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第147話 うねり、成果

───最後のEDP開始地点、ERRORの策略により人類は窮地に立たされていた。

愁達の見た情報と、羅威達の見た情報。どちらの情報が正しいのか今は分からない。

ただ一つだけハッキリとしている事は、ここで人類同士の戦いが起きてしまう事がERRORの目的であり、この不毛な戦いを即時終結させる必要があった。

その為に一人、甲斐斗は魔神を発進させ荒れ狂う戦場を駆け巡っていた。

仲間同士で争う機体達の武器を次々に破壊し、それでも歯向かって来る機体には死なない程度の攻撃を与え捻じ伏せていく。


───その頃上空では無数の紫陽花が咲き乱れ、ムラギナは必死に応戦していくが分身し異常な数の紫陽花全てを捌ききる事は不可能であり、徐々に押されはじめていた。

「無抵抗の市民を攻撃するとは……あやつも『悪しきERROR』に洗脳されよったか……ッ!」

幻想の紫陽花相手に幾ら刀を振るおうが剣先が掠る事はなく、攻撃後の絶対に生まれてしまう隙をつく紫陽花の正確な攻撃にムラギナは次々に握り締めているLRSを弾き落とされてしまう。

「ぐうぅっ!?こ、これが『デルタ』を打ち破った紫陽花の力かッ……じゃが、私とてここで落ちる訳には───ッ!?」

菊はそう言って機体の体勢を立て直そうとしたが、既に目の前からは無数の紫陽花が同じ忍刀を振り上げ、ムラギナ目掛けて振り下ろそうとしていた。

その時、自分の目の前に1機の黒い機体が現れると、無数にいる一体の紫陽花の攻撃の中から1機を選択し刀をその黒剣で受け止めてみせる。

咄嗟に現れた魔神にエリルは驚愕してしまう、まさかERRORに加担していたのがNFだけでなく甲斐斗までいたとは思ってもいなかった。

「そんなっ!?どうして甲斐斗がNFの味方をするのよ!?まさか、貴方までERRORに……ッ!」

もはや信じられるのはERRORの村目掛けて攻撃を行う人達のみ、紫陽花は受け止められた忍刀を腰に仕舞うと、両翼を目の前のいる魔神とムラギナに向けた。

「ERRORなんて、纏めて消してあげるわよッ!!」

紫陽花の両翼に紫色の粒子を溜めると、強力な一撃を放つ為にエネルギーを解放しようとした瞬間、甲斐斗は剣を投げ捨てると両手を前に突き出し紫陽花に飛び掛った。

「えっ!?」

思いがけない行動にエリルは一瞬怯み操縦桿のトリガーに掛けていた指を止めてしまう。

何故武器を捨てて飛び掛るのか、エリルは理由が分からないまま魔神に紫陽花の両肩を掴まれると、そのまま地面に向けて急降下していく。

「きゃぁっ!……うぅ……き、機体がいうこと効かない……もしかして、これが甲斐斗の狙い……っ!?」

このまま機体の頭から地面に激突すれば機体の大破は免れない、紫陽花はなんとか機体を浮上させようとするが、魔神は更に機体を密着させると減速する事なく急降下していく。

「もう、ダメッ───!」

今更減速した所で加速しすぎた機体を止める事は出来ない、エリルは目を瞑ると自分を襲うであろう衝撃に耐える為身構えた。

だが、機体はくるりと回されエリルの体勢が元に戻ると、僅かな衝撃だけが機体に伝わり何も起ころうとしない。

「……あれ……?」

ゆっくりと瞑っていた目を開けていくと、同時に紫陽花の操縦席の扉も開き甲斐斗が姿を現した。

「ようエリル、一度しか言わねえからよく聞けよ」

「う、うん……ん?え?」

余りに唐突すぎる甲斐斗の登場と一方的な態度にエリルはきょとんとした顔で甲斐斗を見つめる事しかでできないが、甲斐斗は構わず話しを進めていく。

「今この戦場はERRORによってかき乱されている。人類同士の馬鹿げた争いこそが奴等の目的だ、お前も協力して皆を止めてくれ、いいな?」

「かき乱されてる、って。ERRORを攻撃した私達を狙ってきたのはNFなのよ!?あいつ等こそERRORじゃ……」

「黙れ。今ここで死ぬか?」

「っ……」

「俺がここに立っている事を察しろ。お前が見た映像が真実か嘘か今はどうでもいいんだよ。ERRORに唆さて人類同士で戦って誰が得するか、それを今一度考えて動け。いいな?」

「わ、分かったわよ……」

甲斐斗の言葉を聞いたエリルは冷静さを取り戻し、頷きながらそう返事をすると、甲斐斗は瞬く間にその場から姿を消してしまった。

紫陽花を抱かかえていた魔神はそっと紫陽花を地面に寝かせると、次の戦場へと向かう。

その様子を上空から見ていた菊は、どうやら甲斐斗が自分達の仲裁に入った事に気付き、これ以上紫陽花を追撃するのを止めると、自分もまた暴走した仲間たちを止めるべく動き始めた。


───「次は白義の所に行かねえと……って、うお!?」

エアリルに攻撃されていたはずの白義が突然魔神の前に降り立つと、操縦席の扉を開き中から紳が姿を見せる。

それを見て甲斐斗もすぐに操縦席の扉を開くと、ようやく互いに会話が出来る状態になった。

「甲斐斗、ERRORの話しを聞いていたか?」

「ああ、聞いてた。ちなみに俺が聞いたのは恐らくお前と同じだろうな、セレナって言うERRORが世界の為に戦おうとか抜かした直後にこれだ。他の奴等はERRORに何を唆されたのか知らねえが異常な感情の力で動いてるのを感じるぜ」

「やはりな。状況は大体把握できた、通信は出来ないが既に特機の面子は一人を除き正常だと確認できている」

既に白義は自分を狙っていたエアリルの武器を破壊しており、更に地上でBNの部隊と交戦していた騎佐久の乗るアバルロとも合流し状況の確認を行っていた。

「既にジャミングについては分析済みだ。対策用のプログラムを組み対応している、後は紫陽花の力も借りれば通信が回復するのも時間の問題だろう」

「マジか?そいつは助かるけど───」

甲斐斗が次の言葉を言う前に、巨大な稲妻が機体の周辺に落ちると、音速を超えて吹き飛ばされたアギトが自分達を横切り巨大な木々を貫いていく。

その衝撃波を浴びつつも甲斐斗は平気な面をしていたが、あのアギトが苦戦しているのを見て小さな溜め息を吐いた。

「早い所頼むぜ……なんかあっちだけ次元の違う戦いを繰り広げてるみてえだしよ」

吹き飛ばされたはずのアギトがもう立ち上がり甲斐斗の横を駆け抜けていくと、再び激しい戦闘音が聞こえてくる。

「甲斐斗、貴様は艦に戻れ。羅威は俺の部下だ、俺が止める」

甲斐斗の後方で強烈な爆風が起こり砂塵が宙に舞う、それでもなお、この二人は動揺することなく互いの目を見つめながら話していた

「紳、お前の気持ちは分かる。けどよ、今あの機体と戦ったらタダじゃ済まねえぞ……?」

今、あの戦場で暴れている『存在』と戦えば無事では済まないはず。

あそこで戦っているのが最も硬い機体であるアギトだからこそかろうじで状況を保っているだけで、他の機体が近づけば……いや、近づく前に消えてなくなるだろう。

それでも尚、紳は行くのを止めようとしない。そんな事は紳の眼を見れば嫌でも分かってしまう。

「……ったく。お前正気か?こういう時だからこそ冷静に動くべきなんだろ?だったらお前じゃなくて俺が行くべきだろ!?」

甲斐斗の機体であれば多少負傷した所で再生する事が出来る、最悪甲斐斗が負けて殺されようとも、BNを束ねる紳が死ぬよりは兵士達の士気も下がらなくてすむ。それに総司令官が真っ先に前線に出て戦う事、それ事態が間違っている。

正直理由はなんでもいい。とにかく紳には行ってほしくはない、そう思っていた甲斐斗だが……。

「勘違いするな。通信が戻るまでの時間稼ぎをするだけだ、それまで貴様は自分の任務を遂行しろ」

どうやら紳は何を言われても羅威の元に向かう覚悟が出来ているみたいだ。

これ以上話を長引かせる訳にもいかず、甲斐斗はがっかりしたような言いぶりで後ろに振り返り操縦席に戻ろうとする。

「ああ、分かった、分かったよ。あーあ、全くお前って奴は……」

だが、甲斐斗はその足をすぐに止めてしまうと、後ろに振り向く事なく一言だけ言い残した。

「絶対に死ぬなよ」

それだけ言って自分の機体に乗り込もうとした時、後ろから鼻で笑うような声が聞こえてしまい、甲斐斗は思わず振り返ってしまった。

するとそこには腕を組み、強い眼差しで甲斐斗を見つめる紳が口を開いた。

「死ぬだと?貴様は忘れているようだから教えておいてやろう。俺は人類の脅威と戦い世界を平和にする組織。『BackNumbers』の総司令官、風霧紳だ。世界を平和にするまで死ぬ道理などない」

「……違いねえ」

紳の言う事は全くだ、疑う余地もない。

それほどまで納得させる紳の物言いに甲斐斗はそれだけ呟くと、素早く操縦席に戻り機体を唯の乗る艦へと急行させる。

「すまないな甲斐斗、艦は頼んだぞ……」

白義に乗り込み静かに紳は呟くと、既に村の5割を壊滅させた神威の元に機体を走らせた。


───唯の乗る艦の護衛はロアとダンが操縦する大和と黒利のたった2機で行われていた。

艦を攻撃しようとする素振りを見せれば、ダンの乗る黒利が両手に握らせるリボルバーで瞬く間に武器を撃ち落されてしまい、LRSを振り上げ艦に近接攻撃を仕掛けようとする相手に対しては大和がその長刀で弾き飛ばしてしまう。

「よし!僕だって戦える、僕だって皆みたいに戦えるんだ……っ!」

既にSRCを起動させ特訓の成果を見せるロア、向かってくる相手を次々と捻じ伏せていくその様は本当にあのロアが操縦する機体なのかと疑ってしまう程だった。

1機のギフツが両腕の仕込みナイフを突きたて接近してくると、大和の右肩に付いてある大砲でまずギフツの足元の地面を狙い榴弾を発射、爆音と共に砂塵と煙で視界を封じた後すぐさま接近し長刀でナイフを切り落とす、レーダーにはまだ1機の我雲と1機のリバインが接近しているのを確認すると再び機体を走らせ機体に一番近づいている我雲の前に立つが、その時には既に両手は長刀を握っておらず、腰に付けられてた2本の刀を抜き取り二刀流に変化していた。

「ここから先は、一歩も通さない!」

大和の前に立つ我雲は両手に1本ずつLRSを握り締めていた為、ロアはあえて長刀を背部に仕舞い相手と同じ二刀流で相手と戦う事を決めた。

練習、特訓の成果を出す時だった為、ロアは己が力がどれだけ戦場で発揮し、役立てるのかを確かめておきたかったのだ。

そして始まる激闘、我雲が大和目掛けLRSを振り回すと、大和は次々に振り下ろされるLRSを刀で受け流しながら反撃の隙を窺っていた。

相手も相当機体の扱いに慣れているのだろう、大胆に振りかぶるその様は一見大きな隙を作ってしまうと思わせるが、その足捌きは本当に量産機のものかと想わせる程に滑らかに動いていた。

今の自分なら直ぐに倒せると思っていたロアだったが、我雲の立ち回りに苦戦してしまい時間をかけてしまう。その時、ふとロアの脳裏に甲斐斗の言葉が過る。

勝つ為なら正攻法で戦わなくてもいい───その言葉が刀で相手を倒そうと拘るロアの動きを変えた。

「これでどうだ───ッ!」

大和は大きく上から振りかぶり二刀を振り下ろす、その大きすぎる動きを見て我雲は咄嗟に後方に下がると、大和は振り下ろした刀から手を放し刀を我雲目掛けて振り投げる。

思いがけない行動に我雲は飛んでくる刀をLRSで弾き返すが、その隙に大和は大砲から砲弾サイズの徹甲弾を放ち我雲の右肩を貫くと、背部に付けられた長刀を再び抜き接近すると、我雲の左腕を切り飛ばした。

そして叩き落とされ地面に突き刺さる2本の刀を素早く回収すると、艦に接近するリバインの元に向かおうとした。

だが、リバインの前に魔神が降臨すると、黒剣を振るうこともなく素早くリバインの懐に入り足を掴むと、勢い良く機体を地面に叩きつけ握っていたLRSと盾を地面に落とさせた後、艦に近づかせまいと森の方にぶん投げてしまう。

「よくやったなロア!やればできるじゃねえか!」

艦の周りに散らばる機体のパーツや武器の数々を見て、ロアが艦の防衛をしっかりこなせていた事を把握した甲斐斗はそう言ってロアを褒めると、ロアも嬉しさを顔に出し喜びを露にした。

「ありがとうございます!あ、でも僕よりダンさんのほうがすごかったですよ!」

ロアの言う通り、艦に接近してきた機体と戦ったのは7機程だったが、ダンはその数倍の数を相手に無双しており、立ち向かってくる機体を一通り蹴散らした黒利に乗るダンは操縦席で一服していた。

「あいつはそれぐらい出来て当たり前だ。にしても、こっちは大分片付いたな」

艦に戻るまでの道中、甲斐斗の乗る魔神もまた仲間同士で争う機体達を捻じ伏せており、甲斐斗が通ってきたかと思われる道中には幾つもの武器の残骸が落ちていた。

甲斐斗達のお陰で仲間同士の争いも徐々に終息していき、更に艦の頭上に紫陽花が舞い降りると、紫色の光輝く花弁を振りまき近くの機体の通信を回復させていく。

菊の乗るムラギナ、騎佐久の乗るアバルロも艦に集まると、特機6機が艦を守るように集結する。

『よし、データ通り……これで通信は復活したみたいね、皆私の聞こえる?』

紫陽花に乗るエリルから通信が入ると、その声を聞いた甲斐斗がすぐさま反応しエリルに話しかけていく。

「よく聞こえるぜ。んじゃ通信が復活した所で、お前があの時何を見て何を聞いたか教えてもらおうか。じゃないと戦場がどうしてこんな事になったのかここにいる全員が納得できないだろ」

それを聞く為に特機が集結したと言っても過言ではない、エリルは甲斐斗の言葉を聞きあの時見た映像が再び鮮明に脳裏に浮かび上がる。

残虐かつ残酷な光景、できればもう二度と思い出したくもなければセレナの声すら聞きたくない。

今でさえあの光景が本当に真実なのかどうか疑ってしまい、嘘だと信じていたい。

「ちなみに俺達が聞いたのはセレナって言う女が自分の事を人外の存在と認めたが、人類の為にERRORと共に戦うって内容だった……エリル、お前はどうだった?」

『何よそれっ!?そんなの私が聞いたのと全然違う!あいつは……あいつはッ!皆を!NNPに参加した人間全員を殺したのよ!?』

エリルが叫んだ内容に一同が唖然とし、言葉を失う。

NNPの参加した人間が全滅した。そんな根も葉もない話に何故騙されてしまったのか、問題はそこだった。

誰だって全滅したなどと話を聞けば馬鹿馬鹿しく思うだろう、しかしそれでも納得させてしまったのには、重要な証拠があったからに違いないのだから。

「マジ、か……マジだよな、納得した。たしかにその情報が嘘か本当か分からなくても、んな事を言われて見せられたら、黙っちゃいられねえよな」

『嘘じゃないかもしれない……あのセレナってERRORはNNPの場所も、参加者も把握してた。それに私達の情報まで全部知ってたし、何よりあいつ自身が認めたのよ!全てを裏で操ってたって!』

「俺達を前に大胆不敵な事を言ってくれるじゃねえか。さて、いったいどっちが本物のセレナなのか、本人に直接聞けば早い話なんだが……あの状況が片付くまではそれも無理そうだな」

晴天だというのに雷鳴が轟く戦場、飛び散る稲妻は森を燃やし、草原を灰に変え、大地を焦がす。

今、この戦場で最も恐れる存在はERRORではなく、人類の為に戦い続けてきた仲間、羅威が乗る覚醒した神威だった。

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