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第127話 本心、運命

───BNの艦隊がNFの東部軍事基地に到着して暫くした後、エリルは艦から降りると神楽の部屋に向かっていた。

部屋の場所は既に近くのNFの兵士から聞いており、微かに血で汚れた通路を一人で歩いていく。

もしかしたら、こうやって歩いている内に愁と出会うんじゃないかと期待と同時に不安を胸に抱いていたが、等々誰にも会うことなく神楽の部屋に着いてしまった。

(なんで私、少しホッとしてるんだろ……)

愁に出会わなかった事に少し安堵してしまう。

今更愁と何の話をすれば良いのか分からないのは羅威だけではない、エリルもまた不安を抱き愁について色々と悩んでいた。

愁が怖い訳ではない。ただ、話してしまう事で自分の知っていた愁ではなくなる、そんな気がして仕方なかった。

どんな顔をして会えばいいのか、どんな会話をすればいいのか……結局自分一人では結論が出ず、羅威に任せてしまう形になってしまった。

(だめ……だよね、やっぱりきちんと愁に会って話さなきゃ。でも、その前に神楽さんに会わないと……)

「神楽さん、エリル・ミスレイアです。お話があってここに来ました、今お時間いいですか?」

扉の横に付いてある端末に触りインターホンを使って話かけると、返事が来ないものの部屋の中からごとごとと物音が聞こえ誰かがこちらに近づいてくるのが分かった。

そして扉が開くと、エリルの前には神楽ではなく面倒臭そうな表情を浮かべた甲斐斗が立っていた。

「お前があのアステルを倒した女か」

「えっ?あれ、ここ神楽さんの部屋じゃ……」

てっきり神楽が出てくると思っていたエリルにとって予想外の登場人物に戸惑っていると、甲斐斗は扉を開けたままエリルに背を向けて部屋の中に戻っていく。

「おー入れ入れ。神楽ならいるぞ。案内してやるよ」

甲斐斗にそう言われエリルは部屋の中に一歩足を踏み入れると、甲斐斗が隠し部屋の入り口に入っていくのが見えた。

後を追ってエリルもその入り口に入り階段を下りていくと、そこには見覚えのある研究室が広がっていた。

(ラースの研究所に似てる……)

何処か懐かしい、そんな雰囲気を初めて来たはずの場所なのに感じながら甲斐斗と共に研究所の隣の部屋に入ると、そこには椅子に座り疲れた表情を浮かべた神楽と、その神楽の膝の上に座って一緒にある一点を見つめているミシェルがいた。

自然とエリルも視線を神楽の向けている方に向けると、その方向には人一人が入れる程の巨大なカプセルが設置されていた。

カプセルの中は赤い液体で満たされており、その液体の中には下着姿の赤城が酸素呼吸器を装着され目蓋を閉じたまま眠りについている。

嘗て自分も同じような目に合っていた為、エリルは今ここで何が行われているのか瞬時に理解できた。

「赤城さんの治療を行っているんですね……」

一目で赤城の治療と判断しそう言葉を口にすると、椅子に座っていた神楽はゆっくりとエリルの方に振り返るが、エリルの横に立っていた甲斐斗もまた驚いた様子でエリルの方を向いた。

「よく分かったな、普通は危ない実験かなんかかと思うだろ。俺にはよく分からねえけどこれで人間が持つ本来の治癒力を更に上げるらしい。おい神楽、話があるんだってよ。少しは聞いてやったらどうだ」

「誰も聞かないなんて言ってないわよね。むしろ私も話したかったのよ?さ、隣の部屋で話しましょう。ここだと赤ちゃんが起きちゃうかもしれないものね……」

カプセルの中で一人眠りにつく赤城をその部屋に残し神楽達4人はすぐ隣の別室へと移動すると、神楽が椅子に座った後ミシェルを手招きして再び自分の膝の上に座らせた。

エリルは神楽と向かい合うように席に座り、甲斐斗は三人から少し離れた席に座ろうとしたが、ふと動きを止めるとエリルの方に向いて再び話しかける。

「俺は席を外したほうがいいか?邪魔なら部屋に戻っとくけど」

「大丈夫、別に聞かれて困るような話でもないし……」

「そっか。ならいるわ」

それを聞いて甲斐斗は安心して席に着きこれから何の話があるのか少し期待しつつ二人の会話を待っていると、最初に話しかけたのは神楽だった。

「エリルちゃん。体調の方はどう?」

「は、はい!とっても良好です!」

自分から喋ろうとしていたエリルだが不意に神楽から体調を聞かれつい緊張して咄嗟に答えてしまう。

「肩の力を抜きなさい。面接してる訳でもないのにそんなに緊張しなくてもいいのよ、もっと気楽にいきましょう」

神楽はおっとりとした表情でそう言うと、膝の上に座っているミシェルのほっぺたを両方から軽く摘み左右に伸ばしてしまう。

「ね?」

ミシェルの頬っぺたがにゅーんと伸ばされその愛らしい顔にエリルの表情も和らぐが、今から話す内容を思い出すとまた自然と表情が戻ってしまう。

「実は、ここに来た理由は神楽さんにお礼を言おうと思って来ました。神楽さんのお陰でラースに会えました。そして……ラースは今までの事、そして私について全てを話してくれました。本当にありがとうございます!」

頭を下げてお礼の言葉を神楽に伝えると、それを見ていたミシェルも無意識に頭を下げ、神楽は少し安心した表情を浮かべた。

「お礼なんていいのよ、それより無事に彼と会えて良かったわね。今ラースは何処にいるのかしら、久しぶりに会って話しでもしたいわ、あの紫陽花についても色々と聞きたいし」

「それが、そのっ……ラースは……私を庇って亡くなりました。その時私に託してくれたんです、あの『紫陽花』を」

ラースの死を聞かされても神楽は表情一つ変えなかった。

心のどこかで、ラースは既に死んでいるのではないか。ここに来たエリルを見ていて薄々感じていた。

「そう……紫陽花、素敵なプレゼントね。それに恋人を守って命を落とすなんてあの子にしては格好良い最後じゃない」

「こ、恋人って!?私とラースはそそそんな関係じゃ───」

両手を横に振り動揺して上手く呂律が回らない、そんなエリル見ながら神楽は意外そうに首を傾げていた。

「あら?そうだったの?意外ね、てっきり恋人同士かと思ってた。という事はやっぱりあの子はまだ初心だったみたいね……まぁ、だから貴方に『紫陽花』をプレゼントしたのかもしれないけど。その方が彼らしいものね」

「あの、神楽さんはラースのこと良く知ってるんですね。どういう関係だったんですか……?」

「あらあら、私とラースがどういう関係だったかそんなに気になるのかしら」

「違いますって!余りにもラースの事を知ってるふうだったからちょっと気になって聞いてみただけですっ!」

顔を赤らめ必死に否定するエリルを見て楽しむかのように、神楽は薄っすらと笑みを浮かべながら楽しそうに喋っていく。

「そうムキにならならないで。ラースはただの助手よ。彼がまだBNに所属してなかった頃、一緒に様々な研究をしてたのよ」

「そ、そうだったんですか……」

エリルはすっかり神楽のペースに流されてしまう、そんな二人のやり取りを見ていると、甲斐斗は自然に赤城と神楽が脳裏に浮かんできていた。

(なんというか、赤城もこうやってよく神楽に遊ばれてたな)

何処となく懐かしさを感じつつ、甲斐斗は黙って話しの続きを聞いていく。

「あの、神楽さん。愁って今どこにいるか知ってますか?」

神楽に伝える事は伝えは、後は心の奥からずっと気になっている愁について解決しなければならない。

「愁?あのSVの子よね、それならBNの艦隊が来る前に早朝から模擬戦をしてたロアっていう子の方が詳しいかも。そういえば、甲斐斗も少し戦ってたんでしょう?どこにいるか知らない?」

その言葉にエリルと神楽、そしてミシェルの視線が一斉に甲斐斗に向けられる。

腕を組みながら話を聞いていた甲斐斗は最初自分に話が振られた事に気付かずじっと固まっていた。

数秒後、ようやく理解した甲斐斗は部屋に置いてあるデジタルの置時計を見ると、少し考えた後喋り始めた。

「この時間帯なら模擬戦も終わって休憩中だろうな、今頃朝飯でも食ってんじゃないのか?」

つまり休憩室か食堂にいるのではないかと言うのが甲斐斗の予想だが、豪くいい加減な情報に神楽は呆れた様子で見つめていた。

「つまり知らないし分からないのよね」

「知らねーし分からねーよ!?俺超能力者じゃねえし居場所なんか分からんぞ」

「魔法使いとどう違うって言うのよ……ま、今じゃその魔法とやらも使えてないけど」

「ぐぬぬ……」

冗談交じりで軽く会話をしている神楽と甲斐斗だが、神楽の膝の上に座っていたミシェルは俯き悲しげな表情を浮かべていた。

「とりあえずあいつ等の機体が止めてある格納庫に行けば会えるだろ。俺とミシェルがここで留守番しといてやるから、お前が案内してやれよ」

そう言うと甲斐斗は席を立ち赤城の眠っている部屋と向かおうとすると、それを見ていた神楽も立ち上がった。

「そうね、お留守番頼んだわよ。くれぐれも赤ちゃんの裸を見て変な事しないようにね」

その言葉に部屋から出て行こうとしていた甲斐斗の足が止まると、呆れた表情で後ろに振り返り溜め息を吐いた。

「お前なぁ……ったく、さっさと行ってこい!」

「はいはい、それじゃ行きましょうかエリルちゃん」

「あ、はい!」

(この人も神楽さんに色々と振り回されてるんだ……)

相変わらず一言二言余計な言葉を足して相手をからかう神楽を見てエリルはそう思うと、甲斐斗とミシェルをその場に残し愁のいる格納庫へと向かった。


───丁度その頃、模擬戦を終えた愁、そしてロアが機体から下り格納庫で休憩を取っている所だった。

休憩とは言うものの汗だくになり力尽きているロアに対し、愁はいつもと変わらぬ表情で椅子に座っていた。

「お疲れ様。ほら、これを飲むといいよ」

「あ、ありがとうございます……」

右手に持っていたミネラルウォーターのペットボトルをロアに手渡すと、待ってましたと言わんばかりにすぐさま手に取ると蓋を強引に開けようとする。

だがペットボトルの蓋はビクともせず、何度も開けようと試みるもののまるで歯が立たない。

体力を消耗しきったロアが最後に全力で引き抜こうとした時、愁がペットボトルを取り上げると、いとも簡単に開けてみせた。

「すごい……僕があれ程力をかけたのに……ッ!」

やはり愁には敵わない、これが自分の目標である人物、流石だ。

そんな尊敬の眼差しを愁に向けて送るが、そんな目で見られて愁はちょっと困ってしまう。

「えーっと、もしかしてロアはペットボトルを開けたことないのかな」

軽く捻るだけで開ける事の出来る蓋なのだが、一度も見たことも開けた事もないロアにとっては引き抜く物だと勘違いしていた為変に愁を誤解してしまう。

「それはそうと、機体の操縦には大分慣れてきたみたいだね。SRCのコツも掴んできてるし」

日が昇る前から機体の操縦訓練を行なってきたロアは、大分機体の操縦に慣れまともに操作できるようになってきていた。

後は実戦経験を積み戦場に慣れるだけ。

それで昨日と今日、愁や甲斐斗と模擬戦を行なったものの二人には全く歯が立たたなかった。

甲斐斗の操縦する機体、魔神の如く怒涛の攻めで相手に一切の攻撃の隙を与えない。

愁の操縦するアギトは相手の動きを完全に見切り、たった一撃で勝負を決める。

二人の操縦者が熟練者、更に操縦する機体がどれでも一騎当千出来る程の特機、ロアが戦いにならないのも無理はなかった。

「これも協力してくれる皆のおかげです」

そう言って水をごくごくと飲んでいくと、後ろから龍のマルスが首を伸ばしひょっこりと顔を出してきた。

「ご、ごめんマルス。今日はまだ何も食べてなかったね、待っててすぐ何か食べ物を───っ」

直ぐに食べ物を持って来よう、そう思い立ち上がったものの体が重くふらふらと倒れそうになってしまい、すかさず愁がロアの体を受け止めた。

「ロア、君もまだ何も食べてなかったよね。ここで休んでて、俺が何か食料を持ってくるよ」

「すいません、何から何までお世話になって……」

まるで実の兄かのように愁は優しく自分の事を気遣ってくれる。

強く、逞しく、優しい。そんな自分の思い描いていた英雄のような人が今、目の前にいる。

だから彼は知りもしないし疑いもしないだろう。愁がどのような生い立ちで、数多の罪を犯してきた事など……。

愁とロア、二人きりの格納庫に一人の男が入ってくる。

思えば何時からだろう、離れ離れになったのは。

長かった。互いが歩んできた道は険しく、出会いと別れを繰り返し、そこには様々なドラマがあった。

男は淡々と歩き二人に近づいていくと、愁の後ろで足を止め、その気配を感じた愁はゆっくりと後ろに振り返る。


───「久しぶりだな、愁」

たしかに彼、守玖珠羅威はそこにいた。

BNの軍服を身に纏い、嘗て共に戦ってきた親友。

互いに違和感を感じる。それは以前出会っていた時より、二人の雰囲気が少し変わっていたからだった。

見詰め合う……いや、睨みあう二人を前にロアは何も言葉を出せずただただ成り行きを見守る事しかできなかった。


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