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第144話 夢物語、逆鱗

───人類最後のEDP。

今、人類とERRORの最終決戦が幕を開けようとする───はずだった。

村の入り口にある切り株の上から話しかける少女の姿がモニターに映り、声をかけてくる。

たった一人の少女の登場に戦場が混乱しかけているが、紳はモニターに映った少女を見ても動揺を隠し話しかける。

「貴様、何者だ?」

『私は貴方達の言うERRORという名の生物に近い存在です』

「何っ……?」

EDP開始地点に現れている時点でこの女性が『人間』ではないと紳は思っていたが、まさかこうも簡単に人外と名乗られるとは思ってもいなかった。

『ですが安心してください。私達は人類の敵ではありません』

「安心だと?ERRORと同様の存在であるお前達を、俺達人類が信用すると思っているのか?」

『そう……ですよね。仰るとおりです……しかし、私の話しだけでも聞いてもらえないでしょうか?』

「全部隊、攻撃態勢に入れ」

紳の命令により各艦、そして各機体の武器の矛先が一斉に村に向けられる、それを見ていた少女は驚いた様子で声を上げた。

『お止めください!ここに住んでいる者達は貴方達と同じ人間です。ここでただ平和に暮らしているだけなのですよ!?』

平和に暮らしているだけ。たしかに村を見れば人が畑を耕し家畜を飼い、ふと視界に入った子供達は縄跳びをして遊んでいる。

そんな平和な光景が最後のEPD開始地点に広がっている。そのような異常な光景が広がっているからこそ紳は現実を認められずにいたが、愁が咄嗟に二人の会話に入ってくると紳に声をかけた。

「紳さん、せめて彼女の話しを聞くべきです。彼女達は本当に人類の味方かもしれません。それをどう判断するか、彼女の話しを聞いてからでも遅くないはずです!」

愁の言葉も一利ある。たしかにここで引き金を引く事は簡単なことだが、目の前にいるこの女性は間違いなくERRORについて重要な手がかりを知っている。

事を荒立てるのを急ぐべきではないのか……いや、それこそがERRORの策略なのかもしれない。

いっそ何も考えず、迷わず、ここで引き金引く方事が正しいのかもしれない。

ただ、どれだけこの選択が重要であり、今後の事態を大きく揺るがせるものになるのかが重みになり、紳は躊躇いつつも決断できずにいた。

紳自体がERRORについての手がかりを知りたいという欲もあるが、それは紳をとめた愁も同じ考えだった。

人類と対話出来るERRORが『エラ』だけでなく、他にもいた事実。

そしてそのERRORは人類に対して友好的な態度であるということに、愁は僅かな望みを懸けERRORとの対話を試みた。

「セレナさん。俺は貴方に聞きたい事があります、貴方は……人類の味方ですか?」

『私の話しを聞いて頂けるのですね?ありがとうございます。先ほどの質問ですが、私は人類の味方であり。そして、悪しきERRORの排除を望む者です。貴方達にはこれから話しをさせていただきます、この世界を狂わす『ERROR』の存在について』

やはりこの女性は知っている。『ERROR』という規格外の異常生物の存在の理由について。

それからはただセレナの話しを聞く事しか出来なかった。

『あの『ERROR』という存在が人間のいる世界に送り込まれた理由、それは全世界にいる人間という存在を侵食し、抹消する為です。その目的は私にも定かではありませんが……あの生物達はそれを目的として送られてきた生物兵器と言えます』

生物兵器……そうと分かれば、その存在は間違いなく人為的に送られてきた存在になる。

人間を喰い、侵食し、利用し、人間の数を確実に減らしていく化物。人間を排除するのを目的として送り込まれた生物と言われればその異常な行動が納得できる。

『そして、私もその生物兵器として送られてきた存在です……。ですが、私は人類を滅ぼそうなどと思っておりません。私は自ら悩み、考え、決断しました。その結果、全世界の人間を抹消するというERRORの目的を否定し、今この場に残っています」

彼女の口からハッキリと人類の味方であると聞けた事に愁は少し安心するが、紳がここにきてERRORを容易く信用するはずもなく、辺りを警戒しながらも注意深くセレナの話しを聞いていくが、聞きたい事が山ほどあり、一つずつ紳が問いかけていく。

「ERROR、もし貴様が人類の味方と言うのであれば俺の質問に嘘偽りなく全て答えろ。いいな?」

『はい、私に答えられるものであれば全て解答させていただきます。正直に言いますと、今この場で完全に信用してもらえるなどとは私も思っておりませんから……』

「当たり前だ。それで、この地面の地下にはERRORの巣があるはずだが、そのERRORについては全てお前の指揮下にあるということか?」

『はい。ただ、地下にいる私の仲間は人間を材料にしたり、利用して生み出された存在ではありません、この世界を守る為に私が自力で作り出した純粋な『兵隊』といえます』

「純粋な兵隊、か……。その兵隊とERRORが戦ったのが、あの森の入り口にあった光景の理由か」

『その通りです。貴方達人類を迎え入れる為に作った入り口の存在にERRORも気付き、進入を試みてきましたが。私の仲間の力によりこの村には一匹も侵入を許しておりません』

あの森の入り口には様々な種類のERROR、そして相当の数の屍があった。

無数のERRORを駆逐し進入を許さないとなると、かなりの戦力を『セレナ』が持っているのは明確だった。

『言葉を付け足させていただくと、地上だけではなく地下から進入を試みるERRORもいましたが。この村の回りには私の手によって作られた無数の大樹の根が深く潜り、絡まっている為。地下からの進入も許しはしません』

ここでようやくあの異常な大きさの木々が村を囲っている意味を理解できた。

地上だけでなく地下から近づいてくるERRORの対策として生み出された大樹の存在。

鉄壁の要塞と言っても過言ではないほどの完璧な防衛に紳は納得すると、より『セレナ』の存在を警戒をする必要があった。

「よほど優秀な手駒が揃っているみたいだな……恐らく空からの進入も何らかの方法で防いでいるのだろう?」

『はい。ここは人類を守る為に作られた場所、決してERRORを近づけさせはしませんから』

「ERRORを近づけさせないと言うが。それは人間も同じ事だろう?何度かこの場所に兵士達を送り込んだが、誰一人帰ってくることはなかった。貴様が消したのか?」

『消すだなんて……それは大きな誤解です。彼等に私達についての情報を持ち帰ってもらいたくはありませんでした。私のようなERRORの中でも例外の存在が現れたとなると、貴方達人類を混乱させてしまう恐れがありましたので……だから帰す訳にはいかなかったのです。ですが安心してください、貴方の部下は皆この村で平和に暮らしております、誰一人死んでなどおりません』

「ほう……」

恐らくセレナの言葉は嘘ではないだろう、探せばBNの兵士達が出てくるはずだ。

だが問題はその兵士達が間違いなく『人間』なのか、どうか……。

「貴様が人類の混乱を恐れて俺達との接触を控えたのは分かった。だが、理由はそれだけではないだろう?味方と言うのであれば何らかの方法で俺達とコンタクトをとる事も出来たはずだ」

『私の正体を今まで隠していたのには大きな理由があります。それは、この世界を裏で操る悪しきERRORが存在しているからです』

世界を裏で操る悪しきERRORの存在。

セレナはそう口にすると、更に言葉を続けERRORについて話しはじめる。

『貴方達も気付いているはずです。人間を操るERRORが存在している事に』

人間を操るERROR。セレナのその言葉に紳と愁は身に覚えのある出来事を咄嗟に思い浮かべる。

「貴様はBNの本部で何があったのか、そしてそれは誰の仕業なのか。知っているみたいだな」

『はい。あの場所で起きた出来事は全て悪しきERRORが関係しています。人間の心を蝕み、利用していくあのERRORこそ、人類最大の敵であり、私が最も恐れているERRORです』

悪い予想が的中してしまう。やはり、あのBN本部崩壊の原因はERRORにより洗脳された人間が起こした出来事だった。

人間を操るERRORが存在する。その可能性については、恐らく愁が一番早く気付いていただろう。

EDPの時、ERRORの巣に潜った時に対峙した『ゼスト』の存在、今なら彼がなぜあのような言葉を言っていたのかが理解できる。

全てはERRORの手の平の上で踊らされていたに過ぎない。人間の利用こそがERRORにとって最大の武器とさえ思えてくる。

愁は自分の胸に手をあてると、決意した眼差しをセレナに向け口を開いた。

「ゼストさんのあの行動の理由も今なら分かります……セレナさん、そのERRORは今何処にいるかわかりますか?俺達は手を組み、一刻も早くそのERRORを倒す必要がありますからね」

『私の言葉を信用してくださるのですね?重ね重ねありがとうございます。そのERRORの居場所についてですが、私の仲間に協力して頂きようやく場所も割り出す事ができました。だから今こそ私達が力を合わせ、共に協力しあうことが必要なのです。私達は人類に協力することを惜しみません、私達を信用するのには多大な時間がかかるかもしれませんが、それでも私達は人類の為に全力を尽く事を約束します!』

そう言って微笑みかけるセレナに、愁は微かに自分の鼓動が高ぶるの感じた。

最後のEDP、地獄のような決戦が待ち受けていると思っていた者達にとって、これ程心揺さぶられる事はなかった。

このERROR、『セレナ』を完全に信用したわけではない、だが『セレナ』存在の大きさは人類にとって希望にすら思えてくる。

もし、本当に人類の味方であり協力してくれるのであれば、これ程頼もしい存在もいないであろう。

現にこの森の中にある村には数多くの人間達が住んでおり、皆幸せそうに暮らしている。

その光景が、世界が平和になる日がもう目の前にまで来ている事を何よりも実感させた。

人類を利用する悪しきERRORの居場所は分かった。後は『セレナ』と協力し、人類は最大の敵である最後の『ERROR』を倒すだけ。


そう、それが



それが

それがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれがそれが


人類が安堵し納得できる『答え』を求めた結果だった。


『─ERROR─』


「ぁあああああああああああああ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ッ゛!!!」

ぞくりと背筋に寒気を感じさせる男の壮絶な叫び声、それが『羅威』の叫び声だという事に愁は最初気付く事が出来なかった。

絶望の中悶絶し、腹の内から吐き出されるような捩れた叫び声。

その羅威の叫び声に反応し、応えるかのように神威は黄金に輝くプラズマを機体から発散させると、付近にいた数機の機体をいとも簡単に吹き飛ばし破壊していく。

「え……?」

神威に付けられていた全ての『枷』が次々に亀裂を走らせ粉々に砕け散り、神威の立っている大地を黒く焦がし、放電された稲妻は辺りに飛び散り破壊の限りを尽くしていく。

「羅威……?」

愁はただただ覚醒していく神威を見つめる事しかできなかった。

何故?どうして?羅威が?ここで?機体が?味方を?今、何をしようとしているんだ?

「殺す…………」

そう羅威は呟く、だが既に互いの言葉が届く事はない。

その声、その言葉、その表情、その意思、全て、届くことはない。

覚醒する神威を見つめていたセレナは、深刻な表情を浮かべ、たじろぎつつ口を開いた。

『ERRORに洗脳された者……やはり、貴方達の中にも紛れ込んでいたようですね……。残酷な事を言いますが……彼は、もう手遅れです……』

セレナの言葉に息を呑む愁、今まで人類の為に戦い続け、そしてようやく長い柵から解放され仲直りが出来たというのに、再び愁と羅威の間に強烈な亀裂が走ってしまう。

完全に覚醒を遂げた神威、今まで『枷』として付けられていた邪魔なパーツや装甲を全て消し炭にし、真の姿へと変貌を遂げていた。

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すッ!!!『ERROR』ぁああぁあああぁああああああああああああああああああああッ!!」

血の涙を流し荒ぶる羅威は、神威を全力で発進させ右腕に膨大なプラズマを溜めると、その雷撃をセレナ目掛けて振り下ろした。

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