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第28話 導き、前兆

 BNの戦艦から脱出し近くの森に隠れていた甲斐斗とミシェル。

 朝日が昇り甲斐斗は朝早く眼を覚ますと、一人川の前に立ち朝日を眺めていた。

(夜の森と朝の森、同じ森のはずだがどうしてこんなにも違うのだろうか)

 川のせせらぎ、鳥の歌、虫の音色、木々の残骸──。

 ふと甲斐斗が後ろに振り向き昨日通ってきた道を見ると、その道に生えてある木々が無残にも切り落とされたり薙ぎ倒されたりしているのがよく分かる。

(幾ら急いでいたからと言ってもこの光景を見ると少しやりすぎた気がするな)

 今更罪悪感に甲斐斗は頭を掻いていると、朝日に照らされ目を覚ましたミシェルが甲斐斗に声をかけた。

「おはよう、かいと」

 すっかり元気になったミシェルが笑顔で甲斐斗の元に駆けつけてくる。

「ああ、おはよう」

 元気になって良かった。甲斐斗はミシェルが一時はどうなるのかと思って心配していたが、再びこの笑顔が見れて内心ほっとしている。

「ミシェル、俺はこれから元の世界に帰る方法を探しに色々な所に行って勉強しようと思うんだ。まっ、ただ探すだけだとつまらないからな。いろんな所を旅していこう」

(そうだ、焦る事は無い。少しずつ手がかりを探していけばいいじゃないか。昨日何で俺はあんなに焦っていたのだろうか、腹が減っていたからだろうか)

 全ての原因を無理やり空腹のせいに甲斐斗がしていると、ミシェルは首を傾げて甲斐斗に聞いてみる。、

「どこいくの?」

「んーと、一度NFの基地に戻ってみようと思うんだ。少し時間がかかるかもしれないけど、まずはこの世界について良く調べないとな」

 そう、甲斐斗はこの世界の事についてなど全く調べる事が出来なかった。

 甲斐が病院にいた後牢屋にいて、その後牢屋にいて、そしてその後も牢屋に閉じ込められていたからだ。

(だが今の俺は自由、フリーダムだ! もう誰にも縛られる事のない生活が出来る)

「よーっし! そうと決まればさっさと行くぜ! 俺達の旅はまだ始まったばかりだからな!」

「うん!」

 甲斐斗はミシェルを抱きかかえるとすぐさま機体の元に走った。

 操縦席の扉に取り付けてあるワイヤーを掴むと自動的にワイヤーが甲斐斗達を引き上げてくれる。

 そしてコクピットに乗ると、ミシェルをそっと下ろし甲斐斗は操縦席に座った。

「一に安全! 二に安全! 三、四に安全五に安全! 安全運転でかっ飛ばしていくぞ!」

 操縦席ハッチを閉じて機体の電源を入れる為甲斐斗がスイッチを押す。

 何度も何度もスイッチを押し続ける甲斐斗だったが、機体は全く起動しない。

「あ、あれ? 動かない……まさかエネルギー切れか?」

(何度押しても電源がつかない、せっかく格好良く決めたっていうのにこりゃ無いぜ。どうする、動かない機体などただの鉄クズに過ぎないだろ……。そもそもこの機体は何の力で動いているんだ、ガソリン? な訳無いよな)

 甲斐斗は操縦席で一人動力源が何かを考えていると、それを見ていたミシェルが一つのスイッチに指を指した。

「かいと、こーこ」

「ん、これがどうかしたのか?」

 試しに甲斐斗そのスイッチを押してみる。

 すると、そのスイッチを押した途端機体は爆発。操縦席に乗っていた甲斐斗達は跡形も無く吹き飛ばされた。

 どうやらあのスイッチ、自爆スイッチだったらしい。……っという展開にはさすがにならないと思った甲斐斗はそのスイッチを押してみた。

 スイッチを押してみると、モニターや装置、機器の電源が点き始め、機体が起動していく。

「ぉおおお! ミシェルすげえっ! なんか知らんが起動したぞ!」

(これは驚いた、まさか機体が起動するとはな。ふむ……どうやらこのスイッチを押すとサブエネルギーに切り替わるらしい、長くは持たないが町に向かうのなら十分だ)

「よーっし、んじゃ気を取り直して出発!」

「しゅっぱーつ!」



 それから数時間機体を走らせた後、甲斐斗は無事に市街地へと来ていた。

 勿論機体は市街地の近くにある森に隠しており、甲斐斗とミシェルは二人で市街地へと入っていく。

「そして到着!」

 懐かしき東部の市街地、そして遠くに見える東部軍事基地。

(さて、遣る事は山ほど有る。まずこのボロボロの服を買い換えたり、美味しい物も食べてみたい。最近まともな食事をしてないからな。だが、金はどうやって手に入れれば……)

「強盗したらお金稼ぐの簡単だよな……」

 その言葉に反応したミシェルは驚いた様子で甲斐斗を見つめる。

「冗談だって、取りあえず図書館行ってみるかな。あそこなら金もかからんだろ、多分」

 冷暖房完備、熟睡可能、参考資料完備、これなら行っても損は無い。

 取りあえずこの世界の科学、文明レベルを見てみなければと思っていたが、重大な事実に甲斐斗は気付く。

(って、図書館って何処にあるの。俺はこの世界の人間でもなければこの街の人間ですらない。適当に歩いて探してみるか?いや、それは時間の無駄だし疲れる。

 その時、甲斐斗の頭上に豆電球が現れて光った。何か良い事を思いついたらしい。

「ミシェル、少しベンチに座って休んでてくれないか? すぐ戻るから」

「うん、わかった」

「いいか、見知らぬ奴から話しかけられたら絶対に話したりついていったらダメだぞ! 無視だ無視!」

「う、うん……」

 甲斐斗はそう言い残すと街の奥へ走っていった。

 それは思いついた画期的な方法を試す為、図書館の場所も知れてお金も稼げている甲斐斗流の方法。


 市街地、表は活気だって沢山の人々が溢れている。だが暗い路地裏にいけば不良や柄の悪い人間が酒を飲んでたり、喧嘩などをしえいる。

 そんな訳で甲斐斗は今社会のごみ供が集まっている路地裏に来たのだった。

 すると、数人の不良が甲斐斗に気づいたのか、へらへらと笑いながら歩いてくると一人の不良が甲斐斗に声を掛けてくる。

「おい兄ちゃん、こんな所に来て何してんだ?」

「図書館探してたんだけ迷った、何処にあるか知らね?」

 声を掛けられた甲斐斗はそう言って不良の男に尋ねてみると、男は甲斐斗を馬鹿にしたような物言いで答え始める。

「図書館?お前それココとは逆の方角だろ、馬鹿じゃね?」

(なるほど、逆だったか。じゃあここから逆に歩いていけば良いって事だな)

「ありがとさん、んじゃ俺は図書館行くから」

 甲斐斗は体を百八十度回転させて路地裏から出て行こうとした時、男に肩を掴まれてしまう。

「おいおい、教えてやったんだぜ? お礼ぐらいあってもいいだろ?」

 そう言うとその不良の周りにいた不良達が甲斐斗を囲む。

(……ここまで俺の思い通りに事が進むとはな。後はこいつ等をコッペパンに……じゃなくてコテンパンにするだけだ。その後不良達からがお金を貰うと言うなんとも素晴らしい方法だ、俺に相応しい稼ぎ方だな!)

「お礼は無い。文句あるならかかってこい。殺しはしないが手足の骨ぐらいは折らしてもらうぞ」

「んだとこのガキッ!」

 不良が甲斐斗に殴りかかろうとする。

(こんな雑魚に剣を使う必要も無い。軽く攻撃を交わした後半殺しにして終わらせるか)

 だが、甲斐斗の予定は思わぬ人間の登場により崩れてしまう。

「貴方達! 何をしているんですか!?」

 一人の少女の声が聞こえてきた、甲斐斗はその声の方向に振り向く。

 そこには手に小さな鞄を持っている一人の少女が立っていた。

「何だてめえ、ガキは引っ込んでろ!」

 不良が甲斐斗の胸倉を掴みながらルフィスを睨みつける。

 しかしルフィスは怯むことなく不良の居る方に歩いていくと、手に持っていた鞄を開け中から一枚のカードを取り出した。

「私は東部軍事基地所属、レン・スクルスと言います。今すぐその手を離してください」

 その言葉を聞いた途端に不良達が慌しくなった。

「ちょっ、マジかよ……ッ!?」

 その言葉を聞いた途端不良達は一目散に逃げてしまい、さっきまで路地裏には何人者不良達がいたというのに今では空き缶や吸殻しか見当たらない。

(待ってくれ、逃げないでくれぇ! ああ、俺の金が逃げていく……)

 助けてもらったのは嬉しいが、大事な甲斐斗の金が逃げてしまい途方にくれてしまう。

(さてと、金は逃げてしまったが。この子は一体何者だ? 東部軍事基地所属とか言ってたけど……)

 甲斐斗は自分を助けてくれた少女を不思議そうに見つめていると、レンは少し戸惑いながら甲斐斗に声をかける。

「アステル少尉、こんな所で何してるんですか! ずっと探してたんですよ!」

『アステル』その言葉を耳にした時、甲斐斗はよくやく思い出した。

(東部軍事基地所属? たしかアステルもその基地に所属していたはずだ。こいつはアステルと同じ部隊の人間ってことね、ヤバイ勘違いされてる……)

「私とルフィスさんはずっと待ち合わせの場所で待ってたんです、それなのにアステル少尉は全然来てくれないし……それにその服装はどうしたんですか? それがアステル少尉の私服なんです?」

 見るからに汚れた服装にレンは不思議がっていると、咄嗟に甲斐斗は悪知恵を働かしてしまった、とにかく今はこの場、この状況を利用するしかないと思ったのだ。

「いや、実は洋服を買ってからそっちに寄ろうとしてたんだよ、この服汚れてるしダサイでしょ」

「え? あ、はい……、私から見ればアステル少尉に似合ってないと思います……」

「それで買いに行こうと思ったんだけどさ、財布を落としちゃってね、探してたらこんな所に来ちゃってて」

「さ、財布落としたんですか!? それなら早く探さないと! ルフィスさんにも連絡しないと!」

 レンがとっさに鞄から携帯電話を取り出そうとした時、甲斐斗は反射的にその腕を掴んでしまった。

「い、いや。財布落としたなんてバレたらかっこ悪いから、内緒にしていてくれないかな?」

(俺ナイス、上手い事言えるじゃん)

「それもそうですね……」

「それでさ、こんな事を頼むのも何だけど。少しお金を貸してもらえないかな?」

(女性にお金を借りるなんて普通は駄目だけどな、男的に)

「はい。私で良ければお貸しできますよ」

「本当に? ありがとう、そのお金で洋服を買った後にルフィスの所に会いに行こうか」

「そうですね、そうしましょう! すぐ近くにお店があります、そこで洋服買いましょうね」

『っしゃあああッ!』と、心の中で甲斐斗は叫んでいるが顔は普通のまま。

 もちろん喋り方、声、口調はアステルに似せている、顔も似ている為に早々ばれないだろう。

 そのまま甲斐斗とレンの二人は服屋に直行。

「適当な服をささっと買って来るから、先にルフィスさんの所に戻っていてくれないかな?」

「えっ……わかりました。このカードを使ってください。私達は中央公園にいますから早く来てくださいね」

「うん、すぐに行くから待ってて」

 レンが甲斐斗にカードを渡すと店から出て行く。

(なんか騙して悪い気もするが、今の格好だと色々とまずいからな。このお金は使わせてもらう)

 甲斐斗は目に付いた黒色の服を一着、長ズボンを一着。自分の今着れる服を買っていった。

(囚人の服、軍人の服、そんなもの俺には似合わない、やはり私服でないとな)

 こうして服の購入を終えた甲斐斗は店から出ると、レンが向かった方向とは逆の方向に体を向けた。

(さて、このカードを利用して美味い物でも食べに……)

「アステル少尉! 何処行くんですか?!」

「うおっ!?」

 突然後ろから声を掛けられて不覚にも甲斐斗は驚いてしまう。

(この声はさっきの女の声だ、どうしてここにいるんだよ、待ち合わせ場所で待っとけって言ったのに……)

 甲斐斗は溜め息をつくと後ろに振り返る、そこにはやはりレンの姿があったが、もう一人の少女の姿そこにはあった。

「カイトさん?」

「ル、ルフィス……」

 もう二度と会わないと甲斐斗は思っていたが、まさかこんな早く、簡単に会えるとは思っても居なかった。

 私服姿のルフィスは甲斐斗をじっと見つめたまま動かない。

(やばい、バレたか……?)

「その私服、とっても似合ってますね」

「えっ? あ、そうかな?」

「はい、とっても似合ってますよ」

 そう言ってルフィスは笑みを浮かべる。

 その笑みを見ていた甲斐斗は、今まで見た事の無かったルフィスの笑顔に見蕩れていた。

 前に会った時は元気も余り無く、甲斐斗の前では決して笑わなかったからだ。

(……駄目だな、やはりここに俺の居場所は無い。俺がここにいればアステルに悪いからな、俺がいるとアステルに迷惑を掛けちまう。振り返った後に走り出せば人ごみに隠れて逃げ切れるだろう)

「レンさん、これ。ありがとうございました」

 甲斐斗はレンにカードを返すと、そっと二人に背を向けた。

 そして甲斐斗が走り出そうと前を見た瞬間、『奴』はそこにいた。



 時は僅かに遡り。甲斐斗がこの市街地に来ていた時、市街地の中央にある公園のベンチにはアステルが座っていた。

(今日はルフィスとレンさんの三人で買い物をする予定だけど、二人とも遅いなぁ……)

「おかしい、もう集合時間だけど二人ともいない。何処にいるんだろう」

(集合場所はここだったよね、あれ、もしかして僕が間違えてる?……んー、段々と不安になってきた)

 その時、アステルの座っていたベンチと少し離れた場所から何やら声が聞こえてきた。

「お嬢ちゃん、一人こんな所で何してるの?」

「迷子なの? それじゃあ俺達が家まで送ってあげようか」

 服装が派手な若者が数人に見える、だけど体格、服装に似合わない行動をしていた。

 やっぱりあんな格好をしていても良い人はいるものなのかな。

 だがミシェルは俯いたまま話そうとしない、きっと誰かを待っているんだろうとアステルには分かった。

 若者の言葉にミシェルは小さく首を横に振るが、若者達はミシェルから離れようとしない、そして一人の若者が少女の腕を掴んだ。

「いいから来いって、一緒に遊んでもやるから」

 嫌がるミシェルの腕を強引に引き、ベンチに座っているミシェルを引っ張っていこうとする。

 ミシェルは必死に抵抗するが、その若者に腕を掴まれ離れられない様子だ。

(って、僕は何をしているんだ、ただ見ているだけで……助けないと!)

 アステルは緊張し両手が汗ばみ、歩き方もどこかおかしいがミシェルの元へと向かった。

「あ、あの。ちょっと待ってください。その子嫌がってるではないですか」

 アステルはそう言ってミシェルの腕を掴む男の手を掴んだ。その咄嗟の出来事に若者の手がミシェルの腕を放す。

「はあ? この子が迷子だからこっちは親切に連れて行ってやるつってんだよ」

「ですから、この子は嫌がっているんです。無理に連れて行くのは駄目だと思うんですけど……」

「何だよさっきからグダグダうるせえなあ、お前俺に喧嘩売ってるの?」

(どうして話しても分かってくれないのだろう、人は分かってもらえない時、いつも力に頼る)

「い、いえ。僕は喧嘩なんか……」

 アステルの顔に拳が飛んでくる、すかさず避けようと思った時、後ろにいた若者に体を掴まれた。

 見事にアステルの顔に拳が命中、瞬時に歯を食い縛った。

「止めてください……僕はこう見えても軍人ですよ。貴方達を逮捕する事も出来ます」

「お前みたいな奴が軍人とか、軍人馬鹿にしてんのか?!」

 そしてもう一発、今度はアステルの腹部に拳が命中する。

 するとアステルの後ろにいた若者がアステルの上着のポケットに手を入れて財布を抜き取る。

「おい、こいつ結構金持ってるぞ!」

 アステルのサイフから数枚のお札を取り出した若者、だがアステルのサイフに入ってある身分証明書を見て顔色が変り始める。

「こ、こいつ本当に軍人じゃねえかよ!」

「嘘だろ!? ちょっとお前貸せ!」

 慌てだす若者達、アステルのサイフから取ったお金と財布をアステルの足元に投げ捨てると、一目散にその場から逃げていった。

(最初から身分証明書出せば良かったのかもしれないけど……もういいや。格好悪い所をルフィス達に見られなくて良かった、でも僕の横にいる少女には見せちゃったけど……)

 アステルは自分の足元に散らばっているお金と財布を拾うと、またポケットの中にしまう。

 そしてベンチに座っているミシェルに声を掛けてみることにした。

「誰か来るのをここで待っているの?」

 ミシェルは無言のまま何も喋らない、アステルは自分もまた不審な人に思われているのだと思った。

「驚かせてごめんね、僕はカイト・アステルって言うんだ。君の名前教えてもらえないかな?」

 すると、ミシェルはアステルの方を向いた。

「ミシェル」

「ミシェルちゃん、もしよかったら一緒に交番まで行かない? ここに居たらまた危ない目に遭うかもしれない。交番までついてきてくれるかな」

(ここから交番はすぐ近くだし、ここにいるより交番でお世話になっているほうが涼しいし安全かな。それにしても、こんな小さい子を一人きりにするなんて一体誰なんだろう。身勝手な人もいるもんだな)

 アステルがそっと手を指し伸ばすと、ミシェルはアステルの手を掴んでくれた。

(ルフィス達には悪いけど、まずはこの子を交番に送り届けないと……)

 アステルはしっかりとその子の手を握り締め交番に向かう為街の中に入っていった。

 見渡す限りの人、人。街に来るのは久しぶりだけど、やっぱり人が多いと思う。

 その時、ふとルフィスの顔がアステルの視界に入った。

(あれ、ルフィス……それにレンさんもいるじゃないか、二人ともあんな所で何してるんだろう。誰かと話している? 人が多過ぎてよくわからないけど……)

 アステルがミシェルの手を引き人を避けながらルフィス達の元へ向うと、『奴』はそこにいた。



 こうして運もタイミングも悪く、甲斐斗とアステルは再び出会ってしまった。

 甲斐斗とアステル、互いは向き合い、睨み合っているようにも見える。だが二人とも目の前の光景は信じられず、立ち止まっていた。

 周りの人達は歩き、動いている。だが甲斐斗とアステルはまるで時が止まっているかのように動かない、動こうとしない。

 そんな中、先に口を開いたのは甲斐斗の方だった。

「久しぶりな、カイト・アステル、まだ生きてたか」

「どうしてお前がこんな所にいる! ルフィス達に何をしていた!?」

 アステルは懐から迷わず拳銃を取り出すと、甲斐斗に銃口を向けた。



 その光景を見た街の人達は急いでその場から逃げていく、何せ一人の男が銃を出しているのだ、誰だって逃げる。

 アステルの異常な行動に甲斐斗もまた少し引いていた。 

(こんな街中で普通銃を出すか? 軍人なら軍人らしく少しぐらい考えて行動しろよ)

 そして甲斐斗の後ろに立っていたルフィスとレンも、異変に気づいた。

 懐から銃を取り出し、甲斐斗に銃を向けているアステルにすかさず銃口を向けた。

 だが二人は驚いた表情で銃を構えている、無理もない。

(さて、ここからが修羅場だな)

「カイトさん?」

「アステル少尉が……二人?」

 まるで狐に化かされたかのようにルフィスとレンは固まっていた。

 無理もない、同じ顔の人間が目の前に二人いるのだから。

「ルフィス! レンさん! その男から離れて! そいつは僕じゃない!!」

 アステルは自分が本物である事を証明するように二人に語りかける間、甲斐斗はこの場をどう切り抜けるか考え始める。

(このままだと奴に蜂の巣にされるか、また牢獄送りになっちまう。さっさと逃げるか)

 甲斐斗は咄嗟にルフィスの腕を掴むと、ポケットからナイフを取り出し、そのナイフをルフィスの首もとに突きつけた。

「おっと動かないでもらおうか、さもなくばこの子の命がどうなるかな?」

(明らかに今の俺は悪役の台詞を吐いている、だが今はそんな事気にしてられない。面倒な奴等が来る前にミシェルを連れて帰らなければ……)

「かいと!」

「君は危ないから下がってて!」

 その時、アステルの後ろにいたミシェルが甲斐斗の前に現れた。

(ミシェル、お前なんでアステルと一緒にいるんだ? あれ程動くなと言ったのに……だが、これで探しに行く手間が省けたってもんだ)

「ミシェル、俺の所に来るんだ」

 すると、甲斐斗の元に近づこうとしていたミシェルの腕をアステルが掴む。

 そしてアステルは自分の元へ引き寄せるとミシェルの頭に銃を突きつけた。

「おいおいおいッ!? お前正気か!?」

 まさかアステルがミシェルを人質に取るとは思わず甲斐斗が驚愕しているが、アステルは冷静な面持ちで甲斐斗を睨み付けた。

「僕は至って正気です、貴方こそ今すぐそのナイフを下ろし、ルフィスを離してください」

(こいつ、ミシェルはまだ幼い子供なんだぞ。それに銃を突きつけやがって……俺も同じ様な事してるけど)

 銃を突きつけられているミシェルは怯えているかと思いきや、あまり抵抗もせずにただ甲斐斗達を見ているだけだった。

「僕もこんな事はしたくない、貴方が僕の指示通りにしてくれれば手荒な真似はしないつもりだよ」

「俺もこんな悪役じみた事はしたくないんでな、ミシェルを返せばルフィスも返す」

「それなら先に僕に渡してください、そうすればこの子は貴方に返します」

「返した後どうする? 俺達を捕まえるんだろ? 俺の言う事を聞かないとこいつ殺すぞ」

 甲斐斗は不敵な笑みを見せた後、ナイフの刃をルフィスの顔の前でちらつかせる。

 するとアステルはその甲斐斗の行動にビビり、ルフィスの安全を第一優先にするべくミシェルに向けていた銃を下ろした。

「わ、分かった! この子は返す、だからルフィスに危害を加えるな!」

 その時、口を開かなかったルフィスがここで口を開いた。

「アステル少尉! 一体この人は誰なんですか!? どうして彼は私達の名前を知ってるんです! それに姿も……」

「そ、それはっ……」

(あん? アステルが口を閉ざしたが、何故だ? というかルフィスは俺の存在を知らない? 俺とアステルは全くの別人、アステルはそれを伝えていないと言う事か)

「アステル、お前俺の事を隠すつもりだったんだろうが残念だったな。まぁ俺には関係の無い話、早くミシェルをこっちに渡せ」

 ナイフの刃先をルフィスの首元にもう一度突きつけるが、無論甲斐斗はルフィスを傷つけたりはしない。

「っ……わかった、この子は返す」

 アステルはそう言うと掴んでいたミシェルの腕を放す、自由になったミシェルはすぐさま甲斐斗の所に来てくれた。

「さぁ返したよ、早くルフィスを放せ!」

(それ程ルフィスが大事か、いいだろう。俺もルフィスには色々と世話になったからな)

 甲斐斗がルフィスを放すと、ルフィスはすぐさまアステルの元に向かう。

「ルフィス、怪我はないかい?」

「は、はい。大丈夫です」

 ルフィスに怪我なくアステルが安心していると、甲斐斗はさっさとその場からずらかろうとしていた。

「取引は成立。それじゃあ俺はここら辺で逃がしてもらうぞ」

 甲斐斗がミシェルを連れてその場から逃げようとしたが、街の騒ぎに駆けつけた警察が既に集まっており、アステルもまた拳銃を甲斐斗に向けている。

 思わぬピンチに甲斐斗はこの場を切り抜ける方法を再び考えるが、一つの事実に気付く。

(……いや、まて。どうして俺が逃げる必要があるんだ?)

「おいおい、俺は何もしてないんだぞ? どうして銃を向ける、何故捕まえようとするんだ?」

 俺は回りにいる警察と周りにいる人達にも聞こえるぐらいの声で喋った。

「それは貴方が……!」

「俺が何かしたのか?」

 アステル以外は甲斐斗がしてきた事を知らない。それにアステルは甲斐斗という人間がスパイとして潜り込んでいた事すら話していないのだろう、ルフィスの反応を見れば一目で甲斐斗には分かった。

 そしてこの状況で今、ナイフを持っている男と拳銃を持っている男、どちらが危ないのかがハッキリしている。

 相手を困惑させ甲斐斗がその場から逃げようとした時、甲斐斗の後ろに立っていたレンが突然大声をあげた。

「私を騙してお金を使いましたよね!? それは立派な罪です!」

「騙した? おいおい、俺は別に騙してなんかないね、それに数週間前まで俺は『カイト・アステル』だったんだからな」

「ど、どういう事ですか!?」

「詳しい話はそこのアステルに聞きな、んじゃあばよ!」

 甲斐斗は手に持っていたナイフをアステル目掛けて投げた、アステルは間一髪でそのナイフを交わす。

 その隙に甲斐斗はミシェルを抱きかかえると、入り組んだ路地裏に走っていった。

 アステル達はその場で立ったまま甲斐斗の後を追う事はなかった。

「カイトさん、一体どう言う事なんですか。説明してください……」

 ルフィスは疑いの目でアステルを見つめる、納得のいく答えを聞きたがっていた。

 アステルは構えていた銃を懐に戻し、黙ったまま俯いてしまう。

「答えてください! あの人は一体誰なんですか!?」

「奴は、その……」

 レンも戸惑いながらもアステルの元に向かい、口を開いた。

「アステル少尉、訳を話してくれませんか? 私達部隊の皆に」



 その頃、アステル達以外の部隊員は東部軍事基地の格納庫で何かを待っていた。

「伊達中尉、アステル達は休暇なのにどうして俺達は仕事何すか」

 ノイドがダルそうに壁にもたれ掛かり、伊達と話していた。

「ノイド曹長はまだ片付けてない仕事とか沢山あったよね、あれ終わらさないと赤城は帰してくれないと思うよ」

「ちくしょう、今頃アステルは両手に花だっていうのに……羨ましい」

 すると、格納庫の扉は開き、次々に機体が入っていく。

『EDP』の開始は明後日、東部及び南部には次々に機体と武器、弾薬が運び込まれていた。

「んで、どうして俺達は格納庫にいるんすか」

「何でだろうね、赤城に聞いてみようか」

 辺りを見回し、赤城を探そうとしたが、すぐ近くに赤城がいる事がわかった。

 というかすぐ側で伊達の話をしっかり聞いていた。

「私達がここに呼ばれたのは新型機の事だろう、この部隊の一人が新型に乗るらしい」

 赤城は相変わらず厚い軍服を身に纏い、腕組をしながら次々に運び込まれてくる機体を眺めていた。

 由梨音は新型と聞いて少し興奮気味に喋る。

「新型ですよ! 何しろNFがこの作戦の為に作り上げた、高性能を誇る機体らしいですよ!」

「それで、その新型は今どこにあるんだ?」

 ノイドが辺りを見回しても、新型らしい新型が見当たらない、見えるのはギフツとリバインぐらいだ。

「もうすぐ運び込まれてくると思うんですけどねぇ、おかしいなぁ」

「まぁ、新型って言うんだからどーせ乗るのは赤城少佐だと思うけどな」

 その時、格納庫内に警報が鳴り響き、アナウンスが入る。

『Urgent Order エリアにERROR確認。C2エリアにERROR確認』

 C2エリア、その言葉に兵士達は耳を疑った。C2エリア基地の一つ隣のエリア。

 今までERRORがCラインのエリアに入った事は無かった、そもそもERRORは基地に襲撃をする事などしないのだ。

 日に日に凶暴化してくるとも思えるERROR、しかも『EDP』開始二日前に現れるとは。

 赤城はその場にいる兵士達全員に聞こえる声で指揮をとった。

「聞いての通りだ、全隊員戦闘配備。一匹たりともERRORをC1エリアに入れるなっ!」

 伊達と赤城は急いでリバインに乗り込み、由梨音とノイドもギフツに乗り込む。

「赤城、どうしてERRORがこの期に及んでこの基地に攻めてきたと思う?」

 赤城のコクピットに取り付けてあるモニターに武蔵の映像が映る。

「私達の戦力を少しでも削ぐ為かもしれんな」

「だとしたら、もしかしたらERRORは『EDP』の作戦日を知っているかもしれない。いくらなんでも的確すぎる」

「ERRORが? どうやって、奴等が作戦日を知っているなどありえない」

「だといいんだけどね、なるべく被害を少なくして、弾の消費を避けないといけない」

「分かっている、だが奴等を基地内に入れる訳にもいかない」

「了解、行こう赤城」

 赤城と武蔵の乗るリバインは格納庫から発進するとすぐさまC2エリアに向かう。

 その後ろには由梨音とノイドの乗るギフツが後から追いかけてくる。

 そして次々に他の部隊の隊員が乗るギフツ、リバインがC2エリアへと向かった。



『EDP』開始まで残り二日

由梨音

東部軍事基地第五独立機動部隊の隊員。

いつも赤城の側で役に立とうと動くが、それが逆に赤城を困らせる時が多々ある。

性格は部隊の中で一番明るく元気、実は赤城とは数年前から知り合い。

由梨音がいるおかげで余り喋らない赤城の口数も段々と増えるようになった。

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