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第160話 究極、武力

───アルムズの圧倒的力に人類は苦戦、数多の戦略も通用することなくダン率いる部隊は敗れてしまう。

特機『黒利』を操縦するダン。彼の戦術すらもアルムズには一歩及ばず、命を落とした。

そして今、アルムズと戦い生き残っている兵士はたった一人。少年ロアだけとなった。

唯の乗る戦艦にある格納庫、その格納庫の扉が僅かに開くと、一匹の龍が姿を見せる。

少年と共に行動している龍、まるでこれから起こる戦いを見守るかのように甲板の上に座ると、その美しい瞳で大和を見つめ続けていた。


───「行きます」

ロアの力強い言葉と共に、一歩ずつ前に歩み始める大和。

前進する速度は徐々に上がり加速していくと、背部と両脚の出力を最大にまで上げ一気にアルムズとの間合いを詰めていく。

大和の様子を眺めていたアルムズは即座にライフルを構え引き金を引くと、その動きを見た神楽は対ERROR用のジャミングプログラムをアルムズに向けて発信を開始した。

アルムズから放たれた弾丸を黒剣で弾く大和だが、その黒剣の切れ味と耐久力、そして何よりも剣の軽さにロアは驚愕してしまう。

(これが甲斐斗さんの剣……なんて扱いやすいんだ。それに軽い!)

次々に放たれるアルムズの弾丸を大和は次々に弾き落としていく、その動きは本当にあのロアの操縦する大和なのかと疑う程のものだった。

アルムズの弾丸を回避する事を諦め、剣一本で立ち向かっていく大和の姿を見て甲斐斗は少し安心する。

(良い動きだ。あいつに必要だったのは自信でも経験でもなくて……踏み出す為の勇気だけだったな)

出来ればロアの戦いを見守りたいが、艦の護衛もある為これ以上見続ける訳にもいかず魔神は近くに落ちていた量産型Doll態の使っていた剣を手にすると、襲い掛かるDoll態の胸部を次々に貫き、切裂いていく。

(ロア、絶対に勝て、必ず生きろ。お前はお前の為に、な)


『─ERROR─』

アルムズのライフルから放たれた弾丸が大和ではなく地面に直撃してしまう。

誤差修正、軌道を予測、弾道を計算。次こそは大和の胸部に命中させられる。

『─ERROR─』

だがライフルから放たれた弾丸は全く別の方向に飛び、次の射撃を試みる為引き金を引こうにも指が思うように動かない。

『─ERROR─』

『─ERROR─』

『─ERROR─』

何かがおかしい。体が思うように動かず、レーダーが消えると視界が乱れ暗転していく。

自分の異常に気付いたアルムズはまず向かってくる大和から距離を置こうとしたが、膝から崩れ落ちてしまい大地に膝を付いてしまう。

それならばとステルスフレームの起動に加え幻影を発動しようと試みるものの。特機の能力が全く起動しない。

気付けば大和が黒剣を振り上げ目前にまで迫ってきている、このままでは黒剣の直撃は免れない。

今ならアルムズを殺れる。まるで観念したかのようにアルムズは手に持っていたライフルを地面に落とすと、俯いたまま全く動こうとしない。

その様子を見ていたロアはアルムズに止めを刺す為、声を上げ剣を振り下ろした。

「もらったぁッ!」

剣はアルムズの頭上に振り下ろされた。もはや回避は不可能。

なのでアルムズは両腕を振り上げると大和が振り下ろした黒剣を両手で挟んでみせた。

「そんなっ!?」

他愛も無く真剣白刃取りをしてみせるアルムズ、全身の模様が光り輝かせると、両腕を神威の腕に変形させ青白いプラズマを拡散させていく。

その一連の動きを見たロアはすぐさま大和をアルムズから離れ少しだけ距離を取りプラズマを剣で受け止める。

「あと少しだったのに───ッ!」

両腕を動かし特機の能力を使用したアルムズ。

一見すればジャミングプログラムに免疫をつけたようにも見えるが、それは大きな誤解だった。

今、アルムズは生まれて初めて重大な局面に立たされていた。

ステルスフレームや幻影等の特機の力をある程度制約され、異常を排除しようにも次々に『─ERROR─』が体内に増殖していくのが分かる。

異常の発生によりデータが破損、それと同時にリカバリーを行うアルムズの体内ではレジスタルに極度の負荷がかかっていた。

それを知ってか知らずか。ロアの果敢な攻めは更に続いていく。

今、大和がアルムズとの距離を置いた理由は二つ。一つはプラズマの直撃を避ける為、そしてもう一つは右肩の大砲から砲撃を開始するからだ。

だがアルムズも甘くはない。左腕に黒利のアンカーを作り出すと腕を伸ばしアンカーを発射する。

一瞬でその場から離れ難なく砲撃を回避すると、更に両脚と腰にアンカーを作り出すと次々に発射しながら複雑な動きで大和に近づいていくと同時に魔神の大剣を作り出し構えてみせた。

距離を取り離れた場所からの狙撃を試みるのかと思えば、態々剣を作り接近してくるアルムズを見てロアは微かに違和感を感じると、黒剣を盾に大地に踏み止まった。

(何か来る───っ!?)

本来なら大和も接近し剣を交えた戦いになるはず……そう思わせるようなアルムズの素振りにロアはいち早く気付いたのだ。

案の定、アルムズは剣を一瞬でライフルに変化させると銃口を向け引き金を引き始める。

近接戦と見せかけての狙撃。だが、これはロアの感じていた違和感ではなかった。

ライフルの狙撃は大和に通用しない、黒剣で次々に弾丸を弾き落とし攻撃を無効化していく。

その間にアルムズの両手は発光しており、構えていたライフルをその場に捨てると両手を大和に向け瞬時にLRCを発射した。

ライフルの牽制により大和を足止め、その後LRCの準備を進めると共に逃げる隙を与えることなくLRCを発射し直撃させる作戦。

眩い閃光と共にLRCが発射されるが、それと同時に大和の右肩にある大砲からもLRCが放たれていた。

ロアは違和感を感じた後、大和も予めLRCを放つ為に準備を進めていたのだ。

黒剣で弾くだけでなく次の攻撃の為、そしてアルムズに対抗する為に次の手を考え続ける必要がある。

互いのLRCはぶつかり合い、競り合いと共に激しい閃光と衝撃波が発生。

「く……っ!」

互いの機体は激しく揺れ、操縦席に座るロアにもその振動が伝わってくる。

アルムズもまた揺れを感じていたが、その揺れが自分の両腕が粉砕された衝撃だという事に一瞬では気付けなかった。

まさか、ここでロアが『同じ手』を二度も使ってくるなど、アルムズには考えられなかったからだ。

大和はLRCと共に再び徹甲弾を発射していたが、アルムズは気付く事が出来ず両手を貫かれてしまう。

初めてアルムズに傷を与える事に成功した。後はこのまま大和の放つLRCで掻き消すだけ。

しかしアルムズは終わらない。左足からアンカーを発射、LRCの範囲から負傷しつつも抜け出すと、両腕と両脚を神威の物に変え一瞬で大和の背部に回りこむ。

(速いっ!?)

アルムズは敵を倒すために自分の持てる全ての力を発揮し、利用する事で成せる戦術が有る。

ロアが先手を考えるのと同様に、アルムズもまた次から次の手を考え実行に移していた。

LRCを発射していた為、大和の動きが若干遅れてしまう。

振り下ろされる拳を回避しようと機体を動かそうとしたが、僅かに間に合わずアルムズの拳が大和の胸部に掠った。

「う゛ああああぁぁぁッ!?」

それだけで大和の全身に稲妻が走り、操縦席に座るロアにさえ強力な電流が流れる。

意識が飛びかけ思考が白く塗り潰されそうになるが、なんとか意識を保ちロアは大和を操縦し黒剣をアルムズ目掛け振り下ろす。

だが意識が朦朧とする状況で放った一撃などアルムズに通用するはずもなく、プラズマを纏う右手で黒剣を弾くと、再び左手の拳が大和の胸部に向けて突き出された。

回避も防御も間に合わない。ならばと思い大和は右手を剣から離すと、右手の拳をアルムズの左拳にぶつけ衝撃の相殺を図ろうとするが、互いの拳で殴りあうとすれば神威のプラズマを纏う拳の方が威力が高く大和の拳の破壊は免れない。

(それでも、一瞬だけなら───!)

目的は別にある。大和の拳とアルムズの拳は寸分の狂い無くぶつかり激しい衝撃を生むと共に大和の全身に再び電流が駆け巡る。

「ぐぅッ───!」

このままでは大和が持たない。

勿論このままぶつけ合う事を選びはしない、これは意味があっての行動。

拳をぶつけ合った衝撃を利用し大和は僅かに後方に跳ぶと、右肩の大砲の射程内に入ったアルムズ目掛け砲撃を行う。

この距離、目前にいるアルムズは大和の砲弾の直撃は免れない。

しかし回避が間に合わないのなら防御をすればいい。アルムズは右腕をアギトの腕に変えると、大和の大砲から放たれた砲弾を防いでみせる。

爆風が二機を襲い瞬く間に爆煙が辺りを飲み込み視界を覆っていく。

だがこの程度の爆発が至近距離で起きた所で大和には大したダメージも無ければ衝撃もなく、黒剣を構えるとアルムズが立っていた場所目掛け剣先を突き出した。

視界は遮られているものの手応えを感じる。間違いなく何かに突き刺した感触が伝わってくるが、次の瞬間煙から無数の弾丸が飛んでくると次々に大和の体に直撃しはじめた。

「こっのぉおおおお!!」

肩や足の装甲が弾丸に砕かれるものの致命傷は免れ、弾丸が飛んで来る方向に剣を構え直すと、煙から抜き出した剣先には量産型Doll態の胸部が突き刺さっていた。

アルムズのダミーを用いた戦術。その一連の光景を見たロアは大和の握っている黒剣を大きく振り被らせると、渾身の力を篭めて振り下ろし前方に突風を発生させ一瞬にして辺りに漂う砂塵や爆煙を吹き飛ばした。

視界が一気に開け見てきた光景、そこにはライフル型のフェアリーだけが無数に浮遊し銃口を大和に向けていた。

そこにアルムズはいない───だとすれば大体予想がつく、前後からの同時攻撃による挟み撃ち。

フェアリーの狙撃はもはや避けられない、だとすればせめて背後から迫ってくるアルムズ目掛け一撃を繰り出すしかなく、大和は振り下ろしていた剣を振り向きながら振り上げようとした。

「───ッ!」

ロアが振り向いた所でそこにアルムズは存在しない。

アルムズも人類と同様戦いの中で成長し学習し続ける。ダンとの戦いで背後からの攻撃にも関わらず不意を突かれた事を忘れてなどいない。

そしてアルムズがいる場所、それは真っ白に輝く太陽を背にする場所、上空からの奇襲だった。

強力な一撃を大和に与える為、白き大剣を構え両手で大きく振り上げながら急降下しており、まともに攻撃を受ければ大和の装甲ですら簡単に両断してしまうだろう。

が、それは剣が大和に触れればの話。

ロアの思考は冴えていた、振り向きアルムズがその場にいないと理解した瞬間、振り上げた黒剣を勢いに任せ入るかどうかも分からない頭上に放り投げたのだ。

剣士としての戦い方を捨ててはいない、だがERRORに勝つ為に成せる事を全力で実行する。

甲斐斗のように、ダンのように……持てる力全てを使うのはERRORだけでなく、人間であるロアも同じだった。

真っ直ぐに頭上に放り上げられた黒剣。

予想外の攻撃にアルムズの回避は間に合わず、振り上げた両腕を下げる事も出来ずアルムズの腹部に黒き大剣が突き刺さるが、黒剣の勢いは突き刺さるものの全く勢いが衰えず、簡単にアルムズの胸部を貫通してしまう。

不意を突くはずが、逆に不意を突かれた一撃を喰らいアルムズの思考が乱れる。

しかしこの程度の攻撃でERRORの特機がアルムズが死ぬはずもなければ止まる事もない。

「まだだッ!」

それはロアも至極当然の事だと理解している。

大和は背部に付けてある長刀を手に取ると、降下してくるアルムズ目掛け刀を構え自らも敵目掛け接近しはじめたのだ。

「これでッ!」

勢い良く跳躍しアルムズ目掛け接近する大和、しかしアルムズにはまだ余力が残っていた。

アルムズの回りに次々にライフル型のフェアリーが作り出されると、向かってくる大和目掛け一斉射撃が始まる。

弾丸は大和の全身に直撃していく、左足は貫かれ、右肩の大砲も貫き爆発を起こす、大和の全身に穴が空き傷付いていく。操縦席に煙が立ちこみ機器からは火花が飛ぶ、モニターには次々『─ERROR─』の赤い表示がけたたましいアラーム音と共に点滅するが、大和の突進する勢いが衰える事はなかった。

そして、互いが目前に距離にまで接近した瞬間。手に持っている刃を互いの敵目掛け同時に振り下ろした。

「───っ!」

刹那の瞬間、大和の振り下ろした刀はアルムズの胸部ではなく両脚を切断する事に成功した。

しかし、アルムズの振り下ろした大剣は大和の左肩を大きく抉り吹き飛ばしてしまう。

互いに致命傷を与える事は出来なかった、大和の負傷した体では空中で体勢を整える事すらままならず、アルムズの周りに浮遊するフェアリーの攻撃で次々に装甲が吹き飛ばされていく。

両脚を破壊されたアルムズもまた地面に着地する事が出来ず地面に叩きつけられると、その白い装甲とマントを初めて黒く汚してしまう。

それでも尚、アルムズは健在していた。

胸部を貫かれ両脚を切断されても、未だにアルムズは生きている。

それに対して大和は重傷を負い瀕死の状態、左肩から腕を切り落とされ、機体からは黒い煙が昇っている。

決着はついた───等と、ロアはそんな愚考など抱いていない。

何故なら決してロアは諦めず、大和の怒涛の攻撃がこれから更に続くからだ。

地面に落ちたアルムズの両肩に突き刺さる刃。それは大和の腰に付けてある二本の刀だった。

負傷しつつも大和は右腕一本で二本の刀を連続で投げアルムズの両肩を突き刺し地面に固定すると、アルムズ目掛け突進していく。

その動きを見ていたアルムズは直ぐに肩に突き刺さる刀を引き抜こうとした時、ふと自分の視界に差し込むはずの光りが遮られた。

雲一つない青空で何故……それを理解するのに考える必要など無い。

何故なら光りを遮った物体とは、上空で勢いを失い重力に引き寄せられ真っ直ぐ落ちてきた巨大な黒剣なのだから。

その身をもって知る事となる。落ちてきた黒剣は地面に固定されたアルムズの胸部を貫き更に地面に固定していく。

両脚の切断、更に両肩と胸部に突き刺さる刃にアルムズは身動きがとれない。

しかし、それでもアルムズは生きていた。全身の模様を発光させ、特機の能力を使用しこの危機を脱しようとした時、地面の揺れと共に一機の機体が姿を見せる。

装甲が剥がれ右肩の大砲は破損、左肩を切り落とされ火花を散らせ、全身に傷を負い煙を上げる一機の機体『大和』。

黒剣の柄に結ばれていたリボルバーを右手で引き抜き構えてみせる。

大口径のリボルバーの狙う先、それは身動きを完全に固定されたアルムズの頭部だった。

戦いながらロアは気づいていた。アルムズのレジスタルは胸部ではなく、頭部に存在している事を。

両脚を破壊、更に肩を破壊、胸部を破壊してもなお動き続けるアルムズ。消去法で考えていけばレジスタルの有る箇所は一箇所に絞られる。

後は引き金を引くだけ……それは大和と同様、アルムズも全く同じだった。

地面に倒れたアルムズの上に立つ大和、その回りには無数のライフル型フェアリーが大和の四方を囲っていたのだ。

これ以上の損傷で至近距離による一斉射撃が行われれば大和がどうなるか……簡単な事、大和の敗北を意味する。

しかし……アルムズは引き金を引こうとしなかった。

何故なら、このフェアリーが大和の抑止力となると分かっていたからだ。

同時に引き金を引けば大和を破壊できるもののアルムズの死も確定してしまう。

となればやる事は一つ、この危機的状況を抜け出すには大和はこの場から離さなければならない。

引き金が引くと分かれば大和も引き金引くだろう、だがアルムズが動きを止めていればどうだ?

このままでは互いが死ぬ事になる。それはロアだって避けたいはず。

アルムズが思考を巡らせる中、ロアもまた様々な思考が脳裏を過っていた。

引き金を引く事はERRORに勝利するという結果と共に、自らの死を受け入れる事になる。

ロアだって死にたくない。皆の分まで生きていくと心に決めたのだ、それは当然の思いだった。

一体どうすればいいのか……なんて事、決まっている。

きっとこの場に誰がいても、皆同じ決断をするだろう。

怖い、辛い、苦しい、けれど、その先には人類の勝利が待っている。

そしてこの戦いの勝利、それは自分えの勝利とも言えるものだった。

元いた世界でERRORから逃げ回り、戦いから逃げてきた自分の弱さに打ち勝つ事と同等の価値なのだから。

覚悟が出来ていると言えば嘘になる、が……ロアは選択する、自分の生きてきた人生の中で、初めての勝利の為に。

「僕は───勝つよ」


───引き金は同時に引かれた。

リボルバーの弾丸はアルムズの頭部に命中、中にある輝くレジスタルを貫き砕き散らせると、アルムズの全身の模様、そして眼の光りが消えていく。

そして大和の四方から放たれたライフルの弾丸は大和の肩、腕、足、腹部、全てを貫き破壊する。

最後の最後まで大和の眼は光り続ける、力を無くしゆっくりとその場に跪くと、眩い閃光を発した後、周囲を巻き込む程の爆発を起こし戦場から姿を消した。


───アルムズとの決着がついた。

アルムズは跡形も無く消え、大和もまた全身がバラバラに吹き飛び残骸が辺りに飛散する。

すると、その戦いを見ていた龍が突如二枚の翼を広げ飛翔すると、ある残骸の方に飛び立つ。

その残骸とは、両手両脚を失い破損した大和の胸部だった。

龍は大和の胸部にある破損した操縦席の扉を尻尾で貫き吹き飛ばすと、中に入るロアを助けようとする。

だが……操縦席の中にいたロアの姿を見て、龍の動きが止まってしまう。

あの爆発の中、操縦席が残っているだけでも流石は大和だと言えるが……あの戦いの末、操縦者が無事であるはずがなかった。

黒く焦げた操縦席の中は赤い血が飛散しており、歪んだ操縦席に虚ろな瞳をしたロアが座っている。

頭から大量の血を流し、両腕を失い虫の息のロア……呼吸が乱れ、口からは泡立つ黒い血が零れ落ちていた。

そんなロアの姿を見て、龍は尻尾を使い優しくロアを持ち上げ自分の胸元に近づけると、血で汚れ今にも死にそうなロアを二枚の翼で覆い優しく抱き寄せた。

それだけでロアには伝わった。この戦い、自分の勇姿を龍が見守ってくれていた事に。

無性に嬉しくなるロア、その瞳からは汚れのない澄んだ涙が零れ落ちる。

誰も勝てなかったERRORに、皆の力を借りながらもたった一人で戦い勝つことが出来た。

死に行く怖さ、痛みよりも、今ロアの胸は『嬉しさ』で一杯だった。

「ぼくっ…………かっ゛、た……ょ……」

憎き、恐れを成していたERRORえの勝利、その気持ちで僅かに発した最後の言葉。

それだけを言い残し、ロアは目を開け涙を流したまま、静かに息を引き取った。

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