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第153話 思念、確率

───突然変異を遂げたERROR『ロウリン』。

二足歩行から四速歩行へと変わり、紅く鋭い眼で白義とアバルロを睨んでいる。

全身から剣が生え、その巨体に触れる物全てを斬り刻み破壊していく。

驚異的身体能力に加え異常な再生能力を持つ獣の化身、その姿は正に機獣と呼べるものであった。

そんなロウリンを前にして一人の男が乗る機体が前に出る。

両手に風の力を宿す双剣を握り、純白のマントを靡かせる一体の機体。

純白の騎士『白義』。紳は、このERRORと真っ向に勝負を挑もうとしていた。

「紳、ちょっと待て。さっきのは言葉は───」

その行動を見て騎佐久が止めようとするが、紳は前を向き敵を見つめたまま話し続ける。

「俺はまだこの剣の力を使いこなせていない。本当に魔法が使えるのだとすれば、今以上の力を発揮できるはず。それこそ俺の願った通り、立ち塞がる敵を薙ぎ払える程の強力な力をだ」

力が必要だった。

もっと、もっと。どんな強敵が現れようと打ち倒せる程の強力な力を。

無論分かっている。強力な力には代償が必要だという事も。

剣を振るえば振るう程白義のエネルギー、そして自身の体力すら奪っている事だって紳は気づいている。

「俺がこの時この場で魔法が使えた事に意味があるとすれば、それは人類が勝つ為の必然とも言える結果だ。騎佐久、俺が何としてでも奴を上空に舞い上げ隙を作る。その時は任せたぞ」

「全く、勝手に話を進めすぎじゃないかい?……まぁ、異論はないけどね」

冗談半分で言った言葉にここまで紳が反応するとは思ってもみなかった騎佐久だったが、先程言った紳の言葉には少なからず共感していた。

核の力を拒否し、己の力の可能性を発揮させ人知を超えた力を得た紳。

しかし、その力をもってしても尚ERRORは眼前に立ち塞がり人類に牙を剥く。

このままではERRORに勝てない。

幾つもの戦場を駆け巡ってきた騎佐久だからこそ確信することができた。

それは紳も同じであろう。だからこそ騎佐久の言った発言を『冗談』で流す訳にはいかなかった。

「紳、異論は無いが一言。焦って死なないでくれよ」

騎佐久が単刀直入に思いを伝えると、紳は黙ったまま頷き一歩ずつゆっくりとロウリンに近づいていく。

二本の剣を握り締め近づいてくる白義にロウリンは睨み続けたまま体勢を低く保つと何時でも飛びかかれるように身構えていく。

白義、そして紳の眼は決してロウリンから逸れる事はなく。ロウリンもまた白義を睨み返し、警戒して全身に毛のように生える無数の剣を奮い立たせた。

「行くぞ」

そう紳が呟いた直後、白義とロウリンはほぼ同時に飛び掛った。

白義はロウリンの一撃を交わしながら剣を振るい疾風を放つ。

その放たれた疾風は斬撃となりロウリンの全身から生える剣を吹き飛ばしていくが、ロウリンの剣の装甲は強固であり本体に攻撃が届かない。

仮に届いた所でロウリンの肉体に僅かな傷を与える程度、再生能力に特化した今のロウリンにとって魔法など恐るに足らず、斬撃を放ち続ける白義相手に怯むことなく向かってくる。

果敢に攻める白義に対しロウリンもまた攻撃的に動き剣の拳を振り下ろすが、白義はカウンターを狙い回避と同時に剣を振るい容赦無く斬撃を浴びせていく、今の所立ち回りでは白義が勝っておりロウリンの攻撃は白義に当たってはいないが、それも時間の問題だった。

一瞬の気も抜けない攻防に加え魔法を放つ度に白義のエネルギーの残量が低下、更に紳の肉体にも負担がかかり体力を失っていく。

極限状態では幾ら紳と言え動きが鈍ってしまい、徐々にロウリンの攻撃が白義に掠るようになっていた。

ロウリンの攻撃を回避するだけで精一杯の紳、もはやカウンターを狙える隙も無く、先程までの威勢が嘘かのように押され始めている。

このままでは白義が危ない。そう思い騎佐久が再びガトリング砲をロウリンに向け一度白義を下がらせようとした時、白義の両手から双剣が吹き飛ぶ光景が見えた。

ロウリンの尻尾による攻撃に回避が間に合わないと判断した白義、攻撃を受け流そうとしたがタイミングを誤ってしまいあろうことか剣を吹き飛ばされてしまう。

その光景に二人が同時に息を呑む、騎佐久は瞬間的に自分の援護が間に合わない事を確信し、紳もまた自力でこの場から抜け出す事は不可能だと確信した。

確信から導き出される結論は一つ、紳は殺される。

剣を取りに行く間もなく、騎佐久の援護も間に合わず、丸腰の白義の前には牙を剥くロウリンが襲い掛かっていた。

この距離、そして相手の速度が分かっているからこそ判断できてしまう。

回避は不可能、防御をした所で無意味に等しく、振り下ろされる一撃から逃れる事は出来ない。

「避けろッ!紳!」

無駄だと分かっていても騎佐久は叫び、無駄だと分かっていても紳は決して諦めようとはせず目前にまで迫っていたロウリンの拳を見つめながら機体を動かそうとした。

だがその時、ロウリンと白義に間に割り込むように一体の特機が立ちはだかった。

目の前に現れた特機『魔神』、ロウリンが振り下ろした一撃を黒き大剣で受け止めると、その大剣を軽々と振るい拳を跳ね返してみせる。

その威力は巨体のロウリンすら軽々と吹き飛ばしてしまい、ロウリンは態勢を整えると地面に着地し魔神を観察するかのように睨みつけた。

間一髪の所で紳は甲斐斗に助けられ、紳が礼の言葉を述べようとしたが、魔神は大剣片手に後ろに振り向くと、操縦していた甲斐斗が声を荒げた。

「何の為の魔法だぁあああああああああッ!?」

戦場に響き渡る怒号、その様に紳と騎佐久は言葉が出ず、通信を繋ぎモニターから見える甲斐斗が喋り始めた。

「魔法が使える癖にこんな奴に負けるのか!?何が奇跡だ魔法だ、負けたら元も子もねえだろ!?だからてめえは魔法初心者野郎なんだよ!」

艦の防衛をしつつ紳達の戦いを見ていた甲斐斗、二人にはさっさとERRORの特機を破壊してもらいERRORであるセレナの元に向かいたかったが、思いの他二人が苦戦しているのを見て苛立ちを感じていた。

そしてERRORを倒す所か負けそうになっているのを見てとうとう我慢ならず文句を言いに来たのだった。

ここに来れば艦の護衛に特機がいなくなり唯が危険に晒されてしまう、甲斐斗は紳を助けた後直ぐに艦に戻り再び甲板の上に立つと襲い掛かる量産型Doll態の相手をしていく。

だが紳と騎佐久との通信は繋げたままであり、甲斐斗は魔法を扱う時に必要な事を伝えはじめた。

「魔法の使い方その壱ッ!イメージしろ!魔法はお前の想像通りに発動される、だったらお前が固定概念ぶち壊して風の魔法を思い浮かべればその通りの魔法が発動するはずだ。魔法っていうのは不可能を可能にする究極の存在とも言える。それをもってるお前がここで死ぬな負けるな馬鹿野郎!っつーことで、あのERRORの動きを止めるのでも倒すのでも舞い上げるのでもなんでもいい、風の魔法をイメージして剣を振るえ。お前なら絶対に出来る」

言いたい事は言ったので満足した甲斐斗は通信を切るとまた黙々とDoll態の相手をしていく。

通信を切られ沈黙が続く二人だが、先に口を開いたのは騎佐久だった。

「その弐は教えてくれないのか……」

てっきり話が長々と続くのかと思えば甲斐斗は通信を終えてしまい、伝えられた事と言えば魔法をイメージしろという事だけだった。

「十分だ」

そんな騎佐久の態度とは逆に紳は真剣に甲斐斗の話を聞いており、一言呟いた後白義を動かし地面に落ちていた双剣を回収すると騎佐久の乗るアバルロの横に立ち止まった。

「騎佐久、頼みがある」

「分かってるよ。俺が時間を稼ぐ、その間に君は奴を倒せる程の特大の魔法を考えといてくれ」

紳が魔法を発動させる為の時間を稼ぐ必要がある事ぐらい騎佐久にも直ぐに理解できた。

特大の魔法を容易く発動できる訳もなく、紳は目を瞑り白義に双剣を構えさせると、頭の中で魔法をイメージしていく。

「ちなみにだ。稼ぐと言っても俺一人だと精々三分ぐらいしか持たないと思っていてくれ」

頼りない言葉を吐きつつアバルロが白義の前に立ち、右腕と右肩に付いてあるガトリング砲をロウリンに向ける。

その二機の動きを見ていたロウリンは人類が何かを始めようとしている事に勘付くと、全身を震わせ咆哮した後、一直線に草原を駆け抜け白義に接近しはじめた。



───アバルロとロウリンの激しく攻防する音が紳に聞こえてくる。

騎佐久を信じた紳は目を瞑り、落ち着いた様子で風の魔法をイメージし続ける。

その紳の思いに答えるかのように双剣は鮮やかな空色の光を放ち、森の木々や草原が僅かに吹き起こる風により靡きはじめた。

まるでこの戦場を中心とする渦を作るかのように風の力は徐々に増していき、紳は機体の中に入るにも関わらずその大きく膨らみはじめる風の力を全身に感じていた。

その戦場に起こる異変に戦っていたDoll態、そして人類もまた辺りを見渡し何が起きようとしているのか困惑しているが、切り株の上に座るセレナはその風を心地良さそうに浴びながら美しい髪の毛を靡かせると、これから何が起きるのかをとても楽しみに待っている。

甲斐斗の護衛する戦艦からも白義の様子が見える為、唯は心配そうに両手を合わせ見つめている。

そして、時は来た。

「行くぞ」

紳は目を開きその鋭い視線をロウリンに向けると、魔力の風を身に纏う白義は行動を開始した。

時間を稼ぐ為に戦っていたアバルロはロウリンをなんとか食い止める事に成功したものの、その代償として右肩のガトリング砲が破壊され機体も全身が傷付きエネルギーの残り残量も既に3割を切っていた。

だが騎佐久は生きている、そして紳の力強い一言が聞こえ笑みを浮かべた。

「三分は耐えた。紳、後は任せたぞ───ッ!」

そう言って負傷したアバルロを後退させると、戦っていたロウリンはアバルロを簡単に見逃し異様な雰囲気を感じる方に首を向けた。

ロウリンには分かっている。この気配、そして感覚、戦場の空気が一変したのは言うまでもない。

風の魔法を得た白義がこれからどのような動きを見せるのか、ロウリンはこの目で見極めようとしていた。

「見えたか?」

ロウリンの耳に男の声が聞こえてくる。

「俺の姿が見えたか?」

再び聞こえてくる声。その声が何処から聞こえてきたのか、目の前に立っている白義からなのは分かる。

しかし、何故白義の立っている姿が逆さまになっているのかが分からない。

空が下にあり地面が上に、その地面に白義が、何故───。

その直後、ロウリンはその巨体を後退させ白義から距離を取る。

やはり予感は的中していた。魔法を得た白義の本当の力、これではもうどちらが『化物』なのか分からない。

ロウリンが振り向くのと同時に首を切り落とす早業だけでなく、その攻撃を気付かせない程の手際を見せつけられ、ロウリンは瞬時に頭部を再生させると全身の剣を奮い立たせた。

空色に輝く双剣を握り締める白義、全身には魔力を帯びた風を纏い、戦場には強い風が吹き荒れている。

「一分で終わらせる」

白義の活動限界まで残り一分、その理由は単にエネルギーが不足しているだけでなく、魔法を使い続ける紳の命に限界があったからだ。

このままの白義の状態を維持し続ければ、紳の命は残り一分で尽きる事になる。

だから何としてでも紳は一分以内にロウリンを倒す必要があった。

命が惜しいからではない、この力を使いERRORに勝たなければ平和な世界を作れないからだ。

異常な再生能力に身体能力、更に強靭な力を駆使するロウリン。

対して白義は風の力を身に付け最速を誇る機体となった。

ERROR対白義。一対一の決戦が今、開始される。

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