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第164話 交差、筋道

───Deltaプロファイル。まるでその言葉が引き金かのように戦場は一変した。

全てのERRORと人間を支配し人類との戦いを楽しんでいたセレナだったが、ここに来てセレナすら利用されただけの存在だという事を人類は知る。

デルタの降臨、エラの登場、セレナの死───そして、この世界を本当に支配してきた存在は未だ姿を見せていない。

混沌とした戦場の中、甲斐斗は魔神に剣を構えさせながらエラと喋り続けていた。

「もしこの世界を操るERRORがこの時の為にアステルを利用してきたとすれば、ERRORが『絶対の理』の外に居る存在だとよく分かる。アカシックレコードすら支配してそうだな。そんな異次元級の化物の癖にやる事はどれもせこくて腹が立つ。俺はアステルと戦う事は別に構わねえが、この戦いが意図して作られたものだとしたら納得いかねえ。ERRORはマジで人間を……いや、この世の全てを弄んでやがる……お前もそう思うだろ?」

同意を求めるようにエラに向けて問いかけると、エラは寂しそうな表情で囁いた。

「そうだな、この世の全てを。な……」

甲斐斗はそんなエラの表情を見つめていたが、デルタの動く気配を察知し徐に機体を発進させた。

唯の乗る艦の前に瞬時に移動したデルタは右手を突き出し波動を放とうとしたが、寸前の所で魔神がデルタの前に立ち剣を振り下ろす。

魔神の剣を容易く回避するデルタだが、魔神は更にデルタに接近すると高速で黒剣を振り回し連続攻撃を仕掛けていく。

「唯ッ!聞いてるか!?」

デルタに攻撃を仕掛けつつ戦艦との通信を繋ぎ甲斐斗が声を荒げると、突然の通信に驚いた唯が直ぐに返事をした。

『は、はい!』

「ELBを置いて今すぐ全軍撤退しろ!ここは俺がなんとかする!」

突然の撤退命令。甲斐斗の言葉を聞いた兵士達は皆動揺し、指揮を執るはずの紳も今はいない為唯も困惑してしまう。

『えっ!?……撤退って、私達はまだ目的を果たしては───』

「俺が果たす。俺がデルタを破壊しELBを巣にぶち込んで起動させてくる。それで問題ないだろ?」

唯の心配を余所に甲斐斗は無理難題に近い事を平然とやってのけると言い引き下がらない。

『危険です!甲斐斗様を一人戦場に残して私達だけ撤退する事など出来ません!それにELBは地下にあるERRORの巣で起動させなければならないのですよ!?』

「まぁ聞け、地下までの穴を空ける必要はもうない。なんせデルタが勝手に作ってくれたんだからな、邪魔するDoll態ももういねえ。後はあの穴の中にELBをぶち込めばいいだけだ。簡単だろ」

デルタの超火力によりセレナは愚かその場の大地すらも軽々と掻き消し巨大な穴を作り出していた。

既にELAを起動させる必要もなく、当初の目的とされる『ERRORの巣の破壊』に関しては残す所ELBを巣の中で起動させる段階となっていた。

「ここにお前達が残っていても邪魔になるだけだ、奴を倒せるのは俺しかいねえし。だからELBを置いてさっさと撤退しろって言ってんの」

NFとSVの協同で行ったEDPの時もそう、甲斐斗は同じ事を言っていた。

ここに来た理由はERRORの巣を滅ぼす事であり、無意味に戦場に残るのは危険に他ならない。

すると甲斐斗と唯の話しを側で聞いていた騎佐久が、二人の会話に突如入ってくる。

『どうしてそう一人で全てを背負い込もうとするのだろうね、余程自分の力に自信があるのか、それともただの馬鹿なのか……そんな君に提案がある』

甲斐斗の乗る魔神の操縦席、モニターには唯が映っていたが、別のモニターに騎佐久の姿が映し出されると淡々と話しを進めていく。

『甲斐斗、君がデルタの囮になればいいだけの話しさ。今残っている部隊でELB誘導部隊を編成しELBの起爆時間を設定後、巣の中に投下する。その間に誘導部隊と君以外の部隊は全軍撤退、ELBを投下後に誘導部隊もELBの爆発範囲から離脱させる。これで如何かな?』

一見すれば騎佐久の作戦は完璧なものに見えたが、唯は騎佐久の作戦を聞き直ぐに声を上げた。

『待ってください!それでは甲斐斗様がELBの爆発に巻き込まれるではありませんかっ!?』

『だったらその前にあのデルタを倒せばいいだけの事……甲斐斗、君にはそれが出来るのだろう?』

騎佐久は甲斐斗を信用していない。

その場に誰が残り、戦おうと、全てを一人に託し何が起こるか予測不能な戦場で一人の男を信じるような馬鹿な真似など騎佐久は決してしない。

嘗てアステルを信じた時の事を騎佐久自信、己を許しておらず、同じ過ちを繰り返す訳にはいかなかった。

だからこそこの作戦を選んだ。甲斐斗がアステルと戦い、ELBが起動する前に甲斐斗が死ななければ人類は生き残る。甲斐斗が勝てば甲斐斗は生き残り、アステルとの戦いに決着がつかなければELBに巻き込まれ消滅するだけ。

最悪、甲斐斗がアステルに勝てなくても、ELBの爆発まで甲斐斗がアステルを引き付け死ななければ他の兵士達は生き残る事が出来る。

更にアステルの乗るデルタさえもELBに巻き込めば破壊が可能であり、騎佐久から考えてみれば邪魔な存在であるERRORの巣とデルタを一辺に消滅出来る都合の良い作戦だった。

そんな騎佐久の目論見を全て知った上で甲斐斗はニヤリと笑みを浮かべると、快くその作戦を承諾した。

「それ良いな。さっさと始めろ」

ERRORの巣に破壊と同時に唯達の安全を確保出来るのだから甲斐斗にとって願ったり叶ったりの作戦になる。

『甲斐斗様!?』

当然唯は納得がいかず甲斐斗の名を叫ぶが、甲斐斗は笑みを浮かべながら説得しはじめた。

「騎佐久の言うとおりだろ。俺が死にたくなけりゃさっさとデルタを倒せばいいだけの話。それともお前は俺がここで死ぬとでも思ってるのか?」

『そ、それはっ……』

「信用してない証拠だぜ、それ」

唯は甲斐斗を信用していない訳ではない。

ただ、胸が押し潰されそうな程の不安を抱えてしまい甲斐斗が心配で堪らなかった。

「後は頼んだぞ」

甲斐斗はそう言い残した後通信を切りアステルとの戦いに集中していく。

(私は……甲斐斗様を信じます……!)

この戦場を指揮しているのは紳ではなく唯の為。騎佐久の作戦を実行するには唯の判断、そして命令が必要だった。

最初は作戦の実行に迷っていた唯だったが、甲斐斗の言葉を聞きこの作戦を実行する事が甲斐斗を信用する事になることを信じ、作戦の内容を全兵士に告げ、実行させた。


───魔神の連続攻撃をデルタは容易く回避し両腕の黒い光の刃を魔神に向けて振り下ろすが、魔神の剣捌きにより全て防がれてしまう。

前回よりも魔神と甲斐斗は格段に強くなっている。

だがそれはデルタも同じ、前回よりも更に力を増し、強くなっていた。

それは魔神が強くなった力量の比ではない。その証拠にデルタの動きは徐々に速さを増し、攻撃を仕掛けていたはずの魔神が今では防御に専念している。

「機体の性能差でけえ。偉そうな事言ったがこのままじゃヤバイ……だったら出し惜しみはしねえ、こっちも全力で行ってやるよ!!」

今の今まで温存していた切り札。

温存していた理由は単に切り札を使わせる程の敵がいなかったからではない。

この力を使えば周りに危害を加えてしまう恐れがある為に艦の防衛に徹する甲斐斗には使う事が出来なかったのだ。

開戦前、神楽に教えられた通りに甲斐斗は機体に加えられた新たなプログラムを起動させた。

魔神の動力源とは別に加えられた力『光学電子魔石』。未だに魔神ですら制御は出来ていない力だが、一時的に魔神の性能、そして黒剣の威力を格段に上げる事は可能になっていた。

「戯言残さずさっさと消えろッ!」

魔神は一瞬で後方に下がった後、デルタ目掛けて剣を振り下ろすと今まで出した事のない巨大で黒い斬撃を黒剣から飛ばした。

するとデルタも両手を振り下ろし同じような斬撃を飛ばす、互いの斬撃は接触すると弾け飛び周りの大地に直撃するが、斬撃の勢いは衰えることなく大地を割りながら森の中に入っていくと、次々に大木を切り倒していく。

魔神の攻撃は止まらない。斬撃を飛ばした後、直ぐ様デルタに接近し再び連続攻撃を仕掛けていく。

その素早さは先程とは比べ物にならない程増しており、あのデルタと互角に渡り合う程だった。

熱い激闘に甲斐斗は血の気が騒ぎ、鋭い目つきで睨みながらも戦いを楽しむかのように笑みを浮かべていた。

甲斐斗はアステルに起きた出来事を全て知っていても同情などしなかった。

愛する人達を失い心が壊れていく様、その先に出た答えが強さへの代価と考え、強さへの執着心を増幅させていく。

まるで昔の自分を見ているかのようで気持ち悪く、腹立たしくも思っていた。

情けない姿。こんな奴は早く殺してやりたいと思いながら甲斐斗は剣を振るい続ける。

そんな甲斐斗に対しアステルはと言えば───。

「ううううぅぅぅ……」

泣いていた。

何故泣いているのかなど分かるはずもなく、甲斐斗は通信機から聞こえてくるアステルの声を聞き余計に苛立ち攻撃に熱が入る。

「めそめそ泣きながら戦いやがって……お前はお望み通り最強になれたんだろ?だったら嬉しそうに気味悪く笑ってろっつーのッ!」

SRC機能を使っていなくても魔神の動きは完全に甲斐斗の望むがままに動いており、機体の性能はデルタが上だとしても魔神の間合いの中での戦いにデルタは次第に押されつつあった。

「どうした?お前最強になったんだろ?で、その次はどうするんだ?その力で守りたい人すらもういねえのに、力だけ有ったって何の意味もねえよなあッ!」

アステルの心の傷を抉るかのような甲斐斗の挑発は更にエスカレートしていく。

しかし、それでもアステルはただただ泣き続けており、甲斐斗に言葉を返そうとしない。

「反論すら出来ねえか。まぁ俺が言ってんのは正論だしな、言っておくがERRORに利用されただけのお前に俺は同情する気なんて更々無い、今までその力で自由に散々暴れ回ったんだ、無様に死ね」

魔神の動きは完全にデルタを捉え、胸部目掛け瞬時に剣先を向けた。

その時、今まで泣いていたアステルが始めて喋り始めた。

「ううぅぅ……お前ぇ……」

戯言を聞く前に終わらせる。そもそも死に間際の台詞など聞き飽きており、甲斐斗はその手を一切緩める事もなく、魔神はデルタの胸部目掛け一瞬で黒剣を突き出した。

「弱過ぎるよぉ……」

瞬き等していない。

それだと言うのに甲斐斗の目の前からデルタが姿を消してしまう。

スレルスフレーム?幻影?ジャミング?全て違う。

「鈍い」

斬り飛ばされる魔神の両腕。

「遅い」

後ろに振り向こうとした魔神の首は落ち、両脚が吹き飛ぶ。

「弱い」

魔神の胸部を地面に叩き落し踏み躙るデルタ。

その魔神の上に君臨する姿はまさに『最強』そのものだった。

余りの唐突な状況の変化に付いて行けず呆気にとられる甲斐斗。

冷や汗を垂らし何も言葉を出せずにいたが、そんな甲斐斗を見てアステルはゆっくりと喋り始めた。

「嘘……だよね……?こんなに弱くないよね……?ね、出し惜しみは止めてよ……もっと強いんでしょ?もっと速く、もっと強く、もっと凄い力で、戦えるよね?……この僕、最強のこの僕と戦える程の相応しい力を……持ってないの……?駄目だよそれじゃ、だって僕はせっかく最強になれたのに、雑魚しかいないなんて嫌だよ、僕に全力を出させてよ、僕に最強の力を振るわせてよぉ!!ぎひひひッ!うひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

アステルは甲斐斗の余りの弱さに失望し泣いていたのだ。

手加減して戦い少しはまともに戦ってくれたが、所詮はその程度でありデルタの全力を引き出す程ではなくアステルを満足させる事は出来ない。

そんなアステルの言葉を聞いていた甲斐斗は自分の力が通用せず絶望するかと思いきや、追い詰められているというのに笑みを浮かべていた。

「事は済んだ。俺達の勝ちだ」

甲斐斗の発言にアステルは不適に笑いながら首を傾げるが、ふと視界にリバインやアバルロ等の合計六機の機体が巨大な穴の周りに立っているのに気付いた。

「ELBの投下に成功。これでERRORの巣は終わりだ、正直言ってお前が俺に夢中になってくれて助かったぜ、ありがとよ」

今から殺されるはずの人間の表情とは思えない程甲斐斗は嬉しそうにニヤニヤと笑っており、それを見たアステルは目を見開き顔を歪ませると魔神の胴体を蹴り飛ばした後全速力でELBを投下した穴に向かい自らその穴の中に入っていく。

狙いはELBの破壊。甲斐斗の絶望した表情が見たかったアステルは迷う事無く目的の為に行動を開始したが、それこそ甲斐斗が望んだ結果だった。

デルタが地上から消えた直後、驚異的な再生能力で瞬く間に魔神は全ての破損箇所を再生し元の姿に戻ると、魔石の力の全て黒剣に注ぎ込み始める。

「馬鹿野郎が。一生利用され続けてろ」

まんまと安い挑発に乗ってくれたアステルに甲斐斗が言い放つ。

黒剣は力を注がれ輝き始め光は更に強くなり続けていく。

その剣を魔神は高らかに両手で振り上げると、デルタが下りていった穴目掛けて振り下ろした。

強烈な魔神の一撃は大地を砕き辺りの地面に亀裂を走らせていくと、デルタが作った穴すら破壊し崩れ落としていく。

穴は崩壊し土砂で埋まりはじめ、それを見た甲斐斗は直ぐに唯の乗る艦隊に通信を繋げた。

「これぐらいで奴を倒せたとは思えないが少しぐらい時間は稼げるだろ、今の内にELAと予備のELBを置いて全軍退却しろ」

甲斐斗が囮になりELBを起動させる作戦だったが、危険な状況なので機転を利かし甲斐斗はELBを囮にして窮地から脱出してみせるが、これではELBが破壊されてしまう為再びELBの投下作戦を試みようとする。

『何を仰ってるんですか!?ELBは残り十五分で起動します!早く甲斐斗様も逃げてください!』

「いや、あのELBはデルタに破壊されるに違いねえ。だったら念の為にもう一個起動させといてもいいだろ」

そう言って自らがELBを取りに戦艦に向かおうした時、突如地響きが聞こえはじめた。

まさかもうデルタが地上に戻ってくると言うのか?一瞬甲斐斗は不安になりレーダーに目を向けるが、そこに機体の反応等一つもなくERRORの反応すら無い。

ただ、人間と思われる生体反応がレーダーの彼方此方に映し出されると、その数は二倍三倍と膨れ上がっていく。

「何だ、これはっ……」

レーダーに映っている情報だけでは戦場で何が起きているか分からず回り見渡すと、そこには信じられない光景が広がっていた。

広大な戦場。その地面に人一人が通れる程の穴が無数に空いていくと、その穴の中から次々に人間達が出てきていたのだ。

穴の数は数え切れず、大地に走った亀裂からも泥と砂で汚れた人間達はまるで湯水の如く湧いて出てくる。

服を着ている人間もいれば何も着てない人間も存在し、血塗れの人間も確認出来る。

老人から子供までもが次々に地面から出てくるが、誰も皆恐怖で顔が強張り多くの人が涙を流している。

地上から次々に人間が出てくるのはこの場にいる兵士達にも直ぐに理解できたが、ERRORが人間に化けている可能性もあり迂闊に救助する事は出来ない。

だが、地上に出てきた人達は機体や戦艦を見つけた途端助けを求め一斉に走り始めた。

何時しか地響きは止み、今では人間達の悲鳴と助けを求める声で一杯になっていた。

余程地下で恐ろしい目にあったのだろう、人々は我先にと走り始めると機体や艦を囲み助けを求めて声を荒げる。

気がつけば完全に囲まれてしまう。

機体が一歩でも足を動かせば容易く人を踏み潰してしまう程の数に、戦艦もまた同じで前進や後進も行えずその場から動く事が出来ない。

「何を躊躇ってる!?そいつ等が人間な訳がねえだろ!どうせERRORの策略、さっさとELBとELAを出してこの場から退けッ!」

『しかし、彼等が本当にERRORかどうかは精密検査をしてみなければ分かりません。それにレーダーには全員人間の反応を示しています!少しでも多くの人達を救助しなければ……!?』

人々の助けを求める声、そして悲鳴が一段と増したのを感じた唯。

艦の周りにいる人達に紛れ人間の姿には程遠い化物が出現し始めたのだ。

化物は赤い液体を辺りに飛ばしその液体に触れた人間達は次々に形を変えて醜い化物に成り果てていく。

その様子を見ていた唯は少しでも多くの人達を助けようと戦艦の扉を開けるよう指示を出そうとした時、魔神が艦の前に現れると片っ端から地上にいる人間を化物諸共黒剣で薙ぎ払い、踏み潰していく。

『っ!……』

ERRORの血だけではない、人間の血で汚れていく魔神を見て唯は思わず息を呑む。

助けを求める人達は機体の足にしがみ付き、昇り始めようとすらしているが、魔神はそんな人間を掴み引き離すと躊躇い無く地面に叩き付けた。

「有象無象のゴミ共がッ……例え人間だろうが一歩でも艦に近づけば全員殺す。俺達はお前達を救いに来た訳じゃねえ、ERROR共を皆殺しに来たんだからなぁ」

地下でERRORの恐怖に支配された人達が、地上では一体の魔神の恐怖に飲み込まれてしまう。

だが、回りには次々に化物に変えられている人達がいるのだ。甲斐斗の話しを聞いても尚助けを求め人々は戦艦に乗せてもらおうと近づき始める。

「唯!早く艦を撤退させろ!」

『う……わかりましたっ……!各員、ELBとELAを射出次第撤退します!』

戦艦上部のハッチを開けELAのパーツとELBを射出、ELAは戦場の中心にまで自動的に飛び合体していくと巨大な円形の装置が完成し緑色の光を発しながら回転を始め、巨大な穴を形成しながら地下深くにまで下りていく。

後は艦隊がこの場から撤退するだけ───その場に留まる全ての戦艦が後退しようとした瞬間、再び地響きが鳴ると次々に艦隊に何かがぶつかったような衝撃が伝わっていく。

構わず戦艦を後退させようと艦隊は出力を上げるが、まるで大地に根を生やしているかのように全く動く事が出来ず、その場から一向に離れる事が出来ない。

「戦艦が動いていないぞ!何が起きた!?」

『そ、それが。地下から何かが艦にぶつかって───きゃあああああッ!』

「ッ!どうした唯!?」

胸に突き刺さる唯の悲鳴。甲斐斗は動揺を隠せず直ぐに何が起きたか確認しようとしたが、通信機からはノイズしか聞こえてこない。

胸が張り裂けそうになる程の不安が甲斐斗を襲う。先程まで人間を踏み潰し、死を間近にしても平然としていた甲斐斗だったが、今は呼吸すら覚束無い程の動揺と手足の震えに襲われていた。

『か、甲斐斗様。大変です、ERRORの触手が、艦内に……!』

通信機からは再び聞こえてきた唯の声、どうやら無事みたいだが酷く怯えている様子だ。

今すぐにでも艦に乗り唯の元に駆けつけたい甲斐斗だが、戦場では更に変化が起きていた。

戦場を囲むように生い茂っていた大木が、次々に色を失い赤く染まっていくと、あのPlant態のように血肉で出来た木々に成り果てていく。

草原が広がり奇麗な木々が生い茂る光景が瞬く間に地獄のような赤く濁った世界へと変貌し、更に艦隊には血管のような赤い根が何本も張り巡らされ艦を地面に固定していく。

艦隊が受けた衝撃は地下から伸びるPlant態の根が装甲を突き破り艦内に侵入したのが原因だった、根からは赤い蛭ような化物が次々に溢れ出ると、周囲の人間達を遅い化物へと変えていく。

刻々と変わる戦場の変化についていけず人々は混乱し始めていた。

それは甲斐斗も同様であり、唯の身が危険な事を知って平常心すら保てずにいる。

「何が起こってんだよ、この世界はッ……!」

甲斐斗の心を蝕む恐怖。

それは自分の死でも無ければ、アステルやERRORに敗北する事でもない。

掛け替えの無い大切な人達の死。ただそれだけだった。

絶対に唯を守る。その一心でこの最後のEDPに参加した甲斐斗。

守る為に艦から離れず守りに徹した戦いを繰り広げ、多大な犠牲を払っても決して自らが前線に出ようとしない。

誰も信用できない。信じられるのは己の力のみ、守りたいものは自分の力で守るしかない。

だが、今、たった一人の、自分だけの力だけで、この場をどうにかする事が出来るのか……?

艦には唯が居る、紳も愁も羅威もアリスもエリルも大切な仲間達がまだ残っている。

辺りには百を超えるPlant態に囲まれ、地上には化物が連鎖反応を起こすかのように爆発的に増殖している。

そして───。


───「ゲェぇえエエムぉォオオオオバぁぁああアなんだよおおッ!!甲斐斗ぉぉおおおあああアアアアアアアッッ!!!!ぎぃひひゃひゃひゃひヒャヒャ!!うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

『最強』の帰還。

地面を吹き飛ばし、地下から再び現れたデルタは地上にいた時とは違い変貌していた。

背部には黒い光を発する輪の形をした魔法陣が浮かび上がっており、その輪は両肩、両腕、両脚に付けられゆっくりと回転している。

その右手にはELBの残骸を持っていたが、ELBからは全くエネルギーを感じられない。

ELBすら侵食しそのエネルギーを吸収してしまったデルタは手加減無しの全力を発揮し覚醒した姿を甲斐斗に見せ付けていた。

神々しい程に美しく洗練された姿形をした黒い化身『デルタ』。

人を超え、神を超え、ERRORを超え、この世を超越した最強の存在。

この状況を前に何を望めばいい、何を願えばいい、何を信じればいいのだろうか。

絶体絶命の窮地に再び立たされる甲斐斗。最早希望は見えず、絶望に包まれたこの戦場をどうする事も出来ない。

人類最後のEDP、人類最後の決戦は、全滅という結果で終わりを迎えようとしていた。

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