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第180話 権化、鉄壁

───アギト対オリジナルの決戦が始まる最中、過去へ帰る為の準備を着々とこなしていた神楽だったが、ここに来て突如基地内の警報が鳴り響きはじめる。

「ERRORに進入された!?もう地下の隔壁が破られたというの……急がないとまずいわね」

地上からのERRORの進入は防いでいたが、地下から直接基地内にERRORが現れる事態になっていた。

魔方陣の形成は完璧、残るは黒剣に魔力を注ぎ込むだけであったが、未だに六割程の魔力しか黒剣に溜める事が出来ず、もう暫く時間が必要だった。

「後一時間も掛からないわ、魔力が完全に溜まり次第魔法の発動を頼むわよ」

既に灰皿には山のように煙草が積み上げられ、神楽は焦りながらも調整を続け確実に準備を進めていたが、ここまで来れば後はレジスタルが暴走を起こさないように監視するだけだった。

『確認しておくが、もしこの格納庫内にERRORが進入した場合。どうするつもりだ?』

「決まってるでしょ、貴方と私で排除するのよ。それでも間に合わない場合は途中で魔法を発動するしかないわ」

『その場合発動は不可能だ。ただでさえ困難な魔法だ、魔力が不十分では魔法の発動すら出来ぬぞ』

「だったら死ぬ気でここを守りきるしかないわね」

そう呟いた直後、神楽は装置の隣に置いていたパソコンにあるコードを入力すると、次々に格納庫の入り口に隔壁が下りはじめる。

新しい煙草を咥え火を付けた後、近くに置いてあった短機関銃を両手に一つずつ装備してみせる。

「人間の意地ってものをERRORに見せ付けてやるわ」

希望はまだ有る。その希望を絶やさない為にこの場所は絶対に死守してみせると決意し、ERRORとの死闘を覚悟していた。



───既にERRORとの死闘を繰り広げる愁。オリジナル対アギトの戦いは未だ嘗て無い程の激戦を繰り広げていた。

「お前さえ倒せば人類は───ッ!」

怒涛の如く拳を振るうアギトに対し、オリジナルはその場から一歩も動く事無く触手で作り上げた二本の腕を使い容易く攻撃を受け止め続けていく。

唯一顔にある口はニヤニヤと笑みを浮かべ余裕の表情を見せるオリジナルだが、その態度を見てアギトは更に加速し音速を超えて大きく振り被った右腕をオリジナルの顔面目掛け振り下ろした。

するとオリジナルは巨大な二本の腕を作っていた触手を一度全て解き放つと、アギトの全身に絡まり一瞬にして身動きを封じてしまい、オリジナルの顔面に触れる寸前で拳を止められてしまう。

「くそっ!」

触手は瞬く間にアギトを縛り上げ宙に浮かせると、弄ぶかのように地面に叩きつけはじめた。

何度も何度も叩きつけられるアギト。身動きもとれず弄ばれ続けるが、その装甲に一つの傷も負う事は無く、アギトは地面に叩きつけられる寸前に全ての触手を自力で引き千切ってみせると、着地と同時にオリジナルに飛び掛った。

「うおおおおぉぉぉッ!」

人類の平和の為に、アギトの重い拳は眼前の敵を滅する為に振り下ろされる。

余裕の態度で人類と戦うオリジナル、それは強力な力を持つからこその慢心。

人類の絶望の過程を望む為直ぐには息の根を止めず、弄び続けるそのオリジナルの余裕は人類が勝利を手にする為のチャンスでもあった。

「っ!?」

だが……もし人間が一匹の蟻と対峙した場合、全力で虫けらの息の根を止めにかかるほどの感情が生まれるだろうか。

そんな感情を抱きもしなければ、全力で相手をしようなどとも到底思わない。

振り下ろされたアギトの拳はオリジナルに触れること無く再び止められてしまう。

オリジナルによる魔法の発動。オリジナルの眼前には赤く光り輝く壁が作られており、容易くアギトの拳を受け止めた。

「こんな物で……アギトを止められると思うなよッ!!」

超高速で左右の拳を振るい光の壁を粉砕する為のラッシュが始まる。

その拳は空間を歪め、空気すらも破壊し爆発を起こすように轟音が炸裂するが、光の壁には傷一つ付きはしない。

「人類は決して諦めない、望む世界の為に進み続ける!どんな壁が行く手を塞ごうとも、人の意思は止まらない、止められないッ!!」

光の壁に走る一つの亀裂。瞬く間に光の壁には蜘蛛の巣が広がるように亀裂が走ると、オリジナルの作り出した壁を打ち砕いてみせた。

だが、その直後にオリジナルが発動した魔法はアギトを大地に跪かせる。

再び魔法で作られた光の壁はアギトを地面に押し潰すように空から落ちてくると、アギトの拳は再びオリジナルの眼前で落とされ地面に手を付いてしまう。

「何度倒れたって……」

アギトは直ぐ様立ち上がり懐に飛びかかろうとするが、光の壁は再びアギトに向けて落とされ思うように立ち上がれない。

「何度でも立ち上がる……!」

それでも立ち上がってみせたアギトに再び光の壁が落とされるが、アギトはその光の壁を両手で受けとみせると傷一つ無い装甲を輝かせ堂々と立ち上がった。

「それが人間の強さ……お前は俺達を、止められはしない───ッ!」

両手で受け止めてみせた壁を少しだけ浮かせた瞬間、完全にアギトの間合いに入っているオリジナルの顔面目掛け拳を突き出す。

今まで人類の前に立ち塞がってきたERRORを倒せたのは、全ては人の強い意志があったからこそ。

世界を見てきたオリジナルは人類を見て特別な感情が湧く事もなく、学習といったものもしていない。

ただただ望む過程と結果の為に成すべき事を成してきただけ、その中で得るものなど無く、失うものも存在しない───それこそがオリジナルと人類の望む世界の為に戦ってきた大きな違いだった。

仲間の死を乗り越え人々は強くなり続ける、その力はERRORをも凌駕し勝ち続けてきた。

言うまでもなく今までの人類の築き上げてきた成果は本物であり現実だが、アギトの攻撃が一切オリジナルに通用しないのもまた現実だった。

「どう、して……?」

愁の念願だったアギトの一撃は決まり、拳はオリジナルの顔面に直撃していた。

その拳はあらゆる物体を砕き、貫き、滅してきた鋼の拳。

しかし今、その拳を受けても微動だにしないオリジナルが目の前に立っている。

確かに最初の一撃はオリジナルに直撃し吹き飛ばす事が出来た、そしてそのスピードはオリジナルと同等だと思っていた。

力も、速さも、全てを兼ね備えたアギトならオリジナルに対抗できると愁は信じていた。

動揺を隠せない愁にオリジナルに追い討ちが始まる、今まで魔法を発動し続け下ろしていた右手を軽くアギトの腹部に当てると、容易く穴を空けアギトの下半身を吹き飛ばしてみせる。

「……でもっ───」

腹部から下を失ったアギトが地面に落下していくが、オリジナルはアギトと戦っている最中一度も動かす事のなかった右足を振り上げると、まるでボールを蹴るようにアギトの上半身を蹴り飛ばしてみせる。

軽い一蹴りはアギトを遠くに飛ばし、スクラップと化したアギトは機体のパーツを撒き散らしながら宙を舞う。

「それでも───ッ!!」

愁の心は決して砕けない、その信念は決して曲がらない、己の意思を貫き通す覚悟がそこには有る。

アギトに鏤められているレジスタルが発光し、愁の額に光り輝く魔方陣が浮かび上がると、アギトは宙に浮いたまま静止し失った下半身が光に包まれ瞬く間に復元されていく。

「俺達は諦めない!!」

復元された両足で地面に着地するアギト。対してオリジナルは自分の周りに無数の魔方陣を発動させると、その魔方陣からは赤い光の刃が弾丸の如く放たれ始める。

「うぉおおおおおおおおあああああああっ!!」

声を上げ愁はアギトを走らせる。

拳を振り上げオリジナルの元へと一直線に突き進み続ける、オリジナルの魔法を回避せず被弾し続けるアギト、装甲が剥がれ落ち、火花を散らしながらも決して止まりはしない。

すると、そのアギトの勇ましさを見ていたオリジナルは急に全ての魔法を止め、魔方陣を消すと、向かってくるアギトの方を向いたまま動きを止めてしまう。

何度力の差を見せ付けても抗い続けてくるアギトを見て、オリジナルはふと考えていた。

もしこの人間に己の持つ全力をぶつけた場合、それでもこの人間は立ち上がってみせるのかと。

右手をゆっくりと上げ、背部の触手を大きく広げるオリジナル。夥しい程の赤い粒子が触手や全身から溢れ始めるが、既にアギトはオリジナルの眼前まで迫ろうとしていた。

そしてアギトがオリジナルの目の前に来た瞬間、上げていた右手は下ろされた。

遥か上空で光の速さで展開された魔方陣から放たれる赤い閃光は、アギトを軽々と飲み込み塗りつぶしていく。

魔法の発動により空間に歪が走り、まるで次元を裂くかのような一筋の光に飲み込まれアギトの動きが停止してしまう。

異変は直ぐに起きた。光に飲み込まれたアギトは形状を保てずに圧縮されていくかのように装甲が曲がり歪んでいく。

操縦席に乗っていた愁は視界一面が赤い閃光に照らされても尚、その拳をオリジナル目掛け突き出していたが、視界が歪み目に見える物全てが曲がっていくのを見て、機体全体が歪んでいく事に気付く。

拳がオリジナルに触れるまで残り僅かな隙間しかないのに、アギトの拳がオリジナルに触れる事はもうない。それが分かった時、歪む世界の中で愁は涙を零すと、顔を上げ声を震わせながら叫んだ。

「俺は絶対に諦めないッ!!俺は、俺達は、人類は───あああああああああぁぁぁぁぁッ!!」

約束した。

平和の為に。

もう誰も嘆かない。

もう誰も争わない。

もう誰も死なない。

優しい世界の為に。

絶対にERRORに勝つ。

今まで死んでいった仲間達の為に、その託された思いを胸に今まで戦い続けてきた。

愁の思いを叶えるようにアギトはこの絶望的な瞬間にも輝き続け、更に機体の形状を変化し進化していく。

託された思いに皆のレジスタル、そして愁自身のレジスタルが真っ白に輝いていくが、その光は赤い閃光により徐々に汚れ、赤く染まっていく。

数々の皆との思い出が蘇り、涙で視界が曇りながらも叫ぶ愁。

戦争に振り回され、ERRORに振り回され、人に振り回され、家族も親友も恋人も全てを失い続けてきた愁。

この世界の辿る最悪の運命を変えようと最後の最後まで抗い続けてきた愁───。



そんな彼も、もうこの世にはいない。



───オリジナルから放たれた赤い閃光は次元を切り裂きアギトを赤く染めてたかと思えば、世界は再び元の姿に戻っていた。

ただ一つ変化した事と言えば、オリジナルの眼前に立っていたはずのアギトの姿は完全に消えていた事だった。

無敵の防御力を誇っていたアギトの消滅。魔法の発動を終えたオリジナルはアギトが立っていたはずの地面を見つめ続けていたが、それはただ己の強さを再認識しているだけのことに過ぎなかった。

己の余りの力の強さに世界を一瞬で破壊しかねない魔法を発動させてしまい、オリジナルは直ぐに魔法を止めた。

あと少しでも魔法を続けていれば次元の裂け目は拡大し、この世界は異次元に吸い込まれ簡単に消滅していただろう。

それではERRORの望む過程は作られない。オリジナルは今一度自分の使命を思い出すと、甲斐斗達がいる基地の格納庫に顔を向け、僅かに宙に浮きながら基地へと近づき始めた。

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