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第175話 願い、礎

───両手両足を切り落とされた魔神、操縦席に座っていた甲斐斗の頭の中は真っ白になっていた。

今から人類の命運を懸けた決戦が始まろうとしていたはず、何故赤城と紳の二人が攻撃をしてきたのかが分からない。

ERRORによって操られているのか、それとも赤城や紳自体がERRORの力によって操られているのか……。

赤城と紳の息の合った完璧な動きに魔神に乗っていた甲斐斗は最初、二人に攻撃された事にすら気付けなかった。

全ては秘密裏に、甲斐斗を除く者達によって決断された選択。これ以上ERRORの思い通りにさせない為、人類は決断したのだ。

事の状況が分かっていない甲斐斗の耳に、通信機から紳と赤城の会話が聞こえてくる。

「後は頼む。必ず甲斐斗を過去に帰還させろ」

「ああ、分かった……!」

その二人のやり取りを聞き、ようやく甲斐斗は二人が何を企んでいるのかを理解した。

「お前等、まさか───っ!?」

手足を落とされた魔神を右腕で抱かかえる天極鳥は、左手で魔神の握っていた黒剣を握り締めた後、翼を羽ばたかせ飛翔し全速力でその場から離脱、戦場から姿を消してしまう。

その光景を見ていた龍もまた翼を羽ばたかせ後を追おうとすると、その背中に再びエラが乗り、彼等もまた戦場から去ってしまう。

戦場に一人残った紳は、去っていった甲斐斗達を見送った後、未だに立ったまま動きを見せないオリジナルのERRORを見て喋りかける。

「お前が人類にとって最悪の存在だという事は十分に理解している。だが、それでも俺達は諦める気はない。無論、絶望する気もない」

最大の敵を前にしても尚紳が怯むことはなく、白義もまた紳の意思に答えるかのように魔力の風を全身に纏い眼を輝かせていた。

「全てを失おうとも俺達は未来の為に抗う……」

嵐のような突風が戦場を覆い、その中心では眩しい光を放つ双剣を握り締める白義が立ちはだかる。

そんな白義を前にしてもオリジナルは特に動きは見せなかったが、背部の触手を全て広げ赤く輝く粒子を拡散させると、両手を高らかに上げはじめた。

これ以上放っておいては何を仕出かすか分からない為、白義がオリジナルに向けて飛び掛ろうとした瞬間、地面に無数の亀裂が走ると、地面を砕き次々にERRORが出現しはじめる。

Person態からPlant態、その他見たこともない種類のERRORまでもが一斉に地上へ姿を見せる。

鳥のような赤い血肉の翼を広げるERRORに、蜂のように高速で羽根を震わせ鋭い針が特徴的なERRORなど、対空戦闘用のERRORまでも出現する中、空を飛び地上の様子を見つめる紳だったが、既に地面はERRORの数により大地が見えず、辺りは赤い海のような光景が地平線まで続いていた。

その数は軽く万を超えており、地下から現れた全てのERRORは紳の乗る白義の方を向いている。

ERRORによる圧倒的物量に包囲された白義。それでも紳の闘志が揺らぐ事は無かった。



───「赤城……今すぐ俺を戦場に戻せ……」

爆発寸前の怒りを抑え、甲斐斗は赤城を睨みながら静かに口を開く。

手足を切り落とされた魔神だが、再生能力を使えば瞬時に機体の修復は可能だろう。

しかし、それをした所で今の赤城に見逃してもらえるはずもなく、当然同じように切り落とされてしまう事になると判断し、口では抗うものの甲斐斗は抵抗する素振りは見せなかった。

「断る。お前には生きて過去に戻り世界を救ってもらわなければならない」

「やっぱりそういう魂胆か。お前は俺があの場で死ぬと思ってるからそんな事を───」

「甲斐斗、あのERRORに勝てない事はお前が一番分かっているはずだ。あのERRORはお前の魔法を軽々と受け止めたんだぞ?それに加えて今度は我々人類が有利になるような事をし始めた……ERRORは、最初から人類の事など敵とすら思っていないのだろう、いかにして人類を追い詰め殺していくか、それしか考えていない」

エラと龍の話を赤城は自分なりに解釈し内容を纏めていた。

恐らく、ERRORは圧倒的力を使い簡単に人類を滅ぼす事が出来る。

だが、それではERRORの望む人類が滅ぶ『最悪の過程』が見れない為、態々人類とほぼ同等の敵対勢力を作り、戦わせる事を選んだのだ。

人類に恐怖を植え付ける為に見た目が醜く残忍なERRORを生産し、徐々に勢力を増やしては人類をじわじわと追い詰めていく。

その中には僅かな希望も混ぜていた。ERRORにはオリジナルが存在し、巣を破壊すればERRORを絶滅させる事が出来る、更には人類と対話できるERRORまで出現し人類に揺さぶりを掛け続ける。

「そんな下種な考えのERRORが正体を現す時が来るとすれば、それは人類が滅ぶ直前だという事だ。今まで私達が戦い続けていたERRORは本当のERRORではなく、ただ人類を絶望させる為に戦わせていた木偶に過ぎない事を教え、人類を更に絶望の底へと叩き落す魂胆だろう。人類の存亡がかかった最後の戦いにこうして表れ圧倒的な力を見せつけた時点で、奴の望む過程は満たされ、計画が終わろうとしている。そしてその計画の終わりとは、即ち人類の滅亡……そうなってからでは手遅れだ」

「だから俺にお前達を見捨てろって言いたいのか?このまま黙って過去に帰れと?」

赤城に説得されても甲斐斗が納得しないのは当然だった。

今まで約束の為に、守りたい者の為に、そして自分自身の為に世界を救うと決意し戦ってきた甲斐斗。

それが今になってその全てを放棄し過去に帰れと言われて素直に応じるはずもなく、甲斐斗は無理やりにでも戦場に戻ろうとすら考え始めるが、通信機から聞こえてくる赤城の声に甲斐斗は俯いてしまう。

「歯を食い縛り、悔しさで震えッ。怒りで我を忘れそうになっているのはお前だけじゃないッ……それを忘れるな……」

先程まで冷静な振りをしていた赤城だが、甲斐斗と話していく内に胸に込み上げてくる激情が溢れそうになってしまう。

そんな赤城の言葉を聞いた甲斐斗もまた、込み上げる感情を抑え込もうとしていた。

「ほんと、貴方達は優しすぎるわね」

二人の会話を聞いていた神楽が通信に加わると、俯いていた甲斐斗が顔を上げ煙草を咥える神楽を見つめた。

「神楽……」

神楽もまた感情を表に出さず、何時もと変わらぬ態度で煙草を吸いながら話し始める。

「甲斐斗、貴方が無事過去に戻り世界を変えれば未来の行く末は変わる。それは結果的に私達を救う事になるのよ。だから貴方がこの世界を大切に思うのなら、過去に戻った後しっかり使命を果たせばいいのよ」

「お前等を救う結果の為に、俺はお前等を見捨てる過程を選ばなくちゃいけねえのか……?」

「ええ、そうよ。それでいいの。辛くても悲しくても悔しくても、それで───」

その道に義なんてものはない。だが人類の為には必要不可欠な選択だった。

仕方無いのか……?本当に……?歯痒い気持ちに甲斐斗は再び俯きそうになるが、通信機から聞こえてくる神楽の声にその動きが止まる。

「地上が凄い事になってきたわね……」

「凄いって、どういう意味だ?詳しく教えろ」

豪く抽象的な物言い甲斐斗が尋ねると、神楽は咥えていた煙草を摘み灰皿の上に灰を落としていく。

「人って本当に驚いちゃうと簡単な言葉しか出ないものね。地下にいた全てのERRORが地上に現れ人間を襲っているのよ、先程まで貴方達のいた場所なんて今では一万を越える数のERRORが存在しているわよ』

「い、一万だと……」

「地上に現れるERRORの数は増え続けるばかり、毎秒万単位でERRORが世界各地に出現しているわ」

甲斐斗達を逃がす為に囮となり、戦場に残った紳はたった一人でそれだけのERRORを相手に戦っている。

考えたくは無いが、幾ら紳と白義の力をもってしても圧倒的物量の前には苦戦を強いられるだろう。

倒しても増え続けるERRORの群れの中で、今紳は何を思い戦っているのか……甲斐斗は考えそうになったが、これ以上考えるのが辛く頭を抱えてしまう。

世界各地に出現するERRORに赤城もまた溜め息を吐くと、自分達の近くにも何時ERRORが出現しないか警戒しながら機体の飛行速度を加速し話し始める。

「ERRORが本格的に人類を滅ぼしに来たか……いや、これもあのオリジナルのERRORからしてみればただの余興に過ぎないのだろうがな……ん?」

レーダーに映る機体反応。どうやら戦線離脱し東部軍事基地に帰還している愁達の部隊に追いついたらしい。

愁達も赤城達が近づいてきた事に気付くと、通信を繋げ互いの状況確認を行い始める。

最後のEDP開始地点で何が起きたのか。そして今、世界で何が起きているのか。

その話を聞いた愁達も、赤城達と同じように遣り切れない思いに心が揺らいでしまう。

しかし絶望した訳ではない、何故なら人類には未だに甲斐斗と言う『希望』が残っているからだ。

人類を救う為に成すべき事は何時だって変わらない。ERRORに戦い勝つ望みが少なくても、まだ世界を救える方法は残っているのだから───。



───その風は、触れるモノ全てを切り刻む。

奇麗な空色の風を前に、醜いERROR達は近づく事さえできない。

疾風が肉体を裂き、突風が肉片を吹き飛ばす。既に五万を超えるERRORに包囲されようとも、白義は純白のマントに一滴の血を浴びる事なく戦い続けていた。

神速を誇る白義を前に成す術の無いERROR───だったが、次第に白義と戦っているERROR達の速さが増していくのを紳は感じ取った。

徐々に進化し強化されていくERROR、次第に避けられる風の刃、ERRORの攻撃が白義を傷付け、赤い血飛沫を全身に浴びてしまうが、それでも白義はオリジナルのERRORへと徐々に近づきつつあった。

真の敵はたった一体。例え勝てないと分かっていても剣を振るい、少しでも傷付ける事が出来るかもしれない僅かな可能性の為に戦い続ける。

白義の両肩の砲門を開けLRCを発射、斜線上にいるERRORを全て掻き消しオリジナルの元への活路を開くと、その身に竜巻を纏い一気に距離を詰めにかかった。

白義の進行を止めようと群がるERRORの大群は白義の纏う竜巻に触れると簡単に肉体をバラバラにされてしまい止める事が出来ず、白義は振り上げた双剣をオリジナル目掛けて振り下ろした。

「っ……!」

白義の両腕が宙を舞う。

白義が双剣を振り下ろすのと同時にオリジナルは両手を鋭利な刃に変えると、両手を振り上げ白義の両腕を切り飛ばしたのだ。

直後、オリジナルの腕は元の形に戻ると白義の胸部に指を突き刺し操縦席に座っている紳を引き摺りだす。

まるで歯が立たなかった白義。オリジナルに握り締められ何時殺されてもおかしくな状況にも関わらず、それでも紳の闘志が揺らぐ事はなかった。

死の恐怖を感じていない訳ではない、使命を果たせなかった悔しさだってある。

しかし、ここで醜態を晒してしまう事がERRORの望む理想の過程だと言うのであれば尚更動揺する訳にはいかなかった。

ここからはERRORに殺される結末しか残っていない、紳は血反吐を履きながらも顔を上げると、オリジナルもまた頭を紳に近づけるが、ふと何かに気付き徐に顔を上げ始める。

それに釣られて紳もまた顔を上げると、上空からオリジナルに接近してくる数発のミサイルが視界に入った。

そのミサイルが核兵器だと察するのに余り時間は必要なく、向かってくるミサイルを見つめながらそっと囁いた。

「世界を頼んだぞ、甲斐斗───」

四発のミサイルはオリジナルに直撃する寸前に眩い閃光を放ち爆発。

戦場を軽がると飲み込むほどの熱風と衝撃波により周囲のERRORを一掃し、巨大な茸雲を作り挙げた。

機体の残骸や万を超えるERRORは核兵器により灰と化し、塵となって砕け散る。

絶対的な破壊力を持つ核の力の前には生物の誰もが平等な死を迎える。

しかし……そのような人間が考えた理屈や常識など、この世の歪みでもあり異常と呼ばれるオリジナルのERRORの前では何の意味も成す事はなかった。

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