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第16話 波乱、旅立ち

(どうして俺はこの世界に来てしまったのだろうか)

 冷たい牢屋の中、甲斐斗ふと疑問に思ってしまう。

 疑問それだけではない、どうしてこの世界に来て魔法が使えなくなったのかも未だに不明。

 魔法さえあれば自分は今頃こんな牢屋から抜け出しさっさと元の世界に帰っている。

 NFだろうがBNだろうが甲斐斗にとっては知ったことではない。

 当たり前だ、この世界で戦争が起ころうが滅亡しようが甲斐斗にとっては関係の無い事。

 どんな世界でも始まりが有り終わりを迎える、これは当然の事であり一々構っている暇はない。

 元の世界に帰りたい……そっと目蓋を閉じてみれば今にも鮮明に思い出せた、あの時自分がいた元々の世界を。



──「そんなっ……甲斐斗さん!」

 崩壊していく世界で両手に双剣を握り締める一人の少年が甲斐斗の名を叫んでいる。

 体は傷だらけであり、口元には少し血が付いているものの、空色の髪の少年の目はしっかりと甲斐斗を見つめていた。

 そしてその隣にいる、美しく綺麗なブロンドの長髪を靡かせている一人の少女。

 その場に立っているのがやっとな程、二人の姿は既にボロボロの状態だった。

「甲斐斗! 約束したよね……一緒に帰るって!」

 少女はそう言って目に涙を浮かべているが、甲斐斗は澄ました表情で二人を見つめていた。

「……ああ、お前等が俺に約束してくれたんだよな。絶対に元の世界に帰るって」

 次々に地面に亀裂が走り、広がっていた空は変色しながら濁っていく。

「違うよ! 甲斐斗だって約束してくれたじゃない! 帰ろうよ、甲斐斗っ!」

 少女はそう言って甲斐斗に手を指し伸ばしてくる。

 だが少年は違った、涙を流しながら甲斐斗の決意を理解し甲斐斗から一歩下がるものの、耐え切れずに言葉が出てしまう。

「それなら今約束してください。必ず……必ず僕達の世界に帰ってくるって!」

「……わかった、約束する。絶対に帰ってくるからな」

 甲斐斗は腕を前に突き出し親指を突きたてた。

 そして二人は無事に魔法で元の世界に転送され、その場から姿を消した。

 甲斐斗は二人が無事に元の世界に帰ったのを見て一息つくと、ようやく安心感が沸いてくる。

 ……その後、暫くした後。甲斐斗は世界の崩壊に巻き込まれ、その姿を消した───。




──「うへへ、俺ってカッコイイぃ……うへ!」

「わっ!……え? 寝言? ビックリしたぁ」

 余程楽しい夢を見ているのだろう、涎を垂らしニヤニヤと笑みを浮かべながら寝ている甲斐斗を起こさないように、アリスはそっと牢屋の鍵を開けて部屋に入っていた。

 手には包帯や消毒液などが詰め込まれている救急箱を持っており、今から手当てを施そうとしている。

「カッコイイって自分で言ってたけどナルシストなのかな……ううん。それより今は包帯を替えてあげないと」

 起こさずに包帯を換えようとしているのだろうか、必死に体に巻かれている包帯を取ろうとしている。

 だが甲斐斗が寝返りをうつたびにビビって包帯を取る事が出来ない。

 それに負けじと必死に包帯を取ろうとするアリス、寝返り、びびる、取ろうとする、寝返り、びびる。

「もう! じっとしていてください!」

「んっ……? 誰だお前」

 ようやく目が覚め、体を起こす甲斐斗、眠そうに目を擦ると軽くノビをしていた。

「私の顔を忘れたんですか? アリスですよ! 包帯を取替えにきました」

「おおー、寝ている間にもう一時間たったのか、ご苦労様ー」

「いえー四時間も遅れて来ちゃいました」

「なん、だと。時計、時計は何処だ、今何時だっ!?」

「今は二十一時ですね。さ、包帯取りますよー」

 そう言ってアリスは甲斐斗の顔に巻かれてある包帯に手を掛ける。

 ゆっくりと外されていく包帯、ようやく甲斐斗の顔を邪魔していた物が無くなった。

 包帯が取れてスッキリした様子の甲斐斗だが、包帯を取った甲斐斗の姿を見てアリスは驚いた様子で見つめていた。

「あれだけの火傷がもう治ってる……」

 それは顔だけではなかった、腕や足、体に巻かれている包帯を取るとそこに傷は無く、火傷の跡すら全く残っていない。

(ま、魔法は使えてなくてもこの人間離れした生命力と治癒能力が俺を長生きさせてくれる秘訣だからな……)

 当然治っていると思っていた甲斐斗は特に驚いたそぶりも見せず、手足を軽く動かし万全な事を確かめていく。

「これなら包帯いりませんね」

 アリスはせっかく用意して取り出してくれた包帯を救急箱に戻していく。

「俺の事不気味とか思わないのか?」

「思いませんよ? 甲斐斗さんの顔とっても綺麗ですし」

「いやいや、俺の顔が不気味とかじゃなくてだな」

「貴方が誰だろうと関係ありませんよ、甲斐斗さんは私達の命を救ってくれましたよね。それに、甲斐斗さんは悪い人には見えませんから、とても優しそうな方に見えますよ」

「ああそう、それは良かった……」

 その時、急にアリスがしゃがみ込むと、甲斐斗と顔の距離を近づける。

 アリスからは女性らしい甘い匂いが漂ってくる、そして目の前の顔を近づけられた甲斐斗は咄嗟の事に体が固まり、僅かにたじろぎながらもアリスを見つめていた。

 するとアリスはにっこりと笑みを見せると、甲斐斗の瞳を見つめながら呟いた。

「綺麗な目をしてますね」

「へ?」

 そう言うとアリスは照れ笑いをしながら救急箱を持ち上げる。

「すみません変なこと言っちゃって。それじゃ、おやすみなさーい」

「ん、ああ……おやすみ」

 部屋を出て行った後、甲斐斗は小さな溜め息を吐くとすぐに横になり眠ろうとしてしまう。

(そういえばさっきあいつは俺の目が綺麗と言っていたが……)

 ふと右手が気になり右手で覆い隠してみる。……見える、はっきりと前が見える。

 急いで洗面台においてある鏡を手に取り、自分の顔を凝視した。そこに左目があり不自由なく動き、しっかり物が見えるようになっている。

 どうやら、肉体の治癒と同じように左目も完治していたらしい。




 波乱に満ちた一日は終わり、甲斐斗にとって希望に満ちて欲しい一日が始まろうとしていた。

 朝日の差し込まない薄暗い牢屋にいる甲斐斗はまだ爆睡中。

 爆睡中だが。BNの兵士達は既に起き、訓練に勉強色々と必要な訓練を行っていく。

 だが羅威達は違う、今日から基地を離れ戦艦に乗って各地を回るのだ。

 出発の時間は近い。格納庫にはエリルや穿真、そして昨日ブリーフィングルームに来ていた兵士達が集まっていた。

「コレが戦艦リシュードか、でけぇえなー!」

 まるで子供が発売したばかりのオモチャに目を輝かせるかのように、穿真もまた目を輝かせ嬉しそうに戦艦を見渡している。

「おいエリル! さっさと乗ろうぜ!」

 穿真が振り返ると、エリルは携帯電話を開いて時間を確認していた。

「ちょっと待ちなさいよ、羅威がまだ来てないみたいないんだから」

「あー? どーせ愁と話してんだろー」

「もぉー、時間後少ししかないのに……私ちょっと羅威呼んでくる」

 開いていた携帯を閉じ、ポケットの中に入れて走り出そうとした時、突然穿真がエリルの腕を掴んだ。

「お前さぁ、少しは空気読めって」

「……穿真にだけは絶対に言われたくない台詞ね」



 羅威がエリルや穿真と別行動している訳、それは羅威が愁との別れを告げる為だった。

「愁、起きてるか?」

 愁のいる部屋の前に羅威は立っているものの、部屋の扉には鍵がかかっており中に入る事が出来ない。

 あれから一日がたった、昨日はいくら愁の部屋に行ったが、何も答えてはくれない。

 それが羅威には嫌だった、今まで仲良く共に活動していたというのに、最後の最後でとこんな感じで別れる事に。

「ポジティブに行こう愁。お前はこの戦争から抜け出せる事が出来たんだ。お前には弟や妹、母親がいる、家族がいるんだ。……守ってやれよ」

 部屋からは物音一つ聞こえない、もしかしたらもう愁がいないのかもしれない。

 それでも羅威はひたすら話し続けていた、愁が扉の向こうで話を聞いてくれていると信じて。

「そろそろ時間だから俺は行く。……愁、例えここで分かれても俺達は親友だ、それは忘れないでくれ」

 またいつか会える。最後の別れではないのだから、羅威はそう信じながら愁の部屋の前から立ち去った。




 昨日から一歩も外へ出てないミシェル。

 部屋のドアには外側から鍵が閉められて開かず、窓から出たくてもここは二階。

 昨日来てくれた穿真やエリルもいなく、一人寂しく毛布に包まっていた。

 その時、何やら外で騒がしい音が聞こえてくる。

 開かなかったはずのドアがすっと開き、二人の兵士が部屋の中に入ってきた。

 軍帽を深く被り、目元が見えない。彼等は部屋に入るや否や部屋の隅で縮こまっているミシェルに近づく。

「探したぜ、第一MG! 一緒に来てもらおうか」

 怯えながらその兵士を見つめているミシェル。

 すると、もう一人の小柄な兵士が口を開き、ミシェルに手を指し伸ばした。

「安心して、私達は…貴方の…味方……」

「みか、た?」

「そう……悪いけど、貴方には来てもらう……。葵、お願い」

 そう小柄な少女が言うと、隣にたっていた兵士が毛布に包まったままのミシェルを腰に抱きかかえる。

「後はここから逃げるだけだな、さっさと逃げるぞ!」

「あっ、戦艦…格納庫…行かないと……」

「格納庫? やっぱりあの作戦で行く気か!?」

「そう、危険だけど…頑張ろ……」

 危険な作戦、そんな事言われなくてもミシェルを抱かかえている兵士には十分理解できた。

 小柄な兵士は懐から起爆用のリモコンを取り出すと、躊躇い無く起爆スイッチを押した。

アリス・プリセント

医療担当の立派な医者、マイペースで明るい女性。

戦争は嫌いでBNもNFも好きではないがその事は皆に黙っている。

ただ目の前にいる怪我人を助けたい一心で医者になる決意をした。

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