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第25話 鬼神、魔神

 牢屋を出る事に成功した甲斐斗と葵とエコの三人はミシェルの元に向かっていた。

(……やはり脱出するのは夜だな、こういうのは夜に限る。それにしても、ミシェルを狙う者がやけに多い気がするんだが……)

「本当にこっちで合ってるんだろうな?」

「俺に任せろ、多分こっちだ」

「おまっ!? 多分って……!」

 甲斐斗達は見つからないようにこそこそと移動などしない、見つかるのを覚悟で全力で走って部屋に向かっていた。

 幸いにも兵士に見つかる事無く順調に走っていけたが、やはりミシェルのいる部屋の前には銃を持った兵士が見張りをしていた。

「やっぱ見張りがいるけど。どーする」

 甲斐斗がそう言って後ろを振り向くと、葵はもうやる気、というか殺る気満々の顔をしながら何処からとも無く取り出した鉤爪を両手に付けていた。

「任せな!」

 すると、葵が甲斐斗を抜かして一気に見張りの兵士へと近づいていくその速さは並のスピードではなかった

 兵士が葵に気づき、銃を向けようとするが、葵の鉤爪が見張りの兵士の喉を切り裂く。

 声を、そして引き金を引くよりも早く見張りの兵士を倒してしまった。

 そしてその倒れた兵士からカードキーを取り出すと、すんなり部屋の扉を開けてしまう。

「うっし、迎えに来たぜ!」

 てっきり部屋にはミシェルだけだと思っていたが違った。

 部屋にはミシェルの他に三人の兵士が立っており、そこにいた兵士とはクロノと穿真、そして雪音の三人だった。

「SV!? 貴方達は捕まえられているはず、どうして此処に……っ!?」

 クロノが懐から銃を取り出そうとした時、葵がその兵士に跳びかかった。

 すると、クロノの隣にいた穿真がクロノの前に立つと、襲い掛かる葵の体を殴り飛ばす。

「うぐッ!?」

 その力は相当なものだった、思わぬ反撃を受け葵は部屋の壁に体を打ちつけて身動きが取れなくなってしまう。

「女を殴るのは嫌なんだけどなぁ、この右手が勝手に動いちまったぜ。って、おい。お前甲斐斗じゃねえか。SVと一緒にこの子を連れ去りに来たのか?」

 穿真が甲斐斗を見て驚いた表情を見せたが、拳は構えておりいつでも甲斐斗に殴りかかれる状態だ。

「連れ去る? 違うな、助けきたんだよ」

 甲斐斗からして見ればBNがミシェルを自分から連れ去り監禁しているようにしか思えない。

 直ぐにでもミシェルを助けようとした甲斐斗だったが、穿真の隣に立っていたクロノと雪音が咄嗟に拳銃を取り出し、甲斐斗達に銃口を向ける。

「大人しくしてください、手荒なマネはしたくありません」

 クロノはそう言ってくるが、その隣にいる穿真はやる気満々の様子だ。

「お前等、死にたくなければ道を明けな。死にたいならそのままでいいけどな」

 そうは言っても甲斐斗の言葉にBN兵士が耳を傾ける訳がない。

(俺はもうこのBNに『恩』は返した。後は俺の好きに、自由に行かしてもらう、俺は縛られるのが大嫌いだからな。この世界について他の世界の俺が深く関わる訳にもいかないが、この世界の戦争とか俺にとっちゃどうでもいい、ただ約束を果たすのみ)

 甲斐斗が右手を突き出した時、既に右手には大きな黒剣が握り締められていた。

 例え魔力は失っても甲斐斗にはこの剣一本でもあれば十分戦える。

「そんな物を何処から!?」

 甲斐斗の手元に一瞬で出てきた剣を見てクロノ達は我が目を疑い困惑しているが、甲斐斗は説明する気など更々無い。

「驚くのも当たり前だが。ほら、この剣で体を真っ二つにされたくなければ銃を下ろせ」

 脅しをかけるように甲斐斗が剣先を向けると、その甲斐斗の言葉を聞いた雪音が口を開いた。

「出来ません! 私達の命令はこの子を守る事も入っています! 貴方達は何故この子を連れ去ろうとするのですか、目的を言ってください!」

「目的とかそんな事よりさ、まずはミシェル自身がどちらに行きたいのかを聞いてみようぜ? ミシェル、お前はどっちに行きたい」

 さっきから部屋の隅で震えながら甲斐斗達を見ていたミシェル。

 目の前で銃や剣を出されては怖がるのも無理はない、そしてミシェルは震えながら一人の男の名を呼んだ。

「かいと……」

 ミシェルの言葉を聞いた甲斐斗は少し安心すると笑みを浮かべた。

「よし、よく言った。直ぐに助けてやるからな」

『直ぐに助けてやる』。つまりこの場の敵を全員倒すという意味に、クロノは拳銃を構えたまま甲斐斗を睨み付けた。

「あの子は渡しませんよ、大人しく武器を捨てて投降してください」

「おいおい、ミシェルがどちらに行きたいかわかっただろ。さっさとそこを──」

 甲斐斗が徐に剣を構え、そして一直線にクロノに向かって走っていく。

「どけええええぇっ!!」

 振り下ろされた剣は床を裂き、壁に亀裂が走る

 甲斐斗はクロノを真っ二つにしたと思っていたがそこにクロノの姿は無く、クロノは振り下ろされた剣の横に立っていた。

「抵抗するのであれば仕方ありません。撃たせてもらいます」

 数発の銃声が室内に響く、そして銃弾は全て甲斐斗の脚に撃たれていた。

「ぐっ!?」

(そんな馬鹿な、こんな何の力も持たない男に俺の剣が避けられるだと? やはり魔力が無ければ俺はただの男に過ぎないのかッ、力さえあればこんな奴に負けはしないのに──ッ!)

 足を撃たれ甲斐斗はその場に膝を付いてしまい、クロノは冷静に雪音に指示を出す。

「雪音さん、応援を呼んで下さい。命に別状はありませんが彼を早く手当てをしないと」

 そのクロノの言葉に痛みで顔を歪ませながらも甲斐斗は俯いていた顔を上げクロノを見つめた。

(こいつ、俺を撃ったにも関わらず俺の心配をしてやがる。だったら最初から撃つなよ。いくら体が頑丈とはいえやはり撃たれたら痛いし血だって出る)

 甲斐斗は床に剣を刺し、なんとか立ち上がろうとしたが、力を入れるたびに脚から勢いよく血が噴き出る。

 そんな様子にミシェルとその横にいた雪音が驚いて怖がっているように甲斐斗を見ていた。

「雪音さん、大丈夫ですか?」

「あ、は、はい! すみません、まだ余り慣れてなくて……」

(この女、血を見てビビってたのか……まぁ、慣れている方がおかしいか。その年で軍人してる時点で異常だからな)

 立ち上がれない甲斐斗はどうにかしてこの場を切り抜けようとしたが、甲斐斗の前に穿真が立ちはだかる。

「甲斐斗だっけ、お前は一応愁やアリスを救ってくれたから感謝してるんだぜ? だから大人しくしとけば手荒なマネはしなかったのになあ」

(拳を構えていた奴が偉そうに抜かしやがる……くそっ、俺は脚を撃たれて動けないし、倒れている葵も未だに動かない。また俺達は監獄生活に戻らなくちゃいけねえのか? いやまて、まだ俺の後ろにはエコがいるじゃないか。葵が人間離れした動きをしたように、何か彼女にも特殊な力があるのではないか?)

 苦痛に顔を歪めながら甲斐斗はそっと後ろを振り向いてみると、エコは普通に両手を上げて既に降参していた。

「無理、無理……」

(諦めるの早すぎだろッ!?)

 既にエコもこの状況を見て諦めたのか抵抗する素振りは見せなかった。

 甲斐斗も半ば諦めかけていたその時だった、突然何者かが部屋に入ってくる足音が聞こえた。

 そしてその部屋に入ってきた者を見て甲斐斗は目を丸くした、いや甲斐斗だけではない。その部屋にいた者全員が驚かされただろう。

 それもそのはず、頭に仮面を被っている者が突然部屋の中に現れたのだから。

「な、何ですか貴方は? 動かないでください!」

 仮面の男は銃口を向けられているのにも関わらずミシェルの所に向かっていく。

(何なんだコイツは、まさかSVの奴か? だがそれならエコが知っているはず。でもエコもこの仮面の人間が誰なのか分からず首を傾げてやがる)

 止む終えずクロノは仮面の男の脚を狙い引き金を引こうとした時、仮面の男は一瞬でクロノとの距離を縮め間合いに入ると、簡単に銃を奪い取る。

 そしてその速さに呆気にとられた隙に、クロノの腹には一発の拳を突き出されていた。

「がっ……!」

 腹を抱えながらクロノは膝を突き痛みを堪える。それを甲斐斗達はただ呆然と見ていた。

「お、おい! 待ちやがれ!」

 穿真が仮面の男の肩を掴もうとしたが、その肩を掴んだ手を仮面の男に掴まれると、軽々と投げ飛ばされる。

「ぐあッ!?」 

 そのまま床に投げ飛ばされた衝撃で穿真は頭を強く打ち付けられてしまい、気を失ってしまう。

 残るのは雪音ただ一人。怯えた表情を浮かべ震える両手で拳銃を握り締めているが、仮面の男は雪音を無視してそミシェルを抱きかかえる。

「ま、待ってください! その子は……」

「俺達の事より、穿真を早く医務室に連れて行ったほうがいいと思うよ」

 雪音が仮面の男を止めようと声をかけたが、仮面の男はそう言って穿真の方を見つめると、雪音もまた倒れている穿真に視線を向ける。

 すると穿真の頭からは血が流れており、床には夥しい量の血が広がり始めていた。

 その血の量と穿真の危機に、拳銃を構えていた雪音がすぐさま穿真の元に駆けつける。

 仮面の男は雪音が穿真の手当てをしている間、ミシェルを抱えたままエコの元へと歩き始める。

「エコさん、俺はSVの者です。助けに来ました」

「私達を、助けに……?」

 エコが少し驚いた様子で仮面の男を見上げていると、今まで床に倒れ気を失っていた葵が目を覚ます。

「痛てて、ったく、女に手を出す男は最低だな」

 目を覚ました葵は殴られた肩を摩りながら立ち上がり周りを見てみる。

 部屋に倒れるクロノと穿真、そして足を撃たれ身動きの取れない甲斐斗。っそいてなぞの仮面の男に葵の頭はこんがらがってしまう。

「誰こいつ」

「味方、助けに来たんだって……」

「見慣れないなぁ、新人か?まぁ今はそんな事いいや、この子も捕まえる事が出来たしさっさと逃げようぜ」

 三人がその場からさっさと逃げようと部屋から出て行こうとした時、甲斐斗の焦ったような声が聞こえてきた。

「っておい! 俺を置いていくなよ!」

「だったらさっさと来いよ」

(こいつ、平然な顔でいいやがる。大体足から血が吹き出てんの見てわかんねえのか?)

「足が数発撃たれてるのに走れるわけないだろ!」

「そっか、んじゃここでお別れだな、後は頑張れよ」

「お、おいおい……冗談だろ?」

「このままBNに捕まるわけにもいかないからな、後は自分で何とかしてくれ」

(マジかよ。ここまで来たのに俺をポイ捨てしやがって。俺は手を伸ばして助けを求めたが、葵は俺から視線を逸らす。たしかにこれのまま怪我人の俺を連れて行くのは足手纏いになるし危険だ、それもわかる。だからって俺が一人ここに取り残されるのはいくらなんでも嫌だ)

「恨むなよ、仕方無えんだ」

 そう言い残した後、部屋のドアが閉まった。部屋にはBNの兵士三人と甲斐斗が取り残されている。

 甲斐斗はただ閉められたドアを呆然と眺めていたが、けたたましい警報音が聞こえてきた。

(なんで俺はこんな惨めな目に遭わなくちゃならねえんだ、俺は最強だった男だぞ……)



『総員第一戦闘配備、艦内に侵入者発見、侵入者は二番通路を通り艦から出た模様、兵士達は付近を探索してください』

『直ちに第一小隊は機体に乗って付近を探索してください、敵の機体が潜んでいる可能性があります』

 格納庫に駆けつけたのは羅威、エリル、香澄の3人だけだった。

 本当なら六人集まるはずのメンバーだが、クロノ、穿真、雪音の三人が何故か到着していない。

「あれ、集まったのこれだけ? クロノや穿真、雪ちゃんまでいないわよ」

 エリルは不思議そうに周りを見渡すが穿真達が訪れそうな気配は無い。

「何かあったと考えるべきだな、仕方ない、俺達だけで出るぞ」

 羅威達は仕方なく三人で出撃する事となった、羅威と香澄は我雲に乗り込み、エリルは無花果に乗り込む。

 三機が出撃した時には既に町にある基地から何体かの我雲が出撃して付近を探索していた。

 羅威達もまたSVの機体が逃げていった方に機体を走らせていると、一人のオペレーターから通信がかかった。

「あれ、どうして三人しかいないんですか!? たしか部隊人数は三人のはずですよね?」

「残りの三人はまだ来ていない、何かあったのかもしれないが。今は俺達三人で出撃する」

 オペレーターの質問に答えた羅威だったが、その聞きなれた明るい声に羅威はふと一人の少女を思い出した。

「お前、まさか彩野か?」

「あ、わかっちゃいました? そーですよー、彩野ですよー」

 我雲のモニターに映し出される彩野、元気そうに笑いながらこちらを見ている。

「どうしてお前が艦に乗っている」

「どうしてって、私は正式なリシュードのオペレーターですよ? まさか先輩、私がここに入るの知らなかったのですか!?」

「あの時は愁の事で色々あってな……まさか彩野までこの艦に乗っているとは知らなかった」

「何出撃中に私語してんの? 黙りなさいよ」

 モニターに今度は香澄の姿が映し出され、その横にはエリルの姿も映し出された。

「香澄、少し羅威に突っかかりすぎよ。羅威に恨みでもあるの?」

「何言ってるの、私はただ任務中に余計な私語はいらないと思っただけなんだけど」

「だからさぁ、そういう相手を挑発するような言い方止めた方が……」

 羅威の事そっちのけで二人が口喧嘩をしそうになった時、彩野の声が二人を止めた。

「レーダーに反応有り! E8に我雲一機、アンノウン一機を確認! 町から離れようとしています!』

「二人とも聞こえたはずだ、絶対に逃がすな。追うぞ」

 羅威は二人を置いてすぐさま機体を発進させると、置いていかれた二人はその後を急いでついていった。

「羅威先輩、アンノウンが停止しました。我雲一機は引き続き逃走中です」

「自分を盾にして仲間を逃がす気か。二人は先回りして我雲を捕らえてくれ」

「ちょっと羅威、それって危険じゃない?」

「安心しろ、増援が到着するまで時間を稼ぐだけだ。それより二人は早く我雲を追ってくれ」

「了解、くれぐれも無理しないでね」



 二人が羅威の後ろから離れ、逃げている我雲の所へ向かった。

(さて、SVの新型機でもこの目で見させてもらおうか)

 思ったよりも早く羅威はアンノウン機のいる場所に到着した、その時には既に町から離れた森林まで羅威は来ていた。

 その機体は逃げも隠れもせず、堂々と羅威の前を立ちふさがっており、我雲やリバインなどの機体よりもより人間に近い形状をしていた。

 全身が赤く鬼のような二本の鋭い角が生えており、緑色の眼が羅威の様子を窺っているように見つめている

 羅威はその機体を見てふと気づいた、両手に何も持っていないのだ。

 肩にも、腰にも、武器と見られる武器は何一つ見当たらない。

「丸腰の新型だと、どういうつもりだ。まさかとは思うが……」

 羅威が機関銃の照準を向けた瞬間、機体の目が光を発する。

 凄まじい勢いで一気に照準を向けた我雲に向かってきたのだ。

「まさか素手で戦うつもりだとはな、それなら……」

 機関銃を撃ちながら胸部と付いてあるブーストで一気に後ろに後退していく我雲。

 これならそう近づかれる事も無い、向こうは飛び道具を何も持っていないのだから──。

 ──貫かれる我雲の腹部、羅威は最初何をされたのか分からなかった。

 ただ機体が大きく揺れ、画面の至る所に『ERROR』の表示が映し出される。

 我雲の腹部は爆発し、綺麗に上半身と下半身に分れた。

「うぐぁあああっ!!」

 相手はコクピットを狙おうとしたのだろう、だが少し位置がずれて胸部ではなく腹部を貫いた。

 乱れる画面、彩野からの通信も聞こえてこない。羅威の我雲は何もすることが出来ずただ再起不能となった。

 だがレーダーだけは微かにまだ動いていた、羅威の来た道から次々に増援の我雲が現れてくる。

 そして改めて思い知らされた、その機体の出力と機動力を。

 増援に来た我雲が次々にレーダーから消えていく、どれも一撃で胸部を貫かれて破壊されている。

 そして当等レーダー内にいた味方の機体、全機体の反応がレーダーから消えていた。

 頭にある二本の鋭い角、真っ赤な装甲。巨大で鋭い右腕、その姿はまるで『鬼神』だった。

「っ、う……」

 額に割れるような痛みを感じ、そっと手を当ててみる。

 温かくてドロリとした感触、その液体がら羅威の頭から止め処なく溢れ出てくる。

「やばいな……さっきの衝撃で、切っ……」

 そこで羅威の意識は途絶えてしまった。



 時を同じくして、エリル達はようやく逃げている我雲の所まで追いつくことが出来た。

「香澄、あの機体の両手両足を破壊して行動不能にするわよ」

「言われなくてもわかるわよ、さっさと始めましょ」

 エリルが香澄には分からないように小さく溜め息を吐く、そして無花果と我雲が一斉に葵達の乗る我雲へと近づいていった。

 その時だった、上空から一機の機体が現れたのは。

 灰色のシーツを身に纏い、夜の闇に溶け込んでいるその機体は葵達の乗る我雲の目の前に着地した。

 それは甲斐斗が乗っていたERRORに取り込まれた機体だった。

 そしてその機体は我雲の胸部を鷲掴みにすると、強引にコクピットのハッチを引き契り始める。

「なっ、何だよコイツ!」

 当然の事に葵は機体を操縦する事も出来ず、その隣で襲い掛かってくる機体を見たエコもまた声をあげた。

「ERROR!?」

 ハッチが引き剥がされ、操縦席には葵とエコ、そしてミシェルがそこにはいた。

「ミシェルを返してもらう、抵抗すれば殺す」

 機体から聞こえてくる男の声、それは紛れも無い甲斐斗の声であり、葵とエコは戸惑ってしまう。

「お、お前甲斐斗なのかっ!?」

「ああそうだ、俺だ。早くミシェルを渡せ」

「お前無事に脱出できたんじゃねーか、良かったな!」

 葵が相変わらずのペースで話しかけてくるが、甲斐斗は動じない。

 剥き出しのコクピットの手を差し伸べ、ミシェルを渡すよう命令してくる。

「ま、まぁ待てって。別にとって食ったりしないからな、ここはまず皆で逃げようぜ?」

「これで最後だ、ミシェルを渡せ」

 今までの甲斐斗とは何か違う気を感じた葵、ここは仕方無くミシェルを渡す事にした。

 ミシェルはそっと差し伸べられた手の上に移動すると、ゆっくりと甲斐斗のいるコクピットに手が近づいていく。

 コクピットのハッチが開き、ミシェルはそっと中を覗くと、そこには笑顔で自分を迎えてくれた甲斐斗がいた。

「これでもう安心だな、さ、俺の後ろに移動して」

 ミシェルも安心したのだろうか、コクコクと小さく頷くと急いで甲斐斗の座っている後ろに移動する。



「渡したぞ、んじゃ早くこいつ等を追っ払って逃げようぜ」

「ああ、そうだな。たしかに受け取ったよ。死ね」

 甲斐斗の乗る機体が天に両手を上げると一瞬にして巨大な黒剣が現れる。

 為らい無くその剣を目の前の我雲に向けて振り下ろした。

 振り下ろされた剣は我雲の右肩から一気に右足を一刀両断する。

「……ミシェル、どうした?」

 操縦席に座っている甲斐斗の腕をミシェルが引っ張っていた。

 その為剣はズレて振り下ろされ、我雲の右半分だけを斬り落としたのだ。

「かいと、だめ……」

 斬り落とされた我雲はガラクタのように崩れ落ち、その場でスクラップと化した。

 そのガラクタから二人の女性、葵とエコが這い蹲りながら出てくる。

 エコの頭からは血が流れ、顔半分が真っ赤になっており、葵は左の肩から流れる血を必死に右手で抑えていた。

「ミシェル、俺はね、今まで何人もの人間を殺してきたんだよ」

 そう言って機体はまた黒剣を振り上げていく。

「それにこの世界は戦争中、人を殺すのは当たり前の世界だ」

「ちがう、かいと…ちがう……」

「だから俺もこの世界のルールに従って、人を殺す。俺は最強だ、最強のこの俺に歯向かう者、邪魔者は全て殺す」

 振り上げていた剣を振り下ろそうとした時、後方から二機の機体が接近していた。

「貴方もしかして甲斐斗なの? どうしてこんな所でそんな機体に!?」

「アンノウン機に告ぐ、今すぐ武器を捨てて両手を挙げなさい!」

 甲斐斗の乗る機体は振り向きざまに剣を無花果に振り下ろす。

 間一髪の所で無花果を剣を交わして機体の後ろをとる、そして手に持っている機関銃の銃口を甲斐斗に向けた。

 だが引き金を引く前に機体はまた振り向き、その勢いに任せ剣を振るう。

 剣先が機関銃を掠る、ただそれだけで機関銃に一閃の亀裂が走り、地面に崩れ落ちた。

 するとコクピットのモニターにエリルの姿が映し出され、無線で話かけてくる。

「貴方には仲間を助けてもらって感謝してるの、だから私は貴方を殺そうとは思わない! 大人しく基地に戻ってきて! 貴方を悪いようにはしないから!」

 だがエリルの呼びかけに甲斐斗は何も喋らない、剣を構えると一直線に無花果に向かっていく。

 無花果は腰に着いてあるランチャーを手に取り、引き金をひく、すると無数の小型ミサイルが一斉に放たれ、甲斐斗の機体を追尾していく。

 しかし、甲斐斗の機体は避ける事なく前に進み、無花果の元へ向かっていた。

「なっ、避けないと死ぬわよ!?」

「他人の心配する前に、自分の心配をしろ」

 機体の目が赤く光った時、向かって来るミサイルを剣でなぎ払い全て爆発させる。

 一瞬にして爆煙に包まれる機体、エリルはそれをただ呆然と見ていた。

「馬鹿ね、このミサイルは爆発と同時に拡散して広範囲に破片が飛び散るようになってるのよ」

 あんな近距離で爆発に巻き込まれれば機体はもう動く事は出来ないのだろう。

 後はコクピットからあの子を助けるだけ、だと思っていた。

「だからどうした?」

「えっ?」

 煙の中から現れる機体、黒い装甲に赤い目を光らせるその『魔神』のような姿で無花果の目の前に現れた。

「言っただろ? 自分の心配をしろ、ってなァッ!」

 甲斐斗が剣を振り下ろそうとした時、一体の機体が甲斐斗の機体を殴り飛ばす。

「か、香澄? 助けてくれたの?」

「いや、あれを見て」

 無花果の前に現れる機体、それはあのSVの新型機体だった。

「SVが、私を助けてくれた……?」

 そう思ったとき、そのSVの新型が無花果の脚を機関銃で撃ち抜く。

 その手に持っている機関銃は我雲の物であった。

「痛っ! 一体どっちなのよ!?」

 SVの新型はマシンガンを投げ捨てると、殴り飛ばした機体を見つめている。

 殴り飛ばされたまま動かない機体、SVの新型は破壊された我雲に近づき、血塗れのエコ達を助けようとして座ろうとした時。

 その新型のコクピットのモニターに頭から顔に血が垂れている甲斐斗が映る。

「俺を殴って……タダで帰れると思ってんじゃねぇぞッ!」

 倒れていた機体はすぐさま体勢を立て直して立ち上がる。

「面白れぇ、俺は強い奴と戦うのが大好きだ。どちらが強いか決めようぜ?」

 その呼びかけに答えるかの如く、SVの新型機『鬼神』は立ち上がった


あおい

攻撃的で活発的な女性。銃よりも鉤爪を使って戦う事が多い。

エコとはペアを組んでおり二人で共に行動するようになっている。


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