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第154話 信念、忠誠

───「なんて素敵なのかしら。これが『風のレジスタル』の力……そして己の命と引き換えに強敵に立ち向かう姿、とても素晴らしいです」

セレナは笑みを浮かべながらそう呟くと、まるで見惚れているかのようにうっとりとした表情で覚醒した白義を見つめていた。

見つめていたのはセレナだけではない、艦に乗る唯もまた驚きを隠せない表情で白義を見つめていたが、その表情が晴れることはなかった。

「お兄様……どうか無事に帰ってきてくださいっ……」

覚醒した姿に喜ぶ事はなく、唯は紳の身が心配になり両手を合わせたまま紳の無事を祈り続ける。

戦場に吹き荒れる突風、空は快晴だと言うのにまるで嵐の中にいるかのような状況に、周りのDoll態や兵士達は困惑している中、ロウリンだけは全く動じず白義だけを見つめていた。

だがその直後、ロウリンが一瞬にしてその場から姿を消すと、次々に地上に鋭い剣の雨が降り注ぎ始める。

敵も味方も関係ない、辺り一帯にいる全てに向けてロウリンは全身の剣を放ち白義を牽制しはじめたが、直ぐにまた地面に着地すると空中で自分が放った剣よりも速く白義の元へと駆け抜けていく。

一連の動きを見ていた紳に迷いは無い、残り五十五秒……風の力を身に纏う白義は双剣を構え疾風の如き速さでその場から姿を消すと、辺りに衝撃波が飛び更に強い突風が戦場に吹き起こる。

───全く見えない。

ロウリンが白義を捉えようとした所で視界から消えた白義相手に成す術などない。

たしかにそこに実態は有る。だがロウリンの攻撃はまるで風が擦り抜けていくかのように当たらず、気が付けば自分の体から生えている剣が吹き飛ばされている。

後方に回ったかと思い鋭利な尻尾を振り回そうとするが、既に尻尾は切断されており、後ろ足二本までも切り落とされていた。

「全く……なんて力だっ……」

白義とロウリンの戦いを見ていた騎佐久はその光景に呆気にとられていた。

マントを靡かせ風を操る白義は、まるで竜巻のような速さでロウリンの回りを動き全方位から剣を振るっていく。

その速さにロウリンの再生速度すら追いついていけず、全身から生える剣は無様にも切り落とされ手足が再生されるものなら何度でもぶった切り破壊していく。

もはやロウリンの速度では白義には決して追いつけない、今ここでロウリンが白義に勝つ方法は一つ、白義の活動限界まで何としても生き延びる事だった。

手段は問わない。ロウリンは切り刻まれながらも再び全身に剣を生やし全方位に向けて放ち出そうとするが、疾風のような斬撃が瞬く間に剣を切り落とし、粉砕していく。

それならばと、回りで戦っていた量産型Doll態に指示を送り援護に回らせる、だが白義から放たれる風の刃にDoll態は次々に真っ二つに切断されてしまい、唯一接近できたDoll態ですら白義に直接双剣で仕留められる。

残り三十秒、もはや自分だけの力では白義の破壊が不可能だと判断し、地面に伏せてひたすら攻撃を耐え抜いていく。それは無様にも身を丸めひたすら再生を続けるだけの行動だった。

あのERRORが手も足も出せず跪き敗北しようとしている。それを見てセレナが何らかの手段で助けに入るかと思えば、セレナは何もせず無様に斬られていくロウリンを楽しそうに見つめていた。

ロウリンの辺りには剣や血液、自身の破壊された装備の残骸が飛び散り辺りを汚していくが、まだ胸にある『核』たる部分、動力源である『レジスタル』を破壊されてはいない。

残り二十秒、このまま時が過ぎればまだロウリンに勝機は有る。

いや、むしろ勝利が確定するだろう。残り二十秒を生き抜けば、力を失った白義と負傷したアバルロの破壊は容易く、残り人類の特機と言えば他のERRORの特機と未だに戦闘中である為、簡単に人類の艦隊を破壊する事が出来る。

たしかに艦の護衛にはあの特機『魔神』が存在するが、たった一機で全ての戦艦を守る事は不可能であり、更に魔法も何も使えない機体などに負ける訳がなかった。

今戦場で最も強く、最も恐れなければならないのはこの『白義』であり、ロウリンにとってそれ以外の機体など眼中になく、最強の再生能力を誇るロウリンの力をもってすれば他の機体に負ける気がしない。

そうなれば誰にもロウリンを止める事が出来ず、人類は敗北するだろう。

残り十秒、ロウリンを中心とした竜巻が形成され、大地に伏せていたロウリンはいとも簡単に遥か上空に巻き上げられてしまう。

既にロウリンに頭部も手足もなく達磨状態の為抵抗する所か身動き一つ取れなかった。

地上に立っている白義は両肩の砲門を開き自分の頭上、遥か上空にいるロウリン目掛け砲口を向けた。

「頼む───間に合え───ッ!!」

白義の両肩に搭載されてあるLRCを放ち眩い閃光がロウリンを飲み込んだ。

ロウリンはLRCの直撃を受け徐々に掻き消されていく。

勝負は決まった───兵士達の誰もがそう思った直後、遂に白義の活動限界が来てしまう。

双剣は輝きを失い、白義のエネルギー残量は零。放たれたLRCも瞬く間に消え白義は力無くその場に跪いてしまった。

白義を操縦していた紳の肉体も限界を迎え全身に力が入らず額からは止め処なく汗が流れ落ちる。

「ぐ……っ……!」

指一本すら動かせず、紳は歪んでいく視界の中に、まだロウリンが存在している事に気付いてしまう。

上空に舞い上げられトドメの一撃であるLRCを浴びたロウリン、あのままLRCを放ち続けていれば完全に消滅出来ていただろう。

だが活動限界を迎えた白義のLRCは消え、ロウリンを完全に消す事は出来なかった。

「───ッ゛!!」

後一歩という所で白義はロウリンを仕留める事が出来ず、歯痒い思いで紳は再びLRCを放とうと必死に操縦桿を握り締めようとするが、両腕に力も入らず肩から力が抜けてしまう。

叶うものならこの命と引き換えにもう一度だけ白義のLRCを放ちたい、紳は奇跡を信じその目を決して閉じる事なくロウリンを見つめ続けるが、もう双剣も白義も紳の思いに答えてはくれず、微かにモニターに映るロウリンが再び肉体を再生しはじめていた。

「ぁあああああ゛ッ!!」

諦めない、諦めたくない。ここまで来てERRORに敗北する等許されない。

最後の力を振り絞ろうとする紳は己の命を懸けERRORに一矢報いようとした時、それは起きた。

突如ロウリンの四方から四つの物体が飛んでくると、その物体はロウリンに直撃していく。

物体と言うのはあのアバルロが操る重火器用のフェアリーであり、フェアリーから伸びるアームが次々にロウリンの体を挟み身動きを封じていく。

それは本来大地に自機を固定する為の物であったが、強引に全てのアームがロウリンを挟み完全に捉えていた。

「紳、よくERRORを上空に舞い上げてくれたな。約束通り後は任せろ」

力尽きそうになっていた紳の耳に騎佐久の誇らしげな声が聞こえてくる。

騎佐久はアバルロのフェアリーを全て上空に飛ばしロウリンに直撃させると、あるシステムを起動させコードを入力していた。

「自立式固定型重火器用フェアリー……その動力源は何だと思う」

アバルロの扱うフェアリー、その姿は通常の物とは大きく異なりフェアリーらしからぬ巨体に加え自ら自己防衛シールドを展開させる事も可能、それに加え秒速百三十三発ものレーザー弾を放つ高火力。

これがただのフェアリーでない事ぐらい誰が見ても分かる。

「一機辺りレジスタル二つ。そして二つのレジスタルを制御するのに使われている力……『核』だ」

フェアリーの自爆コードの入力を終えニヤリと笑みを浮かべる騎佐久、これから見られるものに期待しつつ雲一つない空を見上げ呟いた。

「爆ぜろ」

その涼しげな物言いとは裏腹に、四つのフェアリーの自爆は想像を絶する威力を見せる。

眩い閃光は瞬く間にロウリンを飲み込み、まるで空に二つ目の太陽が現れたかのような光に多くの人達は目を背けるが、騎佐久とセレナだけは笑みを浮かべその眩い光を見つめ続ける。

空の異変に気付いた甲斐斗は魔神を艦の上に立たせ唯の入る司令室の前に向かうと、剣を盾に使い光を遮る。

次が来る───遥か上空で爆発したにも関わらず強力な熱線は木々を燃やし草原を灰に変え、爆発と同時に空は微かに歪み拡散する熱風はその場にある『全て』を襲った。

白義の双剣の力で吹き荒れていた風は全て掻き消され、強力な熱風が地上にいるDoll態や人間が乗っている機体までも無差別に吹き飛ばしていく。

その威力と光に一瞬の爆発が長く感じられるものの、爆発した時点で高熱によりロウリンは跡形も無く消滅しており人類が勝利した事は既に確定していた。

「ここで俺の切り札を使う事になるなんて……すまないなぁ紳、核の力を持っているのを黙っていて。だがこの力はあくまでも制御に使う為だ、兵器じゃあない」

あの爆発の威力を見せられた後に言われても屁理屈にしか聞こえず、紳は疲労の色が隠せないものの鋭い目つきで騎佐久に睨みかかる。

当然だ、核兵器は全てBNに没収されその兵器の数と種類をBNは全て把握しているはず、だがNFは一部の核兵器の存在を隠し密かに保有していたのだから。

「そう怒らないでくれ。事実核の力でERRORに勝てたんだ、結果オーライといこうじゃないか」

疲労困憊している紳に対し余裕の笑みを浮かべる騎佐久、色々と不満が有るが今の紳にこれ以上話せる程の体力も気力も残っておらず、紳は眠るように気を失い白義が大地に伏せてしまう。

それを見ていた騎佐久は颯爽と白義の元に向かい抱き上げると、急いで甲斐斗が守る戦艦に向かっていく。

「君の説教は人類がERRORに勝利した後死ぬまで聞いてやるさ。だから少しでもいい、今は休んでくれ」

人を騙し、人に騙され、人を利用し、人に利用されようとも、それが人類の勝利の為なら騎佐久はプライドを捨て実行するだろう。

人類が勝つ為なら手段を選ばない、それが騎佐久の遣り方だ。

アバルロは無事に白義を艦内に持ち帰ると、直ぐに紳は機体から医務室へと搬送され、アバルロに乗っている騎佐久は機体のエネルギーを補充を急がせる。

するとアバルロの操縦席にあるモニターに紳の妹の唯の映像が映し出されると、目に涙を浮かべたまま話し始める。

『お兄様は無事ですか!?』

気が動揺し焦る唯に対し、騎佐久は別のモニターに映し出される機体の状態をチェックしながら冷静に答え始める。

「紳なら大丈夫。気を失っているだけさ」

『っ!……良かった……うぅっ………』

騎佐久の言葉を聞いて安堵し涙を零す唯、機体の状態をチェックしていた騎佐久はそんな唯の姿を見つめたまま動かしていた手を止めてしまうが、再び機体チェックを始めると唯に話しはじめた。

「安心するのは早い。たしかに紳は無事だけどまだ人類がERRORに勝った訳じゃないからね。君は紳の代わりに指揮を頼む。俺も機体の修理とエネルギー補充が済み次第直ぐに戻る」

『分かりました!……お兄様を、ありがとうございます』

唯がお礼の言葉を述べ深々と頭を下げ通信を終えた後、騎佐久は再び唯の映っていたモニターを見つめ続けた。

「戦場で人の為に泣いてくれる人がBNには二人もいるのか……ああ……赤城にも見せてやりたいな」

微かに脳裏に浮かび上がる赤城の姿。それは昔、共に戦場で戦っていた頃の記憶だった。

そんな事を今思い出してしまった自分に対し騎佐久は笑みを浮かべると、溜め息を吐いた後背凭れにもたれ掛かり脱力してしまう。

「全く、こんな時に今更何考えているんだろうね、俺は……」

核兵器を利用すると決めたあの日から迷わないと決めたはず。

後悔などしていないし、『約束』は今でも守り続けている。そして、これからも───。

『赤ちゃんなら見てるわよ?』

「っ!?」

突如通信機から神楽の声が聞こえてくると、モニターに神楽の姿が映し出される。

そこは赤城の医務室であり、赤城の寝ているベッドの横で神楽はノートパソコンを広げミシェルと赤城の三人で人類の戦いを見守っていた。

『ジャミング対策が済んでから今までの戦いは全て見させてもらっているわ。でも、今の赤ちゃんが見た所で何も感じないと思うけど……』

たまたま目を覚ました赤城が起き上がり神楽の見ていたパソコンを見ると、その戦場の様子をぼーっと眺めはじめるが、特に表情は変えずただただ見つめるばかりであり、再び眠りに着こうとしない為神楽は赤城にも見えやすいようにモニターを少し横にずらし赤城の様子も観察していた。

「そうかい。それにしても、まさか君から声をかけてくれるとは思っていなかったから驚いたよ。それで、用件は何かな」

神楽から直接自分に連絡が来た理由等騎佐久には察しがついていた。

心配して連絡をしてきてくれた訳ではないだろう。理由は一つ、何らかの情報が欲しい為。

何時だってそう、それは神楽の本性を誰よりも理解していると思っている騎佐久だからこそ分かる事だった。

『貴方に協力してもらいたい事があるの』

「それは……人類がERRORに勝つ為に必要な事かい?」

それは神楽にとって想像通りの台詞だった。

何時だってそう、騎佐久は自分の目的を優先にその為にしか動いていない。

騎佐久の本性を誰よりも理解していると思っている神楽だからこそ分かっている事。

これからも互いを利用し、利用され続ける関係になるだろう。

だがそれでもいい、神楽も『目的』の為なら手段を選ばず、騎佐久も『約束』の為なら手段を選ばないのだから。

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