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第130話 僅かな、可能性

───「魔法を使う方法ねぇ……」

唯の話しを聞いて面倒くさそうに甲斐斗が呟く。

そしてその魔法を使う方法を一番知りたいのが当の甲斐斗本人という事を唯は分かっていない。

「急にどうしたんだよ、魔法が使えるようになりたいのか?言っとくけどこの世界じゃ魔力の回復が制約されててすぐ使えなくなるぞ」

「それでも使えるようにはなるのですね!?」

「いや、まぁ……不可能じゃない、けどなぁ……」

乗り気じゃない甲斐斗とは対称的に唯は興味を示しており、それは甲斐斗の隣にいる神楽も同じだった。

「あら意外ね、魔法って私達にも使えるものなの?」

「んーいや、使えないものと思ってくれ。普通魔法が使える人間は生まれた時からレジスタルが体に宿ってて、それが成長と共に形や大きさが変化して少しずつ使えるようになっていくものなんだけど。この世界の人間はレジスタルが宿ってないから魔力もないし魔法も使えないはずだ」

「でも不可能じゃないんでしょう?」

「不可能じゃないだけで可能とは言ってないだろ。それより理由を聞かせてくれ、どうして今更魔法がどうこう言い出したんだ?」

「え~っと、それはですねー……」

魔法が使いたい理由を鋭く追及する甲斐斗に対し唯は目を逸らすと中々理由を言い出さない。

「『興味があった』っていう理由なら初めて会った時言ってくるはずだしな、どうせ紳から何か聞き出して来いとか言われたんじゃないか?」

「ギクっ!」

どうやら予想的中らしく声に出して驚きを露にした唯に甲斐斗は呆れた様子で見つめている。

「図星かよ。で、何が目的なんだ?」

「たしかに魔法に関してはお兄様からのお願いですけど!甲斐斗様に会いたかったのは本当です!」

この思いに偽りは無い、それを証明するかのように唯は身を乗り出し甲斐斗の目を真っ直ぐ見つめるが、甲斐斗は目を逸らすと少し俯き面倒臭そうにしていた。

「そ、そうか……分かったから訳を話してくれ……」

早く本題に入りたい甲斐斗を察した唯は慌てて椅子座ると、小さく咳払いをした後話し始めた。

「BNの本部では光学電子魔石を利用した兵器の開発を進めていました。甲斐斗様は既にご存知ですよね?」

「ああ、紳から聞いたよ。魔石を利用した機体と兵器だろ?」

「はい、魔石を原動力とした機体エスペランサーと、いってんじゅっそう……いえ、いちげきひっさつ……あれ、名前……なんでしたっけ?」

たしか漢字がごちゃごちゃした名前だったのは覚えていたもののハッキリと名前が思いだせず首を傾げながらダンの方を向いてみる。

「『十点一掃式全滅砲』だ、あと機体名は『エスペランサ』。伸ばさなくていい」

「そうそうそれでした!」

ぱぁっと笑顔を振りまき両手を合わせる唯に対し、会話が一向に進まない甲斐斗は相変わらず呆れた表情で唯を見つめていた。

「その二つと、最後にもう一つ。これは機体でも兵器でもない魔石を使用した武器になります」

魔石を使用した武器と言われても甲斐斗はぼーっと話しを聞いておりイマイチ反応が鈍いが、神楽はその言葉を聞いて咄嗟に反応した。

「魔石を『使用』した武器ですって?貴方、それってもしかして……」

「百聞は一見に如かずです!これをご覧になってください」

そう言うとダンに視線を送り合図を出すと、ダンは上着の内ポケットから見慣れない装置を出し、その装置の電源を入れた。

するとその装置の真上に瞬時に双剣のホログラムが浮かび上がってくる。

「この双剣は風霧家が代々受け継いできた家宝なのですが、この剣から魔石と良く似たエネルギーを発している事が最近になって分かり、現在これを使用した武器を開発中です」

双剣の形をした魔石。初めて見るその魔石に神楽は興味津々にそのホログラム映像を見つめていると、甲斐斗もある事を考えながらその双剣を見つめていた。

(あいつが使ってた双剣に似てるな……だが似てるだけでこれがそうだとは限らないか……)

再び浮き上がる映像には、先程の双剣と良く似た双剣が映っており、それはDシリーズが装備するものだと説明される。

それを聞いていた甲斐斗が直ぐに自分の中に出てきた疑問を唯に聞いてみた。

「なんでこの双剣だけ武器とか兵器の動力源として使わなかったんだ?これを埋め込んだ剣作ってもそれはただの双剣だろ?」

「甲斐斗様の仰る通りこれはただの双剣。ですが、それはお兄様意外の人達が使えばの話しになります」

「なに……?」

風霧紳が使えばただの双剣ではなくなるという話しに甲斐斗はようやく真面目に話しを聞きはじめる。

「その双剣で何が出来た、魔法が使えるのか?」

レジスタルと同じ力を持つ剣を使う事が出来るというのは、つまり魔法が使えるという事なのか。

単刀直入に疑問をぶつけていく甲斐斗に、唯もまたその疑問に答えられるように説明していく。

「魔法なのかどうか私にはよく分かりません。お兄様がこの双剣を振るったら……その、突風が吹きまして……」

その証拠の映像を装置に映させると、実験室のような所で紳が双剣を振るうと、目の前に置いてある人の形をした的が大きく風に揺られたかと思うと的はボロボロに切り裂かれていく。

「甲斐斗様から見てこれは魔法でしょうか?」

「どうみても魔法です。って、なんで紳が魔法使えるんだ?しかもあんな簡単に……」

甲斐斗自信が魔法を使えず苦労しているというのに、こうもあっさり魔法を使われると少し不愉快になってしまうが今はそれ所ではない。

紳が魔法を使える理由は双剣の方にある事には違いないが、恐らく紳自信にも何か訳があるはずだ。

「風が吹いた時紳は何か感じていたか?あとこの力が何回も連続で使用できるのか?魔力の回復は制約されているはずだからな」

「お兄様はただ双剣を振るっただけのようです、特に何も感じなかったみたいですけど何回も剣を振るうとすぐに疲れて突風が出なくなるみたいです」

疲れるだけで体力が回復すればまた使えるようになるらしく、それを聞いて甲斐斗は考え込むように俯いた。

(魔法の使い方も知らんなら制御の仕方も知らねえか、恐らく自動的にセーブがかかるようになってるだろうが……)

「なるほどなぁ、それで魔石で作った武器にその剣を埋め込んで今の力を機体で扱えるようにしたいけど、それが上手くいかないからこの俺の力を借りたいってことだな」

「さすが甲斐斗様!その通りです!」

それ程大した事を言っていないが何故か自信気な甲斐斗に唯は両手を合わせ笑みを浮かべている。

「という訳で是非甲斐斗様に魔法のコツというものを教えていただきたいと───」

「無理だ」

「えっ?」

このままの流れだとてっきり魔法の使い方について色々と教えてくれるものかと唯は思っていたが、甲斐斗の意外な答えに思わず表情が固まってしまう。

「言い方を変えるか。俺がどうこう説明したって魔法のコツを覚えられるものじゃないんだよ、まぁひたすら魔法を発動して練習するのが一番の近道だな」

「そうなんですか?それは残念です……」

「魔法って結構単純で曖昧だからなぁ。力になれなくてすまんな」

肩を落とししょんぼりとしてしまう唯を見て甲斐斗は頭を掻きながら申し訳なさそうに謝るしかできない。

これで話しは終わりかと思っていたが、ふと神楽が甲斐斗に向かってある疑問をぶつけた。

「ねえ甲斐斗、魔法って何なの?」

「お前っ……今それを聞いてくるか」

「ええ、この際だから魔法について少し知っておこうと思ったのよ。それとも貴方の頭じゃ説明しきれないかしら?」

相変わらず挑発的な言い方にも多少慣れてきたものだが甲斐斗も黙ってはいられず渋々話してみることにした。

「魔法を知らないし使えない奴に説明したって分からんだろうが……まぁ俺の知ってる範囲でなら軽く説明してやるよ」

というわけで甲斐斗の魔法についての説明が始まった。

「神楽には前に少しだけ説明したが、魔法が使える人間には『レジスタル』って言う魔力の源、塊みたいなものを持ってる。それを具現化したのがこの世界で機体の動力源とされている石だな。あと俺の剣もそうだ。ちなみにどの魔法使いもこうやってレジスタルを武器にする事が出来るわけじゃねえ。魔法を使える世界にはその世界特有の魔法ってのがあってな……そうそう、魔法は人の強い意思、心に反応して発揮される事が多いが、修行や勉強、練習に特訓を重ねる事でより高度で繊細なことも多種多様に出来る。だが別にそんな努力を一切しなくても魔法が強い奴は強いし、使える奴は簡単に使いこなしてしまう。そこら辺が結構いい加減でな……」

そこまで言うと徐に机の上に置いてあるテレビのリモコンを手に取ると、壁にかけてある薄型の液晶テレビの電源を点けた。

するとテレビには子供向けのアニメが映し出され、そのアニメに映っている女の子が可愛らしく魔法の言葉を唱えると、美味しそうな豪華な料理が一瞬にして現れていく。

「昨日ミシェルが見てたアニメだが、実際にこんな世界も実在するんだよ。他にも色々あるんだぜ、魔法を魔物にぶつけて戦う世界もあれば、魔法で炎や水を生み出す世界だってある。俺みたいに武器を生み出す奴もいれば魔法で肉体を強化もできる奴もいる、空だって飛べるし海だって潜れる、何でもありなんだよ」

まるで夢物語のような甲斐斗の話しに神楽も唯も興味津々に聞いていた。

当然だ、魔法が使えない人達からすれば魔法の存在はとても夢と希望に溢れロマンチックなものに感じるだろう。

「だから魔法っていうのは……『不可能を可能にする力』だと俺は思ってる」

そこで甲斐斗の話しは終わった。魔法の話しを聞いた唯は両手を重ねてうっとりとしており、神楽は何かを考え込んでいるようだ。

「言っとくけど魔法が存在する理由とか知らんからな。人間とか宇宙が存在する理由は何か、って言うのと同じようなもんだし……」

スケールのでかい話しだと甲斐斗自身が思っていると、ふとERRORの存在が脳裏を過った。

全ての世界を滅ぼした存在……たしかにSVはそう言っていた、実際にロアのいた世界もERRORという化け物に滅ぼされている。

(全ての世界を滅ぼす化け物か、ERRORこそ生まれてきた存在理由ってものを知りたいもんだが、あの化け物どうやって数多ある世界を潰してきたのかも気になるな……)

そう容易く無限の数とも言える世界が滅ぼされる事等本当に有り得るのかと、甲斐斗が未だに半信半疑なのも無理はない。

この世界で戦ってきたERRORを見ればたしかに人間の脅威になる力を持つ事は理解できた。

だが、その驚異的な力を遥かに凌駕する人間達の力を甲斐斗は知っている。そしてその力を持つ人間は世界が限りなく無限にあると同様にその人間達も存在するはずだ。

(誰一人、ERRORを止められなかったのか……?それだけERRORが強いのか、それとも……)

「お話はよ~く分かりました!」

甲斐斗があごに手を当て悩んでいると、唯は大きく手を叩きその場に立ち上がった。

余りにも突然立ち上がった事に驚き甲斐斗とミシェルが少し体を揺らしてしまう。

「やはり魔法とはとても素晴らしい神秘の力なのですね!お兄様にもこの話しはしっかり伝えておきます!」

魔法についての話は終わった。神楽は再び赤城のいる隠し部屋の研究所に向かおうとすると、唯がふと神楽の両手を掴んでしまう。

「では神楽様、早速私にお料理を教えてください!」

余程神楽の手料理が美味しかったのだろう、料理を教えてもらう事をしっかり覚えていた唯は早速神楽の手を引いて部屋にあるキッチンへと向かってしまう。

その後ろ姿を見ていた甲斐斗は静かに立ち上がるとミシェルの右手を引いて足早に部屋から出て行ってしまう。

そして一人その場に取り残されてしまったダンもまた、煙草を吸うために神楽の部屋を出ると壁に持たれかかり一服し始めるのであった。


───東部軍事基地の屋上、そこでアビアは一人ぼーっとした表情を浮かべて荒廃した世界を見ていた。

何も考えていない。風はアビアの桃色の髪を靡かせ、無音の空間に一人佇んでいる。

するとその左隣に甲斐斗が立つと、手を握っているミシェルもまた目の前に広がる荒廃した世界を眺めていた。

アビアは甲斐斗の気配に全く気付かなかったものの得に驚いた反応もせず甲斐斗に話しかける。

「どうしたの?」

「それは俺の台詞だ。こんな所でなに一人たそがれてんだよ」

無性にアビアの事が気になり甲斐斗はミシェルを連れて探し回ろうとしていたが、一番初めに来た屋上で意外にも簡単にアビアを見つけてしまう。

特に話したい話題が無いものの、とりあえず甲斐斗はアビアの隣に立っていた。

そのまま二人は無言で佇んでいると、アビアは荒廃した世界を見つめながら寂しそうに甲斐斗の名を呼んだ。

「ねえ、甲斐斗」

「……ん?」

「甲斐斗にとってアビアは……大切?」

唐突にアビアの純粋な気持ちを聞いて、甲斐斗は黙ったまま荒野を見つめていた。

何も言ってくれない甲斐斗を見てアビアは少し俯いてしまうと、ふと自分の右手を握り締めてくれる感触が伝わってきた。

右手に顔を向けるとそこにはミシェルがアビアの右手を握り締めており、優しい表情でアビアを見上げていた。

「わたしにとってアビアちゃんはたいせつなおともだちだよ」

あんなに酷い言葉を沢山かけたというのに、ミシェルはアビアに笑みを見せてくれる。

無意識にミシェルが握り締めてくれる手をアビアも優しく握り締めると、隣に立っていた甲斐斗もまた口を開いた。

「ってことだ。俺が今ここにいる理由を察してくれ」

今の気持ちを言葉にするのが恥ずかしい甲斐斗はそう言って頭を軽く掻くと、アビアは左手を伸ばし甲斐斗の右手を強く握り締めた。

「……ありがと」

甲斐斗とミシェル、二人はこんなにも温かく優しい。

この温もりを手放したくない。アビアは二人の手をぎゅと握り締めながらそう思っているものの、その温かい気持ちは裏腹に冷静に現実を見つめていた。

何時か終わる。どうせ終わる。そしてまた一人になる。幸せな結末なんてない。皆散り散りに、離れ離れに───。

「皆、幸せになれたらいいのにね」

未来は……決まっている。

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