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第27話 考え、過ち

 慌しい艦内、そこでは一人の男がストレッチャーで運ばれていた。

 そう、『運ばれているのはただ一人の男のみ』、彼以外に怪我人は誰もいない。

 何故か、理由は簡単。SVの新型機である『鬼神』と戦った兵士は羅威以外全員死んでいるからだ。

「羅威先輩!」

 少女はその男の名前を呼んだが、返事は返ってこない

 そのまま手術室に羅威は連れていかれると、手術室の扉は閉まり『手術中』と書いてあるランプに赤い明かりが灯る、生か死の時間が始まった。

「彩野! 羅威は!?」

 手術室の前、そこに第壱小隊でありリシュード護衛部隊でもあるメンバーが集まって来る。

 その中にいる穿真の頭には包帯が巻かれているが今はそれ所ではない。

「今手術が始まった所です、あの、先輩、その傷は……?」

 彩野は穿真の傷を心配し声をかけるが、穿真は自分の頭の傷よりも羅威の事で頭が一杯だった。

「ああ、少し頭を切っただけだ。それより羅威は大丈夫なのか?」

「私が見た時は意識がなくて、頭から血が出てて、それから、それからっ……」

 両手で頭を抱えるとその場に座り込み、震えながら大きく頭を横に振る。

 それを見たエリルがすかさず彩野の肩に手を掛け、通路に置いてある椅子に連れて行く。

 椅子に座りながらも彩野は頭を抱え、エリルは必死に彩野を落ち着かせようとそっと抱きしめ続けた。



 その場はエリルに任し、穿真四人はある一室へと向かう。

 部屋に入るや否や、部屋の奥に置いてある机の前に向かう穿真、そしてその机の座席には一人の女性が座っていた。

「俺にはさっぱりわかんねえ、何が起こったのか説明してくれないか、セーシュ」

「私より現場にいたお前達が知っているのではないか?」

 セーシュは両手の肘を机に立てると重る両手を口の前に持ってくる。

「ああ、変な仮面の奴に馬鹿力で投げ飛ばされた。そこまでしか憶えてないんでね」

 そしてクロノも机の前に立ち、穿真の横に並ぶ。

「不意を突かれました、まさか相手があのような動きをしてくるなんて……全て僕の責任です」

 その言葉に後ろに立っていた雪音が驚きを見せるが、横にいる穿真が更に驚きを見せていた。

 だがセーシュと香澄は表情を変えずクロノの話を聞いている。

「ちょ、お前いきなり何言ってんだ? 全てって言い過ぎだろ」

「僕が彼を的確に取り押さえていればこんな事にはなりませんでした」

 クロノが仮面の男を取り押さえていれば、たしかにこのような事態にならなかったのかもしれない。

 BNの我雲は尽く破壊され、死者を出し、脱獄者を逃がしてしまったあげくミシェルを奪われてしまった。

「僕が全ての責任を負います、処罰は全て僕に」

 すると、その言葉を聞いたセーシュが口を開いた。

「たしかに、お前にも責任はある。だがな、私達にも責任はあるんだ。お前は自分が何も出来なかったから処罰を受けようとしているが、私達も何も出来なかったんだ。艦内を警備をしていた者達、機体で奴を追っていた者達、彼等は何も出来ずに殺された……」

 セーシュは席を立つとクロノの横に立ち、左肩に手を掛ける。

「お前達はまだ生きている、そして羅威もだ。あいつはそう簡単に死ぬような奴ではない、私が保証する。それと今日はもう晩い、部屋に戻ってゆっくり休め。明日から忙しくなるぞ」

 そう言い残した後、セーシュは部屋を出て行く。

 出て行く際に雪音と香澄はセーシュの方を向いて敬礼をし、部屋から出るのを見送った。



 颯爽と闇の荒野を駆け抜ける一体の機体。

「ミシェル、今すぐ、今すぐ安全な所に運んでやるからな……な!」

 焦りながら甲斐斗は必死に声を掛け続けるが、ミシェルから返事が返ってこない。

 甲斐斗はモニターを凝視しながら何処か休める所が無いか探していた。

 そして見つけた木々が生い茂る森、甲斐斗は迷わず森に向かう。

 だが森は甲斐斗を拒むかのように生い茂り、木々が甲斐斗の機体の行くてを邪魔しているように思えてくる。

「邪魔するな、俺の……俺の邪魔を……するなッ!」

 甲斐斗は一人罵声を飛ばした後、機体の右手に持つ剣で木々をぶった切って行く。

 切られ、薙ぎ倒されていく木々、それを踏み台にして更に森の奥に進んでいくと、森を抜け大きな川に辿り着いた。

「水!」

 機体を跪かせ、後ろに倒れているミシェルを抱きかかえるとすぐさま機体から飛び降りる。

 そして川に近づき跪くと、川の側にミシェルの体をそっと寝かせ、甲斐斗は川の水を両手で掬った後その水を血で汚れたミシェルの髪にそっとかけた。

 血で汚れたその髪は赤茶色に汚れ、見るに耐えなかったからだ。

「んっ、ぅ……」

 夜の水の冷たさに目を覚ますミシェル、そして髪を洗ってくれている甲斐斗を虚ろな目で見つめる。

 髪を洗い終えると、甲斐斗はポケットから包帯を取り出し、それをミシェルの頭に巻きつけていく。

 本当は自分の為にもらっていた包帯だが、今はそれ所ではない。

 包帯を巻き終えると木の下の草原に抱きかかえて連れて行き、ミシェルを寝かせる。

 甲斐斗はその横に座ると、弱々しいミシェルをじっと見つめていた。

「俺のせいで、こんな怪我負わして……ごめんな、ミシェル……」

 甲斐斗の声は少し震えているようにも聞こえる、すると寝ていたミシェルは目蓋を開けて甲斐斗の顔を見つめてくる。

 ミシェルのその顔に甲斐斗の心は罪悪感でいっぱいだった。

 そしてミシェルは徐に手を振り上げる、すると何故か甲斐斗は咄嗟に目を閉じてしまう。

 叩かれると思ったからだ。甲斐斗は怯えている、何に怯えているのか、自分のしてしまった過ちに怯えていたのだろう。

「だいじょうぶ、だよ……かいと……」

 そう言ってミシェルは振り上げた手を甲斐斗の頭上に下ろし、甲斐斗の頭を優しく撫でる。

 甲斐斗はその言葉、そしてその表情、その光景、脳裏にあるあの記憶が重った。

「どうして大丈夫とか言うんだよ! 全然大丈夫じゃないのに、どうして……」

 見るからに弱々しく、元気も力も感じられないミシェルの顔は笑っていた。

 甲斐斗を安心させるかのように、甲斐斗に心配をかけさせないように……。



 ミシェルを寝かせた後、甲斐斗は一人川辺に立っていた。

 甲斐斗はミシェルを守る所か危険な目に遭わしてしまった、甲斐斗があのまま戦闘を続けていたら更に少女を傷つけていただろう。

(傷ついたミシェルは、俺みたいな身勝手で、人殺しにそっと笑って見せてくれた。全然大丈夫じゃないのに、心配をさせないようにあんな事言って……姉さん、あの時の笑顔と同じだった。今思えばあの笑顔には元気も何も無いように感じられる。俺はそんな姉さんの事を何も気づいて上げられなかった、いつも心配や迷惑をかけて姉さんを困らしていた。それでも姉さんは、姉さんは、姉さんは──)

 もう止めよう。甲斐斗は姉の事を考えると、時々我を失ってしまう気がしていた。

(俺の中に何人もの俺がいるような、今考えてみれば俺はなんであんな事をしたんだ……)

 


 その時、甲斐斗の脳裏にある一言が繰り返された。

『甲斐斗さん、その子の為にも怒りや憎しみで戦おうとしないでください』

 それは今日、仮面の男が語りかけてきた言葉。

「怒りや憎しみで戦おうとするな、か」

 夜の森で一言呟いた次の瞬間、甲斐斗が右手にあの黒剣を持ち川辺に生えている大木をぶった切る。

 静かな森に大木が倒れる音が響いていく、周辺にいた鳥や獣達は一斉にその大木から離れていった。

「俺は今まで怒りや憎しみで戦ってきたんだよッ!!」

(何が『憎しみや怒りで戦うな』だ。そんな正義感丸出しの痛い発言をするのは俺の知っている奴でも過去に一人しかいない。怒りや憎しみの感情は力になる、だがその力をコントロール出来るか出来ないかの問題だけだ。それにしてもあの仮面の男、うぜえ)




その時、甲斐斗の脳裏にある一言が繰り返された。

『甲斐斗さん、その子の為にも憎しみや怒りで戦おうとしないでください……』

「憎しみや怒りで戦おうとするな、か」

夜の森で一言呟いた次の瞬間、甲斐斗が右手にあの黒剣を持ち川辺に生えている大木をぶった切る。

静かな森に大木が倒れる音が響いていく、周辺にいた鳥や獣達は一斉にその大木から離れていった。

「俺は今まで憎しみや怒りで戦ってきたんだよ」

(何が『憎しみや怒りで戦うな』だ。そんな正義感丸出しの痛い発言をするのは俺の知っている奴でも過去に一人しかいない。怒りや憎しみの感情は力になる、だがその力をコントロール出来るか出来ないかの問題だけだ。それにしてもあの仮面の男、うぜえ)

 自分を知ったかのような口の利き方と態度に甲斐斗は腹が立つと、腕を組み考え始める。

(後奴は『その子の為にも』とか言っていたが、俺はミシェルを守る為なら憎しみで人を殺し、怒りで破壊していく事ぐらい簡単にしてやる。だから俺は今まで通り憎しみや怒りで戦っていく、所詮奴は綺麗事を並べて自分は正しいとでも思っている一人の兵士に過ぎない。次会うときは覚悟しろって言ってたな、上等だ、次会った時、あの仮面の男は俺が殺す)

 殺気を放ちながら甲斐斗はそう決意すると、夜の空、そして目の前に流れる川の美しさを見て徐々に冷静さを取り戻していく。

(……何か、俺はまた変な考え方をしていたのかもしれない。俺の最大の目的はこの世界からの脱出、元の世界に帰る事じゃないか。この世界の事に他世界の人間の俺が余り深く関わりすぎてはいけない。だから俺は探していく、元の世界に帰る方法、そして魔力を取り戻す方法を。いやまてよ、もしかしたら俺は魔力を取り戻しているが実は気づいていないだけなのかもしれない。何かそんな感じがしてきた、もしかしたら今、何か魔法を使えるかもしれない、と)

甲斐斗は川辺にある大きな岩の上に立つと両手に力を込め、念じ始めた。

(この感覚、そうだ、この感覚だ、両手から全身に漂う魔法の力、今なら出来るかもしれない!)

「転移魔法発動ッ!」

その瞬間、甲斐斗の足元に複数の光る陣が出現、陣が強烈な光を放つと共に俺の体を光が覆い隠し、無事に元の世界に帰れた──。

(──らいいのにな。結局何も起こる事は無かった。いや、まぁわかってたんですけどね。やはり元の世界に帰ることはそう簡単な事じゃないって事か、ああ、今日はもう疲れた)

甲斐斗はミシェルの寝ている場所に戻ると木の根元にもたれ掛かり眠りについた。



 翌朝、ある一室で寝ていたエコはふかふかのベットの上で目を覚ました。

 窓からは眩しい程の朝日が差し込み、あれから一晩だった事がわかる。

 ふと横に目をやると椅子に座り、ベットにもたれ掛かりながら寝息を立てている葵がいた。

 葵の肩には包帯が巻かれており、自分の頭を触るとやはり包帯が巻かれている。

「葵……」

 エコは寝ている葵の頬を摘まむと左右に引っ張る、するとようやく葵が目を覚ました。

「何、人の顔で遊んでんだよ」

「何、人のベットで寝てるの?」

「俺はエコが大丈夫かどうか心配してたんだぞ!?」

「そう、ありがとう……」

 お礼の言葉を一言言うとエコは葵に背を向ける。

「やけに素直だなぁ。それと体調の方はどうだ?」

「平気、少し頭が痛むだけ。所でここは───」

 その質問に答えようとした時、部屋の扉が開かれた。

「おはようございますエコさん、ここは私のお屋敷ですよ」

「フィリオ……」

 部屋にはフィリオとラティスの二人が入ってきた。

 エコはベットから降りようと起き上がろうとしたがフィリオがそれを止める。

「無理をなさらずに、今はゆっくりと体を休めてください」

「ありがとう、ございます……」

 起き上がろうとしていたエコがまたベットで横になり、毛布に潜っていく。

 そして顔だけを覗かせながらフィリオに問いかけてみた。

「フィリオ、あの仮面の人は……?」

「私達と共に戦っていくことを誓ってくれた、一人の戦士です」

「戦士……?」

 その時、部屋の扉がまた開き、あの仮面の男が現れた。

 仮面の男は部屋に入るとすぐさまエコの寝ているベットの横に歩いてくる。

「エコさん、葵さん。貴方達をお守りできなくて申し訳ありませんでした、俺がもう少し早く駆けつけていれば……」

「貴方、誰なの?」

 エコの鋭い質問にその男はすぐさま仮面を外した。

 仮面を外すと下を向いて顔を左右に少し振り、そして前を向いてエコを見つめる。

「失礼しました、SV親衛隊所属、魅剣愁と言います」


セーシュ・ハリルド

風霧家直属の親衛隊の一人。

様々な銃器を使いこなせる事が出来、身体能力も高い。

冷静で大人しく任務に忠実な所は皆から尊敬されている。


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