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第146話 激情、打破

───セレナに向けて放たれた神威の強力な一撃を間一髪でアギトが受け止める。

だがその一撃は想像を絶する威力であり、愁は今までに感じた事のない程の衝撃を感じていた。

「羅威!落ち着いて!!どうしてこんな勝手な行動をしているんだ……返事をしてよ!羅威ッ!」

愁の呼びかけに羅威は一切反応しない。

セレナが言っていた『ERRORに洗脳された者』が、まさか羅威だとは今でも愁には信じることが出来ず、超高速で繰り出される神威の攻撃をひたすら受け止める事しかできなかった。

「あんな機体の状態が続けば神威だけじゃなく羅威の体だって持たないッ。どうすれば……っ!?」

その時、紫色に光る光線が頭上を過ると、セレナの後ろに広がっている村の一部が焼き払われてしまう。

村で暮らす人々は悲鳴をあげながら逃げ惑い、安全な場所を求めて走り続ける、それな酷い光景を見てセレナは両手を口に当てると涙を流し俯いてしまった。

『なっ、なんて事を……!平和に暮らしているだけの人々を、こんなっ……!』

紫色の光線は更に広がり逃げ惑う人々を薙ぎ払っていくが、菊の乗るムラギナがその攻撃を続ける紫陽花に体当たりすると、4本の手に握り締められているLRSの剣先を紫陽花に向けた。

「何をしておる小童がッ!?命令無しで攻撃など言語道断じゃぞ!!」

神威だけでなく紫陽花までもが攻撃を始めてしまい、上空で待機していた『ムラギナ』は咄嗟に紫陽花の攻撃を妨害したが、それこそがエリルにとって混乱と動揺を招き、味方であるはずの者達を疑う理由を作るものになった。

「あんな映像を見せられたのにどうして邪魔するのッ!?なんだ、やっぱりNFなんてあてにならないじゃない!貴方達もERROR側の人間なんでしょ!?絶対に邪魔なんてさせない!私達は必ずERRORに勝つんだから!」

そう言ってエリルは紫陽花をムラギナの目の前で無数に分身させると、忍刀を抜き取り一斉に襲いかかる。

上空では紫陽花とムラギナの戦いだけでなく、NFの空戦用エアリル全機が紳の乗る白義目掛けて機関銃を撃ち続けていた。

「何故こちらに攻撃している?騎佐久、今すぐ攻撃を止めさせろ。それとも、これはお前の指示なのか!?」

紳がNFの部隊に呼びかけるものの、一切返事は無く。紳は迂闊に攻撃し被害を拡大させる訳にはいかずただただ攻撃を避け続けることしかできない状況だった。

部隊の後部に立っていたダンの乗る『黒利』もまた、NFとBNの複数の機体から狙い撃ちをされるものの、容易く攻撃を避けつつ紳の指示を待ち続けており、一切反撃をせずにいた。

「ったく。やけに画面がブレるなぁ……」

ダンが機体を操作していて気付いた事だが、モニターが時々砂嵐となり、スピーカーからはノイズさえ聞こえてくる始末。思いきってダンは操縦席のハッチを開けると、そのハッチの開いた場所から広がる視野のみで襲いかかる敵を判断し、見事に捌ききっていた。

唯の乗る艦の回りからは次々に味方の機体同士が交戦する激しい音が聞こえてきており、艦にいるオペレーターの兵士達は通信を試みようとするが、全ての機体に通信が繋がらず、更にレーダーまで壊れてしまいどうする事もできずにいた。

その時、1機の我雲が艦の前に立つと、LRSを空高く振り上げ唯のいる司令室目掛け振り下ろした。

「おい、邪魔」

鈍い遅い弱い。そんな攻撃で甲斐斗が守る艦を傷付け、唯を殺せるはずがない。

瞬く間に黒き大剣で我雲は両手両脚を破壊されると、甲斐斗の乗る魔神に蹴り出され転がりながら艦から遠のいていく。

「やれやれ……急に全機体との通信が切れるし。何が起きてるって言うんだ。神楽、何か分かったか?」

甲斐斗は唯一通信を繋げることが出来た神楽に事の状況を相談してみると、モニターに映る神楽は青ざめた表情のまま装置を触り話しはじめる。

『現地にいる貴方の方が分かるものじゃないの?まぁいいわ、分析の結果だけど……ジャミングされているわね。けど、このジャミングが戦場の混乱のきっかけになったとは考えにくいし、もしかすれば由梨音ちゃん同様に洗脳を受けている可能性が有るわね。……それにしても、こんな状況で貴方の機体と通信できたり、他の機体と違って貴方の機体が影響を受けないのは同じ化物機体だからかしら?』

「そんな事俺が知るかよ。にしても、なるほど……察しはついてたが、どうすっかな。正直に言うとあのセレナと名乗ったERRORには色々と聞きたい事があるから速攻で殺すのも躊躇っちまうし。まったく、面倒な事になりやがって……」

『甲斐斗、ERRORは人類同士で戦わせて戦力も消耗させるつもりよ。恐らく呼びかけても彼等に声が届く事はないわ、それなら力で両者を救いなさい。貴方なら出来るわよね』

「当たり前だ、俺を誰だと思ってやがる。むしろそっちの方が得意分野だぜ」

力で捻じ伏せる方が自分の性にあっている、とりあえず前線で喧嘩している馬鹿共を両成敗しようかと思った時、突如自分の機体にもう一人通信を繋げてくる人物がいた。

「あ、あの!!甲斐斗さん!?甲斐斗さんは大丈夫なんですか!?」

モニターに映し出されるロアを、甲斐斗は一瞬鋭い目つきで睨んだが、直ぐにまたいつもの表情に戻ると声をかけた。

「ん?ロア、お前も俺と同じで無事みたいだな」

「は、はい!突然周りの人達が戦い始めて、僕には訳が分かりませんよ……!」

「よし、とりあえず俺の所に来い」

「えっ?わ、わかりました!」

言われるがままにロアは大和を艦の前方に向かわせ魔神と向かい合うように立つと、突然魔神が剣を振り上げ大和目掛けて振り下ろした。

「えっ!?」

思いがけない攻撃にロアの乗る大和はその長刀で大剣を弾くが、魔神の攻撃は止まる事を知らず悪戦苦闘する大和目掛けて再び攻撃を開始しはじめる。

「か、甲斐斗さん!?どうしたっていうんです、かっ、うわっ!?」

攻撃を続ける魔神相手に大和は防御と回避行動をとり続け、決して反撃はしない。

だがその回避にも限界が来てしまい、大和は地面に尻餅をついてしまうと魔神の握る黒剣が胸部に向けられた。

しかしその様子を見ていた甲斐斗は機体の動きを止めると、握っている剣を肩に乗せ再びロアと通信をはじめた。

「悪い悪い、お前が本当に正気なのかちょっと試しただけだ。特訓の成果はしっかり体が覚えてるみたいで安心したよ」

「た、試すって。驚かさないでくださいよ……!あと少しで本当に死んでましたよ!?」

「あんな攻撃で死ぬならそれまでだし。少しでもおかしな動作ならあのまま殺すつもりだったが……ま、無事なんだから良かったじゃねえか」

「うっ……」

軽々と言った甲斐斗の言葉がロアには本気に聞こえてくる。

冗談じゃない。あのまま攻撃を避けられなければ死んでいただろう、そして自分が少しでも不振な動きをしていれば甲斐斗はロアを───。

「馬鹿か!気にしすぎなんだよ!ほんとに殺すわけないだろ!?まったく冗談の通じない奴だなぁ……」

恐ろしそうに見つめてくるロアの視線に甲斐斗は直ぐに反応すると、溜め息を吐き尻餅をついた大和の腕を掴み立ち上がらせる。

「こんな状況で冗談なんて……甲斐斗さんはすごいですね……」

「こんな状況だからこそ。かもな、とりあえずお前が無事なのは本当に良かったぜ。だろ?神楽」

『そうね。大和……一度ERRORである伊達君が乗っていたものね。もしかすれば、その影響でERRORの力が効かなかったのかしら……ううん、今はその事について考える時ではないわね。ロア、貴方も甲斐斗と協力して皆を止めてちょうだい。私の最高傑作である大和と、今の貴方の腕ならきっとやれるわ』

「分かりましたっ!頑張ります!」

神楽に腕を褒められ少しだけ自信が湧いてくるロアだが、その神楽に言葉に便乗して甲斐斗もロアに指示を出した。

「あと一つ。ロア、助ける事を優先して動くのは当たり前だが。絶対にお前自身が死ぬんじゃねえぞ?こんな混乱した状況でお前が死ねば更に場が混乱する。だから無理はするな、絶対に死ぬな、俺と約束しろ」

「甲斐斗さん……はいっ!僕、甲斐斗さんと約束します!必ずこの戦場、生き残ります!」

「OKだ。んじゃ、お前はここに残って戦艦を守れ。俺はERRORの策略にまんまと嵌められた馬鹿共の目を覚ましてくる」

そう言うと颯爽と戦場に向かう甲斐斗だが、唯の護衛を忘れた訳ではなかった。

自分が戦場に出る以上、一時だけでも誰かに艦の護衛を頼まなければならない。

たしかにロアに艦の護衛を頼んだが、さすがにロア一人だけに艦を守らせるのは余りにも荷が重過ぎる。

だとすれば、この状況で正常な判断ができ、尚且つ艦の護衛を任せられる程の人物、そして一番距離が近い、その条件に当てはまるのはあの男しかいなかった。

黒利の前に登場する魔神は、その黒利に襲いかかとうとしていた我雲とギフツを剣で薙ぎ払うと、操縦席のハッチを開け黒利の方を向いた。

「グラサン煙草!聞こえるか!?」

操縦席から出てきた甲斐斗を見てダンもまた操縦席から出てくると、ダンは相変わらず煙草を銜えたままだった。

「おいおい、俺ぁいつからそんなダサいコードネームがついたんだ?」

甲斐斗の言葉にそう答えながらもダンは余裕で煙草を吸っていると、それを見た甲斐斗はとりあえず今のダンが正常だと信じることにした。

「どうやら正常みてえだな、ロアと一緒に艦の護衛に回ってくれねえか?できればロアよりお前が前に出て敵の注意を引き付けてくれ」

ダンを完全に信用した訳ではない。その為に甲斐斗はダンに護衛を任せるものの少しでも唯の乗る艦から遠ざける為に指示を出した。

「なんだ突然。ま、別に構わねえが……お前さんはどうするつもりだ」

「決まってるだろ、喧嘩両成敗だ。っつーのは冗談で、ちょっとこの混乱した戦場を一旦リセットしてくる」

ダンと甲斐斗が会話している最中、近くでは次々に人間同士が戦い傷つけあっていく。

集結した人類の戦力が見る見る低下していくのを、このまま黙って見過ごす訳にはいかなかった。

「リセットだと?こんな敵味方分からない状況でお前さんにそれが可能なのか?」

「やるだけやってみるさ。じゃねえと、このまま俺達はERRORと戦う前に全滅する事になるぜ?」

「……分かった。頼んだぞ」

今はこの男に任せるしかない。ダンはそう思い颯爽と機体を走らせロアが防衛する戦艦に向かうと、甲斐斗は再び操縦席に座り扉を閉め、軽く首を動かし指の骨を鳴らした後。赤い瞳で真っ直ぐ戦場を見つ直した。

上空では無数の紫陽花とムラギナが激戦しており、白義とエアリル部隊との交戦、更に地上では村や機体を巻き添えにする程の大規模な戦いを繰り広げるアギトと神威。

「さってっと……本気出すか」

黒剣を握り締める魔神。甲斐斗はそう呟くと、全力で機体を発進させた。

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