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第145話 光、滅び

───人類最後のEDP。

今、人類とERRORの最終決戦が幕を開けようとする───はずだった。

村の入り口にある切り株の上から話しかける少女の姿がモニターに映り、声をかけてくる。

たった一人の少女の登場に戦場が混乱し、羅威は動揺したままその少女を睨み続けていた。

「お前、何者だ……」

『私の名はセレナ。貴方達が言っている『ERROR』という生命体の一つですよ』

羅威の問いかけに少女はあっさりと自分が『ERROR』という事を認めてしまう。

ERRORと自白された所で羅威は特にセレナの存在自体に驚きはしない。当たり前だ、既に『エラ』という存在がいる事により人間に化けて近づいてくるERRORが出てくることなど予想の範囲内なのだから。

「ERRORか。やけにあっさりと自白したな、人類の味方のフリをして俺達を油断させる作戦かと思ったが、どうなんだ?お前の後ろに広がっている村、そこに住む人間も全員ERRORなんだろ?」

羅威の意思が揺らぐ事はない。

例え目の前の平和な世界が広がっていたとしても、それは全て幻想であり偽りの世界。

真の平和な世界の為にERRORを全滅させる。

その目的を果たす為に羅威はこの場に来た。ERRORとの決着をつけにきたわけであり、対話しに来たわけではない。

『あらあら、全てお見通しのようですね。たしかにこの村に住む人達は皆『人間』ではありません。言うなれば『人間』の姿をしたERRORみたいなものですけど……さして人間と変わるものではありませんよ?ただ、私に生み出されたか、どうか。違いなんてそれだけです』

「なるほどな。しかし、まさかここまで正直に話してくれるとはな……お陰で下手に迷わなくて済む。言っておくが降参しても無駄だ。一匹残らず殲滅してやろう」

その覚悟でこの戦場に来たのだ、今更ERRORと対話し戦いを避ける事など愚の骨頂。

いつでも神威を走らせられるように羅威は操縦桿を強く握り締めるが、対話していたセレナがクスクスと小さく笑っていると、やがてその笑いの大きさが変化させていく。

『ふふっ、ふふふ……あははははははは!』

「何がおかしい、気でも狂ったか?ま、ERRORに正常な奴がいるとは思ってないがな」

『見ていて滑稽です。守玖珠羅威さん。貴方はまだお気付きにならないのですね。まぁ当たり前ですけど、それを知った時の貴方がどのような表情を浮かべてくれるのか期待で胸がいっぱいです」

戦う前の揺さ振りだろう。所詮ERRORの考える事だ、訳の分からない事を言ってこちらを動揺させ隙を作ろうとする魂胆に違いない。

「言いたい事があるならハッキリ言え。今更お前の戯言でこの状況が覆るはずがないけどな」

羅威の強気の態度が揺らぐ事はない。だが、セレナはそんな羅威だからこそまるでこの状況を楽しむかのような微笑みと眼差しで、羅威を見つめていた。

『存在しないんですよ、もう』

「存在しない……?」

『はい。NNPに参加した20万人。全員私が美味しく頂きました』

「………………は?」

『正確に言えば全て私の実験材料として利用させていただきましたの。ふふふふふふっ』

その言葉を理解するのに羅威の中で数秒のタイムラグが発生するが、小さく首を横にふると再び強気な態度で持ち直す。

「ば、かなっ……戯言を言った所で、俺達を動揺させるつもりだな……?下らない……」

こんな分かりきった嘘を吐かれて動揺してしまう自分が情けなくなってしまう。

これは嘘でありデタラメ、これこそERRORが人類を動揺させ正常な判断をさせない為に作った話に過ぎない。

絶対に信じない、信じてはならない。NNPは人類を保護する為に計画であり、その場所がどこで行われているかも秘密になっている。

「NNPの場所も分からない奴が何を知った風に言っている。あそこはERRORに見つかれば入り口を爆破される、お前達ERRORが近づくことなど不可能だ」

『羅威さん。貴方はNNPの場所をご存知ですか?』

羅威の言葉を無視してセレナはそう問いかける、その問いに羅威が答えられない事など分かりきった上でセレナは羅威に問いかけていた。

「俺は、知らない……だが、紳がNNPの場所を知っている。お前達ERRORを倒した後、紳と共にNNPの入り口があった場所に向かうつもりだ」

『ふふ、ふふふふふふ。本当に人間という生き物は愚かな下等生物ですね。どうしてこのような状況下で他人を信用できるのですか?貴方はどれだけ自分が馬鹿馬鹿しく幼稚な発想をしているのか理解していないようですね。まぁ、百聞は一見に如かず……これをご覧になってください』

セレナがそう言うと彼女の額に僅かに輝く魔法陣のようなものが浮かび上がり、その瞬間操縦席のモニターにある光景が映し出される。

山中にある巨大な施設に、山の外壁が裂けるように割れており、その中には『GATE』のような巨大な門が存在していた。

門の入り口には数隻のBNやNFの戦艦が止められており、誰一人人間のいないその広々とした空間に一人だけ、セレナが突っ立っており、軽く手を振っていた。

『見えますかー?どうやらうまくいきましたね、ここがNNPの入り口になります。20万人もの人達はこの入り口を通ってエレベーターに向かい、超深海層にある居住地に向かいます』

モニターに映し出されている入り口の前に立つセレナがそう言うと、僅かに開いている『GATE』の隙間の中に入り、そして地下へと向かう巨大なエレベーターに乗り込んだ。

「そこがNNPの入り口だと言うつもりか?……馬鹿馬鹿しいのはお前のほうだなERROR!20万人の人間が無事避難を終えた後、入り口は既に爆破されている。今そこに入り口が無傷の状態である時点でお前の作り話に過ぎないんだよッ!」

『……羅威さん、私は貴方に同情します』

同情すると言うセレナの表情は笑みを浮かべており、エレベーターが地下の居住区に到達するまでの間セレナは羅威と会話を続けていく。

『貴方はNNPを安全な場所だと信じてしまった。貴方は風霧紳を人間の味方だと信じてしまった。貴方はNNPで無事避難が済めば入り口が爆破されると信じてしまった。貴方はこのEDPで人類が勝つと信じてしまっている。貴方は……信じすぎです。人間に化けるERRORが存在し、人間の心に寄生し、洗脳するERRORまで存在するこの状況で、どうしてそんなにも簡単に人を信じてしまうのですか?本当に救いようがありませんね。まぁ、だからこそ……私は貴方を特別視し、貴方だけには手を付けないようにしていましたからね』

セレナがそう言うと、機体のモニターに何かの文章や設計図が映し出され、羅威は自分が冷や汗を垂らしていることに気付かないまま睨みつけるようにモニターに目をむけた。

文章と思った文字列は、一人一人の名前が並んでおり、その横の図は建物の設計図のような物が描かれている。

『今貴方に見ていただいているのはNNPに参加する20万人の人間の名簿と。その20万人が住む居住地区の設計図です。他にも貴方達EDP参加メンバーの名簿もほら、ここに───』

そう言われた途端、羅威は機体に付けられているキーボードを操作し、NNP参加者の名前が並ぶモニターを見て三人の名前の検索をかけた。

『ユニカ・ウェイカー』

『水綺雪音』

『葉野香澄』

三人の名前はたしかにその名簿の中に入っており、羅威が息を呑むのを見てセレナはニコニコと楽しそうな表情のまま首を傾げ口を開いた。

『あれ?変ですよね、どうして私がそのような物を持っているのか気になりますよね?答えは簡単です、だって、『NNP』を計画したのはこの私ですもの。知っていて当然です。ほら、貴方でも理解できるぐらいとても簡単な答えですよね』

「デタラメを言うなぁッ!!俺は、俺は騙されないぞ……ッ!これは全部作り物だ、お前が全て、人類を騙す為に作り出したに過ぎないッ!そ、それに名簿があるからなんだって言うんだ!?それぐらいの情報が漏洩した所で何になる!?」

『信じたくありませんものね。今まで信じてきたものに裏切られる辛さは人間を死に追い詰める程強力な意思、感情を生み出します。ですが、貴方は今までそういった苦難を何度も乗り越えてきた方です、今回も貴方は乗り越えられるのでしょうか?とっても、とーっても楽しみにしているんですよ。私にとって、貴方は特別な『人間』ですもの……彩野さんの死、セーシュさんの死、妹の玲さんの死、クロノさんの死、ラースさんの死、穿真さんの死……貴方は数々の仲間の死を乗り越えて今この戦場に立っています、そんな貴方にだからこそ教えておきましょう。私の目的が何なのか』

そう言うとセレナは両手を大きく広げると、瞳を輝かせながら空高く両手を突き出した。

『それは、この世界の『神』となり新たな世界を創造することです。やがて私は宇宙を統べ、他次元にある無数の世界を統べ、全知全能の存在となります。旧人類は全て消し、私が生み出した新人類がこの世界に降臨することで神である私が世界を統べます。その為に、各オリジナルのERROR達には私の命令どおりに動いていただきました』

「オリジナルのERROR達に、だと……?」

『ええそうです。私の他にこの世界に送られてきたERROR達は知能が未熟だったので、洗脳する事も容易いものでした。まぁ、一人を除きますが……』

「ERRORが、ERRRORを洗脳ッ!?お前達ERRORは全員仲間じゃなかったのか……!?」

『仲間?そうですねぇ、私の為に利用されるだけの存在。これが仲間という言葉の意味に当てはまるのであれば、きっと仲間なのでしょう』

「なん……だとっ……」

セレナの言っている事が事実だとすれば、NFとSVが戦ったとされる赤い液体をしたERRROや、BNが戦ったあの巨大なERRORは、全てこのセレナの指示で動き、操られていた事になる。

『お気づきになりました?そうです、この世界を全て操っていたのは私なのですよ。EDPの開始の順番を決めるのも、人類にNNPという計画を出したのも、ERROR達に指示を出していたのも、人間を食い殺す化物を作り出したのも。何もかも、全ては私の計画通りです。お分かりですか?私こそがERRORの中でも最高の存在であり、この世の神と言われるのに相応しい存在なのです。この世界に私が下りたのも私が最高であるからこそ!ああっ!素晴らしいではありませんか!』

初々しくセレナが両手を合わせ握り締めると、至福の時を堪能するかのように喜びを噛み締めながら天に祈りはじめた。

そんなセレナの言葉を聞き続けていた羅威は、ふと脳裏に『エラ』が言ってた言葉が過ってしまう。

(世界とはこうも簡単に動かせるものなのか……純粋、無知が愚かだということがよくわかる)

「そういう……ことなのかッ……?」

分からない。もう羅威には分からなくなってしまった。

羅威には、このセレナが言っている事全てが嘘、偽りだと思えなくなってきている。

『───あ、着きましたよ』

「なっ……」

俯き苦悩していた羅威は、セレナの声を聞きふと顔をあげると、巨大な『GATE』の前にセレナが立ち、『GATE』の入り口ついてある装置を触り始める。

『ここにパスワードを打ち込むとGATEが開き居住エリアに入る事ができます。パスワードはもちろん───E・R・R・O・R』

陽気な態度で言ったセレナの言葉は、羅威に虫唾を走らせる。

そんなパスワードで開くはずがない、こんなふざけたパスワードを人類が設定をするはずがない。

そうだ、まだ希望はある。入り口は爆破されていなかったが、このGATEが閉まっている限り中にいる人類は無事だ。

GATEは開かない。誰も死んでいない。香澄も生きている、雪音も生きている、ユニカも生きている。

きっとそうだ、皆生きている。皆ERRORに恐れる事はない、安全な場所で暮らしている。

『開きましたよ』

戦争が終わった後、皆でユニカが作ってくれたアップルパイを食べるんだ。

愁とロアにも食べさせてやろう、皆で話しながら、笑いながら過ごそう。

平和な世界に皆で行くんだ、もう誰も傷つかない、もう誰も泣かない、もう誰も死なない。

約束した。平和な世界に行く、平和な世界、生きて生きて生きて約束してへいわなせかいへいわなせかい

『羅威さん、気をしっかりもってください。扉が開きましたよ』

へいわなせかいへいわなせ界へいわへいわhいわなせk世世へいわへいわへいわせかいいいいいいいいいいいイイイイイいィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ


───モニターに映し出された『GATE』は全開し、その中にセレナが足を踏み入れる。

一面……いや、全ての面が赤い世界で広がっていた。

ぶよぶよと蠢く肉壁、入り乱れる血管、そこはまるで生物の体内の中にいるような別次元の光景が広がっている。

『大抵の人達はこの中を見て絶叫した後失禁してしまうんですよ。まぁ仕方ありませんよね、自分達だけは安全な場所で暮らせると安堵していたら、自ら逃げ場の無いERRORの中に入ってしまうなんて絶望的ですもの。だからせっかく20万人の為に準備した所なのに、この中に入ってくれない人も数多くて……そういう人達は片っ端から手足を捥いで引きずり回してあげると、周りの人達は中に入ってくれましたけどね。ほんと、恐怖という感情は人間を動かすのに便利なものだと実感しましたよ』

人間の姿をしているだけのただの化物。

清楚な服を衣装を身に纏う可憐な少女が、血塗れの床を裸足で歩きながら肉で出来た通路に入っていくのを、羅威はただただ漠然とした表情で見つめ続けることしかできなかった。

『どの部屋から案内してあげましょうか……そうですねぇ、羅威さんが気になっているユニカさんと雪音さんと香澄さんの三人が今、どうなっているのか見て回りますね』

気になっている。三人。その三人がこの世界にいる。

セレナは入り組んだ通路を迷うことなく歩き続ける、その道中には血塗れの衣服や肉片がごろごろと転がっていたが、セレナはそんな物眼中になく構わず踏み潰しながら歩いていく。

『ユニカさんは愛犬のシロをずーっと抱き締めたまま離そうとしませんでした、余程一人になるのが心細かったのでしょうね。涙で濡れた彼女の頬を、愛犬が優しく舐めているのを見て、私は思わず感動してしまいました』

どうしてこの化物は犬の名前を知っているのか、羅威は心の中で否定し続ける。

セレナはそう言いながらある扉の前に立つと、両手で扉を開けて室内に入っていく。

『感情の力は偉大でとても素晴らしいものです。良くも悪くも私は『感情』というものを心から敬愛しております』

セレナの入った室内は広い空間が広がっており、その部屋の片隅でもぞもぞと蠢く巨大な物体が見えると、セレナは両手を叩きその物体に声をかけた。

『さぁ、お顔を見せてください。ユニカさん』

声をかけられた瞬間その物体は勢い良く動き始めると、声をかけてきたセレナ目掛けて飛びつき、目の前でピタリと動きを止めた。

四本の足を折り曲げ、口から赤い舌を垂らしながら眼球を無作為に動かす存在。

荒い息遣いに、全身は毛むくじゃらかと思えば所々抜け落ちており、その姿は羅威には見覚えのある『Beast態』そのものであり。

そのBeast態の顔は『ユニカ』そのものだった。

『彼女は愛犬と一つになれたのです。きっと彼女も満足しているでしょう、愛するものと一つになる、それこそが幸せな事だと羅威さんは思いませんか?その証拠にほら、彼女は先ほどから感激の余り止め処なく涙を流しています』

違う。

違う。

心の中で否定を繰り返していく羅威、とにかく否定し続けるしかない。

セレナの目の前の座っているBeast態が、ERRORが、ユニカな訳がない。

『この部屋には雪音さんもいらっしゃるんですよ。ほら、あそこに』

指を差した方に自然に視線が向かうと、そこには人間達が悲鳴を上げながら何かから逃げ惑う様子が映っていた。

『ぐぎッ!!ぎぃあああああああああっ!!』

一人の男の大きな悲鳴が聞こえてくると、骨が砕ける音や肉が引き裂かれる音が次々に聞こえてくる。

その音に聞き覚えがあった、骨を噛み砕く耳障りな音に、肉を噛み千切る異質な音。

回りにいる人達はその『音』から逃げ惑うしかない。

仕方ない。逃げ惑う人間達の眼球は抜き取られており、もはや音でしか危険を察知する事が出来ないのだから。

皆が皆、眼球のない目元から血を流しながら逃げる事に必死だ。

ある男はその場に蹲り、ある女は子供の手を握り締め必死に走り続ける。

逃げる動きは皆バラバラで、覚束無い足でふらふらと逃げている。

そしてその人間達を襲う存在もまた、両目の眼球がなく、音だけで人間達を探していた。

Person態───ニヤニヤと笑みを浮かべながらそのERRORは美味しそうに人間を食べていく。

『キモヂイ゛ヨ゛ォ……ギモヂイ゛イ゛ヨ゛オ゛オ゛オ゛!!!』

その時、初めて羅威はPerson態の声を耳にした。

今までPerson態が喋る事などなく、声を聞いた人間など一人もいない。

だが。たしかに今、Person態は人間の肉片を貪りながら言葉を発した。

雪音の声で、言葉を発した。

人一人まるまる喰い散らかした後、Person態は再び人間を喰い殺す為に耳を頼りに4本の手と2本の足を器用に使い獲物を探していく。

余程気持ち良いのだろう、涎を垂らしながらニヤニヤと笑みを浮かべ人間達を捕まえ次第快感を得る為に喰い殺し続ける。

快感が欲しい、もっと快感が欲しい、気持ち良いのだから仕方がない、止められるはずがない。

『雪音さんは今、快楽に飲まれ快感の絶頂を味わい続けていきます。とても幸せそうですね』

幸せそうな雪音はその後も人間を喰い殺し続ける。

あんなに美味しそうに人間を食べて、余程気持ち良いのだろう。

『最後は香澄さんですね。あの人は妊娠してお腹に子供を宿していましたから、この部屋とは別の部屋にいます』

映像の中にいるセレナは2体のERRORがいる部屋から出ると、少し歩いた後再び部屋の扉を開けた。

『香澄さん。良かったですね、一人だと心細いですけど、今羅威さんが貴方を見守ってくれてますよ』

香澄に声をかけたセレナはそう言って歩いていくと、映像の中に香澄の上半身が映る。

紛れもなく人間の姿であり、香澄そのものだったが、上半身は裸にされ、更にその目からは大量の涙を流していた。

『ら、い……?』

泣きながら香澄は羅威の名前を呟くと、羅威もまた身を乗り出し香澄の名を叫んだ。

「香澄!?香澄ぃっ!!」

『らい?……羅威。なの……?う゛ぅ、羅威ぃ……っ』

意識があり、声が聞こえている。そして羅威もまた自分の声が香澄に届いているのを見て涙を流しながら必死に声を掛け続けていく。

「直ぐに、直ぐにお前達を助けるッ!直ぐにだッ!それまで死ぬな!絶対に死ぬなッ!俺がお前を絶対に救ってやるッ!!平和な世界に連れていってやるッ!!だからァッ!!」

羅威の必死な声を聞き、香澄は涙を流し続けると、香澄の横にいるセレナが人差し指を自分の唇に当てて小さく口を開いた。

『羅威さん。大きな声を出さないでもらえますか?今香澄さんはとても大切な瞬間を体験しようとしているんですよ、ほら』

徐々に露になっていく香澄の全体の映像に、羅威は口を開けたまま目を見開きその光景に絶望した。

香澄の腹部から下が人を軽く覆い隠せる程の黒く巨大な肉で埋め尽くされており、異常に膨らんだ腹部がもぞもぞと蠢いていた。

『羅威ぃ゛、ぃやあ……私ィ、こんなの゛、絶対ニイ゛ッ……!!?嫌゛ァああああああああああああ!!!』

その異常に膨らんだ腹部に縦に亀裂が入っていくと、亀裂の隙間から赤色の液体を噴出しはじめた。

「う゛ぅああああああああああ!!!?セレナッ!おい!ERROR!!今すぐ止めさせろ!!!今すぐ、今すぐ香澄を、香澄をお!!!」

『新たな命が生まれるという事は最高の神秘であり、奇跡が起こる瞬間です』

両手を合わせ握り締めるセレナはそう言って香澄の前に立つと、血のようなどろどろとした粘膜を身に受けつつその誕生を待った。

「やめろ……止めてくれぇッ!!もうこれ以上、頼む゛っ、もう、やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

腹が割れ、香澄の異常に膨らんだ腹部からはHuman態が姿を見せる。

ERRORを生み出した香澄は口から泡を吹き、白目を向きながらビクビクと体を痙攣させていた。

もはや意識などなく、その目からは血の涙が流れ始める。腹部から生み出されたHuman態に、セレナはそっと手を伸ばすと、優しく頭を摩りながら微笑んだ。

『ほら。可愛い可愛い赤ちゃんが、生まれましたよ』



『─ERROR─』


「ぁあああああああああああああ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ッ゛!!!」

ぞくりと背後に寒気を感じさせる男の壮絶な叫び声、それが『羅威』の叫び声だという事に愁は最初気付く事が出来なかった。

絶望の中悶絶し、腹の内から吐き出されるような捩れた叫び声。

その羅威の叫び声に反応し、答えるかのように。神威は黄金に輝くプラズマを機体から発散させると、付近にいた数機の機体を破壊し吹き飛ばしていく。

『─SRC起動─』

神威に付けられていた全ての『枷』が次々に亀裂を走らせ粉々に砕け散り、神威の立っている大地を黒く焦がし、放電された稲妻は辺りに飛び散り破壊の限りを尽くしていく。

操縦席にすら稲妻が走り、その異常な電流は機体だけでなく羅威の体にさえ流れていた。

「殺す…………」

もう、互いの言葉が届く事はない。

その声、その言葉、その表情、その意思、全て、届くことはない。

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すッ!!!『ERROR』ぁああぁあああぁああああああああああああああああああああッ!!」

血の涙を流し荒ぶる羅威は、神威を全力で発進させ右腕に膨大なプラズマを溜めると、その雷撃をセレナ目掛けて振り下ろした。

が、その一撃がセレナに触れる寸前、愁の乗るアギトがセレナの前に立つとその一撃を両腕で受け止めてみせる。

「は──────?」

何故、どうして、愁がERRORの盾になったのか……今の羅威に分かるはずがなかった。

おかしい、間違ってる、狂ってる、意味が分からない、理由は何だ?親友である愁が、自分から大切な人達を奪っていったERRORを、化物を、庇った───?

なんだ、愁、じゃあ結局、お前は、奪う側の、人間なのか?

羅威の心が磨り減り傾いた時、通信機からは再びセレナの声が聞こえてくる。

『残念ですが、このEDPに参加している半数以上の人間は既に私の支配下になっております。私が死ねと言えば死にますし、戦えと言えば命を投げ捨てて私の為に戦ってくれます。貴方の親友も既に私の支配下、滑稽ですね、本当に滑稽ですね、ふふふふふっ。あはははははははははは!』

不愉快で耳障りなセレナの声……ふと、羅威は自分がこの戦場に来た目的を思い出した。

そうだ、何も変わらない。何も変わっていないじゃないか、ここに来た理由は一つ、ここで成し遂げなければならない目的は、たった一つ。

「上等だ……人類の敵、ERRORは皆殺しだッ……全員俺がぶっ殺して腸を引きずり出してやるよ……待ってろ……俺が、俺が全てのERRORを殺すッ!!!」

もう、羅威がその歩をとめる事はなく。

神威はこの戦いを最後のEDPにするべく、全てを終わらせる覚悟で再び動き始めた。

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