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第129話 縺れ、答え

───「カレーでも食いに行くか?」

羅威と愁は屋上で話しを終えた後、二人で通路を歩いていた羅威の第一声がこれだった。

「えっと、その前に紳さんに会いに行こうと思ってて」

(やっぱり羅威は変わってないなぁ……)

「なら俺もつきあう」

少しばかり無言の時間が続くと、またも先に話しかけてきたのは羅威からだった。

「なあ愁、お前がSVに行く事になった理由は紳から聞いている。だからこそ聞くが……お前、もしかして紳の事を……」

「最初は憎んでた……ううん、紳さんだけじゃない、周りの人達皆を憎んでた……でも、紳さんのせいであの事件が起きた訳じゃないからね。むしろ紳さんは荒れた軍の内部状況を良い方向に変えていってる人だし」

「そうか。それで、お前はこれからどうする?BNに戻ってくるのか?」

「BNには戻らないよ。勿論BNが嫌いだからとかそんな理由じゃないんだ。皆の意思を受け継ぎこの世界を救うまでSVとして戦い続ける、それが皆との約束だからね」

「ふっ、やはりSVで色々とあったみたいだな。以前のお前より大分逞しく見えるよ」

「ありがとう、羅威にそう言ってもらえるとなんだか照れるよ」

その時、ふとすれ違った女性を見て羅威は足を止めると、瞬時に懐に入れてある拳銃を取り出し後ろに振り向いた。

「動くなッ!」

隣にいた愁は最初訳が分からず動揺していたが、羅威が銃を向ける相手を見てようやく理解できた。

赤髪を靡かせる女性は羅威の言葉に足を止めると、ゆっくりと後ろに振り向き口を開いた。

「警戒というのをしなくていい。用件があるなら話を聞こう」

「お前、崩壊したBNの本部にいた女だな?何者だ、答えろ」

「私の名はエラ。お前達が『ERROR』と呼ぶ生命体の一人だ」

「なん、だと……?」

羅威が驚くのも無理はない。NF、SVの人間には既にERRORである女性の存在は知られていたが、EDPに向かっていたBNにはその情報がまだ伝わっていなかった。

「羅威、エラさんはERRORだけど俺達の敵じゃないから安心して」

「敵じゃない?お前は何か知っているのか?」

「う、うん。説明すると長くなるけど……そうだ、紳さんの前で一緒に説明するよ。すいませんエラさん、一緒に俺達と来てくれませんか?その方が話しも伝えやすいですし」

「別に構わない。私がお前達と共に目的地まで進めばいいのだろう?」

「えーっと、そうです。一緒に行きましょう!」

エラに対して全く警戒心が無い愁を見て羅威はゆっくりと拳銃を懐に戻すと、三人で紳のいるBNの戦艦へと向かった。



───自室の研究室に戻ってきた神楽を待っていたのは机に突っ伏し動かない甲斐斗と、そんな甲斐斗を涙目になりながら肩を揺らし続けるミシェルだった。

「かいと!かいとぉ!うわぁぁあん!」

幾ら呼びかけても甲斐斗は動かない、ミシェルは少しパニックになりながらも必死に肩を揺らし続けていると、その様子を見ていた神楽は煙草を銜えつつ冷静な面持ちでミシェルに近づいていく。

「あらあら、どうしたの?」

神楽の声を聞いて初めて神楽が戻ってきた事に気付いたミシェルはすぐに側に駆け寄ると、あたふたしながら必死に状況を伝えようとする。

「かいとが!かいとがくるしいっていって!そ、それでっ!むねつかんで!きゅうに!かいとがぁ!」

危機迫る場面のはずだが神楽は煙草を吹かしながら怯えるミシェルを宥めるように頭を軽く撫でると、銜えていた煙草を指に挟み甲斐斗に近づいていく。

「大丈夫、私はお医者さんなの。任せなさい」

優しくミシェルに言葉を掛け身動き一つしない甲斐斗の背後に回ると、先程まで吸っていた煙草の先端を躊躇い無く甲斐斗の首筋に当てた。

「あぢぢぢぢぢぢ!あっづぁぁッ!?」

肩を揺らしても全く反応を見せなかった甲斐斗だったが、煙草の火を当てられた途端に飛び起きると熱さと痛みで踊るようにもがき苦しんでいる。

「ほら治ったわよ」

神楽はそう言ってミシェルを抱き上げると、涙で塗れた頬を白衣の袖で優しく拭き取っていく。

自分の背中に僅かに入った煙草の灰を取ろうと手を突っ込み慌てふためく甲斐斗の姿など既に眼中には無かった。

「おい神楽!いきなり何しやがる!?」

「そろそろお昼の時間ね、行きましょうかミシェルちゃん。温かいもの作ってあげるわ」

「無視かよ!?」

隠し部屋の研究室を出て神楽の自室に戻っても無視は続く。甲斐斗が何を話しかけても神楽は一切返事をせず、食事は勿論二人分しか作らなかった。

最初はミシェルもどうしていいかわからず不安そうに甲斐斗をちらちらと見ていたが、今では甲斐斗を気にせず美味しそうに昼食を食べている。

「す……すまんかった……」

同じテーブルに座っているものの昼食が用意されなかった甲斐斗がふと呟く、だが神楽は全く相手をする気がなく口の中にある漬物をポリポリと音をたてながら噛み締めていた。

「俺が悪かった!すいませんでしたぁっ!」

甲斐斗が深く頭を下げて謝ると同時に神楽が漬物を飲み込むと、お茶の入った湯呑みを手に取り口を開いた。

「理由は?」

「え?」

「理由よ。どうしてあんなバカな事してたの?バカだから?」

どうせ下らない理由だと思いつつ神楽はお茶を啜りながらどういった経緯で死んだフリなんてしていたのかを聞いてみる。

「いや、なんつーかほら、俺が最初に魔法使えた時ってさ、ERRORに殺された時だなーって思って、それでその……な。ちょっとした冗談のつもりで死んだフリしてただけで……」

「バカだからね」

「はい……でも良い線いってね?」

自分が馬鹿だということは認めつつ、魔法が使えるきっかけが有るということに少し期待をしていると、ふと湯呑を握っていたはずの神楽の手に拳銃が握られその銃口が甲斐斗に向けられた。

「どわぁあああっと!?」

瞬時に机の下に隠れ回避行動を取ると、神楽は構えていた拳銃をテーブルの下に付け直した。

(なんて所に拳銃隠してんだよ……)

「死んだら魔法が使えると思ってるのよね。協力するわよ?」

「いや、いい……」

どうせ死ぬにしても神楽の手で殺されたくない、単純に殺された後自分の死体でよからぬ実験でもされるのかと思うと身震いすらしてしまう。

「はぁ、その空っぽの頭でも少しは考えてみなさいよ。どうして死んだら魔法が使えるの?そもそも死んだら魔法がどうこうの話じゃなくなるでしょ?」

「たしかにそうだけど俺が魔法を使えたのは事実だろ?どうにかして使えるようにならねえかなぁ……」

「仮死状態で魔法が使えるとしてもリスクが高すぎるわね。本当に死んじゃうかもしれないし」

「なあ神楽」

「どうしたの?急に真剣な顔つきになっちゃって」

「お前どうして俺が死んだフリしてるってわかったんだ?」

「そうねぇ、この世界で好き勝手暴れまわった貴方が、気付いたらぽっくり死んでるなんて馬鹿馬鹿しいと思わない?」

「それもそうだな……」

「なーに?心配してほしかったの?ミシェルちゃんを泣かしたのによく言うわねぇ」

「いや別にそういう訳じゃねえけど……ごめんなミシェル、変な悪戯しちまって……」

申し訳なさそうに頭を下げながらミシェルの方に顔を向けるが、ミシェルは甲斐斗を気にせずぱくぱくと美味しそうに昼食を食べている。

(リアルに無視されてる!!?)

別に無視するつもりなどミシェルには無いが、神楽の作ってくれた和食はとても美味しくつい夢中になってしまう程だった。

「本当美味しいですねこれ、貴方がお作りになられたのですか?」

「ええそうよ……ん?」

聞きなれない声に神楽がふと声のする方を向くと、何故か食卓に少女が一人増えている。

「素晴らしいです!是非私にお料理を教えて頂けませんか?」

「構わないけど。貴方どこから入ってきたのかしら?」

「お部屋の入り口が開いていたもので入らせていただきました。一応ノックはしたのですが……」

神楽は最初この少女が誰なのか思いだせず首を傾げていたが、甲斐斗は少女の姿を見てすぐに分かった。

「唯!?どうしてここに!」

「お久しぶりです甲斐斗様!早く会いたくて来てしまいました!」

何時の間に部屋に入ったのか分からないが唯はそう言って満面の笑みで甲斐斗に抱き付くと、頬を摺り寄せ甲斐斗から離れようとしない。

「ちょ、ちょっと待てって!離れろって!」

突如抱き付かれあたふたしながら甲斐斗は優しく唯を引き離そうとするが、唯は一向に離れる気配がない。

すると今度は部屋の入り口から煙草を銜えたダンが入ってくる。

「すまねぇなぁ、うちのお姫様が勝手な事しちまって」

少女の次はおっさん……次から次へと自分の部屋に勝手に入ってくるのを見て神楽は軽く溜め息を吐き呆れてしまう。

とりあえず神楽とミシェルの二人は食事を済ませた後、唯とダンの二人をソファに座らせると、甲斐斗と神楽の二人は向かいのソファに座り話しを聞くことにした。ちなみにミシェルは甲斐斗と神楽に挟まれるように座り食後の紅茶を少しずつちびちびと飲んでいる。

「私は風霧唯と申します。そしてこの方はダン様です、私の護衛をしてくださるとても頼もしい傭兵さんです」

丁寧にお辞儀をして唯は自分と隣に座っているダンの紹介をすると、神楽は咳き込みながら軽く手を前に出し口を開いた。

「けほッ、けほっ!……自己紹介ありがと、話しをする前にちょっといいかしら?」

そう言って神楽は普段自分が煙草を吸う時に使っている灰皿をダンの前に置くと、煙草を指差した後力強く灰皿に指先を向けた。

「今すぐ消して。この部屋は禁煙よ」

「っと、そいつぁすまねえな」

煙草を指摘されたダンはすぐに銜えていた煙草を取ると、急いで煙草の火を消してくれた。

それで話しは済むはずだったが、甲斐斗は不思議そうに神楽を見つめている。

「禁煙?お前いつもここで煙草吸ってるじゃん」

普段どこでも煙草を吸っているはずなのに急に禁煙と言い出したことに甲斐斗は納得がいかない様子だ。

「あのね、私が普段吸ってる煙草はこんな旧式の有害物質の塊じゃないのよ」

神楽が普段吸っている煙草のケースを白衣の胸ポケットから取り出しそれを甲斐斗に手渡してくれると、そこには本来煙草に入っているはずの物質が一つも入っていなかった。

「ニコチン0%だと……なにぃ?無臭タイプの他にミントやハーブの香りがするタイプもあるのか。あ、なるほど。だからお前煙草臭くないのか」

言われてみれば毎日煙草を吸っているにも関わらずあの独特の煙草の匂いがしていない。

それ所かたまに良い匂いがしていたのも思い出し、あれは香水などではなく煙草の匂いだと初めて気付いた。

「今更気付いたの?馬鹿で鈍感なんて救いようがないわね、元々救う気もないけど」

「煙草よりお前の毒舌のほうがよっぽど有害だな……」

「何か言ったかしら?」

「唯、話しを戻すけど俺に用があってここに来たんだろ?早速話してみろよ」

横から感じる鋭い視線を無視しつつ唯に話しを振ると、唯はいきなり手を伸ばし甲斐斗の両手を握り締め目を輝かせながら話しはじめた。

「はい、実は……私に魔法を教えてください!」

「……え?」

最初はただの興味本位で聞いてきたのかと思っていた甲斐斗と神楽だったが、後にこの話しがBNに残された最後の一つである切り札に繋がるものだとは、この時はまだ知らなかった。

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