第24話 思い、脱出
ERRORが頻繁に出没する街にようやく到着したBNの戦艦『リシュード』、早速その町の基地にある格納庫に艦を停泊させる。
今日はもう日が沈んでいる為、後日町の周辺にあるERRORの巣に向かう事となった。
一見普通の町だが外壁が立てられており、小規模の軍事基地も存在している。
最近はERRORの襲撃が多く不安な為に本部方面の町に移住する人も増えてきているらしい。
だがこの町は物資の補給、生産に重要な町である為に町を放棄する事は出来ない。
戦艦が無事基地に停泊していた頃、羅威は艦内の食堂で食事をしていた。
無言のままカレーを食べていたが、ふとスプーンを握っている手が止まる。
そしてカレーをじっと見つめながら何かを考えている様子だった。
すると、その様子を見ていたエリルが声をかけてきた。
「何ボーっとしてるの? カレー冷めちゃうわよ」
エリルに頭を手の甲でコツンと叩かれると、羅威は無言でカレーを食べ始める。
「ちょっと羅威、返事くらいしてよ。私の声聞こえてないの?」
「ああ」
「聞こえてるじゃん」
エリルはそう言って羅威の向かい側の席に座り、食堂で買ってきたサンドイッチを一口食べる。
「今日あんな事言われたから考えてたんでしょ? 別に気にする事ないって。でもまぁ、初対面だっていうのにいきなりあんな事言われたら腹が立つわよね」
羅威よりエリルの方が腹が立っているのか、眉間にシワを寄せて必死にサンドイッチに食らいついていた。
そう言われても羅威は特にリアクションを見せず、黙々と再び考え事をしながらカレーを食べていく。
するとサンドイッチを一個食べ終えたエリルが二個目のサンドイッチを食べようとした時、エリルが一つ聞いてみた。
「羅威ってさ、愁といつ出会ったの?」
「……たしか、十年前ぐらいだったかな」
「じ、十年前!? どうりで愁と仲が良い訳ね……それで、何処で知り合ったの?」
「あいつと初めて会ったのは病院だった」
羅威と愁が初めて出会ったのは病院の手術室だった。
戦闘機が墜落して爆破した時、羅威はまだ生きていた。
だが手足の骨が折れ、腹部には重傷を負っていて、すぐにでも輸血をしなければ死ぬような状況だった。
しかし輸血に用意されていた血は既に無くなっていて、羅威はただ死を待つだけだった。
そんな時、羅威と年齢が大差変わらない少年が同じ手術室に運び込まれてきた。
少年の顔は笑っており、不安や緊張はまるでしていない、その少年から医者は血を貰い、羅威に輸血したのだ。
手術は無事に終了、羅威はその少年に命を助けられた。
「その少年が愁だったの?」
「ああ、アイツは俺の命の恩人だ。愁がいなければ俺は死んでいたからな」
「そんな事があったんだ、それで、その後は?」
「ん、まぁその後──」
羅威が一人病室で寝ていると、愁が羅威の居る病室に来てくれた。
お礼の言葉を言うと愁は照れていた、そしてそれを境に愁は毎日羅威の病室に来てくれるようになった。
羅威が歩けるようにリハビリしている時も必死に羅威を応援してくれて助けてくれたのだ。
「それから仲良くなってな、そんな感じだ」
「へ~、そうだったんだ」
羅威はエリルにこう話したが少し違う部分もある、羅威は愁が病室に来ても何も喋ろうとしなかった。
母が殺された時のショックと、まだ妹が見つかっていないショックで放心状態だった。
だが愁はそんな羅威の所に毎日来てはいろんな話をしてきた。
その中でも家族の話はとても楽しそうに話してきて、羅威はその話が一番嫌いだった。
でも次第に分かってきた。愁は純粋な気持ちで家族の話をしているのだと。
何時しか愁の話を聞く事が日課になり始め、羅威の顔にも徐々に笑みが戻り始めたのも週のお陰だった。
「さてと」
そんな話をしていると、既に皿に盛られていたカレーは無くなっていた。
羅威が皿を片付けに行くとエリルも後ろからついてくる。
「どうした、まだ何か聞きたいことでもあるのか?」
「ううん、別に無いけど」
そのまま食堂を出て行くが、エリルがまだ後ろからついてくる。
羅威は気にせず廊下を歩き自室に戻ろうとしていた。
ふと窓の外を見ると、夜の町が綺麗な明かりで鮮やかに映し出されていた。
この綺麗な町を守る為に、明日はERRORの巣に向かわなければならない
(早く帰って寝るとするか)
羅威は自室に戻るために歩き続けていた時、後ろからエリルの力強い声が聞こえてくる。
「羅威!」
突然名前を真後ろで呼ばれて羅威は足を止めて振り返った。
エリルは少し溜息をついて見つめてきた。
「あんまり一人で考えすぎないようにね。ここに愁がいなくても私や穿真、部隊の仲間がいるんだからさ、何でも話してよ」
ここで漸く羅威はエリルが自分を励ましてくれている事に気付いた。
エリルから言われた言葉に聞き覚えが有る、似たような言葉を羅威は愁に言ったような気がするからだ。
「彼女も話せばきっと分かってくれると思うし」
『彼女』というエリルの言葉に羅威は首を傾げる、今日貰った書類に部隊メンバーの名前が書かれていたというのにエリルは名前知らないのだろうか。
「彼女って香澄の事か?」
「えっ! どうして名前知ってるの?」
「今日渡された書類に書いてあっただろ」
「あれ? 書いてあったんだ」
「ちゃんと読んどけよな……」
羅威はまた前を向き、自分の部屋に戻っていこうとした。
だが少し歩いた時、羅威がまた後ろに振り向く。
「エリル、心配かけてすまない。それと……ありがとな」
そう言い残して羅威は自分の部屋に戻っていった。
エリルもそれを聞いて安心したのか、腰に手を持っていって一段落終えたよう顔をして羅威の背中を見つめていた。
丁度その頃、牢屋の中で未だに拘束されている甲斐斗の元に晩飯が運ばれてきていた。
食事の時間……食事と行っても、パンやスープ等簡単な食べ物がおぼんの上に並べられているだけの食事である。
甲斐斗はそんな質素な飯について文句を言いながらパンを齧っていた。
に毎日コッペパンでさすがに甲斐斗は飽きてきたので、スープに浸して食べるという斬新なアイデアが閃いたが止めておくことにした。
(俺だけ後ろ手に手錠をされているからスープを飲む時は顔を近づけて啜らなければならない、そんな無様な格好してたまるか。だから俺はスープは飲まん、こんな屈辱受けるくらいならスープなんか飲まん! どーせこのスープも美味しくないんだろうし)
「質素だが味はまぁまぁだな」
「おいし……」
葵とエコのスープの飲む音が聞こえてくる。実際は甲斐斗だって飲みたい、コッペパンだけだと腹も減る。
(だが、だが……最強のこの俺がそんな犬のようなマネが出来る訳がない。ま、まぁ。パンだけ食べるとコッペパン本来の甘味がよーくわかる、結構美味いもんだ)
とは言ってもパンをかじる時にどうしても頭下げてパンを銜えなければならず、複雑な気持ちになってしまう。
(うぐぅ、どっちにしろ犬じゃねえか……)
甲斐斗は一人そんなどうでもよさそうな事を考えていた時、床に食器が落ちる音が牢屋内に響いた。
その音を聞いてとっさにスープをこぼしたのだと甲斐斗は思い葵に話しかけてみた。
「あーもったいねえなぁ、スープ零したろ」
『うっせーなあ、お前はパンでもかじってろ!』と、いつもならそんな言葉が返ってきそうだが何も返事をしない。
二人の牢屋から全く物音がしなくなっていた、一瞬甲斐斗は何が起こったのかわからなかったが、耳を澄ましていると何かが聞こえてくる。
(……寝息? なに二人とも飯食いながら寝てんだ。と、思ったがこれはアレだ、睡眠薬飲まされたな。スープにでも混ぜられていたんだろう、飲まなくて正解だった。だが、こんな夜に睡眠薬飲まして何する気だ?)
すると、いきなり牢屋のドアの開く音が聞こえ、何故か甲斐斗は咄嗟に寝たフリをする。
甲斐斗が緊張しながらも足音を聞きていく、その音からしてどうやら人の数は二人。もしや誰かが助けに来たのかとも思ったが、それは助けでも何でもなかった。
「よし、こいつ等寝てるぞ」
「どうやら薬が効いたらしいな、お前どの子にする?」
「ふひひ、そうだなぁ、俺はこの小さい子でいいや」
(何だこの会話、あっ、これよく映画とかドラマであるシーンだよな。それも深夜枠にありそうな。こいつ等の狙いはあの二人の体か)
エコの牢屋の鍵の開く音が聞こえてきたかと思うと、牢屋の扉が閉められる音が聞こえてくる
(連れ去られたか。って事は次は……)
「あいつ行ったな、んじゃ俺は──」
(このままでは葵まで連れて行かれる、こいつ等寝ている二人によからぬ事するつもりだ)
と、甲斐斗は思っていたが、その時。何故か……何故なのか、甲斐斗の牢屋の鍵が開いた。
(ん……ん? 俺? 俺ですか? 何故に俺??)
「久しぶりに楽しめそうだな、むふふ」
そんな事言いながら甲斐斗に近づいてくる。
(……おかしくないか? これ絶対おかしいよな? 普通ここは葵を選んで二人がピンチな所に助っ人登場とかする、『世界を守る為に命犠牲にしました』ぐらいの在り来たりな展開じゃないのか?)
甲斐斗は汗かきまくりで寝たフリをしていた、忍び寄る足音は俺の足元で止まり、男は甲斐斗の体に掛かっているシーツを剥ぎ取った。
(もういっそ寝ていた方が楽だったかもしれない、もう犬になるんで今すぐスープ、いや睡眠薬飲ませてください)
甲斐斗が男として諦めかけたその時、葵の寝ているはずの牢屋から何かが壊される音が聞こえてくる。
何が起こったのかわからないまま甲斐斗は寝たフリをしていたが、その時甲。斐斗寝ている背中に男が倒れてきた。
「うおぁあああああ!? 嫌だぁああああ!!」
男に抱かれる事に甲斐斗が激しく抵抗しようと声を荒げると、その声に驚いた葵もまた声を荒げる。
「ちょ、うっさい! 静かにしろよ! 他の兵士に気づかれるだろ!」
甲斐斗が怯えた表情で後ろに振り向くと、やや怒ったような表情で葵が立っていた。
甲斐斗に倒れてきた男はどうやら気絶しているようだった。
「た、助かった……」
「……ったく、どーして私には誰も来なかったんだ」
「はい?」
「一人はエコで、一人は男だぁ? なんで俺はエコやお前に負けたんだよ。俺は胸あんだぞ! こんなにあんのによお! ったくこれだから最近の男はなぁっ!」
(胸に手を当てながら俺に怒りをぶつけられても……だが今は葵に感謝しよう)
「それより葵、お前睡眠薬で寝てたんじゃないのか?」
「俺はスープ飲んでなかったからな」
「どうして?」
「へへっ、俺の嗅覚を舐めるなよ。あんな薬入っている事ぐらい一発で分かったぜ」
(こいつは人間というより犬……獣に近いのか?)
「さて、もうこんな所にいてられねえし脱出するぞ」
「その言葉を待っていた、早く手錠を外してくれ」
「……まぁ、俺は心優しいからな」
倒れている男の腰から鍵束を取り、その中にある鍵を使って甲斐斗の手錠を外す。
「ありがとよ、んじゃ早速エコを助けに行くか」
「助ける? そんな事しなくてもエコなら大丈夫だぞ」
(何言ってんだ、少女を前にした男は皆獣になっちまうぞ!)
「ただいま」
とか甲斐斗が思っている時、既にエコが牢屋の前に立っていた。
「え、あれ。連れて行かれてたよな……なんでいんの」
「ほらな、だから言っただろ」
「いやいや、エコ。お前ってたしか連れ去られたよな?」
「ぶっ飛ばした」
(そうですか、ぶっ飛ばしたんですか。もう何も聞かないでおこう。何にせよ、これで準備は整った、両手も自由になった事だし)
「よし、後はあの子を連れ去って脱出するだけだな」
「そうね」
「ミシェルの居場所なら俺が分かる、着いてきてくれ」
「え、何で分かんの?」
「なんとなく分かる、いいから着いて来い」
不思議そうに二人が首を傾げるが無理もない。
こうして夜中に甲斐斗達三人の誘拐脱出作戦が始まった。
エコ
緑色の髪に緑色の瞳が印象的な少女。
大人しそうに見えるが案外活発的であり、親友(?)の葵とよく共に行動する。