第179話 最初、最後
───ERROR対人類の戦いが幕を開ける。
空を舞う紫陽花は『魔法』の力により全ての力が解放され、八枚の翼を広げる機体へと進化していた。
更に自機の回りには紫陽花の花弁で作られたような紫色に輝く無数の紫陽花が召喚されると、その機体の一つ一つがただ幻影ではなく実体化している事に気付き、エリルは目に涙を浮かべて微笑んだ
「これが紫陽花の真の力……ありがとう、ラース!」
最高のプレゼントをしてくれたラースに感謝の言葉を述べると、紫陽花は両翼を前方に向け、無数の幻影もまた同じように翼を前方に向ける動作をしはじめる。
「咲かせるわよ!HRB発射ッ!」
紫陽花の後方、そして無数の幻影の後方にも光輝く魔方陣が浮かび上がると、幻影を含め十機以上の紫陽花が一斉にHRBの発射を開始した。
巨大な光の波は上空と地上から迫ってきていたERRORを軽々と飲み込み一瞬で掻き消していく。
「いける……これなら私達、ERRORに勝てる!」
紫陽花の力を見てエリルは人類の勝利に一歩近づいた事を確信する、それほどまでに覚醒した機体達の力は強力なものだった。
その力は紫陽花だけでなく、アギトや天極鳥にも目に見えて分かる程の強さを見せ付ける。
数万というERRORの大群の中に単機で突っ込むアギト、当然ERRORに囲まれ赤い波に飲み込まれてしまうが、アギトの周辺にいたERRORが突如塵となり粉々になって吹き飛ぶと、全身にオーラを纏った無傷のアギトが右腕を突き上げていた。
「『俺達』のアギトは……無敵だ」
その隙にDoll態などの遠距離兵器をもったERRORからの集中砲火を浴びるものの、全ての攻撃はアギトに触れる所かアギト全体を覆っているオーラに触れただけで弾き返され全くダメージを与える事が出来ない。
するとアギトは突き上げていた拳を勢い良く振り下ろし地面に叩きつけると、アギトを中心とした巨大な魔法陣が描かれ、その陣の中にいたERROR達は全員上から地面に押し潰されると、陣の描かれていた大地が割れ、眩い光が柱となり潰されたERRORを全て塵へと変えていく。
突き進むアギトを止められるERRROなど存在せず、アギトを破壊しようと次々に襲い掛かるERRORもアギトの前では無力と化し、次々にその二本の拳で粉砕され、貫かれていく。
天空を駆け巡る天極鳥もまた単機でERRORの群れの中に接近していくが、両手に握り締めた刀を振り上げると、巨大な光の刃が天をも貫く長さへと伸び、その巨大な刃を目にも留まらぬ速さで振るいはじめる。
「甲斐斗が過去に帰るまでの間、基地には一匹たりとも侵入させはしないッ!」
近接武器のはずが射程数キロに及ぶ光の刃の前にERRORは天極鳥に近づくことすら出来ず、狙撃兵器で攻撃を試みても天極鳥の動きを捉える事は不可能であり、全く歯が立たない。
圧倒的物量で全てを飲み込んできたERRORだが、ここに来て圧倒的な個の力により苦戦を強いられる。
押し寄せていたERRORの波も特機三機の力により止められてしまい、更に地上ではアバルロ率いる量産型Dシリーズ部隊がPerson態などの小さなERRORの進入を阻止していく。
猛威を振るう三機の特機、その光景に人類は希望を感じ、騎佐久もまた次元を超えた三機の力を見て笑みを浮かべてしまう。
「これがレジスタルの真の力……この力が有ればERRORにも───っ!?」
目で見なくても分かる程の強力な威圧感に騎佐久は空を見上げると、そこには既に半数の量産型Dシリーズを破壊し終えたERROR、『オリジナル』が存在していた。
「オリジナル───ッ!」
何かを食べているかのように口元を蠢かせ、背部から赤い触手を垂れ流し、人間に近い形をした真っ赤なERROR、オリジナルは既に戦場に姿を現していた。
アバルロの全ガトリング砲を空中に漂うオリジナルに向け一斉射撃を試みる、するとオリジナルはその全ての弾丸を避けようとはせず、平然とした様子でアバルロを見つめるように顔を向けたまま近づき始める。
「この化物がッ!」
放たれた弾丸をその身に受けても傷一つ付かず、血の一滴すら零れない姿を見て圧倒されてしまう。
すると周りにいたリバインや我雲がLRSを片手に背後からオリジナル目掛け切りかかり始める。それを見た騎佐久は一旦仲間を巻き込まないように射撃を止めオリジナルとの距離を置く。
オリジナルの肉体に我雲のLRSの刃が振り下ろされるが、LRSはERRORに触れた瞬間小枝のように簡単に折れてしまい何の外傷も与えられない。LRSが歯が立たないのを見たリバインに乗った兵士は機関銃の銃口をオリジナルの頭部に付け、零距離で射撃を始めるものの弾丸は一発も傷を与えることなく尽きてしまう。
LRSは折れ、機関銃の弾丸が尽き、攻撃手段が無くなってしまう機体達。
まるでそれを待っていたかのようにオリジナルは両手を伸ばすと、我雲とリバインの胸部に手を入れ中で操縦している兵士達を無理やり機体から引きずり出していく。
「くそぉおおおお!離せえええぇっ!」
リバインに乗っていた男性の兵士はオリジナルから逃れようと握られた右手の中でもがくが身動きがとれず、我雲に乗っていた女性の兵士は自分の置かれた状況に絶望し言葉を失っていた。
自由を奪われもはや自殺する事も叶わず、女性兵士は絶望した表情でオリジナルを見つめていると、オリジナルは右手で掴んでいた男性を口の中に投げ入れ、口を大きく開き見せ付けるように噛み砕きはじめる。
「嫌ぁっ!嫌ああああぁぁぁッ!!」
断末魔を挙げ涙を流しながら体を揺すりどうにか逃げ出そうとする女性兵士。
そこで見たオリジナルの口の中の光景、それは先ほどまで共に戦っていた兵士達がバラバラに食い千切られた死体の数々だった。
口の中では血飛沫を上げる死体が転がっており、女性は今から自分もあの中に入れられると想像するだけで失禁してしまい、気が狂いそうになっていたが、むしろ気が狂い意識が飛んだ方がよっぽど楽になれただろう。
その光景を見ていた仲間の兵士は、せめてERRORに喰われて殺される事だけは避けようとバズーカ砲をオリジナルに向けて放つ。砲弾はオリジナルの頭部に命中し爆風が辺り飲み込む、握られていた女性兵士は至近距離での爆発により命を落とすはず、無残にもERRORに喰い殺されるより遥かにマシな死に方だった。
するとオリジナルは浮遊したままゆっくりと爆煙の中から出て来ると、その意外な行動にその場にいた兵士達が困惑した表情で見つめてしまう。
右手で左手を包み込むような状態で煙の中から出てきたオリジナルは、態々女性兵士を砲弾の爆風から守ってみせたのだ。
右手を開ければ涙を流す女性兵士はまだ生きており、無事なのを確認できたが、次の瞬間オリジナルは左手を開け女性の体を指で挟んだまま固定し、右手で手足を一本ずつゆっくり引き抜いていく。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!」
引き抜かれた手足を口の中に放り込んだ後、手足を全て捥がれ勢い良く血飛沫を上げる姿を見て満足したのか、痙攣しながら白目を剥き泡を口から垂れ流す女性を見て軽々と口の中にいれ噛み締めていく。
まるで人間の絶望する姿を見たいが為の行動に、その場にいた兵士達は震えが止まらない。
だが、それは恐怖での震えではなく。仲間を無残に殺したERRORへの怒りの震えだった。
「必ず殺すッ!!」
二機の我雲がLRSを振り上げERRORへと接近していくが、それを見た騎佐久は直ぐに止めにかかる。
「待て!奴に近づくなッ!!」
量産型Dシリーズの武装ではまるで歯が立たないのは目に見えて分かっており、それこそ今オリジナルに戦いを挑む事など無謀以外の何ものでもなかった。
目の前で仲間を殺され黙っていられはいられず、二機の我雲がERRORの口元を目掛け同時にLRSを突き出す。確かに外側からの攻撃は一切通用しなかったが、内部からの攻撃であれば損傷を与える事が可能なはず、僅かな可能性に掛けての二機の連携攻撃に、オリジナルは瞬く間に右手を二機の我雲の胸部に突き刺し二人の人間を確保してしまう。
オリジナルの右手には二人の少女の兵士が向き合うように握り締められており、当然逃げ出すことなど出来ない。
「そんなっ……!」
攻撃を仕掛けたはずが一瞬で返り討ちにあい絶望していく少女達、するとオリジナルは左手の指で一人の少女の頭を摘みじわじわと引き抜き始める。
「いっ、痛いッ!痛い痛い痛い痛イ痛イ゛ィ゛!」
泣きながら激痛に苦しめられる少女と、その少女の姿を目の前で見せつけられる光景に少女もまた泣き始めていた。
「痛ッ!!ギッ、イ゛イ゛ィ゛っ!!───」
ブチブチと音を立てながら首だけを引き抜かれる少女、鼓動に合わせ首から噴水のように血が噴出ると、その光景を目の前で見せ付けられた少女の顔に血飛沫が降り注ぐ。
もはや言葉など浮かばず、空ろな目をした少女は大切な仲間を無残に殺され泣き叫ぶ事しか出来なかったが、泣き叫ぶ時間も与えられないままオリジナルに顔を潰された後、同じように口に運ばれ噛み千切られてしまう。
徐々に削がれ失っていくのは人類の戦力というより、無残な死を見せ付けられた兵士達の心の方だった。
人間を殺す事に何の躊躇いもなく、むしろ楽しみながら人間を殺していく姿はまさに悪魔そのもの。
次はどの人間を殺そうか───目の前に立つ機体達を見てオリジナルはゆっくりと辺りを見渡していると、後方から強い力を感じ後ろに振り返ってみせる。
その瞬間。アギトの右腕、砕く拳はオリジナルが振り返るタイミングとほぼ同時に振り下ろされ顔面に渾身の一撃を与えると、今までどの攻撃にも反応しなかったオリジナルが顔を凹ませ弾丸の如く吹き飛ばされていく。
「お前の相手は俺だ、ERROR」
アギトに乗る愁の登場。ERRORの群れの中にいたアギトはオリジナルが基地周辺に現れた事を知り真っ先に現場に向かうと、オリジナルに回避と防御をさせる隙も与えず一撃を御見舞いした。
「これの何処がなくてはならない事なのか俺には理解出来ない、だから人間を弄び続けるお前を絶対に許しはしない」
顔を凹ませながらオリジナルは体勢を立て直そうとその場に止まってみせるが、既にアギトはオリジナルの背後に回り左手でオリジナルの頭部を握り締めている。
力だけでなく速さも増したアギト。オリジナルに反撃の隙を一切与えず左手で握り締めた頭部をそのまま大地を粉砕する勢いで地面へと叩きつけた。
「───っ!」
危険を察知し一瞬で後方に跳ぶアギト。
愁の読みは正しく、地面に叩き付けたオリジナルの背部から延びている触手は棘のような形へと変わり爆発する速さで全方位に向かって飛ばされる。
付近にいた機体は避ける術もなく次々に棘の餌食となり、騎佐久の乗るアバルロも大破してしまうが。アギトは両腕を交差し盾のように構えるとオリジナルの棘を全て防いでみせた。
地面に顔を叩きつけられたオリジナルはゆっくりと顔を上げ再び何食わぬ態度で地上から僅かに浮遊すると、目の無い顔にも関わらず顔をアギトへと向け、愁は確かにオリジナルの視線を感じていた。
「お前の望む過程と結果は、俺のアギトが打ち砕く」
両手の拳を構え臨戦態勢に入るアギト。するとオリジナルは背部の触手を広げ始めると、一部の触手を使いアギト同様に二本の巨大な腕を形成しはじめていた。