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第149話 淀み、論

───セレナの元に次々に現れるDoll態、その姿形はどれも神秘的であり、とてもあの血生臭いERRORとは思えない程だった。

更にセレナの後方に佇む3機と頭上に止まっている1機のDoll態も独特の外見をしており、それぞれの戦闘タイプが分かれたDoll態の『特機』だというのが見て分かる。

互いの準備が整い、いつ誰が戦闘の口火を切ってもおかしくない状況で、先手を打ったのはERRORの方だった。

『パヴネア、貴方の麗しさを見せてあげなさい』

そう言ってセレナが前方に指を指すと、孔雀のような風貌のDoll態『パヴネア』がその虹色に輝く長い翼を広げ空高く飛翔していく。

そして翼を広げ七色に光る無数の羽を散らすと、その全ての羽が空中で止まり地上にいる人類に向けて一斉に降り注いだ。

「させないッ!」

その攻撃を見て紫陽花が両翼を広範囲に広げ前に出ると、パヴネアの翼から放たれた全ての羽を受け止めていく。

それを見ていた菊は直ぐにムラギナを発進させると、攻撃を続けるパヴネアの元に向かった。

「空のこやつは私とエリルが止めるッ!主等は他を頼んだぞ!」

ムラギナがパヴネア目掛け4本のLRSを振り下ろすが、パヴネアは残像をその場に残し僅かに横に動いただけでムラギナの攻撃を回避してしまう。

「ほう、面白い術じゃが…それで私の動きについてこれるか!?」

攻撃が避けられたからどうした。ムラギナは瞬時に次の行動に移りパヴネアの隙を狙って斬撃をおみまいしていく、その攻撃をパヴネアは回避、更に無数の翼の内の一本でLRSを受け止めると、翼が自在に伸縮しムラギナに襲いかかると同時に再び羽を飛ばし始める。。

その時、すかさず紫陽花がムラギナの前に出ると再び翼を広げ紫陽花の高火力兵器『HRB』をパヴネア目掛け放った。

するとパヴネアの背後に虹色に輝く魔方陣が現れ全ての翼を眩い光で輝かせると、機体を軽々と飲み込む程の光線を放ち返してくる。

激しく競り合う互いの攻撃、その競り合いを見ていたムラギナは咄嗟に紫陽花の腕を掴むと、強引に引っ張り空高く上昇していく。

攻撃を邪魔されたエリルは何故妨害してきたのか文句を言おうとしたが、目の前の広がる光景を見て納得してしまう。

菊の咄嗟の判断は正しかった、パヴネアの放つ光は少しばかり紫陽花の放った『HRB』と競り合ったが、瞬く間に飲み込むとそのまま大地に直撃しあの森にある大木を跡形もなく掻き消していた。

「あ、ありがとう。助かったわ……」

NFに助けられお礼を述べるエリルだが、菊は平然とした態度で敵だけを見つめていた。

「礼には及ばん。私等は人類の為に共に戦う仲間じゃろ?」

「……そうよね、私達……仲間だもんね!」

もう人類同士でいがみ合い、敵対などしてはならない。エリルは今一度その意思を心に刻み機体の体勢を立て直すと、紫陽花と肩を並べるムラギナと共に直ぐに前を向きパヴネアを破壊する為に行動を開始した。

空では激しい攻防が繰り広げられているが、それは地上も同じだった。

アギトの横に並ぶ神威、直ぐに羅威は愁と通信を繋ぎ会話を始める。

「行くぞ愁、俺達であのERRORを倒すぞッ!」

「わかった。……でも羅威、機体や体の状態が……」

既に神威は激しい攻防の末にかなりのエネルギーを消費しているはず、それにその神威を操縦する羅威の体が心配な愁だが、羅威の声はとても力強く疲労の色もみせなかった。

「心配はいらない、機体も俺もまだ動ける。いや、むしろ機体の方は絶好調と言っていいかもな」

神威のエネルギーは全く減っておらず、計器は全て限界を振り切っており、機体がいつ暴走、自爆してもおかしくない状況だが、その状況だからこそ羅威は戦い続けるしかなかった。

この状態で艦に戻れば被害が出る恐れもあり、それならいっそこの機体ごとERRORにぶつける事さえ考えた。

だが死ぬ訳にはいかない。仲間との約束の為、そして平和な世界に行く為に、羅威は自分と神威の全力をERRORにぶつける。

「俺は生きている限り戦い続ける!決して諦めたりなどしないッ!だから愁、お前の力を俺に貸してくれ!」

羅威の熱い思いが愁の心の奥底にまで届き響いていくる。

自分も望んでいたはずだ、肩を並べ、世界の為に共に羅威と戦う事を。

だったらもう迷いはしない、この戦いで全てを終わらせる為に、共に行こう。

「当然だ!羅威、一緒に戦おう!そしてERRORを倒し世界を平和にするんだッ!」

全力で行く。

プラズマを纏った神威が雷の如く瞬速で正面からERRORの元に向かうと、それに続いてアギトもまた走り始める。

神威を止めようと量産型のDoll態が一斉に銃の引き金を引こうとするが、それよりも早く神威はプラズマを各機体に放ち動きを止めると、敵陣の中央に入り広範囲に電流を拡散させた。

次々にDoll態は機能を停止し爆発していく、かろうじで状態を保っているDoll態はアギトの拳により粉砕され、セレナのいる場所の目前にまで迫っていた。

もはや敵無しかと思えてしまう程に愁の乗るアギトと羅威の乗る神威の連携は強く、とても量産型Doll態では歯が立たない状況だった。

『テスタス、彼等の相手をしてあげなさい』

その様子を見ていたセレナはふとDoll態の『特機』であるERRORの名前を言うと、セレナの指示通り背後に立っていた一機のDoll態『テスタス』が跳躍し前に出てくる。そのDoll態の異様な形に愁と羅威は警戒した。

全身は鎧を身に纏っているかのような分厚い装甲に覆われており、その太く大きい両手には巨大な鉄槌が握られている。

更に頭部には王冠を連想させるような施しがしてあり、金色と赤色の装甲が入り乱れたそのDoll態『テスタス』がただのDoll態ではないことは直ぐに理解できた。

「恐らくERRORの『特機』。だが、それがどうした!」

棒立ちのテスタスに向けて神威が両腕から連続でプラズマを放つ。

その攻撃を見てテスタスは回避するかと思えば、鉄槌を構え地面を抉る程の出力で前進しはじめると、強力なプラズマを浴びながらも決して怯む事なく神威の元に突き進んでくる。

「あの神威に正面から真っ向勝負をしてくるなんて……羅威、気を付けて。あのERRORかなり強いよ」

普通の機体が触れれば簡単に破壊してしまう威力のプラズマを『テスタス』は受けても微動だにせず傷一つ付かない所を見る限り、通常兵器での破壊は不可能にさえ思えてしまう。

「分かっている。だが勝てない相手じゃない!」

神威の目の前にまで迫ってきた『テスタス』、右手に握られた巨大な鉄槌を振り上げ神威目掛けて振り下ろされるが、神威は雷鳴と共にその場から姿を消しテスタスの背後に回りこむと、プラズマを纏った右足でテスタスの背部を狙い振り下ろそうとした。

「遅すぎるぞERROR!俺はここだぁッ!」

完璧に相手の背後を取り一撃を与えようとする神威。

だがその時、羅威は直感的に危険を察知すると機体を跳躍させテスタスから距離を置いてしまう。

はたからみれば絶好のチャンスに何故神威が逃げたのか理解できなかっただろうが、その行動の理由は一番近くにいる愁が最も早く気付いていた。

先程まで何もない地面に向けて右手に握る鉄槌を振り下ろしていたはずのテスタスが、気付けば後ろに振り返っており左手の鉄槌をその場に振り下ろしていた。

もしあのまま神威が攻撃していれば確実に鉄槌の餌食となり、見るも無残な姿になっていただろう。

「なんだあの攻撃速度は……これがERRORの特機の力とでも言うのか……?」

そう呟く羅威に、テスタスは無言のまま見つめ続けてくる。

一筋縄ではいかない、羅威は冷静に相手を分析しはじめると、機体の両腕にプラズマを溜め始めた。

「愁、俺が奴の注意を引きつけ力量を調べる。お前は観察し隙を見てでかい一撃をおみまいしてやれ」

それでは羅威に危険が及ぶ可能性が高いが、今の愁に羅威を止める意志はなかった。

「了解!」

誰よりも羅威の強さを知り、羅威を信用しているからこそ、愁は頷くとアギトの拳を構え神威と連携をとっていく。

アギトと神威がテスタスと果敢に戦いを繰り広げる中、誰にも気付かれることなく一発の弾丸が唯の乗る戦艦に向けて放たれていた。

「ん?」

まるで虫を払いのけるかのように魔神が黒剣で弾丸を弾き落とすと、甲斐斗は攻撃してきたであろう相手を睨みつけるが、その敵よりも更に近くにまで別の敵が侵入してきていた。

気配を消し、戦艦の真上にまで迫ってきていたERRORの特機、両腕から生える長く鋭利な刃が艦を貫く寸前に、疾風のように現れた白義が体当たりするとそのままERRORの特機を艦から離していく。

『ロウリン、アルムズ。存分に楽しんできなさい』

セレナの声を聞いたERROR特機、『ロウリン』が白義から離れるように跳躍すると、艦を狙撃したERRORの特機『アルムズ』の横に立った。

両腕が長い剣の特徴的な緑色のDoll態『ロウリン』、その姿は獣を連想させるものになっており、鋭い尻尾をゆらゆらと動かしている。

そしてその横に立っている一体の白いDoll態『アルムズ』、全身に白い布を纏わせるそのDoll態の手には狙撃用の大型ライフルが握られており、鋭い眼光で人類を見つめていた。

次の瞬間、2体のDoll態は二手に分かれると挟み撃つ形で艦に接近していくが、Doll態の動きを見て4機の特機が二手に別れ其々の相手の前に立ちふさがる。

長刀を構える大和と2丁のリボルバーを構える黒利が『アルムズ』の前に、双剣を構える白義とガトリング砲を構えるアバルロが『ロウリン』の前に移動し、互いに通信を繋げ連携をとっていく。

「ダン、貴様はロアと協力し目の前の特機を破壊しろ。この敵は俺と騎佐久で迎撃する」

咄嗟に動いた4機が丁度良く分かれた事でチームは決まった、紳の指示にダンは煙草を加えながら承諾すると、ロアと通信を繋げ軽く挨拶をする。

「へいへい、了解したぜ。っつーことで、よろしく頼むぞ坊主」

「はい!よろしくお願いします!」

EDP、地獄のような戦場で元気良く、そして力強く返事をしてくるロアを見てダンは微笑むと、銜えていた煙草を摘み灰皿に灰を落とした。

「んー若いねぇ。ルーキーのお前さんにとってちと荷が重いかもしれねえが、戦場に立った以上しっかり戦ってもらうぜ」

「分かりました。僕も今までの経験と皆から教わった事を活かして全力で戦います!」

「よく言った。お前はお前が信じたとおりに行動し戦え。全力でカバーしてやる」

「はいッ!」

ロアとダンが意気投合する中、『ロウリン』の前に立ちふさがる白義とアバルロに乗る二人もまた、互いに通信を繋ぎ話しかけていた。

「ふっ、まさかお前とこうして人類の為に肩を並べて戦う日が来るとはな……」

皮肉にもBNとNFのトップが共闘する事になり軽く笑ってしまう騎佐久だが、紳はいつものような冷静な面持ちで淡々と話していく。

「人類の為に戦ってきたんだ。同じ目的の者同士が集まればこの状況は当然かもしれないが、長い時間がかかったな……」

「ああ……けど、今こうして共に戦う時が来た以上、もう迷いはしない。今までこの世界の為に戦い散っていった仲間の為にも俺は戦う。……所で、一つ聞きたい事があるんだが。お前の機体が握っているその双剣のレジスタル……どうやって魔法を使えるようにしたんだ?」

神威の前に立ち雷撃を双剣で受け止めた瞬間、突如双剣が光り輝くと竜巻を発生させた。

科学では証明できない力、あれは紛れもない魔法の力であり、何故白義があのような力を使えたのか騎佐久は気になっていた。

「奇跡だな」

紳は少し考えた後それだけを口にすると、騎佐久は納得がいかず首をかしげてしまう。

「奇跡?お前らしくないね、そんなものを信じて戦ったというのか?」

神を信じない紳から、まさか『奇跡』という言葉が出るとは思っていなかった為、騎佐久は何故紳がそこまで『奇跡』を信じたのか疑問だった。

だが当の本人、紳は奇跡を信じてなどいなければ、頼ったわけでもなかった。

「勘違いするな。奇跡とは神が起こすものではない、人が起こしてこそ奇跡と呼ばれる」

万能の神がもたらす力ではなく人間が起こした力、だからこそこれは『奇跡』と呼ばれる力に相応しい。

あの時レジスタルの双剣を使っていなければ機体は破壊され紳もタダでは済まなかっただろう、それこそ無謀な行動であり意味の無い事だ。

しかし、あの時だったからこそ紳は己の持つ『力』を信じ前に出たのだ。そして奇跡を起こし掴みとった『力』は、まさに紳の望んでいたものだった。

そんな話しを聞かされた騎佐久は軽く溜め息を吐き、また軽く笑ってしまった。

「驚いた。驚いたが……悪くないな、それも」

結局の所、紳はただ己の可能性を試しただけに過ぎない。

雑に言えば運試しとも言えるが、それを成し遂げてしまったのだから、それはもう『奇跡』の力なのだろう。

「それと紳。さっきERRORが言っていたことだが───」

「騎佐久。全てはこの戦いを終えてからだ、異論はないな?」

あと一つ、紳に確認しておきたかった事があったが、紳は騎佐久の言葉を遮るように口を開く。

「……分かってるさ。俺も馬鹿じゃあないからね」

既に理解している事であり、今更口に出す必要もない。

騎佐久は理解するように頷くと、眼前の敵を睨みつけた。


───『美しいですね』

ERROR対人間の戦い。

切り株の上に座っているセレナはうっとりとした表情で満足そうに呟くと、一人の男から声をかけられる。

「なぁERROR。お前に聞きたい事が色々あるんだけど、どうせこの戦いが最後だし答えてくれねえか?」

戦艦の上に立ち、剣を構える魔神は回りの仲間達が戦う状況の中、一人セレナに話しかけていた。

『はい、構いませんよ。なんでもお聞きください』

余裕の表情に満ちたりるセレナはそう言って甲斐斗に微笑むと、甲斐斗は苛立ちを抑えながらも抱く疑問を次々にぶつけていく。

「お前の額にある魔方陣、それにさっき空に魔方陣を広げて無数のERRORを転送してきたよな。魔法が使えるみたいだが、この世界では魔力が回復しないはず。どういうからくりだ?」

『あら?お気づきにならないのですか……?』

馬鹿にされたような物言いでセレナにそう尋ねられたが、甲斐斗は黙ったまま答えを待った。

『簡単ではありませんか。自力で回復できないのであれば、魔力に変わる物を取り入れ補給すればいいだけのことですよ』

そう言ってセレナは自分の座る切り株を軽く叩くと、再び甲斐斗を見て微笑む。

「なるほどな……」

セレナが先程から座っている切り株をじっと見つめ続ける甲斐斗、あれがただの木で出来た切り株でないことは魔法使いであった甲斐斗には一目で分かっていた。

そしてセレナの言う魔力に変わる物、その答えが『人間』や『レジスタル』だという事も理解している。

というより、セレナに聞く前から既にその答えは想定していた。

恐らくこのERRORはレジスタルから魔力を作り出すことに成功したのだろう。

そしてこの大地の下には多くのレジスタル、そしてレジスタルを生み出す人間達が保管されているのだろう。

それをあの大木の切り株の根を経由して魔力を供給、セレナ自信が魔法を使用できるようにしている。

魔力の流れが分かる甲斐斗だからこそセレナの魔法のからくりに気付く事が出来たが、甲斐斗が知ろうとしていたのはそんな事ではなかった。

「ERROR。お前さ、どうして魔力が回復されないのか知らないだろ」

『……はい?』

「アビアすら知らなかったんだ、もうその原因を知っている者がいるとしたらお前みたいなラスボスだと思ったんだけどなぁ。期待して損した」

セレナに馬鹿にされたお返しかのように甲斐斗もまた馬鹿にしたような言い回しをすると、セレナは相変わらず微笑みながら話しかけてきた。

『魔力が回復しない理由ですか?それなら知っていますよ、この世界では魔力の回復が『制約』されているからです』

「そうか。そして『ERRORにもその力を解く事が出来ない』のか。なるほどよく分かった」

甲斐斗がERRORに一番聞きたい事が聞けた。

つまりERRORにも絶対名、制約の力を解く事が出来ないのだ。

そうと分かってしまい少し落胆してしまう。ここでERRORが制約の力を解く鍵を握っていればまだ力を取り戻せる希望があったものの、世界を支配してきたERRORが知らないのだからもうどうしようもない。

『……では、この世界が制約されている理由について。貴方はご存知ですか?』

「魔力の回復が制約される理由?お前は知ってるのか?」

『ええ、全ては……『無限』を生み出させない為ですよ』

「無限だと……?」

ここでまた新たなキーワードを聞き甲斐斗は頭を悩ませてしまう。

神が魔力の回復を制約した理由が『無限』を生み出させない為と言われても、甲斐斗には特に思い当たる事がない。

『今は亡き神がしたことです、もうそれに意味はありませんけどね。それにしても厄介な力ですよ、神が消えて制約が解かれると期待していたのですが結局制約は解かれませんし……どうしてでしょうねぇ……神の代わりに何者かが制約でもしているのでしょうか……?』

まるで探りを入れるかのようなセレナの質問に甲斐斗は黙り続ける。

(こいつ、神の存在は知っていてもミシェルや絶対名の存在は知らないのか……?だとすれば好都合だ、こんな奴にそんな事を知られたらミシェルが危険に晒される)

「さあな、だがもしそんな奴がまだこの世界にいるなら俺が力を取り戻す為にぶっ殺してやるけどよ。所で、お前はなんで人間の姿をしてるんだ?」

質問しつつも甲斐斗はセレナがどのように答えてくるのかを大体は予想していた。

ERRORが人間の姿をしている理由は幾らでも考えられる。油断させる為、動揺させる為、騙す為、惑わす為……。

今まで次々に疑問を投げかける甲斐斗に対しセレナは拒む事なく答えていたが、この甲斐斗の質問に思わず首を傾げきょとんとした表情を浮かべていた。

『何故……ですか?可笑しな質問ですね。では貴方は何故人間の姿をしているのか答えられますか?』

「……ん?質問を質問で返すんじゃねえよ。んな事俺が知るか」

予想していた答えが帰ってこない為甲斐斗もまた戸惑ってしまったが、同じような事を聞かれセレナに疑問を感じつつ会話を進めていく。

『お話になりませんね。ですが……言うなれば私は『新人類』代表の存在なのでしょう。私がこの世界に命を宿した時からこの美しい女性の姿をしておりましたから』

「は?なんだって?その姿が元々のお前の姿だと言うのか?」

『ええそうですよ。私がこの世界の大地を踏みしめた時から私は人間の姿をしていました。何故私がこの世界に命を宿したのか、その理由は生まれて瞬きをする前から知っております。この世界を……いえ、全世界を新人類の手で作り変え、旧人類の排除を行う事です』

新人類……自分達の事をそう呼ぶ化物、ERRORがあらゆる世界を支配してきた事を聞き甲斐斗はつい溜め息を吐き頭を掻いてしまう。

「何が新人類だ馬鹿馬鹿しい。ちょっと魔法が扱えるだけのただの化物じゃねえか。ふざけた事言いやがって……んで、その新人類とやらは俺達人類を滅ぼし全世界を支配して何するつもりなんだ?それ相当の理由があるんだろ?」

『自由ですよ』

「また訳の分からない事を言いやがって……」

『自由なのです、この世界を好きにして構わないのですよ。なので私は新人類が平和に暮らせる最高の世界を作り上げようと思っています。尤も……この世界を作り変えた後、別の世界も私の物にするつもりですけどね』

セレナはその野望の恐ろしさを伝えるような不適な笑みを見せると、甲斐斗は腕を組み納得したように頷いていく。

「……なるほどなぁ。まぁ、大体分かった。じゃああれか。所詮お前もSVの奴等と同じ他世界の人間って事か。人間とは言ってもそれは外見だけで、狂った化物に過ぎねえけどな」

大体のERRORの目的と事情を聞き、やはり人類の敵である事を再確認する事が出来た。

(だが、本当にそれだけか?こいつの言ってる事が信用できるかどうかもわからねえし、この程度の思想の化物が全世界を侵略できるものなのか?いや、ここで下手に嘗めるのは危険か。このERROR何を企んでいるのかもよく分かってねえし……ああ、考え出したら切りがねえ。とりあえず殺すか)

甲斐斗は黙って通信を切ろうとしたが、その瞬間セレナから甲斐斗に声をかけてくる。

『あの、先程から目を合わせようしませんね。私の姿がどうかしたのでしょうか?』

その言葉に甲斐斗は手を止めてしまい、そしてモニターに映るセレナの目を見つめ返した。

ERRORがセレナの姿をしているなど、偶然にしては出来すぎている。

しかし、ERRORがセレナの姿をしている事で何か支障が出るわけでもない為、これ以上セレナの姿について考えるのを止めていたのだ。

「もういい黙れ。雑魚が気安く話しかけるな」

一通り聞きたい事は聞いた、もうERRORに要はない。

「所詮お前は全てを支配し人類を滅ぼそうとするただの害悪に過ぎない。さっさと消えてもらうぜ」

後はこのERRORを片付けるだけだが、甲斐斗がこの場から離れることはない。

甲斐斗の第一目標は唯の護衛であり仲間がERRORの特機と戦う最中、甲斐斗の乗る機体は艦の上に立ち、向かってくる量産型のDoll態を蹴散らし飛んできた飛び道具を自らが盾となり剣で防ぐ事で防戦一方の戦いだけをしていく。

そんな魔神の戦う姿に見惚れるセレナ。

魔神だけではない、この場で戦う者達を嬉しそうに見回していた。

『美しいですね』

世界の為に、人類の為に、必死になって戦う人間達をセレナは心の底から愛している。

絶望的状況下で希望に縋り目の前の敵を殺していく勇ましい姿、様々な思いが交差するこの時が、セレナというERRORにとって堪らない幸福であり快楽だった。


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