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第135話 信用、疑問

───カレーを食べて気絶したエラを医務室へと運んだ羅威達。

医務室に入った時はエラの全身からは止め処なく汗が出ており、呼吸も荒々しく息苦しそうにしていたが、ベッドで横になり氷枕を頭の下に置くと先程よりも呼吸が落ち着きはじめていた。

「カレーを食べてこうなったの?」

アリスが腕を組み首を傾げる、まだアリスはエラがERRORであると知らない為カレーを食べただけで気を失うのが不思議でならなかった。

「ああ、まぁ。激辛を食べてな」

辛さは普通なものの一々説明するのも面倒なので羅威はエラの正体を言わず、壁にもたれ掛かりながら眠りについているエラを横目で見つめていた。

「どうせ羅威が無理やり勧めたんでしょ?いっつもなんだから」

以前アリスも羅威にカレーを勧められた経験が有り、彼女もまたその一人なんだろうと想像がつく。

アリスはタオルを固く絞りエラの額の汗を優しく拭き取ると、気持ち良さそうに眠っているエラの顔をじっと見つめていた。

「綺麗な人……NFの人みたいだけど、羅威のお友達?」

「いや、俺じゃなくて愁の知り合いさ」

「そっか、愁の……あっ!もしかして愁に会ったの!?」

アリスは愁の名前を聞いた途端驚きながら羅威の方に振り向くと、羅威は親指を立て部屋の扉に向けた。

「この基地に来て直ぐにな。ちなみに今部屋の前にいるぞ」

その言葉を聞きアリスが直ぐに部屋の扉を開けて通路に出てみると、突然出てきた事に驚いた愁とロアがびっくりした表情のままアリスと目が合ってしまう。

「愁!」

「お久しぶりですアリスさん……」

愁はアリスと会うのにまだ少し抵抗があった為、アリスのいる医務室に入れず部屋の前で羅威を待っていた訳だが、これも愁の取り越し苦労に終わる。

アリスが愁を憎む理由もなければ恨む目的もない。久しぶりに出会えた愁を見てアリスは嬉しそうに微笑んだ。

羅威と共に行動しているという事は愁と羅威が仲直りした事も直ぐに理解できた為、アリスは安心して愁の両手を掴むと力強く握り締める。

「ずっと心配してたんだよっ!でも、今の愁を見たら安心しちゃった。羅威とは仲直りできたんだね」

今の愁は前のような殺伐とした表情はしておらず、随分前に、共にBNで行動していた時と同じ表情を見せる愁にアリスは心の中でほっと胸を撫で下ろしていた。

「うん、俺はまた羅威に救われたんだ。これからは共に行動しようと思ってるよ」

「うんうん!絶対それが良いよ、羅威と愁は幼馴染でパートナーみたいなもんだもん!ね、羅威」

嬉しそうに羅威の方を見ると、医務室にいた羅威も通路に出てきて愁と目を合わせた。

「まあな。所で愁、エラはまだ気を失っているが体調は心配ないそうだぞ。汗も引いてきている」

「良かった……まさかエラさんがカレーを食べて倒れるなんて思ってもいなかったからね」

「それは俺も同感だ。辛いものが苦手なら最初から言ってくれれば良かったんだがな」

恐らく苦手と言っても甘口カレーを食べさせるに違いない羅威だが、愁は苦笑いしながら受け答えしていると、ロアが何かを思い出したかのように声をあげた。

「あ!すいません愁さん、先程のカレーをマルスにも食べさせてあげてもいいですか!?あの美味しい料理を是非食べてもらいたいんです!」

あの感動をマルスにも味わってもらいたいと思いロアは目を活き活きさせて愁の方を見つめると、愁はそれに答えるように頷いてくれた。

「マルス……たしかロアと一緒にいる龍だよね。うん、勿論良いよ。でもエラさんを一人にする訳にはいないから羅威と───」

流石にエラをアリスと二人きりにさせる訳にもいかない為、愁が医務室に残ろうとしたものの、羅威が手を軽く上げると愁の言葉を遮った。

「いや、俺はアリスと少し話しがあるんだ。それにエラが倒れたのは俺の責任でもある、様子も俺が見ておくから二人で行ってきてくれ」

「ほんとですか!?ありがとうございます、行きましょう愁さん!」

「うん、行こうか。羅威、マルスにカレーを食べてもらったらすぐ戻ってくるから、それと……」

愁は羅威に近づくとアリスに聞かれないような小声で囁いた。

「エラさんが起きても心配しないで、時々不思議な事を言うけど悪い人じゃないから安心していいからね」

耳元で囁かれた内容、そして愁が彼女の事を『人』と言っているのを聞いて羅威は微かに頷いた。

「分かった。お前の言葉を信じるよ」

「ありがとう!それじゃ、行ってくるね」

軽くを手を振った後、愁とロアの二人は羅威と別れもう一度食堂に向かった。

二人を見送った羅威とアリスは再び医務室に戻ると、先程のような明るい表情が一変して羅威は真剣な顔つきになり、アリスの方を向いて口を開いた。

「アリス、『NNP』についての話だが……」

「私、羅威と一緒に行くからね」

結局アリスは羅威の説得に応じる事はなかった。

香澄、雪音、ユニカの三人が『NNP』に選ばれ、人類最後の避難所に移る事が決定していたが、実はこの『NNP』参加者にはアリスも含まれていた。

しかしアリスはこれを拒否、自ら最後のEDPに行く事を決め、既に『NNP』のIDカードを軍に返却していた。

それを知った羅威は直ぐにアリスと会い話し合ったものの、アリスが『NNP』のIDカードを受け取る事はなかった。

「……俺だってお前と離れたくない。だが、俺達がこれから行く戦場は人類の歴史において最も危険な場所だ。そんな所にお前を連れて行きたくない」

それに大切な人が安全な場所にいてくれた方が羅威も気持ちが楽になり戦いやすかった。

万が一艦がERRORによって破壊されるような事態になれば……それだけではない、自分が死んだ場合、人類が敗北した場合、それは地上に残る人類の死が確定する瞬間である。

アリスは羅威に背を向けたままじっと話しを聞いていたが、ふと後ろに振り向くとそのまま羅威の胸にもたれ掛かるように寄り添った。

「羅威と一緒にいられるなら私何処でもいいの。戦場が危険な事は十分に分かってるよ、でも、私が怖いのは羅威と離れ離れになることだけだから……」

「アリス……」

その思いを聞き羅威は優しく抱き締めると、アリスは徐に顔を上げ羅威と目を合わせる。

そして目を瞑りゆっくり顔を近づけていくと、羅威もまた目を瞑りアリスと口付けを交わした。

互いに舌を絡ませ、その温かく気持ち良い感触を堪能し続ける。

もう、これが最後になるかもしれない───その切なさに二人は無意識に手を合わし指を絡ませ、更に体を密着させていく。

その時、ふと羅威は瞑っていた目を開けてしまう。

理由は何か視線のようなものを感じた為だった、そしてその予想は的中していた。

医務室の奥で眠っていたはずのエラが体を起こし、ぼんやりとした表情でじっと羅威を見つめていたのだ。

エラと羅威、互いの目が合うものの羅威は表情一つ変えずエラを見つめ続け、エラもまた羅威の瞳をじっと見つめたまま視線を外そうとしない。

「ずっと、一緒にいてね……」

「ああ、ずっとな……」

アリスの言葉に羅威はそう言ってアリスと目を合わせる、そしてエラの事が気になりふと視線をベッドに向けたが、その時には既にエラは先程のように眠っており、起き上がることはなかった。



───「ダン、こんな所で何をしている」

唯がBNの艦に戻ってくるのが遅い為、紳は一人神楽の部屋の前まで来てみると、その部屋の扉の左にはダンが煙草を吹かしており、右には甲斐斗が胡坐を掻いて俯いていた。

「何って見りゃ分かる事だろう、煙草を吸ってるのさ」

紳が来ても何一つ動じず煙草を吸い続けるが、紳が腰に付けてある愛用のサーベルと、魔石と言われているあの双剣も腰に付けているのを見ると、銜えていた煙草を携帯灰皿の中に入れた。

「役に立つ話は何も聞けなかった、とりあえず魔法は不可能を可能にする力なんだとさ」

「なんだその下らん話は。もっと実用的なことは聞けなかったのか?風の力を利用する為に急がなければEDPに間に合わなくなるぞ」

もっと役に立つ重要な話しを期待していた紳はダンの言葉に疑問が浮かぶものの、直接唯から話しを聞こうと部屋に入ろうとしたが、ふと扉の横に座っている煙草を加えた甲斐斗が声をあげた。

「うるせーよ魔法初心者野郎が。その双剣の力も満足に発揮できてない癖に魔法使い気取りか?」

まるでコンビニの前に屯するチンピラかのような甲斐斗の視線と目つき。

正直何の情報も聞き出せていないとなると甲斐斗と会話する理由もない為無視する事も出来たが、一応自称最強の魔法使いの為少しだけ会話してみる事にした。

「気取るつもりはない。ちなみにお前はこの双剣を利用して魔法が使えるか?」

「使えたら苦労してねえよ。それより何でお前が魔法を使えるのかが不思議で仕方ない、その双剣は昔からあったものなんだよな?」

「そうだ。最後のEDPに向けてこの家宝を持参しようと思ってな、まさか魔法とやらが使えるとは思ってもいなかったが」

「風の魔法が使える双剣、か。……既に魔法を使ったのなら分かってると思うけど、生身の人間がこの世界で魔法を使えば何れ死ぬぞ」

「理解している。だからこそこの力を有効活用させる為に情報を求めている訳だが、お前は何か知らないか?」

紳は魔法について聞くだけ聞いてみた、ここで何かしらの情報を聞き出すことが出来ればまた一歩魔法について近づく事が出来る。

後は甲斐斗が役に立つ話さえしてくれればいいのだが、余り期待はしていなかった。

「一つだけ有ると言えば有る」

「ほう……」

予想外の返事に紳は興味深そうに甲斐斗を見ると、甲斐斗は銜えていた煙草を摘み軽く煙を吐いた後言葉を続けた。

「思え願え祈れ。お前は馬鹿にするかもしれねえが、人の感情、意思、心こそが魔法の原点だ。ぶっつけ本番に死ぬ気でやってみろや」

その甲斐斗の言葉を聞いて紳は黙ったまま甲斐斗を見つめていたが、言葉の本当の意味を理解した途端軽く笑いが込み上げてきた。

「……ふっ、結局は自分次第というわけか。面白い、信じてみるとしよう」

紳の言葉に甲斐斗も軽く笑って見せると、視線を紳から逸らし前を見つめながら再び煙草を加えた。

神を嫌う甲斐斗が、神を嫌う紳にこんな事を言ったのには意味があった。

何を思い、何を願い、誰に祈る。それは決して神頼みという訳ではない。

魔法を使うのに必要な物は魔力や知識だけではない、己の可能性を信じ、魔法を強く願う事が大切な事だった。

「そこに気づけりゃ案外うまくいくんじゃねえの?ERRORの技術力を参考にでもするのが一番確実なのかもしれねえけどな……ま、技術とかそっちに関しては神楽から聞いたほうが良いけどな」

「そうさせてもらう」

それを最後に紳は部屋の扉を開けて神楽の部屋に入っていく。

紳が部屋に入った後も相変わらずダンと甲斐斗は煙草を吸っていたが、ふと甲斐斗がダンの方を向いた。

「……おっさん、紳に言わなくて良かったのか?唯が料理してるって事」

「なぁに、お前さんこそ知ってて言わなかったんだろう?」

「まあな、ポーカーフェイス野郎の苦しむ姿を前から見たかったんだよ」

いつも冷徹であり冷静な紳がもしあの料理を食べたらどうなるのか、二人の素朴な疑問は言葉を交わさずとも実現しようとしていた。

「他人の不幸は蜜の味って奴だ、へへへ」

今頃試作料理の味見でもされているのだろうと思うと自然と笑みが零れる、そんな甲斐斗を見てダンは再び煙草を摘むと、視線を戻し大きく煙を吐いた。

「だが甘い蜜を味わうのも程々にしといたほうがいい、虫歯になっちまうぜ」

「……ちょいちょい鋭い所衝いてくるよな」

「そりゃどうも」

「一応言っとくけど褒めてないからな」

サングラスをかけ堅苦しいおっさんなのかと思っていた甲斐斗だったが、話してみると意外と喋ってくれるので暇潰しには最適だが、それと同時に何故あの無口で真面目な紳がダンを傭兵として雇い更に側近にしているの不思議でならなかった。

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