第20話 監禁、救出
「動くと撃ちますよ」
今日はやけに銃を突きつけられる事が多い気がする。
そんな事を思いながら愁は銃を向けてきた女性を見つめていた。
「俺は話しをしに来ただけです、怪しい者ではありません!」
「貴方、さっきインターホンで話した方ですよね? それなのにこんな朝早く無断侵入をしましたね」
「うっ……そ、それは。もう俺に時間が無いんです! フィリオさんに会わせてください、そうすれば俺が怪しい人で無い事がわかってもらえます」
「怪しい人ではない、ですか……」
靴も履かず、左肩から血を流す男を見て怪しくない訳がない。
それでも愁は必死に説得して分かってもらおうとするが、銃を持った女性は愁の言葉を信じてはくれなかった。
「貴方のような部外者に会わせる人はいません。それと、この場所に入った貴方を生かしてここから出す訳にもいきません」
「そんなッ!?……い、今ここで撃つんですか? いいんですか、子供が見てますよ」
本当はこんな事言いたくはない、だけど今は生き残る為に何かしら手段をとらなければならない。
すると愁の言葉を聞いた少女は、自分を『子供扱い』された事に腹を立て始める。
「なっ、ちょっとあなた! 今私を子供扱いにしわたわね!? もう撃っちゃっていいわよ! 私別に平気だから」
「わかりました、殺します」
「そんな簡単に殺すとか言わないでください!」
女性が愁に狙いを定めようとした時、愁はその手を蹴り上げる。
そしてその場で跳んで宙を舞う銃を右手でキャッチすると華麗に着地、そして自分に銃を向けていた女性に銃を向けた。
その余りの手際の良さ、素早さにその場にいた二人は呆気に取られていた。
「お願いします会わせてください……っ!」
急に激しい目眩が愁を襲う。急に足の力が抜けてふらついてしまいそのまま床に膝をつくと、その場に倒れこんでしまい、薄らと意識が消えていった──。
それからどれくらい時間がたったのか分からないが、愁はふかふかのベットの中で目を覚ましていた。
左肩の痛みは若干引いており、体を起こした後回りを見渡すとそこには綺麗な室内が広がっていた。
「ここは……痛っ」
痛む左肩に目をやると、綺麗に包帯で巻かれて手当てがされてある。
すると、突然部屋の扉が開き一人の少女とメイドが室内に入ってきた。
「魅剣様! お目覚めになりましたか!」
見た目、そしてこの話し方。それは間違いなく昨日会った少女、フィリオだった。
「申し訳ありません、私の妹が多大なご迷惑をおかけして……」
フィリオの話によると、今日朝に会った子はフィリオの双子の妹らしい。
そう言われてみると髪型や眼つきは少し違っていたような気もしたが、今の愁はそれ所ではない。
「どうして君は俺の名前を知っているの?」
「今朝のニュースを見させていただきました、そしたらそこに昨日の出来事が書いてあり、魅剣様の名前が……」
「そう……やはりあのニュースは……あと、魅剣様とかで呼ばなくていいよ。愁って呼んでくれればいいから」
「そ、そうですか? でしたら愁さん。私は貴方に謝らなければなりません」
フィリオは深々とその場で頭を下げると、震える声で謝りはじめる。
「貴方をこの様な事に巻き込んでしまって……全て私の責任です。本当に、本当に申し訳ありません……」
「フィリオさん、頭を上げてください」
愁の言葉にフィリオは顔を上げると、その少女の瞳は微かに潤んでいた。
「俺は貴方を助けた事を後悔していません。そして貴方は俺に謝るような事は何一つしていません。だからそれ以上頭を下げないでください、俺はただ真実を知りたいだけなんです」
「愁さん……」
「昨日BNの第二旧本部を爆撃したの貴方達なんですか?」
「……ええ、私達の仲間が爆破しました。ですが安心してください、兵器を爆破しただけであって死者はでていません」
どうやらニュースで放送されていた件については本当らしい、だとすればこの少女が何者なのかが気になってくる。
「えっと、昨日はどうして追われていたんですか?」
「それは……」
その時、タイミングが悪く愁の腹の虫が鳴いてしまう。
急に恥かしくなり、愁の顔が真っ赤になると、それを見てフィリオは小さく笑みを見せた。
「お腹を空かしていたんですね、少し待っていてください。すぐに食事を持ってこさせますので」
「す、すみません。ありがとうございます」
彼女が部屋の中で待機していたメイドに合図をすると女性は深くお辞儀をした後に部屋を出て行った。
「あの、君は一体何者なんだい?」
「私の正体を知っても後悔しないですか? 私の正体を知れば貴方はもう二度と向こうの暮らしに戻る事は出来ないですよ」
「俺は君の正体を知る為にここまで命張って来たんだから、聞かせてください。君の正体」
この時愁は今、自分が運命の分かれ道に立たされているという事を少しだけ自覚していたが、その道を前にしても愁に迷いは無かった。
「わかりました……」
そう言うと少女は先程までのおおらかな表情ではなく、真剣な顔つきで愁の目を見つめる。
「私の名前はフィリオ・リシュテルト。Saviorsの創始者です」
Saviors、そしてリシュテルト家。
それはNF、BNの次に勢力のある三大組織の一つだった。
「貴方達の事は聞いた事があります、俺は一昨日までBNの兵士でしたから」
「愁さんはBNの兵士だったのですか?」
「ええ、ですが俺が命令違反ばかりしているので軍を辞めさせられましたけどね」
「そうなのですか……」
「えっと、Saviorsって今年になってから表に現れだしたNF、BNに並ぶ新組織ですよね」
「組織は組織ですが、大した力をもっていない組織です、NFやBNには到底敵いません」
「……教えてくれませんか、Saviorsの。貴方達の目的を」
この疑問を抱くのは愁だけではない。
NF、BNの理念と思想ははっきりと決まっておりその目的を掲げ行動しているが、実はまだNFやBNはSaviorsの目的が分かっていない。
というよりSaviorsという組織が誰が、何の為に、どのような目的作られた組織なのかが未だに不明だった。
「愁さんは、百年前にこの世界を滅ぼそうとした神をどう思いますか?」
質問を質問で返され少し戸惑いを見せるが、愁はなんとか答えてみせる。
「神……ですか、人類の脅威ですよね。あんな恐ろしい兵器がこの世界のどこかにあると思うと怖いですね」
「そう、神は恐ろしく強力な兵器、神はこの世界を滅ぼそうとしました。ですが神は我々人類にチャンス与えてくださいました、この意味がわかりますか?」
「意味……?」
「はい、神は兵器とお考えでしょう、私もそう思います。ですがあの兵器は人格をもっていました。これは私の勝手な推測かもしれませんが。遥か昔、それとも他の世界で神という名の兵器が創られたんだと思います。ですが、これを創り出した理由は一つ、世界平和の為。世界を守る為だと思うのです」
「待ってください、それなら神は世界を守る為に人類を滅ぼそうとしたってことですよね? 明らかに矛盾しています」
「ええ、ですが神は人を生かした。これは紛れも無い事実です。愁さん、神は百年前に百年後また現れると人類に言って消えました。しかし今年、丁度百年目だと言うのに神は姿を表さない、それ所か最近正体不明の生物が出現しましたよね」
「ERROR……ですか」
「そうです、ERRORは紛れも無く人類の、世界の敵です。ERRORは数を増やして次々に街を襲っていると聞きます。このままでは人類はERRORに負け、滅亡するかもしれません。しかし、それを回避する方法が一つだけあります、それは……」
「未だ眠っている神を起こし、世界の為にERRORを排除させる事、ですか?」
「その通りです。あ、すみません、長話になってしまいまして」
その時、話が終えたタイミング良くメイドが食事を持ってきてくれた。
運ばれてきた料理はどれも豪華なものばかり、フィリオが一つの皿を取ると愁の元まで持ってきてくれる。
見るからに美味しそうなスープ、フィリオはスプーンでそのスープを掬い上げると愁の口元に近づけてくれた。
「はい、あーんしてください」
「あっ……」
その光景に愁は昨日の出来事を思い出す、それは茜が自分にカレーを掬ってくれた時の事だった。
そして思い出した、今自分はBNの爆撃したテロリストの一味とされていると。
国家反逆と言っても間違ってはいない、もしかすれば今頃琉は…茜は…母は……。
不安で胸が締め付けられるように苦しくなり、愁は家族が心配になると俯いてしまう。。
その心配そうな顔を見て、フィリオは不安そうに声をかけた。。
「どうかなされました?」
「あの、俺の家族は無事なんでしょうか」
「……ニュースによりますと、軍に身柄を拘束されている様でした」
「なっ!?」
愁がベットから起き上がろうとした時、フィリオが愁の両肩を掴んで押し戻す。
「今私達の方で救出をしようと考えています、ですから今は体を休めてください!」
そう言われて強引に止められてしまうと、フィリオはスープをスプーンで掬いそれをまた愁の口元に近づける。
「じ、自分で食べるから大丈夫だよ」
「え? そうですか……」
愁にそう言われたフィリオは寂しげな表情でスプーンを置いた。
それを見て愁は何か自分が悪い事をしてしまったのでないかと不安になるが、これ以上愁は自分の世話を掛けさせたくはなかったのだ。
食事が終わると食べ終えた食器を片付けるメイド、また部屋を出て行ってしまう。
「これから俺はどうなるんですか……」
ベットの横に座っている彼女に問いかけてみた。
彼女達の正体を知ってしまったのだ、もう自由に行動はさせてくれないだろう。
「貴方の身柄は私が責任もってお守りしますので、安心してください」
「安心できません」
「えっ?」
「母さんと琉と茜、三人を助け出すまでは安心できません。フィリオさん、俺も救出しに行っても構いませんか?」
「そ、それは……」
愁のその言葉にフィリオは眉をひそめた。
たしかに愁が家族を助けたい気持ちはよくわかる、だが彼はBNの兵士だった男だ。
存在を知られ、居場所を知られた彼をBNの本部に戻してしまって本当に大丈夫なのか。
これは余りにも危険すぎる、もし愁が裏切ってBNに寝返れば自分達の身に危険が及ぶ。
判断に迷っていたフィリオだが、ふと愁の瞳を見つめると、その純粋かつ力強い視線に言い様の無い覚悟を感じると、思い切って決断した。
「わかりました、貴方にも協力してもらいます」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
愁は満面の笑みをしながらフィリオの両手を握り締める。
それに答えるようにフィリオも軽く笑みを見せた。
作戦決行は夜に行なわれた、暗い曇り空の下で愁と三人の兵士が集まっていた。
二人は女性でもう一人は男性のようだ、愁は集まってくれた三人に声をかけてみる。
「あの、無理言って来てしまって何か申し訳ありません……」
すると、一人の女性が笑顔で愁の方を向いてくれるとゆっくりと近づいてきた。
「大丈夫、家族を助けたいって気持ちはよーくわかったから」
女性は愁の境遇を知り慰めるように声をかけてくれると、もう一人の女性が近づいてくる。
それはこの前愁に銃を突きつけたあの女性だった。
「魅剣、私はお前を信用していない。少しでも妙な素振りを見せたら殺す」
ここまでハッキリと殺すと言われたのは初めてかもしれない。
愁が唖然としていると彼女はそれだけを言い残しその場から離れてしまう。
その場にいた男の兵士もは愁に背を向けたまま何も喋ろうとせず、結局愁と唯一会話をしてくれたのは最初に話した女性だけだった。
「そ、それで。何か作戦はあるんですか?」
「んーと、君はこの建物内は結構詳しいよね?」
「ええ、一応ここの兵士でしたから」
「そしたら君に案内してもらおかな。三人がいる部屋は三階にある監禁室らしいから」
「か、監禁室!? どうしてそんな部屋にいるんですか! 母さん達は何もしていないのに!」
「わ、私に言われてもねぇ。とにかくそこにいるらしいから、行けるよね?」
「任せてください、絶対に助け出します」
愁は未だにBNを信じている。無理もない、幼い頃から彼はBNを信じ、軍に入っていたのだから。
フィリオ・リシュテルト
SVのお嬢様であり、主格の一人。
リシュテルト家の次女であり、妹と兄がいる。
見た目は大人しいが行動力は人一倍あり、思いたった事はすぐ行動に移す。
現在『神』を呼び起こす為に必要な物や人を探し集めている。