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最終話 Deltaプロファイル

───人類最後の世界に残された最後の人間。

赤城も、神楽も、ミシェルも、アビアも……掛け替えのない仲間達はもう誰も何処にも存在しない。

そんな世界にたった一人。最強の男、甲斐斗は存在していた。

本来であれば時を越える魔法が発動され過去に帰っているはず、しかしここに立っている男は紛れも無い本人だった。



───あの時、甲斐斗は選択した。

龍が魔法を発動する直前、ミシェルの死を感じた甲斐斗は自分の全身から溢れ出す魔力に、自分の制約が解かれた事に気づく。

信じたくはなかったが、やはりミシェルの絶対名『制約』の力で甲斐斗は今まで力を制約され続けていた事を身をもって知る。

勿論分かっている。ミシェルには何の罪も無い、ミシェルもまた一人の犠牲者なのだから。

力を取り戻しても嬉しさなんて込み上げて来はしない。

ミシェルを失い自分の大切な人がまた一人消えた事に甲斐斗は闇の中で跪き、俯いてしまう。

確かに力を取り戻したが、今更この世界で何の役に立つというのか……このまま黙って過去に帰る事も出来た。

過去に帰り未来を変える事は、皆が甲斐斗に託した想いなのだから───。



───だが、それとこの世界のERRORを見逃すのは訳が違う。

自分の大切な人達を奪い続けてきた化物を、このまま黙って見逃していい理由にはならない。

ここに居るERRORを殺した所で死んだ人達は帰ってこない。

今更力を取り戻し、戦っても、世界は元通りにはならない。

甲斐斗の望む世界はもう、この世界にはない。

分かっている。

そんな事、誰に言われなくても甲斐斗自身が一番理解している。

それでも甲斐斗は此処に残ったのだ。甲斐斗が今、どれだけの覚悟と意志でここに立っているかは歴然だった。

「すげえな、ERRORって」

これから戦いが始まるかと思われたが、突如甲斐斗はオリジナル達を見上げながらそう呟くと、一人語りはじめる。

「お前等は全世界の全人類に平等な死を与えたんだろ。すげえよ、俺も戦いが好きだ、殺すのが好きだ。幸せそうにしてる全世界の奴等を全員絶望に叩き落して殺したんだろ。俺もそんな存在になりたかった、ただただ世界を思い通りに破壊して蹂躙して己の欲を満たすだけの存在になりたかった……っと、ここまでは俺の中にいる邪神の台詞だ」

そう言って軽く笑ってみせると、再び甲斐斗は語り始める。

「じゃあ次は魔神の台詞。まぁ、あいつ無心で何も考えてないからこの状況でも何も感じてないみたいだ。だからここからは俺自身、本心の台詞だ……なあERROR、お前等は全世界を見てきたんだろ?その中で、愛し合う人々も見てきたはずだ。世界は……美しかったか?」

そう言って集結したオリジナル達を見上げながら素朴な質問をしはじめるが、その質問にERRORは誰も答えない、それでも甲斐斗は構わず聞き続けた。

「人の愛は美しかったか?優しい世界、温かい世界、幸せな世界は、綺麗だったろ?俺好きなんだよ。人に優しくて、心が温かくて、皆幸せな……そういう世界。だって、そういう世界が俺の愛した人が愛する世界なんだから」

争いなんて必要ない。皆で楽しく笑って暮らせる世界で甲斐斗は満足だった。

少なくとも今まで出会ってきた愛する人達は皆、そういう世界を望んでいた。

「でもさ、世界は羨ましい程綺麗なのに。俺は一向にその世界の住人になれない。思わず嫉妬してしまうよ、どうしてこんなにも多くの世界が広がっているのに、俺はその世界に居させてもらえないんだ……ってな」

だから今、こうしてここに立っている。

結局甲斐斗は自分が望むような世界の住人になる事は出来なかった。

「そんな俺にも全く機会が無かった訳じゃない。生きていれば、俺が望んだような世界だって存在した時もあった、少なくとも四回はな。でも、何時も消えて無くなる。何でだろうな、気付けばいつも俺は失い続けてる、ほんと迷惑だよ……俺の望む、俺の世界を邪魔する奴」

そう言って甲斐斗が空を見上げても、そこに綺麗な青空は広がっておらず、醜いERRORが作り出した赤い世界しか広がっていない。

「俺って何時も誰かに邪魔されてる気がするんだ。俺の世界に要らない存在が、俺の世界の邪魔をしに入ってくる。ERROR、お前まさにそれだよ」

そう言って今まで空を見上げながら喋っていた甲斐斗は目の前に立っているオリジナルを睨むと、オリジナルと向き合うように体勢を変え、腕を組んだ。

「俺は俺の世界以外がどうなろうと知ったこっちゃねえ。世界を滅ぼす?全人類を絶望に?好きにしろ、勝手にしろ、俺には関係無いからな。……だが、お前は俺の世界すらも壊しやがった。俺の愛する人を殺し、俺の愛する世界を壊した。俺が今、どれだけ腸煮えくり返りERRORを殺したいかお前には分からねえだろうが……今からお前を殺す理由、それだけだ」

その直後、甲斐斗の足元と額に黒く輝く魔方陣が浮かび上がると、周囲を巻き上げるような突風が吹き、甲斐斗の全身を巡るように魔力が流れ始める。

たったそれだけの行為でこの世界に集結したオリジナル以外の全ERRORは意識が保てず次々に痙攣を起こしながら死んでいくが、集結したオリジナル達は誰一人として怯む事はなかった。

「何勝手に死んでやがる、俺はまだ何もしてないだろ」

甲斐斗にとって微々たる魔力をほんの僅かに体内から出しただけで、集結したオリジナル以外のERRORにとっては余りに強力すぎる力の存在に肉体と精神が崩壊してしまう。

そして甲斐斗が自分の全力を発揮しERRORと戦おうとした直後、ふとオリジナルから聞き覚えのある声が聞こえてきた



───『甲斐斗』

聞き覚えのある声に名前を呼ばれた甲斐斗は一瞬眉を顰めたが、その声の主がエラであることに漸く気付く。

「何だ、お前喋れるのか……って、この声。エラか?」

何故オリジナルがエラの声を出しているのか分からないが、思い出してみればエラの命がオリジナルに溶け込んでいく様子も甲斐斗は確かに感じ取っていた事を思い出す。

『ああ、今の私はオリジナルと同化しているからな』

「マジか。今からそいつ殺すんだが」

『構わない。私もERROR、お前達人類の敵に変わりはないのだから』

「そうか、割り切れてるなら話は早い。てか、それなら何で俺を呼び止めたんだよ」

今から戦おうと言うのにエラに呼び止められ甲斐斗は少し不満気な表情を浮かべる。

『甲斐斗……お前は今、《全世界の滅亡》と《全世界の平和》、どちらを望む?』

唐突な質問に益々甲斐斗は眉を顰め腕を組んだまま首を傾げるが、どちらを望むと言われれば当然答えは決まっていた。

「何だ急に。どっちかって言われたら全世界が平和の方が良いだろ」

『ならば甲斐斗。お前はここで消えてくれ』

「……相変わらずお前は言葉のキャッチボールが出来ねえな、意味不明な発言は止めろ」

オリジナルと同化してもエラは相変わらず分かりにくい言い回しを使っているが、甲斐斗はそんなエラの言葉に嘘偽りはない事はだけは確信していた。

『なくてはならないんだ』

「なくてはならないって……お前……まさかっ……」

甲斐斗は少しずつエラの言葉の意味を理解すると共に整理しようとしたが、エラは甲斐斗に考える時間など与える事無く本題に入る。

『全世界が平和になり全人類が幸福に暮らせる世界を存在させるには、それと対立する世界の存在が必要になる』

甲斐斗が思ったとおり、エラはこの世には必ず『対立する存在』がある事に気付かせようとしている。

だが不自然な内容に甲斐斗はエラの発言を聞いて反論してみせる。

そもそも平和な世界があれば破滅する世界が有るのも理解できるが、『全世界』と言ってしまえば二分する事など不可能になる。

「矛盾してやがる……全世界の平和の為に全世界を滅亡?支離滅裂な話をするな」

正直に言えば意味不明な事をエラが言っている事を分からせる為に甲斐斗はそう言うが、エラは平然とした様子で言葉を続けた。

『いいや、至って正常な回答だ。何故ならこの次元の全世界は平和な世界と対立する《破滅の世界》なのだから』

「……は?」

平和な世界と対立する世界……それがこの世界だという事に甲斐斗は言葉を失うが、頭の中は意外にも冷静であり、エラの今までの発言を全て思い出していくが、エラが更に言葉を続ける事によって甲斐斗の疑問がこの世界の核心へと近づいていくのを感じた。

『世界には必ず二つの対立した物、現象が存在する。甲斐斗、お前もそれは知っているだろう?光と影、表と裏、生と死……その法則は絶対。この世界もまた、二つの対立する世界の一つに過ぎない』

絶対の理の下、二つの対立した存在は必ず有る。

どこかで聞いた事のある言葉、確か最後のEDPでセレナが同じような発言をしていた事を思い出すが、甲斐斗はその世界の法則を知っているからこそ、エラの言葉が矛盾している事を指摘した。

「馬鹿なっ……全世界を平和な世界にする為に、全世界が破滅する世界が存在するとでも言うのか?ありえないだろ!」

『確かに。絶対の理の下、同じ次元では有り得ない。だからこそ我々が存在しているんだよ、甲斐斗』

ERROR。

何故この世界にERRORが存在するのか、その意味を直接ERRORから聞かされる事になるとは甲斐斗は思っていなかったが、黙ってエラの話を聞き始める。

『……ある存在は世界を創世しようとした。全世界の全人類が平和に、幸福に暮らせる世界を。だが、その世界を創世する事は出来なかった。何故なら望む世界とは全く逆の対立した世界が存在しないからだ、尤も、存在出来るはずもないのだがな。だが、その存在は諦めなかった……この世の全ての法則を捻じ曲げてでも望む世界を創世しようとしたが。余程無理をしたのだろう、全世界の法則を捻じ曲げる程の強力な力で無理やり創生されていく世界。当然その行為は世界に異常を齎し、第三の選択であるDeltaプロファイルが起きてしまった』

それは矛盾の選択。

全世界が平和な世界を創生するには、それと対立する全世界の存在が必要になる。

絶対の理の下、対立する存在が無いものがこの世に生まれる事は決してない為、『平和』と『破滅』どちらか一方の世界が全世界として存在する事は不可能だった。

だが、その法則を無理やり捻じ曲げる事で異常が発生し、世界は大きく歪んでしまう。

そして生まれた結果が、同時に存在できないはずの世界が存在する矛盾の世界が出来てしまった。

「Deltaプロファイルだと……じゃあ齎した異常って、まさかお前等ERRORの事かよッ……!」

『いかにも、ERRORとはその異常によりこの世に存在させられた生命体であり、《創世者》と対立する《破滅者》として生まれて来た存在。ERRORが生まれたと同時に世界は二分化され、並行世界パラレルワールドが創世されてしまった。そして、《全世界が平和な世界》、並行世界である《全世界が破滅する世界》。対立する世界が生まれた事により創世者は望んだ世界を手に入れる事に成功したのだ。我々ERRORが存在しない世界、それが創世者が望んだ《全世界の全人類が幸福に生きていく世界》となり。対して我々破滅者であるERRORが存在する世界が《全世界の全人類が絶望し消えていく世界》となった』

無理やり世界を作り変えた事により世界の法則が乱れる異常が発生し、Deltaプロファイルが起きた。

その代償にERRORは生まれ、破滅の並行世界を生み出してしまった。

全ては創世者と言われる存在によって引き起こされた事。

甲斐斗はエラの話を聞きながら今、自分のいる次元の世界が平和と対立する世界というのを知り、険しい表情をしていた。

今なら分かる。何故全世界の全人類がERRORに勝てなかったのか。

どうしてERRORという生物が人類を弄びながら追い詰め、無残に殺し続けていたのか。

何故ならこの次元の全世界は破滅する為に作られた世界、人類は絶滅する運命さだめだからだ。

「……結局、その創世者とやらは全世界を平和にする事に失敗したのか」

『いいや、成功だ。何故なら創世者がこの並行世界の存在を知る事もなければ来る事も出来ないのだからな。実質的に見れば全世界が平和になったとしか見えない』

「なるほどな。つまり平和と破滅、二択の選択肢の内、創世者とやらは平和な世界の次元に要るから間逆である破滅の世界の存在は知らないのか。平和な世界で全人類が幸せになっている一方で、こっちの世界の全人類は絶望に叩き落されながら殺されてるっつーのに。その創世者って奴殺してやろうか」

意図的に作った世界ではないのは分かったが、勝手な我侭で世界を捻じ曲げ破滅の世界を作り出した事に苛立つ甲斐斗。

全世界を平和にするという大層な望みは別に構わないが、その代償で破滅の世界を作り出され、その世界で生きる人々が殺されていく現実を創世者は作ってしまったのだ。故意でなかろうと許せるはずがない。

「世界の創世者に並行世界パラレルワールドか、過去に帰ったら忙しくなるな……てか、その創世者って何者なんだ?」

『定かではない。何者が何時何処でどのように作ったのかは我々にも分からない』

並行世界が出来た事により生まれたERRORの存在。

甲斐斗は百年前にいた世界の事を思い出していくが、その時はまだERRORという存在を知る事も無ければ世界がERRORに襲われるという事も無かった為、少なくとも並行世界が作られたのは自分が百年前の世界から消えた後の事だと推測できる。

エラの言葉を聞いた甲斐斗は少し間を置き深く考え始めると、納得するかのように頷いた。

「そうか……、じゃあついでにもう一つ質問。神が消えた後も世界のレジスタルを制約していたのはお前だったが、ミシェルを利用して俺の力を制約していたのもお前の仕業か?世界のレジスタルを制約していたのもそうだが、何故態々そんな事をする必要があったんだよ」

甲斐斗にはどうしても確認したい事があった。

レジスタルの魔力が回復しなかったのはERRORの魔法によるものだったのは分かっている。

だが甲斐斗の力を制約していたのは紛れも無くミシェル本人だった。

制約していたのがミシェルの意思で無いとしたら、一体誰がどのような目的でミシェルを利用し甲斐斗の力を制約したのか気になっており、最早ERRORの仕業としか思っていなかった。

『人類を絶望させ、世界を破滅へと導く為には力の均衡が必要だ。元々この世界は神が制約したとおり、魔力の無い者が魔法を使用するには己の命を削り魔力へと変えるか、他の存在か物体から魔力を移すか、その二択しか存在しない。当然この世界の人間はその制約の下で戦い、この世界のERRORもそんな制約された人間と戦うように作り上げた。神が消えたあの時点で魔力の制約が解かれ世界の均衡が崩れる事は我々の望む過程には必要ない』

「最後に制約を解いたのはお前自身が戦場に出る事で均衡を保つ必要も無くなったからって事か。だったら俺に対しての制約はどうなる、何故俺だけミシェルに……」

『それはお前の力が第一MGであるミシェルでなければ制約する事は不可能だったからだ。気付いていないだろうが、お前が気を失った状態でこの世界に来た時、既にミシェルの力によって制約はさせてもらった。兵器である神に拘束されている所を、私達ERRORが逃がしたその代償でな。その後は制約を解く方法と一部の記憶を削除し自由を与えてやった』

ここまで来たらもう隠す必要もないと悟ったのか、エラはオリジナルの記録してきた情報を読み取り伝えていく。

エラの言葉を聞き甲斐斗は満足するかと思ったが、納得いかない事はまだある為更に言葉を続けた。

「何故そこまでする。それならその時に俺を殺していればいいだろ」

『私達ERRORはただ単に世界を破滅させる為の存在ではない。もしそうだとしたら人類など一瞬で消せる。ERRORが求めるのは最悪の過程の中で苦しみ絶望しながら消えていく人間達の姿だ』

「俺を生かしていたのも、態々俺やミシェルを絶望させる為にやったって事か……だがお前は見誤ったな、俺は最強の力を取り戻した。今更後悔しても遅いぞ」

『まだ分からないか。今更お前が力を取り戻した所で結果は決まっている。さて、決心はついたか?』

力を取り戻し自信有り気な甲斐斗の態度を見て、エラは最後の確認を行う。

最悪の過程の中、破滅の運命を辿る世界で残った人類は後一人。だからこそエラは甲斐斗の意思を確認しようとしたが、甲斐斗はエラの言葉に首を傾げてしまう。

「決心?何のだよ、今更何を言われようとも俺は戦うからな」

『……並行世界の完成は既に決まっている。つまり、この次元の全世界の全人類が絶滅する結果は確定している。それでもお前はERRORと戦うと言うのか?』

「俺がここに残って戦う理由はもう伝えたはずだぜ。それに、俺がここでお前等ERRORを一匹残らず全滅させれば人類は絶滅しない、そうなると並行世界はどうなるんだ?対立する世界が消える事になるんだぜ?俺がERRORの思い通りにはさせないからな。だが……エラ、お前は引っ込んでろ。俺が戦いたいのはこの世界を滅ぼした『オリジナル』自身だからな」

俄然戦う気の甲斐斗、最早エラが何を言おうが甲斐斗が止まる事はない。

『それがお前の選択か……分かった、私は眠りにつくとしよう。だが……最後に一つだけ、お前に愛が何たるかを教えやろう』

そう言われ甲斐斗はエラと会話した時の事を思い出す。

正直甲斐斗には愛が何かなど語れはしないし説明も出来ないが、エラは今まで起きた出来事、世界を見てきて一つの結論を出した。

『愛とは───異常だ』

その言葉の後、オリジナルから感じいていたエラの意思が消えると、エラが深い眠りに付いた事を甲斐斗は感じ取った。

ERRORとして生まれ、この破滅の世界とオリジナルの中にあった情報を見たからこそエラが辿り着いた答え。

「エラ、お前らしい捉え方だな。教えてくれてありがとよ」

この破滅の世界は人類の平和を愛する創生者の手によって作られてしまった世界、その大きな愛は世界や次元すらも超越してしまったのだ、だからこそエラはその答えに辿り着き、甲斐斗もまたその答えに納得する。

「正直ERRORの話には驚いたけど、今から俺が戦う理由とは全く関係無いから今更止めたりしないぜ」

そう言って甲斐斗は愛用の黒き大剣を手元に出して見せると、それを地面に突き刺し手を翳した。

「ちなみに、俺が本気を出した回数は今回で四回目になるが、俺が本気で覚醒するのはこれが初めてだ」

目を瞑り、甲斐斗は深呼吸を始める。

この世界に来たときの事を今でも鮮明に思い出せる。

気を失い戦場に倒れていた自分をアステルと勘違いされ、無理やり軍に所属させられERRORと戦う事になった。

そして出会った少女ミシェル。彼女は甲斐斗に生きる意味を尋ね、甲斐斗はその意味を答えてみせた。

簡単な事、『死にたくないから生きる』そう言って甲斐斗はミシェルに生きる幸せを教える為、共に生きていく事を決める。

NF、BN、SV。そしてERRORと神による人類の存亡を掛けた戦い。

常に戦場の最前線に立ち続けた甲斐斗は知っている、この世界の為に戦う人間達の姿はとても勇ましいものだった事を。

色々な人達と出会い、時に対立し、時には分かち合い、時には戦い合い、時には共に世界の為に戦った。

破滅の世界、絶望の世界……それでもこの世界には甲斐斗の居場所があった。

こんな最悪な世界でも楽しい日々を過ごせた時もある、馬鹿言って、ふざけあって、笑いあって……。

世界の真実を知っても甲斐斗は戦う。

誰の為でもない、自分自身の為に。

目を瞑っていた甲斐斗の目から一筋の涙が零れ落ちた。

この世界で甲斐斗は確か手にしていた、自分の望む、自分の世界を。

愛する人がいて、愛してくれる人がいる世界を───。



───「レジスタル・オーバー・リリース」

今、最強の力は覚醒し、全力が解放される。

魔法の力で戦闘用の黒い魔装着に身を包み、甲斐斗は変身を遂げた。

覚醒により黒い波動が甲斐斗から放たれたかと思えば、空に浮かんでいた無数のオリジナルが次々地面に落ち苦しみもがきながら死んでいく。

すると、人の大きさ程のオリジナルのERROR達が一瞬で甲斐斗を囲うように現れると、一斉に触手を伸ばし甲斐斗を串刺しに掛かるが、甲斐斗は目の前に立っているこの世界を滅ぼしたオリジナルを見つめながら喋り始めた。

「ERROR、何で俺が自分の事を最強って言うか知ってるか?」

四方を囲っていたERRORは全身をバラバラに切り裂かれ、肉片が宙を舞う。

ERRORの肉体が再生される事は無く、切られた肉片は塵と化し無に還る。

その光景を見ていた空に浮いているERROR達が一斉に魔方陣を展開し甲斐斗目掛け千を超える攻撃魔法が放たれる。

あらゆる魔法の刃が甲斐斗に向けて放たれ、その閃光は目を覆いたくなるほど眩しく世界一面を一瞬光で

包んだが、光が消えた時には甲斐斗はその場から一歩も動いておらず傷一つ付いていない。

そんな甲斐斗の背後には、黒剣を手にした甲斐斗愛用の機体『魔神』が立っていた。

「それは俺が全力で戦った時───世界はいつも俺一人になるからだよ」

全力を出した後、戦場で最後に立っているのはいつも甲斐斗ただ一人。

『孤独』───それは甲斐斗が己の全ての力を解放し、本気で戦える条件でもあった。

強大過ぎる魔力の開放により、その世界に存在する全ての生命体は命の危機に晒される。

人間は勿論。昆虫や動物、植物といった物でさえ圧倒的魔力に蝕まれ、最悪命を落としてしまう。

『本気』を出しただけでも世界が崩壊し危険に晒される。それが分かっていたからこそ甲斐斗は今まで本気で戦ったことが数少なかった。

この世界で神と戦った時もそう、確かに甲斐斗は持てる力を使い戦いはしたが、あの時発揮していた力は甲斐斗が本来持つ力とは程遠いものであり、『本気』を出してしまえばミシェル所かこの世界にいる人間達を死に至らしめる恐れがあった為、普段通り力を抑制し本気を出す事なく戦い勝っていたのだ。

だが、今は違う。『本気』所か『覚醒』を遂げたとなると、世界の状況は更に悪化していく事になる。

その証拠にこの世界の生命体は無差別に次々と息絶えていくが、今の甲斐斗にとって人間のいないこの世界の事など今更何の価値も無く覚醒を維持し続ける。

本来なら覚醒した瞬間にこの世に存在する全ての生命体は死ぬはずだが、さすがはオリジナルのERRORと言った所だろう、この世界に集結した半数以上のオリジナルは甲斐斗の魔力を感じても尚耐え抜き生存していた。

そんなオリジナルを見て甲斐斗は自分の背後に立っている魔神に向かって飛ぶと、操縦席の扉が開き颯爽と機体に乗り込む。

覚醒した甲斐斗の力を受け、機体である魔神は更なる力を得ていた。

世界を覆うように集結したオリジナルのERROR達が一斉に魔神に向けて攻撃を仕掛けていく。

すると甲斐斗は攻撃を回避する所か焦った様子も見せず、魔神の両手を伸ばし掌を向かい合うように広げた。

「レジェンド・ゼロ」

片腕で発動していた時とは違う、両手を重ねるように向かい合わせて放たれた甲斐斗の魔法。

それは魔神の魔法を最強の力で更に改良し、進化を遂げた魔法となっていた。

両手から放たれた互いの魔法はぶつかり黒い閃光を放つと、黒い波動が世界を瞬く間に飲み込んでしまう。

甲斐斗の前にいたオリジナルは咄嗟に触手で全身を覆う程の赤い盾を作ると、前回と同様に魔法を防御しにかかる。

魔神から放たれた魔法はオリジナルの盾に直撃するが、オリジナルの盾には傷一つ付かず消滅もしない。

最強による無の一撃はオリジナルに悉く通用せず、魔神の両手から閃光が消え、魔法の発動を終えるのを確認した後、盾の形をしていた触手を元に戻した。

魔神だろうが最強だろうが、ERRORには敵わない。

この世界は異常、ERRORこそ絶対的力を持ち、人類は絶滅する運命を辿る───。

反撃に移る為に盾を解き、攻撃を仕掛けようとしたオリジナルの視界には綺麗な青空が広がっていた。

大地にも、大空にも、宇宙にも、もうこの世界の何処にもERRORは存在しない。

全てを滅するはずの魔法が全包囲に放たれたと言うのに基地も世界も消滅しておらず、その世界は一体のオリジナルを残しERRORだけが完全に消滅していた。

「お前、まさか今更俺と対等に戦えるとでも思ってたのか?お前等如きが俺の相手になる訳ねえだろ。俺いつも言ってたよな、俺は『最強』だって。安心しろ、お前だけはちゃんと『殺してやる』よ」

この時オリジナルは理解する。盾で魔法を防いだ訳ではなく、自分だけが意図的に残されたという事に。

「お前にはこの世界で人類が受けた全ての死を受けてもらわないとな。でも、お前って痛みとか感じないだろ、それって卑怯だよな」

そう言って魔神は両手の腕を構えるように下げると、背部に黒く輝く魔方陣を展開し最強が扱う二つ目の魔法を発動した。

「アビリティ・ゼロ」

そう呟いた甲斐斗は、魔神の右手をオリジナルの胸に当てた直後、背部にあった魔方陣が魔神を通しオリジナルを飲み込んでしまう。

魔神の魔法によりオリジナルは直ぐにその場から離れ空に逃げる、確かに魔神の魔法はオリジナルに直撃したが、特に変わった様子は無く魔力を失った訳でも、体の自由を奪われた訳でもなかった。

魔神が何をしたのか理解出来ないオリジナルだが、その魔法の効果は身をもって知らされる事になる。

一瞬でオリジナルの前に魔神は跳躍すると、空を飛んでいたオリジナルの顔面を抉るように振り下ろされた左拳が炸裂する。

顔を歪ませ地上に落とされるオリジナル、それを見た魔神は胸部に目掛け右手に握り締めていた黒剣を放つ。

投げられた黒剣はオリジナルの胸部を貫き肉体を地面に固定させると、血飛沫を上げながらオリジナルは抉れた地面の上でのた打ち回っていた。

『ギィィィィイイイイイイイイッ!?』

奇声を発するオリジナルは激痛で何も考える事が出来ない。

生まれて初めて感じる『痛み』という感覚。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い───。

頭が痛い、腕が痛い、足が痛い、全身が痛い。

傷は瞬く間に再生されていくものの、魔神に殴られ地面に叩き落とされた痛みや胸を貫かれる痛みは決して消えはしない。

痛みで泣き叫ぶオリジナルを見つめながら魔神は地上へと降りてくると、毅然とした態度で一歩ずつゆっくりと近づき始める。

「人間って傷付くんだよ。心も体も傷つき、痛みに耐えながら人は戦い、生きていく。なのにお前は傷つきもせず痛みも感じない。不公平だよな、最強の俺だって傷つくし痛みを感じる、だからお前には『痛みを感じない』という特性を消させてもらった。これでお前も人間同様に痛みを感じられる」

地面に倒れていたオリジナルの胸部から黒剣を引き抜き、頭部を鷲掴みにして持ち上げていく魔神。

血だらけのオリジナルはそんな魔神の姿を見て、痛みに伴いある感情が芽生え始めようとしていた。

「さあ、始めようぜ。時間はたっぷり有る、お前は俺の世界を壊した代償として今まで殺してきた人間の数の十億倍は死んでもらうけどな」

魔神の紅く鋭い眼光はオリジナルを睨み付けたまま決して逸らさない。

その目を見たオリジナルの中には、『恐怖』という感情が芽生えていた。

顔を殴られ、胸を一刺しされただけでであれ程の痛みを伴った、これから魔神は容赦なくオリジナルを千切り、潰し、切り刻み、苦しませる為のあらゆる殺し方を実行していくだろう。

すると頭を鷲掴みにされていたオリジナルは両手を魔神に向け背部の触手を広げ赤い粒子を拡散させると、あのアギトを消滅させた赤い光の刃を天空から魔神に向けて放った。

だが魔神は左手に握り締めた黒剣を天に掲げると、赤い光の刃を容易く切り裂いてみせる。

「いいぞ、もっと抵抗しろ。じゃないとつまらないからナ」

その言葉は甲斐斗以外の意思も感じられた。

甲斐斗の中には三つの心が宿っている。少なくとも、これからオリジナルを殺すのは本心でもあり、邪心でもあるのだろう。

「ワールド・ゼロ」

この男はただの最強ではない───それに気付いた時、甲斐斗によるオリジナルへの一方的な虐殺が始まった。




───「味わっただろ、人類が受けてきた苦痛と恐怖」

魔神の操縦席に乗っていた甲斐斗はそう呟くと、オリジナルの頭部を鷲掴みにしていた右手をゆっくり離していく。

するとオリジナルは全身を硬直させ、まるで棒切れが風に倒されるように無気力なまま倒れてしまう。

もうそこにはERRORでも生命体でもない、抜け殻のような空っぽの血肉の塊しか存在していなかった。

甲斐斗は魔神に乗りオリジナルの顔を一発殴り剣で一刺ししただけ。後は一切オリジナルを攻撃する事は無かった。

だが、オリジナルは確かに感じていた。無限に続くのではないかと思う程の気が遠くなる時間の虐殺の数々を。

それは甲斐斗から見れば刹那の瞬間に起きた出来事に過ぎず、魔神は黒剣を両手で掴み高らかに振り上げた。

「お前の中にある世界を無にしただけだ、作り変えるのは簡単だった」

甲斐斗がオリジナルの頭部を掴んだ時に呟き発動した第三の魔法『ワールド・ゼロ』。

それはオリジナルの脳内にある世界を無に変え、自分の思い通りに作り直すものだった。

作り出された世界は幻覚。しかし、その世界では受ける痛みも、過ぎていく時間も現実と何ら変わりはしない。

現実からしてみれば一秒にも満たない間に、オリジナルは無限の死と絶望を味わったのだ。

躊躇いもなければ容赦もなく、慈悲の心もない。ERRORと全く同じ遣り方でERRORを壊した甲斐斗は、黒剣を振り下ろしオリジナルを真っ二つに両断する。

「あばよERROR、俺達人類の勝ちだ」

オリジナルは抵抗せず、暴れる素振りも見せぬまま両断された肉片は塵となり無へと帰っていった。



───その余りにも呆気無いERRORの最後は、本当にERRORに勝利したのかと違和感を感じる程だったが、この次元の世界からERORRが完全に消えた事は紛れも無い事実だった。

何も存在しなくなった荒野の上で一人空を見上げる甲斐斗。

綺麗な青空が広がり、真っ白な雲が幾つか浮かんでいるのを見た後、過去に帰る為の魔方陣が描かれている格納庫へと歩いていく。

そして再び格納庫の中に入り魔神を魔法陣の中で跪かせた後、甲斐斗は機体から降りると血塗れに倒れる神楽の死体の前に立った。

ERRORを倒しこの世界を救った所で、甲斐斗の気が晴れる訳でもなければ失った人達が帰ってくる訳でもない。

自分でも十分に分かっていた事なのに、甲斐斗の目からは無性に涙が零れはじめる。

涙を流しながらも無言で神楽の体を優しく抱き上げると、この基地で戦っていた人達を弔う為に行動を開始した───。



───基地の前に掲げられた三つ旗、それはNF・BN・SVの其々の勢力を現した旗を立て、その前にはこの基地で最後まで戦った兵士達の墓が広がっていた。

墓と言っても綺麗なものではなく、ただ穴を掘り兵士の亡骸を埋めただけに過ぎないが、一人一人別々の墓穴を作った甲斐斗は可能な限りの墓を作り続け、全ての亡骸を埋葬する

そこには今まで共に戦ってきた仲間達全員の墓が有り、亡骸はなくとも墓だけは自分の手で作り花を手向けていた。

だが、その花は基地内にあった造花に過ぎない。既にこの世界の花は甲斐斗の魔力の影響を受け、全て枯れ果て散ってしまったのだから……。

相変わらず空は晴れている、甲斐斗は靡く三つの旗の前で再び空を見上げた。

「帰るか」

もうこの世界に残る理由もない。

それに早く過去に帰って未来を変えなければならない。

皆が託したこの想いを胸に甲斐斗はゆっくり格納庫で跪く魔神の元へと歩いていく。

一歩ずつ魔神に近づいていく甲斐斗は、これからの自分の人生について考え始めていた。

最強の力を持っていたからといってその力で何かを成し遂げようと思った事などない。

大義や使命もなければ、生きていく目的も未来の目標も無い。考えてみれば何もかも曖昧だった。

失い続ける人生に嫌気が差し、極力他人と関わる事を避けていたあの頃。

それは現実から目を背け、逃げ出していたからかもしれない。

俺に世界を変えられるだろうか───などと弱気になっていては、きっと皆に怒られる。

思わず笑みを零しそうになる甲斐斗は、気付けば魔神の目の前にまで来ていた。

皆は信じてくれた。甲斐斗が最強だと。そして甲斐斗も信じている、自分が最強だと。

甲斐斗は颯爽と魔神に乗り込み操縦席に座ると、魔神の手元に黒剣を出し、その剣先を目の前の地面に突き刺した。

世界は変えられる、未来は変えられる。ERRORは結果が決まっていると言っていたが、そのERRORももういない。

人類がERRORに勝利したのは紛れも無い真実、甲斐斗はそう思いながら黒剣に魔力を溜めようとした直後だった。

「ッ───!」

目を見開き魔力を止めてしまう甲斐斗は漸く気付いてしまった、ERRORの言っていたその全ての意味を。

破滅の並行世界の完成は確定。人類の絶滅も確定しているとERRORは言っていた。

それはERRORと人類が戦い、ERRORが勝つ事で成し遂げられるからではない。

人類最後の人間、甲斐斗は必ず世界を変える為に過去へと戻る……つまりこの破滅の世界から最後の人間が消える事は確定していたからだった。

「そういう、ことかよ……っ!!」

エラの言葉を思い出した甲斐斗。既に並行世界の完成は決まっている、全人類が絶滅する結果は確定しているといい、確かに最後に聞いてきた『それでもお前はERRORと戦うのか?』と。

ERRORが最後に甲斐斗と戦ったのは、甲斐斗を殺し世界を破滅に導く為ではない。

オリジナルのERROR達は甲斐斗の『戦う』という望みを叶えてあげただけ、ERRORからしてみれば人類最後の人間が甲斐斗一人になった時点で既に役目を終えていたのだ。

この世界、最後の人間が何をしようとこの世から人類が消える事は確定している、つまりオリジナルのERROR達は世界を破滅させようと本気で甲斐斗と戦った訳でもなく、最後に甲斐斗と戦ったのも人類最後の人間の思いに答えた単なる余興に付き合っただけに過ぎなかった。

甲斐斗はERRORと戦った時に感じた違和感の正体に気づいてしまい、背凭れに体重を乗せたまま脱力してしまう。

「俺が一人この世界に残った時、既に世界の破滅は完成していたって事か……」

弄ばれていた。

人類は、最後の最後までERRORの掌の上で踊らされていた。

ERRORは本気で甲斐斗と戦っていない、最後に甲斐斗と戦う事に意味など無く、勝敗などERRORから見れば既にどうでもいい、だからERRORは余りにも呆気無い程に消えてしまった。

「結局俺は……この世界を変える事すら出来なかったのか……」

甲斐斗が過去に帰る事は、即ちこの次元に有る世界の全人類の絶滅が確定する事になり、同時にERRORの役目を自らが果たしてしまう事になる。

「ERROR……俺に選択させる気か……」

だが、たった一つだけ世界をERRORの思い通りにさせない方法がある。

それは甲斐斗がこの世界に残る事。そうなれば人類の絶滅は防がれ、破滅の世界は完成しない。

ERRORが確定していると言い切った結果を打破するにはこれしか方法が無い。

もうどの世界を回っても人類は存在しておらず、人類の築き上げてきた文明も全てERRORに侵食され破滅している為、この世界でこれ以上人間が増える事もなければ生まれてくる事もないのだから。

「俺には最強って言葉より、孤独の方がお似合いなのかもな」

この世界に残るか、過去に戻るか。甲斐斗はどちらかの選択を選ばなければならない。

今なら分かる、第三の選択の偉大さを。

どちらかではなく、その法則を捻じ曲げ選択できる矛盾の選択、Deltaプロファイルの存在を。

甲斐斗は悔しさで俯き黙ったまま目を瞑ってしまうが、徐に顔を上げると小さな溜め息を吐いた。

「ERROR、全てお前の思い通りだよ。俺は過去に戻る。けどな、過去も未来も全て俺が変えてやる。そして俺が……必ずこの世界も救ってみせる」

この時、密かに甲斐斗の中に生まれた野心───。

その野心を胸に甲斐斗は自身の額に黒い魔方陣を浮かべると、黒剣に魔力が送られ充電率が軽々と百を超えてしまう。

「絶対に変えてやる。世界の───全てをッ!」

魔神の足元に広がっていた魔法陣が眩い光に包まれると、強烈な突風が吹き格納庫の屋根を全て吹き飛ばしてしまう。

真っ白な光に包まれる魔神。甲斐斗はその眩い光から目を逸らす事無く、皆から託された思いと共に強く念じた。

この世界で起きた事は絶対に忘れない。

この世界で出会った人達の事を絶対に忘れない。

この世界で出来た思い出は絶対に忘れない。

この世界で約束した事、必ず果たしてみせる。

ようやく気付いた、ようやく気付けた、この最強の力を使って自分が何を遣り遂げなければならないのかを。

この最強の力で、己の成すべき事を必ず果たす、だから───。

「俺は時を越え、過去に戻るッ!」

時を超える魔法は発動され、魔方陣の上に跪いていた魔神が一瞬で姿を消してしまう。

時を越える為に亜空間に飲み込まれていく魔神、魔力が有るからといって時を超え過去に戻る事が成功するとは限らない。

それでも甲斐斗は己の全力を解放し全ての魔力を時を越える為に注ぎ、強く念じ続けた。

すると、次第に甲斐斗の意識はゆっくりと光に飲み込まれていくと、甲斐斗はその光を掴むように右手を伸ばした。










───今、一人の少女と一人の少年の身に絶体絶命の危機が迫っていた。

跪く少女を庇うように双剣を握り締める少年が立っており、その少年の回りには負傷し動けなくなった仲間達が倒れている。

対する少年の前には、彩られた豪華な修道服に身を包んだ男が立っており、その後方には六人の守護神、MGマスターガーディアンが集結、更には屈強な鎧を全身に纏った百を越える兵士達が並んでおり、何よりその全ての兵士の後方にはあの兵器である『神』が立っていた。

修道服を着た男が双剣を握り締める少年に手を向けると、少年の後ろで跪く少女が涙を零し少年の名を叫んだ。

だが無情にも修道服を着た男から魔法が放たれ、少年を飲み込もうとした時───最強は降臨した。

少年の目の前に黒い光の柱が昇り、その光の中から現れた一人の男。

強い魔力が向かってくるのを感じ男は手元に黒剣を出すと、前方から向かってくる魔法をいとも簡単に両断してしまう。

光が消え、過去に戻ってこれたのかと思い気や、突如攻撃魔法が自分の元に迫ってくるのを見て何とか魔法を切り裂いてみせたが、ここが何処か分からない。

「出てきて早々いきなり攻撃されるとか無いだろ……ってか、俺過去に戻ってこれたのか……?」

愚痴を漏らし剣を右手に握り締めたままふと後ろに振り返ってみる甲斐斗。

そこには見覚えのある一人の少女が跪き。その少女の前には全身傷だらけの見覚えのある一人の少年が立っていた。

「……ふっ」

その二人を見て甲斐斗は軽く笑ってみせるが、甲斐斗の顔を見た少年と少女は信じられない様子で甲斐斗を見つめていると、二人はぽろぽろと涙を零しはじめる。

それは二人だけではない、少女と少年の回りで倒れている仲間達も甲斐斗の姿を見て愕然としていた。

「久しぶりだな。美癒、空」

そう言って甲斐斗は二人から視線を逸らし後ろに振り返ると、目の前に広がる世界を見つめた。

修道服の男に六人の守護神、そして嘗て一度は倒したはずの存在も居る、起動した神、荒れ果てた町、荒れ果てた世界。

どうやら時を越え無事過去に戻ってきたみたいだが、その世界は昔と比べて一変していた。



───世界最強の魔法使いである俺は世界を救うとかいう在り来たりな理由で過去に飛んだ。

そして目が覚めると、俺は魔法戦争真っ最中の世界に飛ばされていた。

何時だってそう。人類は平和の為、世界の為に戦い続けている。

そう遠く無い未来、並行世界が作られこの世界を含め全ての世界はやがてERRORに飲み込まれ、破滅を迎える時が来る。

手遅れになる前に、ERRORを生み出す元凶となる並行世界の創世を必ず阻止しなければならない。

過去と未来。その全てを変える為に俺はこの世界に戻ってきた。

皆との約束の為、そして俺の望む世界に為に、俺の戦いはまだ終わらない。





───「汝、何者だ……?」

修道服を身に纏った男は自分の魔法を容易く切り裂いた男に興味を示した。

その言葉を聞いた甲斐斗はニヤリと笑みを浮かべると、握っていた黒剣を地面に突き刺し腕を組み、毅然とした態度で堂々と言い放った。





「俺は甲斐斗、最強の男だ」






Deltaプロファイル -The End-

最後までDeltaプロファイルを読んで下さった読者の皆様、七年間本当にありがとうございました。

感謝の言葉と今後の活動、胸中等を活動報告の場にて全て書かせて頂きます。

是非目を通してもらえると嬉しいです。

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