第26話 強さ、敗北
甲斐斗の機体を殴り飛ばしたSVの新型機。その姿は赤く、『鬼神』の如く甲斐斗の前に立ち塞がる。
それを見て甲斐斗はニヤリと笑みを浮かべ、甲斐斗の乗る黒い機体『魔神』は黒剣を構えると、一気に『鬼神』の元へと走った。
「その澄ました面をぶった斬ってやろうじゃねえかぁあああッ!!」
闘志を剥き出して戦う甲斐斗、一発目に大きく剣を振り上げた途端に一瞬で剣を振り下ろした。
機体の動きとは考えられないほど早く振り下ろされた剣は簡単に地面を切り裂く。
だが甲斐斗が切り裂きたいのは地面ではない、『鬼神』はその剣を振るうスピードより更に早く動き、避けていたのだ。
『魔神』は止まらない、例え一撃が避けられようとも、次を当てれば……。
目にも止まらぬ速さで剣を振るい、剣先を突き出す『魔神』。
『鬼神』はその攻撃を全て避けていくが、決して反撃はしなかった。
甲斐斗は隙を見せないよう全力で剣を振っているつもりだろうが、剣が大きいため多少の隙は生まれている。
しかし『鬼神』はやはり避けるだけ、両腕を上げず足を動かすだけで軽やかに避けていく。
「なんで反撃してこねえんだよ、馬鹿にしてるのか?……この俺をッ!!」
彼の態度が気に食わない甲斐斗、完全に頭に血が上り『鬼神』を斬ろうと更に機体を加速させていく。
その戦いを見ている香澄は口が開いたまま呆気に取られていた、今までこれ程の戦闘は見た事が無かったからだ。
機体は加速していくたびに強く揺れ、剣を振るうたびに振動していく、だがそれが更に甲斐斗の闘争本能をかきたてた。
「これが戦い、殺し合い! 俺とお前、どちらかが死ぬまで俺は剣を振るのを止めない。さて、いったいいつまで逃げられるかなァッ!?」
甲斐斗は笑みを浮かべる、極限まで加速された機体はついに『鬼神』の速さに追いついた。
さすがに『鬼神』も避ける事が難しくなり、振り下ろされる剣を手で弾いていく。
その時、甲斐斗の機体に通信が繋がった。相手はあの『鬼神』に乗るパイロットからだった。
「これ以上の戦闘は危険です! このまま戦闘を続けたら──」
「お前が死ぬんだろ?」
そして『鬼神』の左腕が斬り飛ばされ、宙を舞う。そのまま左腕は空中で爆破、跡形も無く消え去ってしまう。
「安心しろ、次の一撃で殺してやるからよおッ!!」
『魔神』は剣を突き立てると、止めの一撃を放つかの如く『鬼神』の胸部目掛けて剣を突き出した。
「貴方の後ろにいるミシェルが死にますよ!? それでもいいんですかっ!」
その言葉に、『魔神』の突き出した剣は止まった。
剣先は『鬼神』の胸部の目の前でとまると、そのまま動きを見せない。
甲斐斗はふと、我に返った、あれだけ激しい戦いをしていた自分は……。
だが甲斐斗は座席に座り、シートベルトを閉めていたから、だがそれでも頭から血を流した。
だとしたら、その後ろで立っていた少女は───。
「ミシェル!?」
急いで後ろに振り返る甲斐斗、そこには頭から血を流し、口元にも血が流れ意識が朦朧としながら必死に座席にしがみつこうとしているミシェルの姿があった。
そして血塗れのミシェルと目があった後、少女はその狭い場所で崩れるように倒れてしまう。
「彼女は貴方の名前をずっと呼んでいました、それなのに何故貴方は無視し続けたんですかっ!?」
「なっ、俺の名前を……呼んでた?」
ミシェルはずっと甲斐斗の名前を呼んでいた、何度も、何度も。
だが甲斐斗は戦闘に集中していた為にその声が甲斐斗に届く事はなかった。
甲斐斗は更に機体に加速させ、ミシェルを危機にさらし、この結果に至った。
「甲斐斗さん、その子の為にも怒りや憎しみで戦おうとしないでください……」
その時、レーダーに反応が現れる。BNの援軍が駆けつけてきたのだ。
『鬼神』はBNの残骸にいる葵とエコの二人を手の平に乗せると、『魔神』に背を向けた。
「俺は行きます、そして次会う時、ミシェルを渡してもらいます。覚悟していてください。それと……これで貴方に恩は返しました」
そう言い残してその場から離れていく『鬼神』、『魔神』も急いでその場から離れていく。
『鬼神』の向かう方向とは逆の方向に。
甲斐斗は後悔の念で一杯だった、自分のせいで。自分がミシェルを……。
操縦桿を握る手を震わせながら、甲斐斗は逃げ続けていく、安全な場所へと。
ミシェル
正体不明の青髪少女、神秘的な服に大きな帽子を被っているのが印象的。
臆病で怖がり、何か布があるとそれに包まってしまう性格。
何か力を持っているのか、よく刺客から狙われているが自分を守ってくれる甲斐斗の事を慕っている。