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第35話 EDP、始動

 あれから一日がたち、とうとうEDP決行の日が来た。

 兵士達は朝から慌しくEDPの向けて準備をしている中、東部軍事基地の門の前に一台の黒いリムジンが止まる。

 当然門番の兵士達がその車に気づき、車の側に近寄ってくる。

「失礼、ここの扉を開けてくれないだろうか」

 運転手は一枚の紙を兵士に渡すと、門番の兵士はその紙に書いてある内容はすぐさま読み始める。

 すると、さっきまで強気だった態度が急変、顔色を変えてすぐさま門の扉を開けるよう他の兵士に指示をし始めた。

 その様子に運転手は小さく笑みを見せると、止めていた車を発進させ基地の中へと入っていった。



「伊達中尉! それは本当なんですか!?」

 驚きが隠せないレンはそう問いかける。

 今、会議室に向かう廊下では急ぐように武蔵と由梨音が歩いており、その後ろをレンがついてきていた。

「ああ、騎佐久が言うには本当らしい」

 まるで前からそうなる事を予想していたかの出来事だった。

 前日の戦闘で兵士、機体や弾薬を消耗してしまい万全の体制でEDPを迎える事は出来ないと思っていた。

 だが今は違う、機体も弾薬も全て揃い万全の体制になっている。

 何故それだけの事が出来たのか、それはNFだけの力ではなかった。

 武蔵達が会議室の扉を開けると、既にそのNFの力を与えた者が集まっていた。

 ソファに座り一人の少女、その左隣には一人のSVの女性兵士が座っており、右隣には仮面を被った人間が座っていた。

「初めまして、貴方に会えて光栄です。伊達中尉」

 武蔵達が部屋に入ってきたのを見て少女が嬉しそうに笑みを浮かべると、武蔵はその少女の顔に見覚えがあった。

 Saviorsの創始者、『フィリオ・リシュテルト』。

 武蔵、由梨音、レンの三人は横一列に並び敬礼を始めると、所属部隊、階級を言ってその場で待機していた。

「どうぞお座りください」

 フィリオに言われるままに三人は椅子に座る。

 それにしても、どうしてSaviorsの人がこの基地に来ているのか。

 そしてどうして第五機動独立部隊の兵士だけをこの部屋に呼び出したのか武蔵達には分からなかった。

「私、一度お会いしたいと思っていたのです。NF最強の異名を持つ貴方、伊達さんに」

 フィリオは武蔵を見つめてそう言うと、武蔵は軽く頭を下げた後に言葉を返す。

「はい、私も貴方のような方に会えて光栄に思っています」

 椅子に座っている武蔵は冷静な顔をしていたが、両隣にいる由梨音とレンは緊張の余り肩に力を入れてじっと座っている事しか出来ない。

「何故Saviorsの方がここにいるのか……と、不思議そうな顔をしていますね。ラティス、彼等に説明してあげてください」

「わかりました」

 フィリオの左隣に座っているSVの女性『ラティス』が返事をすると、武蔵の方に視線を向ける。

「何故SV(Saviors)の我等がここにいるのか、それは貴方達と共に『EDP』に参加するからです」

 その言葉に武蔵達は息を呑み驚きをあらわにすると、再びラティスが説明を始める。

「昨日、本部の方達とは話しを済ませてきました。SVは元々世界平和の為の組織であり最終目標は平和な世界を作ろうとするNFと同じ」

「だから……この作戦を共に遂行しようと?」

 今まで黙っていたレンが口を開く、たしかにSVとNFの目的は同じかもしれない。

 しかしSVとNFが決して仲の良い関係とまでは言い切れないし、そもそもSVの目的がよく分からない。

「そうだ、ERRORは人類の敵、今は人間同士が争っている場合では無い、それは貴方達も重々承知のはず」

 ラティスの言う通り、今は人間同士が争っている場合ではない、それにSVが参戦してくれるのはNFにとっても有りがたい。

 昨日消耗した戦力を補う事も出来る、それにNFの兵士を犠牲にしなくて済むのだから。

 由梨音とレンがラティスの言葉に納得する中、武蔵だけは一切頷く事なくフィリオを見つめていると、そのフィリオの瞳を見つめながらふと口を開く。

「……そろそろ、俺達をここに呼び出した答えを教えてもらえないでしょうか」

 何故この場所に武蔵の所属している部隊だけを呼び出したのか、武蔵はそれが気になっていた。

 するとその返事に応えたのはラティスではなく、隣に座っていたフィリオ自身が徐に口を開いて答えてみせる。

「先に言った通り、貴方にお会いしたかったのです。貴方の戦歴を前にご覧になりました、そして戦闘も。貴方ほど機体を使いこなせる人はいないと思っています。それでもし良ければ、来てはいただけないでしょうか……Saviorsの下に」

『ヘッドハンティング』───由梨音とレンの脳裏のその言葉が過ぎる。

 そして二人は納得する、『伊達武蔵』程の実力を兼ね備えている人間なら他勢力から声が掛かってもおかしくないと。

 突然の衝撃発言に由梨音とレンの二人は同時に武蔵に顔を向け、返事を待つ。

「伊達中尉のような強く逞しき方がいればSVは更に昇華します。貴方も知っているはずです、本当のNFの姿を。貴方のような方がNFにいては勿体有りません……」

 NFの裏の顔を知るフィリオだからこそ武蔵にそう告げた……だが武蔵は顔を軽く横に振ると、再びフィリオを見つめながら喋り始める。

「お誘いは嬉しく思い光栄ですが、俺はSVには行きません」

 大きく、強い口調で言ったその声を聞くと、両隣に座っている由梨音とレンが笑みを見せた。

「……そうですか、残念です。突然この様な事を言って申し訳ありません」

 フィリオは残念そうな顔をして頭を下げると、ラティスやその隣にいる仮面の男も頭を小さく下げた。

「俺達はこれから機体の整備をしておかないといけないので、失礼します」

 武蔵は一人立ち上がると敬礼を済まし、部屋を出て行こうとする。

 レンや由梨音も焦るように立ち上がると敬礼をして武蔵の元へと向かった。

 そんな武蔵の後ろ姿を見つめていたラティスはふとフィリオに言葉をかける。

「お嬢様、やはりあの方は……」

「ええ、行かれるみたいですね」

 フィリオは武蔵から強い意志を感じた、最早何を言った所で武蔵をSVに誘う事は出来ない事を悟ると、残念そうにその武蔵の背中を見つめ続けた。



 目には見えない張り詰めた空気が既に基地を取り巻いている中。この男、甲斐斗は違った。

「っ…そろそろ仮眠終了するか……」

 眼を覚ました甲斐斗だったがまだ眠たい為に頭がボーっとしている、それでも甲斐斗は今日中に武蔵が提供してくれた全ての情報を目に通しておく必要があった。

 甲斐斗は眠気防止の為にコーヒーメーカーを起動、カップに注がれるコーヒーを一気に飲み干すと、すぐさまパソコンのある奥の部屋に向かう。

「かいと、おはよー」

「ん、まだ起きてたのか? 良い子は寝る時間だぞ」

 甲斐斗は目を擦りながらボーっと立っているミシェルの背中を押してベッドの方に連れて行く。

「まだねててもいいの?」

「寝てもいいに決まってるっての、ほら時計見てみろ。十時だぞ」

 時計の針は十時を指している、誰がどう見ても十時。

(丁度俺が寝たのが九時だから一時間仮眠した事になるな)

 すると突然ミシェルは甲斐斗から離れると部屋のカーテンの方へ走っていく。

(ん? カーテンの隙間から微かに光が……いや、まさかな)

「あっ」

 足元に何も無いのに関わらず、ころんと転げてしまうミシェル。

 何かに掴まろうと咄嗟にカーテンを掴んでしまいミシェルの体重で簡単にカーテンは剥がれた。

 眼に突き刺さる光、明るく輝く日光は希望ではなく甲斐斗に絶望を与えてくれた。

「朝の、十時?」

 ふと信じられないような光景に甲斐斗は言葉を漏らすと、先程まで眠気が蔓延していた脳内が一瞬の内に覚めていく。

(え、朝の?俺が寝たのは夜の九時だ。それじゃ俺は十三時間の仮眠を取っていたのか? 仮眠ってレベルじゃない。どうする、俺がまだ見ていないデータが山程有る。それを今から全部見ろと? ああ、仮眠さえしなければこんな事には───ッ!!)

「あああぁぁぁっ! 俺の時間を返してくれぇえええっ!!」

 頭を抱え込みながら甲斐斗はベッドに崩れ落ちた。

(あーあ、もう本当こういうのって嫌だ、あの時寝るんじゃなかった……)

 今更後悔しても仕方ない、今はもうスッキリすっかり目が覚めているので甲斐斗は仕方が無いから今からまだ見終えていないデータを見る事にした。

  脱力した体を起こしパソコンの前にある椅子に座ると、まだ見終えていない文章に目を通していく。

「って、ミシェル大丈夫かー? 大丈夫なら顔洗って冷蔵庫の中にある物を適当に食べといてくれ

 そう言えば先程からカーテンを掴んだまま転んでしまったミシェルを放置したのに気付き甲斐斗はそう言うと、先程まで倒れていたミシェルはむくりと起き上がり、とことこ洗面所の方に走っていった。

(さて、俺の予想だと多分作戦の時間を伝えに伊達中尉が俺の所に来るはず、それまでにこの情報を全て見ておかなければならないな)

 その時だった、突然部屋の扉が開く音が聞こえてくる。

 まさかとは思うが、そのまさかだった。青い軍服に身を包んだ武蔵が登場してしまう。。

「おはよう、気分はどうだい?」

「最悪だ」

 武蔵の爽やかな挨拶に負けないぐらいの顔で甲斐斗は挨拶を返すと、武蔵はご機嫌ナナメの甲斐斗を見て首を傾げてしまう。

「どこか具合でも悪いのかい?」

「いや、別に具合は悪くないけど……」

「それならいいんだけど。あ、ちょっと俺と一緒に来て欲しい所があるんだけどいいかな」

「りょーかい、何処でも行ってやるよ」

 甲斐斗は脱力した体を立ち上がらせると、妙に重い肩を自分の手で揉み解していた。

 こんな晴れた日でも戦争は起こるのか……と、ふと思ってしまう。

 窓から差し込む光を見て今日の天気は快晴。こんな天気の良い日は昼寝でもしたいものだ。

(って、何を考えてんだ俺は。さっさと行く所行って物事済ましていこうじゃないか)



 そんな訳で来た所が格納庫、勿論甲斐斗は軍帽を深く被り顔が見えないように若干俯きながら歩いている。

 甲斐斗が周りを見てみると、兵士達は慌しく機体の整備や調整を行っている。

 そんな格納庫内を歩いていくと、一機の機体の前に甲斐斗と武蔵は立ち止まった。

「見間違える程変わったようだね、君の機体」

「こ、これが俺の機体?」

 甲斐斗はその言葉を聞いてもう一度機体を見た、だが以前乗っていた機体とは明らかに外見が違う。

 すると、甲斐斗と武蔵の居る場所に一人の女性が煙草を銜えて近づいてきた。

 その煙草を銜えた女性を見た武蔵は軽く手を上げると、変貌した機体を見つめながら声を掛ける。

「神楽、こんな短時間によく仕上げれたね」

「当然、こんな機体見てたら弄りたくなるわよ。それにこの機体、思っていた以上に面白かったわ」

 女性は満足な顔をしながら煙草を吸い、武蔵と仲良く会話をし始めた。

(何だ、この女は武蔵と知り合いなのか? それとも彼女? まぁいいや)

 二人が仲良く話している内に甲斐斗は自分の機体へと近づき触れてみようと手を伸ばそうとした瞬間、鋭い女性の声が甲斐斗の腕を止める。。

「あら、勝手に機体に触らないでほしいんだけど」

(しっかり俺の動きも見ていたのか、というかこの機体は俺の機体だから別に何したって構わんだろ……)

 すると今度は伊達中尉が口を開き、神楽に説明をし始める。

「神楽には言ってなかったね、その人はこの機体のパイロットをしてくれる人なんだよ」

「あら、そうなの? へぇ、彼がこの機体をねぇ」

 甲斐斗の顔を覗きこむように見てくるが、ここで顔を見られる訳にもいかないので甲斐斗は軽くそっぽを向いてごまかす。

「……まぁ伊達君の選んだ人なら間違い無さそうね。そうだ、それなら今からこの機体の事について話しましょうかしら。この機体のフレームは全てNF製特注のフレームに換えさせてもらったわよ。それにしても旧フレームを外すのが一苦労だったわ。まるで装甲と機体が全て一つから出来ているかのように外す事が簡単に出来なかったんだから。それでやっと外し終えてフレームを付けてみたの。そしたらあら不思議、機体はあっという間にそのフレームと一体になりはじめたわ。機体の全身に詰まっている肉のような物を検査してみた所、これはERRORが人工的に作り出した筋肉だって事が分かったの。ERRORと一体化した機体、こんなの見た事も聞いた事も無い。どうしてこんな風になってしまったのかも未だに分からないのよ」

(一人で長い説明、ありがとうございました)

 神楽の長ったらしい話しを聞き終えた甲斐斗の感想はこれだけだった。

(俺の勝手な決めつけかもしれないが、学者はよく喋るのではないかと思う)

 そう思いながら甲斐斗を見つめていたが、神楽の話はまだ終わっていなかった。

 一本の煙草を吸い終え、携帯灰皿を使って煙草を潰し終えると、またポケットから煙草を取り出し火をつけて吸い始めた。

「謎はまだあるわよ、この機体は光学電子磁鉱石を使用してて、そして骨組みを見てみるとこの機体がBN製だという事がわかったの。これが一番分からない事、ねぇ伊達君。どうしてそんな機体がNFの基地防衛を手助けしてERRORを倒し、この機体がこの場にあるのか。この機体に乗っていた人は一体何処に行ってしまったのかしらね。通信記録から見るとレンちゃんがそのパイロットとの会話を確認してるんだけど、未だにそのパイロットが見つからないのよねぇ……」

『その未だに見つからないパイロットは貴方の目の前にいますよ』、とでも言いたそうに甲斐斗は腕を組みながら話を聞いていく。 

(確かにこの女が思うように幾つもの謎、疑問があるだろう。俺だってそうだ、俺はBNの基地で戦っていた時、どうしてあんな台詞を言ったのか。魔法も使えない俺ならあっという間に取り込まれていたはず、しかし俺は生きている。これは偶然なのか……?)

「謎がある方が俺は面白いと思うよ、だからそれは謎のままでいいんじゃないかな」

 神楽の話しを聞いていた武蔵はそう言って笑みを浮かべるが、神楽は不思議そうに機体を見つめながら語り始める。

「たしかに謎があった方が面白いけど、その謎が何なのかを調べるのが学者なのよ?」

「あ、それもそうだね」

(また二人で会話が盛り上がっている、あんなに笑い楽しく喋っている武蔵を見るのは初めてかもしれない。二人とも本当に仲が良さそうだが、こいつにはもう一人仲の良い女性がいたはずでは……名前はたしか赤毛)

「赤城!?」

(あ、そう、その名前だ)

 赤城と言われ甲斐斗がその女性の名前を思い出すと、神楽に後ろから赤城が歩み寄ってきていた。

 武蔵の言葉に気付いた神楽も後ろに振り向き赤城を見ると、早速声を掛け始める。

「あら、赤ちゃん。体の方は大丈夫なの?」

「平気だ、それと私は赤城だ」

 いつもの台詞を言うと、赤城はふと甲斐斗の方に顔を向けてきた。

(マズイ……) 

 その視線に緊張で甲斐斗は自分の鼓動が早くなるのを感じていく、もしここで正体を見破られては色々と面倒な事になってしまう。

「丁度良いわ、赤城。貴方にもプレゼントを持ってきてあげたのよ。こっちに来てくれるかしら」

 神楽はそう言って甲斐斗の機体の前から離れていくと、その後を武蔵はついていき、赤城も自然に歩き始め神楽の後を追う。

 甲斐斗は少し距離は置きながら三人の後をついていくことにした。

 今度は赤色のリバインの前に立ち止まる三人。そのリバインを良く見ると背中に見慣れない武装がされていた。

「貴方専用の武器を用意したわよ、その名もLRB(Long Range Blade)。LRSに比べて大きく、切断力を更に増して破壊力を上げたわ。両手で装備するから盾を持つ事が出来なくなってるけど、どう? 気に入ってもらえたかしら」

 自慢げに煙草を吸ってみせる神楽、その後ろに立っている赤城はじっとその機体を見つめ続けている。

「感謝するぞ神楽、これで私も武蔵に負けないぐらい戦える」

「貴方が伊達君を超えられるとは思わないけど、精々頑張りなさい」

 皮肉を言ったようにも聞こえるが、赤城にとっては励ましてくれる言葉に聞こえていた。

 と、その時。見慣れた格好をした二人の女性と、仮面を被っている人間が伊達中尉に近づいていく。

「は、初めまして伊達大佐! お、俺! 違った!? 私は葵と言います! 貴方の部隊と一緒に行動できて俺は本当に感激です!」

 一人慌てふためきながら自己紹介をした女性。

(俺はよく知っている、SVの兵士『葵』だ。なんでSVの人間がNFと一緒にいるんだ、二つの組織は敵対していないのか?)

「初めまして、エコと言います。本日だけ伊達大佐の指揮下に入ることになりました……よろしくお願いします」

 ペコリと頭を下げて自己紹介を済ました少女、エコ。

 するとエコの隣に立っていた仮面の人間もまた頭を下げると、自己紹介を始め出す。

「先程もお会いしましたね、俺の名前は愁と言います。大佐のような方の指揮下に入れて光栄に思っています」

8か、仮面の男!? っつうことはコイツは以前俺と戦った『鬼』のパイロットか!?)

 甲斐斗は内心戸惑いながら仮面の男『愁』を見ていたが、その聞き覚えのある声にふと疑問を抱く。

(あれ、こいつ今『シュウ』って言ったのか? ん? もしかしてこいつ……)

 聞いた事がある名前、それに声も似ていた気がする。甲斐斗は仮面を被る男を睨むように視線を向ける。

 SVの兵士から自己紹介をされた武蔵もまた笑みを浮かべ快く挨拶をするが、一つだけ気になった点を聞いてみた。

「うん、こちらこそよろしくね。でも俺の階級は中尉。それにこの部隊の隊長は赤城だよ?」

「いえ、それがフィリオ様の特権で貴方の階級を大佐に戻し、この部隊の隊長に任命しました」

 SVの人間がそんな事簡単に決めれるものなのだろうか、愁の言葉を聞いた武蔵達は驚きを露にしていた。

「赤城を隊長から下ろすなんて……フィリオさんにはもう一度会って話しをさせてください」

 武蔵は少し不満な様子だ、自分の事よりも他人優先。自分が隊長に任命された事より赤城が隊長ではなくなった事の方が武蔵にとっては納得いかないのだろう。

 すると、赤城が冷静な表情で口を開いた。

「落ち着け武蔵、私はお前が隊長の方が良いと思っている」

 その赤城の言葉に便乗し神楽も口を開くと言葉を続けた。

「私も賛成ね、この戦。伊達君の力が少しでも欲しい時よ。貴方が隊長になり指揮をしてくれれば軍全体の指揮が上がるわよ。何たって伊達君は真の英雄だもんね」

「赤城、本当に俺でいいのかい?」

 最後に一言、本当に自分が隊長になってもいいのか赤城に聞いてみた。

「ああ、私はお前を……いや、伊達大佐を信じているからな」

 五ヶ月前のあの時、あの時までは伊達は大佐、部隊の隊長で活躍していた。

 その下で戦う騎佐久、赤城、神楽。NF最強の歴史を刻んできた四人。

 そしてまた武蔵の下で働けると思うと嬉しさの方が大きかった。

「……わかった、俺が隊長を引き受けるよ」

 その言葉に周りにいる葵達が笑みを見せた。

「君達も、共に頑張ろうね」

 武蔵はそう言って三人に握手の手を伸ばす。

 するとそれを待っていたかのように葵が武蔵の手を握り締めた。

「は、はい! 頑張ります! よろしくお願いします!」

(俺が前に見た葵は何処に行ったのだろうか、もっとガサツで男っぽい性格だったのに、武蔵の前になるととても女性らしく振舞っている……)

「伊達君、貴方の機体について少し説明しておきたい所があるの、一緒についてきてくれるかしら」

 神楽は武蔵の腕を掴むと、半ば強引に引っ張り格納庫の隅の方に歩いていってしまう。

(あれ多分怒ってるんだろうなぁ……)

「三人とも、他の部隊の隊員を紹介しようと思う。ついてきてくれ」

 神楽とは別の方向に向かって歩いていく赤城、その後ろにSVの三人は付いていく。

 どうやらNFとSVが手を組んだらしいが、甲斐斗とってはそんなに嬉しい情報ではない。

(でも仕方が無い、俺は武蔵と約束をしたんだ。EDPに参加すると、それは男として破るわけにはいかない。……ん…あれ、気づけば回りには誰もいない……)

 気付けば格納庫の一人の取り残された甲斐斗は、途方に暮れながら唖然としてしまう。

(俺はここで何をしてたんだっけ、たしか武蔵に呼ばれて来たはいいけど色々と人が増えて……)

 帰ろう。真っ先に頭の中に浮かんだ言葉を忠実に実行する為、甲斐斗は被っている帽子を更に深く被ると、誰にも顔を見られないようにコソコソと自分の部屋に帰っていった。



 格納納庫の一番隅に置かれている機体『大和』

 目には見えない圧倒的な存在感と威圧感を放っているその機体の前に武蔵と神楽は立っていた。

「伊達君、榴弾と鉄鋼弾と後もう一つ特別な弾を用意したわよ。

 LRC(Long Range Canon)、射線上の敵を一掃したい時はこれを使うといいわね」

「ありがとう、何から何まで準備してもらって……何か悪いね」

「いいのよ、伊達君に満足してもらえるなら何だってしちゃうんだから」

 神楽は笑顔で話しているが、武蔵の顔は何か考え事をしているのか、暗く俯いていた。

「……どうしたの?」

「いや、ちょっと考え事をしてただけさ……」

「EDPが心配なの?大丈夫よ、伊達君と私の開発した機体があれば作戦は絶対に成功する。それに私は伊達君を信じてる、だから伊達君も私が開発した大和を信じて」

「ありがとう神楽、俺は信じるよ。そしてこの戦い、勝たなければ人類に未来は無い……だから絶対に勝利を掴んでみせるよ」


 

 午後一時、各機体は戦艦に詰め込む準備が進められていた。

 兵士達も各艦に乗り込み、いつでも出発できる状態だ。一人の男を除いて。

「出発時間が一時十分とか聞いてねーっつうの!」

 さっき伊達大佐から電話が来た。

『あと十分分で出発するよ』

「はい?」

『ごめん、言うの忘れてた』

 忘れた……じゃねえだろ!言うの遅いっつうの!

 現在部屋からもうダッシュで格納庫へと走っている、間に合えばいいんだが。

 俺がEDPに行っている間、ミシェルは俺の部屋で待機する事に。当然だな。

 一応部屋の鍵は閉めてきたが、また一人ぼっちにさせてしまうと思うと少し胸が痛む。

 と言っても、この戦いが終わればまたここに帰ってこれる、さっさと終わらしに行こうじゃないか。

 格納庫に向かうと、既に一つの戦艦が今まさに発進しようとしている、俺はそのまま全力で走り急いで入り口に向かって飛び込む。

 それと同時に入り口の扉は閉まり、戦艦は動き出した。

「これで置いていかれたらシャレにならねえよ……ん?」

 無い、さっきまで被っていた軍帽が何処にも無い。

 この戦艦に飛び乗った拍子に帽子が抜けちまったらしい、これは非常にマズイ。

 もし俺の顔が他の兵士に見られてしまったら……ああ、またややこしくてめんどくさい事が起きるに違いない。

 そうだ、電話だ。伊達中尉に電話して来てもらえればいいんだ。

 ポケットの中にある携帯電話を手に取ると、急いで伊達中尉に電話を試みた。

『お掛けになった電話番号は───』

 繋がらない、となるとやはり自力でこの場を切り抜けるしかない。

 この戦艦の格納庫へと向かい、機体に乗り込めば何とかなりそうだ、そうと決まれば格納庫に行くまでだ。

 俺は意を決して足を出した、格納庫に向かう為に。

 その時、まるで俺が出て行くのを見計らっていたかのようなタイミングで他の兵士が歩いてきやがった。

 だがここで引き下がる訳にはいかない、俺は壁に顔を向けながら走り、何とかその場をやり過ごす。

 突っ走る俺の姿を見て兵士達は首をかしげているだろうが今はそんなの気にはしない。

 俺の場所からすると通路をずっと右に進んでいけば格納庫に着くだろう大体場所はわかる、戦艦に乗ったのは2度目だしな。

 ……とは言ってもこの戦艦に乗るのは始めてだ。本当にこっちで合ってんのかな。

「あれっ……?」

 何で俺、倒れてるんだ?

 頭の中に一瞬走った激痛、意識や記憶まですっ飛んでしまうかのような痛みだった。

 余り力の入らない足で俺は壁にもたれ掛かりながら何とか立ち上がってみる、何で汗を掻いているんだ俺は……。

 この感じ、何かが込み上げて来る感じ、吐き気ではない。

 だがこの感覚、前にもあったようなっ、まぁ今はどこかで休む必要があるな……頭がくらくらする。

 ふと前方を見るとWCのマークが見える、仕方が無いので今はここで休むしかない。

 俺は壁にもたれ掛かりながら一歩ずつ大量の汗を掻きながら歩く。別に漏らしそうなのを我慢しているのではないが

 ようやくトイレに入る事が出来た。すぐさま顔を水で洗うと俺は個室に入り便器に座り込んだ。

 また頭に痛みが走ってきやがる、それに段々と意識も薄くなっていく……こんな所で寝たくは無い。

 が、今は寝た方が良さそうだ、寝れば少しは楽になるかもしれない。決して心地よい眠りではないが俺はそっと目蓋を閉じた。

 ……臭い。


 ───それからどれくらい寝ただろう、ふと気がつくと一人のおっさんの声が聞こえてきていた。

『ついにERRORとの決着を付ける時が来た、この戦いで人類の存亡が決まるだろう!』

 何トイレで熱弁してんだこのおっさん。と思ったが、どうやらその声は遠くから聞こえていた。

 声が遠くの方から聞こえてくる、演説でもしているのだろうのか。

 頭の痛みもサッパリ無くなり、快調である。こんな所で寝たら更に体調を崩してしまうと思ったが、その心配は無かった。

 とりあえず格納庫に行かなくては、だがまず俺はその声のする方に向かってみる事にした。

 何台もの機体が並んでいる、何人もの兵士が整列して並んでいる。

 そしてその何百人という兵士の前に、数人の兵士が立っていた。

「『EDP』を遂行するのは難しい、困難な事かもしれない。多くの犠牲が出るだろう。だが、敗北は絶対に許されない。

 奴等『ERROR』は我々から土地を!家族を!自由を!全てを奪ってきた!

 この世界、この星、我等人類の為に。今こそNFの力を終結させERRORとの忌わしき戦いに終焉をもたらす。

 そして武器の無い平和な世界を、理想の世界を作り上げるぞ!我々の手で!」

 数千人の兵士が一斉に敬礼をする、その足音、手の向き、全員が余りにも揃っていた。

 さすが軍人と言ったもんだな、まぁいい。後はこの場で誰にも見つからずに機体に乗り込めればいいんだが。

「あーあー、マイクテスト」

 さっき演説していたおっさんの声とは違う声、伊達大佐の声だ。

 俺はまた身を潜め、今度は伊達大佐の演説でも聞いてみる事にした。

 それにしても……空気が重い。

 この張り詰めた空気、緊張というのだろうか。ここにいると息苦しさを感じる。

 格納庫にいる全兵士が伊達大佐に視線を向けており、伊達大佐の顔からいつもの笑顔は消えていた。

「俺から言う事は少ししかないです、ここに居る全ての兵士に言います」

「生きろ。自分の命を無駄にするな、絶対に諦めるな。……俺が言えるのはこれぐらいです」

 マイクの電源を切ろうとした時、格納庫内にアナウンスが響き渡った。

『 戦艦に近づいてくる熱源反応確認!艦内の兵士達は直ちに戦闘準備を!!』

「全軍に命令する、パイロットは直ちにパイロットスーツを装着、機体に乗り込み出撃体勢に入れ!』

 伊達大佐の声に、格納庫にいた兵士達は一斉に散らばり始めた。

 次々に機体に乗り込む兵士達、俺はその場に紛れこみ自分の置いてある機体に近づいていく。

 操縦席から伸びるワイヤーに掴まると、自動的に引き上げを開始、難なく機体に乗り込む事に成功。

 機体の中身は余り変わっていない、変わったのは外見だけなのだろうか、まぁ今はそんなのどうでもいい。

 何故だか俺はとてもウキウキしている、まるでこれからお祭りが始まるかのような感じだ。

 それにしても光栄だな、歴史に残る大戦に参加する事が出来るのだから。

 存分に暴れさせてもらおう、最強の力をもつこの俺がな。



「伊達大佐、こんな所に呼び出して私に話とは一体何でしょうか」

 格納庫の隣にある小部屋に赤城を呼び出した武蔵、赤城は既にパイロットスーツに着替えており、自慢の赤髪を紐で縛っていた。

「赤城、大佐なんて言わなくていい。いつものように呼んでくれないか?」

 武蔵もパイロットスーツに着替え終わり、いつでも機体に乗れる格好だ。

「いいのか?」

「俺だって自分が中尉の頃赤城って言ってたよね、だから赤城も普通にしていてくれないかな」

「わかった、それで武蔵。私に話とは何だ?」

 さっきまで敬語で話していたが、突然タメ口となり軽々しくなる。

 その切り替えの早さに武蔵も少し驚いていた。

「話って言っても、赤城に言っておきたかったんだ」

「言っておきたい事?」

「うん……赤城。もし俺が死ぬ時がきたら、その時は───」



 全ての準備は整った。

 数十もの戦艦のハッチが開き、次々にギフツやリバインが発進していく。

 そして徐々に見てきた赤波、数百以上ものERRORが大群で、波のように押し寄せてきていた。

 だがその時だった、上空から落ちる一発の砲弾。

 戦艦が通る道を開けるかのようにERRORの大群を吹き飛ばす。

 一発だけではない、何十発、何百発もの砲弾が雨のように降り注ぎ、ERRORをゴミのように吹き飛ばしていった。

 上空に見える一つの母艦。

 NF最強の航空母艦『アルカンティス』まるで一つの要塞が浮かんでいるかのような形をしているのが特徴的だ。

 地上の戦艦は最大出力で、一気に穴の開いたERRORの波を突破していく。

 空からの攻撃では何も太刀打ちする事が出来ないERRORは地上の艦に張り付こうとするが、その速さと弾幕で次々に吹き飛ばされていく。



 伊達武蔵率いる第五独立機動部隊のメンバーは『GATE』到着後『GATE』の中心にあるコード入力装置を機動させ、

 PWコードを十分の間に入力しなければらならない。コードを入力するのは伊達武蔵、全ては彼にかかっている。

 ちなみに何故十分以内なのかは、敵の侵入を防ぐ為のセキュリティ機能が起動しているからである。

 地下から『ERROR』が現れる為、戦艦や部隊メンバーは全員『GATE』の上で戦い、

『GATE』を開く事成功した場合、全火力をもって戦艦の通れる道を作り脱出を行なう。

 全機体に武蔵の声が流れる、愁、葵、エコ。そして赤城、由梨音、レン、甲斐斗……それぞれの思いを胸に武蔵の命令を聞いていた。

『ノイド、アステル、ルフィス。俺たちは掛け替えの無い友を……仲間を失った』

『今まで無念にも命を落としてきた戦友の為にも、俺たちはここで決着を付けるしかない』

 モニターに映る一つの光景、そこには銀色に輝く巨大な門が広がっていた。

 その光景を見ると、通信回線を部隊から全体に切り替える。

『どうやらGATEに到着したみたいだ、艦内で待機している全部隊に告ぐ、俺達の守るものの為に』

『EDPを……開始せよッ!』



 遂にこの時が来た。

 戦艦のハッチが開くと、待機していた数十機もの機体が次々に発進する。

 航空母艦『アルカンティス』から次々に投下される機体、そして出撃していく戦闘機。

 武蔵達の部隊も次々に出撃していく中、甲斐斗が乗っている機体だけ何の動きも見せない。

 軍人がこんなにも命を張り、戦っている。それは当然の事なのだろうが、甲斐斗にはその意味が初めてわかった気がする。

 元々甲斐斗は軍が嫌いだった、だが伊達武蔵と会って何かが変わった。

 だからと言って軍が好きになったわけではないが、この青空の下、能天気に暮らしている人間がどれだけいるのだろうか。

 本当ならここにいる軍人も、平和な暮らしが出来ていたはずなのに───。

(さて、考えるのは止めにしよう。俺は約束通りEDPに参加するまでだ)

 約束は絶対、甲斐斗は誰でもない自分の為だけに、EDPを開始した。

正式名MFE-アストロス・ライダー (Saviors製)

全長-18m 機体色-青緑 動力源-光学電子磁鉱石

獣の姿をモチーフに作られており、両手の甲には長い鉤爪が付けられており

オーガと似て接近戦闘用タイプの機体に仕上がっている。

Person態等の小さなERRORとの戦闘用の為に両腰には小型のキャノン砲がついている。

コクピットは広く二人専用の機体に仕上がっている、元々一人用だったが改良を加え

二人で操縦するように作られた、その為敏捷力、反応速度はオーガを超えている。

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