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第155話 孤高、陽炎

───人類側の特機は二機ごとに別れ各ERRORの特機と戦う事になった。

紫陽花とムラギナは天空を統べるパヴネアと交戦。

白義とアバルロは大地を蹂躙するロウリンと交戦。

そしてダンの乗る『黒利』とロアの乗る『大和』は、戦場を支配するERRORの特機『アルムズ』と交戦していた。

全身に白い布を纏い片手に大型ライフルを手にするその姿はERRORの特機とは思えない程人間の作るDシリーズと外見が良く似ており、その戦い方も至って普通だった。

手に持っているライフルで狙撃を行う、それだけ。

パヴネアのような圧倒的な範囲攻撃と超火力を持っている訳でもなく、ロウリンのような高速移動と再生能力を持っている訳でも、テスタスの持つ防御力と破壊力を兼ね備えている訳でもない。

ただ一つ言える事は、このアルムズが他のERRORの特機と比べて圧倒的に『戦いにくい』という事だけだった。

「ダンさん、僕が先頭に立って相手に接近します!援護を頼みます!」

人類の特機が各ERRORの特機と戦う為に分かれた後、ロアはそう言って大和を発進させERRORに接近しはじめる。

その後方からは我雲やギフツも大和に続き進み始め、ダンの乗る黒利も移動を始めると、草原の上に佇んでいたアルムズはすぐさまライフルを構えた。

銃口を向けられた機体は迅速に回避行動を取り、その間に別の仲間が接近し近接戦闘に持つ込む。

アルムズの見た目と武器の特徴からして遠距離戦を得意とするのは間違いない、恐らく狙撃能力も相当なものだろう。

だとすれば接近戦に持ち込むのは当然の事。恐らくアルムズも簡単には接近を許してはくれないだろうが、後方から援護射撃を行う我雲達に大和と共に接近する黒利とギフツ達が力を合わせれば不可能ではない。


───人類のそんな浅はかな考えは。たった一丁のライフルでいとも簡単に撃ち抜かれる。

アルムズは静かに銃を構え狙撃を開始した。

案の定その狙撃能力は人知を遥かに超えており、狙った相手を決して逃す事無く確実に狙撃し弾丸を命中させていく。

銃口を向けられ回避行動を取る機体を一発も弾丸を外す事なく胸部を撃ち抜き破壊し、盾を構えていようとアルムズのライフルから放たれる弾丸は盾さえも簡単に貫いてしまう。

そしてその射撃の早さは目を見張るものであり、相手の次の行動を把握しているかのような正確無比の狙撃が続けられていく。

次々に数を減らしていく命、機体。

人類側の射撃にアルムズは僅かな動きだけで弾丸を避けつつ狙撃を続け、バズーカ砲等の重火器を構える機体から率先して破壊し、又確実に弾丸が当たる場合は後方に跳躍し回避後再び狙撃を始めていく。

アルムズが引き金を引くたびに必ず人が死ぬ、たった一発の弾丸で確実に機体を撃ち抜き破壊していく光景に、ダンは煙草を加えながら呟いた。

「こいつぁヤベエな……」

その後、ダンは加えていた煙草を口から落とすと、全機体に通信を繋げ声を荒げた。

「全機散開して森に身を隠せ!大木を盾にして奴の狙撃範囲から外れろ、絶対に姿を出すなッ」

黒利はリボルバーから通常の弾丸を抜き閃光弾と入れ替えアルムズ目掛けて連続して撃ち始める、弾丸はアルムズの目の前で眩い光を発し狙撃の邪魔が出来ると思ったが、アルムズは閃光を見た瞬間に目の色を変えると全く動じる事無く狙撃を続けていく。

事の重大さはロアにも直ぐに理解できていたが、敵を目前にこのまま逃げる訳にもいかず先程からエネルギーを溜めていたLRCを放つべくアルムズに大砲を向けると一気に引き金を引いた。

「これでどうだっ!」

大和の大砲から放たれた一撃は眩い閃光と共に一直線にアルムズの元へと突き進む、するとアルムズはLRCを見て避ける所か先程まで構えていたライフルを下ろすと、まるで攻撃を受け止めるかのように左手を前に突き出しその場に踏み止まった。


───「えっ?」

眩い光にロアはアルムズを直視できなかったものの、LRCが終わり光も消えていけば、そこには平然と立ち尽くすアルムズが存在している。

無論無傷であり損傷した形跡もない、かといってアバルロのようなエネルギーシールドを展開して受け止めるような激しい音や光も無かった為、攻撃をしたロアでさえアルムズが何をしたのか理解できなかった。

「これがERRORの力……それでも、僕は負けない!」

LRCが通用しないからといって諦めるはずがない。

むしろ相手はERRORだ、望んだ通りに事が運べるなど思ってもいなかった。

ここで挫ける訳にはいかない。今まで何の為に生きてきた。どうして今この場に立っている。全てはERRORを倒す為、全てはERRORに勝つ為、全ては───生き残る為だ。

大和は背部にある長刀を抜き取り構えると、ライフルを下ろしている状態のアルムズに切りかかろうと刀を振り上げた。

「はああああぁぁぁぁぁっ!」

この間合い、今なら殺れる。ライフルを下ろしているアルムズは完全に隙だらけであり、大和の力をもってすれば瞬く間に敵を一刀両断できる。

もう二度とアルムズに銃を撃たせてはいけない、ロアは決心して刀を振り下ろそうとした瞬間、突如大和の胴体にワイヤーが絡むと、勢い良く左に引き寄せられ態勢を崩してしまう。

「うわっ!?」

引き寄せられるがままに大和はその場から離れてしまいアルムズの目の前から消えた途端、アルムズが突き出していた左手からLRCが放たれると後方から大和に続いて行動していた機体達を一掃していく。

「そ、そんな……皆ぁッ!」

LRCの光に飲み込まれる我雲、そしてギフツ達は次々に爆破され吹き飛んでいく。

そして視界に入る敵を粗方一掃したアルムズはLRCを止め左手を下げると、再びライフルを手に持ち鋭い眼光で前を向いた。

呆気なく、悉く仲間が殺されていく戦場。

たった一機、たった一体、たった一つの存在だというのに、どうしてこれ程まで強いのだろうか。

間一髪の所で命拾いをしたロア、気が付けば自分がダンの乗る黒利の元に引き寄せられていたことに気付く。

「そう急ぐな坊主。ここは戦場、死んだらそこで仕舞いだぞ」

そう言ってダンは大和の胴体に固定していたアンカーを離しワイヤーを黒利の腕に戻すと、リボルバーを構えアルムズの方に機体を向き直した。

「あ、ありがとうございます。ダンさん……」

ロアは助けてもらったお礼を言うものの、目の前で多くの仲間達の死を見てしまい声に力が入らず、何とか機体を立たせると、目の前に広がる光景を見て思わず息を呑んでしまう。

機体の残骸が辺りに散らばり草原が炎に包まれている、アルムズは未だに傷一つ付いておらず人類の前に立ちはだかっていた。

これが戦場、これがERRORの力……この光景を見るのは一度ではない、この世界に来る前にロアは何度も同じような光景を目にしてきている。

嘗てロアが暮らしていた世界は緑に包まれ龍と人間が共存する平和な世界だった、だがERRORの出現により世界は大きく傾き、緑は消え、人類が絶滅するまで戦争が続く事になる。

結果、世界はERRORに侵略されロアを除く全ての人間が死んだ。

唯一、別世界に逃れ助かったのはロアと龍のマルス、僅かな二つの命だけだった。

「怖いか?」

煙草を加えダンは呟くと、ロアは自分の両手が微かに震えているのを見て軽く笑ってしまう。

「……はい……怖いです……っ」

情けない。結局自分はなんだかんだ言ってERRORの恐怖を拭えず戦場に立ってしまっている。

世界を変えたい、自分を変えたい、決心してそう言ったにも関わらず、ロアの心には僅かだが未だに不安が残っていた。

「奇遇だな。俺もだ」

「え?ダンさんも、ですか……?」

そのダンの言葉にロアは動揺してしまう。

戦場で煙草を加えながら眼前の敵を蹴散らし無双していく様は、ロアから見てとても勇敢で頼もしい姿だった。

先程も冷静に状況を把握し仲間を助け、更に自分の命まで救ってくれた。

そんな人が、自分と同じように恐怖に震えている等到底思えるはずもない。

「ああ、だが俺は恐怖と同じぐらい今がとても楽しい。緊迫した状況に緊張し呼吸が早くなり、手に汗が滲むと、自分の鼓動を強く感じる。戦場は……こうでないとな」

煙草の煙を吐き出し一服を堪能するダン、その言葉を聞いたロアはダンの男気に胸を打たれ言葉が出せなかった。

「切羽詰まらず楽しもうぜ。たとえ詰まってもその状況を楽しめ。短い人生楽しんだもん勝ちだ、そうだろう?ロア」

「っ!───はいッ!」

初めて『坊主』ではなく名前を呼んでもらいロアは力強く返事をすると、大和は再び長刀を構え直す。

「僕の力がERRORにどこまで通用するか分からないけど、僕はこの戦場で全力を出し尽くしたい!そして必ずERRORに勝ちたいです!」

ロアの震えは既に無くなり、今では手に汗握り自分の胸の鼓動を強く感じられる。

「勝ちたいか?なら勝っちまおうぜ。だがくれぐれも焦るなよ、冷静さが欠けた戦い程無様なものは無いからな」

黒利を二丁のリボルバーを構え、その横で大和が長刀を構えると、その二機の鋭い視線に気付いたのかアルムズはライフルを下ろし黒利と大和の方に顔を向け、ゆっくりとライフルを構え照準を定めていく。

(見ててマルス……逃げていたばかりの僕だったけど。やっと戦場に立てるようになったんだ……勿論ERRORと戦うのは怖い、けど僕は前に進む為に戦う!そして必ずERRORに勝つよ!!)

心の中でロアは決心すると、勢い良く機体を発進させ大和と黒利は同時に行動を開始した。


───その戦場の一部始終を東部軍事基地で観察していた神楽は、片手にコーヒーカップを握り険しい表情でパソコンのモニターを見つめていた。

「厄介な力ね……」

各ERRORの特機の戦いを見ていた神楽は、あの『アルムズ』を見つめながらそう呟くと敵機を分析しはじめる。

まず開幕時、僅かな動きだけで全ての弾丸を回避する事が出来たのは放たれた全ての弾丸の軌道を計算したからこそ可能な事であるが、あの無数の弾丸一発一発の軌道を計算する等という馬鹿げた事が出きるのは『ERRORだから可能』という言葉でしか言い訳できない。

そしてアルムズの持つライフルの性能、一番驚異的なのはその弾丸の速度にあった。

まるでレールガンで放たれたかのような弾丸は一寸の狂いも無く狙った機体の胸部に命中させる程の力が有り、更に左腕でLRCを受け止めたと思いきや、そのエネルギーを吸収し再び放つ事が出きる事などもはやこの世の科学では証明する事が不可能だった。

閃光弾を諸に受けても尚狙撃が可能なのはアルムズの瞳がその状況に合わせて変化させ視力を保つ事が出きるのだろう。ERRORの事だ、恐らく光一つ無い暗闇だろうが視界を遮られようが、いかなる方法を用いて狙撃が可能な瞳に変化させていくに違いない。

「こんな相手に勝てるのかしら……」

ERROR側の特機の性能に圧倒されてしまい神楽は不安な表情を浮かべ人類の戦いを見守っていると、ふとモニターに指を指す手が視界に入ってくる。

モニターに映る大和を指差し続ける赤城の手。指先は大和を指したまま動かす事なくじっと止めており、虚ろな赤城の瞳も大和を見つめたまま決して視線を逸らそうとしない。

「大和……?」

ぽつりと呟いた赤城はその後手を下ろすと、不思議そうに神楽を見つめ首を傾げた。

もう存在するはずがない機体、大和が人類と共に戦っている様が余程不思議なのだろう。

懐かしい、まるで武蔵が生きていたあの頃を見ているかのような光景に赤城は無意識にその戦いを見守っていた。

その時、突如神楽達のいる医務室の扉が強引に開かれると、青白い光りを発するナイフを片手に無表情のアビアが入ってくる。

明らかに雰囲気がおかしい。アビアにはミシェルや赤城など眼中に無くただ一人、神楽を睨みつけると、ナイフの刃先を神楽に向けて口を開いた。

「昨日甲斐斗となにしてたの?」

返答の内容次第では命は無い。そう思わせるようなアビアの質問に、神楽は手に持っていたコーヒーカップを机に置き、徐に胸ポケットから煙草を取り出し加えると、ライターで火を点けゆっくりと吸い込んだ後、薄ら笑いをしながら煙を吐き出し喋り始めるのであった。

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