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第178話 進化、覚醒

───過去に帰るの為の魔方陣が描かれた格納庫では、神楽が黒剣のエネルギーを送り込む為の準備を進めているが、その後ろに座っている龍の声を聞き神楽は装置を触っていた指を止めてしまう。

「レジスタルの制約が解かれてるですって?そういえば甲斐斗も同じような事を言ってたわね……」

過去に帰る為レジスタルの出力調整を行っていた神楽だが、今になって突然自分が予想していたエネルギーを軽く上回る程の量を確認し、困惑しながらも調整を続けていたが、その答えは既に甲斐斗が言っていた事を龍の言葉を聞き思い出す。

「まぁ、私達人類から見れば好都合だけど。出力が上がればその分甲斐斗を過去に帰しやすくなったもの、貴方の魔法も期待してるわよ。必ず甲斐斗を過去に帰してね」

そう言って再び調整を続けていく神楽に、龍は魔法を発動する者として伝えておかなければならない事があった。

『分かっている。我も出来る限りの事は協力するつもりだが……必ず同じ過去に戻れるとは思わないほうがいい』

「……どういうこと?」

『あの男が戻る世界が正確な過去であるか分からない。この魔法陣も一通り見させてもらったが、莫大な魔力を必要とする魔法に対して遥かに旧式の魔方陣だ、それに完成度も低い。魔法を発動出来る確率は極僅かだが、無事にあの男を過去に戻す確率はそれより遥かに低いだろう。戻る前に次元の歪に飲まれ消滅する可能性もある』

「それでもやるしかないじゃない。それに、甲斐斗ならきっと過去に戻れると信じているわ」

龍の言葉を聞き落胆するかと思っていたが、神楽は話を聞き終えたあとも特に落ち込む様子も見せず準備を進め始める。

『人間とは、根拠も無しによく信じられるものだな』

「根拠なら有るわ、何たって過去に帰るのは最強の男だもの。そうでしょう?甲斐斗……」

目の前に跪く魔神に見つめながら神楽はそう呟き、機体に乗っている甲斐斗との記憶を思い出し始める。

我武者羅で自己中心的な発言の割に、自分よりも他人の事を想い続け最後の戦いも決して諦めようとはせず、最後まで自分達の為に戦うと言ってくれたのは神楽だけでなくあの場にいた人達にとっても嬉しいものだった。

そんな甲斐斗の意思を捻じ曲げてまで過去に帰す必要が本当に有ったのかと言われれば、誰もが胸の苦しさみと辛さで言葉を躊躇いそうになるが、これは全世界の為に仕方の無い選択でしかなかった。




───世界は今、異様な増殖を続けるERROR達に覆われ始めている。

全ての国、全ての都市、全ての町、全ての村……人間が何処に隠れていようと必ずERRORは確実に追い詰め、見つけ出し、殺していく。

人類の数は僅か数時間で激減、地上に残された戦力はもはや東部軍事基地にある機体だけとなっていた。

そうなると地上に有る戦力が今最も集まっている場所になるが、ERRORが真っ先に東部軍事基地を狙うことはなく、他の地上にいる人間を優先して殺しながら少しずつ基地へと近づきつつあった。

基地の回りには魔石を搭載した天極鳥、アギト、紫陽花の三機の特機が囲うように待機し、アバルロと五十一機の量産型Dシリーズが其々の配置に着いていた。

人類の残存戦力は特機を含め残り五十五機の機体。対して押し寄せるERRORの数はその数万倍、地平線から大地が赤く染まりERRORの大群が押し寄せてきているのが見えてくると、エリルは自分の手が微かに震えている事に気付いてしまう。

するとエリルは目を瞑り深呼吸を始め、今までの自分の人生を思い出していく。

元は小さな村で平和に暮らしていたエリル、しかし核兵器の実験により家族を失い孤独の身となり核のトラウマと放射能の後遺症に苦しめられながら一人花屋を経営していたが、そんな彼女のささやかな平和も長くは続かず、戦争に巻き込まれ一度は命を落としてしまった。

そんな彼女を救ってくれた一人の男、ラース・グレイシム。彼はエリルに再び命を授け、新たな世界・人生へと陰からエリルを導いてくれた。

平和な世界へと戻そうとラースはエリルの記憶を書き換え、その後どのような人生を歩むか見届けようとしていたが、エリルは今の世界の状況を知り平和の為軍へと志願。ラースの複雑な心境とは裏腹にエリルは成果を挙げていく結果となった。

軍では羅威や穿真、愁と彩野にアリス、セーシュなど掛け替えの無い仲間が出来、過酷な戦いの中でも毎日を楽しく過ごす事ができた。

だが、その後は再びエリルを苦しめる世界へと変わってしまう。

彩野は無残に殺され、セーシュは自分達を救う為に一人戦場に残り戦死、愁は軍を抜けエリル達と戦い、自分を救ってくれたラースも亡くなった。

辛い思い出は数多く、未だに忘れられない。けれど楽しかった思い出もエリルの中には数多く存在した。

新しい部隊で知り合ったクロノ、香澄、雪音とも仲良くすることが出来た。最初、香澄とは少し馴染めない期間があったが、何時しか仲良く話せる仲になり親友になるまでそう時間はかからなかった。

だが……そんな仲間達も日に日に消えてしまう。

クロノは命を懸けて羅威を救い、穿真は自分の意思を貫き一人ERRORと戦った。

そして人類が平和になる目前まで来たと言うのに、羅威とアリスはこの世から姿を消してしまい、今まで自分の先導を歩き引っ張ってきてくれた紳も命を落としてしまう。

雪音と香澄はNNPに参加し人類最後の希望となった今。あの頃、あれだけいたBNの仲間も今では愁ただ一人。

勿論、今では赤城達もエリルにとって大切な仲間である事に違いない為、エリルは今でも尚自分が孤独でない事に笑みを浮かべ、閉じていた目蓋をゆっくり開いていく。

「皆との思い出、絶対忘れないから。今も……そしてこれからも!」

気付けばエリルの腕の震えは止まっており、心の中にあった不安や恐怖は奇麗に消えて無くなっていた。

「咲こう!紫陽花!!皆が望んだ、平和の為に!!」

レジスタルの制約が解かれた今、紫陽花は今まで以上に大きな翼を広げ花弁を舞い散らす。

ラースから送られたプレゼント『紫陽花』に乗り、今日もエリルは戦場に花を咲かせる。


───レジスタルの制約が解除され、溢れ出す魔力を愁はアギトの中で直に感じていた。

そして愁もまた過去を振り返り、今までの自分の一生を思い出していく。

家族、仲間、恋人、親友───大切な人を失い続けてきた人生、眼を背けたくなるような現実の数々に一度は身も心も壊れた愁だが、今ではこうして世界の為に再び立ち上がり、戦っている。

決して一人では来れなかった場所に今、自分が立っている事に愁は心の底から今まで出会ってきた友であり仲間である者達に感謝していた。

皆の死は決して無駄なものではない、皆から受け継がれた思いは世界の平和の為の力となる事は一番愁が分かっている。

「皆の思い、確かに受け取ったよ」

愁の中に絶望など無い、有るのは胸に宿る皆から受け継いできた熱い意思のみ。

「世界を守り、平和にしてみせる。皆が望んだ優しい世界、俺達の手で掴みとってみせるよ」

そう言って操縦桿を強く握り締めていく愁、その心は真・アストロス・アギトに鏤められたレジスタルを一段と透き通らせ、輝かせる。

「約束する、絶対だ」

その闘志は立ち塞がる壁を貫き、その決意は強固な壁をも粉砕する。

愁、そしてアギトは今日も明日の為に前へと突き進む。


───遥か上空から地上を見渡す天極鳥。

広がっていた奇麗な青空も、何時しかERRORの大群により赤く染まりつつあった。

世界は美しい、だからこそ大空を飛ぶ価値が有る。大空を鳥のように飛ぶという子供の頃からの夢は叶ったが、今では平和な世界に広がる奇麗な青空を飛ぶ事が赤城の望みだった。

散っていった仲間達の為にも必ず世界を平和にする必要が有る、赤城もまた甲斐斗同様に自分の世界を守る為に戦い続ける事を今は亡き仲間達に誓った。

望み続ける平凡で優しい世界。もう皆と話すことも笑いあうことも何も出来ないが、それでも赤城は無限の可能性が広がる明日の為に戦う事を決めていた。

しかし、今から人類の存亡をかけた戦いが始まろうとする中、赤城は落ち着いた物言いで顔を上げ空を見つめ続けている。

「世界が平和になった後、何をするか……。奇麗な青空でも見ながら、ゆっくり考えるとしよう」

腰に掛けてある鞘から刀を引き抜く天極鳥。両翼を大きく広げ輝かせると、赤城は一度だけ深呼吸をした後、決して視線を逸らさず向かってくるERRORを睨みつつ、『SRC』を起動させた。

「こ、これは───っ!?」

その時、今まで感じた事のなかった『意思と力』の流れを赤城は感じていく。

何時もは自分の意思が機体に溶け込み、強く念じるだけで動かせるはずの機能だった『SRC』だが、今ではそれと同じように機体から赤城へと全身に『意思と力』が伝わり始めていく。

「……そうか、甲斐斗が言っていたな、レジスタルとは元々人から生まれる代物であり、心のようなものだと。ERRORが制約を解いた今、私達人類の危機を感じ、私達の思いに答えてくれているのか……」

温かい力は全身を漲らせ、機体は更に進化を遂げる。

魔法使いでない赤城でもそれは理解できた。不可能を可能にする力、これが『魔法』なのだと。

天極長は太陽のように白い翼を光らせると、手に握っていた刀からは巨大な光の刃を作り出す。

それは同時に『SRC』を起動させたアギト、紫陽花にも同じような変化が起きていた。

アギトもまた鏤められたレジスタルが輝き更に機体が輝き始め、光のようなオーラが機体の全身を纏っていくと、立っている大地に亀裂が入り空気を震わせていく。

紫陽花は紫色に輝く二枚の翼が八枚へ分かれると、その翼から溢れ出る紫色に輝く花弁が無数に集まり紫陽花の姿形を作り出すと、エリルの乗る紫陽花の周りに複数の紫色に輝く分身が召喚されはじめる。

特異質のレジスタル。『魔石』を動力源とする機体は覚醒を遂げる。

この世界の人類に託された希望達。人類対ERRORの最後の戦いが今、始まりを告げた。

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