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第141話 遠退き、絶つ

───NF東部軍事基地の格納庫に集められたNFの機体達を、書類を見つつ目を通していく紳。

その横には黒く美しい長髪靡かせる女性、菊が立っており、NFの残存戦力がどれだけ残っているかを具体的に説明していく。

「空戦用のDシリーズ、名は『エアリル』それが18機、そしてもう1機が私の乗る特機『ムラギナ』じゃ。後はギフツが30機にリバインが4機、それに騎佐久が乗る『アバルロ』ぐらいかのう」

「把握した。兵士の数、武器、弾薬、食料はここに書いてある通りで違いないな?」

「当たり前じゃ。なんなら一つずつ数えていくといい」

それだと時間がかかり尚且つ面倒であるからこうして書類に纏めてもらっているのだが、紳は菊のからかうような物言いにも特に反応せず話しを進めていく。

「核兵器の数はそうさせてもらう。所で、貴様等NFの兵士の中で『NNP』に参加させる人間はいるのか?」

「いいや、誰一人おらん。騎佐久達についてきた兵士達は皆ERRORに勝つその時まで戦い続けると誓ってくれた者達じゃからな。そうじゃ、私もお主に聞きたい事がある。『NNP』の場所についてなんじゃが。本当に大丈夫なのか?正確な場所を知っておる人間は世界に10人もおらんと聞くが、ERRORに発見される危険は絶対にないんじゃろうな」

「不安になる気持ちは十分に分かるが安心していい。俺は『NNP』のシェルターの入り口まで実際行った事があるが、あの場所が知られる事はないだろう。……仮にもし場所が分かったとしても、ERRORがシェルターに進入する事は不可能になる」

「偉い自信があるみたいじゃのう。じゃがERRORは私達の予想を遥かに超える動きをいつもしてきておる」

「たしかにな。だがNNPのシェルターに続くエレベーターの入り口は一つしかない、そして20万人全員の避難が終えた時か、あるいはERRORに入り口の場所がばれてしまった時。通路は爆破されることになっている」

「なにっ、それじゃあつまり……」

「ああ、NNPに参加した者達は一時的に隔離され地上に出ることが不可能になる。だが、これでERRORからの進入も絶対に防げるわけだ。万が一、海底1万mを超える超深海層の水圧に耐えられるERRORが現れたとしてもシェルターを破壊する事は物理的、現実的に不可能。もっとも、人類が勝てば話しは別だ。長い年月はかかるが地上から再び通路を作りNNPに参加した者達を全員地上に返す事が出来るからな」

「ふむ、それなら良いのじゃが……ん?あの者達は……?」

紳の言葉を聞いてもなお安心する事は出来なかったが、ふと視界に艦から艦えと民間人が移っていく光景を見えた。

「NNPに向かう者達を別の艦に移動させている。彼等にはいち早くNNPの場所に向かってもらわなければならないからな」

そう言って避難準備を進める人達を見つめていた紳、その中には見慣れた面子も混じっていた。

車椅子に乗った雪音、そして香澄とユニカを前に羅威とエリルが話し合っている。

「香澄、俺達が必ず世界を救ってみせる。元気でな」

「当たり前よ。絶対にこの世界を、人類を守ってよね……!」

相変わらず羅威には強気の口調だが、それにももう慣れた羅威は力強く頷き右手を差し出した。

それに答えるように香澄も手を伸ばし羅威と握手を交わすと、香澄の横で車椅子に座っている雪音にも手を差し出した。

「雪音も俺達を信じていてくれ。人類が勝利した後、必ずお前達を迎えに行く」

「はい!私人類が必ず勝つことを信じて、ずっと待ってますから……!」

これが最後の別れではない。一時離れ離れになるだけ。

必ずまた会える。それを信じているからこそ皆の顔に曇りはなかった。

雪音の後ろに立っていたユニカもニコニコと笑みを見せ、明るい表情で喋り始める。

「羅威さん、次に会う時は美味しいアップルパイをご馳走しますから。皆で食べましょうね!」

「ああ、楽しみにしておくよ」

ユニカからアップルパイと聞いてエリルが地味に反応すると、ユニカの方を向いて話しかける。

「私食べた事ないのよね~。楽しみにしとくから!」

そう聞いてユニカは快く返事をすると、羅威は平然とした表情で喋りはじめる。

「ユニカ、すまないが焼く時はエリル専用のパイを別に作っておいてくれ。足りなくなるはずだからな」

「いつから私は大食いキャラになったのよ!」

流れるように奇麗なボケと突っ込みに一同は笑い、僅かな時間だが楽しい一時を過ごしている。

「雪ちゃん。EDPが終わってまた会った時、皆で一緒に海に行こうね!私が泳ぎを教えるから!」

「約束ですよ?是非お願いしますね!」

「勿論!それと香澄!お腹の中にいる赤ちゃんの事もしっかり考えて、体調には気をつけてね!」

「うん、分かった。ありがとう……!」

自分のお腹さを優しく摩りながら香澄はそう言うと、NNPに向かう戦艦から時間を告げるサイレン音が鳴らされる。

「そろそろ時間みたい。それじゃあ、私達は行ってくるね」

香澄は地面に置いていた鞄を手に持とうと手を伸ばすが、ふと何かに気付き手を止めると、羅威とエリルに向かって敬礼を行った。

それに合わせて羅威とエリル、そして雪音も敬礼を済ませた後。香澄達三人はNNPに向かう艦に乗り込んでいく。

三人の見送りが終わり、羅威は愁とロアの二人と待ち合わせした場所に行こうとしたが、エリルから力強い言葉をかけられ足を止めてしまう。

「羅威!絶対勝とうね!」

「ああ、絶対にな」

絶対に勝つ。必ず勝つ。約束を果たす為、敗北は許されない。

羅威は自分そう言い聞かせるかのように力強く拳を握り締め歩き始める、そんな羅威の後ろ姿をエリルは見つめた後、自分の機体の元に向かいはじめた。

「……若いのう。じゃが、未来を作るのはあやつ等のような者が一番じゃ。そう思わんか?」

そんな羅威達の様子を遠くで眺めていた菊が隣で見ていた紳に話しかける。

「その言葉には同意するが、まるで老婆のような物言いだな」

「失礼な事を言うな。私はまだ二十代じゃぞ」

「なん……だと……?」



───EDPに向けて着々と準備が進められる中、ロアは龍のマルスと一緒に格納庫の片隅で雑談をしていた。

と言っても、傍から見ればロアがただ一人で喋り続けるのを龍が聞いているだけに見える。

「怖くないって言ったら嘘になる。けど、怖さと同じくらい僕は今勇気が湧いてくるんだ」

ERRORと戦った事が無い訳ではない。前の世界にいた頃、仲間と何度か龍と共にERRORと戦った事はあった。

しかし、今回はDシリーズという物体に乗り込み操縦して戦わなければならない。

「僕は生きたい。あのERRORに勝ちたい!そしてこの世界を救いたい!」

強気な口調でロアはそう説明するが、龍は全てを見透かしたような奇麗な瞳で見つめ続けていた。

「……え?ち、違うよ!この震えは、その、武者震いって奴だから!」

ロアにだけ聞こえる龍の声に、ロアは一人で身振り手振り大きな動作で話し続けていると、突如ロアは右肩を叩かれた。

「うわっ!?……って、愁さん!驚かさないでくださいよ……!」

「ご、ごめん。声はかけたんだけど、またマルスと話してたのかい?」

声を掛けられた事にも気付かないとは、余程緊張しているのだろう、だからこそ愁は少しでもロアと会話して緊張を和らげたかった。

「はい、マルスが僕の事をずっと心配してて。気持ちは嬉しいけど、僕はもう逃げませんから!」

「そう……でも、無理はしちゃだめだよ。時には逃げる事も重要なんだ、闇雲に戦ってばかりじゃいけない」

「は、はい。わかりました……」

愁の言葉に重みを感じロアは真剣な面持ちで頷き理解すると、突如左肩を叩かれ再び声をあげてしまう。

「わわわっ!?って、今度は羅威さんですか!?はぁ……」

また驚いてしまった。頼りなく、恥ずかしい所を2度も愁と龍に見られてしまい軽く落ち込んでしまうが、羅威には何がなんだか分からず首を傾げていた。

「なんだ?声はかけたつもりだが……まぁいい。二人とも行くぞ」

「うん、わかった」

「はい!ぼ、僕頑張ります!」

ロアが頑張ると言ったのには意味がある、EDP開始日までにはまだ少しだけ日にちがあり、それまでの間羅威もロアの機体の操縦訓練、つまり模擬戦に協力してくれることになった。

「っと、愁。神楽には模擬戦の事話してあるんだろうな?模擬戦後にしてもらうはずの機体調整と整備、ロアの乗る機体はあいつにしか出来ないんだろう?」

「それなんだけど、何度電話しても全然連絡がつかないんだ。甲斐斗さんが側にいるから大丈夫だと思うけど……」

「そうか。まぁ、模擬戦は問題なく出来るから構わないか。後で知らせておけよ」

「了解。忘れずに言っておくね」

それから三人の模擬戦が始まり、後に菊もその模擬戦に混ぜてもらう事となる。

菊の乗る4本の腕を持つ機体『ムラギナ』の前に、ロアは手も足も出せず惨敗する事となるが、それは相手が愁だろうと羅威だろうと同じ事。

正直自信を失いかけそうにもなったが、回りの熱心な指導のお陰でロアは機体の操縦、そしてSRC機能を用いた戦い方を丸一日かけて身につけていった。

何時間もの特訓が続き、模擬戦が終わった頃には既に日が暮れており。ロア達は各自休息の為部屋に戻る事となったが、結局その日は愁の元に神楽から連絡が来る事はなかった。


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