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第14話 死、不安

 全ての防衛装置が作動し防護壁が降りている基地の中、彩野達は司令室に取り残されていた。

 現在の状況を確認していると基地内にERRORが侵入している事がわかる、兵士達は皆武器を取り出しERRORとの戦闘に備えている。

 彩野にも武器が渡されたが、その銃はとても大きく小柄な彼女にとっては余りにも重すぎた。

 そんな銃を抱きかかえるようにして持っていると、何人かの兵士達が防護壁を開けようとしている。

「何をしている! 防護壁を開けたら奴等が入ってくるかもしれないだろ!?」

「しかしここにいても危険だ。早く避難した方がいい」

 次第に兵士達が混乱しているのが彩野にもわかった、皆怖いのだ。

「ここで助けを待った方が安全だろ!? すぐに仲間が助けに来てくれる!」

 多くの兵士がそれに賛同した。しかし彩野は不安で仕方ない、ここにいると何故だか生きている心地がしなかった。

「……わかった、それじゃあ俺だけ外に出してくれ。その後この防護壁をまた閉めるといい」

 兵士はそういうと、一人で防護壁を開けようと機械に触る。

 だがその時だった、司令室の天井から何か物が壊されたかのような轟音が聞こえてくる。

 その音はしだいに増していき、音は大きくなっていく。

「す、すぐ上にいやがる! 撃て! 撃てええっ!」

 兵士達は一斉に銃口を天井に向けて発砲し、途端に司令室は銃声とERRORの奇声が響き渡る。

 そして数人の兵士はシャッターを開けに掛かっている兵士に声をかけた。

「早くシャッターを開けてくれ! 早く!」

「もう少しだっ……!」

 だがERRORは待ってはくれない。

 遂に天井に穴が開きERROR、Person態が降りてくる。

 長い舌が一瞬にして兵士の首を巻かれると唾液に含まれる強酸で溶かし、一瞬で兵士の首が上が消されてしまう。

「きゃぁああああああ!!」

 それを見ていた女性兵士は悲鳴か奇声か分からないほどに叫び混乱していく。

 だがその声はすぐに途切れた、もう声が出したくても出せないのだろう。

 後ろに現れたPerson態の舌が女性兵士の胸を貫く。その衝動で女性の口から血が溢れ出しもがき苦しむ。

 成す術も無くPerson態に食べられ、強靭なアゴで骨もろとも噛み砕かれていく。

 その人間が噛み砕かれる音は彩野の耳にも届いた。

 目に涙を浮かべている彩野の足はすくみ、一歩も動けずにその地獄のような光景をただ見つめている。

「開いたぞ! 早く皆逃げるんだ!!」

 逃げる……、その一言が彩野を走らせた。

 司令室に残りの兵士達が開いたばかりの位置口に走りこむ。

『─ERROR─』

 開いたばかりのシャッターが上からゆっくりと降り、閉じようとしていた。

 彩野は何とか間に合い、司令室から出る事が出来たが。

 数名の兵士は司令室に降りてくるPerson態と戦っていたままだった。

 だが、閉じていくシャッターに気づき、何人もの兵士が司令室から出ようと走った。

 既にシャッターは半分以上降りてきている状態。

 兵士達は諦めず司令室に留まっていた数名の兵士が司令室から脱出する事に成功し、最後の兵士が勢い良く頭から飛び込み、そのまま滑るようにシャッターを潜り抜けようとした。

 しかし次の瞬間、兵士の体は後ろに引っ張られ、下りてくる防護壁の下にまで体を引きずられる。

 兵士の足にはPerson態の舌が巻きついており、兵士は最後まで生き延びようと手を彩野達に伸ばす。

 彩野も手を伸ばそうとしたが、無常にも降りてきた防護壁によって兵士の体を簡単に切断した。

「う、ああ……あ……」

 目の前の光景に言葉が出ない。

 さっきまで話していた人、動いていた人、生きていた人。

 笑っていた人が次々に死んでいく光景を見せられている。

「君!大丈夫かっ!?」

 司令室から抜け出た一人の兵士が彩野の肩を揺さぶるが、彩野は目を見開いたまま立ち上がれない。

 座り込んだまま体を切断された兵士から視線を逸らせず、床に広がる血を見ていた。

「ここで死んでもいいのかっ!? 逃げるぞ!」

「えっ…あ……」

「ちっ、しょうがない。俺が背負って……」

 その時、兵士の首に何かが当たる感覚がしたが、熱さと痛みを感じる前に引き千切られる。

 兵士の首は簡単に落ち、ゴロゴロと廊下を転がっていく

 体はその場に倒れ血飛沫が上がり、天井から垂れ下がるPerson態の舌は天井を溶かしていた。

「嫌ぁっ……! 嫌ぁああああ!!」

 彩野はその場に銃を投げ捨てると一目散に走り出す。

 誰もいない廊下を一人走り続ける彩野、通路に反響してくる仲間の悲鳴や銃声が嫌でも耳に入ってくる。

「先輩! 羅威先輩ぃ! 助けてください! 助けてくださいっ!」

 涙をポロポロと零しながら生きる為に逃げ続ける。

 天井からは不気味に這いずり回る音が、そして自分の後ろから何者かの足音が聞こえてくる。

「あっ!」

 勢い良く転んでしまい、必死に立ち上がろうとするが足首に激痛が走る。

 そして後ろから来ていた足音が自分の後ろで止まった。

「彩ちゃん待ってよ! 走るの早いんだから……!」

「えっ?」

 彩野が振り返ると、そこには機関銃を片手に息を切らしているアリスの姿があった。

「アリスさん!? どうしてこんな所に……」

「薬品を取りに基地の中に戻ってきたの、そしたら防護壁が下りて逃げられなくなっちゃって……」

「彩ちゃんが走る姿が見えたから後を追いかけたの、さぁ早く。一緒に逃げましょう」

 アリスが倒れている彩野に手を指し伸ばし、彩野もまた手を伸ばそうとする。

 だが気づいてしまった。天井から垂れ下がるPerson態の舌が、アリスの首目掛けて向かっていることに。

「アリスさん危ない!」

「えっ?」

 それは簡単に飛ばされた。

 飛び散る血、そして床に落ちる舌。

「これぞまさに危機一髪って奴だな」

 そこにはご自慢の黒い大剣を握り締めた男、甲斐斗が通路に立っており、剣先をそのまま天井に突き刺しPerson態の息の根を止めていた。

「あ、貴方は医務室にいた……」

「お前はたしか俺を助けてくれた女か。運が良いぜお二人さん。ミシェルを助けに来たついでに恩返しをさせてもらおうか」

 その後、甲斐斗はミシェルを助けた後、襲い掛かるPerson態を大剣一本で殺しながら通路を突き進み、基地内に突っ込み止めていた自分の機体に乗り込んだのだ。



 そして強引にも機体を発進させ基地の壁を突き破り脱出したのだ。

 丁度その時羅威が見たのが基地にへばり付いているPerson態もろとも吹き飛ばし、基地の中から一機の機体が姿を見せた光景だった。

「我雲!……いや、違う!?」

 それは機体と言えるのだろうか、それは『生命体』と言っても過言ではない。

 機体は赤く鋭い眼光で羅威の乗る我雲を見ている。

「何だ、こいつはっ……」

 すると、前方に見える機体から通信が入る。

 映像には甲斐斗と彩野、そしてミシェルにアリスの姿があった。

「先輩? 先輩ですか!?」

「彩野!? 無事だったか! し、しかし、どうしてそんな物に乗っている」

 未確認の機体からの通信、そこには彩野の姿が映っており、すぐさま羅威が反応するが、その疑問に答えたのは彩野ではなく甲斐斗だった。

「俺が助けてやったんだよ! って、ちょ、勝手に出てくるなっての! 四人乗ってるんだから狭いんだよ!」

 操縦席には四人の人間が入っている為に窮屈になっており、ミシェルが甲斐斗の膝に座っているから良いものを、この状態では甲斐斗も思うように機体を操縦できない。

「お前、医務室にいたあの男か?」

「ん? ああそうだ。詳しい話は後にしてくれ。今はここから逃げるぞ」

「わかった、後でゆっくりと話しを聞かせてもらう」

「話が分かる奴でよかったよ。んじゃ逃げるとするか」

 羅威の乗る我雲は両腰に着いているグレネードを全て外すと、Person態の群れに投げ込む。

 Person態が吹き飛ばされた隙を狙い、一度地面に着地する二体の機体。

 そしてまた勢い良く跳び上がりPerson態の群れから離れると、無事脱出する事に成功した。



 こうしてBNと甲斐斗は別の基地に無事移る事が出来たが、突如甲斐斗の乗る機体の中で彩野は気を失ってしまった。

 そのまますぐに医務室へと運ばれたが現在も意識不明のまま目を覚まさない。

「彩野の状態はどうなんだ?」

 病室の前の通路の壁にもたれ掛かり、腕を組みながら羅威は目を瞑っていた。

「少しショック状態が強いみたいなの、今はまだ安静にしてないとだめだって」

 アリスは悲しげな表情で病室の前にある長い椅子に座っていた。

「無理もないよ、人が殺されるのを目の当たりにしたんだから……」

「そうか……彩野の事は頼んだぞ。俺はそろそろ行かなければならない」

「うん、わかった」

 壁からそっと離れると、羅威はアリスに背を向けて歩いていった。

 そしてある一室へと入っていく羅威、その部屋には既に穿真や愁の姿があった。

 奥には紳やセーシュ、そしてダンとエリルの姿も見える。

「愁、お前は大丈夫か?」

 羅威が声をかけてみるものの少し元気が無いようにも見える。

「俺は……大丈夫だから」

 それとは対照的にいつも元気な穿真、こんな状況下でも笑っていられるのは彼だけかもしれない。

「全然大丈夫そうに見えねえけどなぁ、元気出せよ!」

 そう言って愁の背中を数回叩くと、愁は本気で痛がり穿真から少し離れる。

「い、痛いよ穿真! 骨折れるって!」

「あ? ああー。俺の右手サイボーグだったの忘れてたわ」

「少しは手加減してよ、痛たた……」

 その時、扉が開かれると彩野達を助けたあの男である甲斐斗が部屋の中に入ってきた。



「俺の名前は甲斐斗。さて、質問があるなら何でもいってくれ」

 どうせ質問攻めにあうと思っていた甲斐斗は名前を言った後近くにあった椅子に座り足を組む。

 それを聞いて一番最初に声をかけたのはセーシュだった

「お前、もしかしてカイト・アステルではないのか?」

「セーシュさん、カイト・アステルって?」

 セーシュの言葉を聞いて愁がそう問いかける。

「捕虜にしていた兵士だ、彼とよく似ていたからな」

「今その兵士は何処に?」

「何者かが牢屋の鍵を開けたのかわからんが、扉が開いていてな、既に逃げられている」

 その二人の会話を聞いた後、甲斐斗は手を横に振ると自分がアステルではないと言い張る。

「言っておくが俺はアステルじゃないからな」

 それを聞いてセーシュは更に質問を続けた。

「甲斐斗、お前何故あの基地にいたんだ?」

「いた? 俺が森で倒れている所をお前達が助けてくれたんだろ?」

 その言葉にセーシュは反応に困った、甲斐斗が助けられた話などセーシュは知らず、鋭い目つきで愁達に視線を向ける。

「そうそう、愁って言ったっけ。そいつに助けてもらったよ」

 静まりかえる室内、誰一人声を出さない。

 重く暗い沈黙が続いていくような気がした、一人の男が声を上げた。

「魅剣、何故黙っていた」

 それは若くしてBNの総司令官である、風霧紳だった。

 紳は座ったまま、視線だけを愁に向け返答を待つが、愁はたじろいだまま思うように話せない。

「えっ、あ…その……」

「お前のその判断力の無さが数百名の兵士を死なせた。お前が殺した」

「お、俺はそんな、何もしてません!」

「あの時間帯、そして数、種類、そしてERRORが直接基地に攻め込んできた事。こんな事は初めてだ、魅剣。お前は何故だと思う」

「……わかりません」

「教えてやろう、それはこの男が基地にいたからだ」

 その言葉に皆が驚きを見せる、その中で一番驚いていたのは言うまでもなく甲斐斗だった。

「おいおい! それじゃあ俺がその基地にいたからERRORが攻めてきたって言いたいのか!?」

「そうだ」

「はあ!? 何だよその自信。冗談じゃねえぞ、そんな理由で全部俺の責任にするつもりか? 大体お前等が勝手に俺を基地に運んだんだろ!」

 納得のいかない甲斐斗が立ち上がり紳に向かって反論すると、紳は視線を甲斐斗から逸らしまた愁の方に向けた。

「そうだ、だからお前に責任は無い……魅剣」

「は、はい!」

 名前を呼ばれた事に過剰に反応を見せる愁。

「お前はこの部屋から出て行け、自室で待機していろ」

「え……はい、わかりました……」

 自分が座っていた席を下に戻した後敬礼を済ませ、部屋から出て行ってしまう。

「セーシュ、俺は少し用がある。後は任せた」

 そう言うと紳もまた一人部屋から出て行ってしまう。

「……甲斐斗、質問を続ける。お前は何故あの森にいた」

 小さく咳払いをした後、セーシュはまた質問を再開する。

 この時、正直甲斐斗はこれ以上話をややこしくする訳にはいかないと思った。

『実は俺、他の世界から来た魔法使いなんだ』。等といっても絶対に信じてもらえるはずが無いだろう。

「実はあまり憶えていない」

「憶えていない?」

「わからない、思い出せないんだよ。俺が何故こんな怪我をしているのかも、どうして森にいたのかも。憶えていない」

 とりあえず知らない、分からないでこの場を凌ごうと言ってみたものの、こんな事普通は信用してくれない。

「そうか、わかった」

 だがセーシュはあっさりと甲斐斗の言葉を信じると歩き始め甲斐斗に近づいていく、そして甲斐斗の両手を掴むと素早く手錠をかけた。

「へ?」

「身元がわからないんだ、拘束させてもらう。付いて来い」

「え、お、おいっ!?俺は敵じゃないしスパイでもないって!」

 甲斐斗が必死に抵抗しようとしたが両手が止められている以上何もする事が出来ない。

「安心しろ、これは形だけだ。お前には感謝している」

「えっ?」

 耳元で甲斐斗にしか聞こえないよう彼女はそう囁くと、そのまま甲斐斗を連れて部屋から出て行こうとする。

「アリスや彩野も、そしてあそこに座っている羅威もお前に感謝している」

「そ、そうか。それならもう少し優しく……痛たたっ!」

 セーシュは甲斐斗の手錠から下がる紐を掴むとそのまま甲斐斗を連れて部屋から出て行ってしまった。

「ねぇ羅威、穿真。彼の事どう思う?」

 エリルが羅威と穿真の元に駆け寄り、今聞いた事について話してみる。

「面白い奴じゃないか? 別に俺はスパイとか思ってねーけどなぁ」

 穿真はへらへらと笑いながら答えるが、その横に座っている羅威の顔は険しかった。

 紳は彼がERRORを引き寄せたと言っていた。その話は本当なのだろうか。

 それなら何故紳はあれ程までに言い切れたのか、何か自分達が知らない事を知っているのではないか。

 羅威の頭に色々な考えが過ぎる中、エリルが目の前に顔を出してくる。

「ちょっと羅威、聞いてるの?」

「ああ。わかっている。それより愁の所に行ってくる」

 そう言って羅威もまた部屋を後にした。

「本当にわかってるのかしら」

「まぁ愁の事はアイツに任せりゃいいだろ、それよりあの男が連れていた少女がどんな子なのか見にいこーぜ!」

「もー、こんな時に……でもまぁ、たしかに気になるわね。どんな子かしら」

「決まり、んじゃ行くか」

 こうして羅威は愁の元に、エリルと穿真はミシェルの元に向かい始めたが、甲斐斗は相変わらず牢屋に連れて行かれるのであった。


エリル・ミスレイア

BNの女性兵士で唯一専用機に乗っており、無花果は彼女の専用機体。

性格は明るく、元気強い所を見せるが案外寂しがりやな面もある。


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