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第30話 本当、目的

 新型機を受け取る為に武蔵は無事に基地に帰還していた。そして格納庫の手前で機体を止めると、直ぐに機体を降り格納庫に入ろうとした時、その格納庫の大きな扉の前に一人の女性が立っていた。

 赤紫色の長髪、顔には眼鏡を掛けており、煙草を吸っていた女性は武蔵に気付くと煙草を指で摘み武蔵に声をかけた。

 その女性は武蔵に気づくと銜えていた煙草を指で挟む。

「久しぶりね、伊達君」

「神楽、やはり君だったんだね」

 武蔵の思った通り、新型機を用意してくれた人は『神楽』という女性だった。

 機体の技術開発や動力源の研究についてなど、様々な研究を行っている神楽とは昔からの知り合いであり、こうして出会うのは久しぶりだった。

「ふふっ、感動の再会はもっと静かな所でしたかったわね。機体の準備は出来てるわよ」

 神楽がそう言って後ろに振り向くと、格納庫の扉が徐々に開き始め、中からは一機の機体が姿を見せた。

 全身茶色にコーティングされたその機体の肩には巨大な大砲が付いており、背部には長刀、そして腰には二本の刀が付いてあるのが印象的だった。

「機体名は『大和やまと』。伊達君、貴方専用の機体よ」

 神楽は自分が開発した機体を見て満足そうに笑みを浮かべると、機体を見た武蔵は止めていた足を再び動かし自分専用の機体へと歩き始める。

「ありがとう、神楽かぐら。行って来る」

 神楽と擦れ違いざまに武蔵はお礼を言うと、振り向くことなく歩き続け、そんな武蔵の背中を神楽は見つめ続けていた。



 その頃、ERRORの前に立ちふさがる一機の機体の眼が光り輝いていた。

 それは武蔵より一足先に渡されたレン専用の新型機、『フェリアル』だった。

 フェリアルの操縦席に座っているレンは目を瞑り、意識を集中させている。

 そして眼を開いた瞬間、機体の背中に付いてある六つの武器が一斉に発射された。

「飛んでっ! フェアリー!」

 フェリアル専用の小型独立兵器『フェアリー』は、レンの意思に従い空高く舞い上がっていく。

 その数は実に六機。 フェアリーは眼にも留まらぬ高速移動をしながら一斉に攻撃を開始する。

 フェアリーの先端に付いてある銃口からは次々にレーザーが放たれ、レンの目の前に広がるERRORの群れ次々に撃ち抜いていく。

 その威力は装甲の熱いWorm態の甲羅すら貫いてしまい、動きの素早いBeast態にも確実に当てていく。

 Worm態が無数の触手を一斉に伸ばしフェアリーを捕まえようとするが、レンがWorm態の攻撃に気付くとフェアリーもレンの意思と連動し回避行動を取る。

 フェアリーの動きと小ささによりWorm態の触手を容易く交わしていくと、エネルギー補給の為に再びレンの乗る『フェリアル』の背部へと自動的に戻っていく。

 独立兵器を使用したった一機でERRORの群れと戦ってみせたフェリアル。その機体の力を見ていた赤城と由梨音は驚きを隠せなかったが、誰よりもレンがその機体の性能に感動していた。

「すごい、これが……私の機体!」

 今の所、たった一機でERRORの群れと互角に戦えている。

 だが、ERRORの得意な戦法と言えば圧倒的物量で攻めてくる事、幾らフェリアルが高性能で高火力を誇っていても限界があった。

 そんなレンをフォローするかのようにフェリアルの両脇に赤城と由梨音が乗る機体が並び始めた。

「由梨音、私達も負けてはいられないぞ」

「はい! 私もレンちゃんに負けないぐらい頑張ります!!」

 由梨音の乗るギフツは背中に付いてあるバズーカ砲を手に取ると、ERRORの群れに次々に撃ち込んでいく。

 赤城はリバインを走らせERRORの群れの中を突き進んでいくと右手に握り締めるLRSを振るいERRORを切り捨て、更に左手に持っている機関銃で中距離から遠距離にいるERRORを狙撃していく。

 三機の見事な連携により付近にいたERRORはほぼ壊滅状態、このまま一気に押し切ろうとした時、レンから二人に向けて通信が入る。

「赤城隊長! 第三、第四部隊が押され始めています!」

 レンの言葉に赤城はモニターに眼を向け戦場の状況を把握すると、レンと由梨音に向けて的確に指示を出す。

「分かった。レン、お前は第三部隊と合流。援護をしてやれ。由梨音は第四部隊に合流しろ」

 すると赤城の指示を聞いたレンはその赤城の命令に口を開いた。

「隊長、私がここに残ります。隊長は第三部隊と合流を……!」

 何故レンが赤城の命令に従わなかったのか、それはこの場を赤城一人に任せる事が危険と悟っていたからだ。

 新型機であるフェアリーであれば切り抜けられるかもしれない、しかし赤城一人だけで今この場のERRORを全て相手にするなど余りにも危険だった。

「レン、私はこの部隊の隊長だぞ。この場は責任を持って私が対処する。お前達は他部隊と合流を済ませるんだ」

 赤城は一向に引く気配はなく、レンの心配を感じた由梨音もまた赤城に声をかける。

「赤城少佐! いくらなんでもこの場を一人でなんて無理ですよ!」

「いや、レンのおかげでERRORの数は減った。これぐらいなら私一人で大丈夫だ。それに、命を張ってこの場を守ろうとしたノイドに私は背を向ける事は出来ない。これは隊長の責任だ」

 その赤城の迷い無き言葉にレンと由梨音は動揺して口を噤むと、二人は力強く頷いた。

「わ、分かりました……赤城隊長、健闘を祈ります」

 レンの乗るフェリアルは赤城の乗るリバインに背を向けると、第三部隊の入る場所に飛んでいく。

「赤城少佐! 伊達中尉が戻ってくるまで絶対に無理をしたら駄目ですよ!」

「分かっている。由梨音、お前も気をつけろ」

 由梨音の乗るギフツも赤城に背を向け、第四部隊のいる場所に向かった。

 赤城の乗るリバインは足元に落ちているき機関銃を拾うと、右手に武装し引き金を引き、地面を這いながら奇妙に近づいてくるPerson態を撃ち抜いて行く。

 地面から次々に湧き出るERROR。Person態の他にもWorm態が続々と現れ始める

 Worm態の甲羅は硬く厚い、その為機関銃では破壊が不可能なので重火器を使うかLRSで斬るしか方法が無い。

 赤城はリバインの腰に付いているハンドグレネードをERRORの群れに投げ込むと、左手に持っている盾を前に突き出しながら突進していく。

 グレネードの爆発によりERRORの肉片が中を舞うが、赤城は物ともせずにWorm態にLRSを突き刺す。

 そのリバインの隙を狙いBeast態が後ろから跳びかかってくるが、リバインは左手の盾で弾き飛ばすと、右手に持っていたLRSを背部に仕舞い背部に装備してある機関銃を手に取り撃ち抜いて行く。

 その一連の行動の間にもPerson態は確実にリバインを囲み、近づこうとしていた為、赤城はPerson態に張り付かれる前に機体の出力を上げ一瞬にしてその場から離脱。

 高く跳躍してERRORが比較的少な場所に着地すると、リバインの左足の側面が開き内臓されているマガジンを手にすると、手に持っていた機関銃にマガジンを付け弾薬の補給を済ませる。

 赤城の乗るリバインの動きは完璧と呼べる程のものであり、全く隙が無い。弾薬の補給を終えたリバインが直ぐにまたERRORの元へと向かおうとした。

 だがその時、リバインが立っていた地面に突如亀裂が走る。

「っ───!?」 

 赤城は急いでその場から離れようと機体の出力を上げ跳躍しようとした直後、地中から無数の触手が地面から伸び出てくる。

 その触手に銃口を向けてを打ち続けるリバインだが、溢れ出てくる触手の数に数発の弾丸が命中した所で大した損傷を与える事も出来ず、無数の触手がリバインの両足に巻きつくとリバインの体勢を崩し地面に叩きつける。

「うぐっ!」

 背部から地面に叩きつけられ操縦席に火花が走る。

 機体の衝撃、そして操縦席の破損により赤城の額から微かに血が垂れ始める。。

 赤城は意識が朦朧とする中、急いでリバインを立ち上がらせようとレバーを押し上げるが、機体は既に触手に絡まれており立ち上がる事が出来ない。

 リバインを拘束した触手、それはWorm態の触手であり。地中から出てきたWorm態は身動きの取れないリバインを引き摺りながらERRORの群れの中に連れて行かれる。

 危機的状況にWorm態の触手から逃れようとリバインが必死にもがくが、抵抗すればするほど触手が機体に絡まり動きを封じられてしまう。

 するとリバインは咄嗟に背部に付いてあったLRSを取り出すと、その刃を地面に突き刺した。

「まだだ、私はまだ倒れるわけにはいかない!」

 なんとかWorm態の動きを止める事が出来たが、Worm態は構わずリバインを引き摺ろうと強引に引っ張り触手を放そうとはしない。

 身動きが取れないままのリバイン、それを狙って無数のPerson態が次々に機体に張り付いてくる。

「くっ……考えるんだ、どうすればいいのか。奴が戻ってくるまでに私は──」

『─ERROR─』

 モニターに映る『ERROR』、コクピット内の赤いランプがつくと警告音が流れる。

 Person態が機体の間接のケーブルや骨組みを噛み砕き、機体を解体していく。

 そして数匹のPerson態は機体の背中を噛み砕き、ある物を探し出していた。

「こんな化け物に背後をとられるとはなっ───!」

 リバインは地面に突き刺さしているLRSを引き抜とその間に赤城は機体に張り付いているPerson態を必死に振り払う。

 そして自分の足に巻きついている触手はLRSで斬ろうとした時、赤城の乗るリバインは宙を舞う。

 Worm態は触手を振り上げ赤城の機体を放り投げていたのだ、それと同時にリバインを拘束していた触手は解かれ、赤城はすぐさま機体の体勢を立て直し着地を試みる。

 機体の至る箇所から火花が出ており破損しているものの機体は無事、着地に成功した。

 だが、周りを見渡した赤城はその光景に絶望した。

 自分の周りを囲む百を超えるERRORの数、そのERRORの大群の全てが赤城の方を向き、見つめていた。

(最早これまでかッ……)

 その時、東部基地からの通信が突然入ってきた。

「全部隊に告ぎます、こちら東部基地を防衛していた壱番隊、弐番隊、八番隊、九番隊が全滅。基地にERRORの大群が押し寄せてきています、残されている部隊は全て基地の防衛に回ってください」

「何だと……? 市街地の防衛より基地の防衛を最優先する気かッ……」

 今ここで市街地周辺にいる部隊が基地に集まってしまうと、市街地は一体誰が守ると言うのか。

 確かに基地が落とされてしまえば結果的に市街地が壊滅する為、基地防衛を優先せざるを得ない状況なのも分かる。

 赤城が動揺しながらどうやってこの場を気抜けようと考えていたいた時、突如通信機からオペレーターの声が聞こえてきた。

「基地の前方にアンノウン機が出現! 現在そのアンノウンはERRORと交戦中! 次々にERRORの数を減らしています!」

「アンノウンだと……?」

 赤城がレーダーを見れば、確かに一機の機体がERRORの数を減らしていくのが分かる。

 すると通信機から一人の男が聞こえてきた、それは赤城が聞きなれていた声だった。

「俺がこいつ等の相手してやんよ! だからお前等兵士は市街地の防衛してろ!!」

「その声、アステル……か……」

 赤城がその機体との通信を試みると、すんなり通信は成功。操縦席に座る甲斐斗姿がモニターに映し出された。

「残念だが俺は甲斐斗、アステルじゃない。って赤毛! その傷大丈夫なのか!?」

 甲斐斗はモニターに映った血塗れの顔をした赤城に驚愕すると、赤城は自分怪我の具合が分かっていない程意識が朦朧としていた。

「わたしは赤城だ、なんどいえば…………?」

 薄い、見るもの全てが薄くブレて見える。

 甲斐斗が必死に赤城に話しかけるが、声は赤城には届かなかった。

 赤城の頭から流れ出る血は止まらず、赤城の着ている軍服をも赤く染めていく。

 レーダーに反応有り、ERRORの大群が一斉に赤城の機体目掛けて進んできていた。

 自分の死を加速させているかのように胸の鼓動が早く感じてくる。

 百を超えるERRORを相手にリバインが手に持っている武器と言えばLRS一本。

 それでも赤城は意識が朦朧とする状況でもリバインにLRSを構えさせると、迫り来るERRORの大群に刃を向けた。

「私の刀は、まだ折れていない……ッ!!」


 

──その体は簡単に砕け散っていった……が、それはリバインの体ではない。

 放たれた一発の砲弾。赤城の乗るリバインに近づくERRORの肉体を木っ端微塵にして吹き飛ばしていく。

「赤城、よく耐えてくれた。ありがとう」

 一人の男の声、それが武蔵の声だと赤城は理解すると、一機の機体が赤城のリバインの前に現れる。

 全身茶色の装甲を身に纏い、右肩にはあの大砲の発射口から煙が漂っている。

「ここからは俺が頑張らないとね、赤城は休んでて」

 武蔵はそれだけを言うと、リバインに背を向け。ERRORの群れに機体を向けた。

「ノイドや赤城、皆が命を懸けて守っててくれたんだ。その思い、無駄にはしない!」

 大和の操縦席の壁に光が伝っていき、大和の眼が強く光る。

 右肩の大砲をERRORの群れに向けると、大和は一発の砲弾を撃ち込む。

 発射されると同時に反動で機体が僅かに後退してしまうが、なんとか反動に耐えてみせる大和。

 砲弾はERRORが集中的に集まっている場所に到達、地面に触れた瞬間に強烈な爆発が起こり、その場にいたERRORを吹き飛ばす。

 穴から湧き出るERRORにも砲弾を撃ち込み穴を破壊、大和が右肩から砲弾を放つたびにレーダーに映るERRORの数が一気に減っていく。

 だが大和やリバインを囲んでいるERRORはまだ健在だった。

 近距離で砲撃すると爆風で赤城の乗るリバインまで被害を被ってしまう為、砲撃を狙う事は出来ない。

 すると武蔵はモニターの下についてある小さな青色のスイッチを押し、目を瞑る。

『─SRC発動─』

 四匹のBeast態が大和を囲み、四方から一斉に飛びかかる。

 その瞬間、大和は両腰に掛けていた二本の刀を鞘から抜き取ると、一斉に飛びかかるBeast態の首を一瞬にして斬り落とす。

 大和がBeast態と戦っている間にPerson態がリバインに近づこうとすると、それを見た大和が一瞬にしてPerson態の前に立ち塞がる。

 大和の動きは人のように滑らかに動き、両手に持った刀でPerson態を薙ぎ払っていく。

 リバイン周辺にいたPerson態の一掃を終えると、Worm態の群れがいる方向に砲身を向けて砲弾を撃ち込み、後部のブースターで一機に敵陣の中に入っていく。

 ERRORはその機体に近づく事が出来なかった、完璧な見切り、そして間合い。Person態やBeast態がいくら飛びかかろうが大和に触れる事すら出来ない。

 Worm態が体から一斉に触手を伸ばし、大和を捕まえようとするが、その大和の滑らかで鋭い刀捌きで触手は悉く斬り落とされる。

 そしてWorm態に向けてまた一発の砲弾が撃ち込む。だが今まで大和が放ってきた砲弾とは違い、Worm態に直撃した砲弾は爆発する事無く厚い殻に穴を開けて貫通してしまう。

 それは対Worm態用に作られた大和専用の徹甲弾であり、一体のWorm態を貫通してもその勢いは衰えず斜線上に居たERROEの肉体を次々に貫通していく。

「これが新型機大和の力と、『SRC』の力……まさか本当にこの機能が実現されるなんて……すごいね、神楽」

 武蔵の戦いの一部始終はその場にいた赤城だけでなく、格納庫の個室からモニターを通して神楽も見ていた。

「それを一回で使いこなす貴方の方がすごいと思うわよ。どう? 私が作り出したSRC機能は」

「念じるだけでここまで機体を思い通りに動かせる事が出来るなんて、正直驚いたよ」

「そうでしょう? その言葉が聞けたら私は満足、今の戦局を伝えるわね」

 神楽はそう言うと基地周辺の地図のデータを大和に転送し、そのデータが大和のコクピットにあるモニターにも映し出される。

「市街地周辺のエリアにいたERRORは大分減ってきたわよ、EDPの為にとっておいた戦力を少し活用したみたいだけどね。後は基地周辺にいるERRORだけど、あのアンノウン機が未だ交戦中、たった一機でよく頑張るわよね、伊達君にそっくりよ」

「アンノウン機……分かった。一度赤城を連れて基地に戻るよ。他に何かあるかい?」

「そうね、基地に戻る際はくれぐれも格納庫から出ないことね。今、基地内には異常な数のHuman態が進入しているの」

「Human態、例の新種のERRORか……分かった、ありがとう。すぐ格納庫に向かうから神楽も安全な場所で避難してて」

「あら、心配してくれるの? 伊達君はいつも優しいわね、でも私は大丈夫。そんな簡単に死にはしないから。それじゃ、待ってるわね」

 神楽が通信を切ると、武蔵は赤城の乗るリバインを回収した後基地の格納庫へと機体を走らせた。



 武蔵が格納庫へと戻っている間にも、甲斐斗はたった一人でERRORの相手をしていた。

 湯水の如く湧いて来るERRORを自慢の黒い大剣で片っ端からぶった斬っている。

(俺が今戦っているのは何故か。世界を守る為でもないし人助けをする為でもない。ただ俺はこの醜い化け物を一匹残らず殺したいだけだ)

 ただ単に憂さ晴らしがしたいという理由も有る為、甲斐斗は思う存分全力で暴れ回れて気分は爽快だった。

(まぁそれは『おまけ』でしかない、俺の本当の目的は『神』とか言う馬鹿げた名前の兵器を壊す事。大体何が神だ、馬鹿馬鹿しい、ああ馬鹿馬鹿しい。腹立ってきた!)

 甲斐斗は再び込み上げて来る怒りを晴らすかのように剣でERRORを切り刻み、容赦なく惨殺していく。

「それにしても本当に数が多いなぁこいつ等ッ!」

 そう言って甲斐斗の乗る機体は剣を振り下ろしWorm態の厚い甲羅も簡単に斬り胴体を真っ二つにしてしまう。

(既に百匹以上のERRORを絶対に殺しただろ、それでもまだ沸き続けてやがるとは……犬と芋虫のERRORは構わねえが、あのPerson態だっけ。あいつ等がうざい)

 内心Person態が一番ウザいと思っている時にもPerson態が近づいてきており、甲斐斗は露骨に不満そうな表情を浮かべると剣を振り回しPerson態を薙ぎ払い、斬り飛ばしていく。

(微妙な大きさだし一番沸いてやがる、一々剣で対処するのもめんどくさくなってきた)

「しゃあねえ、更に全力で暴れてやる。最強のこの俺の腕前を思う存分に見せてやるよ!」

 そして甲斐斗は一気に操縦桿のレバーを前に押し上げた。

「さぁ奴等の群れの中に飛び込んで暴れてやろうじゃねえか!」

 そして甲斐斗は一気に操縦桿のレバーを前に押し上げた。

(……そして俺は一気にレバーを前に押し上げた! ……はて、押し上げてんのに全く機体が動かない。立ったまま停止している)

 何故機体が動き出さないのか疑問だったが、甲斐斗は漸くモニターに映っている機体のエネルギーゲージが点滅しているのに気づいた。

(あー、そういやこの機体にはもうエネルギーが無いんだった。すっかり忘れていた)

「って、余裕かましてる場合じゃなさそうだな……」

 ゲームであれば簡単だ、負けそうになれば電源を切ればいい。

 だが現実はそうはいかない、ERRORは笑みを浮かべながら甲斐斗に近づいてくる。

(機体を捨てて逃げるか? いや、俺の鈍足じゃ逃げ切れるのは無理そうだ。となると機体の中に引きこもるしかない、俺もここまでか……。なーんてな! こういうピンチな時にこそ助っ人が登場して俺を助けてくれるっていう展開だな。というか、なってもらわないと困る)

 誰でもいいから助けに来い。甲斐斗がそう思っていると、甲斐斗の予想が意外にも当たり、通信機から声が聞こえてくる。

「そこのアンノウン機、今から砲撃するから上手く避けてね」

「……ん? 避けるって──」

 突然男の声で通信が入ってくる、しかも突然の攻撃発言、甲斐斗は返事を返そうとしたが間に合わなかった。

 一発の砲弾が甲斐斗の後ろから迫り来る、避けたくても機体は指一本すら動かせない。

(おいおい、まさか俺は援護射撃で死ぬハメになるのか? 冗談じゃねえぞ!)

「俺の機体動かないんだっつうの、てか撃つの早すぎだろ! 避けれねえよ!!」

 甲斐斗がコクピットで一人慌てていると、砲弾が届く前に無数のフェアリーが甲斐斗の機体を囲んだ。

 その宙に浮かんでいる物体が一斉にレーザーを放ち、甲斐斗の乗る機体の両足を簡単に破壊した。

 もちろん機体は両足を失った機体は体勢を崩し、その場に倒れこんでしまう。

 だがそのおかげで砲弾は甲斐斗の乗る機体には当たらず、ERRORにいる場所へ一直線に飛んでいった。

「と、とりあえず助かった……」

「その機体に乗っているパイロット、大丈夫ですか? 応答してください」

 フェアリーを操作し甲斐斗を救った少女、レンの声が聞こえてくる。

「ああ、俺は無事だが。もう少し助け方ってもんがあるんじゃないのか?」

 通信を繋ぎ甲斐斗の姿がレンのモニターに映し出されると、甲斐斗の姿を見たレンが眼を丸くしていた。

「えっ? アステル少尉!? どうしてそんな機体に乗ってるんですか!?」

「いや、だから俺はアステルじゃねえっての」

 甲斐斗はまた勘違いされている事に溜め息を吐くと、大和に乗っていた武蔵からレンに指示が言い渡される。

「レンさん、この場は俺に任せて君はその負傷した機体を持って一度基地に戻るんだ」

「わ、わかりました。伊達中尉、お気をつけて下さい」

 レンの乗るフェリアルは破損した甲斐斗の機体を回収すると、一度基地にある格納庫へと戻っていく。

 正直甲斐斗はこの戦場で一通り暴れた後、軍に捕まらないように帰ろうと思っていたが為に計算が崩れてしまう。

(やれやれ、全く惨めな格好だ。機体が無事ならそのまま逃げたかったのに……)

 しかしこうなってしまった以上はどうする事も出来ず、とりあえず甲斐斗は機体を下ろしてくれるのを待ち続ける。

 ふと甲斐斗がレーダーを見ると、ERRORの反応が次々に消えていくのがわかった。

 段々とERRORの沸く数も減り、基地に攻め込もうとしているERRORも次々に消えていく、どうやら増援部隊も到着したらしい。

(……どうやらもう終わりのようだ、これが戦場か。今まで戦いと言えば武器や魔法を使い、少人数での戦闘をしていた。だがこの戦場は何百、何千という人間が命を掛けて戦っているのか……)

 甲斐斗が一人ふつふつと考えていると、無事基地の格納庫に到着したフェリアルが甲斐斗の機体を優しく地面に置いた。

「アステル少尉、一体どういう事なのか説明してもらえますか? 今すぐハッチを開けて降りてきてください」

「ったく、何度言えばわかるんだよ……」

 甲斐斗がハッチを開けると、機体から軽く飛び降りる。

 着地をして回りを見渡すとまず目に入ってきたのが銃を構えた兵士達。

(もう銃を向けられるのは慣れっこだ、驚く気も失せた)

「はいはい、お決まりのパターンだな。それで俺はどうなるんだ、また牢屋か?」

 これで一体何度目になるのだろうかと甲斐斗は考えながら両手を出すと、一人の少女の声が聞こえてくる。

「その前に話を聞かせてください。貴方は一体誰なんですか」

 青い機体、フェリアルから降りてきた一人の女性、レン。

 レンの右手にも拳銃が握り締められており、その銃口を甲斐斗に向け始める。

「誰って言われてもねぇ、話せば長くなるし、信じてもらえないと思うけどな」

「話してもらえないのなら貴方を拘束させていただきます」

「おいおい、せっかく大事な基地を守って化け物を倒してやってたのに。それは無いんじゃないのか? どう考えても俺はお前達の味方だろ?」

 そう言うとレンは銃を下ろし、少し頷く。

「そっ、それもそうですね……」

 確かに甲斐斗の言うとおり、ERRORを排除し人々を守ってくれたのは事実の為、レンは甲斐斗を信じた。

 だが、そのレンの答えに逆に甲斐斗が戸惑ってしまう。

(マジかッ。いつもはなんだかんだで拘束されるパターンだったのに、こいつ物分りが良いというか流されやすいタイプだな……だが、使える)

「そんな武器なんか持たずにさ、話し合いで解決出来る事は話し合いで解決しようじゃないか、な?」

(心にも無い事を簡単に言えるのが俺の特徴です。いや、決してそんな事は無いんだが。結構疲れたし、実はミシェルを市街地の交番に預けたままだ。早く帰ってやらないとミシェルが心配するだろうし。こんな所で時間を食う訳にもいかない)

「わかりました、銃を向けて申し訳ありません。一緒に司令室に来てもらえますか?」

(司令室か、俺がここにいるとアステルに見つかってしまうかもしれない。だがレンは俺を見て驚いていた、と言う事はアステルは俺の存在を皆に喋っていない事になるな。丁度情報も欲しかった所だ、ついていくことにしよう)

「司令室ね、まぁいいよ。行ってやろうじゃないか」

「ありがとうございます、ではコレをどうぞ」

 そう言ってレンは甲斐斗に銃を渡そうとしてきた。

(おいおい、信用しすぎだろ。まだ素性も分からん奴にこんな物渡しちゃっていいのか?……この子は天然だな)

「って、ちょっと待ってくれ。その前に何でこんな物俺に渡す必要があるんだ?」

 そう言っている間にレンは甲斐斗を置いて歩いて行ってしまう、甲斐斗は少し考えてみたが悪い予想しか思い浮かばず、溜め息を吐いた後急いでレンの後を追っていった。

正式名MFE-大和やまと (New Face製)

全長-22m 機体色-茶 動力-光学電子磁鉱石

神楽ご自慢のNF傑作機、機体のOSは全て伊達武蔵専用に設定されている。

装甲は厚く頑丈に作られており、対戦車砲やグレネードをものともしない。

両腰には大和専用の短刀が二本、背中には長刀が装備され、右肩には大砲が備え付けられている。

大砲の砲弾は数種類あり、使い分ける事が可能。

近距離から遠距離まで戦法の対応出来る為万能型とも言える機体に仕上がった。


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