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第148話 女神、審判

───焼き払われる草木、村にある建物は次々に神威の放電する稲妻に破壊され炎上していく。

両腕から放つ無数のプラズマは逃げ惑う人々を消し炭にすると、更に村の中央へと向かい破壊の限りを尽くしていく。

神威を止めようと我雲が近づこうものなら、羅威は敵とみなし躊躇う事なく機体を、仲間であるはずの人間を瞬殺していく。

別の我雲が機関銃で神威の足を狙おうと弾丸を放つが、神威は大地を滑るように左右に高速で動きながら接近してくると、機体の右手にプラズマを溜めその一撃を突き出し軽々と我雲の胸部を貫く。

貫いた右手を引き抜くと、背部から近づいてくる機体に向けてプラズマを放ち機体を爆破させ、上半身が吹き飛んだ我雲が他愛なく崩れ落ちる。

それは人類の為に戦う希望の象徴でもなんでない、『破壊神』とも言える脅威の存在。

神威を操縦する羅威の脳裏に昔の記憶が蘇る。

共に過ごし、共に戦った仲間達の笑顔。

危険な地上から安全な深海に隠れ、三人は平和に暮らしているはずだった。

何度も何度もあの時の光景が蘇る、その映像は歪み、亀裂が走り、ノイズが聞こえ、荒れ狂う。

狂ったERRORの犬もどき、ERRORと成り果てた肉塊、ERRORを生み出す為だけの命。

羅威は知っている、命とはちっぽけなものだと。

軽く、儚く、脆い、簡単に消えてしまう、簡単に無くなってしまう。

だがそんな命だからこそ人は温かくなれる、人は強くなれる、人は生きていける、だからこそ、人は───。

「羅威!攻撃を止めるんだっ!もうこれ以上ERRORの思い通りにさせちゃ駄目だよ!!」

愁が幾ら呼びかけた所で無駄だった、通信はジャミングで妨害されており互いの声が届く事はない。

紫陽花の力によりあと僅かな時間でこの一帯の通信は回復するだろう、しかしそれも無駄な事に変わりはなかった。

既に羅威の左耳の鼓膜は体に流れる電流の影響で破れており、左耳の聴力を完全に失っている。

更に操縦席内の機器も神威の影響により映像が乱れノイズが走るこの状況下で、僅かに聞こえてくる愁の声など羅威に届くはずがなかった。

神威を止めようと立ちはだかるアギト、どうにかして神威の動きを止めたいものの、神威の素早さは次元を超えており高速で動くたびに衝撃波が空気を震わせ地面を抉っていく。

また、神威から常時放たれるプラズマと雷がその衝撃と威力を倍増させ、アギトですら神威の拳を受け止めるたびに足が徐々に大地に埋まってしまう。

これが本来の神威の姿───そう考えると、愁は早急に決断しなければならなかった。

昨夜、神楽の言っていた事が本当だとすれば、神威はいつ自爆してもおかしくない。

増幅し続けるエネルギーを今は爆発的に消耗し機体の状態を維持しているが、機体そのものには耐久度に限界があり、あのプラズマを帯びた機体の状態が長続きするとは考えにくかった。

ならばせめて、神威が自爆する前に倒し中にいる羅威を救うしかない。

その方法はもはや一つ、神威と戦い、勝つしかない。

愁が意を決して戦おうと機体の拳を固く握らせた瞬間、アギトと神威の間に割ってはいるかのように、上空から舞い降りた白義がレジスタルで作られたあのサーベルを突き出し剣先を神威に向けた。

「紳さん!?」

突然の白義の登場に驚く愁、マントを靡かせ目の前に現れた白義は少しだけ後ろに振り向きアギトを見ると、すぐに前を見つめ接近してくる神威と激しい攻防を繰り広げていく。

「紳さんも羅威を止めようとしている……!それなら俺だって!」

戦うしかない。もはや戦い以外で羅威を止める事は不可能に近いだろう。

神威から次々に放たれるプラズマを白義が双剣で受け流しつつ、背部に付いてある動力源目掛けて攻撃をしかけるが、今の神威が容易く背後を許すはずもなく瞬時に回避すると左足にプラズマを纏わせた蹴りが白義目掛けて突き出された。

その盾となるようにアギトが白義の前に出ると、両腕を交差させ重い一撃をなんとか受け止めると、ほんの1秒弱しか動きを止めていない神威の左足目掛けてアギトは両手を伸ばし掴んでみせた。

「今ですッ!紳さん!!」

両手で神威の足を固定し決して離さないアギトを見て、白義は咄嗟に神威の背部に回りこむと、今度こそ命中させるべく双剣を振り下ろした。

だがその時、アギトの両脚が大地から浮いてしまうと、神威は右足を軸に機体を回転させ左足をアギトごと持ち上げ自らの盾に利用してしまう。

更に神威は左足を振るいアギトを白義目掛けて突き飛ばすと、一気に空高く跳躍し両腕から機体の数倍程の巨大なプラズマ球を作り出すと、見下しながら神威は両手を振り下ろし2機目掛けてプラズマ球を発射させる。

「まずい───っ!?」

愁が顔を上げその光景を見た時には既に事態は最悪の方向へと進んでいた。

突き飛ばされたアギトは体勢を崩してしまいプラズマの直撃を免れない、幾らアギトだろうとあの強大な一撃をまともに受ければ無事で済むはずがなかった。

アギトの危機的状況、それを間近で見ていた紳は咄嗟に白義をアギトの前に立たせると、両手で握り締める双剣を前に突き出し重ね防御の構えに移り大地を踏みしめた。

……紳の脳裏に再び甲斐斗の声が聞こえてくる。

思え、願え、祈れ───人の感情、意思、心こそが魔法の原点。

だとすれば今、この双剣を使う他に道はない。

ERRORを滅ぼし、人類を救い、世界を平和にする、そして今、掛け替えのない大切な仲間が死に直面している。

救える力がここにある、助けられる力をこの手の中に持っている、ここで何も起きずに終わるのか?所詮それまでの人生であり、それだけの男だということになるのか?

いいや終わらない、終われるはずがない。

つい先程甲斐斗に言ったはずだ、自分が何者で、そして自分が何の為にこの世を生き、戦い続けるのかを。

「羅威、俺は連れていくぞ。貴様が迷えば俺が先頭に立とう、挫ければ俺が支えよう、道を誤ればぶん殴ってでも連れ戻し、背負ってでも平和な世界に連れて行く!」

それが『BackNumbers』の総司令官、風霧紳という男だ。

アギトの盾となる白義を見て、愁は紳に回避するよう叫ぼうとしたが、その声が届くよりも早くプラズマが白義の双剣に直撃した。

『─SRC起動─』

その瞬間、突如白義と神威を包み込むように巨大な竜巻がうねりをあげながら発生する。

雷鳴が鳴り響き竜巻の中がどうなっているのか目の前のアギトですら分からない状況の中、甲斐斗だけは機体の中にいながらも微かに懐かしい魔力の風を感じていた。

「マジか……やりやがったなあいつ。だったらお前の声……今なら届くはずだぜ」

そう甲斐斗が呟き巻き起こる竜巻を見つめ続ける。

爆発的に発散されていく稲妻は全て空高く舞い上げられ、そして竜巻が消えた時、白義と神威は共に向き合うようにして立っていた。

その白義の両手には空色に輝くレジスタルの双剣が握られており、神威の様子も先程までとは違い機体からプラズマを発散させることなく立ち尽くしていた。

「し……ん……?」

羅威は今まで何をしていたのかすら記憶が曖昧であり、意識が朦朧とする中、たしかに声が聞こえてきた。

赤く染まる醜い世界で、自分を連れ戻そうとしてくれる紳の力強い声が。

今なら分かる、例え気を失いそうになりそうなこの状態でも、ほんの少し考えてみればそれは当たり前のことだった。

愁が、そして紳が、人類の敵であるわけがない。

今まで自分は何をしていたのか、何故そうさせたのか……徐々に記憶が戻りつつあるが、白義が神威の肩を持つと、通信を繋げはじめる。

「羅威、事情はエリルから聞いている。NNPの場所がERRORに知られたというダミーの情報を見せられたらしいな。だが心配ない、20万人の人間達は皆無事だ」

ERRROの情報がダミー……20万人の人達は、全員無事……。

その言葉だけで十分だった、羅威は紳の言葉に目を見開くとモニターに映し出される紳を見つめながら力強く声を出した。

「っ!?ほ、本当か!?紳!!?ユニカも雪音も香澄も、皆……皆無事なんだな!?」

「ふっ、当然だ。ダミーの情報を確認したが全てデタラメだった。お前達が見せられた映像もERRORが作り出した偽りの物に過ぎない。それに、この俺が今まで嘘を吐いた事があるか?EDPが終わった後、共にNNPの入り口まで行こうじゃないか」

「紳……!で、でも、俺は……仲間をッ───!!」

「言葉は不要だ」

涙を流す羅威に紳は力強い言葉をかけると、涙を流し続ける羅威に向かって更に言葉を続けた。

「言葉ではなく行動で示せ。必ず世界を平和にしてみせるぞ。それがここで散った仲間達を弔う唯一の方法だ」

今、ここで泣いている暇などない、後悔している場合ではない。

何をしにここに来た?もう一度思い出してみろ、分かるはずだ、今自分が何をすべきなのかを。


───その時、突如戦場から小さな拍手が聞こえてくる。

燃え上がる村を背に、セレナは涙を流しながら白義を見つめ一生懸命拍手をしていた。

異様な光景だ、村は全て焼け落ち灰になっているというのに、セレナは顔を赤らめ涙を流しながら気持ちよさそうに満足した笑みを浮かべている。

『素晴らしい……ああっ、とても、とてもとても……とてもとてもとっても!素晴らしいですぅ!!』

そこに『人類の為に全てを捧げる』と言っていたセレナなど、もうどこにも存在しない。

『これが感情を持つ存在の力であり感情の力っ。魔法という無限の可能性を持つ最高の力。あぁっ、なんて素晴らしく美しいのでしょうっ!羅威さん。そして『旧人類』の皆様。貴方達なら私にこのような素晴らしい世界を見せていただけると信じておりました』

両手を合わせ狂ったような物言いのセレナに、その場にいた人間達は皆言葉が出せず、ただただセレナの言葉を聞き続ける。

『羅威さん、貴方は信じ続けるのですね。人を、仲間を、希望を。その方が楽だからなのでしょうか?いいえ違いますよね。現実から逃げず眼を背けることなく貴方はNNP参加者全員の死、そして今殺した仲間の死、あらゆる全ての死を背負い人類の為に戦い続けるのですよね?ああっ、今私の心は至福の時を堪能し希望に満ち溢れております。そこで一つお聞きしたいのですが、羅威さん。仲間を殺され、仲間を殺し、仲間に助けられた貴方の今の感想をお聞かせください』

この現状に動揺している羅威に急に質問を投げかけるセレナ、その質問に何も答える事が出来ないのを見ると、セレナは可愛らしい笑みを見せ構わず話し続けていく。

『どうして沈黙を続けるのですか?さぁ、絶望から這い上がってください、希望の為に立ち上がってください。貴方の仲間達は私にいつも見せてくれましたよ、特にあの穿真さん。素晴らしい活躍でしたね、絶望的状況の中、己の命を犠牲にしてまでERRORに勝利したあの勇敢な姿は私の心に永遠に残ることでしょう』

穿真の死を嬉しそうに話すセレナ、その姿を見て今まで動揺していた羅威は操縦桿を強く握り締めていくと、段々とセレナを見つめる視線が鋭くなっていった。

目の前に存在する可憐な少女は、この世の全ての醜悪の権化。

そうやっていつも人類を笑っていたのだろう。こうやっていつも人類を苦しめていたのだろう。

至福の時に浸る彼女の、あのERRORの笑みを見ればそれは明白な事実だった。

「おいおい、もう化けの皮剥いじまったのか。だったら……覚悟は出来てんだろうな?」

セレナの戯言を聞いた後に放った甲斐斗の言葉は、その場にいる兵士達全員の思いに等しかった。

ここまで人類をコケにされ、馬鹿にされ、黙っていられる訳がない。

次々に兵士達の乗る機体が武器を構えセレナの方に向くと、甲斐斗の乗る魔神もまた黒き大剣を強く握り構えると、その魔神の眼光が紅く輝く。

『─SRC起動─』

アギトの機体に埋め込まれた無数のレジスタルが輝くと、微かに白色に光るアギトが両手の拳を握り締め、セレナの方に向きなおす。

『─SRC起動─』

紫陽花が紫色に光輝く両翼を広げ空高く舞い上がる、その視線の先にはもうセレナの姿、『ERROR』しか入っていなかった。

『─SRC起動─』

大和と黒利が艦の両脇に立ち正面を向くと、大和は長刀、黒利はリボルバーを構えてみせる。

二対の機体は鋭い眼光で相手を捉え、決して目を逸らす事はない。

『─SRC起動─』

ムラギナが艦の頭上まで飛翔、更に艦の前方にはガトリング砲を構えたアバルロが待機。

甲板には魔神が立っており、これで艦を囲う鉄壁の防衛網が完成したのは言うまでもない。

肩を担がれていた神威は自力で立ち上がりその場に佇むと、意を決して拳を構える。

先程のような異常な暴走を神威は見せず、それを見た紳は白義を神威の横に立たせ双剣を構えた。

全機全員が本気を出すこの時こそ、人類最後のEDPであり、ERRORとの長い因縁に決着をつける時だった。

その光景を見ていたセレナは高揚して震える自分の体を優しく抱き締めると、俯きながら喋り始める。

『ふふふふふふっ。良いですね、とてもとても良いですね。それでこそですよ、それでこそ。さぁ私に見せてください、貴方達の感情が激しく燃え盛り、絶頂を迎える瞬間を』

そう告げた瞬間、セレナの額に光り輝く魔方陣が浮かび上がると、大地と天空に巨大な魔方陣が発生し次々に妖精のような羽を広げる美しいDoll態が出現しはじめる。

その中でも異様な雰囲気を纏った4機のDoll態が姿を表すと、その内の3機が横に並びセレナの後ろに立ち、最後の1機が孔雀のような色鮮やかな無数の翼を広げセレナの頭上に止まった。

セレナは自分の回りに光り輝く神々しいオーラのようなものを纏わせると、その輝く瞳で人類を見つめ直した。

『それでは始めましょう。そして終わらせましょう。今までありがとうございました、さようなら。旧人類の皆様』


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