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第177話 作戦、管理

───絶対名『制約』の力により甲斐斗に宿るの力を全てを制約し、甲斐斗を眠らせる事に成功したミシェル。

甲斐斗は眠りについたまま起きる気配がなく、数人の兵士によって魔神の操縦席へと座らされた。

その魔神は格納庫に描かれた魔法陣の中に跪くように座らされ、その目の前には地面に黒剣を突き刺しており、着々と過去へ帰る為の準備が進められていく。

既に魔法陣は完成しており、残るは神から取れた大量のレジスタルの全ての力を甲斐斗の黒剣に移す必要があった。

天極鳥に使用した神のレジスタルはほんの一部に過ぎず、地下に隠してある神のレジスタルは効率良くエネルギーを移す為に羽衣を通してエネルギーの供給が行われようとしており、地下に置いてある羽衣から何本もの太いケーブルが地上の黒剣へと取り付けられている。

既に黒剣に向けてエネルギーの供給が行われているが、時限を越える魔法を発動するのにはまだ遥かに足りない量しか溜まっておらず、魔法を発動させるにはエネルギーが溜まるまで十分な時間が必要になる。

その光景を静かに見つめ続ける神楽は操縦席で眠る甲斐斗が居る魔神の胸部を見つめ続けていると、後方から複数の足音が聞こえてくる。

「後悔してるのかい?」

騎佐久の声に神楽は小さく首を横に振ると、後ろから歩いてきた騎佐久と赤城が神楽の隣に立ち、跪く魔神を共に見つめ始めた。

「後悔なんてしてないわ。確かに甲斐斗が抜けた戦いは人類が圧倒的に不利なのは分かってる。けど、これが人類が生き残る為の最善の方法よ」

神楽は甲斐斗を最強の男だと信じている。

だからこそ、ここで戦う事より過去に帰り一刻も早くERRORの野望を止めてほしかった。

赤城もまた神楽と同じ考えであり、これ以上甲斐斗をこの世界の戦いに巻き込む訳にはいかないと思っている。

「それにしても、まさかミシェルにあのような力が有るとはな……」

赤城は魔神を見つめたままミシェルの力について口を開くと、既にミシェルから絶対名の話を聞き終えた神楽も神妙な表情で話し始める。

「制約の力……これで甲斐斗の力を封じているのはミシェルちゃんで間違いなくなったわね。ここであの子を殺せば、甲斐斗は真の力を取り戻すことも可能かもしれない」

「っ……神楽、まさかお前……」

「けど、そんな事甲斐斗が許してくれないわ。甲斐斗なら人類や世界よりあの子の命を選ぶもの。命を救う為に命を犠牲にするなんて、甲斐斗が一番が嫌いな事だから」

過去に帰る前に先ずこの世界を平和にする、そう言っていた甲斐斗の言葉に嘘は無い。救いたいものの為に犠牲を払う事や、救えるはずのものを救わない選択肢など彼には存在しないからだ。

もしミシェルが甲斐斗を眠らせられなければ間違いなくこの世界のERRORと戦い続けていただろう。

「そうだ。それにミシェルの意思で甲斐斗の真の力を制約している訳ではないんだぞ、冗談でも言うな」

「冗談、ね……」

赤城に責められ神楽は誰にも聞こえないようにそう呟き、時が来るのを待ち続けた。



───人類とERRORの最終決戦の時が迫る中、それでも基地内の食堂には人々が集まり食事をしていた。

戦いに備えてのエネルギー補給は兵士にとって必須であり、食堂には愁とエリルの二人も来ていた。

既に二人は料理を食べ終えようとしており、エリルは自分のお皿の上に置いてあるサンドイッチの最後の一切れを手に取った。

「これが、最後の食事になるかもしれないのよね……」

向かい合うように席に座り互いに食事をしていたが、ふとサンドイッチを握っている手を止めると弱音を吐いてしまう。

そんなエリルの言葉を聞いた愁は食事を止めると、力強い視線で見つめながら話し始めた。

「かも、ね。でもそれは俺達次第だよ、エリル」

誰だって世界が追い詰められ人類が絶滅しかかっているというのに強気にはなれない。

弱気になってしまうのも当たり前であり、愁は優しく励ますような言葉をエリルに伝えると、愁の気持ちに気付いたエリルは軽く笑みを見せた。

「そうだよね……!今までだって私達何とかしてみせたんだから、きっと今回だって……ううん、そんな弱気じゃ駄目だよね。私達の世界、私達の手で絶対に平和にしようね!愁!」

そう言ってまたサンドイッチを食べ始めるエリルを見て、愁もまた笑みを浮かべる。

「勿論。俺達に託された思いを無駄にはしない、必ず平和な世界を作ろうね」

サンドイッチを食べながら頷くエリル、愁もまた食事を再開しようとすると、エリルは愁が今食べている料理を見て不思議がっていた。

「なんか、愁がカレーを食べるなんて珍しいね」

BNの基地にいた時から愁が食堂で食事をする時、羅威と一緒に居る時は必ずカレーを食べさせられるので、羅威のいない時は必ずカレー以外の料理を食べていた事をエリルは知っており、少し気になっていた。

すると愁はカレーを掬ったスプーンをしばし見つめ語り始める。

「もし羅威がこの場にいたら、必ずカレーを食べるだろうなって思ってね」

そう言って愁がカレーを一口食べると、エリルは嬉しそうに答えた。

「絶対食べるよ!だって、羅威だもん」

間違いない。愁とエリルの二人だからこそ断言出来る、人類が滅亡するかもしれないというのに今でもこんな事で笑いあえる事に二人は少し安心した時、ふとエリルの隣に一人の女性が座り始めた。

「人間、その笑みは不安や恐怖を紛らわせる為か?」

突如二人の前にエラが現れた事に一瞬エリルは驚いてしまうが、愁は特に驚く事なくエラの質問にどう返答すれば良いのか考えていた。

「うーん、どうだろう。もしかしたらそうなのかもね、笑顔は自然に出るもので意識して作るものじゃないからよく分からないや」

「そうか……そうなのだろうな、表情というものは」

表情とは考えて作るものではなく、感じて出て来るもの。

愁の真っ直ぐな言葉をエラは素直に理解すると、食事を進める愁に別の質問を投げかけた。

「お前は怖くないのか?今ここに向かっているオリジナルは甲斐斗ですら敵わなかった相手だぞ。人類は一方的に殺されるだけだ、それでも笑っていられるのか?」

「今更迷ったって仕方ないさ。ここまで来たら俺達人類は持てる全ての力でERRORと戦うしかないからね」

食事を終えた愁はそう言って立ち上がると、エリルもまた愁に続いて立ち上がり、お皿が乗ったトレーを掴み席を後にする。

そんな愁の後ろ姿を見つめ続けるエラは、一人頭を抱え俯いてしまった。

「逞しいな……人間は……」

愁とは違いエラは未だに悩み、考え続けている。

自分の本体だと思っていたものは、実はオリジナルのERRORであり、そして自身はただ人類を混乱させる為に作られた存在に過ぎないという事に未だにショックを感じている。

「私は……本当にこれで良いのか……?」

それでも人類の行く末を見届ける事に変わりはないが、エラの心の中で何かが変化しようとしていた。



───「本当に良いの?」

基地の屋上でミシェルとアビアは二人で荒野を見つめながらこれからの事について話し合っていた。

アビアはミシェルに本当に甲斐斗だけを一人過去に帰すことで良いのか再確認すると、ミシェルは目を瞑り頷いた後、再び荒野を見つめ続ける。

「うん、これが『かいと』のためだから」

「ふーん。でもさ、この世界に残らなくても甲斐斗と過去に帰ればいいじゃん」

本来甲斐斗は一人で過去に帰るのではなく、ミシェルと一緒に帰るはずだった。

しかしミシェルが甲斐斗の本来の力を制約している可能性も有る為、ミシェルがその選択を選ぶ訳にはいかなかった。

「ううん。それだとかいと、ちからをとりもどせないかもしれない……アビアちゃんは、かいとといっしょにいないの?」

逆に何故アビアはあれだけ甲斐斗に好意を寄せていたというのにこの場に残ろうとしているのかミシェルは不思議に思っていると、アビアは遠くを見つめながら本心を僅かに語った。

「……甲斐斗にはもう愛し合ってる人がいるんだもん。アビアは恋の邪魔はするけど、愛の邪魔はしたくないから。それにアビア、エルルと一緒にいたいし」

そんなさり気ない本音にミシェルは顔を上げ横を向くと、アビアは優しい表情で見つめてくれていた。

一人ぼっちはもう嫌。アビアもミシェルも思いは同じ、そしてこれから成すべき事も───。

「やる気なんだよね?」

その言葉を聞いてミシェルにはこれから自分が何をしようとしていたのかをアビアに悟られていた事に気付き、自分の意思を示すために力強く頷いた。

力強いミシェルの目を見てアビアは確信する。今まで泣き虫で弱虫なミシェルが、今では自分の意思で進む道を判断し、行動している。

随分と成長したとアビアには思えたが、遥か昔宮殿に住んでいた頃、アビアとミシェルが共に遊んでいた頃を思い出すと、これでようやくいつものミシェルに戻ったとアビアは感じられた。

「アビアも力を貸すよ、時空を越える魔法の発動はアビアじゃなくても出来るし。そーでしょー?」

基地の屋上で荒野を見渡していた二人の後ろには、龍のマルスが寝そべりながら二人の会話を聞いており、アビアの問いに龍は徐に目を開き答えた。

『良いだろう。最後の世界、最後の人類の為に我が力を存分に発揮させてもらう』

もうロアはいない。ERRORとの約束を終えた龍は自由であり、これから先は何をしても構わない。

人類のいる最後の世界が滅びようとしているのにこのまま黙って待つのも気に障る為、自らもまた人類の為に動き始めようとしていた。



───だが、たった一人。皆が意思を固めていく中で未だに苦悩し続ける男がいた。

「ふざけんじゃねえぞ……」

拳を震わせ闇の中で一人佇む甲斐斗。頭の中には世界の為に戦う人達の強い意思が流れ込み、甲斐斗を奮い立たせていた。

現実世界の甲斐斗は眠りについたまま動けずにいたが、心の中での甲斐斗は意識が有り何度も現実世界に戻ろうとするが全く起きる事が出来ず、更に人々の強い意志が頭の中に流れ始め困惑していた。

闇の中で立ち尽くす甲斐斗は自分の胸に手を当てると、人々の意思が自分に流れてくるのがアビアの刺したナイフが原因だということに気付き始めていた。

「これで俺が納得するとでも思ってるのか……?最後の戦いに俺を除け者にしやがって、納得出来る訳ねえだろ……!」

「そーだよねー」

一人で闇の世界に中に佇んでいたはず、しかし後ろからアビアの声が聞こえてきた甲斐斗振り返ると、そこにはアビアが一人闇の中に立っていた。

「アビア!?お前、どうやってここに……」

ここは甲斐斗の心の世界。一度だけ赤城がこの世界に入ってきた時があったが、あれは甲斐斗のレジスタルである黒剣の状態が不安定で招いた事故のようなものであり、本来は他の人間が入る事など出来ない。

「ナイフで甲斐斗の胸を刺した時、アビアの心の一部も一緒に送ったの。こうやって甲斐斗と二人っきりで話をする為にね」

アビアの作り出すナイフとは実質アビアのレジスタルである為、その一部を甲斐斗自身に送り込む事によって心の世界に入る事に成功したらしく、アビアは闇が広がる世界を軽く見渡していた。

「……なあアビア。お前は俺を最強だと信じてくれるだろ?だったら今すぐ俺を動かせるようにミシェルを説得しろ、俺がERRORと戦う」

「アビアは甲斐斗が最強だって信じてるよ。でもね、最強だからって何でも出来る訳無い事、甲斐斗が一番よく分かってるよね」

「分かってる。だからこそ諦めたくないんだろ?ここで諦めたら俺は一生何かを犠牲にし続ける人生を送り続ける。守りたいものは全部守りたいんだ、普通の考え方だろ?」

甲斐斗の意思は決して揺るがない。

世界を救う為の使命を背負い過去に帰る事に不満が有るのではない、この世界を救うことも出来ず一人だけ助かろうとしている現実が、まるで世界を見捨てて逃げてしまうように感じてしまい甲斐斗にとって何よりも許せなかった。

何かを救う為に、何かを犠牲にする。そんな考え方はもう嫌だった。

姉を失い最強の力を得たように、何を犠牲にして、何かを得る事の辛さは誰よりも知っている。

何時までこの不の連鎖が自分を縛り続けるのか……。

この世界に来るまで甲斐斗は不安を抱きながら今まで最強の力を揮い続けていたが、この世界に来て初めて力を失った甲斐斗は不安と同時に少しばかり期待をしていた。

最強の力を持っていた今までの人生は、何時も大切な人は自分の側から離れ、最後には孤独になる運命を辿ってきた。

しかし、今はその最強の力が自分には無く、どのような世界が自分を待っているのか全く分からなかった。

そんな最強の力を失った甲斐斗に待っていたのは、決して幸せと呼べるものではない世界の状況だった。

全世界の全人類が絶滅しかかり、残す世界は一つだけ。その世界もERRORの手により侵食され、人類は終わりを迎えようとしている。

だが、甲斐斗にとって全世界の滅亡など個人的にはどうでもよく。何よりも大切なのは『自分の世界』ただそれだけ。

この世界には自分の居場所が有り、自分を支えてくれる人、そして守りたい人達が存在する。

甲斐斗にとって世界を守る為に戦う理由には十分だった。

「この世界はもう手遅れなの。でもね、甲斐斗が過去に帰れば全てを守れるし、ERRORとも戦える。勿論甲斐斗ならERRORにも勝てるよ。アビアは甲斐斗の事、信じてるから。過去に戻ったら、皆を幸せにしてあげてね」

それだけ言い残し闇の中へと姿を消してしまうアビア。再び闇の中で立ち尽くす甲斐斗は、拳を震わせ託された思いを無理やりにでも胸に押し込める事しか出来なかった。

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