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第156話 嫉妬、翻弄

───最後のEDP。その戦いを見守っていた神楽とミシェルと赤城の三人だったが、突如アビアが部屋に入ってくると、部屋の雰囲気は殺伐としたものに一変してしまう。

「貴方、魔法で昨日の光景を見たんでしょ?それなら分かるじゃない、私が何をしてたのかなんて。それとも……その先が怖くて見られなかったのかしら?」

ナイフを持つアビアに神楽は平然とした様子でそう答えると、再び煙草を銜えアビアの言葉を待つ。

青白く光るナイフを見て神楽はアビアが昨日の出来事を見たのだと確信する。以前甲斐斗の記憶を引き出そうとした時もあのナイフを握っており、更に昨日の機体格納庫の監視カメラに映るアビアが機体の情報を青白く光るナイフで読み取っている様子も見ていた為、アビアのナイフには記憶や情報を引き出す力があるのを推測する事は簡単だった。

神楽の隣に座っていたミシェルは背筋を立ててその場の雰囲気に体が固まってしまうが、赤城はアビアには目もくれずモニターに映る大和だけを見つめている。

少しの沈黙の後、神楽の言葉を聞いたアビアはナイフの柄を強く握り締めると、足早に神楽に近づき胸元目掛けナイフを突き出したが、ミシェルがアビアの前に立ち両手を広げた。

「だめーっ!」

ミシェルの額に輝く魔方陣が浮かび上がり『絶対名:制約』の力を発動しようとした瞬間、ミシェルの後ろに座っていた神楽が優しく肩を引きミシェルは態勢を崩してしまうと、座っていた神楽はふと立ち上がりアビアのナイフを握る手を掴みそのナイフの刃先を自分の胸元に向けた。

「いいわよ、見ればいいじゃない」

正直アビアは神楽の言動に一瞬戸惑ってしまうものの、澄ました表情の神楽を見てそのまま流れに身を任せナイフを神楽の胸に突き刺してしまう。

神楽の胸にナイフが突き刺さり眩い光が辺りに広がり神楽とアビアを飲み込むと、アビアの視界に鮮明にあの日の出来事が広がり始めた。


───一部始終の全てを見終わったアビアは、ゆっくりと神楽の胸からナイフを抜き取り手からナイフを消してしまう。

「これで分かったでしょ。甲斐斗って男はそういう男なのよ」

神楽の胸にナイフの傷跡は残っていないが、神楽は自分の胸に手を当てるとそう言ってアビアを見つめた。

既にアビアは落ち着きを取り戻し先程見た光景を脳内で考えた後、にっこりと笑みを浮かべた。

「甲斐斗……一途なんだね」

それは甲斐斗の記憶を見て、甲斐斗の本音を聞いたアビアだからこそ理解できる事だった。

「でも、なんだろう。嬉しいのに悔しくて、辛いのに温かいや……」

アビアはふらふらと覚束無い足取りで後ろに歩き神楽から離れていくと、扉の前で立ち止まり後ろに振り返った。

「それでもアビアは……諦めないけどね」

それだけ言い残し医務室を後にするアビア、室内は再び静寂に包まれる。

「かぐら……だいじょうぶ……?」

「ええ、大丈夫よ」

ミシェルにはアビアが何を見たのかは分からず心配そうに神楽を見上げると、神楽はミシェルの頭を撫でた後再び椅子に座りミシェルを引き寄せるとそのまま優しく抱き締めていく。

ミシェルは意味も分からず神楽に抱き締められきょとんとしていたが、抱き締める神楽の表情はとても安らかで安心に満ち溢れていた。


───その間にも、戦場は常に変化し激戦が繰り広げられていた。

焼け野原の上でライフルを構えるアルムズだが、ダンの乗る黒利のリボルバーは正確にアルムズを狙い正確な射撃を妨害する事だけに専念していく。

「いいかロア、奴に銃口を向けられたら迷わず上に跳べ。絶対に横に避けるな」

ロアに忠告しながらダンはリボルバーで狙撃していく、何故横ではなく上に回避するのかロアには理由は分からないが今この状況で説明してもらう時間もない為返事をすると黒利の放つ弾丸を避け続けるアルムズに大和を接近させていく。

黒利の正確な射撃に中々ライフルを構える事が出来ないアルムズ、最初は大和を狙おうとしていたが予定を変更し僅かな隙を狙い黒利を狙おうとした瞬間、突如黒利の両腕と両脚と腰から合計六本のアンカーを発射されると次々に地面に突き刺さっていく。

「来るか?」

事は、ほぼ同時に動き始めた。

アルムズのライフルから弾丸が放たれるのと同時に、黒利は放たれた六本のアンカーの内五本を機体に戻すと、地面に突き刺さる一本のアンカーに引き寄せられるように高速移動を始める。

この動きにアルムズの弾丸が戦場で初めて対象に触れる事なく対象の横を過ぎ去ってしまう。

今まで避けられた事のなかった狙撃を人間が乗る機体に避けられてしまい一瞬動揺してしまうが、たかが一発の弾丸を避けられた事にそれ程疑問も抱かず直ぐにアルムズは狙撃を再開する。

その動きに合わせ黒利は次々にアンカーを地面に放ちながら先程と同じ原理で予測不能な高速移動を始めアルムズの放つ弾丸を次々に避け始めていく。

「す、すごい……あのERRORの狙撃を回避するなんて……!」

アルムズに接近しながらも黒利の様子を見ていたロアは尊敬の眼差しで見ていたが、弾丸を避けられ続けるアルムズは突如狙撃を止めると、急にライフルを大和に向けた。

当たらない敵にこれ以上時間を懸けて狙撃を続けるのは効率が悪いと冷静に判断し、先ずは接近してくる大和を排除するべくライフルを構えたのだ。

「ッ!?」

撃たれる。ロアはダンの言葉の通り機体を跳躍させるが、アルムズのライフルがその程度の動きで狙いを外す事はなく正確に照準を合わせていく。

当然黒利の放つ弾丸の軌道は計算済みであり、僅かな動きで数発の弾丸を避けつつ大和目掛け引き金を引こうとした瞬間、突如避けたはずの弾丸がアルムズの側で破裂しその衝撃で僅かに銃口がブレてしまう。

「閃光弾は通用しなかったが衝撃弾は通用するみたいだな。まぁ次から通用しねえと思うが、十分だ」

黒利専用に作られた特殊弾丸。実際に戦場で使うのはこれが初めてだったが、ダンは的確に特殊弾丸を使い分けアルムズを妨害していく。

アルムズの放った弾丸は在らぬ方向に発射されるものの弾丸は大和を掠めロアは冷や汗をかくが、アルムズに接近する速度は決して落とす事なく真正面から突き進んでいく。

再びアルムズはライフルの照準を大和に合わせようとするが、既に大和は間近に迫ってきており長刀を振り上げるのを見て一旦ライフルを下げると回避行動に移る。

「焦るんじゃねえぞ。間合いを詰めて確実に仕留めろ」

「了解です!」

ダンの忠告にロアは今一度冷静になり大和の刀を振るわせる、だが刀は空振ってしまいアルムズに当たる事は無かったが、ロアは次の攻撃に備え間合いを詰めつつ的確に刀を振り続ける。

目の前で刀を振り続ける大和の果敢な攻めにアルムズはライフルを構える事も出来ず、ただただ後方に下がりながら回避のみに専念していく。その様子を見ていた黒利、そして木々に姿を隠していた他の仲間達の機体が一斉に武器を手にアルムズに接近し始めた。

(行ける!このまま隙を与えなければERRORを倒せる!!)

あのERRORの特機アルムズをたった一人で食い止めている自分に自信が湧いてくる、だが油断はしない。

このままアルムズと戦い仲間の到着を待てばいい、そして隙あらば一太刀浴びせERRORを両断する。

ERRORを倒せる。ERRORに勝てる。ロアはその時が今か今かと心の中で思い続けながら大和の刀を振るっていった。

すると、今まで回避しかしていなかったアルムズが突然左拳を大和に向けると、目の前で拳を開きあるものを見せてきた。

「弾……丸……?」

一発の白い弾丸、これが一体何を意味するのかなどロアには分からなかったが、その正体は直ぐに思い知らされる事になる。

強烈な高音と閃光が弾丸から発せられると、ロアは眩い光に飲み込まれてしまう。

「うああッ!?」

高音により聴力が奪われ、更に間近で閃光を見てしまい視界までも完全に奪われ混乱するロア、更に自機が突然轟音と共に動きを止めてしまい態勢を崩すと、その場に転倒しあろうことか敵の目の前で無様にも倒れてしまう。

「はっ……は、早くしないと……ッ!」

視界を奪われ、更に機体を倒されてしまう事が何を意味するのか、ロアは生きた心地がせず頭の中で必死に機体を立たせようと『SRC』機能を頼りに念じ続けるが、機体は何故か思うように動けず倒れ続けている。

「どうして!?なんで動かないんだよ!?」

何も見えない、何も聞こえない、今こうしている間にも自分はいつERRORに殺されてもおかしくない。

いや、もしかすれば既にダンや味方がアルムズと交戦しており自分を守ってくれているのかもしれない、考えてみれば今もまだ自分は生きている、あのアルムズを前に完全に隙だらけだと言うのに今もまだ助かっているのはそうに違いなかった。

今は嫌でも聞こえてくる自分の激しい鼓動を聞きながら仲間を信じ視力が回復するのを待つしかない。

きっと大丈夫。根拠は今も尚生きている自分の存在だけだが、暗闇が広がる世界でロアは大きく呼吸をしながら長い時を待ち続けた。

「っ……あれ……?」

ふと、もう一度機体を立たせようとロアが念じてみると、先程とは打って変わってすんなりと機体が動き態勢を立て直していく。

「よし、いける!」

完全に機体を立たせるロアは、自分の視界がぼやけながらも光りを感じるようになり徐々に視力が回復しているのが分かるが、聴力の方まだ回復せず未だに戦場から音が聞こえてこない。

「落ち着いていこう。焦っちゃダメだ、冷静に、冷静に……」

ダンの言っていた言葉を忘れまいと深呼吸して落ち着きを取り戻していくロア。

ぼやけていた視界が鮮明になり始め、操縦席の機器にピントが合って行くと、今度はモニターを見つめ戦場を確かめようと目を凝らした。

そして最初にロアの目に入ってきた光景は、無残にも破壊された我雲の残骸だった。

その横にはギフツの残骸にリバインの残骸───仲間達の乗る機体が破壊され辺りに散らばっている光景しか見えない。

誰も動いていない。機体の残骸から炎が広がり煙を上げているのは分かるが、まるで時が止まっているかのような光景と静寂にようやく気付く。

視力より先に聴力は回復していたが、戦場では既に戦いが終わっていた為に何も聞こえてくる事は無かった。

本当に誰も残っていないのか?誰も?本当に?ロアは辺りを見渡し先程まで戦っていた仲間の姿を確認しようとしたが、先程から機体の残骸と煙しか視界に入ってこない為徐々に焦り始める。

すると、一機の機体が草原に佇んでいるのが見えたロアは一瞬安心しそうになるが、その機体がERRORの特機『アルムズ』だという事に気付くと、その手に持っている物を見て思考が停止してしまう。

アルムズは大和に背を向けており、全身に纏う白い布がマントのように靡く状況で、その左手には『黒利』の頭部だけが鷲掴みされていた。

「嘘だ……」

目を疑いたくもなるが、たしかにアルムズの左手には黒利の首が掴まれており、首から下は何処にも見当たらない。

何が起きたと言うのだろうか。

この目の前の広がる現実は本当に自分がいた戦場なのか?

一瞬の閃光に視界を奪われていたあの短時間で、戦場は一変してしまったのか?

たしかにERRORの特機アルムズは強い、厄介な相手だ。だが、だからといって、この光景に納得いくはずがなかった。

「嘘だッ……!」

そうだ、これは幻覚なのだろう。これもERRORの力に違いない。

こんな短時間で仲間達が、そして何よりもダンの乗る『黒利』が負けるはずがない。

あの人がそう簡単に負ける訳がないし死ぬはずもない、だからロアは否定し続ける。

「嘘だあああああああああぁぁぁぁぁぁッ!!」

大和の腰に掛けてある二本の刀を抜き取り両手に持つと、この目に映る全ての光景を否定すると共に、湧き上がる感情をアルムズにぶつけるべく、ロアは無我夢中に機体を前進させた。

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