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第142話 枷、縛り

───深夜、皆が寝静まった頃。神楽は格納庫にある機体のデータを確認していた。

薄暗い格納庫に並べられている機体の数々、その中で神楽は神威の前に置いてある装置のモニターを睨むように見つめている。

「神楽さん?こんな時間にどうしたんですか?」

ふと後ろから声をかけられても神楽は聞き覚えのある声に特に動揺せず、振り向いてみれば思ったとおりSV親衛隊の軍服を身に纏った愁が立っていた。

声をかけた愁も薄暗い格納庫だった為最初は神楽かどうか不安だったが、振り返った女性は見慣れた白衣を身に纏い煙草を口に銜えていた為神楽だとしっかり確認できる。

「あら、私はBNの機体に興味があって少し調べさせてもらってるの。許可は唯ちゃんにもらってあるわ。貴方こそどうしたの?」

「俺ですか?ちょっと眠れなくて散歩をしていた所です」

苦笑いする愁に神楽は煙草を吸い続ける、そして吸い終えた煙草を携帯灰皿で奇麗に処分すると、胸ポケットから煙草の箱を取り出し一本銜えると、新品の煙草にライターで火をつけ再びモニターを見つめながら装置を触り始める。

「そう、そういう日もあるわね。何か思い詰めてる事でもあるのかしら?私でよければ話しぐらい聞いてあげられるわよ」

素っ気無い態度とは裏腹に愁を心配する神楽の言葉、愁は黙ったまま何かを躊躇ったが、小さく首を横に振り返事をした。

「いえ、大丈夫です。思いはもう晴れましたから」

その言葉に嘘はない。羅威との一件も無事納まり、残すは最後のEDP決行の時を待つだけ。

それ以外の心配事や考え事が今はない。ただ一つだけ少し気がかりがあるといえば、NFとSVが協同で行ったEDPの日から、全く疲労しない肉体に戸惑っていた。

睡眠をとらなくとも意識ははっきりしており体調は至って良好、先程言った『眠れない』という言葉は、『眠る事が出来ない』という表現の方が正しかった。

「神楽さんこそ大丈夫ですか?今日連絡がつかなくて心配しましたよ」

「ありがとう、でも私はご覧の通り無事よ。そうそう、貴方が送ってくれたデータは確認したわ。あの子、意外とやるようになったわね」

神楽の言う『あの子』がロアの事だという事はすぐに愁は理解すると嬉しそうに話し始める。

「はい。ロアはSRCのコツも掴みましたし、機体での戦闘の仕方も大分慣れてきてます。これなら最後のEDPに出撃しても大丈夫です。……勿論、完璧とは言えませんけど」

今日行われた模擬戦のデータは神楽を驚かせるものだった。

SRCを使った機体の操縦はそう簡単に出来るものではなく、ましてや機体操縦経験皆無の少年があの機体を扱えるとは最初の頃は思っていなかった。

しかし、ロアは機体の操作にも大分慣れてきており、今では一般兵士が操縦する機体と模擬戦をすれば五分五分で勝てる程になっている。

流石に愁や羅威、甲斐斗といった『特機』相手には手も足もだせず敗れてしまうが、これは明らかな実戦不足が招いていた。

「NFの最高傑作は羽衣だけど、私の最高傑作はあの機体よ。扱う人が強ければ最強の機体になるの。あの子がどこまであの機体を扱えるようになるか、期待してるわ……っ」

話していた神楽の指が止まり、モニターに顔を近づけるのを見て愁は神楽の横に立つと、一緒にモニターを見つめはじめる。

「やっぱり……あの子ったら、とんでもない事をしてるじゃない。天才の名は伊達じゃないわね」

そう言う神楽の表情は少し嬉しそうにしおり、先程の『あの子』は恐らくロアの事ではないと悟り愁には何がなんだか分からずもう一度モニターを見てみる。

「神威がどうかしたんですか……?」

「どうもしてないわ。むしろどうかしないように制御されてるのよ」

「えっ?」

「この機体が再び地上に立ったのを知った時、直ぐに自爆すると思ってたけど……そういう事ね」

「じ、自爆!?」

物騒な言葉に愁が過剰に反応していると、神楽は神威のデータをモニターに出し指をさした。

「起動回路や制御系だけじゃない。機体の各パーツも新しい物に取り替えてあるし、追加パーツも付けてより神威の力を制約し、制御しやすくしてるのね……はぁ、なんか……嫉妬しちゃうわね」

そう言って神楽は目の前の神威と、横に並んである紫陽花を見つめる。

「あの、すいません。神威の力を制約してるって、どういう事ですか……?」

「そのままの意味よ。この機体は起動したら永遠に出力が上昇し続けるの、それを制御出来ずに時々暴走しては周りの機体と操縦者に被害を与えていたの。どの人達も出来る事といえば暴走をする前に強制的に機体の電源を落とすプログラムを作る事ぐらいだったけど。あの子は上手に上昇し続ける出力を安定させ、更にその力を兵器として活用してる……誰も成し遂げられなかった事を、あの子はこんなにも前にしてたなんて……後輩の癖に、先輩の私を超えたつもりかしら?」

今は亡きラースにそう問いかけてみたが、返事が来るはずもなく少し笑ってみせると今度は紫陽花の機体の前に移動する。

「ま、待ってください!永遠に出力が上昇し続けるって、そんな技術があるんですか!?」

「無いわよ」

「ええっ……?」

「無いから制御の仕方も分からないんでしょ?それに、そんな技術があったら今頃皆真似してるわ」

「それもそうですけど……」

「オーバーテクノロジーと言う人もいれば他世界からの技術と言う人もいるし、偶然生まれたバグみたいなものなの。まぁ、謎の多さなら紫陽花や貴方の乗る機体も中々だけど」

そう言いながら紫陽花の機体データを確認しようとした瞬間、突如紫陽花の目が光り機体が勝手に動きはじめると、腰から忍刀を抜き取りその刃先を神楽に向けた。

その紫陽花の動きに愁と神楽は動揺しつつ、神楽はゆっくりと装置の端末から指を遠ざけていく。

「エリルちゃん以外が触れないようになってるって話しは本当のようね」

あと少しでも機体について探ろうとすれば、その刃先は間違いなく神楽を貫いていたであろう。

ぞっと鳥肌が立つような危機的状況と緊張感……だが、その雰囲気をぶち壊すかのように紫陽花の胸部にある操縦席のハッチが荒々しく開くと、慌てふためき取り乱しながらエリルが飛び出してきた。

「なななにごと!?どうしたのよっ!?」

先程まで寝ていたエリルには状況が把握できておらず、辺りを見渡し確認していると機体の足元にある装置の端末の前に神楽と愁がいるのが見えてようやく落ち着き始めた。

「神楽さんに愁?……え、なに……こんな夜晩くにどうしたっていうのよぉ……ふわぁ~」

眠そうに目元を擦りながらあくびをすると、神楽は少し呆れた顔で声をかけた。

「エリルちゃん?貴方こそどうして機体の中で寝てるのかしら?」

「へ?えーと、そのー、なんて言えばいいのかなぁー……」

まさか操縦席で寝ているなど二人は全く思っていなかったので神楽が問いかけてみるものの、エリルは眠そうな表情のまま頬をぽりぽりと指先で掻くと、少し照れながら答えた。

「落ち着くんです。この機体に乗ってると、とても……」

ラースからのプレゼント、その紫陽花の中にいるだけでエリルの気分は清々しくなる。

なにより、この機体に乗っているとラースが側にいてくれるような、そんな安心感があった。

「そう……お休み中の所ごめんなさいね。おやすみ、エリルちゃん」

「あ、はい。おやすみなさい、神楽しゃん、愁。むにゃむにゃ……」

若干寝ぼけながらエリルはそう言って機体の操縦席に戻っていくと、ハッチが自動的に閉まり再び眠りについた。

エリルが寝るのに合わせ紫陽花もまた刀を鞘にしまうと、再び機能を停止させ元の状態に戻ってしまう。

「さてと、それじゃあ私はそろそろ自室に戻るとするわね。貴方はまだ寝ないの?」

調べたかったBNの機体は紫陽花を除き全て調べ終えた為、神楽はそう言って煙草の灰を携帯灰皿に仕舞う。

「はい、俺はまだ起きています。あ、でも大丈夫ですか?基地の方は所々照明が壊れて暗くなってます、良ければ部屋まで送りましょうか?」

東部が壊滅してから無人の時が長かった東部軍事基地、一応兵士達が見回り安全なのかを確かめていはいるものの、いつ何処からERRORが出てきても不思議ではない雰囲気に、普通の兵士達は明かりがついてない2階以上の部屋には近づこうとしなかった。

「心配してくれるの?ありがとう、でも大丈夫よ。ほら、甲斐斗ー出てきなさーい」

そう言って神楽が手を叩き、突然の事に愁がきょとんとした表情で戸惑っていると、僅かに肌に風を感じた後颯爽と甲斐斗が神楽の前に現れる。

「なんだその呼び方、俺は犬でも召使いでもないぞ……」

呼び方に不満気な甲斐斗は腕を組みながらそう言うと、神楽は首を傾げてしまう。

「あら、じゃあなんて呼んだらいいの?」

「いやいや、呼び方の仕方を言ってるんだって。もっと小声で名前呟くような感じでいいから、その方が俺が出てきた時カッコイイじゃん。だからそんな迷子になったペットを探すような言い方はやめろ」

一々呼び方について細かく指摘してくるうるさい甲斐斗を神楽はただ黙って見つめていたが、話しを聞き終えた後軽くあくびをして口を開いた。

「貴方、夜晩いのにテンション高いわね」

「てめえ……っ」

小馬鹿にされ苛立つ甲斐斗を無視して神楽は愁の方に向くと、軽く手を振り挨拶をしてその場から去っていく。

「それじゃ、おやすみなさい」

「あ、はい。おやすみなさい、神楽さん。甲斐斗さん」

その場から立ち去っていく神楽。甲斐斗も愚痴を吐きつつ神楽の横に並び一緒に部屋に戻っていく。

そんな二人の後ろ姿を羨ましそうに見つめている愁だが、ふと人の気配を感じ辺りを見渡した。

「いるんですよね、アビアさん」

「わーお。どうしてわかったの~?」

姿を見せた訳でもないのに、愁は格納庫に隠れているのがアビアだと見抜くと、アビアは驚いた表情のままひょこっと柱の影から現れる。

「なんとなく……です。アビアさんはこんな所で何をしていたんですか?」

「甲斐斗を見てただけだよ?」

見ていただけ。声もかけず、まるでストーカーのような態度に愁は少し疑問を抱く。

「見てたって、どうしてです?声をかければよかったのに」

いつものアビアなら平気で甲斐斗に声をかけ近づくはずなのに、今のアビアはそうしようとはしなかった。

「……甲斐斗、可愛そうだから」

「え?」

「甲斐斗とアビアは同じ。ずっと一緒にいられるのに……甲斐斗はまだああやって……きっと後悔する」

「アビアさん?」

「でもそんな時があるからこそ。アビアの大切さを知ってもらえるぅ、えへへ」

訳の分からない事を言いつつ照れながら体をくねらせるアビアに愁は呆然としていた。

「俺は……ちょっと外の風に当たってきますね。それでは」

「うん。いってらっしゃ~い」

足早に格納庫から立ち去る愁、それを最後まで見届けたアビアは格納庫に誰も人がいなくなったのを確認した後、自分の回りに次々に青白く光るナイフを作り出した。

「これで邪魔者はいないし、さっさと始めちゃおーっと」

そう言って手でナイフを掃うように飛ばすと、一本ずつナイフがBNの機体に突き刺さる。

そしてナイフの回りに魔法陣を展開させると、アビアの目の色が変わり暫く動きを止めた。

「ふーんふんふん……へー……」

まるで目の前にある何かを読み通すかのようにアビアは目をきょろきょろと動かしていく。

だが、ふと目を止めると、右手に青白いナイフを握らせ口を開いた。

「……アビアの邪魔をするの?」

振り向かなくとも分かる。この言い様のない殺気、後ろから突き刺さるような鋭い視線を感じとれる。

「ねえ、貴方は『干渉しない』のが約束でしょー?だったらアビアにも干渉しないでよー」

薄暗い暗闇の中でアビアは背後にいる何者かにそう話しかけると、更に言葉を続けていく。

「アビアが知らないとでも思ってた?ざんね~ん知ってまーす!……でも、興味ないよ、そんなこと。貴方はただ……時を待てばいいの、何も起きない、何も起こらない時を。消えかけの蝋燭の代わりにマッチを突き刺したような脆く僅かな時間を焦りながら過ごせばいい……えへへ、貴方にはお似合いね」

機体に関する全ての情報を記憶したアビアはそう言って格納庫から出て行こうとしたが、足を止めると後ろに振り返り最後に一つだけ言い残した。

「それとも……懸けてみたらー?最強の男、甲斐斗の力に。甲斐斗と約束すればきっと果たしてくれるよ。まぁ、だからと言って今が……ううん、貴方が救われることないけどね。ばいば~い」

約束は必ず果たしてくれる。アビアは揺ぎ無い確信を抱いたまま、そう言って手を振りながら格納庫を後にした。

アビアと話していた者は暗闇の中、アビアに言われた甲斐斗の力について考えていた。

『最強』……そんなもので、この世界を変える事が出来るのかどうか。

全世界の全人類でさえ勝てなかった存在を、たかだか一人の絶対名を持つ者が打ち破れるはずがない。

その中には『神』と呼ばれる者から『最強』と呼ばれる者、無論『絶対名』を持つ者も存在した。

だが、どの人間もERRORに勝つ事は、打ち倒す事は叶わなかった。

もう時期世界は終わる。それならばせめて、最後の最後まで生き続ける事がせめてもの願い。

それが叶うのなら干渉はしない、ただただ見守り続けるのみ。それが、前の世界で唯一意思の疎通が出来たERRORとの約束だから。

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