばしていく。
艦にいたものは物に掴まり、必死に艦の揺れに耐えている、そして全ての艦は突きぬけ、ついに触手の壁を突破する事が出来た。
それと同時に艦内に響くアナウンス、それはEDPを終わらせる合図に聞こえた。
《アルカンティス、主砲発射準備完了、主砲、発射》
母艦から一閃の光が『GATE』に落ちる。
その光は忽ち太く巨大な光へと変化していき、母艦からは何百発のミサイルが放たれた。
まるで地面が動いているかのように、地上はERRORに埋め尽くされている。
そのERROR達に数百発のミサイルが落とされる、次々に降り注ぐミサイルは地面諸共爆砕しながら地上にいるERRORを排除していく。
もう手加減はいらない、味方がいない今、全ての戦力を惜しまず使う。
母艦の圧倒的な火力でERRORは成すすべも無く吹き飛ばされていく、戦っていた戦友の亡骸と共に。
NF歴百年七月七日十五時十分 EDP終了
正式名Plant態(第五種ERROR)
全長-三百〜???m
最大級ERROR、大樹のような姿をしており植物と生命体のハーフのような生き物。
通常兵器では全く歯がたたず、四本の巨大な触手と、数千本の細い触手を使ってくる。
また体内には様々なERRORが入っている為ERRORの要塞とも言える。