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第23話 決裂、旅

 監獄生活二日目を迎える甲斐斗は、そろそろ外の空気が吸いたくなってきていた。

 元々BNの基地にある監獄で過ごしていた甲斐斗だったが、ミシェルを助ける為に脱獄し戦艦に乗り込む事に成功。

 しかし、乗り込んだものは良いものの再びBNの兵士に捕まってしまい、今は艦内にある牢獄に閉じ込められていた。

 だが、甲斐斗は自分専用の大剣を出す事が可能な為、牢獄に閉じ込められようとも脱出は簡単だと牢獄に入れられる前までは思っていたが、甲斐斗の考えは甘かった。

 甲斐斗の両手は後ろ手で手錠されており、体は太く頑丈な紐で強く縛り付けられてしまう。

「こうなるならさっさと逃げればよかった……」

 両手が後ろ手に固定されては剣も震えない、更に体も縛られており腕を動かす事も出来ず、甲斐斗は芋虫のような体勢で寝転がる事しか出来ない。

 その無様な姿を甲斐斗の入っている牢屋の正面の牢屋に入っている女性から丸見えであり、馬鹿にされながら笑われてしまう。

「ははは、お前マヌケだなぁ!」

 また陽気で元気でうるさい女の声が聞こえてきた事に甲斐斗は女を睨み付ける。

「つうかお前も縛られてんだろが、お前の方がマヌケだっつーの」

 甲斐斗と同じ牢獄の正面の部屋にそのうるさい女がいる。

 すると女は甲斐斗の言葉を聞き

「はあ? 俺がお前みたいな馬鹿と一緒にすんじゃねーよ!」

「どっちが馬鹿だ、大体こんな事になったのは馬鹿な事言ったお前達のせいだろが!」

「んな事知るかよ! ったく終わった事をグジグジうるせえ男は器が小さいなぁっ!」

「う、器が小さいだと!?」

 女の言葉に甲斐斗が反論しようとした時、女の隣の牢屋に入っている少女が呟いた。

「うるさい……」

 その静かだが鋭い一言に甲斐斗と女の交戦は一時中断される。

 甲斐斗は冷静になり壁に凭れ掛かりながらこの二人が何者なのかを考え始めていた。

(BNでもNFでもない、SVか……。変わった連中だが喋り相手がいるだけでも良いのかもしれない、一人牢屋の中に閉じ込められるのはつまらないからな、この際色々と聞いてみるか)

「ああ、そうだ。お前達名前ぐらいは教えてくれないか?」

 とりあえず二人の名前を聞こうと甲斐斗が聞いてみるが、その甲斐斗の言葉に女は溜め息を吐いた。

「名を名乗る時はまず自分からって事も知らないのかー? 全くこれだから最近の男は……」

 口うるさい女に対し甲斐斗は直ぐにでも反論しようとしたが、言われてみれば確かに自分も名乗っていない為昂る感情を抑えていく。

(その喋り方、お前も半ば男だろうが、女の癖に男口調な奴め……だが、一理ある)

「俺の名は甲斐斗、んでお前等は?」

 落ち着いた様子で甲斐斗は名前を言うと、女はあっさりと自己紹介を始めた。

「俺はあおいって言うんだ」

 男口調のうるさい女の名前は『葵』、以外にも女性らしい名前に甲斐斗は思わず余計な事を口走ってしまう。

「へー、結構女らしい名前だな」

「はぁっ!? お前今何て言っ──」

 甲斐斗の言葉にキレ気味の葵は身を乗り出し声を荒げようとした時、葵の隣にいた少女が自分の名を紹介した。

「私の名前はエコ」

 ここで漸く二人の名前が分かり、甲斐斗は会話を進めていく。

(葵にエコか、何か地球に優しそうな連中だが。とりあえず二人の名前もわかった事だしそろそろ本題に入るか)

「それで、葵とエコ。お前等二人はこれからどーするんだ」

「んー、ここに入れば多分仲間が助けに来てくれるからな」

 甲斐斗の問いに葵は自身有り気に言うが、甲斐斗は葵の言葉がどうにも信じられない。

(仲間? この戦艦にか? 普通に無理だろ)

 すると甲斐斗の不振な素振りに気付いた葵はすぐさま口を開く。

「おい甲斐斗、お前今無理とか思っただろ? 甘いねぇ俺達SVの力を甘く見てるな」

 心の中を見透かされ思わずたじろいでしまうが、甲斐斗は強気な態度で葵と会話を進めていく。

「助けるつったってどーやって助けるんだ? ここまで来てもらうのか?」

「俺達がこの戦艦から脱出した後に助けてもらうのさ」

(だからその脱出する方法を聞いている訳だが……こいつやっぱ馬鹿だな)

 改めて甲斐斗はこの葵という女性が馬鹿なのだと再認識すると、葵は更に会話を進め始める。

「正直、俺達は逃げ出すタイミングを待っているのさ、逃げようと思えばこんな所簡単に出られるからな」

『逃げようと思えば簡単に出られる』。その言葉に甲斐斗は強く反応すると、上手くSVの人達を利用して自分もまた助けてもらおうと企てる。

「ほー、そ、それならさ。俺も一緒に逃がしてはくれないか?」

「誰がお前みたいな奴助けるか、銃殺刑にでもされてな」

(こいつ、俺を助ける気更々無いな……ヤバイ、洒落にならん)

 甲斐斗が一人心の中で焦っていたその時、一人の男が部屋に入ってくるとは葵の牢屋の鍵を開けると外に連れ出す。

「時間だ、着いて来い」

「やれやれ、まーた尋問かよ」

 


 葵は両手両腕を縛られたまま立ち上がるとその男の後をついていく。

 そして葵が部屋を出るとまたその部屋に鍵を閉められる音が聞こえてきた。

「尋問かぁ、あの葵って女、口うるさいし挑発に乗りやすいタイプだからべらべら喋るんじゃないのか?」

 甲斐斗がそう言ってエコに話しかけてみると、エコは不安な表情を浮かべながら口を開いた。

「多分、大丈夫……」

(多分なのか、やはり絶対安心大丈夫って訳でもないらしい)

「でも、今頃、あんな事や、こんな事を葵はされてるのかも……」

(あんな事や、こんな事。よからぬ妄想をするのは俺だけでいい。しかし、どうやらエコと葵はSVの中でも上位階級の兵士らしく、その分重要な情報も知っているようだそれにしてもよくあのようなガサツな女が上位階級に上がれたな……まぁいい。今はこいつ等より自分の方を考えよう。だが、両手に手錠、しかも両腕を縛られているんじゃ俺も何も出来ない。いつもの俺ならこんな物簡単に壊して逃げれるというのに……いや、逃げるって、俺は何処に逃げるんだ……? そうだ、俺は元の世界に帰るんじゃなかったのか、この世界に俺の居場所は無い。そう、あの龍と少年もこの世界に来ていた、この世界に来る方法があるのなら帰れる方法だって必ずある)

 甲斐斗は今一度自分の遣るべき事を再確認すると、黙ったまま俯いているエコに話しかけた。

「なあ、ちょっと質問してもいいか?」

「何?」

 興味無さそうに呟く少女、何か考え事をしているのか、返事が少し遅かった。

「この世界って別世界に行く方法とかあるのか?」

 超率直的な質問だが甲斐斗は気にしない。それに、これなら確実に甲斐斗の聞きたい事が伝わったであろう。

「知ってる」

 思わぬ答えが返ってきた、その一言が甲斐斗の頭の中で繰り返し聞こえる。

(まさか、こんな身近に別世界について知っている人がいるとは……!!)

「ほ、本当か!? それなら別世界に行く方法を──」

「嘘よ」

 甲斐斗の期待は真っ二つに斬られた後ぐしゃぐしゃに踏み潰されて細切れにされた気分だった。

(嘘ってもんは言っていい時とそうでない時があんだよ糞餓鬼ッ……でもまぁ冷静に考えてみればこんな少女に別世界の話なんてしても無駄か)

「でも、私は信じてる。別世界がある事を……」

(何だ? てっきり信じていないのかと思いきや、意外な言葉をよく発言するな……)

「そして、もしあるなら……その世界に行きたい」

 その言葉が甲斐斗にはやけに強く、そして重く感じた。

 それと同時に、このエコという少女が一体何を考えているのかが気になり始める。

「どうして別の世界に行きたいんだ?」

 するとエコは口を閉ざし、何も喋ろうとしなかった。

(女心というのはよくわからないが、別の世界は絶対にあるから信じてもいい、俺は他の世界を数々回ってきた事だってある。それに俺はこの世界に飛ばされてきたんだからなぁ)

 結局エコと会話をしても何かが進展する訳でもなく、甲斐斗はエコとの会話を終えた後、一人考えにふけり始めるのであった。




 その頃、艦内のブリーフィングルームには羅威達BNの部隊メンバーが集まっていた。

「あれ、ここに来いと言った本人が来てねえなぁ遅刻かあ?」

 そう言って周りを見渡しながら暇そうに椅子にもたれ掛かっている穿真。その羅威はその左隣で書類を読んでいた。

「セーシュは今SVの一人を尋問中だ。だから今は無理だな」

 本来ならこの場にせーシュがいるはずなのだが、今はSVの捕虜との尋問の最中であり来れない事を穿真が知ると少し嬉しそうな表情を浮かべた。

「って事は俺達だけで好きに話し合えって事か、んじゃ隊長さんよろしく!」

 そしてその穿真の右隣に座っているクロノの背中をぶっ叩く。

「ぐっ!? 穿真さん痛いですよ! 痛い痛い!」

「なーにすぐに慣れるって!」

 痛がるクロノをよそに穿真は笑いながら背中をバシバシと叩いていく。

 そんなクロノを見て穿真の横に座っている羅威は気の毒そうな顔をしていた。

「慣れる前に背骨が数本持っていかれるかもな」

 そんな三人の前に一人の女性が現れると勢いよく机を叩く、その音に三人は驚いてすぐさま顔を上げた。

「三人とも遊んでないでさ、さっさと始めようよ!」

 それは三人の後ろの席に座っているエリルの声だった。

 エリルに注意されクロノは戸惑い穿真は焦る、そして羅威は黙り込んでしまう。

「そ、そうだな。んじゃクロノ、後は頼んだ!」

「え? ああ、わかりました。皆もう集まってるようですしそろそろ始めますね」

 既に部隊メンバー六人は揃っていた、羅威が左の前の席に視線を向けると六人目のメンバーがそこに座っている。

 クロノはその場に立ち上がり、この場の進行を勤め始める。

「まず僕達の任務を伝えておきますね、リシュードの護衛とBNの市街地周辺のERROR掃討です。NF、もしくSVの兵士がこの艦を狙ってくるかもしれないので各自いつでも出撃できるよう機体の整備はしっかりしておきましょう」

「クロノー、部隊名って無いのかー?」

 穿真が手を上げて突然質問して来た為に少し戸惑うクロノ。

「部隊名ですか? 僕達の部隊名は第壱小隊ですけど」

「そんな地味な名前じゃなくて、もっとカッコイイ呼び名とか無いのか?」

「そ、それはまだ無いですね」

 どうやらクロノも穿真との会話はたじたじのようだ。

「穿真、今はクロノが喋ってるんだ、黙って聞け」

「へいへい、わかったよ」

 羅意の言葉にようやく穿真も黙り、クロノの話が始まる。

 その話を聞いていた羅威は、そのクロノの話し方と性格を知り、隊長に適している存在だと知る。若いながらも部隊の隊長に選ばれたのも納得がいった。

 『後は戦闘での指示、判断、腕前だな……』と、羅威がそんな事を考えていると、クロノの話が終わってしまった。

「という事で僕の話はこれで終わりです、長い話を聞いてもらえてありがとうございました」

 深々と頭を下げお辞儀を済ませ椅子に座ると、クロノの説明を聞いていたエリルと雪音が何やら話していた。

「NFの時とERRORの時で陣形や戦略を変えてちゃんと考えているなんて、中々やるじゃない」

「クロノ隊長ってしっかりしてますよね」

「本当、どこぞの馬鹿とは大違いよね?」

 エリルはそう言いつつも視線を穿真に向けると、穿真は怒った様子でエリルを睨み付ける。

「だーれが馬鹿だ、ばーか!」

 エリルの挑発に乗り穿真が後ろに振り向くと、エリルはわざと少しだけ驚いた表情を見せうる。

「あら? 聞こえてたの」

「俺に聞こえるように喋ってただろが!」

「まぁ、別に穿真のことなんて一言も言ってないし。てか馬鹿って言葉に反応したんだから自分が馬鹿だって事認めたわね」

 エリルは少し勝ち誇ったような態度で穿真を見つめるが、肝心の穿真はエリルを無視しながらエリルの横に座っている雪音だけを見つめていた。

「雪ちゃん気をつけろよー、こいつうるさくて空気読めないし凶暴だから」

 エリルを軽くスルーしてその隣にいる雪音と笑顔で話している穿真。

 しかし雪音は自分の隣で怒りに震えるエリルが怖くて何も喋れない、顔は笑っているが恐怖で顔が少し引きつっている。

「穿真君、それは言い過ぎだよ……?」

「ん? 俺なんて毎日そんな事を毎日言われてるんだぜ? 俺って可哀想じゃ──」

 穿真が自分を慰めてもらおうと会話を進めようとした時、怒りが頂点に達したエリルが声を荒げる。

「黙ってろこのロリコンがッ!」

 その時、雪音の目の前から穿真が消え去る、そして右の方で何かが壁にぶち当たる音が生々しく聞こえてきた。

 エリルの渾身の一撃が穿真に炸裂、たった一撃の拳は軽々と穿真を吹き飛ばす。

 雪音は咄嗟の事に驚き穿真の方を向くと、穿真は力無く壁に凭れ掛かり、頭から血を流しながら気を失っていた。

「穿真君! 大丈夫ですか!?」

 雪音は穿真を心配し席から立ち上がろうとしたが、エリルが雪音の方に手を置くとその行動を止めた。

「雪。別にいいわよ、そんな奴ほっといても」

「で、でも……」

 エリルに止められ立ち上がる事もできず、雪音はおろおろと血塗れの穿真を見続けていた。



 その一部始終を見ていた羅威は横目で血塗れの穿真を見ると、小さな溜め息を吐く。

(相変わらずと言えば相変わらずの奴等だ、見ていて飽きない)

 何時もの穿真とエリルの会話に穿真は少し笑みを浮かべた時、一人の女性の声が聞こえてきた。

「おい」

 羅威はその強気な声に下げていた視線を上げると、そこにはこの部隊の六人目のメンバーの女性が立っていた。

「私、あんたが嫌い」

 その言葉にその場にいた部隊メンバー全員の表情が固まる。

「前に集まった時に上官を殴ろうとしてたよね? たかが使えない兵士一人をクビにしたぐらいでさ」

 その挑発するような言い方に、羅威の眼つきが微かに変わった。

「使えない兵士だと……?」

「ええ、そうよ。魅剣愁とか言う奴、彼の戦歴を見てみたけど一般兵士以下の戦力だったわよ、それに何度も命令違反してるし」

 黙っている羅威に対し女性の言葉はさらに続ける。

「今までクビにならなかった方が不思議なくらいよね、今後はあんな無様な事はやめてよね。部隊の評価が下がるから」

「……確かに、愁は兵士としては失格なのかもしれない。だが、あいつは誰よりも正義感が強く、純粋な奴だ。そして人としては何も間違った事はしていないと俺は思っている」

「そんな事どうでもいいのよ、もう彼はいないんだし。私が言いたいのはこれ以上問題を起こさないでって事、分かった?」

 女性にそう言われるが、羅威は何も言わずただその女性を睨み続けている。

「何よその目、言いたい事があるなら直接言いなさいよ……!」

「そこまでにしとけ」

 いつの間にか穿真が二人の隣に立っていた、そして腕を伸ばして女の口の前に持っていく。

 もう喋るなと言う合図であろう、穿真は小さく首を横に振った。

 その場にいた全員がその女性に視線を向けている。

「ふんっ、もういいわよ。私部屋に帰る」

 女性はそういい残すと二人に背を向けて部屋から出て行こうとした時、羅威がふと口を開いた。

「俺達はただの兵士かもしれない、だがその前に。俺達は一人の人間だ」

 その言葉に女性の足が止まる、だが女性は何かを呟くと再び歩きはじめ、部屋を出て行ってしまった。

クロノ・ウェイカー

戦艦リシュードの護衛部隊の隊長。

性格はおとなしく真面目であるが、伝える事ははっきりと伝える。

自分が隊長に任命されて少し戸惑っているようだが、彼なりに頑張ろうとしている。

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