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第132話 興奮、期待

───「なるほど!羅威さんは愁さんの昔からの親友なんですね!」

愁達4人がBNの艦内にある食堂に向かっている最中、ロアは隣で歩いている羅威と喋り続けていた。

自分が目標にしている人物、魅剣愁。その親友の羅威の事を知りたいと思いロアはとても嬉しそうにしている。

「まあな。そういえば、お前は愁にDシリーズの操縦訓練の指導を受けてるみたいだな」

「はい!最初は歩くことすら苦労していましたけど、愁さんが優しく教えてくれるので僕でも少しずつですけど動かせるようになってきました!」

本当に愁の事を信頼しているのだろう、ロアの表情と言葉を聞けばどれだけ愁が慕われているかがよく分かる。

それを聞いて羅威は軽く笑みを零すと、軽く後ろに振り向き自分の後ろを歩く愁と目を合わせた。

「全く、お前はもう人に教える立場になったのか」

「そんなことないって。俺も機体の扱いには多少自信はあるけど紳さんや甲斐斗さん程じゃないからね。それに機体の操縦方法についてはロアから頼まれただけさ」

頼まれただけと軽く言った愁。たしかに最初はそれ程乗り気でもなかった。

無理もない。機体の操縦方法を教えるということは、後に世界の為に一人の少年を地獄のような戦場に立たせる事になるのだから。

しかし、ロアの本音……自分を変えたいという素直な心と態度を見て、今では愁も逞しくなってほしいと心の底から思っている。

ロアの成長をこれからも見届けたい。

自分を変えようと一生懸命頑張り生きるロアの姿に少し自分を重ねてしまう時もある、自分がもう少し早く変われていれば、羅威との仲も早く取り戻せていたかもしれない。

……そんな感情を抱いても、今の自分に後悔はしていなかった。

だが、これからは自分も常に変わり続けたいと思っている。ロアから見れば愁は自分を変えてくれた存在なのかもしれないが、愁もロアとの出会いで心に変化が起きていた。

「僕の為に熱心に教えてくれる愁さんにとても感謝してます!」

「それは俺もだよ、ありがとう」

無邪気な笑みを見せながらロアがそ言うと、愁も微笑みながら言葉を返した。

そしてその数分後、4人は艦内の食堂に着き、ロアは始めてみる食堂の光景に興味津々の様子だ。

食堂の入り口付近には今日のメニューが飾られており、どれも美味しそうな料理にロアは何を頼もうか嬉しそうに悩んでいると、それを見ていた羅威はロアの肩に手を置いた後、ゆっくりと引っ張りながら食堂へと入っていく。

「安心しろ、俺がオススメの料理を教えてやる」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

羅威はニヤリと笑みを見せ、ロアもいったいどんな料理を食べさせてくれるのか期待しているが、愁から見ればそれは誘導であり強制にも思えてしまう。

羅威と食堂に来た時点で既に何を食べるのか……いや、食べさせられるのかなど確定している。

二人が食堂に入るのを見て愁も食堂に入ろうとした時、ふと食堂内にいる大勢のBNの兵士達の姿が見えた。

すると愁は急に足を止めてしまい、後ろに続いていたエラも足を止めると、数秒程して愁が無言で後ろに振り返り一人食堂から離れていこうとする。

「待て」

その様子を見ていたエラは愁の左腕を掴むと、それでも離れようと力を加える愁に対し疑問を口にしてみた。

「人間、お前が食事という行為に誘ったのだろう?何処に行くつもりだ」

「……すいませんエラさん。食事は羅威達としていてください」

そう言って強引に腕を振り解こうとするものの、エラはしっかりと腕を握り締めており、尚且つ人間離れした怪力を持っている為決して放してはくれない。

それで観念したのか、愁は軽く肩を下とすと腕の力を抜いて無抵抗になる。

「分かりました。理由を話しますからその手を放してください」

それを聞いてエラは手を放すと、愁は先程まで羅威達と会話をしていた表情とは一変し、不安な様子でエラではなく食堂にいるBNの兵士達を見つめていた。

「俺はSVに来て嘗ての仲間を何人も殺してきました。それを紳さんやエリルさん、そして羅威は許してくれました。けど、きっとBNには俺を憎んでいる人がまだいるはずです」

罪は一生消えない。その言葉が常に愁の心に深く突き刺さっている。

自分が犯してきた罪を一生背負っていく覚悟はあるとたしかに愁は言った時があったが、この場に自分が現れる事によってBNの兵士達がどのような反応をするのか不安になってしまう。

良い結果など想像できない、きっとある者には蔑んだ視線を送られ、ある者には殴りかかられるかもしれない。

その場で銃を抜かれ撃ち殺されても……愁には何も言えなかった。

「無理もないです。むしろそれが普通かもしれません、皆が皆、人の罪を許すことなんて出来ませんからね……。紳さんに会えて、羅威と仲直りできて本当に良かった、それだけで俺の心は少し救われた気が───」

頬に感じる強い衝撃。

一瞬、愁は何をされたのか理解できなかったが、目の前に立っているエラが自分の頬を軽く叩いたのだと熱い痛みが伝わってきてようやく理解できた。

「……ん?」

きょとんとした表情でエラはゆっくりと自分の右手を見つめ、そして愁の顔に目を向ける。

「何故私は今、お前を叩いたんだ……?」

叩いた当の本人が叩いた理由が分からず首を傾げて深く混乱していると、愁は大きく深呼吸をした後、エラの手を引いて食堂へと入っていった。

「エラさんなら近い内にきっと分かりますよ、それより今は昼食を食べましょう!」

先程までの愁の態度とは打って変わった様子に更にエラが困惑していると、二人が来るのが遅いのを心配して羅威が様子を見にきていた。

「遅いと思って来てみたが……愁、お前はまた一人で何か悩んでいたのか?」

鋭く、そして的確な言葉に愁も動揺が隠せずどうやら羅威の前では誤魔化しは通用しないらしい。

「うっ、さすが羅威だね……俺の事はなんでもお見通しみたい。でも大丈夫だよ、うじうじとしていた俺にエラさんが気合を入れてくれたからね」

そう言って振り返った愁だが、未だにエラは混乱しており余り愁の言葉が耳に入っていない様子だった。

「気合を?そうか、まぁお前が大丈夫ならそれで良い。そうそう、お前の分もちゃんと頼んでおいたからな、腹を空かしてロアが待ってるから早く行くぞ」

「うん!」


───食堂のテーブルに着いた4人の前に並べられた四つのカレーライス。

期待を裏切らない羅威に愁は安心しつつ、ロアとエラは初めて見た料理、カレーをまじまじと見つめている。

「二人ともカレーを食べるのは初めてみたいだね。とっても美味しいから食べてみるといいよ。ね、羅威」

愁の隣に座っている羅威は既に一人で黙々と美味しそうにカレーを食べており、愁の言葉を聞いて軽く頷いていた。

「それでは早速いただきます!」

この料理は絶対に美味しいに決まっている、ロアの中では既に答えが出ていた。

何故ならこの料理の香ばしい匂いに先程から口の中で唾液が溢れ、空腹が更に増していたからだ。

もう我慢できない。ロアはスプーンを手に取り勢い良くカレーを頬張っていく、そしてしっかりと味わうように噛み締めると、自分の予想を遥かに上回る美味に感動した。

こんな美味しい食べ物、今まで食べた事ないです!と、言葉にしたいのは山々だが、余りにカレーが美味し過ぎる為にカレーを食べる手が止まらない。そんなロアを見て羅威も大変満足している様子だ。

エラも美味しそうに食べるロアを見てスプーンを手に取ると、カレーをゆっくりと掬い一口だけ自分の口に入れてみた。

ロアは美味しそうにカレーを食べている為、エラはどのような反応をするのか愁と羅威の視線が集中すると、エラは無表情で淡々とカレーを噛み締めていく。

「あ、あの。エラさん、どうですかカレー、美味しいですか?」

余りに反応がないので愁が心配になって聞いてみると、エラは口の中にあるカレーを飲み込み一人納得した。

「美味しい?……そうか、人間が食事をする理由は生命維持に必要なエネルギーを効率よく吸収する事もあるが、味覚の長けた生物である人間は食べ物の味を楽しむ事も一つの理由らしいな」

そうと分かれば……エラはもう一口カレーを頬張ると、早速今まで自分に存在しなかった『味覚』という機能を追加する。

「ンッ!!!?」

今まで無表情のエラしか見た事がなかった愁。

だが今日、初めてエラの、想像を絶する程の驚く様を見てしまった。

スプーンを握る手が微かに震え……いや、体全体を震わせている。

目が泳ぎ、顔を赤らめ、何かに耐えるかのように俯きながら両手を握り締めている。

額に浮かぶ汗がぽたぽたとカレーに滴り落ちており、そしてふと真っ赤な顔を上げたエラは、涙を流しながらある言葉を口から振り絞った。

「辛い───っ」

それがエラの気を失う前に発した最後の言葉だった。



───「気を失ってるだと……」

神楽の部屋の前に戻ってきていた甲斐斗とミシェル、壁にもたれ掛かりながら床に座っているダンを見て甲斐斗はそう呟いた。

外傷はなく、まるで眠るように意識を失っている、誰の仕業か、犯人は?まさかERRORが……?

理由は一目瞭然だった。

気を失っているダンの右手には箸が、そして左手には白いお皿の上に見た事もない物体が付着していた。

お皿の上に盛られている謎の物体、甲斐斗はその物体に微かに見覚えがあり、そしてその似たような物体を実際に食べた時の記憶を思い出した。

「唯の奴……パワーアップしてやがる……ッ!」

(たしかに料理の練習をすればもっとすごい料理を作れるようになると前に言ったが、別の意味ですごい料理……いや、兵器を完成させやがったな。神楽の奴、いったい何を教えやがった……)

思わず息を呑み込んでしまう甲斐斗。

この惨状を見た以上、神楽の部屋には当分戻るわけにはいかない。

唯に見つかる前に早くこの場から退散したほうがいい、そう思い部屋の入り口から離れていくと、ミシェルには何なのか状況が良く掴めず笑顔で神楽の部屋に入っていってしまう。

「ただいまー!」

レベル5の危険地帯にミシェルを単身で乗り込ませてしまい、甲斐斗は直ぐに部屋に入りミシェルを抱かかえた。

「やばいぞッ!もし見つかったら……!」

「あ、甲斐斗様!おかえりなさいませ!」

目の前にはエプロンを付け、トレーを持った唯が笑顔で立っていた。

恐らくダンが料理を食べた後の食器を回収しようとしたのだろうが、余りにもタイミングが悪すぎた。

「今丁度料理の特訓中です、今日の夕食を楽しみに待っていてください。甲斐斗様の為に美味しい手料理をご馳走しますね!」

眩しい唯の笑顔に甲斐斗は生きた心地がしないものの、抱かかえられているミシェルは嬉しそうに微笑んでいた。

「わーい!わたしもたべたい!」

「勿論ですよ!神様の巫女、ミシェル様にも生まれ変わった私の料理をご馳走しますからね」

被害者……いや、犠牲者が2名確定となった瞬間であった。

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