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第29話 執念、防衛

 甲斐斗がミシェルを連れてアステル達の前から姿を消した直後、アステルのポケットに入っている携帯が鳴りはじめる。

 それと同時にレンやルフィス達の携帯もなり始める、それは全て同じ内容でかけられた電話、軍からのものだった。

「軍からの連絡……ルフィス、レンさん。話しは後でします、今は基地に戻りましょう」

 アステルの言葉に二人は頷くと、三人は私服のまま基地目掛けて走っていった。



 その頃、甲斐斗とミシェルは集まっていた警察を振り切り、無事市街地にある図書館の来ていた。

 ミシェルは一人椅子に座って絵本を読んでおり、甲斐斗は一人本を探している。

 『歴史の本』。この世界がどんな世界なのかを知るにはそれを見るのが一番早い。

 甲斐斗は図書館の奥の方においてある本棚にその本が置かれていたのに気付き適当に一冊だけ手にとってみる。

 その本は辞書のように厚くは無く薄い、そして色が落ちておりボロボロに痛んでいた。

 甲斐斗はその汚れた一冊の本を手に持ちミシェルが絵本を読んでいた場所に戻ってくる。

 ミシェルの横に座り本を開けてみようとすると、自分の横に座っているミシェルは絵本を面白そうに読んでいる。

 そんなミシェルの姿を見た甲斐斗は、ミシェルもまた普通の女の子なんだと再認識していた。

 未だに謎に包まれているミシェルの正体、それにSVという組織が狙っており、甲斐斗が僅かに力を取り戻した事にも何らかの影響を感じている。

(やっぱりミシェルには何か力があるのか? 俺も何かあるとは思うが、一体どんな力があるのだろうか……分からん)

 とりあえず甲斐斗は一冊の本のページを数枚捲ってみると、一番最初のページに何やら所々汚れて字が潰れているが文章が書かれてあった。

(なんだこれは、本……じゃない。日付が書いてある。まさか日記か? どうして図書館に日記なんてあるんだ?)

 甲斐斗が手に取った本はどうやら辞書でも本でもなく、誰かの日記だった。

 過去を知るのに何も関係無い。しかし、甲斐斗は不思議とその日記を読み始めてしまう。


『平成──年、九月一日。私は決意しました。結局この世界にあの人は帰ってきてはくれなかった。でも、私はきっと帰って来ると信じてる。この日記は、この世界に帰って来る彼に向けて書きます、例えこの日記が消えようとも、私はそれを書くつもりです。自分を責めないで、こんな結果になってしまったのは私達の力が足りなかったからなの。私達は皆で力を合わして、なんとか止めようと命を懸けて頑張りました。でも、皆戦いの中で命を落としていった。空君も、美癒も。皆、皆。貴方の帰りを待っているのはもう私だけです、私は今でも信じてる。甲斐斗が生きてこの世界に帰って来る事を』


 日記に記された一つの文章に甲斐斗は釘付けになっていた。

 これは恐らく、この世界が『神』によって滅ぼされた遥か昔に書かれたものだとは推測できた。

 だが、途中で出てきた『空』、『美癒』、そして『甲斐斗』という名前に甲斐斗は眼を見開き驚愕してしまう。

(……誰だ? 意味がわからない。いや……違うッ! 俺は分かろうとしてないだけだッ! この文を読めば理解できるはずだ……ッ!!)

 次のページ、次のページには何が書かれているのか、とにかく続きが知りたい。

 甲斐斗は微かに震える指先でページを捲った。


『この日記には少し特殊な魔法を掛けておきました、甲斐斗がこの世界に戻ってきた時、必ず甲斐斗の手に本が渡る魔法。魔法って便利だよね、ってリーナもよく言ってたけど。本当にそうだよね。甲斐斗がこの日記を読んでいるとき、私はもう死んでいると思います。出来れば甲斐斗が戻ってくるのを、ずっと待っていたかった。でもそれは叶わない夢。最後に一つお願いがあるの。私達が守れなかったこの世界を守ってほしい、もう甲斐斗しかいないの、皆がいなくて辛いと思う、悲しいと思う。でも、私達にはもう甲斐斗しかいないの。最後にこんな事書いてごめんね。私は──』


 その後の文章は黒い煤のような汚れで潰れており、次のページを捲れば焼けたような後が残っているだけで一枚もページは残っていなかった。

 日記を読み終えた直後、静かな図書館に甲斐斗の罵声が飛んだ。

 その声は館内に響き渡り、誰もがその声の方向に目を向ける。

 そして一番驚いたのは、甲斐斗のすぐ横にいたミシェルだった。

 ミシェルは驚いた様子で目を丸くし、甲斐斗をじっと見つめている。

「かいと?」

 弱々しく小さな声は甲斐斗の耳には届かなかった。

 甲斐斗は机を簡単に持ち上げてぶん投げると、右手に黒剣が現れる。

「かいと!?」

 ミシェルは慌てて甲斐斗を止めようとしたが、甲斐斗は近寄ってくるミシェルを避ける。

「何これ、なんだよこの世界は」

 甲斐斗が剣を構えると、館内の壁、柱、本棚を次々に斬りつけていく。

 もしそこに人がいても、甲斐斗は容赦なく斬り捨てただろう。

 館内にいた人達は急いでその場から離れて逃げる、そして警察に通報している人もいた。

 だが甲斐斗は止まらない、次々に散っていく本、足元には瓦礫や斬られた本の残骸が溜まっていく。

 一通り暴れ終えた甲斐斗は無残に散らばる本の上に座り、傷だらけの壁にもたれ掛かった。

「くっ! くははははははッ!! やっべ、腹痛い」

 一人両手で腹を押さえながら笑い出す甲斐斗、その様子を見たミシェルがゆっくりと甲斐斗に近づいていく。

 すると、先に甲斐斗からミシェルに声を掛けてくれた。

「聞いてくれよミシェル、俺はな、元いた世界とは違う別の世界に飛ばされたんだってずーっと思ってたんだよ」

「う、うん……」

 甲斐斗は笑っているのに恐怖を感じる、笑みは怒りと悲しみに満ちていた。

「だから俺は元の世界に帰りたかったんだよ、そしたらそう! 俺は既にもとの世界に帰ってたんだってよ! 元いた世界の百年後の世界になっ!? これは傑作だな! 気づかない内に俺は元の世界に戻ってたんだからなぁ! しかもそれが100年後の世界だってよ! うは、やっべまじ腹痛いわ……」

 甲斐斗は一人喋り続ける、その剣幕に圧倒されてミシェルは何も言葉が出なかった。

 ケラケラと笑い続ける甲斐斗、ゆっくりと起き上がるとその右の拳で壁をぶん殴る。

 壁を殴るものの、壁には傷一つ付かない、それ所か甲斐斗の拳から血が垂れ流れていた。

「ふざけんなよボケがァッ!!」

 甲斐斗はやみくもに壁を殴り続けた、ただひたすら、自分の腕が動かなくなるまで。

(何の為にここまでやってきたんだよ!? 元の世界に帰って、皆と会う為じゃないのか……それなのに、何だよお前等。皆死んだのかよ。皆約束を破って俺一人残して死んだのかよッ!!)

 甲斐斗がこの百年後に来る前の記憶が鮮明に蘇る。

 共に戦った仲間達、そして大切な人々──甲斐斗はその全てが消えた事を信じられなかった。

(大体何で百年後なんだよ、俺が眠っていた間に百年もの年月が流れたって言うのか? 俺が何したって言うんだよ、確かに俺は罪を重ねてきた、俺は罪人だ。だから何だ。 自分の命まで捨てて守った人達、世界があったのに。どうしてこんな仕打ちを受けなきゃいけねえんだよ……俺は、あの世界が好きだったよ……皆で遊んで、皆と喋って、皆と暮らして……)

「ッ!……痛ぇ……」

 ふと甲斐斗が我に返れたのは拳の痛みのせいだった。興奮していた甲斐斗は肩で息をしながら目の前の壁をただ見つめている。

 コンクリートの壁を殴り続けた甲斐斗の拳は血みどろに汚れ、壁にも沢山の血がついていた。

 その痛みと血が、甲斐斗を更に奮い立たせた。

(俺にはもう何も無いッ、帰る場所も、待ってくれる人もッ!!)

「クソがぁあああああああああッ!!」

 甲斐斗は右手を大きく振り上げると、コンクリートの壁に拳を振り下ろした。

(出来る、いつもの俺なら、最強のこの俺なら、こんな壁簡単に壊せる!)

 甲斐斗は微かに笑った。今の怒りに満ちた自分なら不可能は無い。そう甲斐斗には思えたのだ。

(そうだ、俺は強い、最強の力を持っていたじゃないかッ!!)

 甲斐斗は自分でそう言い聞かせ、全力で壁をぶん殴った。



 だが、全力で殴った壁はヒビ一つ入らない、それ所か甲斐斗の右手の骨にヒビが入ったように思えた。

 肉と骨を剥き出したままの拳。鉄板で焼かれ、電流が走るかのような激痛が一瞬で腕から体中に伝わり甲斐斗は咄嗟にその場に伏せて悶え苦しんだ。

(苦しい、いっそ楽になりたい。……それで、俺は何の為にこの世界に来たんだよ。こんな、戦争で荒れた世界、化け物が這いずり回る世界に戻ってきて、俺に何をしろって言うんだ。 もう止めだ、俺のお話はここまでだ。さようなら)

 甲斐斗はまた壁に凭れ掛かり、静かに目蓋を閉じようとした。

『甲斐斗、なに現実逃避しようとしてるの? 気持ちは分かるけどしっかりして』

 目を閉じかけようとした時、一人の女性の声が甲斐斗の耳に入ってきた。

(ミシェル? いや、違う。それに俺の名前を知っているって。一体誰だ……?)

 甲斐斗は閉じようとしていた目蓋を止めると、またゆっくりと開いていく。

「ユ……イ……?」

『そう、私、ユイだよ。甲斐斗』

 死んだはずのユイが甲斐斗の目の前にいる。だが体を透き通っており、まるで幽霊のようだった。

「ユイ!? お前死んだんじゃなかったのかッ!?」

『甲斐斗がコレを見た時、私はもう死んでると思う。今ここにいる私は私が生きていた前に魔法でメッセージを残したものなの』

(お、俺の質問を全て先読みしているのか? 多分俺が黙っていても勝手にユイが話しだすだろう、俺が日記を開くとともに伝えたいメッセージを言うようになってるのか……)

『今頃甲斐斗は一人で拗ねて怒っている思うけど、私の話しをちゃんと聞いてね』

 その的確なユイの言葉に思わず甲斐斗は眉を顰めてしまう。

(……何でそこまで読まれてる、本当はどこかに隠れているんじゃないのか?)

 甲斐斗がそう思う程にユイの言っている事は当たっていた。

『残酷な言い方かもしれないけど、お願い戦って。この世界の為に、皆この世界を守る為に戦ったの』

「誰から守ってたんだよ、誰がお前達を殺したんだ。それを教えろ」

『相手は神よ、神が世界の平和の為と言ってこの世界を滅ぼそうとしたの。立って、戦って。『今』この世界を守れるのは甲斐斗しかいないの。この世界を平和に導いて、甲斐斗』

(懐かしい声だ、百年ぶりに聞いた声と行っても間違いじゃないだろう。つうか、神って何だよ。神、神って。あの世界を滅ぼそうとしたと言われている兵器の事か? ……ああ、ユイの声を聞くのがこれで最後なのか……)

「わかったよ、俺は戦う」

 甲斐斗は壁にもたれ掛かりながら立ち上がり、体勢を立て直した。

 するとユイは笑顔で甲斐斗にこう言ってきた。

『何の為に?』

 ユイの問い、その答えは一つしかない。甲斐斗はその答えを言ってやった。

「世界を守る為に」

『……本音は?』

 ユイは甲斐斗が何を思い、何を喋るのか、その全てを理解している。

 だからこそ、最後の思い、メッセージを的確なタイミングで残せた。

 ユイはまた笑顔のまま問いかけてきた、だからこそ甲斐斗も笑ってみせた。

「決まってる、俺から全てを奪った奴等、全てに復讐する為だッ!!」

(こんな世界、皆がいないんじゃあ守る必要なんて無い。これからの俺の目的は一つだ、いや。一つにしてやった。世界を守る為に戦うとか。そんな在り来たりな設定はもう飽きたからな。俺はこんな所で立ち止まる男じゃない、何たって俺は最強の男だからな)



 甲斐斗が図書室でユイの日記を読んでいる頃、東部軍事基地に集められていた全ての部隊は出撃し、ERRORと激戦を繰り広げていた。

 予想以上に数が多く、じわじわと市街地や基地に追い詰められていく兵士達。

 赤城達の部隊も必死に応戦をするが、そのERRORの圧倒的数に押され始めていた。

「くそっ!どうしてこんなに数が多いんだよ!?」

 迫り来るPerson態、Beast態に目掛け、ノイドの乗るギフツが機関銃を片手に撃ちこんでいく。

 その横では武蔵の乗るリバインがグレネードを撃ち近辺のERRORを吹き飛ばしていた。

「予想外だね、ここまで多いとは」

「でも伊達中尉は何か楽そうな顔っすね、なんでそんな余裕があるんすか……」

「そう見えるだけで、俺自身結構焦ってるよ」

 撃っている最中、Person態やBeast態の後ろから波のように現れるWorm態。

 武蔵がそれを見た瞬間、撃ち尽くしたグレネードを捨ててWorm態に突撃しに行く。

「ちょ! 伊達中尉! 無理はしない方がっ!?」

 武蔵の行動に赤城からも通信が入ってくる。

「武蔵、一人で勝手に動くな。敵陣に単機で突っ込むなど私は許さない」

「俺は少しでもERRORの注意を引きつければそれでいいんだよ」

 現在戦況は不利、この状態を何とか打破しなければならなかった。

 武蔵の乗るリバインの眼が光ると、右手をLRSに切り替え、盾を前に出して突撃する。

 張り付こうとするPerson態を左手に持っている盾で弾き飛ばし、襲い掛かるBeast態を者ともせず次々に斬り捨てて行く。

「さすが伊達中尉、すごい動きだ……俺も頑張らねえとなっ!」

「その意気だノイド。由梨音、私達も二人に負けないよう力を出し切るぞ」

「わかってますよ赤城少佐! 私達第五機動独立部隊の力を見せ付けてやりましょう!」

 基地から次々にギフツとリバインが出撃、何とか防衛ラインが維持できている状況だが、遠くには民間人が暮らす市街地がある。

 赤城達はなんとかここで持ち堪え、ERRORを排除していきたい状況だった。



 そんな中、東部軍事基地では異変が起きていた。

 アステル達は何とか東部軍事基地に到着すると、急いで格納庫へと向かおうとした。

 だが、兵士達が銃を持って次々に格納庫や基地内に入っていくのがアステルの視界に入る。

 何が起こっているのかわからず、丁度目の前にいる女性に声を掛けてみた。

「すみません、基地内で何が起こっているんですか?」

 その大人びた女性はアステルに気づくとそっと振り返りると、銜えていた煙草を指で摘み溜め息と共に煙を吐き出した。

「あら、やーっと声かけてもらえたと思ったら違ったみたい……せっかく新型を運んできたって言うのにねぇ」

 女性は不満そうな顔をしながら小さく煙を吐く、アステルは戸惑った表情でその女性を見ていた。

「んーと、実は今基地内にHuman態が侵入してるらしいわよ、それで今排除しているんですって」

 アステルの後ろにいたルフィスとレンが驚きを見せる。

「Human態って、新しく発見された新種のERRORですよね。まさか基地内に侵入してるなんて……教えていただきありがとうございます、僕達はこれから基地内にいるHuman態を排除しに行って来ます」

「あ、ちょっとまって。その子は置いてってくれないかしら」

 そう言うと女性はレンの腕を掴み、アステル達から引き離す。

「少し用事があるから付き合ってもらえないかしら」

「えっ、私がですか?」

「そう、新型機に乗ってもらわないと困るからぁ」

「し、新型ですか!? 私が!?」

「わかりました、レンさんはその機体で出撃してください。僕達は基地内のERRORを排除してきます」

 驚いているレンを他所にそう言うと、アステルは基地へと走り、ルフィスもその後を追っていった。

 基地に向かう二人を見ながら、何故か不敵な笑みをみせる女性。

「レンちゃんには死んでもらったら困るから……」

 そう呟くと女性はレンを連れて格納庫とは逆の方向にある建物の中に入っていった。



 赤城達は未だにERRORと戦っている、だが弾薬がそろそろ尽きて来ていた。

 一度補給する為に基地へ戻らなければならないが、今ここで抜ける訳にも行かない。

「赤城達は一度補給の為に戻って、ここは俺とノイドが食い止めるから」

「最善の案では無いが、今はそうするしか無さそうだ。由梨音、一度基地に戻るぞ」

「分かりました! 伊達中尉、ノイド曹長! 二人とも無理はしないでくださいねっ! すぐ戻ってきますから!』

 そう言うと赤城と由梨音は二人に背を向けて基地へと戻る。

「伊達中尉、俺は中尉が思ってるほど役には立てないかもしれないっすよ?」

「ノイドも無理はしないでいいよ、二人が戻ってくるまで無理は禁物だから」

「そんな事言って伊達中尉は一人で突撃してるじゃないですか。俺でよければ援護させていただきます」

 ノイドはそう言うとERRORの残骸が転がっている辺りに入っていく、様々なERRORが重なり、辺りに倒れている。

 その中にWorm態もおり、壁のような大きさな為に視界が悪い。

「中尉はこんな中を一人で……って!」

 前方に見えるBeast態の群れ、ノイドはいち早くマシンガンの引き金を引く。

 一匹のBeast態には命中したが、横にいた二匹のBeast態は軽々弾を避けると

 ERRORの死骸を踏み台にしながら二匹のBeast態は左右から素早く近づいてくる。

「左右から攻めてくるとは少しは頭使ってんな、だがよ!」

 片方に向けて機関銃をぶっ放すノイド、中々弾が当たらないが、集中して狙い定め何とか当ててみせた。

 だが後ろからはもう一匹のBeast態が既に飛びかかって来ていた、ノイドはそれを予測し、左腕に仕込まれているナイフを取り出す。

 そしてギフツの左手に掴んだナイフを後ろに振り返ると同時にBeast態の頭目掛け突き刺す。

「人間様に勝とうなんて思わない事だな!」

 Beast態の頭部からは血が吹き出し、大きく吼えた後ゆっくりと倒れて力尽きる。

 また二匹、ERRORの死体が増えてしまった。

「ったく、でかい図体してんのによくあんな早い動きが出来るな……」

 一度安全な場所に離れようと機体を旋回させたその時、死んだと思っていたはずのWorm態が突然動き出す。

 急いで銃を構えようとした時、それよりも早く触手がコクピット目掛けて突き出された。

「ノイド! 大丈夫か!?」

 武蔵が無線が入るもののノイドの返事が帰ってこない、もう一度呼びかけようとした時、モニターにノイドの姿が映る。

「伊達中尉、これぞ危機一髪って奴っすね。へへへ」

 ノイドの乗るギフツは銃を手放し、両手でWorm態の触手を握り締めていた。

 触手の先端は少しコクピットに突き刺さっていはいるものの、ノイドに触れる前に何とか止める事が出来ていた。

「本当、油断大敵っすね、今度からはもっと気をつけないと──」

「ノイドッ! 今すぐその触手を放せ!!」

「──えっ?」

 武蔵が叫んだ時には、既に遅かった。

 Worm態から触手に強力な酸が流れ込む、そしてその大量の酸は一気に噴出し、操縦席に座るノイドが大量の酸を浴びる。

 その強力な酸を浴びたノイドは暴れだし、酸から逃げようもがき苦しむ。

 だが酸はコクピットのハッチから噴出されており、ノイドは逃げる事も何も出来なかった。

「熱いッ! 熱い熱い熱いぃッ! あっづうぁああああああ!!」

 その光景に武蔵は目を背けた、ただ悲鳴だけがコクピット内に響き渡る。

 だがその声も段々と弱くなり、悲鳴が聞こえなくなった時、ノイドは原型を止めていない程に溶かされていた。

「ノイドッ!? そんな……クソッ!! 俺が赤城達と一緒に補給に向かわせていれば……ッ!!』

 リバインの出力を最大に上昇させ、一気に跳びあがる。

 そしてノイドが死んだ場所に着地すると、ノイドの乗っていたギフツに取り付いているWorm態にLRSを突き刺す。

 Worm態は悲鳴を上げ、リバインに襲い掛かろうとするが武蔵の乗るリバインの素早さについていけず何もする事が出来ない。

「よくもノイドを、この化物共がッ!!」

 触手を全て斬り落とされ、何も出来る事が無くなったWorm態。

 武蔵はLRSをの刃先を突き立てると、勢い良くWorm態の頭部に突き刺す、何度も、何度も。

 そして武蔵は気づいていた、自分を囲むようにしてERRORが集まってきていると言う事を。

 その時、突然レンから無線が入る。

「伊達中尉! 至急基地に戻ってください、貴方に渡したい物があるという女性がいます!」

「レンさん!? 渡したい物というと、例の新型の事かい?」

「はい! ここは私と隊長達に任せて早く!」

「……分かった、直ぐに向かうよ」

 レンが通信を切ると、レンのモニターに赤城と由梨音の姿が映る。

「あ、赤城少佐! ノイド曹長の機体がっ……』

 由梨音が指を指す方向には、無残にも胸部がボロボロに溶かされたギフツが横たわっていた。

「そんなっ、ノイドが?……くっ、戻るのが一足遅かったか……。レン! 新型の力を奴等に見せつけてやれッ……!」

「はい! 隊長!」

 そして現れるレンの乗る機体、青色のその機体の背中には六つの新兵器が搭載されていた。

 ERRORとの戦いはまだ、終わらない。


正式名MFE-アストロス・オーガ (Saviors製)

全長-18m 機体色-赤 動力-光学電子磁鉱石

Saviorsが開発した『三大神機』の一機。

鬼のような姿をしており、頭には目立つように長く鋭い角が二本付けられている。

その機動力はギフツはおろかリバインでさえ反応できない速度で動く。

並外れた敏捷力、飛脚力、突進力を使い一瞬で敵の懐に飛びかかる事が可能。

武装という武装は全くしておらず、拳のみで戦う為近距離戦闘用兵器に属する。

その為拳には特殊な金属を採用。

更に『RE粒子』を散布する事で硬度を高めLRSを受け止める事や撃ってきた徹甲弾を砕く事も可能となった。

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