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第157話 足掻き、大抵

───ロアが視力と聴力を奪われていたあの時に、全ては始まり、そして終えていた。

アルムズが大和と交戦中、他の仲間達は一斉に間合いを詰めようした時、アルムズの左手で閃光弾が炸裂するのを見てダンは息を呑み悪い予感を感じてしまう。

閃光弾により一瞬怯んだ大和、それを見たアルムズは突如左足を振り上げると、突然左足に光る模様が浮かび上がり黒利と同じ形状のアンカーが現れると、その白いアンカーを発射し大和をワイヤーで拘束した後そのワイヤーを自分の足から切り離した。

その一連の行動は一秒もかかっておらず、アルムズは振り上げたの左足の勢いで右足を軸に体を回転させると、ライフルを構え回転しながら黒利目掛けて弾丸を放った。

「ちっ!」

まるでアルムズがこの瞬間を狙い待っていたかのような手際に、ダンは舌打ちをしながら弾丸の回避を試みるが、弾丸は黒利の間近で破裂すると黒利の態勢を崩し一瞬だけ行動を封じてしまう。

「なにっ、衝撃弾だと───ッ!?」

黒利はアンカーで空中を高速移動していた為衝撃弾の威力に態勢が崩れその場に跪いてしまう。

完全に隙を作ってしまうダン、黒利は態勢を崩しつつも前を向きアルムズの次の行動に備えようとしたが、アルムズの標的は既に移り変わっていた。

回転しながらライフルを構え黒利の衝撃弾を発射後、ピタリと動きを止め次々に接近してくる我雲やギフツ、そしてリバイン等の量産機を撃ち抜いていく。

『アルムズ』。人間側の特機を真っ先に狙わず、先ずは数が多く個々が驚異的な力を持たない機体。

つまりERRORにとって『雑魚』から先に片付けにかかったのだ。

雑魚だろうと数が揃えばそれなりに力を発揮し、厄介な存在になる。それに量産機を先に狙えば人類側の士気を落とす事も出来る。

大和に梃子摺りあたかも苦戦している姿を見せるだけで物陰に隠れていた機体達がのこのこと出てきたのだから滑稽だ。

今更引こうがもう遅い、だからと行って前進しても何もかも遅すぎる。

近接戦を諦め機関銃を両手に量産機が射撃を始めるが、アルムズは両脚と腰からアンカーを発射すると先程の黒利のような高速移動を始めつつ、その空中にいる間にもライフルで狙撃を行い敵を撃破していく。

その光景を見たダンは直ぐに機体を立たせリボルバーを構えるとアルムズ目掛け射撃していく。

「あの野郎、弾丸だけでなく俺の黒利の力を真似やがったか?だとしたら───クソッ!」

悪い予感は的中してしまう。あの時、大和のLRCを受け止めた時から気付くべきだったのかもしれない。

だがそれは不可能と言ってもいいだろう。まさかライフル一丁だけのERRORに、そんな力あるなど考えもしていなかった。

黒利の放つ弾丸でさえアルムズの行動を止める事が出来ず、機体は数を減らし続けていく。

「こうなりゃ近接戦に持ち込むしかねえ。っと、その前に……」

ワイヤーが絡まり身動きを封じられている大和を見て黒利はたった一発の弾丸でそのワイヤーを撃ち抜くと、誰よりも先にアルムズに近づき銃を構えた。

それを見てアルムズは銃口から避けるように横に移動し黒利の背後に回ると、ライフルを構え黒利の背部に向かって引き金を引く。

すると黒利は後ろに振り返る事無く放たれた弾丸を回避すると、前を向いたまま左手のリボルバーを右の脇の下から銃口を出し発砲した。

放たれた弾丸はアルムズの握るライフルに直撃し破壊すると、黒利は後ろに振り返り両手に握る二丁のリボルバーをアルムズの胸部に向けた。

「今のお前の動きは俺の劣化に過ぎない。それに、銃はただ狙いを定めて引き金引けばいいってもんじゃあねえのさ」

黒利は計算した動き等していない。ダンは長年戦場を渡り歩いてきた自分の勘、ただそれだけでアルムズの行動を予測し、回避と同時に一撃を与える事に成功した。

経験の差と言ってもいいだろう。ライフルを破壊されたアルムズは銃をその場に落とすが、その時既に黒利はリボルバーの引き金を引いていた。

弾丸はアルムズに命中。しかし、それはアルムズの胸部ではなく左腕だった。

咄嗟に胸部を守ろうと左腕を前に出したアルムズ、黒利のリボルバーから放たれた弾丸が命中すれば無事では済まないはずだが、あろうことか黒利の弾丸をいとも簡単に弾いてしまう。

それもそのはず、アルムズの腕は先程までの細い腕ではなく、見覚えのあるあの豪腕。『アストロス・アギト』と全く同じ腕に変形していたのだから。

その瞬間、ダンは見てしまう。アルムズが全身に纏っている白い布隙間から見えたアルムズの姿を。

全身に模様や文字のような物が刻まれており、そして今その文字は光り輝きアギトの左腕を再現していた。

「ったく……そういう事かよ」

アルムズの左腕の模様も光り輝いており、そして更に光の強さが増したかと思えば、その左手には色は違えどあの甲斐斗の乗る機体、『魔神』が扱う巨大な剣を握り締めていた。

その一連の変化を目の前で見ていたダンは煙草を指先で摘み煙を吐くと、絶望的状況にも関わらずニヤリと笑みを浮かべるが、その直後豪腕で握られた大剣をアルムズは振り下ろし、黒利は成す術なく切り落とされてしまう。


───が、切り落とされたのは黒利の頭部のみ。

アルムズが黒利を破壊し損ない再び剣を振り下ろそうとしたが、黒利は右手のリボルバーをアルムズに向けると一発の弾丸放った後ワイヤーを使い一旦アルムズから距離をおく。

放たれた弾丸は当然の如くアルムズの左腕で弾かれるが、アルムズから離れるのには十分な隙と時間を与えることができた。

アルムズの左腕は瞬く間に元の形に戻り手に握っていた剣も消すと、地上に落ちようとしていた黒利の頭部を鷲掴みにし離れた場所でこちらを向いている黒利を見つめていた。

「ッと~!今のはマジで死んだと思ったぜェ……!」

冷や汗を垂らすも煙草は決して離さず、位置のズレたサングラスを掛け直すダン。

黒利は地面に着地するとリボルバーに新たな弾薬を装填し銃を構える、すると両手に一本ずつ刀を握り締めた大和がアルムズに接近しているのが見えた。

「あいつ!?さっきの敵の動きを見ていなかったのか!?前に出すぎだぞ!」

想像していたものより遥かに厄介な相手だという事に気付かされるダンは直ぐに大和に通信を繋げロアを止めにかかる。

「ダンさん!?生きていたんですか!?」

アルムズが黒利の頭部を手にしたのを見たロアはてっきりダンが殺されたのかと思っていたが、平気そうなダンの姿がモニターに映り驚きと共に笑みが零れる。

「良かった……やっぱりダンさんは死んでなんかいませんよね!」

「おいおい、俺が何時死んだって?傭兵が新兵より先にくたばってたまるか。……それより一度下がれ、あのERRORは他の機体の能力を使うぞ。一度態勢を立て直す必要がある」

「他の機体の能力、ですか……?でもダンさん、僕はあと少しで間合いに入れます、そしたら──」

「よく聞け。今お前が一人で特攻した所で奴を倒す事は不可能だ。あいつは俺達が思っているより遥かに強い」

ダンの鬼気迫る話し方にロアは大和を止めると、前を向いたまま後方に跳びアルムズに背を見せないように下がりながら黒利の元に向かっていく。

「それでいい。他の奴等は大木に隠れて狙撃を行え。相手は一機、四方を囲み慎重に攻めれば勝てる相手だ」

ダンの指示通り草原に佇んでいた機体達は一度森にある木々に再び隠れ狙撃の準備を行うと、大和は黒利の横に並びいつでも動けるように身構えていく。

(って言ってみたものの。こいつぁマジでヤバイ……正直言って勝てるかどうか分からないねぇ。他のERRORの特機も全部こんな化物ばかりなのか?)

他の特機達はどのような戦いを繰り広げているのか、ダンはふと気になり辺りを見渡すと皆の戦いぶりを見ようとしたが、この時初めてERRORの特機が残り二機にまで減っている事に気付く。

(既に二機も破壊していたのか……羅威と愁はまだ戦闘中みたいだが、あっちもあっちでド派手な事をしてやがるなぁ……)

一通り今の状況を把握していくダン、すると突如黒利に通信が繋がり、モニターに甲斐斗の姿が映し出される。

『おいおっさん。随分と苦戦してるみたいじゃねえか、大丈夫か?』

「機体の頭吹き飛ばされてんのにこれが大丈夫に見えるか?まぁ、俺でなくお前さんが戦ってたら頭部じゃなく胴体を真っ二つにされてるけどな」

『その口ぶり。まだ心は折れてないみたいだが、勝算はあるのか?』

甲斐斗の言葉にダンは何とも言えず考えていると、甲斐斗が映っている映像の横に神楽の姿が映し出された。

『無理ね。今の貴方達ではあのERRORに勝てないわ』

突如通信に神楽も加わり話し合いとなったが、こうもキッパリと『勝てない』と言われてはダンも思わず笑ってしまった。

「戦場に出てねえ学者さんが随分とでかい口叩いてくれるじゃねえか。世の中やってみなきゃ分からねえ事だってなんぼでもあるだぜぃ?」

『嘘ね。そんな考え方をしてたら貴方は今頃死んでるもの』

ダンの言葉に神楽は鋭く喰らいつくと、どうやらこのまま言い合っても無駄だと分かりダンは大人しく次の言葉を待とうとしたが、その間に甲斐斗が喋り始めた。

『このタイミングでの通信、何もそんな事を言う為にしてきた訳じゃないだろう?聞かせろよ、お前の打開策を』

『偉そうに言わないで。『貴方達』はERRORに勝てないって言ったけど。その中に甲斐斗も含まれてるのよ』

『はああ!?何だって!?俺が戦えばあんなERROR敵じゃねえよ!って聞いてんのかおい!』

ここで要約自分も馬鹿にされていた事に気付き甲斐斗は反論するが、そんな甲斐斗を無視して神楽は話を続けていく。

『騎佐久が持っていた対Dシリーズ用ジャミングプログラム。今あれを私の手でより強力な物に改良してるの、それをあのERRORに送信してみるわ』

それを聞いて甲斐斗は何の迷いもなく納得すると、直ぐに神楽の指示を出した。

『そういえばそんなものあったな!じゃあそれを全ERRORの機体に送信しろよ!』

だが、その言葉を聞いた神楽は甲斐斗の言葉を聞き暫く無表情になり、淡々と話しはじめる。

『貴方って本当に救いようの無い馬鹿ね、もう哀れみの感情すら湧いてこないわ。二度と喋らないで』

『え?えぇー……俺そんなに変な事言ったか……?』

自分の発言がそんなに間違っているのか疑問に抱くものの、何が変なのか自分では分からない。

すると、その回答をするかのようにダンが答え始めた。

「乱用は避けたほうがいい。そのプログラム、というよりウイルスがERRORに通用しない事も想定しなければならねえし、利用される可能性もある。それと対策用のワクチンプログラムも作り直す必要があるからな、そうだろう?」

『驚いたわ、正解よ。貴方見た目と違って随分と利口ね』

「やれやれ、褒められたってのに全く嬉しくないねぇ」

神楽とダンの会話を聞き甲斐斗は腕を組むと納得したかのように頷き始める。

『な、なるほど。まぁウイルスとワクチンがあって初めて効果を発揮するっていうか、二つで一つのワンセットみたいなもんだからな。うんうん』

なんとなく意味不明な事をそれっぽく語る甲斐斗だが。既に神楽の眼中に甲斐斗はおらず、ダンだけを見つめながら話を進めていく。

『それじゃ、時間稼ぎはよろしく。……ちなみに、このプログラムに頼らなくても倒せるのなら倒しといていいわよ』

それだけ言い残し神楽が通信を切ると、完全に無視された甲斐斗は軽く溜め息を吐き話し始める。

『すまねえな、俺はここを離れる訳にはいかねえから加勢は出来ねえ。紳とエリルは気を失っているし騎佐久の機体はまだ修理中だ。今あいつと戦えるのはお前達だけになるが、もし無理だと思うなら……』

その先の言葉をダンは望まない、だから甲斐斗が言い終わる前にダンが口を開いた。

「甲斐斗、艦は頼んだぜ。お前がその艦を守ってくれているお陰で俺達は集中してERRORと戦えるからなぁ」

『……ああ、任せろ。艦には傷一つ付けさせやしねえ。だから前線は……任せたぞ」



───甲斐斗との通信を終え、この状況にどう動けば良いか未だに悩んでしまい無意識にダンは一服しはじめていた。

「ちょっとダンさん!なんで煙草吸ってるんですか!?」

その様子を見ていたロアは困惑するものの、ダンは煙草を加えながらモニターを指差す。

「まぁ落ち着け。奴を見てみろ」

ダンに言われた通りロアは再びアルムズを見るが、先程と特に変わった様子は見られずダンが何を言いたいのか分からない。

「あのERROR、まるで俺達を待つかのように無防備な状態で立ってやがるだろ。こういう時は大抵厄介な事を企んでるんだよ、だからこっちの陣形が整うまで下手に手は出さなくていい」

ロアは言われてみて初めて気付いたが、たしかにアルムズは先程のように攻撃をしてこない。

前を向いたまま両手を下げており、まるで二機が向かってくるのを待つかのように動きを止めている。

「奴は俺達の動向を探り、この戦場の全ての戦力と状況を把握している。恐らく俺達の動きは全て予想済みだろうからなぁ、下手に動けば即殺られる」

「そんな……ERRORは僕達の動きに合わせて元々考えている最適な戦術を選ぶだけってことですか……?」

ロアが以外にも的を得た事を言いダンは頷くと、相変わらず煙草を吸いながらアルムズを見つめていた。

「なんだ、意外と頭が回るじゃねえか。用はそういう事になる、言ってみりゃ俺達は詰みの状態になるな」

「いったいERRORは何通りの策を思いついてるんだろう……」

「さぁ、何百通りだろうなぁ分からねえ」

「な、何百っ……」

このERRORは一体どれだけの力を持っているのか……未だにその力量が計り知れずロアはたじろぎそうになるが、何とか踏み止まり決してアルムズから目を逸らさなかった。

「それでも僕達は、絶対にERRORに勝たないといけない……!」

分かっている。頭の中では理解している、これがERRORであり人類の敵、驚異的な力を持つ超生命体。

最初は人を喰らう無能な化物の相手だったが、今では兵器と魔法を駆使し人間の遥か上の存在となってこの地に降臨している。

前の世界だってそうだ、何百、何千の数の龍でさえ倒す事が叶わなかった存在となり、世界を悉く滅ぼしてきた。

次第に体に力が入り操縦桿を強く握り締め、それに合わせ大和もまた両手の刀を強く握り締めていく。

「あの時僕は何も出来なかった……いや、何もしようとしなかったんだ……でも今は違う、僕にはあのERROと戦えるだけの力が今は有る!……ダンさん、指示を下さい」

人類側の準備が整った直後にロアはそう言ってダンを見つめると、ダンもまた加えていた煙草を指で摘み携帯灰皿の中に吸い終った煙草を捻じ込んだ。

「ふっ……焦るなよ」

ダンの重い呟きにロアは今一度心に決めて頷くと、彼等は再びアルムズとの死闘を開始した。

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